5年生7月編

23-夜の林へお散歩に行こう☆


海での時間が終わったら、お部屋で荷物などを整えます。
そうしたらすぐにお夕飯の時間です。
宿泊施設「もみじの家」の1階には、大きなダイニングがあります。
そこで5年生4クラスのみんなで食べるんだよ。
それでもまだ席が余っているくらいの広さです。
いろんな学校がお泊りにくるところだから、それを考えてのことなんだって。
タルトちゃんの小学校も、ここに来てるっていっていました。
タルトちゃんは1つ上の6年生だから、去年来たそうです。
来週魔法の森で会ったら、そのお話もする約束をしています。
来る前にちょっとお話は聞いてきたけど、実際来てからだと違うもんね。
この夕食の席はクラスごとには分けられているけど、後は自由です。
今回はバイキングなので、普通は見られないくらいのたくさんのお料理が並んでいます。
和食や中華もあるけど、1番多いのは洋食だね。
デザートもあって、本当にどれもおいしそうです。
気持ちではいろいろ食べてみたいです。
でも本当はたくさん食べられないので、どれにしようかちゃんと考えないとね。
みんなでわいわい選びながら、楽しく食べました。
そしてみんながおなかいっぱいに食べ終わった頃には、7時半を過ぎていました。
6時から始まったから、結構長くいたんだね。
お話をしながら食べていたら、いつのまにかこんなに時間が経っていました。
みんなでごちそうさまの挨拶は、7時の時にしてあります。
そこからは食べ終わった人から、自由に帰っていいことになっていました。
だから他のクラスは、もう半分くらい席が空いています。
でもわたし達のクラスはまだみんな揃っていて、そろそろ帰り始めようというところです。
今日この後は、1時間後に班長さん達の会議があるくらいで、もう予定はありません。
移動もあったし、みんな力いっぱい泳いだ後だからね。
疲れただろうから、今日はゆっくり休んで、明日に備えようということだそうです。
後はみんなで入れる大きなお風呂に入って、お休みします。
そういうこともみんなでって、いつもはできないことだから楽しみです。
そうしてみんながそれぞれのお部屋に戻ろうとし始めた時です。
うきうき気分でいるみんなに、健治くんがさらにおもしろい提案をしました。
立ち上がって、クラスのみんなを見回していいます。
「こうやってみんなが揃ってる夜なんて、普通ないよな。
今夏だし、せっかくの機会だから、肝試しやろうぜ」
その言葉に、帰ろうとしていた子も止まって振り返ります。
肝試しかあ。確かに夏の定番の遊びだね。
わたしはうんうんとうなずきます。
そうはいっても、今までにやったことはないんだけどね。
だからどんなことをやるのかな?って、興味津々です。
この突然の提案に、みんなからはいろんな意見が出ました。
「おもしろそうだな、それ」
健治くんとよく意見の合う温広くんが、最初に張り切ります。
「うわあ。肝試しって、ちょっと憧れてたんだー」
優香里ちゃんや、修くんも笑顔になっていいます。
そう一緒にわくわくし始める子がたくさんいました。
「だろ?」
健治くんは、そんな返事にうれしそうです。
そして港くんのように反対する子もいます。
「えー。やりたくないよー」
「わざわざ怖い思いなんてしたくなーい」
麻緒ちゃんもその言葉通りのおびえた顔でいいます。
そうやりたくないという子達に、健治くんは明るくいいました。
人差し指を1本立てて、得意そうな笑顔でね。
「海まで行った、林の一本道を歩いてみようっていってるだけだよ。
それも1人ずつじゃなくて2人でさ。
だったらそんなに心細くないだろ?
おどかし役も作らないし、思い出にみんなでやろうぜ」
それって肝試しっていうより、夜の林のお散歩会だね。
そう説明してもらって、わたしの中でもずっと素敵なイメージになりました。
「それくらいだったらいいけど…」
健治くんの説明に、大体の子はうなずきました。
「でもなあ…」
それでもとっても困った顔をしている子も、何人か残っています。
こういうのって、苦手な子は本当に苦手だもんね。
わたしはね、そういうのっておもしろそうって、張り切っちゃう方です。
魔法使いは怖いものなしだもん。
それにみんなで一緒に何かをやるって、楽しいしね。
こういうことができるチャンスなんて、本当にめったにありません。
だからさらにやってみたい気持ちになります。
そしてその計画に協力することをいいました。
「じゃあ、暗い道を歩いて転んだりしたら大変だから、わたしがらんたんを出すね」
らんたんがあれば安全だし、ちょっとおしゃれなので、これに決めました。
他には提燈や懐中電灯なんて案もあったんだけど。どうかな?
そんなわたしの言葉に、健治くんはうれしそうにうなずきます。
「そうだな。頼むぜ」
それからみんなを見回して宣言しました。
「じゃあ決まり!
みんなで外に出ようぜ」
そうしてわたし達5年3組のみんなで、外に向かったのでした。

お星様がたくさん瞬いていて、とってもきれいな夜空です。
そんな空を見上げていると、このお散歩会が素敵になりそうな予感がしてきました。
「先生の許可は取ってきた」
そう温広くんが戻ってきて、外で待っていたわたし達にいいました。
みんなで、元々の予定にないことをするわけだもんね。
夜の外だし、やってもいいか許可をもらってこないとねって話になったのです。
代表で温広くんが聞きにいってくれたのでした。
「でもあんまり時間をかけないようにっていわれた」
そう温広くんが注意をいうと、健治くんはうなずきました。
「わかった。サンキュー」
そうお礼をいうと、健治くんは温広くんからみんなに向き直りました。
そして早速さっきの話の続きを始めます。
「みかんが出してくれたらんたんもあるし、1本道だから迷う心配もないし、安全だよな」
健治くんがいう通り、もうらんたんを組数分出してあります。
2人で行くっていっていたから、クラスの人数の半分を出しました。
その組について、すぐに説明されます。
「それで2人のペアだけど、やっぱり男女で組んだ方がいいと思うんだよな。
で、その組を今から決めると時間がかかるから、わかりやすく席順で行こうぜ。
ほら、今回の宿泊会は部屋も席で分けられているし、これもその一環ってことでさ」
なるほど。本当にそれならわかりやすいし、今回の宿泊会にぴったりだね。
そうわたし達は納得してうなずきます。
「じゃあ、わたし達はどうするの?」
女の子同士でお隣のももちゃん達がそう聞きます。
すると男の子同士で座っている健治くんなので、すぐに答えが返りました。
「それはオレか光が順番を交代するよ」
だったらちょうどいいね。
これでみんな男の子と女の子で組めることになりました。
みんなが納得すると、説明の続きに戻ります。
「そしてさっき遊んだ海がゴール。
確かあそこまで歩いても、15分くらいだったよな。
往復しても30分くらいになる」
うん、それ位がちょうどいい時間だよね。
海へ行く時は待ちきれなくて、みんな走っていきました。
だからもっと早かったけれど、帰りはそんなくらいでした。
それから健治くんは、最後に素敵なルールをいってくれました。
「着いたことの証拠は、砂浜に名前を書いてこようぜ。
1組目から順番に、横1列にさ。
そうすれば、オレ達クラス全員の名前がきれいに並ぶわけだ」
うわあ、それっていいなあ。
すごくいい思い出にもなりそうだよ。
わたしはその様子を想像して、うれしくなりました。
みんなもそのことについてコメントします。
「その後、それを見た人はどう思うんだろうな」
正くんのつぶやきに、彩ちゃんが答えます。
「意味はわからないけど、仲のいいクラスだって思うんじゃない?」
その話に、龍太郎くんが冷静に考えて付け加えます。
「みんな字の形が違うから、それぞれ書いたのはすぐにわかるわけだしな」
そううなずいています。
みんなその証拠に乗り気なようです。
よーし、そのためにはみんなでゴールしなくっちゃね。
健治くんの説明が終わると、わたしはそう張り切りました。
そして早速席の順番に、1組目から始めます。
らんたんの灯りが見えないくらい小さくなったら、次の組が行くんだよ。
出発する時にみんなで、がんばって!って応援します。
張り切っている子は、歩きながら振り返って、手を振ってくれたりもするよ。
そんな楽しそうな様子を見ると、行くのが待ち遠しくなるよね。
そしてわたしも順番は早いほうなので、自分のことも考えます。
席ってことは、わたしは高志くんと一緒だね。
その高志くんを探そうと見渡します。
でも姿を見つける前に、声で振り向きました。
その高志くんが、健治くんのところに来て怒り始めたからです。
「健治~~!!
おれがこういうことを苦手だって、知ってるよな?
なのに、なんでよりによって席順にするんだよ!」
そう必死にいっています。
大きな声だから、ちょっと離れたところにいるわたしにも、はっきり聞こえてきます。
これからのことをお話している子以外は、みんなわたしと同じように注目しました。
でも高志くんは、そんな周りの様子を気にしているどころじゃないみたいです。
高志くんって何か気にかかっていることがあると、いつもそうなんだよね。
そういえば高志くんは、最後まで困った顔をしていた1人でした。
「夜の林の中に30分もいなきゃならないなんて、おれにはとてもできない!」
そう強くいう高志くん。
それに対して健治くんは、両手を顔の前に出しながらも笑顔です。
「まあまあ高志、そんなに緊張しなくたって大丈夫だって。
案ずるよりうむが易しっていうだろ?」
そんな健治くんの明るい態度に、高志くんは言葉に力を入れて返します。
「緊張……って、何か勘違いしてるだろ?
本当にそういう問題じゃないんだよ。
だからみかんとは1番行きたくないのに…」
そう最後は小声でいって、うつむきました。
でも注意して聞いていたわたしには、はっきりと聞こえました。
みかんとは行きたくない!?
その言葉に、わたしはショックを受けます。
高志くんはいっつも正直なだけにね。
え!?なんでわたしだとだめなの?
そうわたしが否定されたことに悲しくなります。
でもすぐに首を振って考え直しました。
ううん。いつも優しい高志くんのいうことだもんね。
きっと何か理由があるはずです。
わたしだからこそっていうと……。
魔法使い!?
そうすぐに辿りついて、わたしは1つ思いつきました。
ああ、だからかあ。だったら、そうだよね。
そう自分で納得して、それを一生懸命高志くんにいいます。
「大丈夫だよ、高志くん。
もしお化けが出ても、今日はわたし、お友達になったりしないよ」
高志くんは、お化けが本当に苦手なんです。
本物だけじゃなくって、お話を聞いたり、絵も見るのもだめなくらいにね。
だから今、肝試しをしたくないって一生懸命いっているんだよ。
そのことから、わたしは考えつきました。
魔法使いのわたしは、何でもお友達にします。
だからもしお化けが出た時に、そうやってまたわたしがお友達になったりしたら怖いなって思ったんだよね、きっと。
実際場合によっては、そうすることもあります。
だって仲良くなれるなら、なった方が楽しいからね。
でもね、そんな新しい出会いもいいけど、今のお友達のほうがもっと大事です。
だからそのお友達が嫌なら、今日は絶対にそういうことはしません。
そう両手で握りこぶしを作って、わたしは心の中で誓います。
そんな突然のわたしの言葉に、2人とも振り返りました。
そしてそう心を決めたわたしに、びっくりした顔をしています。
まず高志くんは、いきなりわたしに声をかけられたことに驚いたようでした。
「え!?何?
もしかしてみかん、今の話聞こえてたのか?」
そうあたふたして聞きました。
わたしはしっかりうなずきます。
うん。全部聞いてたもんね。
すると高志くんは、ますます大慌てになりました。
「ああ、ごめん。
今のはそういうことでもなくって……。
行きたくないっていったのは、みかん自身が嫌なわけじゃあ…」
そうそこまでいってから、困っています。
???何だろ?
はっきり教えてくれないので、本当はどういうことなのかはわかりません。
でもわたしと一緒なのが嫌なわけじゃないっていうことに、安心しました。
そして健治くんは、さっきのわたしの言葉について聞きました。
「なんでここで、お化けと友達って出て来るんだ?」
そんな戸惑った様子を見て、わたしもまたきょとんとします。
あれ?違ったかな?
不思議に思って、ちょっと考えてみます。
するとすぐに、さっきのわたしの話のおかしいところに気が付きました。
ああ、そっか。これじゃあお化けが出るっていっているようなものだよね。
お化けに会いたくないっていっている子に対して、ひどいことをいっちゃっていました。
だから健治くんに注意されたんだね。
言い方を間違えちゃったと、わたしは反省。
それから高志くんに安心してもらえるように言い直します。
「ううん、この林にお化けはいないよ。
さっき通った時も何も感じなかったし、今だってそう。
とっても平和な林の空気だよ。
さっきのは例え話ね」
本当にこの林からは、そういう気配は全然ありません。
魔法使いは使える力が少ない子でも、そういう気配などはしっかりわかるようになっています。
その感覚に全然引っかからないんだから、怖いことなんて起きたりしないよ。
そしてもう1言付き加えておきます。
「わたしがいるから、万が一何か起きたとしても大丈夫だよっていいたかったの」
そうわたしは自信を持って、力強い笑顔でいいました。
大事なお友達だもん。魔法使いのわたしが絶対に守ってみせるよ。
さっきもいったけど、魔法使いはどんな相手とだって仲良くなれるもんね。
それから頼めばバッチリだよ。
それがだめだったどうしてもの時には、魔法があります。
わたしは1種類の魔法しか使えないけど、それでも自分の力を信用しています。
3年も練習していると、思った魔法が出ないってことはもうありません。
それに種類に合うように考えれば、結構いろいろできるもんね。
だから安心だよ。大丈夫!
そうさっきとは違った気合いを入れ直しました。
健治くんは、そんなわたしを不思議そうな顔で見ていました。
みかんの話って、どうにもオレ達の話とかみ合ってないよなあ。
そう首をひねったけれど、すぐにうなずきます。
でもみかんが高志を心配しているのはよくわかるな。
だったら大丈夫だろ。
「そうか」
それから高志くんになだめるようにいいます。
「そうだよ、高志。
魔法使いのみかんちゃんと一緒の方が安心だぜ」
でも高志くんは、恐い顔で健治くんを見ます。
「あのなあ…!」
そう話している間に、いつのまにか健治くん達の順番まで進んでいました。
それでこの話は、おしまいになります。
「健治、どっちが先に行く?」
そう光くんに聞かれた健治くんは、迷わずに答えます。
「ああ、じゃあ光達が先でいいよな。
オレは高志達の後から行くからさ」
つまり光くんと健治くんの順番の時に、光くんと桜ちゃんが行きます。
そしてももちゃんと桜ちゃんの順番の時に、健治くんとももちゃんが行くことになりました。
そうしてうなずいていった光くん達で、席の1列目はおしまいです。
その次はわたし達の列の麻緒ちゃんと港くん。
だけど2人とも、とっても怖がっているようです。
思い出してみれば、話が出たときに真っ先に反対していたもんね。
大丈夫かな?
麻緒ちゃん達も心配だけど、わたしは一緒に行く高志くんの方も気になります。
高志くんはさっきいっていた通り、このお散歩を嫌なのがはっきりしているもんね。
それにさっきの様子だと、機嫌も悪いのかなあ?
いつもなら、さっきみたいに励ませば機嫌を直してくれていました。
でも今回はそれでもだめなくらい、嫌みたいだね。
それでも行こうなんて、いっちゃいけないのかもしれません。
でもわたしも、やっぱりみんなでやりたいなあ。
だから本当に高志くんが怖い思いをしないように、わたし考えるよ。
そんな気持ちを込めていいました。
「楽しく行こうね、高志くん」
高志くんはうつむいたままで、何もお返事はありませんでした。
でもわたしは気にしません。
お散歩の最中に元気になってもらえれば、それでいいもんね。
わたしが困った時には、高志くんからよく励ましてもらっています。
そのお礼も兼ねて、みかんは張り切るよ。
夜は夜でおもしろいことだってあります。
わたしが一生懸命心を込めれば、きっとできるよ。
そう前向きな気持ちで考えます。
みんなでゴールできますように。
そしてみんなにとって、このお散歩がいいものになりますように。
そうお祈りもしておきます。
そしてとうとうわたし達の順番がやってきました。
高志くんがらんたんを持ちます。
わたし達もみんなに続いて、ゆっくりと林の中に入っていきました。

健治くんは苦笑いしながら、そんなわたし達を見送っていました。
「まったく高志ったら照れちゃって…。
大体、高志のために席順にしたのにさあ」
その後ろで、残っていたみんながうなずきます。
「やっぱりそうだったんだ」
桜ちゃんのつぶやきに、秋子ちゃんがうなずきます。
「健治くんのやることもわかりやすいよね」
そして龍太郎くんが付け加えます。
「だから高志も、仕組まれたことがすぐにわかったんだよ」
そして高志くんの気持ちをわかっていた美穂ちゃんが、健治くんに説明しました。
「健治くん、高志くんは本当に嫌だったんだと思うよ。
いくら高志くんが怖がりだって、みんなが知っているとはいってもね。
実際そういう姿を見られたくなかったんじゃないのかなあ。
1番弱いところを、大好きなみかんちゃんにはね」
そういわれて、やっと健治くんはわかったようでした。
「ああ、そうか」
そうはっとした顔をします。
でもすぐにさっきの表情に戻りました。
「でも魔法使いが付いてるんだし、なんとかなるだろ」
そう適当にいった健治くんに、みんなはつっこみます。
「その魔法使いに頼りたくないんだってば」
美穂ちゃんに続いて、龍太郎くんもため息をつきました。
「無責任だなあ。全く」
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