5年生7月編
22-海でできる、いろいろな遊び
海で遊ぶのは楽しいんだけど、長い間入っていると寒くなってきちゃいます。
だから今度は砂浜で遊ぶことにしました。
そう決めたら、1度髪の毛も直しておきます。
簡単に水道のお水で洗って、結い直します。
わたしは結わなくても平気な肩までの長さだけど、やっぱり結っておきたいんだよね。
幼稚園の時から、この髪型にはこだわりがあるんです。
そしてまずは、麻緒ちゃんと砂でお山を作ることにしました。
ある程度の大きさの山ができると、トンネルも掘ります。
そのトンネルは水をかぶると、すぐに埋まっちゃうんだけどね。
でもそれもまたおもしろいです。
そうやってわたし達は、ちょっとでは崩れないような丈夫なトンネル付きのお山を作りました。
「できたあ」
完成するとわたしはバンザイをして、麻緒ちゃんは拍手をします。
2人で満足して、それから周りを見回しました。
そうしたら港くんと修くんが、2人で一生懸命何かを作っていました。
気になって、麻緒ちゃんと2人で見に行ってみます。
するとそれは、お城の形にしているようでした。
今は、完成の半分以上はできているというところかな。
なかなか細かく作っていて、途中でも立派に見えるよ。
わたし達は手で作っていたけど、港くん達はお砂場セットをちゃんと準備してきていました。
そのわたし達のとのあまりの違いに、2人で感心します。
「港くん達の、すごいね。
どれくらい前から作っていたの?」
そう聞くと、2人とも楽しそうな顔をあげてくれました。
「ありがとう。
ぼく達は、みかんちゃん達の30分前くらいからかな」
プラスチックのスコップで形を整えながら、修くんが答えてくれます。
「せっかくだから、うんと立派なのを作るんだ。
これから海に来る人にも見てもらいたいなと思って、がんばってるんだよ」
そういう修くんに続いて、港くんも張り切ります。
「うん、できるだけ長い間残るように、丈夫なのを作らなくちゃね」
そう2人で顔を見合わせて、楽しそうです。息がぴったりみたいだね。
そんな2人の話を聞いて、わたしもわくわくします。
わたし達が帰っても、その砂のお城を見る人がいるっていいよね。
きっとその人達もみんな、わたし達みたいに感心するよ。
せっかく港くんと修くんが作ったお城に残っていてほしいなって、わたしも思いました。
でもこういう時に必要な状態魔法を、まだわたしは使えません。
状態維持の魔法をかけられれば、魔法が切れるまでは、そのお城をそのまま残しておけるんだよ。
あれならぴったりなんだけど、わたしが使えるのは夢魔法だけ。
こういう時に役に立たないようです。残念だなあ。
でもあきらめずに、普通に記念として残しておく方法を思いつきました。
「じゃあ完成したら、先生達に写真を撮ってもらおうよ。
そうしたらいつでも見られるし、みんなもきっとその写真をほしいよ」
先生達がこの宿泊会の写真を撮っているのを思い出して、わたしはそう提案しました。
その写真は後で貼り出されて、ほしいのを注文できるんだよね。
港くん達のお城の写真があったら、もちろんわたしも買うよ。
この言葉に、2人は元気にうなずきました。
「そうだね。完成したら、先生達に撮ってもらうよ」
それから麻緒ちゃんが、周りを見渡していいます。
「ここならわたし達のところと違って波もかぶらないし、長持ちしそうだね」
そういう通り、わたし達は波打ち際のすぐ側に作っていました。
だから高い波が来たりすると、崩れていっちゃうと思います。
でも港くん達は結構離れた場所に作っているので、そういう心配はなさそうです。
「うん。だからここに作ったんだ。
水を運ぶのは大変だけどね」
修くん達はそう笑顔でいいました。
港くんのすぐ近くに、水の入ったバケツが置いてあります。
その水をスコップで汲んで、使っているみたいだね。
とっても繊細な作業のようです。
でも港くんも修くんも、それは大変よりも楽しいみたい。
「じゃあ、がんばってね」
わたしと麻緒ちゃんは、そう港くん達に手を振りました。
それから貝殻拾いもしました。
海にしかない物だから、お母さん達への立派なおみやげにもなるよね。
この宿泊会のお話をテトリちゃんにした時に、貝殻を持って帰るねって約束もしていたんです。
だから張り切ってかわいいのを探さなくっちゃ。
「わたしもまぜてー」
彩ちゃんも来て、3人で一緒に拾います。
貝殻って1言でいっても、大きさも形もいろいろあるよね。
それはいろんな種類の貝がいるからなんだけど。
その砂浜によって違ったりもするので、どんなのがあるか探してみるのは楽しいです。
ここでは白くてまあるいのや、紫色で細長いのをよく見かけます。
貝殻だけじゃなくって、つるつるしている石もあったから、それも拾ったよ。
これは何なのかな?
わからないけど、きれいなので拾っていきました。
そうしてわりとすぐに、貝殻で両手がいっぱいになりました。
わたし達はそんな状態にご機嫌です。
「きれいなのがいっぱいあったねー」
麻緒ちゃんがそうにこにこ顔でいうと、彩ちゃんが答えます。
「もうこれくらいあれば充分だよね」
わたしも張り切って、うなずきます。
「この集めた貝殻を誰かに見てほしいなあ。
でもみんなはそれぞれ忙しいし…。
そうだ!先生達に見てもらおうよ」
そうビーチパラソルの下に座っている先生達のことを思い出しました。
麻緒ちゃんと彩ちゃんもうなずきます。
わたし達は貝殻を落とさないように気を付けながら、先生達のところに行きました。
すると千夏先生はそのままいたけど、今は和幸先生の代わりに友子先生がいました。
「先生―!こんな貝殻が落ちてましたー」
そうわたし達は元気にいいます。
すると先生達も笑顔になって応えてくれました。
「わあお。ずいぶん拾ったねー。
それ、入れるもの持って来てるの?」
千夏先生の言葉に、わたし達は3人とも首を振りました。
そういえば、うっかりして持ってきていませんでした。
旅館に置いてあるバックの中には、ぴったりのがあります。
こうやって拾うつもりでいたからね。
でも海を見たら泳ぐことで頭がいっぱいになっちゃって、持ってくるのを忘れていました。
こうやって両手で持っていくか、旅館まで取りに戻るしかないかな。
ちょっと大変だけど、そうするしかないもんね。
そう考えて困っていると、千夏先生が元気に笑っていいました。
「心配ないよ。
こんなこともあろうかと、先生達は準備がいいんだよね」
そう千夏先生は少しの間、後ろを振り返ります。
後ろに置いてある先生の荷物から、何かを探しているようです。
そして、じゃーんと取り出しました。
「ちょうどいい袋を持ってきているから、これに入れておきなよ。はい」
そう3人分の袋を渡してくれます。
「わあ。ありがとうございます」
わたし達は安心して、袋を受け取りました。
それから友子先生が、わたし達の持っている貝殻を見ていいました。
「本当にいろんな種類のが落ちているのねえ。
これなんかみかんちゃんの名前と同じ、みかん色の石ね」
そうおもしろそうに、その石を指差します。
そんな友子先生を見て、わたしは提案しました。
「じゃあ友子先生にも千夏先生にも、この中から1つずつプレゼントします」
貝殻はたくさんあるし、袋をもらったお礼もあるしね。
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて…」
そう2人の先生は、わたしの手の中の貝殻をよくよく見始めました。
「どれがいいかしらねえ」
そうして友子先生はみかん色の石を、千夏先生は細長い貝殻を選びました。
「ありがとう。いい記念になったよー」
そう口の周りを手で囲っていう先生達に、大きく手を振ります。
そうして貝殻を袋に入れたわたし達は、また元気に砂浜を駆け出しました。
それからわたしは、また海に入ることにしました。
貝殻は麻緒ちゃんに預かってもらってね。
今度はわたしならではの遊び方です。
最初はペンダントをブレスレットに変えます。
「ミラクル・キーピング」
このブレスレットは、周りがどんな状況でも普通に感じられるように、わたしを守ってくれます。
1番使う時は少ないんだけど、とってもありがたいアイテムです。
これを付けていれば、海の中でも普通に息ができます。
だから海の中を見ながら、好きなだけ泳いでいられるんだよ。
魔法が効いていて安全とはいっても、深いところには行っちゃいけないきまりがあります。
だから場所は限られるんだけどね。
それでも思いっきり泳ぐのは気持ちがよかったよ。
うきわを付けて泳ぐのも大好きだけど、自分で泳ぐのはまた違った気分の良さだよね。
そんなわたしを見て、優香里ちゃんがいいました。
「みかんちゃん、うらやましいなあ。
あ!そうだ。苦しくならない今こそ、ちょっと難しい泳ぎ方を教えてあげるよ。
平泳ぎとか背泳ぎとか。
ちょっとやってみない?」
そう提案してもらって、わたしもいいアイディアだと思いました。
そうだね。こうやってずっとクロールをしているよりも楽しそうです。
海だから波はあるけど、このブレスレットで安全は保障されています。
いつもより恐いって思わないで、チャレンジできそうだよね。
そう思ってお願いすることにしました。
そうしたら優香里ちゃんは、本当に運動が得意なだけの上手さです。
わたしにとっては難しくって、ちゃんとその通りにはできませんでした。
でも優香里ちゃんの真似をしてやってみるのは楽しかったよ。
もっと大きくなったら、そういう泳ぎ方もできるようになりたいです。
潜って、海の生き物のお話も聞いてみることにしました。
めったに来られないところに、せっかくいるんだもん。
いろんな物と知り合っておきたいよね。
いつもならカチューシャにして、お話をしていくところです。
でもブレスレットにしておかないと、水の中では息が続きません。
だからここでは聞くだけになってしまいました。
ちょっとずつ潜って、耳を澄ませて聴いてみます。
今度はカチューシャにしてみます。
するとわたしが気付いていなかったところからも、たくさんの声が聞こえてきました。
みんな隠れるのが上手なんだね。
いろんな生き物がいるんだなって、とってもおもしろかったです。
これはあんまり長い時間はやれなかったけど、聴いてみてよかったよ。
将来立派な魔法使いになった時に、海の中でもたくさんお話したいなあ。
そんな夢も強くしました。
海の中っていう、わたしが知らない世界に住んでいるみんなだもんね。
そのためには、いろんな魔法を1度に使えないといけません。
たくさん生きると、そういうことも簡単にできるようになります。
その時が楽しみだなあ。
そのためにはまず、これからの魔法のお勉強をがんばらなくちゃね。
そう満足して、みんなのいる浜辺に戻ります。
すると大体のみんなは、もう集まってきていました。
もうすぐ遊び時間も終わりだからです。
みんなで本当にたくさんの海の遊びができて、わたしは幸せ気分です。
そんな時、少し離れたところにいた健治くんの言葉に注意を引かれました。
「ほら、見ろよ。
ちっちゃなカニがいたぜ」
そんな声に振り返ると、健治くんがカニさんを持っていました。
言葉の通りに、お店で見かけるのよりもずっと小さくて、緑色をしています。
『きゃー。離せー』
カチューシャをしたままだったので、そんなカニさんの声が聞こえます。
隣にいた温広くんが、そのカニさんを見ていいました。
「うーん。これは小さすぎて、食べられる大きさじゃないなー。
おれ、カニって大好物なんだけど…」
食べる!?
その言葉を聞いて、わたしは急いで健治くん達のところへ走っていきました。
そういうことに、わたしは敏感なんです。
そして大きな声で、早口でいいます。
「だめだめだめ。
絶対に、そのカニさんを食べちゃ嫌だよ」
そう本気になって大騒ぎします。
「え!?」
そんなわたしに、健治くん達は本当にびっくりした顔をしました。
そして慌てていいます。
「いや、本気で食べようなんて思ってないから」
そう手を振る健治くんに、温広くんも続きます。
「そうそう、それに食べられないっていったんだぜ。
今すぐ放すよな」
その通りにカニさんはすぐに放されました。
カニさんはさささささと岩陰に隠れます。
『ああ。びっくりした』
カニさんは、そうため息をついているようです。
わたしもほっとしました。
あ、ちょっと瞳もうるうるしていたみたいです。
瞳のはしっこに小さくあった涙を、こっそりぬぐいます。
さすがにあれくらいで泣いちゃったなんて、みんなに知られちゃいけないもんね。
心配されちゃうし、健治くん達にも悪いです。
ちょっと大げさだったよねえと、自分にため息をつきます。
でもわたしは動物の言葉がわかるだけに、お友達にそういうことをされたくなかったんです。
みんなにとって生き物も食べるっていうのは、当たり前のことです。
そういうふうになっているんだから、それは仕方ないのかなあっても思います。
でも今生きているのまで、自分からは食べてほしくないです。
いじめたりもしないでほしいし。
わたしにとっては、他の生き物もお友達だもんね。
そういっても給食の時間とかは、わたしもみんなと同じように食べたりもしています。
給食は残さないってお約束だし、食べてみるとおいしいなあっても思うし。
わたしはどうしたらいいのか難しい問題だね、うん。
そうまじめに考えていると、ちょうど時間になりました。
先生達が大きな声で、わたし達に呼びかけます。
「はーい、みんな。時間ですよー」
千夏先生に続いて、和幸先生もいいます。
「体をよく洗ってきてくださーい」
そんな先生達の言葉で、海で遊ぶ時間はおしまいになりました。
最後にちょっと考えることもあったけど、とっても楽しかったです。
そうそうさっきの港くん達のお城はね、立派に完成していたよ。
平らな砂浜の中にちょっと高さがあるから、遠くから見ても目立ちます。
後片付けをしている時に、そのことを聞いてみました。
2人とも、さっき以上にすがすがしい顔をして答えてくれたよ。
結構時間ぎりぎりまでがんばって、やっとできたそうです。
友子先生に、写真もちゃんと撮ってもらったって。
その場にいなかっただけに、どんな写真になっているのか楽しみだね。
海で遊ぶのは楽しいんだけど、長い間入っていると寒くなってきちゃいます。
だから今度は砂浜で遊ぶことにしました。
そう決めたら、1度髪の毛も直しておきます。
簡単に水道のお水で洗って、結い直します。
わたしは結わなくても平気な肩までの長さだけど、やっぱり結っておきたいんだよね。
幼稚園の時から、この髪型にはこだわりがあるんです。
そしてまずは、麻緒ちゃんと砂でお山を作ることにしました。
ある程度の大きさの山ができると、トンネルも掘ります。
そのトンネルは水をかぶると、すぐに埋まっちゃうんだけどね。
でもそれもまたおもしろいです。
そうやってわたし達は、ちょっとでは崩れないような丈夫なトンネル付きのお山を作りました。
「できたあ」
完成するとわたしはバンザイをして、麻緒ちゃんは拍手をします。
2人で満足して、それから周りを見回しました。
そうしたら港くんと修くんが、2人で一生懸命何かを作っていました。
気になって、麻緒ちゃんと2人で見に行ってみます。
するとそれは、お城の形にしているようでした。
今は、完成の半分以上はできているというところかな。
なかなか細かく作っていて、途中でも立派に見えるよ。
わたし達は手で作っていたけど、港くん達はお砂場セットをちゃんと準備してきていました。
そのわたし達のとのあまりの違いに、2人で感心します。
「港くん達の、すごいね。
どれくらい前から作っていたの?」
そう聞くと、2人とも楽しそうな顔をあげてくれました。
「ありがとう。
ぼく達は、みかんちゃん達の30分前くらいからかな」
プラスチックのスコップで形を整えながら、修くんが答えてくれます。
「せっかくだから、うんと立派なのを作るんだ。
これから海に来る人にも見てもらいたいなと思って、がんばってるんだよ」
そういう修くんに続いて、港くんも張り切ります。
「うん、できるだけ長い間残るように、丈夫なのを作らなくちゃね」
そう2人で顔を見合わせて、楽しそうです。息がぴったりみたいだね。
そんな2人の話を聞いて、わたしもわくわくします。
わたし達が帰っても、その砂のお城を見る人がいるっていいよね。
きっとその人達もみんな、わたし達みたいに感心するよ。
せっかく港くんと修くんが作ったお城に残っていてほしいなって、わたしも思いました。
でもこういう時に必要な状態魔法を、まだわたしは使えません。
状態維持の魔法をかけられれば、魔法が切れるまでは、そのお城をそのまま残しておけるんだよ。
あれならぴったりなんだけど、わたしが使えるのは夢魔法だけ。
こういう時に役に立たないようです。残念だなあ。
でもあきらめずに、普通に記念として残しておく方法を思いつきました。
「じゃあ完成したら、先生達に写真を撮ってもらおうよ。
そうしたらいつでも見られるし、みんなもきっとその写真をほしいよ」
先生達がこの宿泊会の写真を撮っているのを思い出して、わたしはそう提案しました。
その写真は後で貼り出されて、ほしいのを注文できるんだよね。
港くん達のお城の写真があったら、もちろんわたしも買うよ。
この言葉に、2人は元気にうなずきました。
「そうだね。完成したら、先生達に撮ってもらうよ」
それから麻緒ちゃんが、周りを見渡していいます。
「ここならわたし達のところと違って波もかぶらないし、長持ちしそうだね」
そういう通り、わたし達は波打ち際のすぐ側に作っていました。
だから高い波が来たりすると、崩れていっちゃうと思います。
でも港くん達は結構離れた場所に作っているので、そういう心配はなさそうです。
「うん。だからここに作ったんだ。
水を運ぶのは大変だけどね」
修くん達はそう笑顔でいいました。
港くんのすぐ近くに、水の入ったバケツが置いてあります。
その水をスコップで汲んで、使っているみたいだね。
とっても繊細な作業のようです。
でも港くんも修くんも、それは大変よりも楽しいみたい。
「じゃあ、がんばってね」
わたしと麻緒ちゃんは、そう港くん達に手を振りました。
それから貝殻拾いもしました。
海にしかない物だから、お母さん達への立派なおみやげにもなるよね。
この宿泊会のお話をテトリちゃんにした時に、貝殻を持って帰るねって約束もしていたんです。
だから張り切ってかわいいのを探さなくっちゃ。
「わたしもまぜてー」
彩ちゃんも来て、3人で一緒に拾います。
貝殻って1言でいっても、大きさも形もいろいろあるよね。
それはいろんな種類の貝がいるからなんだけど。
その砂浜によって違ったりもするので、どんなのがあるか探してみるのは楽しいです。
ここでは白くてまあるいのや、紫色で細長いのをよく見かけます。
貝殻だけじゃなくって、つるつるしている石もあったから、それも拾ったよ。
これは何なのかな?
わからないけど、きれいなので拾っていきました。
そうしてわりとすぐに、貝殻で両手がいっぱいになりました。
わたし達はそんな状態にご機嫌です。
「きれいなのがいっぱいあったねー」
麻緒ちゃんがそうにこにこ顔でいうと、彩ちゃんが答えます。
「もうこれくらいあれば充分だよね」
わたしも張り切って、うなずきます。
「この集めた貝殻を誰かに見てほしいなあ。
でもみんなはそれぞれ忙しいし…。
そうだ!先生達に見てもらおうよ」
そうビーチパラソルの下に座っている先生達のことを思い出しました。
麻緒ちゃんと彩ちゃんもうなずきます。
わたし達は貝殻を落とさないように気を付けながら、先生達のところに行きました。
すると千夏先生はそのままいたけど、今は和幸先生の代わりに友子先生がいました。
「先生―!こんな貝殻が落ちてましたー」
そうわたし達は元気にいいます。
すると先生達も笑顔になって応えてくれました。
「わあお。ずいぶん拾ったねー。
それ、入れるもの持って来てるの?」
千夏先生の言葉に、わたし達は3人とも首を振りました。
そういえば、うっかりして持ってきていませんでした。
旅館に置いてあるバックの中には、ぴったりのがあります。
こうやって拾うつもりでいたからね。
でも海を見たら泳ぐことで頭がいっぱいになっちゃって、持ってくるのを忘れていました。
こうやって両手で持っていくか、旅館まで取りに戻るしかないかな。
ちょっと大変だけど、そうするしかないもんね。
そう考えて困っていると、千夏先生が元気に笑っていいました。
「心配ないよ。
こんなこともあろうかと、先生達は準備がいいんだよね」
そう千夏先生は少しの間、後ろを振り返ります。
後ろに置いてある先生の荷物から、何かを探しているようです。
そして、じゃーんと取り出しました。
「ちょうどいい袋を持ってきているから、これに入れておきなよ。はい」
そう3人分の袋を渡してくれます。
「わあ。ありがとうございます」
わたし達は安心して、袋を受け取りました。
それから友子先生が、わたし達の持っている貝殻を見ていいました。
「本当にいろんな種類のが落ちているのねえ。
これなんかみかんちゃんの名前と同じ、みかん色の石ね」
そうおもしろそうに、その石を指差します。
そんな友子先生を見て、わたしは提案しました。
「じゃあ友子先生にも千夏先生にも、この中から1つずつプレゼントします」
貝殻はたくさんあるし、袋をもらったお礼もあるしね。
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて…」
そう2人の先生は、わたしの手の中の貝殻をよくよく見始めました。
「どれがいいかしらねえ」
そうして友子先生はみかん色の石を、千夏先生は細長い貝殻を選びました。
「ありがとう。いい記念になったよー」
そう口の周りを手で囲っていう先生達に、大きく手を振ります。
そうして貝殻を袋に入れたわたし達は、また元気に砂浜を駆け出しました。
それからわたしは、また海に入ることにしました。
貝殻は麻緒ちゃんに預かってもらってね。
今度はわたしならではの遊び方です。
最初はペンダントをブレスレットに変えます。
「ミラクル・キーピング」
このブレスレットは、周りがどんな状況でも普通に感じられるように、わたしを守ってくれます。
1番使う時は少ないんだけど、とってもありがたいアイテムです。
これを付けていれば、海の中でも普通に息ができます。
だから海の中を見ながら、好きなだけ泳いでいられるんだよ。
魔法が効いていて安全とはいっても、深いところには行っちゃいけないきまりがあります。
だから場所は限られるんだけどね。
それでも思いっきり泳ぐのは気持ちがよかったよ。
うきわを付けて泳ぐのも大好きだけど、自分で泳ぐのはまた違った気分の良さだよね。
そんなわたしを見て、優香里ちゃんがいいました。
「みかんちゃん、うらやましいなあ。
あ!そうだ。苦しくならない今こそ、ちょっと難しい泳ぎ方を教えてあげるよ。
平泳ぎとか背泳ぎとか。
ちょっとやってみない?」
そう提案してもらって、わたしもいいアイディアだと思いました。
そうだね。こうやってずっとクロールをしているよりも楽しそうです。
海だから波はあるけど、このブレスレットで安全は保障されています。
いつもより恐いって思わないで、チャレンジできそうだよね。
そう思ってお願いすることにしました。
そうしたら優香里ちゃんは、本当に運動が得意なだけの上手さです。
わたしにとっては難しくって、ちゃんとその通りにはできませんでした。
でも優香里ちゃんの真似をしてやってみるのは楽しかったよ。
もっと大きくなったら、そういう泳ぎ方もできるようになりたいです。
潜って、海の生き物のお話も聞いてみることにしました。
めったに来られないところに、せっかくいるんだもん。
いろんな物と知り合っておきたいよね。
いつもならカチューシャにして、お話をしていくところです。
でもブレスレットにしておかないと、水の中では息が続きません。
だからここでは聞くだけになってしまいました。
ちょっとずつ潜って、耳を澄ませて聴いてみます。
今度はカチューシャにしてみます。
するとわたしが気付いていなかったところからも、たくさんの声が聞こえてきました。
みんな隠れるのが上手なんだね。
いろんな生き物がいるんだなって、とってもおもしろかったです。
これはあんまり長い時間はやれなかったけど、聴いてみてよかったよ。
将来立派な魔法使いになった時に、海の中でもたくさんお話したいなあ。
そんな夢も強くしました。
海の中っていう、わたしが知らない世界に住んでいるみんなだもんね。
そのためには、いろんな魔法を1度に使えないといけません。
たくさん生きると、そういうことも簡単にできるようになります。
その時が楽しみだなあ。
そのためにはまず、これからの魔法のお勉強をがんばらなくちゃね。
そう満足して、みんなのいる浜辺に戻ります。
すると大体のみんなは、もう集まってきていました。
もうすぐ遊び時間も終わりだからです。
みんなで本当にたくさんの海の遊びができて、わたしは幸せ気分です。
そんな時、少し離れたところにいた健治くんの言葉に注意を引かれました。
「ほら、見ろよ。
ちっちゃなカニがいたぜ」
そんな声に振り返ると、健治くんがカニさんを持っていました。
言葉の通りに、お店で見かけるのよりもずっと小さくて、緑色をしています。
『きゃー。離せー』
カチューシャをしたままだったので、そんなカニさんの声が聞こえます。
隣にいた温広くんが、そのカニさんを見ていいました。
「うーん。これは小さすぎて、食べられる大きさじゃないなー。
おれ、カニって大好物なんだけど…」
食べる!?
その言葉を聞いて、わたしは急いで健治くん達のところへ走っていきました。
そういうことに、わたしは敏感なんです。
そして大きな声で、早口でいいます。
「だめだめだめ。
絶対に、そのカニさんを食べちゃ嫌だよ」
そう本気になって大騒ぎします。
「え!?」
そんなわたしに、健治くん達は本当にびっくりした顔をしました。
そして慌てていいます。
「いや、本気で食べようなんて思ってないから」
そう手を振る健治くんに、温広くんも続きます。
「そうそう、それに食べられないっていったんだぜ。
今すぐ放すよな」
その通りにカニさんはすぐに放されました。
カニさんはさささささと岩陰に隠れます。
『ああ。びっくりした』
カニさんは、そうため息をついているようです。
わたしもほっとしました。
あ、ちょっと瞳もうるうるしていたみたいです。
瞳のはしっこに小さくあった涙を、こっそりぬぐいます。
さすがにあれくらいで泣いちゃったなんて、みんなに知られちゃいけないもんね。
心配されちゃうし、健治くん達にも悪いです。
ちょっと大げさだったよねえと、自分にため息をつきます。
でもわたしは動物の言葉がわかるだけに、お友達にそういうことをされたくなかったんです。
みんなにとって生き物も食べるっていうのは、当たり前のことです。
そういうふうになっているんだから、それは仕方ないのかなあっても思います。
でも今生きているのまで、自分からは食べてほしくないです。
いじめたりもしないでほしいし。
わたしにとっては、他の生き物もお友達だもんね。
そういっても給食の時間とかは、わたしもみんなと同じように食べたりもしています。
給食は残さないってお約束だし、食べてみるとおいしいなあっても思うし。
わたしはどうしたらいいのか難しい問題だね、うん。
そうまじめに考えていると、ちょうど時間になりました。
先生達が大きな声で、わたし達に呼びかけます。
「はーい、みんな。時間ですよー」
千夏先生に続いて、和幸先生もいいます。
「体をよく洗ってきてくださーい」
そんな先生達の言葉で、海で遊ぶ時間はおしまいになりました。
最後にちょっと考えることもあったけど、とっても楽しかったです。
そうそうさっきの港くん達のお城はね、立派に完成していたよ。
平らな砂浜の中にちょっと高さがあるから、遠くから見ても目立ちます。
後片付けをしている時に、そのことを聞いてみました。
2人とも、さっき以上にすがすがしい顔をして答えてくれたよ。
結構時間ぎりぎりまでがんばって、やっとできたそうです。
友子先生に、写真もちゃんと撮ってもらったって。
その場にいなかっただけに、どんな写真になっているのか楽しみだね。
