5年生5月編

7─みかんちゃん と いちごさんの 出会い記念日

「ただいまー!」
今日は急いで帰ってきました。
「お帰りなさい、みかんちゃん」
そんなわたしを、テトリちゃんがお出迎えしてくれます。
テトリちゃんが来て3日目、そして5月もあと4日。
今日はとっても特別な日なのです。
「お帰り!じゃあ飾り付けを始めましょう」
お母さんも張り切っています。
そんなわたし達に、テトリちゃんがたずねました。
「そういえば、今日は何のお祝いなんですか?」
わたしは元気に答えます。
「今日はね、わたしとお母さんが出会った日なの!」
そう今日5月28日は、わたしがお母さんのもとへ来た日です!

わたし達魔法使いは、本当にこの世界に生まれた日が誕生日になります。
その種から赤ちゃんまで育って、お母さんのところへ来た日が今日なのです。
普通の人は、この日が誕生日となっているんだよね。
その考え方だと、わたしは今日が10歳の誕生日になるんだね。
この出会い記念日は魔法使いにとって、お誕生日の次に大事な日です。

練習も兼ねて、わたしは飾り付けを魔法でします。
今回はリビングに大きな虹を架けたり、その虹を棚やテーブルにフリルのようにかけてみました。
虹って不思議な光で大好きです。何度見てもあきません。
するとテトリちゃんが不思議そうな顔をして聞きました。
「その七色に光っているものは何ですか?」
そっか。テトリちゃんは見たことがないもんね。
そう納得して、わたしは説明します。
「普通は雨が降ったあとにお空に架かるものなんだよ。虹っていうの。
今度本物が出たら、一緒に見ようね」
そうお誘いします。
そんな今日のお天気は、お陽さまがまぶしいくらいきらきらと部屋に入ってきています。
そして開いている窓から気持ちのいい風が入ってきたりして、とっても素敵です。
おかげで、ますます幸せな気分になってきます。
お母さんは、庭で育てているお花を幾つか持ってきて飾りました。
赤や黄色や色んな色のお花で、とっても綺麗です。
それからわたしが学校に行っている間に作ってくれた、たくさんのごちそうを並べます。
メインはいちごとみかんが入った大きなケーキです。
他にもわたしとお母さんが大好きな食べ物がたくさん。
わたしはそんなお母さんに渡す物を、部屋に取りに行きます。
昨日お花屋さんで買ったカーネーションです。
母の日は2週間前ですが、わたしの家では毎年この日に渡しています。
今日からお世話になったんだから、わたしにとってのお母さんの日は今日だもんね。
お花を持ってリビングに戻ります。
お母さんの方は準備が終わって、わたしを待っていました。
「お母さん、いつもありがとう」
そうカーネーションを渡すと、お母さんはとっても喜んでくれました。
「きれいね。毎年ありがとう」
そしてそれを花瓶に入れて、テーブルの真ん中に飾ってくれます。
わたしは席に着いて、今度はテトリちゃんにいいました。
「今年はテトリちゃんも一緒にお祝いだね」
テトリちゃんはうれしそうにしっぽをふります。
「はい。ご主人様とみかんちゃんのとっても大事な日を一緒にお祝いできてうれしいです」
「そうね。テトリの歓迎会も兼ねて、楽しくやりましょう」
そうお母さんがいって、この家族パーティーが始まりました。
ずっと待っていたテトリちゃんが来てくれて、すぐにお母さんとのお祝いなんて、わたしは近頃とっても幸せです。
「出会い記念日、おめでとう!」
わたし達3人はそう乾杯をしました。
わたしとお母さんはジュースのグラスを持って。
テトリちゃんはミルクの入ったお皿を前にして、そのままいいました。
ちなみにお母さんは、大人の人がよく飲むお酒よりもジュースの方が好きだそうです。
そのお母さんがしみじみといいます。
「今日はみかんと出会って、ぴったり10年なのね。
今までの10年間いろいろあったけど、どんなことだってちゃんと思い出せるわ」
そう魔法使いは、難しい魔法のお勉強をするために、普通のみんなよりずっと記憶力がいいんです。
そんなふうに始まって、わたし達はいろんなお話をして盛り上がりました。
ごちそうやケーキもとってもおいしくて、3人ともずっと笑顔でした。
このわたし達の名前のいちごとみかんが入ったケーキは、この記念日に毎年必ず食べています。
どっちも普通にケーキに入っている果物なので、ちょうどよかったよね。
どっちもとってもおいしいです。
今までの思い出を話したら、テトリちゃんはとっても興味を持って聞いていました。
お母さんは、わたしが覚えていないお話もいくつかしてくれました。
それから学校でのお話。お友達のことや、おもしろいお勉強のことを張り切ってお話します。
昨日クラスのお友達がたくさん訪ねてきたので、テトリちゃんも顔見知りです。
テトリちゃんと会って、みんな喜んでいたよ。
それから魔法のお勉強のこと。
「ほうきの乗り方の練習、がんばりましょうね」
「はーい」
お母さんの言葉に、わたしはしっかり返事をしました。
わたしはまだまだほうきに上手に乗れません。
ちゃんと柄を握っていれば思うように飛べますが、片手を放しただけでもだめです。
それから高いところもまだ飛べません。
ほうきは上下左右あるから難しいんだよ。
わたしはそんな自分に、ちょっと困った顔になってしまいます。
するとお母さんが、にっこりと話題を変えました。
「それから、みかんも今年から魔法の森の生徒ね」
そういわれて、わたしも思い出しました。
張り切ってこたえます。
「そうだったね!」
テトリちゃんがたずねます。
「それって何ですか?」
わたしはできるだけ詳しく説明します。
「わたし達の魔法は、生まれつき神様からもらった力だよね。
その人達はね、元々は普通の人だったの。
だけど自分達で魔法を見つけて、魔法使いになったんだって。
難しい呪文を唱えたり、魔法のお薬を作ったり、魔法陣を描いたりしてね。
その人達の魔法を教えてもらいにいくんだよ」
テトリちゃんはこのお話に興味を持ってうなずきました。
「そういう人達もいるんですね」
毎年夏になると、その人達が住んでいる森に、わたし達は魔法を教わりに行きます。
わたし達はそのお礼に神様からの魔法で、森を守ったり、秋に食べ物がたくさん成るようにしたりして助けています。
魔法の森の学校は10歳からなので、わたしは今度の夏が初めてです。
去年までは、その森のおばさん達にいろいろなお話をしてもらっていました。
魔法を見つけたご先祖様のお話や、こうやって魔法使いと協力するようになった時のお話などを聞きました。
そういうお話を聞いたおかげで、ますます教えてもらえるのが楽しみになっています。
「がんばってね!
その魔法は、足りない魔法をカバーできるし、とっても役に立つものだから」
「うん!」
お母さんの応援に、わたしは元気にうなずきます。
これから覚えなくちゃいけないことがたくさんあるけど、楽しいしがんばります!
そしてわたしはテトリちゃんを向いていいます。
「テトリちゃんも一緒に行こうね」
「はい!」
そうこれからはテトリちゃんも一緒だしね。

楽しいパーティーが終わったら、みんなで後片付けです。
魔法を消したり、食器を片付けたりね。
それが終わったら、お母さんがにっこり笑っていいました。
「2人とも外に出て!」
?何かな?
わたしとテトリちゃんにはわからなかったけれど、お母さんに付いて3人で庭に出ます。
するとお母さんがステッキを振りました。
魔法で雲の形が変わっていきます。
それは10という数字と、「いちご みかん」とわたしとお母さんの名前になりました。
「わー」
わたしとテトリちゃんは、喜んで歓声を上げます。
それからその横に「テトリ」という文字も並びました。
「わあっ。私のもあります」
それを見て、テトリちゃんは大喜びです。
そんなわたし達に、お母さんはいいました。
「今年はみかんと出逢って10年目。
そしてテトリも家族に加わった、大事な年になったわね。
これから3人で仲良くがんばっていきましょうね!」
そんなお母さんの言葉を聞いて、わたしとテトリちゃんも改めてあいさつをします。
「うん!これからもよろしくお願いします。お母さん、テトリちゃん」
「私も、お2人と家族になれてうれしいです。これからよろしくお願いします」
そうみんなで言い合った後、にっこり笑いあいました。
今日は本当に素敵な記念日になりました。


2003年8月制作
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