5年生5月編
3-友子先生のお見舞い
「じゃあ、行ってきまーす」
次の日わたしは予定通りに、友子先生のお見舞いに出発します。
お母さんが渡してくれたお花も持ったよ。
「方向を間違えたり、お花を落としたりしないように気を付けるのよ」
そうお母さんが注意してくれました。
「はーい」
わたしは返事をして、病院へと出発します。
場所はしっかり覚えたし、バッチリだよ。
わたしの家から緑光病院までは、普通にいけば4kmくらいあります。
でもわたしはまっすぐに行けるから、3kmくらいになるのかな。
わたしのほうきだと10分もかかりません。
「あ、ここかな?」
わたしはちゃんと病院らしい建物を見つけました。
病院って高さがあるからわかりやすいね。
降りてみるとやっぱりそうで、「緑光病院」と書いてありました。
ほうきから降りて、ほうきを持って病院に入ります。
わたしはお母さんみたいにほうきを消せないので、いつも持ち歩いているのです。
受付のお姉さんに友子先生がいるところを聞いて、ほうきを預かってもらいました。
お姉さんがちゃんと教えてくれたので、すぐに友子先生に会えました。
先生はわたしをみてびっくりします。
「みかんちゃん!」
そんな先生にわたしはまず謝ります。
「友子先生。昨日は驚かせちゃってごめんなさい。お見舞いに来ました」
それからお母さんからのお花も渡しました。
「お花も持ってきました。はい、どうぞ!」
友子先生はお花を見て喜んでくれます。
「きれいなお花ね。ありがとう」
それからわたしは1番気になっていたことを聞きます。
「先生、大丈夫でしたか?」
すると友子先生はしっかりうなずきました。
「ええ。検査したらどこも悪いところはないって。
元々何でもなかったんだけど、ついでだからって健康診断並みにいろいろ診てもらってたのよ。
だから2日もかかっちゃったけど、どこも健康だってわかったから、かえってお得だったわよね。
もう終わって、帰るところだったのよ」
そう元気に笑ってくれたので、わたしは安心しました。
「そうなんですか。よかった」
ほっとため息をつきます。
すると友子先生は寂しそうな顔になりました。
「みかんちゃんにそんなに心配させちゃって、私ったらだめな先生ね」
そういわれて、わたしは慌てます。
「わたしのせいで友子先生が倒れちゃったんだから、当たり前です!」
でも友子先生は首を振ります。
「いいえ。先生が悪いのよ。
みかんちゃんが魔法使いだってちゃんと知っていたのに、あれくらいのことで驚いちゃったんだもの。
だからみかんちゃんが責任を感じることないのよ」
そういわれて、わたしは困ってしまいました。
だって悪いのは、やっぱりわたしだもんね。
少しの間2人とも黙ってしまいます。
そううつむいたら、友子先生が持っている本に気が付きました。
雑誌じゃなくて、図書館に置いてあるようなひもが付いている本です。
「友子先生は本を読むのが好きなんですか?」
聞いてみると、先生は明るい顔になって答えてくれました。
「ええ。よく読むのよ。
先生もお勉強しようと思って読むのもあるし、本のお話っておもしろいものね」
そっかあ。友子先生は本が大好きなんだ。
わたしは、友子先生の学校での様子しか知りません。
だから友子先生の好きな物とかをあんまりわかっていませんでした。
でも先生だって、わたしみたいにお家での生活とかあるんだもんね。
お家での友子先生ってどんなふうなのかな?
そんなふうに話は広がって、それからは楽しくお話できました。
「友子先生、じゃあわたしは帰ります」
10分くらいお話して、わたしはそういいました。
友子先生も帰るところだって、さっきいっていたし、そろそろ帰った方がいいかなと思いました。
そんなわたしに、友子先生は伝言を頼みます。
「月曜日はちゃんと学校に行くからね。
みんなも心配しているかもしれないから、みかんちゃんが朝伝えておいてくれないかしら」
もちろんわたしはうなずいて、友子先生に手を振りました。
「はい。さようなら」
「さようなら。今日は来てくれてありがとう」
友子先生もそう手を振り返してくれました。
帰り道、わたしは晴れやかな気分です。
よかった!先生がなんともなくて。
そして今日話したおかげで、友子先生のことがいろいろとわかりました。
お見舞いに来てよかったな。お花も喜んでもらえたし。
そうとってもうれしくなってしまって、困ったことにわたしは反省気分を忘れてしまっていました。
月曜日、わたしはお見舞いに行ったことをみんなに報告しました。
聞いているみんなも、話しているわたしもうれしい気分です。
もちろん昨日お母さんにもお話しました。
お母さんも『よかったわね』っていってくれたよ。
「じゃあ友子先生は、今日学校に来るんだね」
秋子ちゃんが笑っていいました。
わたしは、クラスのみんなと窓のところで話していました。
わたしは窓の手すりのところに座ってね。
普通はそういうことをしないんだけど、その時のわたしは、友子先生が大丈夫だったことに気持ちが浮かれていたからだね。
「うん」
そう答えた時、体がグラッと後ろに傾きました。
え?
わたしは何だかわからなくって、最初は混乱しました。
「みかんちゃん!?」
そうみんなの慌てる声が聞こえます。
わたしは答えた時に、後ろにもたれかかったみたいです。
そして運が悪いことにその窓は開いていました。
つまりわたしは、教室の窓から落ちてしまったようです。
そう気付いたら、すぐに壁にあったパイプにつかまりました。
ちょうど足場になるところもあったから、そこで止まります。
ほっと一息。
でもこれからどうしようかな?
わたし達のクラスの5年3組は3階にあります。
そして今わたしのいるのは、2階より少し上です。
この高さだと飛び降りるのも危ないし、クラスの窓まで戻るのも無理です。
クラスのみんなは、この突然の出来事に大騒ぎしています。
「みかんちゃん、ほうき、ほうき」
わたしが困っていると、そう優香里ちゃんが窓からわたしのほうきを持って振ってくれます。
そうか!飛べばいいんだよね。
わたしは安心しかけたけど、勝子先生にペンダントを預けていることを思い出しました。
ペンダントをかけていないとほうきで飛べないのです。
お守りだし、ペンダントのままでもちゃんと魔法のバランスを取ってくれているんだよね。
いつもはあまり感じていなかったけれど、こうやってないとペンダントの大事さがわかります。
たとえステッキやカチューシャに変えられなくてもね。
「ほうきはペンダントがないと使えないの」
わたしがそう上に向かっていうと、窓から高志くんがいなくなって声が聞こえました。
「わかった!おれが取ってくる。
それまで頑張るんだぞ」
「教頭先生!」
高志くんが勢いよく職員室のドアを開けると、先生みんなが一斉に注目しました。
朝の会の前の時間なので、ほとんどの先生が揃っていました。
「どうしたの?菅原くん」
勝子先生が少し驚いて聞くと、高志くんは慌て気味にいいました。
「みかんのペンダントを返して下さい!
みかんちゃん、今かなり危ないところにいるんです。
でもペンダントがないと飛べなくて…」
「そこってどこなの?」
「校舎の壁です。教室の窓から落ちて、パイプにつかまってます」
そう聞いて、勝子先生は瞳を丸くしました。
「何ですって!」
「みかんちゃんが?」
一昨日いっていた通りにちゃんと来ていた友子先生も、真っ青になりました。
他の先生達も驚いて騒ぎ出します。
勝子先生は急いで校長室に行くと、鍵を開けてペンダントを手に取ります。
それから高志くんと一緒に、教室に向かいました。
はあ。はあ。
(こんなことになるなんて…。全くあの子は)
勝子先生はそう思いながらも、わたしのために急いで階段を駆け上ってきてくれました。
その間、たくさんの先生達が5年3組の教室の窓や校庭から、わたしを心配して見ていました。
クラスのみんなや先生の、わたしを励ます声や心配する声が聞こえてきます。
その声で他のクラスの子達も気付いて、窓からこっちを見ています。
もう学校中大騒ぎです。
わたしはちょっと体勢は辛いけど、とりあえず大丈夫です。
でも、またみんなに迷惑かけちゃった。
とっても大事になってしまって、わたしはとっても反省しました。
浮かれていたりしたからだよね。
3日前に事件を起こしたばっかりなのになあ。
今度はほんとにほんとに反省しました。
すると勝子先生と高志くんが来てくれました。
「白石さん、持ってきたわよ。ちゃんと受け取るのよ」
勝子先生がそう、受け取りやすいように慎重にペンダントを落としてくれました。
わたしは片手を離して、ペンダントのひもをつかみました。
これでとりあえず一安心。
手に持っているだけでもほうきで飛べるはずです。
「じゃあみかんちゃん。ほうきも渡すよ」
「うん」
優香里ちゃんが落としてくれたほうきもキャッチできました。
これで本当に安心です。
ペンダントを持ったままほうきに乗って、落ちたところから教室に入りました。
「みかんちゃん、よかったー」
みんながとってもほっとした顔で迎えてくれました。
わたしはまず謝ります。
「みんな、心配かけてごめんなさい」
すると高志くんが、勝子先生に向かっていつもより強い調子でいいます。
「教頭先生!やっぱりみかんちゃんからペンダントを取り上げるのは危ないと思います。
いざという時にも魔法が使えないのは困ります」
すると他のみんなもいい始めました。
「そうです。みかんちゃんが落っこちちゃうかもしれないって、心配だったんだから」
そういつも穏やかな麻緒ちゃんが、一生懸命な顔をしていってくれます。
そして憧れている時の表情をしながらも、みゆきちゃんもいいます。
「それにみかんちゃんの魔法ってとっても素敵なのに、見られなくなるのは残念です」
あれはわたしが悪かったから起きたことだったのに、みんなはわたしにいう前に、そう勝子先生に訴えます。
でも勝子先生はいい返さずに、わたしを見てため息をつきました。
「そうね。こんなにひやひやするなんて。
それを持っていないと危ないのかもしれないわね。
──白石さん、そのペンダントを持っていてもいいです。
でもこの前みたいに、人に迷惑をかける魔法は使ってはいけませんよ」
いつもはちょっと厳しい先生だけど、その様子からわたしのことをとっても心配してくれたのが伝わってきます。
わたしはいつもよりもっと気持ちを込めて謝りました。
「はい。これからはよく考えて使います」
勝子先生はわたしの後ろを見て、もう1言付け加えます。
「それから、もうあんなところに座ってはいけませんよ。
それはみんなもね」
とっても危ないことが身にしみたわたしは、しっかり返事をしました。
「はい!ごめんなさい。もうしません」
そして勝子先生や他の先生達は戻っていきました。
わたしのせいで、みんなの朝の時間の始まりが遅くなってしまいました。
学校中の人に迷惑をかけてしまいました。
そして残ったのは、クラスのみんなと友子先生です。
「本当によかった。
みかんちゃんの方が大怪我をしちゃうかと思ったわ」
友子先生はそういって、わたしを抱きしめました。
そのあったかさが、先生の気持ちのように伝わってきます。
友子先生にはまた心配をかけてしまいました。そしてクラスのみんなにも。
そんな友子先生やみんなに、わたしはもう1度謝ってお礼をいいました。
本当にごめんなさい、一生懸命心配してくれてありがとう。こんなわたしだけど、これからもよろしくお願いします。
1999年~2000年制作
【あとがき】
12歳の時に、クラスに魔法使いがいたら楽しそうと考えて、みかんちゃんのキャラは生まれました。
この1話は14歳の時に書きました。
当時ファンタジーはドタバタじゃなきゃいけないという思い込みがあって、こんな話にしました。
みかんちゃんがわりとトラブルメイカーで、教頭先生に目を付けられているという点は間違いないですが、
全体的にこういう流れは私には合わないので、3話目から今の作風に決めました。
今となっては毛色の違う1話ですが、一応載せておきます。
「じゃあ、行ってきまーす」
次の日わたしは予定通りに、友子先生のお見舞いに出発します。
お母さんが渡してくれたお花も持ったよ。
「方向を間違えたり、お花を落としたりしないように気を付けるのよ」
そうお母さんが注意してくれました。
「はーい」
わたしは返事をして、病院へと出発します。
場所はしっかり覚えたし、バッチリだよ。
わたしの家から緑光病院までは、普通にいけば4kmくらいあります。
でもわたしはまっすぐに行けるから、3kmくらいになるのかな。
わたしのほうきだと10分もかかりません。
「あ、ここかな?」
わたしはちゃんと病院らしい建物を見つけました。
病院って高さがあるからわかりやすいね。
降りてみるとやっぱりそうで、「緑光病院」と書いてありました。
ほうきから降りて、ほうきを持って病院に入ります。
わたしはお母さんみたいにほうきを消せないので、いつも持ち歩いているのです。
受付のお姉さんに友子先生がいるところを聞いて、ほうきを預かってもらいました。
お姉さんがちゃんと教えてくれたので、すぐに友子先生に会えました。
先生はわたしをみてびっくりします。
「みかんちゃん!」
そんな先生にわたしはまず謝ります。
「友子先生。昨日は驚かせちゃってごめんなさい。お見舞いに来ました」
それからお母さんからのお花も渡しました。
「お花も持ってきました。はい、どうぞ!」
友子先生はお花を見て喜んでくれます。
「きれいなお花ね。ありがとう」
それからわたしは1番気になっていたことを聞きます。
「先生、大丈夫でしたか?」
すると友子先生はしっかりうなずきました。
「ええ。検査したらどこも悪いところはないって。
元々何でもなかったんだけど、ついでだからって健康診断並みにいろいろ診てもらってたのよ。
だから2日もかかっちゃったけど、どこも健康だってわかったから、かえってお得だったわよね。
もう終わって、帰るところだったのよ」
そう元気に笑ってくれたので、わたしは安心しました。
「そうなんですか。よかった」
ほっとため息をつきます。
すると友子先生は寂しそうな顔になりました。
「みかんちゃんにそんなに心配させちゃって、私ったらだめな先生ね」
そういわれて、わたしは慌てます。
「わたしのせいで友子先生が倒れちゃったんだから、当たり前です!」
でも友子先生は首を振ります。
「いいえ。先生が悪いのよ。
みかんちゃんが魔法使いだってちゃんと知っていたのに、あれくらいのことで驚いちゃったんだもの。
だからみかんちゃんが責任を感じることないのよ」
そういわれて、わたしは困ってしまいました。
だって悪いのは、やっぱりわたしだもんね。
少しの間2人とも黙ってしまいます。
そううつむいたら、友子先生が持っている本に気が付きました。
雑誌じゃなくて、図書館に置いてあるようなひもが付いている本です。
「友子先生は本を読むのが好きなんですか?」
聞いてみると、先生は明るい顔になって答えてくれました。
「ええ。よく読むのよ。
先生もお勉強しようと思って読むのもあるし、本のお話っておもしろいものね」
そっかあ。友子先生は本が大好きなんだ。
わたしは、友子先生の学校での様子しか知りません。
だから友子先生の好きな物とかをあんまりわかっていませんでした。
でも先生だって、わたしみたいにお家での生活とかあるんだもんね。
お家での友子先生ってどんなふうなのかな?
そんなふうに話は広がって、それからは楽しくお話できました。
「友子先生、じゃあわたしは帰ります」
10分くらいお話して、わたしはそういいました。
友子先生も帰るところだって、さっきいっていたし、そろそろ帰った方がいいかなと思いました。
そんなわたしに、友子先生は伝言を頼みます。
「月曜日はちゃんと学校に行くからね。
みんなも心配しているかもしれないから、みかんちゃんが朝伝えておいてくれないかしら」
もちろんわたしはうなずいて、友子先生に手を振りました。
「はい。さようなら」
「さようなら。今日は来てくれてありがとう」
友子先生もそう手を振り返してくれました。
帰り道、わたしは晴れやかな気分です。
よかった!先生がなんともなくて。
そして今日話したおかげで、友子先生のことがいろいろとわかりました。
お見舞いに来てよかったな。お花も喜んでもらえたし。
そうとってもうれしくなってしまって、困ったことにわたしは反省気分を忘れてしまっていました。
月曜日、わたしはお見舞いに行ったことをみんなに報告しました。
聞いているみんなも、話しているわたしもうれしい気分です。
もちろん昨日お母さんにもお話しました。
お母さんも『よかったわね』っていってくれたよ。
「じゃあ友子先生は、今日学校に来るんだね」
秋子ちゃんが笑っていいました。
わたしは、クラスのみんなと窓のところで話していました。
わたしは窓の手すりのところに座ってね。
普通はそういうことをしないんだけど、その時のわたしは、友子先生が大丈夫だったことに気持ちが浮かれていたからだね。
「うん」
そう答えた時、体がグラッと後ろに傾きました。
え?
わたしは何だかわからなくって、最初は混乱しました。
「みかんちゃん!?」
そうみんなの慌てる声が聞こえます。
わたしは答えた時に、後ろにもたれかかったみたいです。
そして運が悪いことにその窓は開いていました。
つまりわたしは、教室の窓から落ちてしまったようです。
そう気付いたら、すぐに壁にあったパイプにつかまりました。
ちょうど足場になるところもあったから、そこで止まります。
ほっと一息。
でもこれからどうしようかな?
わたし達のクラスの5年3組は3階にあります。
そして今わたしのいるのは、2階より少し上です。
この高さだと飛び降りるのも危ないし、クラスの窓まで戻るのも無理です。
クラスのみんなは、この突然の出来事に大騒ぎしています。
「みかんちゃん、ほうき、ほうき」
わたしが困っていると、そう優香里ちゃんが窓からわたしのほうきを持って振ってくれます。
そうか!飛べばいいんだよね。
わたしは安心しかけたけど、勝子先生にペンダントを預けていることを思い出しました。
ペンダントをかけていないとほうきで飛べないのです。
お守りだし、ペンダントのままでもちゃんと魔法のバランスを取ってくれているんだよね。
いつもはあまり感じていなかったけれど、こうやってないとペンダントの大事さがわかります。
たとえステッキやカチューシャに変えられなくてもね。
「ほうきはペンダントがないと使えないの」
わたしがそう上に向かっていうと、窓から高志くんがいなくなって声が聞こえました。
「わかった!おれが取ってくる。
それまで頑張るんだぞ」
「教頭先生!」
高志くんが勢いよく職員室のドアを開けると、先生みんなが一斉に注目しました。
朝の会の前の時間なので、ほとんどの先生が揃っていました。
「どうしたの?菅原くん」
勝子先生が少し驚いて聞くと、高志くんは慌て気味にいいました。
「みかんのペンダントを返して下さい!
みかんちゃん、今かなり危ないところにいるんです。
でもペンダントがないと飛べなくて…」
「そこってどこなの?」
「校舎の壁です。教室の窓から落ちて、パイプにつかまってます」
そう聞いて、勝子先生は瞳を丸くしました。
「何ですって!」
「みかんちゃんが?」
一昨日いっていた通りにちゃんと来ていた友子先生も、真っ青になりました。
他の先生達も驚いて騒ぎ出します。
勝子先生は急いで校長室に行くと、鍵を開けてペンダントを手に取ります。
それから高志くんと一緒に、教室に向かいました。
はあ。はあ。
(こんなことになるなんて…。全くあの子は)
勝子先生はそう思いながらも、わたしのために急いで階段を駆け上ってきてくれました。
その間、たくさんの先生達が5年3組の教室の窓や校庭から、わたしを心配して見ていました。
クラスのみんなや先生の、わたしを励ます声や心配する声が聞こえてきます。
その声で他のクラスの子達も気付いて、窓からこっちを見ています。
もう学校中大騒ぎです。
わたしはちょっと体勢は辛いけど、とりあえず大丈夫です。
でも、またみんなに迷惑かけちゃった。
とっても大事になってしまって、わたしはとっても反省しました。
浮かれていたりしたからだよね。
3日前に事件を起こしたばっかりなのになあ。
今度はほんとにほんとに反省しました。
すると勝子先生と高志くんが来てくれました。
「白石さん、持ってきたわよ。ちゃんと受け取るのよ」
勝子先生がそう、受け取りやすいように慎重にペンダントを落としてくれました。
わたしは片手を離して、ペンダントのひもをつかみました。
これでとりあえず一安心。
手に持っているだけでもほうきで飛べるはずです。
「じゃあみかんちゃん。ほうきも渡すよ」
「うん」
優香里ちゃんが落としてくれたほうきもキャッチできました。
これで本当に安心です。
ペンダントを持ったままほうきに乗って、落ちたところから教室に入りました。
「みかんちゃん、よかったー」
みんながとってもほっとした顔で迎えてくれました。
わたしはまず謝ります。
「みんな、心配かけてごめんなさい」
すると高志くんが、勝子先生に向かっていつもより強い調子でいいます。
「教頭先生!やっぱりみかんちゃんからペンダントを取り上げるのは危ないと思います。
いざという時にも魔法が使えないのは困ります」
すると他のみんなもいい始めました。
「そうです。みかんちゃんが落っこちちゃうかもしれないって、心配だったんだから」
そういつも穏やかな麻緒ちゃんが、一生懸命な顔をしていってくれます。
そして憧れている時の表情をしながらも、みゆきちゃんもいいます。
「それにみかんちゃんの魔法ってとっても素敵なのに、見られなくなるのは残念です」
あれはわたしが悪かったから起きたことだったのに、みんなはわたしにいう前に、そう勝子先生に訴えます。
でも勝子先生はいい返さずに、わたしを見てため息をつきました。
「そうね。こんなにひやひやするなんて。
それを持っていないと危ないのかもしれないわね。
──白石さん、そのペンダントを持っていてもいいです。
でもこの前みたいに、人に迷惑をかける魔法は使ってはいけませんよ」
いつもはちょっと厳しい先生だけど、その様子からわたしのことをとっても心配してくれたのが伝わってきます。
わたしはいつもよりもっと気持ちを込めて謝りました。
「はい。これからはよく考えて使います」
勝子先生はわたしの後ろを見て、もう1言付け加えます。
「それから、もうあんなところに座ってはいけませんよ。
それはみんなもね」
とっても危ないことが身にしみたわたしは、しっかり返事をしました。
「はい!ごめんなさい。もうしません」
そして勝子先生や他の先生達は戻っていきました。
わたしのせいで、みんなの朝の時間の始まりが遅くなってしまいました。
学校中の人に迷惑をかけてしまいました。
そして残ったのは、クラスのみんなと友子先生です。
「本当によかった。
みかんちゃんの方が大怪我をしちゃうかと思ったわ」
友子先生はそういって、わたしを抱きしめました。
そのあったかさが、先生の気持ちのように伝わってきます。
友子先生にはまた心配をかけてしまいました。そしてクラスのみんなにも。
そんな友子先生やみんなに、わたしはもう1度謝ってお礼をいいました。
本当にごめんなさい、一生懸命心配してくれてありがとう。こんなわたしだけど、これからもよろしくお願いします。
1999年~2000年制作
【あとがき】
12歳の時に、クラスに魔法使いがいたら楽しそうと考えて、みかんちゃんのキャラは生まれました。
この1話は14歳の時に書きました。
当時ファンタジーはドタバタじゃなきゃいけないという思い込みがあって、こんな話にしました。
みかんちゃんがわりとトラブルメイカーで、教頭先生に目を付けられているという点は間違いないですが、
全体的にこういう流れは私には合わないので、3話目から今の作風に決めました。
今となっては毛色の違う1話ですが、一応載せておきます。
