5年生7月編
26-いつのまにか通じている関係
そして無事にゴールの浜辺に着きました。
夜の海はとっても静か。
お陽さまが出ている時とは違って見えて、ちょっとドキドキします。
でも波の音と潮の匂いは変わらないね。
そうちょっと瞳を閉じて、匂いをかいでみました。
広いところに出たからか、シーちゃんはくるくると大きく輪を描きながら飛び始めました。
わたし達を遠く追い越して、楽しそうに遊んでいます。
そして道を抜けた近くの場所に、健治くんのいっていた通りにみんなの名前が並んでいました。
名前が書きやすいように、海の水で濡れているぎりぎりのところです。
着いた順番に右から書かれています。
麻緒ちゃんと港くんのもきちんと左端にあるよ。
2人でちゃんとここまで来れたんだね。
それを見て心から安心しました。
そしてそのすぐ横に、先っぽに土のついた木の枝が置いてありました。
みんなはそれを使って、名前を書いたようです。
わたしはそれを見て、わくわくしました。
そんな気分で、「みかん」とわたしの名前もみんなの隣に加えます。
そして高志くんに枝を渡します。
「はい!高志くんも」
高志くんの書いた名前を見て、わたしは感心します。
「高志くんは、やっぱり字が上手だね」
高志くんはお習字でも毎回金賞をもらえるくらい、とっても字が上手なんです。
だから隣同士で交換して丸付けをする時に、わたしの字を書くのが悪い気がするくらいだよ。
わたしのは上手っていえないからね。
そうほめると、高志くんは照れているようでした。
「ありがとう」って、小さな声で答えます。
元来た道を通ると、後ろの順番の人に会ってしまいます。
そこで帰り道は、その近くのわき道を通ることになっていました。
だからわたし達も、麻緒ちゃん達以外とは会わなかったでしょ?
その道も迷ったりする心配のない道なので、安心です。
まだ半分あるけど、ちゃんとゴールまで行ってこられたから、もう達成できたようなすがすがしい気分だね。
その帰り道に、高志くんが話し始めました。
「みかんのおかげで、こうやってゴールできた。ありがとう。
さっき行きたくないとかいって、ごめんな」
そうお礼をいってくれます。
そう思ってもらえると、とってもうれしいです。
わたしがにこにこしていると、逆に高志くんは今度は落ち込みました。
「しかし何でおれって、苦手なものはこう、てんでだめなんだろう。
平気そうにできるみんなを見ると、逆に不思議だもんなあ」
そう困った顔をします。
確かに高志くんは、得意なことと苦手なことの差が大きいです。
でもこういう肝試しって、みんなが元々怖いと思うことを我慢してやってみようってことだもんね。
だから怖いのは当たり前だし、その気持ちを越えるのは大変です。
わたしはそう考えて、手を振って励まします。
「そういうのはしょうがないよ。
わたしが本当に平気なのは、魔法使いだからだと思うし」
魔法使いは安全が保障されているから、みんなよりもずっと危機感がないんだそうです。
わたしも怖いものって、ほとんどありません。
それでも少しはあるので、その時の困る気持ちはわかります。
困るっていえば……。
今日似た気持ちになったことを思い出して、ちょっと付け加えます。
「それにわたしだって今日、それほどのことじゃないのに、涙が出ちゃったこともあったんだよ」
あの小さなカニさんのことです。
そうはいっても、高志くんには何のことだかわからないよね。
でも理由は秘密にしておきます。
いったら、高志くんだって困るだろうし。
そうやって心配をかけたかったんじゃなくて、わたしにも平気じゃない時もあるからわかるよって、いいたかっただけです。
そうわたしは思っていたのに、意外にも高志くんはうなずきました。
「ああ。カニの時のこと?
あれはなあ…」
そう当てられて、わたしはびっくりです。
みんな知らなかったと思っていたのに、こうやって気付かれていたなんてね。
それって、まずいなあ。
ああいうことで泣いちゃったのは、秘密にしておきたかったです。
みんなに余計な心配をかけることになるもんね。
わたしが困り始めると、シーちゃんが戻ってきました。
そして大人しく、わたしの隣に止まります。
それからわたしはおずおずと聞きます。
「そんなにわかりやすかった?」
そんなわたしの態度に高志くんは気が付いたようで、慌てました。
「いや、他のみんなは気付いてないと思うけど」
本当?
そういわれても、わたしは疑問です。
「でも、高志くんはわかったんだよね?」
だったら、他のみんなも同じじゃないの?
そう思って、わたしは細かく聞きます。
すると高志くんは、1度止まりながらも説明してくれました。
「それは……、――隣の席でよく近くにいる分知ってるから…、わかったんだよ」
☆!ああ。
そういわれて、わたしは納得しました。
シーちゃんもまた飛び始めます。
わかったわたしは、上を見上げながら元気にいいました。
「そっかあ。うん。
高志くんとは班活動も日直もみんな一緒だもんね。
そういわれると、わたしも高志くんのこと、いろいろ知ってるよ」
「そう?」
高志くんの確認に、うなずきます。
本当に。好きな教科も、苦手なものも、得意なこともよくわかってるよ。
クラスの男の子の中では、1番よく知っている子だよね。
そのことに今気が付きました。
宿泊会で席が近い人と一緒になった意味って、こういうところにもあったのかなあ。
いつもはしないことを一緒にすることで、もう仲良しになっていたことを教えてもらえました。
そうやって自分のことをよく知られているってはずかしい気もするけど、安心もするね。
それを高志くんにいいました。
「お友達って、自分で思っているよりも、通じているものかもしれないね。
そういうことがわかって、うれしいなあ。
高志くんとも、みんなとも、これからもっと一緒にいるのがうれしくなりそうだよ」
そうにこにこいうと、高志くんもうなずきました。
「うん。そうなんだよな。
おれの場合はそれで困っていることもあったりするんだけどさ。
友達がそうやってわかっていてくれるのは、心強いものかなっても思う。
そういう友達って、大事に思わなくちゃいけないんだな」
そう高志くんは前を見つめながら、自分自身にお話しているようでした。
その言葉に、わたしもまたうなずきます。
そんなお話をしていると、シーちゃんがとっても元気にわたし達の周りを飛んでいました。
「シーちゃん、楽しそう」
そういってから、シーちゃんはわたしの気持ちの通りに動いていることを思い出しました。
そっか。わたし、今あれくらいうれしいんだね。
そんなシーちゃんを見ていたら、わたしもますますうれしくなりました。
そこで歩きながらも、2人でくるくると回ってみます。
時々シーちゃんがわたしの手にタッチしたりして、息もぴったりです。楽しいよ。
そう踊っているわたし達を見て、高志くんがいいます。
「本当に星みたいだな」
その言葉に、わたしははたと止まります。
そしてそういわれたお星様のシーちゃんを見ました。
シーちゃんが本物みたいってほめてもらえたんだって、わたしはもっとうれしくなりました。
「よかったね、シーちゃん。
わたしの魔法もそんなに上手になったんだ」
そうわたしがはしゃぐと、高志くんはうなずいてくれました。
そんなお星様がいっぱいで、うれしい気分になれた夜でした。
そして無事にゴールの浜辺に着きました。
夜の海はとっても静か。
お陽さまが出ている時とは違って見えて、ちょっとドキドキします。
でも波の音と潮の匂いは変わらないね。
そうちょっと瞳を閉じて、匂いをかいでみました。
広いところに出たからか、シーちゃんはくるくると大きく輪を描きながら飛び始めました。
わたし達を遠く追い越して、楽しそうに遊んでいます。
そして道を抜けた近くの場所に、健治くんのいっていた通りにみんなの名前が並んでいました。
名前が書きやすいように、海の水で濡れているぎりぎりのところです。
着いた順番に右から書かれています。
麻緒ちゃんと港くんのもきちんと左端にあるよ。
2人でちゃんとここまで来れたんだね。
それを見て心から安心しました。
そしてそのすぐ横に、先っぽに土のついた木の枝が置いてありました。
みんなはそれを使って、名前を書いたようです。
わたしはそれを見て、わくわくしました。
そんな気分で、「みかん」とわたしの名前もみんなの隣に加えます。
そして高志くんに枝を渡します。
「はい!高志くんも」
高志くんの書いた名前を見て、わたしは感心します。
「高志くんは、やっぱり字が上手だね」
高志くんはお習字でも毎回金賞をもらえるくらい、とっても字が上手なんです。
だから隣同士で交換して丸付けをする時に、わたしの字を書くのが悪い気がするくらいだよ。
わたしのは上手っていえないからね。
そうほめると、高志くんは照れているようでした。
「ありがとう」って、小さな声で答えます。
元来た道を通ると、後ろの順番の人に会ってしまいます。
そこで帰り道は、その近くのわき道を通ることになっていました。
だからわたし達も、麻緒ちゃん達以外とは会わなかったでしょ?
その道も迷ったりする心配のない道なので、安心です。
まだ半分あるけど、ちゃんとゴールまで行ってこられたから、もう達成できたようなすがすがしい気分だね。
その帰り道に、高志くんが話し始めました。
「みかんのおかげで、こうやってゴールできた。ありがとう。
さっき行きたくないとかいって、ごめんな」
そうお礼をいってくれます。
そう思ってもらえると、とってもうれしいです。
わたしがにこにこしていると、逆に高志くんは今度は落ち込みました。
「しかし何でおれって、苦手なものはこう、てんでだめなんだろう。
平気そうにできるみんなを見ると、逆に不思議だもんなあ」
そう困った顔をします。
確かに高志くんは、得意なことと苦手なことの差が大きいです。
でもこういう肝試しって、みんなが元々怖いと思うことを我慢してやってみようってことだもんね。
だから怖いのは当たり前だし、その気持ちを越えるのは大変です。
わたしはそう考えて、手を振って励まします。
「そういうのはしょうがないよ。
わたしが本当に平気なのは、魔法使いだからだと思うし」
魔法使いは安全が保障されているから、みんなよりもずっと危機感がないんだそうです。
わたしも怖いものって、ほとんどありません。
それでも少しはあるので、その時の困る気持ちはわかります。
困るっていえば……。
今日似た気持ちになったことを思い出して、ちょっと付け加えます。
「それにわたしだって今日、それほどのことじゃないのに、涙が出ちゃったこともあったんだよ」
あの小さなカニさんのことです。
そうはいっても、高志くんには何のことだかわからないよね。
でも理由は秘密にしておきます。
いったら、高志くんだって困るだろうし。
そうやって心配をかけたかったんじゃなくて、わたしにも平気じゃない時もあるからわかるよって、いいたかっただけです。
そうわたしは思っていたのに、意外にも高志くんはうなずきました。
「ああ。カニの時のこと?
あれはなあ…」
そう当てられて、わたしはびっくりです。
みんな知らなかったと思っていたのに、こうやって気付かれていたなんてね。
それって、まずいなあ。
ああいうことで泣いちゃったのは、秘密にしておきたかったです。
みんなに余計な心配をかけることになるもんね。
わたしが困り始めると、シーちゃんが戻ってきました。
そして大人しく、わたしの隣に止まります。
それからわたしはおずおずと聞きます。
「そんなにわかりやすかった?」
そんなわたしの態度に高志くんは気が付いたようで、慌てました。
「いや、他のみんなは気付いてないと思うけど」
本当?
そういわれても、わたしは疑問です。
「でも、高志くんはわかったんだよね?」
だったら、他のみんなも同じじゃないの?
そう思って、わたしは細かく聞きます。
すると高志くんは、1度止まりながらも説明してくれました。
「それは……、――隣の席でよく近くにいる分知ってるから…、わかったんだよ」
☆!ああ。
そういわれて、わたしは納得しました。
シーちゃんもまた飛び始めます。
わかったわたしは、上を見上げながら元気にいいました。
「そっかあ。うん。
高志くんとは班活動も日直もみんな一緒だもんね。
そういわれると、わたしも高志くんのこと、いろいろ知ってるよ」
「そう?」
高志くんの確認に、うなずきます。
本当に。好きな教科も、苦手なものも、得意なこともよくわかってるよ。
クラスの男の子の中では、1番よく知っている子だよね。
そのことに今気が付きました。
宿泊会で席が近い人と一緒になった意味って、こういうところにもあったのかなあ。
いつもはしないことを一緒にすることで、もう仲良しになっていたことを教えてもらえました。
そうやって自分のことをよく知られているってはずかしい気もするけど、安心もするね。
それを高志くんにいいました。
「お友達って、自分で思っているよりも、通じているものかもしれないね。
そういうことがわかって、うれしいなあ。
高志くんとも、みんなとも、これからもっと一緒にいるのがうれしくなりそうだよ」
そうにこにこいうと、高志くんもうなずきました。
「うん。そうなんだよな。
おれの場合はそれで困っていることもあったりするんだけどさ。
友達がそうやってわかっていてくれるのは、心強いものかなっても思う。
そういう友達って、大事に思わなくちゃいけないんだな」
そう高志くんは前を見つめながら、自分自身にお話しているようでした。
その言葉に、わたしもまたうなずきます。
そんなお話をしていると、シーちゃんがとっても元気にわたし達の周りを飛んでいました。
「シーちゃん、楽しそう」
そういってから、シーちゃんはわたしの気持ちの通りに動いていることを思い出しました。
そっか。わたし、今あれくらいうれしいんだね。
そんなシーちゃんを見ていたら、わたしもますますうれしくなりました。
そこで歩きながらも、2人でくるくると回ってみます。
時々シーちゃんがわたしの手にタッチしたりして、息もぴったりです。楽しいよ。
そう踊っているわたし達を見て、高志くんがいいます。
「本当に星みたいだな」
その言葉に、わたしははたと止まります。
そしてそういわれたお星様のシーちゃんを見ました。
シーちゃんが本物みたいってほめてもらえたんだって、わたしはもっとうれしくなりました。
「よかったね、シーちゃん。
わたしの魔法もそんなに上手になったんだ」
そうわたしがはしゃぐと、高志くんはうなずいてくれました。
そんなお星様がいっぱいで、うれしい気分になれた夜でした。
