5年生5月編
4-みかんちゃんと動物達
今朝麻緒ちゃんが元気よく教室に入ってきて、いいニュースを教えてくれました。
「みんなー。ポスの赤ちゃん、産まれたよー」
そう聞くと、みんなわくわくして麻緒ちゃんにいいました。
「よかったね!」
「ポスや赤ちゃん、元気?」
元気にいう美穂ちゃん、彩ちゃんに続いて、修くんも聞きました。
「何匹産まれたの?」
麻緒ちゃんは本当にうれしそうな顔で、まとめて答えてくれました。
「3匹だよ。ポスも子犬も元気!
ポスの子犬達とってもかわいいし、ポスも優しいの」
うわあ。とうとう産まれたんだね。
わたしもそう聞いてうれしいです。
ポスちゃんは麻緒ちゃん家にいる犬でね、もう1匹いるバルくんと結婚してるんだって。
そしてその2匹の子ども達が昨日産まれたんだよ。
赤ちゃんがポスちゃんのお腹にいる時から、麻緒ちゃんはわたし達みんなに話してくれていました。
最近はもうすぐ産まれそうって、毎日そのお話をしていたんだよ。
わたしはポスちゃん、バルくんともお友達。
前に麻緒ちゃんのお家に行った時に、仲良くなりました。
2匹ともしっかりしていて、優しいんだよ。
「ねえねえ、その子犬達を見に行ってもいい?」
柾紀くんが聞くと、麻緒ちゃんは少し考えてから誘ってくれました。
「今はポスが疲れているからだめだけど、元気になったら見に来て!
その頃は子犬達、もっとかわいくなってるよ」
その言葉にわたし達みんなでうなずきます。
「うん」
ポスちゃんの子犬達に会えるのが楽しみです。
その日学校にいる間ずっと、麻緒ちゃん家の子犬達のことを考えていました。
「バイバーイ」
「みかんちゃん、また明日ね」
放課後クラスのみんなに手を振って教室を出てから、わたしは小さなため息をつきます。
「いいなー。わたしの家にも動物がいたらいいのに」
わたしの家は動物がいないので、いるお友達がとってもうらやましいです。
そうだめなのは、家やお母さんのせいじゃないんだよ。
わたしの家は一戸建てだし、お母さんも動物が大好きです。
それはきまりで、魔法使いは動物達の自由を縛ってはいけないって、飼うことを禁止されているからです。
前に子猫を拾って家に連れていった時に、そうお母さんに教えてもらいました。
わたし達魔法使いは普通の人よりずっと長生きだからということも関係しているそうです。
魔法使いは特別な力がある分、いろいろなきまりがあるんだよ。
でもそのかわり、いろんな動物達とお話ができる力をもらっています。
種族に関係なく、みんな仲良くしていけるようにって、神様が決めたそうです。どの生き物もみんな神様の子ども達で、大事な存在だもんね。
その生き物みんなとお話ができる力のおかげで、わたしもたくさんのお友達がいます。
そんな力をくれた神様にとっても感謝しています。
でもわたしもみんなみたいに、いつも一緒にいてくれる友達がほしいなっても思ってしまうのです。でも、できないことを考えていてもしょうがないよね。
わたしは気を取り直しました。
今日は鳥さん達とお話をしながら帰ろう!
校門を出ると、わたしは早速ペンダントを外して呪文を唱えました。
「ミラクル・テイク・シー」
するとペンダントがカチューシャに変わります。
そのカチューシャを付けて、ほうきに乗りました。
これを付けていると、動物のお話が聞けるようになるんだよ。
ほうきに乗っている時は、鳥さんとよく話しています。
「こんにちはー」
わたしが声をかけると、お友達の鳥さんが来てくれたり、あいさつをしてくれます。
「あら、みかんちゃん」
「今日も元気ね」
お母さん鳥達が真っ先に声をかけてくれました。
ちなみにわたしは、今いるお母さん鳥達が赤ちゃんの時から知っています。
鳥さんって、すごく成長早いよね。
一緒に遊んでいた時もあったのに、今ではすっかり大人です。
今は5月の後半なので、ヒナちゃん達のお世話で忙しいらしいけど、楽しそう。
お母さん・お父さん鳥達と、ヒナちゃん達のことなどをいろいろと話しながら飛んでいました。
すると前から、陽気なカラスのカンさんが飛んできました。
「よっ!みかんちゃん。今日も景気がいいねえ」
カンさんは今年で3歳。
大人だけど、まだ結婚はしていないんだって。
鳥さんの中で1番元気で、時々会いにきてくれます。
そんなカンさんが、今日はお誘いに来ました。
「みかんちゃん、これからひまかい?
オレ、これから河原にプルトップ集めに行くんだけど、付き合ってくれないか?」
カンさんはカラスだけあって、光る物が大好きです。
特に缶に付いているプルトップをコレクションしていて、よく川に拾いに行っています。
わたしも時々一緒に行ってるよ。
「うん、いいよ」
わたしがそう返事をすると、カンさんはうれしそうです。
プルトップ集めはわりと早く終わるから、学校帰りでも大丈夫!
その川は帰り道ではないけれど、すぐ近くにあるんです。
「カンさん、相変わらず光る物集め好きね」
お母さん鳥がそういうと、カンさんは元気に返事をしました。
「ああ、いっぱい落ちているんだから、どんどん拾いに行かなくちゃな」
「じゃあ、行ってきまーす。また明日ね」
わたしは他の鳥さん達とさよならして、カンさんと一緒に河原に向かいました。
「あ!あった、あった」
カンさんが缶をみつけて、うれしそうにいいました。
わたしはその缶からプルトップを取って、カンさんの巾着に入れます。
カンさんが宝物をお家に持っていきやすいように、この袋はわたしがあげたんだよ。
だから桃色なのです。
家庭科の時間にお裁縫を習ったので、作ってみました。
習いたてだからあんまり上手じゃないけど、カンさんはこの巾着をとっても気に入ってくれています。
光る物集めをする時は、いつも首にさげて持ってきています。
そして缶はビニール袋に入れます。
わたしはプルトップ集めをする時に、空き缶などを拾っています。
お友達の魔法使いのタルトちゃんが、ごみを拾って町をきれいにしようと熱心なんです。
だからタルトちゃんが住んでいる隣の素雪市は、いつもきれいなんだよ。
それを見習って、わたしも機会がある時にはこうやってやっています。
前にカンさんと拾いにきたのは、3週間前くらいでした。
でもその間に、またこうやって空き缶が捨てられているんだよね。
タルトちゃんがいたら、おしおきのピコピコハンマーが出るところです。
町にごみを捨てたりする悪い人を注意する時に、タルトちゃんはいつもそうやっているんだよ。
そんなことを考えながら拾っていたら、空き缶はすぐになくなりました。
今日は全部で5本の缶をみつけたよ。
「結構いっぱいになったな」
カンさんは巾着の中を見てうれしそうです。
「みかんちゃん、付き合ってくれてありがとうな」
「コレクション増えてよかったね。また来ようね」
そう笑いあうわたしとカンさん。
その時、何か声が聞こえてきました。
小さな声だったので、さっきまではしゃいでいたわたし達には聞こえなかったみたいです。
「いたっ…、誰か来てーっ」
川の上を通っている橋の下辺りに生えている草むらから聞こえたようです。
「カンさん、声聞こえたよね」
確認すると、カンさんはうなずきました。
そこで草を分けて見てみると、いたのは白い猫さんでした。
さっきの声だったら女の子だね。
見ると右の前足を怪我していて、痛そうです。
わたしはその子に尋ねました。
「どうしたの?大丈夫?」
すると痛そうな顔をしながらも、説明してくれました。
「昨日の夜ここに落ちちゃったの。
その時に前足を痛めちゃって…」
ここは隣が道路なのですが、その道路と河原の高さが1番違う場所です。
ここから落ちたら怪我しちゃうね。
上の道路を改めて見て、わたしはそう納得しました。
カンさんは、その猫さんに聞きます。
「お嬢さん、飼い猫かい?
野生の猫なら、ぎりぎり着地できそうな高さだし」
その言葉に、猫さんはうなずきました。
わたしはそんな話を聞いて、これからどうしたらいいのか考え付きました。
「飼い主さんがいるなら、家に連れてってあげるよ。家はどこ?」
そうわたしが聞くと、さんはびっくりした顔でわたしを見ました。
「あなた、わたしの言葉がわかるんですか?」
あ、そっか。普通はお話できないもんね。
そこでわたしは、まだ自己紹介をしていなかったことに気が付きました。
「わたしは魔法使いなの。名前はみかんです」
そういうと、猫さんは意外な返事をしました。
「ああ。あなたがみかんちゃんですか。
友達から話を聞いてますよ。会えてうれしいです」
「え」
わたしが驚いていると、カンさんが教えてくれました。
「みかんちゃんは動物仲間でも有名なんだぜ。
こうやってオレ達みたいな友達がいっぱいいるだろ?
人間だけど仲間みたいでさ」
そういってもらえて、わたしはとってもうれしくなりました。
さっきのもやもやしていた気持ちがすっかりなくなったよ。
やっぱり友達になれるって最高だよね。
そして猫さんも自己紹介をしてくれます。
「私はリリーといいます」
それから困った顔をして、さっきの話に戻りました。
「今家には誰もいないんです。
家族みんなで、告(つぐる)さんのお父さんの家である、法事というのに行っています。
本当は私も一緒に出掛けたんだけど、途中ではぐれてしまって、家に戻るところだったんです。
響香ちゃん達、心配してるでしょうね」
そうリリーちゃんはため息をつきました。
迷子になっちゃって、怪我までしちゃうなんて大変だったね。
そうリリーちゃんがかわいそうな気持ちになってから、わたしはたずねました。
「そうなんだ。お家の人はどれくらいで帰ってくるの?」
「次の日曜日に帰ってくるはずです」
そう聞いてわたしは考えました。
今日は木曜日だから、あと3日もあります。
お家に連れてっても、怪我をしたまま1人で何日もいるのは辛いよね。
かといって、わたしもお母さんも、怪我を治す魔法は使えません。
それは状態魔法に入っている、とっても難しい魔法です。
状態魔法は2種類あります。
状態変化魔法はその物が普通に変わる範囲で変える魔法。
例えば水をお湯にしたりすることができます。
それから状態維持魔法。
普通なら溶けちゃう氷も、その魔法をかければずっと氷のままにしておけます。
怪我を治すというのは、怪我をしていない状態にするということで、この種類なんだって。
お母さんは状態魔法を使えるのですが、怪我を治す魔法は特別に勉強をしないと使えないそうです。
普通は覚えた種類の魔法は、自分の魔法の力の分だけ自由に使えるのですが、特別な勉強がいる魔法もあるんだって。
わたしはまだ夢魔法しか使えないし…。
すごく素敵な魔法だけど、1種類しか使えないと、叶えたいことがある時に、夢魔法に入るようにおきかえるのが大変かな。
そんなわけで、怪我を治してあげることはできません。
どうすればいいかな?
考えて考えて、わたしは名案を思い付きました。
「飼い主さんが帰ってくるまで、わたしの家に来ない?
手当てもできるし」
「え?いいんですか?」
わたしの提案に、リリーちゃんはびっくりした顔で聞きます。
「うん!」
わたしはしっかりうなずきました。
魔法使いは動物を飼っちゃいけないって、今までは家に連れて行ってもだめでした。
でも今回は、リリーちゃんの飼い主さんが帰ってくるまでの3日間だけだもんね。
大丈夫だと思います。お母さんもいいっていってくれるよね。
張り切るわたしに、リリーちゃんはほっとした顔でお礼をいいました。
「ありがとう。よろしくお願いします」
そう決まったら、リリーちゃんの怪我が痛まないように、気を使いながらだっこします。
そんなわたし達を見ていたカンさんが、思いがけないことをいいました。
「みかんちゃん、今日空き缶はオレがゴミ箱に入れてくるよ」
「え?どうして?」
わたしが聞くと、カンさんはしっかり説明してくれました。
「手当ては早い方がいいだろ。
空き缶だから、オレ1人で運べるよ」
そう気を使ってくれます。
それから決定的な1言をいわれてしまいました。
「それに…、そうやってリリーちゃんを持っていたらほうきで飛べないだろ。
みかんちゃん、手放しはできないし」
「あ、そっか」
わたしは納得しました。
リリーちゃんを抱っこしていたら、ほうきの柄を握れません。
わたしはまだ手放しでは飛べないんです。
かといって、怪我をしているリリーちゃんに、自分でつかまってもらうわけにもいかないしね。
こういう時、魔法の絨毯を使えたらいいのになあと思います。
ほうきは普通1人用の乗り物です。
他の人を乗せたい時は、その魔法の絨毯を使うんだよ。
わたしもほうきに乗れなかった時は、お母さんに絨毯に乗せてもらっていました。
あれならリリーちゃんも楽に乗れるはずです。
でもその魔法の絨毯を使うのはすごく難しくて、わたしはやったことさえありません。その前に、もっとほうきをうまく乗りこなせるように練習しないとね。
そういうわけで、これから歩いて帰らなくちゃいけません。
「歩いて帰るならなおさらさ」
カンさんの言葉に、わたしはうなずきます。
リリーちゃんの手当てを早くするなら、カンさんに頼んだ方がいいかな。
カンさんは公園のゴミ箱の場所を知っているし、大丈夫だよね。
わたしはそう考えて、カンさんにお願いすることにしました。
「じゃあ、カンさん。よろしくお願いします」
そうカンさんに空き缶の入った袋を渡します。
「おうっ。任せてくれよ。
みかんちゃん、またな。リリーちゃんも元気で!」
カンさんはそういって、ぱっと飛び立ちました。
そしてわたし達に翼を振って、飛んでいきます。
「カンさん、ありがとう!またねー」
わたし達はそう見送ります。
それからリリーちゃんに向き直っていいます。
「さあ、わたしの家に行こう」
カバンを背負って、ほうきを小脇に抱えます。
そしてリリーちゃんとお家に向かいました。
今朝麻緒ちゃんが元気よく教室に入ってきて、いいニュースを教えてくれました。
「みんなー。ポスの赤ちゃん、産まれたよー」
そう聞くと、みんなわくわくして麻緒ちゃんにいいました。
「よかったね!」
「ポスや赤ちゃん、元気?」
元気にいう美穂ちゃん、彩ちゃんに続いて、修くんも聞きました。
「何匹産まれたの?」
麻緒ちゃんは本当にうれしそうな顔で、まとめて答えてくれました。
「3匹だよ。ポスも子犬も元気!
ポスの子犬達とってもかわいいし、ポスも優しいの」
うわあ。とうとう産まれたんだね。
わたしもそう聞いてうれしいです。
ポスちゃんは麻緒ちゃん家にいる犬でね、もう1匹いるバルくんと結婚してるんだって。
そしてその2匹の子ども達が昨日産まれたんだよ。
赤ちゃんがポスちゃんのお腹にいる時から、麻緒ちゃんはわたし達みんなに話してくれていました。
最近はもうすぐ産まれそうって、毎日そのお話をしていたんだよ。
わたしはポスちゃん、バルくんともお友達。
前に麻緒ちゃんのお家に行った時に、仲良くなりました。
2匹ともしっかりしていて、優しいんだよ。
「ねえねえ、その子犬達を見に行ってもいい?」
柾紀くんが聞くと、麻緒ちゃんは少し考えてから誘ってくれました。
「今はポスが疲れているからだめだけど、元気になったら見に来て!
その頃は子犬達、もっとかわいくなってるよ」
その言葉にわたし達みんなでうなずきます。
「うん」
ポスちゃんの子犬達に会えるのが楽しみです。
その日学校にいる間ずっと、麻緒ちゃん家の子犬達のことを考えていました。
「バイバーイ」
「みかんちゃん、また明日ね」
放課後クラスのみんなに手を振って教室を出てから、わたしは小さなため息をつきます。
「いいなー。わたしの家にも動物がいたらいいのに」
わたしの家は動物がいないので、いるお友達がとってもうらやましいです。
そうだめなのは、家やお母さんのせいじゃないんだよ。
わたしの家は一戸建てだし、お母さんも動物が大好きです。
それはきまりで、魔法使いは動物達の自由を縛ってはいけないって、飼うことを禁止されているからです。
前に子猫を拾って家に連れていった時に、そうお母さんに教えてもらいました。
わたし達魔法使いは普通の人よりずっと長生きだからということも関係しているそうです。
魔法使いは特別な力がある分、いろいろなきまりがあるんだよ。
でもそのかわり、いろんな動物達とお話ができる力をもらっています。
種族に関係なく、みんな仲良くしていけるようにって、神様が決めたそうです。どの生き物もみんな神様の子ども達で、大事な存在だもんね。
その生き物みんなとお話ができる力のおかげで、わたしもたくさんのお友達がいます。
そんな力をくれた神様にとっても感謝しています。
でもわたしもみんなみたいに、いつも一緒にいてくれる友達がほしいなっても思ってしまうのです。でも、できないことを考えていてもしょうがないよね。
わたしは気を取り直しました。
今日は鳥さん達とお話をしながら帰ろう!
校門を出ると、わたしは早速ペンダントを外して呪文を唱えました。
「ミラクル・テイク・シー」
するとペンダントがカチューシャに変わります。
そのカチューシャを付けて、ほうきに乗りました。
これを付けていると、動物のお話が聞けるようになるんだよ。
ほうきに乗っている時は、鳥さんとよく話しています。
「こんにちはー」
わたしが声をかけると、お友達の鳥さんが来てくれたり、あいさつをしてくれます。
「あら、みかんちゃん」
「今日も元気ね」
お母さん鳥達が真っ先に声をかけてくれました。
ちなみにわたしは、今いるお母さん鳥達が赤ちゃんの時から知っています。
鳥さんって、すごく成長早いよね。
一緒に遊んでいた時もあったのに、今ではすっかり大人です。
今は5月の後半なので、ヒナちゃん達のお世話で忙しいらしいけど、楽しそう。
お母さん・お父さん鳥達と、ヒナちゃん達のことなどをいろいろと話しながら飛んでいました。
すると前から、陽気なカラスのカンさんが飛んできました。
「よっ!みかんちゃん。今日も景気がいいねえ」
カンさんは今年で3歳。
大人だけど、まだ結婚はしていないんだって。
鳥さんの中で1番元気で、時々会いにきてくれます。
そんなカンさんが、今日はお誘いに来ました。
「みかんちゃん、これからひまかい?
オレ、これから河原にプルトップ集めに行くんだけど、付き合ってくれないか?」
カンさんはカラスだけあって、光る物が大好きです。
特に缶に付いているプルトップをコレクションしていて、よく川に拾いに行っています。
わたしも時々一緒に行ってるよ。
「うん、いいよ」
わたしがそう返事をすると、カンさんはうれしそうです。
プルトップ集めはわりと早く終わるから、学校帰りでも大丈夫!
その川は帰り道ではないけれど、すぐ近くにあるんです。
「カンさん、相変わらず光る物集め好きね」
お母さん鳥がそういうと、カンさんは元気に返事をしました。
「ああ、いっぱい落ちているんだから、どんどん拾いに行かなくちゃな」
「じゃあ、行ってきまーす。また明日ね」
わたしは他の鳥さん達とさよならして、カンさんと一緒に河原に向かいました。
「あ!あった、あった」
カンさんが缶をみつけて、うれしそうにいいました。
わたしはその缶からプルトップを取って、カンさんの巾着に入れます。
カンさんが宝物をお家に持っていきやすいように、この袋はわたしがあげたんだよ。
だから桃色なのです。
家庭科の時間にお裁縫を習ったので、作ってみました。
習いたてだからあんまり上手じゃないけど、カンさんはこの巾着をとっても気に入ってくれています。
光る物集めをする時は、いつも首にさげて持ってきています。
そして缶はビニール袋に入れます。
わたしはプルトップ集めをする時に、空き缶などを拾っています。
お友達の魔法使いのタルトちゃんが、ごみを拾って町をきれいにしようと熱心なんです。
だからタルトちゃんが住んでいる隣の素雪市は、いつもきれいなんだよ。
それを見習って、わたしも機会がある時にはこうやってやっています。
前にカンさんと拾いにきたのは、3週間前くらいでした。
でもその間に、またこうやって空き缶が捨てられているんだよね。
タルトちゃんがいたら、おしおきのピコピコハンマーが出るところです。
町にごみを捨てたりする悪い人を注意する時に、タルトちゃんはいつもそうやっているんだよ。
そんなことを考えながら拾っていたら、空き缶はすぐになくなりました。
今日は全部で5本の缶をみつけたよ。
「結構いっぱいになったな」
カンさんは巾着の中を見てうれしそうです。
「みかんちゃん、付き合ってくれてありがとうな」
「コレクション増えてよかったね。また来ようね」
そう笑いあうわたしとカンさん。
その時、何か声が聞こえてきました。
小さな声だったので、さっきまではしゃいでいたわたし達には聞こえなかったみたいです。
「いたっ…、誰か来てーっ」
川の上を通っている橋の下辺りに生えている草むらから聞こえたようです。
「カンさん、声聞こえたよね」
確認すると、カンさんはうなずきました。
そこで草を分けて見てみると、いたのは白い猫さんでした。
さっきの声だったら女の子だね。
見ると右の前足を怪我していて、痛そうです。
わたしはその子に尋ねました。
「どうしたの?大丈夫?」
すると痛そうな顔をしながらも、説明してくれました。
「昨日の夜ここに落ちちゃったの。
その時に前足を痛めちゃって…」
ここは隣が道路なのですが、その道路と河原の高さが1番違う場所です。
ここから落ちたら怪我しちゃうね。
上の道路を改めて見て、わたしはそう納得しました。
カンさんは、その猫さんに聞きます。
「お嬢さん、飼い猫かい?
野生の猫なら、ぎりぎり着地できそうな高さだし」
その言葉に、猫さんはうなずきました。
わたしはそんな話を聞いて、これからどうしたらいいのか考え付きました。
「飼い主さんがいるなら、家に連れてってあげるよ。家はどこ?」
そうわたしが聞くと、さんはびっくりした顔でわたしを見ました。
「あなた、わたしの言葉がわかるんですか?」
あ、そっか。普通はお話できないもんね。
そこでわたしは、まだ自己紹介をしていなかったことに気が付きました。
「わたしは魔法使いなの。名前はみかんです」
そういうと、猫さんは意外な返事をしました。
「ああ。あなたがみかんちゃんですか。
友達から話を聞いてますよ。会えてうれしいです」
「え」
わたしが驚いていると、カンさんが教えてくれました。
「みかんちゃんは動物仲間でも有名なんだぜ。
こうやってオレ達みたいな友達がいっぱいいるだろ?
人間だけど仲間みたいでさ」
そういってもらえて、わたしはとってもうれしくなりました。
さっきのもやもやしていた気持ちがすっかりなくなったよ。
やっぱり友達になれるって最高だよね。
そして猫さんも自己紹介をしてくれます。
「私はリリーといいます」
それから困った顔をして、さっきの話に戻りました。
「今家には誰もいないんです。
家族みんなで、告(つぐる)さんのお父さんの家である、法事というのに行っています。
本当は私も一緒に出掛けたんだけど、途中ではぐれてしまって、家に戻るところだったんです。
響香ちゃん達、心配してるでしょうね」
そうリリーちゃんはため息をつきました。
迷子になっちゃって、怪我までしちゃうなんて大変だったね。
そうリリーちゃんがかわいそうな気持ちになってから、わたしはたずねました。
「そうなんだ。お家の人はどれくらいで帰ってくるの?」
「次の日曜日に帰ってくるはずです」
そう聞いてわたしは考えました。
今日は木曜日だから、あと3日もあります。
お家に連れてっても、怪我をしたまま1人で何日もいるのは辛いよね。
かといって、わたしもお母さんも、怪我を治す魔法は使えません。
それは状態魔法に入っている、とっても難しい魔法です。
状態魔法は2種類あります。
状態変化魔法はその物が普通に変わる範囲で変える魔法。
例えば水をお湯にしたりすることができます。
それから状態維持魔法。
普通なら溶けちゃう氷も、その魔法をかければずっと氷のままにしておけます。
怪我を治すというのは、怪我をしていない状態にするということで、この種類なんだって。
お母さんは状態魔法を使えるのですが、怪我を治す魔法は特別に勉強をしないと使えないそうです。
普通は覚えた種類の魔法は、自分の魔法の力の分だけ自由に使えるのですが、特別な勉強がいる魔法もあるんだって。
わたしはまだ夢魔法しか使えないし…。
すごく素敵な魔法だけど、1種類しか使えないと、叶えたいことがある時に、夢魔法に入るようにおきかえるのが大変かな。
そんなわけで、怪我を治してあげることはできません。
どうすればいいかな?
考えて考えて、わたしは名案を思い付きました。
「飼い主さんが帰ってくるまで、わたしの家に来ない?
手当てもできるし」
「え?いいんですか?」
わたしの提案に、リリーちゃんはびっくりした顔で聞きます。
「うん!」
わたしはしっかりうなずきました。
魔法使いは動物を飼っちゃいけないって、今までは家に連れて行ってもだめでした。
でも今回は、リリーちゃんの飼い主さんが帰ってくるまでの3日間だけだもんね。
大丈夫だと思います。お母さんもいいっていってくれるよね。
張り切るわたしに、リリーちゃんはほっとした顔でお礼をいいました。
「ありがとう。よろしくお願いします」
そう決まったら、リリーちゃんの怪我が痛まないように、気を使いながらだっこします。
そんなわたし達を見ていたカンさんが、思いがけないことをいいました。
「みかんちゃん、今日空き缶はオレがゴミ箱に入れてくるよ」
「え?どうして?」
わたしが聞くと、カンさんはしっかり説明してくれました。
「手当ては早い方がいいだろ。
空き缶だから、オレ1人で運べるよ」
そう気を使ってくれます。
それから決定的な1言をいわれてしまいました。
「それに…、そうやってリリーちゃんを持っていたらほうきで飛べないだろ。
みかんちゃん、手放しはできないし」
「あ、そっか」
わたしは納得しました。
リリーちゃんを抱っこしていたら、ほうきの柄を握れません。
わたしはまだ手放しでは飛べないんです。
かといって、怪我をしているリリーちゃんに、自分でつかまってもらうわけにもいかないしね。
こういう時、魔法の絨毯を使えたらいいのになあと思います。
ほうきは普通1人用の乗り物です。
他の人を乗せたい時は、その魔法の絨毯を使うんだよ。
わたしもほうきに乗れなかった時は、お母さんに絨毯に乗せてもらっていました。
あれならリリーちゃんも楽に乗れるはずです。
でもその魔法の絨毯を使うのはすごく難しくて、わたしはやったことさえありません。その前に、もっとほうきをうまく乗りこなせるように練習しないとね。
そういうわけで、これから歩いて帰らなくちゃいけません。
「歩いて帰るならなおさらさ」
カンさんの言葉に、わたしはうなずきます。
リリーちゃんの手当てを早くするなら、カンさんに頼んだ方がいいかな。
カンさんは公園のゴミ箱の場所を知っているし、大丈夫だよね。
わたしはそう考えて、カンさんにお願いすることにしました。
「じゃあ、カンさん。よろしくお願いします」
そうカンさんに空き缶の入った袋を渡します。
「おうっ。任せてくれよ。
みかんちゃん、またな。リリーちゃんも元気で!」
カンさんはそういって、ぱっと飛び立ちました。
そしてわたし達に翼を振って、飛んでいきます。
「カンさん、ありがとう!またねー」
わたし達はそう見送ります。
それからリリーちゃんに向き直っていいます。
「さあ、わたしの家に行こう」
カバンを背負って、ほうきを小脇に抱えます。
そしてリリーちゃんとお家に向かいました。