5年生6月編

11─サンタさん家のトナカイさん

そうしばらくサンタさんのことを教えてもらったり、わたし達のこともお話したりして、みんなで楽しく過ごしました。
そして最後にトナカイさん達にも会わせてもらいます。
サンタさんの家の隣に小屋があって、そこに3頭暮らしていました。
前に会った時より、わたしは大分大きくなりました。
だからイメージよりも、トナカイさんは小さめに見えました。
それでもわたしよりずっと大きいです。
ここのトナカイさん達は、2mくらいの大きさです。
こちらにいるトナカイさんは大きい方なんだそうです。
そうおじいちゃんが教えてくれました。
わたしくらいの大きさの子もいるそうです。
サンタさんのトナカイさんは、みんな首にリボンとベルを付けています。
鈴とベルではちょっと違うけど、テトリちゃんもお揃いみたいだね。
わたしは元気にあいさつをします。
「トナカイさん、お久しぶりです。
わたし、6年前にも来たみかんだよ」
4歳の時にも会っているので、そういいました。
トナカイさん達、覚えてくれているかな?
トナカイさん達は、しっかりお返事を返してくれました。
でも今のわたしには、何ていっているのかわかりません。
言葉がわからないって、さびしいね。
おじいちゃん達はちゃんとアイテムを変えているので、言葉が通じています。
わたしだけわからないというのが不思議な気分です。
そしてもう魔法のありがたさがわかります。
わたしが動物とお話している時、お友達もこんな気持ちでいるのかな?
うらやましくて、もどかしい気持ちです。
そうそう、おばあちゃんとお母さんのアイテムはカチューシャで、おじいちゃんは帽子になっています。
その帽子には、おじいちゃんの名前の椎の樹の刺繍が入っています。
帽子の形は自分で自由に選ぶことができるそうです。
おじいちゃんはハットタイプ。
おじいちゃんくらいの歳では、この形をかぶっている人が多いです。
他には、つばめくんはシルクハットにしていました。
つばめくんのお母さんに似合うってほめられるから、その形にしているそうです。
確かにつばめくんに似合ってかわいく見えるよ。
でもめったに選ぶ人がいないので、周りからはめずらしいっていわれています。
そう男の人と女の人では、違うアイテムもあります。
ペンダントもバッジになるんだよ。
みんながそんなアイテムを使ってお話しているトナカイさん達。
えーと名前は、ヨセフさん、ジョンさん、トニーさんだったかな。
1晩中空を飛べるだけあって、トナカイさん達はたくましそうです。
でも顔は優しそうだよ。
「ヨセフ達、元気だったかい?」
おじいちゃんがそう聞くと、トナカイさん達はうなずきました。
その様子から、仲良しみたいです。
トナカイさんがとっても喜んでいるように見えます。
おばあちゃんも何度も来てるっていっていたけど、おじいちゃんもそうみたいです。
一緒に来ているのかな?
わたしもこうやってせっかく会えたんだから、トナカイさん達とお話ができたらよかったのになあ。
そうがっかりしたけれど、こういう時のことを思い出しました。
そうだ!テトリちゃんにお願いすればいいんだよね。
そう探すと、そのテトリちゃんはヨセフさんの前にいました。
感動して瞳をキラキラさせています。
そういえばテトリちゃんにトナカイさんの話をしたら、とっても張り切っていたよね。
そして今まで見たことがある中で、1番熱心に話しかけます。
「こんにちは。私、テトリです。
トナカイさんのことを聞いて、会えるのをとっても楽しみにしていたんです」
その言葉を聞くと、ヨセフさんは何かをいって座りました。
「ええっ!?いいんですか?」
そうテトリちゃんが確認すると、ヨセフさんはうなずきます。
そこでテトリちゃんはうれしそうに、そして慎重に背中に乗ります。
その様子から、さっきヨセフさんが何ていったのかがわかりました。
背中に乗ってもいいよって、歓迎してくれたんだね。
わたしも前に、そのヨセフさんに乗せてもらいました。
あの時わたしもとってもうれしかったよ。
だから今のテトリちゃんの気持ちがわかります。
そうテトリちゃんは、トナカイさんと仲良くなれたみたいで楽しそうです。
そんなテトリちゃん達を見ていたわたしに、お母さんが聞きました。
「あら、みかんは行かなくていいの?」
その言葉で、わたしははっとします。
そうだ!わたしもトナカイさんとお話したいんだったよ。
「うん!お話してくる」
そうお母さんにいって、テトリちゃん達のところに駆けていきます。
「わたしも仲間に入れて!」
そうお決まりの言葉をいうと、トナカイさん達はすぐにわたしも入れてくれました。
ヨセフさん達は、わたしのことを覚えてくれていました。
こういうお仕事をしているから、出会った人のことを忘れないそうです。すごいね。
テトリちゃんに通訳してもらいながら、しばらくみんなでお話しました。
トナカイさんはわたしの言葉をわかっています。
だからテトリちゃんは、トナカイさんの言葉をわたしに教えてくれます。
3頭の中で、ヨセフさんがリーダーだそうです。
そういわれてみると、ヨセフさんは体も1番大きいです。
「一晩で国中を回れるなんて、すごく早く飛べるんだね」
わたしがそういうと、トニーさんが答えてくれました。
「飛行機くらいの速さで飛べるって、本当に速いですね」
そう訳してくれた後に、テトリちゃん自身も感心しました。
飛行機って、1番速い乗り物だもんね。
わたしも思っていた以上の速さにびっくりしました。
でもその速さでプレゼントを配れるのかな?って不思議に思いました。
「あれ?でもそんなに速く飛んだら、サンタさんが一軒一軒に寄れないよね?」
サンタさんが枕元にプレゼントを置いていってくれるって聞いているけど?
それはヨセフさんが答えてくれます。
「そうするととても時間がかかるので、プレゼントは空から撒くそうです。
プレゼントの入った袋を逆さまにすると、きちんと子ども達のところへ届くように、神様がしてくれたそうですよ」
そのお話に、わたしはますます感心します。
すごいなあ。
神様はサンタさんのお仕事を、本当に色々助けてくれているんだね。

「この国は、私達の国と同じ位の大きさがあるんですか」
そのジョンさんからの言葉に、わたしも本当に驚きました。
「ここはそんなに大きな国なんだ!
サンタさんの絵本を見て、なんとなく小さな国なのかなって思ってたよ…」
そう返事をしてから、わたしは気が付きました。
わたし達の国と同じ位の大きさってことは、人も本当にたくさん住んでいるよね。
サンタさんは木彫りのおもちゃを手作りしていました。
でもそれを1年間でみんなの分作れそうにないし、どうしているのかな?
そう思って、直接サンタさんに聞いてみます。
「サンタさん、さっきの木彫りのおもちゃが足りない分はどうしているんですか?」
するとサンタさんは詳しく教えてくれます。
「それは、わしのことを応援してくれている人達がいてね。
その人達がそれぞれ得意なおもちゃを作って、わしに届けてくれるんだよ。
おかげで間に合い、プレゼントの種類も増える。
わしは彫刻は得意だけれど、女の子の好きなぬいぐるみなどを作るのは苦手なんでな。
そういう面からも、とてもありがたいことなんだ」
そうサンタさんをお手伝いしている人達がいるって、わたしは初めて聞きました。
サンタさんの国の子ども達は、そんなたくさんの人の気持ちがこもったプレゼントをもらっているんだね。
心が温かくなるお話です。
そうわかってから、わたしはまたさっきの疑問を思い出しました。
わたし達の国のサンタさんはどうしているのかな?
お友達もみんな、ちゃんとプレゼントをもらっているっていっていました。
だからわたし達の国のサンタさんも大忙しだよね。
そのサンタさんにも会えたら、そんなプレゼントをいつももらっているお礼をしっかりいわなくちゃね。
そんな未来を思い描いて、ますます楽しみになります。
そしてテトリちゃんが、ジョンさんからの言葉の続きを教えてくれました。
「サンタさんの国の大きさは私達の国と同じ位だけど、住んでいる人の数は24分の1だそうです」
「あ、そうなんだ。人の多さは大分違うんだね」
広々と暮らしている国なんだね。
そうお勉強にもなることも色々教えてもらいました。

それからおばあちゃん達が、前にここに来た時のお話もしてくれます。
「ヨセフ達と一緒に、ふもとの町まで行ったこともあったわねえ」
おばあちゃんがそう楽しそうにいいます。
するとテトリちゃんがたずねました。
「何をしに行ったんですか?」
わたしも興味があります。
トナカイさんが町まで行くのは、クリスマスの時だけなのかなって思っていました。
そんなわたし達に、おばあちゃんとしては、普通のことのように教えてくれます。
「ずっと小屋にいるのでは、ヨセフ達も窮屈でしょ。
だからサンタさんが町へお買い物に行く時には、一緒に行くの。
ヨセフ達は、町の子ども達の人気者なのよ」
そう聞いて納得です。
そうだね。サンタさんとトナカイさんはとっても有名だけど、普通の暮らしもしているんだもんね。
だからふもとの町の人達の仲間で、お友達なんだね。
おばあちゃんのお話から、そうわかりました。
てもサンタさんやトナカイさんによく会える毎日ってすごいなあ。
わたし達も魔法使いという特別な人ということを忘れて、そう思いました。
「いちごは8歳の時に連れて行ってもらったわね」
そのおばあちゃんの言葉に、お母さんはにっこりうなずきます。
それからわたしにいいました。
「ええ。3年生の秋。
町に行くのも楽しかったわよ」
そううれしそうにいわれると、わたしもわくわくしてきます。
いいなあ。わたしも行ってみたいです。
サンタさんの町も見てみたいし、住んでいる人達にも会ってみたいよ。
そう気持ちが盛り上がってきたわたしに、おじいちゃんも勧めてくれます。
「また来た時に連れて行ってもらうといいさ」
そして具体的にサンタさんに確認します。
「確か町へ行くのは、2週間に1度でしたよね?」
サンタさんはうなずいて、笑顔で誘ってくれました。
「みかんちゃん、ぜひまたおいで。
来る前には、手紙をくれるとありがたい。
そうしたら町へ行く日を調節できるからね」
そういってもらえて、わたしはとってもうれしいです。
「はい!また遊びに来ます」
そう約束すると、本当にまたサンタさんに会いに来ていいんだなあって、しみじみ実感してきました。
そしてわたし達の帰る時間になりました。
たくさんお話したので、来てから4時間も経っていました。
「突然訪ねたのに、気持ちよくお話していただいて、本当にありがとうございました」
おばあちゃんのごあいさつに続いて、みんなでお辞儀をします。
「わしも楽しかったよ。
久しぶりにいちごちゃんとみかんちゃんにも会えてよかった」
そういうサンタさんに、わたしは元気に約束します。
「今日はサンタさんにたくさん教えてもらって、楽しかったし、お勉強になりました。
今度来る時には、わたしもサンタさんがうれしくなる魔法を見せられるように、考えておきます」
そう聞いたサンタさんは、にっこり笑ってほめてくれます。
「そうだね。楽しみだ。
みかんちゃんは本当によい子に育ったね」
そういってもらって、わたしは照れました。
それからサンタさんは、お母さんを向いていいました。
「みかんちゃんを見ていると、いちごちゃんがとても大切にしてきたのが伝わってくるよ。
さすが神様が託したわけだ」
そう讃えられて、お母さんもほっぺが桃色になりました。
「そう思ってもらえてうれしいです」
おじいちゃんとおばあちゃんもうなずきます。
お母さん達を見て、わたしも笑顔になります。
そんなわたし達家族を、サンタさんはにこにこ見ていました。
それからテトリちゃんもごあいさつします。
「トナカイさんによろしく伝えて下さい」
そして最後におじいちゃんが、仲良しの人にいう時のような顔をしていいました。
「お元気で」
そうみんなでサンタさんと手をふりあって、お別れします。

帰り道を向くと、わたしは今日のことを振り返り始めました。
本当に、サンタさんとトナカイさんに会いに来て良かったです。
サンタさん達のことがよくわかったし、とっても楽しかったよ。
そう満足した気持ちです。
そしてサンタさん達は、もうイメージの中の人じゃありません。
お知り合いになったんだもんね。
今度来る時は、トナカイさん達とも直接お話ができるので、楽しみです。
どんな声をしているのかな?
今日通訳をしてくれたテトリちゃんも、とってもにこにこ顔になっています。
さっきもいっていたように、トナカイさんに会えたことがとっても感動的だったみたいです。
お話したり、背中にも乗せてもらって、仲良くなれたもんね。
「私、今日はとってもうれしかったので、記念日にします」
そうテトリちゃんが元気にいいました。
その言葉に、わたしは最近のことを思い出して答えます。
「じゃあテトリちゃんにとって、2つ目の記念日だね」
1つ目はもちろん、テトリちゃんが生まれた5月26日です。
28日にわたしとお母さんの記念日もありました。
それはおいておくとしても、すぐに記念日ができたんだね。
そう指折り数えてみて、気が付きました。
今日はテトリちゃんが来て、ちょうど1週間なんです。
まだそれしか経ってないんだね。
もっと前から一緒にいたような気分です。
───サンタさんが住む国。
サンタさんのお家を見ただけだから、今度はどんな国なのかも知りたいです。
また来る前に、図書館で本を借りてみよう。
そうやってみたいことが増えました。
さっき移動してきた場所に着くと、おばあちゃんが大きな杖を出します。
そのおばあちゃんの周りに、みんな集まります。
それを確かめると、おばあちゃんはその杖で、トンと地面を突きました。
するともう家の庭の魔法陣の上に立っていました。
こうやって、移動してきた場所を魔法陣を描いた杖で叩くと、戻ってこられるんです。
だからその場所を忘れないように、目印を付けておきます。
帰ってきたら、魔法陣はきちんと消すのがお約束です。
おじいちゃんが魔法で水をまくことにしました。
これは自然魔法という種類になります。
風、水、火の精霊さんにお願いして手伝ってもらう魔法です。
水の精霊さんに頼んで、キレイに消してもらいました。
こうすると、普通に水をまくよりも安心です。
そうわたし達が冬服を着ていること以外は、すっかり元通りになりました。
こっちのお天気はお陽さまが元気だから、庭もすぐに乾くね。
さっきまでサンタさんの国にいたのが、なんだか夢みたいです。
でも今度は4歳の時のように、ぼんやりとした思い出にはしないよ。
ずっと覚えてて、また遊びに行きます!

その夜、わたしは明日学校へ行く準備をしていました。
するとおばあちゃんが小さな袋をくれました。
「そうそう。みかんちゃんにお土産を持ってきていたのよ」
何かな?
わくわくしながら開けてみます。
するとそれは、お星様が付いた結いゴム2個セットでした。
「わあっ。かわいい」
そうわたしは喜びます。
いつもみかん印のか、たまにリボンを付けるくらいなので、違う形のは新鮮です。
そんなわたしをよくわかっているおばあちゃんが勧めます。
「明日付けていってみたら?
お気に入りの服に合わせたら、ますますかわいくなるわね」
その提案に、わたしも張り切ってうなずきます。
「うん、そうするね」
みかん印はわたしのこだわりだけど、たまには違うのもいいよね。
わたしは6月最初の学校へ行く日は、特別お気に入りの格好で行くことにしています。
始まりが気分いいと、いつもとは違う1ヶ月も楽しく過ごせそうな気がするからだよ。
おばあちゃんはいつもこの日に家に来るから、そのことを知っています。
今年はね、さくらんぼの刺繍の入った大きな襟の白い服に、ジーンズのジャンバースカートを選びました。
そしてこんなかわいいお星様も付けていけるんだね。
おばあちゃんのお土産のおかげで、明日がもっと楽しみになりました。

用意が終わったら、おふとんに入ります。
そしておばあちゃんとおじいちゃんにいいました。
「今日は本当に楽しかったよ。
連れて行ってくれてありがとう。
サンタさんとトナカイさんに会えたこと、明日みんなにもお話するの。
明日から、ちゃんと学校でがんばってくるからね」
私はそう約束します。
するとテトリちゃんも、バスケットから顔を出して付け加えました。
「私も付いていきますから!」
そうテトリちゃんはこの6月の間、わたしと一緒に学校に行ってくれることになりました。
わたしが心配だからって、お母さんと相談して決めたそうです。
テトリちゃんと一緒に行けるなんてうれしいな。
でもちょっと問題かなあ?
そう後ろめたい気持ちもあります。
そんなわたしに気が付かずに、おじいちゃんがいいました。
「そうか。それは安心だ。
おじいちゃん達も応援しているよ」
わたしは小さな声でテトリちゃんにいいます。
「テトリちゃん、明日から学校でも一緒だね。
クラスのお友達も、テトリちゃんが来てくれたら喜ぶよ」
「私も楽しみです。
学校ってどんなところなのか、とっても興味があったんです」
そう瞳でお話をします。
そしてそんな楽しみな明日のために、早く眠ります。
「お休みなさい」
そうみんなにいいました。
今日はサンタさんとトナカイさんに会えた、特別楽しいことがあった日でした。
だから、とっても素敵な夢が見られそうです。


2004年2~4月制作
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