5年生5月編
4-みかんちゃんと動物達
今朝麻緒ちゃんが元気よく教室に入ってきて、いいニュースを教えてくれました。
「みんなー。ポスの赤ちゃん、産まれたよー」
そう聞くと、みんなわくわくして麻緒ちゃんにいいました。
「よかったね!」
「ポスや赤ちゃん、元気?」
元気にいう美穂ちゃん、彩ちゃんに続いて、修くんも聞きました。
「何匹産まれたの?」
麻緒ちゃんは本当にうれしそうな顔で、まとめて答えてくれました。
「3匹だよ。ポスも子犬も元気!
ポスの子犬達とってもかわいいし、ポスも優しいの」
うわあ。とうとう産まれたんだね。
わたしもそう聞いてうれしいです。
ポスちゃんは麻緒ちゃん家にいる犬でね、もう1匹いるバルくんと結婚してるんだって。
そしてその2匹の子ども達が昨日産まれたんだよ。
赤ちゃんがポスちゃんのお腹にいる時から、麻緒ちゃんはわたし達みんなに話してくれていました。
最近はもうすぐ産まれそうって、毎日そのお話をしていたんだよ。
わたしはポスちゃん、バルくんともお友達。
前に麻緒ちゃんのお家に行った時に、仲良くなりました。
2匹ともしっかりしていて、優しいんだよ。
「ねえねえ、その子犬達を見に行ってもいい?」
柾紀くんが聞くと、麻緒ちゃんは少し考えてから誘ってくれました。
「今はポスが疲れているからだめだけど、元気になったら見に来て!
その頃は子犬達、もっとかわいくなってるよ」
その言葉にわたし達みんなでうなずきます。
「うん」
ポスちゃんの子犬達に会えるのが楽しみです。
その日学校にいる間ずっと、麻緒ちゃん家の子犬達のことを考えていました。
「バイバーイ」
「みかんちゃん、また明日ね」
放課後クラスのみんなに手を振って教室を出てから、わたしは小さなため息をつきます。
「いいなー。わたしの家にも動物がいたらいいのに」
わたしの家は動物がいないので、いるお友達がとってもうらやましいです。
そうだめなのは、家やお母さんのせいじゃないんだよ。
わたしの家は一戸建てだし、お母さんも動物が大好きです。
それはきまりで、魔法使いは動物達の自由を縛ってはいけないって、飼うことを禁止されているからです。
前に子猫を拾って家に連れていった時に、そうお母さんに教えてもらいました。
わたし達魔法使いは普通の人よりずっと長生きだからということも関係しているそうです。
魔法使いは特別な力がある分、いろいろなきまりがあるんだよ。
でもそのかわり、いろんな動物達とお話ができる力をもらっています。
種族に関係なく、みんな仲良くしていけるようにって、神様が決めたそうです。どの生き物もみんな神様の子ども達で、大事な存在だもんね。
その生き物みんなとお話ができる力のおかげで、わたしもたくさんのお友達がいます。
そんな力をくれた神様にとっても感謝しています。
でもわたしもみんなみたいに、いつも一緒にいてくれる友達がほしいなっても思ってしまうのです。でも、できないことを考えていてもしょうがないよね。
わたしは気を取り直しました。
今日は鳥さん達とお話をしながら帰ろう!
校門を出ると、わたしは早速ペンダントを外して呪文を唱えました。
「ミラクル・テイク・シー」
するとペンダントがカチューシャに変わります。
そのカチューシャを付けて、ほうきに乗りました。
これを付けていると、動物のお話が聞けるようになるんだよ。
ほうきに乗っている時は、鳥さんとよく話しています。
「こんにちはー」
わたしが声をかけると、お友達の鳥さんが来てくれたり、あいさつをしてくれます。
「あら、みかんちゃん」
「今日も元気ね」
お母さん鳥達が真っ先に声をかけてくれました。
ちなみにわたしは、今いるお母さん鳥達が赤ちゃんの時から知っています。
鳥さんって、すごく成長早いよね。
一緒に遊んでいた時もあったのに、今ではすっかり大人です。
今は5月の後半なので、ヒナちゃん達のお世話で忙しいらしいけど、楽しそう。
お母さん・お父さん鳥達と、ヒナちゃん達のことなどをいろいろと話しながら飛んでいました。
すると前から、陽気なカラスのカンさんが飛んできました。
「よっ!みかんちゃん。今日も景気がいいねえ」
カンさんは今年で3歳。
大人だけど、まだ結婚はしていないんだって。
鳥さんの中で1番元気で、時々会いにきてくれます。
そんなカンさんが、今日はお誘いに来ました。
「みかんちゃん、これからひまかい?
オレ、これから河原にプルトップ集めに行くんだけど、付き合ってくれないか?」
カンさんはカラスだけあって、光る物が大好きです。
特に缶に付いているプルトップをコレクションしていて、よく川に拾いに行っています。
わたしも時々一緒に行ってるよ。
「うん、いいよ」
わたしがそう返事をすると、カンさんはうれしそうです。
プルトップ集めはわりと早く終わるから、学校帰りでも大丈夫!
その川は帰り道ではないけれど、すぐ近くにあるんです。
「カンさん、相変わらず光る物集め好きね」
お母さん鳥がそういうと、カンさんは元気に返事をしました。
「ああ、いっぱい落ちているんだから、どんどん拾いに行かなくちゃな」
「じゃあ、行ってきまーす。また明日ね」
わたしは他の鳥さん達とさよならして、カンさんと一緒に河原に向かいました。
「あ!あった、あった」
カンさんが缶をみつけて、うれしそうにいいました。
わたしはその缶からプルトップを取って、カンさんの巾着に入れます。
カンさんが宝物をお家に持っていきやすいように、この袋はわたしがあげたんだよ。
だから桃色なのです。
家庭科の時間にお裁縫を習ったので、作ってみました。
習いたてだからあんまり上手じゃないけど、カンさんはこの巾着をとっても気に入ってくれています。
光る物集めをする時は、いつも首にさげて持ってきています。
そして缶はビニール袋に入れます。
わたしはプルトップ集めをする時に、空き缶などを拾っています。
お友達の魔法使いのタルトちゃんが、ごみを拾って町をきれいにしようと熱心なんです。
だからタルトちゃんが住んでいる隣の素雪市は、いつもきれいなんだよ。
それを見習って、わたしも機会がある時にはこうやってやっています。
前にカンさんと拾いにきたのは、3週間前くらいでした。
でもその間に、またこうやって空き缶が捨てられているんだよね。
タルトちゃんがいたら、おしおきのピコピコハンマーが出るところです。
町にごみを捨てたりする悪い人を注意する時に、タルトちゃんはいつもそうやっているんだよ。
そんなことを考えながら拾っていたら、空き缶はすぐになくなりました。
今日は全部で5本の缶をみつけたよ。
「結構いっぱいになったな」
カンさんは巾着の中を見てうれしそうです。
「みかんちゃん、付き合ってくれてありがとうな」
「コレクション増えてよかったね。また来ようね」
そう笑いあうわたしとカンさん。
その時、何か声が聞こえてきました。
小さな声だったので、さっきまではしゃいでいたわたし達には聞こえなかったみたいです。
「いたっ…、誰か来てーっ」
川の上を通っている橋の下辺りに生えている草むらから聞こえたようです。
「カンさん、声聞こえたよね」
確認すると、カンさんはうなずきました。
そこで草を分けて見てみると、いたのは白い猫さんでした。
さっきの声だったら女の子だね。
見ると右の前足を怪我していて、痛そうです。
わたしはその子に尋ねました。
「どうしたの?大丈夫?」
すると痛そうな顔をしながらも、説明してくれました。
「昨日の夜ここに落ちちゃったの。
その時に前足を痛めちゃって…」
ここは隣が道路なのですが、その道路と河原の高さが1番違う場所です。
ここから落ちたら怪我しちゃうね。
上の道路を改めて見て、わたしはそう納得しました。
カンさんは、その猫さんに聞きます。
「お嬢さん、飼い猫かい?
野生の猫なら、ぎりぎり着地できそうな高さだし」
その言葉に、猫さんはうなずきました。
わたしはそんな話を聞いて、これからどうしたらいいのか考え付きました。
「飼い主さんがいるなら、家に連れてってあげるよ。家はどこ?」
そうわたしが聞くと、さんはびっくりした顔でわたしを見ました。
「あなた、わたしの言葉がわかるんですか?」
あ、そっか。普通はお話できないもんね。
そこでわたしは、まだ自己紹介をしていなかったことに気が付きました。
「わたしは魔法使いなの。名前はみかんです」
そういうと、猫さんは意外な返事をしました。
「ああ。あなたがみかんちゃんですか。
友達から話を聞いてますよ。会えてうれしいです」
「え」
わたしが驚いていると、カンさんが教えてくれました。
「みかんちゃんは動物仲間でも有名なんだぜ。
こうやってオレ達みたいな友達がいっぱいいるだろ?
人間だけど仲間みたいでさ」
そういってもらえて、わたしはとってもうれしくなりました。
さっきのもやもやしていた気持ちがすっかりなくなったよ。
やっぱり友達になれるって最高だよね。
そして猫さんも自己紹介をしてくれます。
「私はリリーといいます」
それから困った顔をして、さっきの話に戻りました。
「今家には誰もいないんです。
家族みんなで、告(つぐる)さんのお父さんの家である、法事というのに行っています。
本当は私も一緒に出掛けたんだけど、途中ではぐれてしまって、家に戻るところだったんです。
響香ちゃん達、心配してるでしょうね」
そうリリーちゃんはため息をつきました。
迷子になっちゃって、怪我までしちゃうなんて大変だったね。
そうリリーちゃんがかわいそうな気持ちになってから、わたしはたずねました。
「そうなんだ。お家の人はどれくらいで帰ってくるの?」
「次の日曜日に帰ってくるはずです」
そう聞いてわたしは考えました。
今日は木曜日だから、あと3日もあります。
お家に連れてっても、怪我をしたまま1人で何日もいるのは辛いよね。
かといって、わたしもお母さんも、怪我を治す魔法は使えません。
それは状態魔法に入っている、とっても難しい魔法です。
状態魔法は2種類あります。
状態変化魔法はその物が普通に変わる範囲で変える魔法。
例えば水をお湯にしたりすることができます。
それから状態維持魔法。
普通なら溶けちゃう氷も、その魔法をかければずっと氷のままにしておけます。
怪我を治すというのは、怪我をしていない状態にするということで、この種類なんだって。
お母さんは状態魔法を使えるのですが、怪我を治す魔法は特別に勉強をしないと使えないそうです。
普通は覚えた種類の魔法は、自分の魔法の力の分だけ自由に使えるのですが、特別な勉強がいる魔法もあるんだって。
わたしはまだ夢魔法しか使えないし…。
すごく素敵な魔法だけど、1種類しか使えないと、叶えたいことがある時に、夢魔法に入るようにおきかえるのが大変かな。
そんなわけで、怪我を治してあげることはできません。
どうすればいいかな?
考えて考えて、わたしは名案を思い付きました。
「飼い主さんが帰ってくるまで、わたしの家に来ない?
手当てもできるし」
「え?いいんですか?」
わたしの提案に、リリーちゃんはびっくりした顔で聞きます。
「うん!」
わたしはしっかりうなずきました。
魔法使いは動物を飼っちゃいけないって、今までは家に連れて行ってもだめでした。
でも今回は、リリーちゃんの飼い主さんが帰ってくるまでの3日間だけだもんね。
大丈夫だと思います。お母さんもいいっていってくれるよね。
張り切るわたしに、リリーちゃんはほっとした顔でお礼をいいました。
「ありがとう。よろしくお願いします」
そう決まったら、リリーちゃんの怪我が痛まないように、気を使いながらだっこします。
そんなわたし達を見ていたカンさんが、思いがけないことをいいました。
「みかんちゃん、今日空き缶はオレがゴミ箱に入れてくるよ」
「え?どうして?」
わたしが聞くと、カンさんはしっかり説明してくれました。
「手当ては早い方がいいだろ。
空き缶だから、オレ1人で運べるよ」
そう気を使ってくれます。
それから決定的な1言をいわれてしまいました。
「それに…、そうやってリリーちゃんを持っていたらほうきで飛べないだろ。
みかんちゃん、手放しはできないし」
「あ、そっか」
わたしは納得しました。
リリーちゃんを抱っこしていたら、ほうきの柄を握れません。
わたしはまだ手放しでは飛べないんです。
かといって、怪我をしているリリーちゃんに、自分でつかまってもらうわけにもいかないしね。
こういう時、魔法の絨毯を使えたらいいのになあと思います。
ほうきは普通1人用の乗り物です。
他の人を乗せたい時は、その魔法の絨毯を使うんだよ。
わたしもほうきに乗れなかった時は、お母さんに絨毯に乗せてもらっていました。
あれならリリーちゃんも楽に乗れるはずです。
でもその魔法の絨毯を使うのはすごく難しくて、わたしはやったことさえありません。その前に、もっとほうきをうまく乗りこなせるように練習しないとね。
そういうわけで、これから歩いて帰らなくちゃいけません。
「歩いて帰るならなおさらさ」
カンさんの言葉に、わたしはうなずきます。
リリーちゃんの手当てを早くするなら、カンさんに頼んだ方がいいかな。
カンさんは公園のゴミ箱の場所を知っているし、大丈夫だよね。
わたしはそう考えて、カンさんにお願いすることにしました。
「じゃあ、カンさん。よろしくお願いします」
そうカンさんに空き缶の入った袋を渡します。
「おうっ。任せてくれよ。
みかんちゃん、またな。リリーちゃんも元気で!」
カンさんはそういって、ぱっと飛び立ちました。
そしてわたし達に翼を振って、飛んでいきます。
「カンさん、ありがとう!またねー」
わたし達はそう見送ります。
それからリリーちゃんに向き直っていいます。
「さあ、わたしの家に行こう」
カバンを背負って、ほうきを小脇に抱えます。
そしてリリーちゃんとお家に向かいました。
5-リリーちゃんと一緒
20分くらいしてお家に到着!
晴れた日にゆっくり歩いて帰ったのは久しぶりです。
傘を差してほうきには乗れないから、雨の日は歩いて学校に行ってるんだよ。
「ただいま!お母さん」
「お帰り、あら?」
リリーちゃんを持って家へ入ると、お母さんはそうびっくりした顔をしました。
誤解されないように、わたしは急いで説明します。
「お母さん、このリリーちゃん怪我をしてるの。
ちゃんと他の家の子なんだけど、今お家の人は留守なんだって。
それでお家の人が帰ってくるまでの3日の間だけ、家にいてもいい?」
そういうと、お母さんはすっかりわかってくれたみたいです。
リリーちゃんに手を差し出していいました。
「怪我をしてるの?
みかん、その子をこっちに貸して」
わたしがそっと渡すと、お母さんはリビングへと運びました。
わたしも玄関から上がって、付いていきます。
「まずは消毒をして…」
そうお母さんは薬箱から色々取り出します。
そして手際良く手当てをしてくれます。その様子を見て、わたしは改めて感心しちゃいます。
お母さんって、やっぱりすごい!
何でも上手なんだもん。
わたしもがんばって出来るようになろうって思います。
お母さんは最後に包帯を巻きました。
そうすっかり終わると、リリーちゃんは安心した顔になりました。
そしてお母さんにお礼をいいます。
「ありがとうございました」
そしてわたしにも向き直っていってくれます。
「みかんちゃんも、連れてきてくれてありがとう」
そんなリリーちゃんの様子を見て、わたしも安心しました。
お母さんは、そんなリリーちゃんをみてうなずきます。
「私も言葉がわからないとね」
そうペンダントを外して呪文を唱えます。
「マジカル・テイク・シー」
すると呪文の通りにカチューシャに変わります。
聞いた通り、わたしとお母さんの呪文はほとんど同じです。
わたしの『ミラクル』の部分が『マジカル』に変わるだけだよ。
お揃いみたいで嬉しいです。
お母さんはカチューシャをして、さっきの話の続きを始めました。
「そうね。怪我のこともあるし、少しの間なら神様も気にしないと思うわ。
いつ家の人は帰ってくるのかしら?」
お母さんが聞き直すと、リリーちゃんはわたしに教えてくれたように、もう1度しっかり答えます。
「今度の日曜日です」
その答えにお母さんはうなずいて、もう1つたずねました。
「家の人の名前とか、場所なんてわかる?」
「はい。桃山町1丁目の時鳴さん家です」
すぐ答えられたリリーちゃんに、わたしは感心しました。
町の名前とかって人が付けたものだから、他の生き物はあんまり知らないものだと思っていました。
もしかしたら他の動物も知っているのかな?
ちなみに空を飛ぶ鳥さん達は、知らないみたいです。
「わかったわ。そこなら遠くないから、すぐに送っていけるわね」
場所がはっきりわかったので、お母さんは安心した顔になりました。
桃山町はわたしの家から見ると、色瀬川を越えた向こうにある、リサイクルセンターの辺りです。
確かセンターは3丁目だったかな。
ちなみにわたしの家のあるここは、芽吹町っていうんだよ。
「じゃあリリーちゃん、少しの間だけど家族の一員ね。
怪我が治るように、ゆっくり休んでて。
お家の人が帰ってきたようだったら、送ってあげるわね」
そうお母さんに優しくいわれて、リリーちゃんは本当にうれしそうな顔でお礼をいいました。
「はい。本当にありがとうございます」
そんな2人を見ていて、わたしも笑顔になりました。
「よかったね、リリーちゃん。しばらく一緒にいられるね」
わたしはそういってから、すごいことに気が付きました。
あ!さっき考えていたお願いが叶っちゃった!
猫さんが3日も家にいるんだもんね。
絶対無理なことってあきらめていたから、叶うなんて本当に夢みたいです。
「今わたしの家にね、白猫のリリーちゃんがいるの。
これから2日も家にいるんだよ」
リリーちゃんが家に来た次の日、わたしはうきうきしてクラスのみんなにお話します。
「預かっている猫なの?」
美穂ちゃんがそう聞いたので、わたしは首を振りました。
「ううん。昨日色瀬川で、怪我していたのを見つけたの。
家の人は今お出掛けしてるから、その間わたしの家にいることになったんだよ」
そう説明すると、みんなは心配そうな顔をしました。
「そうなんだ。その猫、大変だな」
温広くんがそういった後、龍太郎くんが聞きました。
「飼い主はわかってるのか?」
「うん。桃山町の時鳴さんだって」
そう答えると、港くんが驚きました。
「時鳴さん!?ぼく知ってるよ。近所だから。
じゃああの猫が…」
そうもっと心配そうな顔になります。
時鳴さん家の前を通ると、リリーちゃんと低学年の女の子が庭で楽しそうに遊んでいるのを、よく見かけるそうです。
「でもみかんちゃん、よかったね。
家に動物がいたらいいなって、ずっといってたもんね。
短くても、そのお願いが叶ったんだから」
優香里ちゃんが、そう雰囲気を明るく変えました。
わたしは正直な気持ちを答えます。
「うん。そうなの。
本当は喜んでちゃいけないのかもしれないけど、わたしはリリーちゃんが来てくれて、とってもうれしいんだ」
「そうだね」
そうみんなも一緒に喜んでくれました。
リリーちゃんは怪我をしているから、しばらく動いちゃいけなかったので、いろいろお話をしていました。
家にいる時は、ずっとカチューシャを使っています。
そうそう、変化させたアイテムをペンダントに戻す方法はね、そのアイテムを首の後ろに回すと、自然に戻るのです。
ペンダントはいろいろなアイテムに変えられるから、それぞれの呪文を唱えないといけません。
でもステッキなど変化したアイテムは、他のアイテムには変えられないので、呪文なしで戻るそうです。
お母さんもステッキを使う時以外は、カチューシャにしています。
リリーちゃんとお話しているみたいだよ。
リリーちゃんがいると、学校から帰ってくるのがとっても楽しみです。
わたしは早速港くんのことを聞いてみました。
「わたしのクラスにね、リリーちゃんを知っている子がいたよ。
港くんっていうんだけど、知ってる?
リリーちゃん家のご近所に住んでいて、よく家の前を通るんだって」
するとリリーちゃんはすぐにうなずきました。
「知ってます。
告さんがよく朝に会うそうです。
とてもいい子だっていってましたよ」
港くんは、ご近所でもほめられているんだね。
そうリリーちゃんがいってたよって港くんにいったら、照れながらもうれしそうでした。
リリーちゃんとのお話は、わたしからは学校のこと、リリーちゃんからは家の人のことが多いです。
本当に家の人が大好きなんだって。
「私、あの家に来れて、とっても幸せなんです。
みんな優しくて、ほっとのびのびしていられます」
そう落ち着いた笑顔でいっていました。
お父さんの告さんに、お母さんの晴香さん、それから2年生の響香ちゃんの3人家族だそうです。
港くんがいっていたのは、その響香ちゃんのことだね。
リリーちゃんが家に帰ったら、たまに会いに行きたいなと思っています。
響香ちゃんともお友達になれるといいな。
「響香ちゃんって、どんな子なの?」
聞いたら、リリーちゃんはうれしそうに答えてくれました。
「とっても優しくて、しっかりしているんですよ」
お話を聞いていると、とってもいい子みたいで、会うのが楽しみです。
わたしは学校で習ったおもしろい話や、友達の話などをしました。
お勉強の話では、リリーちゃんは特に理科で習ったことに興味しんしんでした。
リリーちゃんにも身近なお話だもんね。
そうそう、わたしが学校のことを話すとね、
「響香ちゃんからも聞いたことがあります」
よくそういっていました。
本当にとっても仲良しなんだね。
図書室から借りてきた本も一緒に読みました。
本って読んでいると、わたし達も一緒にその世界に行って体験した気分になれるよね。
だから今動けないリリーちゃんも、退屈しないんじゃないかなって思ったんです。
リリーちゃんは猫なので、猫さんが活躍する本を選びました。
選ぶ時に、よく本を読んでいる秋子ちゃんにお勧めを教えてもらったよ。
わたしが聞いてみると、秋子ちゃんはとっても乗り気になってくれました。
「みかんちゃん、本を読んであげるんだ。
うん、それとってもいいよ。
おとなしくしてなきゃいけないんだったら、本は最高に楽しいから」
そう図書室に一緒に来てくれました。
「猫が活躍する本だね。おもしろいのたくさんあるよ。
リリーちゃんと一緒に読むなら、挿し絵がたくさんあった方がいいよね。
それとちゃんと読み終わりそうと考えると、この辺りがいいんじゃないかな」
そう熱心に選んでくれました。
わたしは本のことをよく知らなかったので、とってもありがたかったです。
「秋子ちゃん、ありがとう。リリーちゃんもきっと喜ぶよ」
わたしはそう感謝しました。
すると秋子ちゃんは親切にいってくれました。
「また本を探したい時は、いつでも聞いてね」
そんな秋子ちゃんは、今長編物語に挑戦中なんだって。
秋子ちゃんがおすすめしてくれた本は、やっぱりとってもおもしろかったです。
わたしが読んであげると、リリーちゃんもわくわくして聞いていたよ。
カンさんもリリーちゃんの様子を見に、何度か家に来てくれました。
「リリーちゃん、怪我の調子はどうだい?」
「カンさん!」
カンさんが訪ねてきてくれると、リリーちゃんはとってもうれしそうでした。
カンさんの宝物を持ってきて、見せてくれたりもしたよ。
リリーちゃんも楽しそうに見ていました。
他にもリリーちゃんのことを聞いて、わたしに伝言を頼む猫さんもいました。
「リリーちゃん、今みかんちゃん家にいるんだって?
お大事にって伝えてね」
「うん。伝えておくね」
その猫さんの名前を聞いて、ちゃんとリリーちゃんに伝えました。
それから魔法のこともちょっと話しました。
「魔法って、どんな力なんですか?」
リリーちゃんもやっぱり興味があったみたいです。
「神様からもらった、普通の人にはできないいろいろなことができる力なんだよ」
そう簡単に説明した後、実際にリリーちゃんにおひろめすることにしました。
わたしやお母さんが簡単な魔法を見せると、リリーちゃんは目を丸くしながらも喜んでいました。
お母さんは移動魔法で、リリーちゃんをリビングのあちこちに移動させました。
「じゃあリリーちゃん、今からいろいろなところに行くわよ」
そうお母さんは、リリーちゃんにステッキを向けていいました。
そしてお母さんが「はいっ!」とステッキを振るたびに、リリーちゃんは移動します。
食堂のイスやソファーの上、机の下などに次々と現れては消えました。
リリーちゃんには、目の前の景色がくるくる変わるように見えるんだろうね。
「え?え?」
そう戸惑っていましたが、喜んでいるみたいでした。
「じゃあわたしは、クッションの絵のにんじんを出すね!」
そうわたしがステッキを振ると、クッションの絵とそっくりなにんじんが現れました。
毎日使っているものだから、イメージはバッチリだよ。
普通は見られないかわいいにんじんです。
「わあ。すごい」
リリーちゃんはそう感心してくれました。
そんなふうにリリーちゃんと過ごせて、とってもうれしかったです。
毎日家に帰って、リリーちゃんとお話したり、遊んだりするのが楽しみでした。
お母さんもそうだったみたいです。
いつもよりもっと笑顔だったよ。
そしてリリーちゃんが家に来て4日目。
「ほとんど治っているわね」
リリーちゃんの包帯を取って、お母さんがいいました。
まだ傷は見えるけれど、もう普通に動いても大丈夫なくらいになっています。
「リリーちゃん、よかったね」
わたしもそういって、3人とも笑顔になりました。
浅い怪我でよかったよね。
こうやって怪我が治るのもね、神様が全ての生き物にくれた、元通りになる魔法のおかげなんだよ。
動物だけじゃなくて、水や空気もその力を持っています。
その魔法は弱くかけられているので、ひどいと治らないけれど、それでもすごい力だよね。
つまり全ての生き物は、自分では使えなくても、魔法を持っているんだよ。
今日リリーちゃんがお家に帰ります。
お母さんの水晶玉占いによると、時鳴さん家は今日帰ってくるそうです。
リリーちゃんがいっていた通りだね。
そこで午前中は、公園でちょっと遊ぶことにしました。
今日がお休みでよかったです。
家の近くの公園に3人で行きました。
また走れるようになって、リリーちゃんはうれしそうです。
わたしとリリーちゃんは追いかけっこをしたり、競争をしてみたり、思う存分遊びました。
わたしもこんなに走ったのは久しぶりだよ。
しばらくはリリーちゃんが帰っちゃうってことも忘れて、さわやかな気分です。
お母さんも時々参加しましたが、走るのは1番早いんだよ。
そんなふうにお昼頃まで遊んで、楽しかったです。
6-みかんちゃんのテトリちゃん
そして午後、リリーちゃんが時鳴さん家に帰る時がやってきました。
家の前でリリーちゃんは、とっても礼儀正しくわたし達にあいさつをしました。
「今まで本当にありがとうございました。
おかげで怪我も良くなったし、みかんちゃんやいちごさんと過ごせてうれしかったです。
私の家にもぜひ遊びに来てくださいね」
そう笑っていうリリーちゃんを、わたしは寂しい気分でみつめます。
「リリーちゃん…」
そんな言葉を聞くと、リリーちゃんが帰るのを実感して悲しくなるよ。
今まで一緒にいて毎日楽しかったのに、いなくなっちゃったら寂しいです。
わたしとは違って、お母さんも笑って答えました。
「私もとっても楽しかったわ。
またリリーちゃんに会えるのを楽しみにしているわね」
そしてリリーちゃんに両手を差し出します。
「さあ、行きましょう!」
リリーちゃんがその手に飛び乗ると、お母さんはほうきにまたがりました。
わたしも乗ったのを確認して、お母さんと一緒に飛び立ちます。
ほうきに乗るのは初めてのリリーちゃんは、落ちないように気を付けながらも、下を見てうれしそうです。
わたし達は今、4階くらいの高さを飛んでいます。
「わあっ。こんなに高いところは初めてです」
そうリリーちゃんがいっているように、これくらい高く飛ぶことって、わたしもそんなにないです。
そんなわたし達のところに、いつもの鳥さん達がやってきました。
真っ先に来たのはカンさん。
「よっ。いちごちゃん、みかんちゃん、リリーちゃん。
とうとう今日帰るんだな」
そうカンさんはわたし達の隣を飛びます。
カンさんは、お母さんとも仲がいいんだよ。
「そうなんです。カンさんも、いろいろありがとうございました」
リリーちゃんは、そうすがすがしい顔で答えます。
そして今年1番のたくさんの小鳥さん達。
もう5月も終わりに近い今日なので、ヒナちゃん達も飛べるようになって、一緒に来てくれたみたいです。
ヒナちゃん達は一緒懸命羽を動かしながらも、わたし達に元気に話しかけてきました。
「こんにちは。ぼくボルンだよ。よろしくね」
「元気になって、おめでとう」
そう小さくて、とっても可愛いヒナちゃん達です。
覚えた言葉を一緒懸命いってくれています。
そんなヒナちゃん達を見て、お母さん鳥達はうれしそうにいいました。
「せっかくお見送りするなら、人数が多い方がいいかなって連れてきちゃったの。
うちの子達どう?やっと飛び方を覚えたのよ」
「うん。とってもかわいいね」
わたしもお母さんも、にっこり笑ってうなずきました。
リリーちゃんは、こんなにたくさんのみんなに送ってもらって驚いていたけど、うれしそうです。
そうたくさんの鳥さん達と一緒に、リリーちゃんの家に向かいました。
やっぱり寂しいけれど、鳥さん達のおかげで大分明るい気持ちで行くことができたよ。
リリーちゃんの家が見えてきました。
時鳴さんはもう帰ってきていて、リリーちゃんを探しているようでした。
リリーちゃんを呼ぶ声が聞こえてきます。
リリーちゃんはここにいるよって、早く教えてあげなくちゃね。
心配しているお家の人の声を聞くと、わたしはやっぱりそう思いました。
わたし達は早めに地面に降ります。
そして鳥さん達はにぎやかに帰っていきました。
お母さんはリリーちゃんをわたしに渡してくれました。
そう3人で時鳴さん家に行きます。
門から見ると、広い庭に1人女の子がいて、リリーちゃんの名前を呼んでいました。
そしてすぐにわたし達を見つけて、駆けよってきました。
響香ちゃんかな?
リリーちゃんがとってもうれしそうなので、そうみたいです。
「リリーちゃん!よかった。心配してたんだよ。
おじいちゃん家にいても、ずっとリリーちゃんのことを考えてたんだから」
そう響香ちゃんは、リリーちゃんを見てほっとしたみたいです。
そうだよね。一緒に出掛けたリリーちゃんが迷子になっちゃって、何日も会えなかったんだもん。
最初に怪我はしちゃったけど、その後は無事にしていたから安心してね。
そう思いながら、わたしはまず謝りました。
「心配かけてごめんね。
リリーちゃんが怪我をしていたから、帰ってくるまで預かってました」
そういったら、響香ちゃんは驚きました。
「えっ!?リリーちゃん、怪我してたの?」
そしてリリーちゃんを抱き上げて、調べ始めました。
「あ、大丈夫。もうほとんど治ったよ」
わたしがそういった後、響香ちゃんは前足の傷跡を見つけました。
「本当だ。戻ってくる途中に怪我しちゃったの?
リリーちゃん、外では気を付けなくちゃだめだよ」
そうまじめな顔でいう響香ちゃん。
「ごめんなさい」
リリーちゃんはシュンとして謝りました。
響香ちゃんにその言葉はわからないけれど、リリーちゃんの気持ちは伝わったみたいです。
それから響香ちゃんはわたし達に向かって、元気に笑ってお礼をいいました。
「リリーちゃんをありがとうございました。
わたしは響香といいます」
やっぱり響香ちゃんだったんだね。
リリーちゃんのいっていた通り、本当にしっかりしてみえます。
わたしより3歳も下とは思えないくらいだよね。
今回はリリーちゃんや響香ちゃんとお友達になれて、とってもよかったです。
でもリリーちゃんがいなくなった家に帰ると、ほっと気が抜けました。
そうなんとなく寂しくなっているわたしに、お母さんがたずねました。
「みかん、元気ないわね。やっぱり家に動物がいてほしい?」
「うん」
お母さんに無理なことはいえないけど、正直な気持ちなのでわたしはうなずきました。
「そう。わかったわ」
そうお母さんがうなずいた意味を、その時のわたしはわかっていませんでした。
次の日わたしは学校で、昨日のことをうれしい気持ちで話しました。
港くんはわたしの話を聞いて、安心したようでした。
本当にリリーちゃんのことを心配していたんだね。
やっぱり港くんは、時鳴さんやリリーちゃんがいっていた通りの子です。
「お茶会にも招待してもらえたんだよ」
最後にそういうと、みんなはにっこり笑って答えてくれました。
「よかったね。時鳴さん一家と仲良くなれて」
「うん!」
美穂ちゃんの言葉に、わたしは元気にうなずきました。
そんなわたしに、高志くんがいいました。
「みかん、思ってたよりもずっと元気だな」
その言葉に、わたしは明るく答えます。
「うん。だってもう会えないわけじゃないもんね。
近くに住んでいるんだから、会いたくなったら、すぐに会いに行けるもん」
昨日は急に静かになっちゃったから寂しい感じがしたけど、もうわたしは元気です。
だって美穂ちゃんがいったように、リリーちゃんや時鳴さん一家と仲良くなれたことがうれしいから。
そう前向きに考えられたわたしに、みゆきちゃんがこういってくれました。
「みかんちゃんって、本当に友達たくさんだよね。
魔法の力のおかげもあるのかもしれないけど、やっぱりみかんちゃんの人柄がいいからだよね」
そうほめてもらえて、わたしはとっても幸せな気持ちになりました。
これからもそう思ってもらえる子でいたいです。
その頃お母さんは、デパートの中の大きなぬいぐるみ売り場にいました。
ぬいぐるみを1つ1つよく見ています。
そして首に赤いリボンを巻いて鈴を付けた、かわいい黒猫さんを手に取りました。
お母さんはそのぬいぐるみを見て微笑むのでした。
「ただいまーっ」
わたしが元気に学校から帰ると、玄関に黒い猫さんがいました。
「お帰りなさい、みかんちゃん。
はじめまして、テトリです」
笑顔で、そう丁寧にあいさつをしてくれます。
声から女の子みたいです。
テトリちゃんっていうんだ。
家にいたし、わたしの名前はお母さんから聞いたんだね。
「こんにちは、テトリちゃん。はじめまして」
わたしも笑ってそうあいさつを返します。
でもすぐに不思議なことに気が付きました。
あれ?何で言葉がわかるのかな?
今はペンダントのままだから、わからないはずです。
そしてよくよく見てみると、そのテトリちゃんは普通の猫さんじゃありません。
大きな瞳や毛の感じといい、ぬいぐるみみたいです。
でもおもちゃみたいじゃなくて、動きは普通の猫さんです。
そのテトリちゃんがわたしに向かってジャンプしてきました。
わたしは思わずだっこします。
不思議だけど、とってもかわいいです。
その黒猫さんは首に赤いリボンを巻いて、鈴を付けています。
テトリちゃんが動くと、その鈴がチリンチリン鳴ります。
そこにお母さんが来ました。
「ご主人様!」
テトリちゃんは振り向いてうれしそうにいいます。
やっぱりお母さんの知り合いなんだよね?
そう考えているわたしに、お母さんはいいました。
「どう?その子は。
今日から家族の仲間入りをするテトリよ」
「え?」
家族の仲間入りって、今日から一緒に住むってこと?
でも動物と暮らすのは、禁止だったんじゃなかったのかな?
その話にわたしがびっくりしていると、お母さんが説明してくれました。
「魔法使いは他の生き物を飼ってはいけないっていう、きまりがあるわね」
わたしはその言葉にうなずきます。
他のお友達みたいに家に動物がほしいって初めていった時に聞きました。
その後も何度か詳しく教えてもらっています。
だからわたしは今まであきらめていたのです。
それからお母さんは、わたしが初めて聞く話をしてくれました。
「でも魔法使いの親はね、1つだけ物に命を吹き込んで、子どもに贈ることができるの。
それがその子の一生のパートナーになるのよ」
そんなすごい魔法があるんだあ。
そう感動してから、話の流れから考えます。
「それって、テトリちゃんはお母さんが創ったっていうこと?」
だから普通の猫さんと違っているし、お母さんのことをご主人様って呼んでいるんだね。
そう感心しながらも、話をよくはわかっていないわたしに、お母さんがはっきりいいました。
「そうよ。このテトリがみかんのパートナー。
これからずっとみかんの側にいるの」
「みかんちゃん、これからよろしくお願いします」
そのお母さんとテトリちゃんの言葉で、わたしはやっとわかりました。
うれし涙が出てきます。
これからずっと、こんなかわいいテトリちゃんと一緒にいられるんだね。
リリーちゃんが来た時もとってもうれしかったけど、テトリちゃんは本当にわたしの家族になるので、もっともっとうれしいです。
わたしはすぐに涙をふいて、テトリちゃんににっこり笑っていいました。
「こちらこそ!よろしくね」
お母さんはそんなわたし達を見て、にこにこ笑っています。
お母さん、本当にありがとう!
わたし、とってもうれしいよ。
こうして、今日からわたしの家は3人家族になりました。
2001~02年制作
今朝麻緒ちゃんが元気よく教室に入ってきて、いいニュースを教えてくれました。
「みんなー。ポスの赤ちゃん、産まれたよー」
そう聞くと、みんなわくわくして麻緒ちゃんにいいました。
「よかったね!」
「ポスや赤ちゃん、元気?」
元気にいう美穂ちゃん、彩ちゃんに続いて、修くんも聞きました。
「何匹産まれたの?」
麻緒ちゃんは本当にうれしそうな顔で、まとめて答えてくれました。
「3匹だよ。ポスも子犬も元気!
ポスの子犬達とってもかわいいし、ポスも優しいの」
うわあ。とうとう産まれたんだね。
わたしもそう聞いてうれしいです。
ポスちゃんは麻緒ちゃん家にいる犬でね、もう1匹いるバルくんと結婚してるんだって。
そしてその2匹の子ども達が昨日産まれたんだよ。
赤ちゃんがポスちゃんのお腹にいる時から、麻緒ちゃんはわたし達みんなに話してくれていました。
最近はもうすぐ産まれそうって、毎日そのお話をしていたんだよ。
わたしはポスちゃん、バルくんともお友達。
前に麻緒ちゃんのお家に行った時に、仲良くなりました。
2匹ともしっかりしていて、優しいんだよ。
「ねえねえ、その子犬達を見に行ってもいい?」
柾紀くんが聞くと、麻緒ちゃんは少し考えてから誘ってくれました。
「今はポスが疲れているからだめだけど、元気になったら見に来て!
その頃は子犬達、もっとかわいくなってるよ」
その言葉にわたし達みんなでうなずきます。
「うん」
ポスちゃんの子犬達に会えるのが楽しみです。
その日学校にいる間ずっと、麻緒ちゃん家の子犬達のことを考えていました。
「バイバーイ」
「みかんちゃん、また明日ね」
放課後クラスのみんなに手を振って教室を出てから、わたしは小さなため息をつきます。
「いいなー。わたしの家にも動物がいたらいいのに」
わたしの家は動物がいないので、いるお友達がとってもうらやましいです。
そうだめなのは、家やお母さんのせいじゃないんだよ。
わたしの家は一戸建てだし、お母さんも動物が大好きです。
それはきまりで、魔法使いは動物達の自由を縛ってはいけないって、飼うことを禁止されているからです。
前に子猫を拾って家に連れていった時に、そうお母さんに教えてもらいました。
わたし達魔法使いは普通の人よりずっと長生きだからということも関係しているそうです。
魔法使いは特別な力がある分、いろいろなきまりがあるんだよ。
でもそのかわり、いろんな動物達とお話ができる力をもらっています。
種族に関係なく、みんな仲良くしていけるようにって、神様が決めたそうです。どの生き物もみんな神様の子ども達で、大事な存在だもんね。
その生き物みんなとお話ができる力のおかげで、わたしもたくさんのお友達がいます。
そんな力をくれた神様にとっても感謝しています。
でもわたしもみんなみたいに、いつも一緒にいてくれる友達がほしいなっても思ってしまうのです。でも、できないことを考えていてもしょうがないよね。
わたしは気を取り直しました。
今日は鳥さん達とお話をしながら帰ろう!
校門を出ると、わたしは早速ペンダントを外して呪文を唱えました。
「ミラクル・テイク・シー」
するとペンダントがカチューシャに変わります。
そのカチューシャを付けて、ほうきに乗りました。
これを付けていると、動物のお話が聞けるようになるんだよ。
ほうきに乗っている時は、鳥さんとよく話しています。
「こんにちはー」
わたしが声をかけると、お友達の鳥さんが来てくれたり、あいさつをしてくれます。
「あら、みかんちゃん」
「今日も元気ね」
お母さん鳥達が真っ先に声をかけてくれました。
ちなみにわたしは、今いるお母さん鳥達が赤ちゃんの時から知っています。
鳥さんって、すごく成長早いよね。
一緒に遊んでいた時もあったのに、今ではすっかり大人です。
今は5月の後半なので、ヒナちゃん達のお世話で忙しいらしいけど、楽しそう。
お母さん・お父さん鳥達と、ヒナちゃん達のことなどをいろいろと話しながら飛んでいました。
すると前から、陽気なカラスのカンさんが飛んできました。
「よっ!みかんちゃん。今日も景気がいいねえ」
カンさんは今年で3歳。
大人だけど、まだ結婚はしていないんだって。
鳥さんの中で1番元気で、時々会いにきてくれます。
そんなカンさんが、今日はお誘いに来ました。
「みかんちゃん、これからひまかい?
オレ、これから河原にプルトップ集めに行くんだけど、付き合ってくれないか?」
カンさんはカラスだけあって、光る物が大好きです。
特に缶に付いているプルトップをコレクションしていて、よく川に拾いに行っています。
わたしも時々一緒に行ってるよ。
「うん、いいよ」
わたしがそう返事をすると、カンさんはうれしそうです。
プルトップ集めはわりと早く終わるから、学校帰りでも大丈夫!
その川は帰り道ではないけれど、すぐ近くにあるんです。
「カンさん、相変わらず光る物集め好きね」
お母さん鳥がそういうと、カンさんは元気に返事をしました。
「ああ、いっぱい落ちているんだから、どんどん拾いに行かなくちゃな」
「じゃあ、行ってきまーす。また明日ね」
わたしは他の鳥さん達とさよならして、カンさんと一緒に河原に向かいました。
「あ!あった、あった」
カンさんが缶をみつけて、うれしそうにいいました。
わたしはその缶からプルトップを取って、カンさんの巾着に入れます。
カンさんが宝物をお家に持っていきやすいように、この袋はわたしがあげたんだよ。
だから桃色なのです。
家庭科の時間にお裁縫を習ったので、作ってみました。
習いたてだからあんまり上手じゃないけど、カンさんはこの巾着をとっても気に入ってくれています。
光る物集めをする時は、いつも首にさげて持ってきています。
そして缶はビニール袋に入れます。
わたしはプルトップ集めをする時に、空き缶などを拾っています。
お友達の魔法使いのタルトちゃんが、ごみを拾って町をきれいにしようと熱心なんです。
だからタルトちゃんが住んでいる隣の素雪市は、いつもきれいなんだよ。
それを見習って、わたしも機会がある時にはこうやってやっています。
前にカンさんと拾いにきたのは、3週間前くらいでした。
でもその間に、またこうやって空き缶が捨てられているんだよね。
タルトちゃんがいたら、おしおきのピコピコハンマーが出るところです。
町にごみを捨てたりする悪い人を注意する時に、タルトちゃんはいつもそうやっているんだよ。
そんなことを考えながら拾っていたら、空き缶はすぐになくなりました。
今日は全部で5本の缶をみつけたよ。
「結構いっぱいになったな」
カンさんは巾着の中を見てうれしそうです。
「みかんちゃん、付き合ってくれてありがとうな」
「コレクション増えてよかったね。また来ようね」
そう笑いあうわたしとカンさん。
その時、何か声が聞こえてきました。
小さな声だったので、さっきまではしゃいでいたわたし達には聞こえなかったみたいです。
「いたっ…、誰か来てーっ」
川の上を通っている橋の下辺りに生えている草むらから聞こえたようです。
「カンさん、声聞こえたよね」
確認すると、カンさんはうなずきました。
そこで草を分けて見てみると、いたのは白い猫さんでした。
さっきの声だったら女の子だね。
見ると右の前足を怪我していて、痛そうです。
わたしはその子に尋ねました。
「どうしたの?大丈夫?」
すると痛そうな顔をしながらも、説明してくれました。
「昨日の夜ここに落ちちゃったの。
その時に前足を痛めちゃって…」
ここは隣が道路なのですが、その道路と河原の高さが1番違う場所です。
ここから落ちたら怪我しちゃうね。
上の道路を改めて見て、わたしはそう納得しました。
カンさんは、その猫さんに聞きます。
「お嬢さん、飼い猫かい?
野生の猫なら、ぎりぎり着地できそうな高さだし」
その言葉に、猫さんはうなずきました。
わたしはそんな話を聞いて、これからどうしたらいいのか考え付きました。
「飼い主さんがいるなら、家に連れてってあげるよ。家はどこ?」
そうわたしが聞くと、さんはびっくりした顔でわたしを見ました。
「あなた、わたしの言葉がわかるんですか?」
あ、そっか。普通はお話できないもんね。
そこでわたしは、まだ自己紹介をしていなかったことに気が付きました。
「わたしは魔法使いなの。名前はみかんです」
そういうと、猫さんは意外な返事をしました。
「ああ。あなたがみかんちゃんですか。
友達から話を聞いてますよ。会えてうれしいです」
「え」
わたしが驚いていると、カンさんが教えてくれました。
「みかんちゃんは動物仲間でも有名なんだぜ。
こうやってオレ達みたいな友達がいっぱいいるだろ?
人間だけど仲間みたいでさ」
そういってもらえて、わたしはとってもうれしくなりました。
さっきのもやもやしていた気持ちがすっかりなくなったよ。
やっぱり友達になれるって最高だよね。
そして猫さんも自己紹介をしてくれます。
「私はリリーといいます」
それから困った顔をして、さっきの話に戻りました。
「今家には誰もいないんです。
家族みんなで、告(つぐる)さんのお父さんの家である、法事というのに行っています。
本当は私も一緒に出掛けたんだけど、途中ではぐれてしまって、家に戻るところだったんです。
響香ちゃん達、心配してるでしょうね」
そうリリーちゃんはため息をつきました。
迷子になっちゃって、怪我までしちゃうなんて大変だったね。
そうリリーちゃんがかわいそうな気持ちになってから、わたしはたずねました。
「そうなんだ。お家の人はどれくらいで帰ってくるの?」
「次の日曜日に帰ってくるはずです」
そう聞いてわたしは考えました。
今日は木曜日だから、あと3日もあります。
お家に連れてっても、怪我をしたまま1人で何日もいるのは辛いよね。
かといって、わたしもお母さんも、怪我を治す魔法は使えません。
それは状態魔法に入っている、とっても難しい魔法です。
状態魔法は2種類あります。
状態変化魔法はその物が普通に変わる範囲で変える魔法。
例えば水をお湯にしたりすることができます。
それから状態維持魔法。
普通なら溶けちゃう氷も、その魔法をかければずっと氷のままにしておけます。
怪我を治すというのは、怪我をしていない状態にするということで、この種類なんだって。
お母さんは状態魔法を使えるのですが、怪我を治す魔法は特別に勉強をしないと使えないそうです。
普通は覚えた種類の魔法は、自分の魔法の力の分だけ自由に使えるのですが、特別な勉強がいる魔法もあるんだって。
わたしはまだ夢魔法しか使えないし…。
すごく素敵な魔法だけど、1種類しか使えないと、叶えたいことがある時に、夢魔法に入るようにおきかえるのが大変かな。
そんなわけで、怪我を治してあげることはできません。
どうすればいいかな?
考えて考えて、わたしは名案を思い付きました。
「飼い主さんが帰ってくるまで、わたしの家に来ない?
手当てもできるし」
「え?いいんですか?」
わたしの提案に、リリーちゃんはびっくりした顔で聞きます。
「うん!」
わたしはしっかりうなずきました。
魔法使いは動物を飼っちゃいけないって、今までは家に連れて行ってもだめでした。
でも今回は、リリーちゃんの飼い主さんが帰ってくるまでの3日間だけだもんね。
大丈夫だと思います。お母さんもいいっていってくれるよね。
張り切るわたしに、リリーちゃんはほっとした顔でお礼をいいました。
「ありがとう。よろしくお願いします」
そう決まったら、リリーちゃんの怪我が痛まないように、気を使いながらだっこします。
そんなわたし達を見ていたカンさんが、思いがけないことをいいました。
「みかんちゃん、今日空き缶はオレがゴミ箱に入れてくるよ」
「え?どうして?」
わたしが聞くと、カンさんはしっかり説明してくれました。
「手当ては早い方がいいだろ。
空き缶だから、オレ1人で運べるよ」
そう気を使ってくれます。
それから決定的な1言をいわれてしまいました。
「それに…、そうやってリリーちゃんを持っていたらほうきで飛べないだろ。
みかんちゃん、手放しはできないし」
「あ、そっか」
わたしは納得しました。
リリーちゃんを抱っこしていたら、ほうきの柄を握れません。
わたしはまだ手放しでは飛べないんです。
かといって、怪我をしているリリーちゃんに、自分でつかまってもらうわけにもいかないしね。
こういう時、魔法の絨毯を使えたらいいのになあと思います。
ほうきは普通1人用の乗り物です。
他の人を乗せたい時は、その魔法の絨毯を使うんだよ。
わたしもほうきに乗れなかった時は、お母さんに絨毯に乗せてもらっていました。
あれならリリーちゃんも楽に乗れるはずです。
でもその魔法の絨毯を使うのはすごく難しくて、わたしはやったことさえありません。その前に、もっとほうきをうまく乗りこなせるように練習しないとね。
そういうわけで、これから歩いて帰らなくちゃいけません。
「歩いて帰るならなおさらさ」
カンさんの言葉に、わたしはうなずきます。
リリーちゃんの手当てを早くするなら、カンさんに頼んだ方がいいかな。
カンさんは公園のゴミ箱の場所を知っているし、大丈夫だよね。
わたしはそう考えて、カンさんにお願いすることにしました。
「じゃあ、カンさん。よろしくお願いします」
そうカンさんに空き缶の入った袋を渡します。
「おうっ。任せてくれよ。
みかんちゃん、またな。リリーちゃんも元気で!」
カンさんはそういって、ぱっと飛び立ちました。
そしてわたし達に翼を振って、飛んでいきます。
「カンさん、ありがとう!またねー」
わたし達はそう見送ります。
それからリリーちゃんに向き直っていいます。
「さあ、わたしの家に行こう」
カバンを背負って、ほうきを小脇に抱えます。
そしてリリーちゃんとお家に向かいました。
5-リリーちゃんと一緒
20分くらいしてお家に到着!
晴れた日にゆっくり歩いて帰ったのは久しぶりです。
傘を差してほうきには乗れないから、雨の日は歩いて学校に行ってるんだよ。
「ただいま!お母さん」
「お帰り、あら?」
リリーちゃんを持って家へ入ると、お母さんはそうびっくりした顔をしました。
誤解されないように、わたしは急いで説明します。
「お母さん、このリリーちゃん怪我をしてるの。
ちゃんと他の家の子なんだけど、今お家の人は留守なんだって。
それでお家の人が帰ってくるまでの3日の間だけ、家にいてもいい?」
そういうと、お母さんはすっかりわかってくれたみたいです。
リリーちゃんに手を差し出していいました。
「怪我をしてるの?
みかん、その子をこっちに貸して」
わたしがそっと渡すと、お母さんはリビングへと運びました。
わたしも玄関から上がって、付いていきます。
「まずは消毒をして…」
そうお母さんは薬箱から色々取り出します。
そして手際良く手当てをしてくれます。その様子を見て、わたしは改めて感心しちゃいます。
お母さんって、やっぱりすごい!
何でも上手なんだもん。
わたしもがんばって出来るようになろうって思います。
お母さんは最後に包帯を巻きました。
そうすっかり終わると、リリーちゃんは安心した顔になりました。
そしてお母さんにお礼をいいます。
「ありがとうございました」
そしてわたしにも向き直っていってくれます。
「みかんちゃんも、連れてきてくれてありがとう」
そんなリリーちゃんの様子を見て、わたしも安心しました。
お母さんは、そんなリリーちゃんをみてうなずきます。
「私も言葉がわからないとね」
そうペンダントを外して呪文を唱えます。
「マジカル・テイク・シー」
すると呪文の通りにカチューシャに変わります。
聞いた通り、わたしとお母さんの呪文はほとんど同じです。
わたしの『ミラクル』の部分が『マジカル』に変わるだけだよ。
お揃いみたいで嬉しいです。
お母さんはカチューシャをして、さっきの話の続きを始めました。
「そうね。怪我のこともあるし、少しの間なら神様も気にしないと思うわ。
いつ家の人は帰ってくるのかしら?」
お母さんが聞き直すと、リリーちゃんはわたしに教えてくれたように、もう1度しっかり答えます。
「今度の日曜日です」
その答えにお母さんはうなずいて、もう1つたずねました。
「家の人の名前とか、場所なんてわかる?」
「はい。桃山町1丁目の時鳴さん家です」
すぐ答えられたリリーちゃんに、わたしは感心しました。
町の名前とかって人が付けたものだから、他の生き物はあんまり知らないものだと思っていました。
もしかしたら他の動物も知っているのかな?
ちなみに空を飛ぶ鳥さん達は、知らないみたいです。
「わかったわ。そこなら遠くないから、すぐに送っていけるわね」
場所がはっきりわかったので、お母さんは安心した顔になりました。
桃山町はわたしの家から見ると、色瀬川を越えた向こうにある、リサイクルセンターの辺りです。
確かセンターは3丁目だったかな。
ちなみにわたしの家のあるここは、芽吹町っていうんだよ。
「じゃあリリーちゃん、少しの間だけど家族の一員ね。
怪我が治るように、ゆっくり休んでて。
お家の人が帰ってきたようだったら、送ってあげるわね」
そうお母さんに優しくいわれて、リリーちゃんは本当にうれしそうな顔でお礼をいいました。
「はい。本当にありがとうございます」
そんな2人を見ていて、わたしも笑顔になりました。
「よかったね、リリーちゃん。しばらく一緒にいられるね」
わたしはそういってから、すごいことに気が付きました。
あ!さっき考えていたお願いが叶っちゃった!
猫さんが3日も家にいるんだもんね。
絶対無理なことってあきらめていたから、叶うなんて本当に夢みたいです。
「今わたしの家にね、白猫のリリーちゃんがいるの。
これから2日も家にいるんだよ」
リリーちゃんが家に来た次の日、わたしはうきうきしてクラスのみんなにお話します。
「預かっている猫なの?」
美穂ちゃんがそう聞いたので、わたしは首を振りました。
「ううん。昨日色瀬川で、怪我していたのを見つけたの。
家の人は今お出掛けしてるから、その間わたしの家にいることになったんだよ」
そう説明すると、みんなは心配そうな顔をしました。
「そうなんだ。その猫、大変だな」
温広くんがそういった後、龍太郎くんが聞きました。
「飼い主はわかってるのか?」
「うん。桃山町の時鳴さんだって」
そう答えると、港くんが驚きました。
「時鳴さん!?ぼく知ってるよ。近所だから。
じゃああの猫が…」
そうもっと心配そうな顔になります。
時鳴さん家の前を通ると、リリーちゃんと低学年の女の子が庭で楽しそうに遊んでいるのを、よく見かけるそうです。
「でもみかんちゃん、よかったね。
家に動物がいたらいいなって、ずっといってたもんね。
短くても、そのお願いが叶ったんだから」
優香里ちゃんが、そう雰囲気を明るく変えました。
わたしは正直な気持ちを答えます。
「うん。そうなの。
本当は喜んでちゃいけないのかもしれないけど、わたしはリリーちゃんが来てくれて、とってもうれしいんだ」
「そうだね」
そうみんなも一緒に喜んでくれました。
リリーちゃんは怪我をしているから、しばらく動いちゃいけなかったので、いろいろお話をしていました。
家にいる時は、ずっとカチューシャを使っています。
そうそう、変化させたアイテムをペンダントに戻す方法はね、そのアイテムを首の後ろに回すと、自然に戻るのです。
ペンダントはいろいろなアイテムに変えられるから、それぞれの呪文を唱えないといけません。
でもステッキなど変化したアイテムは、他のアイテムには変えられないので、呪文なしで戻るそうです。
お母さんもステッキを使う時以外は、カチューシャにしています。
リリーちゃんとお話しているみたいだよ。
リリーちゃんがいると、学校から帰ってくるのがとっても楽しみです。
わたしは早速港くんのことを聞いてみました。
「わたしのクラスにね、リリーちゃんを知っている子がいたよ。
港くんっていうんだけど、知ってる?
リリーちゃん家のご近所に住んでいて、よく家の前を通るんだって」
するとリリーちゃんはすぐにうなずきました。
「知ってます。
告さんがよく朝に会うそうです。
とてもいい子だっていってましたよ」
港くんは、ご近所でもほめられているんだね。
そうリリーちゃんがいってたよって港くんにいったら、照れながらもうれしそうでした。
リリーちゃんとのお話は、わたしからは学校のこと、リリーちゃんからは家の人のことが多いです。
本当に家の人が大好きなんだって。
「私、あの家に来れて、とっても幸せなんです。
みんな優しくて、ほっとのびのびしていられます」
そう落ち着いた笑顔でいっていました。
お父さんの告さんに、お母さんの晴香さん、それから2年生の響香ちゃんの3人家族だそうです。
港くんがいっていたのは、その響香ちゃんのことだね。
リリーちゃんが家に帰ったら、たまに会いに行きたいなと思っています。
響香ちゃんともお友達になれるといいな。
「響香ちゃんって、どんな子なの?」
聞いたら、リリーちゃんはうれしそうに答えてくれました。
「とっても優しくて、しっかりしているんですよ」
お話を聞いていると、とってもいい子みたいで、会うのが楽しみです。
わたしは学校で習ったおもしろい話や、友達の話などをしました。
お勉強の話では、リリーちゃんは特に理科で習ったことに興味しんしんでした。
リリーちゃんにも身近なお話だもんね。
そうそう、わたしが学校のことを話すとね、
「響香ちゃんからも聞いたことがあります」
よくそういっていました。
本当にとっても仲良しなんだね。
図書室から借りてきた本も一緒に読みました。
本って読んでいると、わたし達も一緒にその世界に行って体験した気分になれるよね。
だから今動けないリリーちゃんも、退屈しないんじゃないかなって思ったんです。
リリーちゃんは猫なので、猫さんが活躍する本を選びました。
選ぶ時に、よく本を読んでいる秋子ちゃんにお勧めを教えてもらったよ。
わたしが聞いてみると、秋子ちゃんはとっても乗り気になってくれました。
「みかんちゃん、本を読んであげるんだ。
うん、それとってもいいよ。
おとなしくしてなきゃいけないんだったら、本は最高に楽しいから」
そう図書室に一緒に来てくれました。
「猫が活躍する本だね。おもしろいのたくさんあるよ。
リリーちゃんと一緒に読むなら、挿し絵がたくさんあった方がいいよね。
それとちゃんと読み終わりそうと考えると、この辺りがいいんじゃないかな」
そう熱心に選んでくれました。
わたしは本のことをよく知らなかったので、とってもありがたかったです。
「秋子ちゃん、ありがとう。リリーちゃんもきっと喜ぶよ」
わたしはそう感謝しました。
すると秋子ちゃんは親切にいってくれました。
「また本を探したい時は、いつでも聞いてね」
そんな秋子ちゃんは、今長編物語に挑戦中なんだって。
秋子ちゃんがおすすめしてくれた本は、やっぱりとってもおもしろかったです。
わたしが読んであげると、リリーちゃんもわくわくして聞いていたよ。
カンさんもリリーちゃんの様子を見に、何度か家に来てくれました。
「リリーちゃん、怪我の調子はどうだい?」
「カンさん!」
カンさんが訪ねてきてくれると、リリーちゃんはとってもうれしそうでした。
カンさんの宝物を持ってきて、見せてくれたりもしたよ。
リリーちゃんも楽しそうに見ていました。
他にもリリーちゃんのことを聞いて、わたしに伝言を頼む猫さんもいました。
「リリーちゃん、今みかんちゃん家にいるんだって?
お大事にって伝えてね」
「うん。伝えておくね」
その猫さんの名前を聞いて、ちゃんとリリーちゃんに伝えました。
それから魔法のこともちょっと話しました。
「魔法って、どんな力なんですか?」
リリーちゃんもやっぱり興味があったみたいです。
「神様からもらった、普通の人にはできないいろいろなことができる力なんだよ」
そう簡単に説明した後、実際にリリーちゃんにおひろめすることにしました。
わたしやお母さんが簡単な魔法を見せると、リリーちゃんは目を丸くしながらも喜んでいました。
お母さんは移動魔法で、リリーちゃんをリビングのあちこちに移動させました。
「じゃあリリーちゃん、今からいろいろなところに行くわよ」
そうお母さんは、リリーちゃんにステッキを向けていいました。
そしてお母さんが「はいっ!」とステッキを振るたびに、リリーちゃんは移動します。
食堂のイスやソファーの上、机の下などに次々と現れては消えました。
リリーちゃんには、目の前の景色がくるくる変わるように見えるんだろうね。
「え?え?」
そう戸惑っていましたが、喜んでいるみたいでした。
「じゃあわたしは、クッションの絵のにんじんを出すね!」
そうわたしがステッキを振ると、クッションの絵とそっくりなにんじんが現れました。
毎日使っているものだから、イメージはバッチリだよ。
普通は見られないかわいいにんじんです。
「わあ。すごい」
リリーちゃんはそう感心してくれました。
そんなふうにリリーちゃんと過ごせて、とってもうれしかったです。
毎日家に帰って、リリーちゃんとお話したり、遊んだりするのが楽しみでした。
お母さんもそうだったみたいです。
いつもよりもっと笑顔だったよ。
そしてリリーちゃんが家に来て4日目。
「ほとんど治っているわね」
リリーちゃんの包帯を取って、お母さんがいいました。
まだ傷は見えるけれど、もう普通に動いても大丈夫なくらいになっています。
「リリーちゃん、よかったね」
わたしもそういって、3人とも笑顔になりました。
浅い怪我でよかったよね。
こうやって怪我が治るのもね、神様が全ての生き物にくれた、元通りになる魔法のおかげなんだよ。
動物だけじゃなくて、水や空気もその力を持っています。
その魔法は弱くかけられているので、ひどいと治らないけれど、それでもすごい力だよね。
つまり全ての生き物は、自分では使えなくても、魔法を持っているんだよ。
今日リリーちゃんがお家に帰ります。
お母さんの水晶玉占いによると、時鳴さん家は今日帰ってくるそうです。
リリーちゃんがいっていた通りだね。
そこで午前中は、公園でちょっと遊ぶことにしました。
今日がお休みでよかったです。
家の近くの公園に3人で行きました。
また走れるようになって、リリーちゃんはうれしそうです。
わたしとリリーちゃんは追いかけっこをしたり、競争をしてみたり、思う存分遊びました。
わたしもこんなに走ったのは久しぶりだよ。
しばらくはリリーちゃんが帰っちゃうってことも忘れて、さわやかな気分です。
お母さんも時々参加しましたが、走るのは1番早いんだよ。
そんなふうにお昼頃まで遊んで、楽しかったです。
6-みかんちゃんのテトリちゃん
そして午後、リリーちゃんが時鳴さん家に帰る時がやってきました。
家の前でリリーちゃんは、とっても礼儀正しくわたし達にあいさつをしました。
「今まで本当にありがとうございました。
おかげで怪我も良くなったし、みかんちゃんやいちごさんと過ごせてうれしかったです。
私の家にもぜひ遊びに来てくださいね」
そう笑っていうリリーちゃんを、わたしは寂しい気分でみつめます。
「リリーちゃん…」
そんな言葉を聞くと、リリーちゃんが帰るのを実感して悲しくなるよ。
今まで一緒にいて毎日楽しかったのに、いなくなっちゃったら寂しいです。
わたしとは違って、お母さんも笑って答えました。
「私もとっても楽しかったわ。
またリリーちゃんに会えるのを楽しみにしているわね」
そしてリリーちゃんに両手を差し出します。
「さあ、行きましょう!」
リリーちゃんがその手に飛び乗ると、お母さんはほうきにまたがりました。
わたしも乗ったのを確認して、お母さんと一緒に飛び立ちます。
ほうきに乗るのは初めてのリリーちゃんは、落ちないように気を付けながらも、下を見てうれしそうです。
わたし達は今、4階くらいの高さを飛んでいます。
「わあっ。こんなに高いところは初めてです」
そうリリーちゃんがいっているように、これくらい高く飛ぶことって、わたしもそんなにないです。
そんなわたし達のところに、いつもの鳥さん達がやってきました。
真っ先に来たのはカンさん。
「よっ。いちごちゃん、みかんちゃん、リリーちゃん。
とうとう今日帰るんだな」
そうカンさんはわたし達の隣を飛びます。
カンさんは、お母さんとも仲がいいんだよ。
「そうなんです。カンさんも、いろいろありがとうございました」
リリーちゃんは、そうすがすがしい顔で答えます。
そして今年1番のたくさんの小鳥さん達。
もう5月も終わりに近い今日なので、ヒナちゃん達も飛べるようになって、一緒に来てくれたみたいです。
ヒナちゃん達は一緒懸命羽を動かしながらも、わたし達に元気に話しかけてきました。
「こんにちは。ぼくボルンだよ。よろしくね」
「元気になって、おめでとう」
そう小さくて、とっても可愛いヒナちゃん達です。
覚えた言葉を一緒懸命いってくれています。
そんなヒナちゃん達を見て、お母さん鳥達はうれしそうにいいました。
「せっかくお見送りするなら、人数が多い方がいいかなって連れてきちゃったの。
うちの子達どう?やっと飛び方を覚えたのよ」
「うん。とってもかわいいね」
わたしもお母さんも、にっこり笑ってうなずきました。
リリーちゃんは、こんなにたくさんのみんなに送ってもらって驚いていたけど、うれしそうです。
そうたくさんの鳥さん達と一緒に、リリーちゃんの家に向かいました。
やっぱり寂しいけれど、鳥さん達のおかげで大分明るい気持ちで行くことができたよ。
リリーちゃんの家が見えてきました。
時鳴さんはもう帰ってきていて、リリーちゃんを探しているようでした。
リリーちゃんを呼ぶ声が聞こえてきます。
リリーちゃんはここにいるよって、早く教えてあげなくちゃね。
心配しているお家の人の声を聞くと、わたしはやっぱりそう思いました。
わたし達は早めに地面に降ります。
そして鳥さん達はにぎやかに帰っていきました。
お母さんはリリーちゃんをわたしに渡してくれました。
そう3人で時鳴さん家に行きます。
門から見ると、広い庭に1人女の子がいて、リリーちゃんの名前を呼んでいました。
そしてすぐにわたし達を見つけて、駆けよってきました。
響香ちゃんかな?
リリーちゃんがとってもうれしそうなので、そうみたいです。
「リリーちゃん!よかった。心配してたんだよ。
おじいちゃん家にいても、ずっとリリーちゃんのことを考えてたんだから」
そう響香ちゃんは、リリーちゃんを見てほっとしたみたいです。
そうだよね。一緒に出掛けたリリーちゃんが迷子になっちゃって、何日も会えなかったんだもん。
最初に怪我はしちゃったけど、その後は無事にしていたから安心してね。
そう思いながら、わたしはまず謝りました。
「心配かけてごめんね。
リリーちゃんが怪我をしていたから、帰ってくるまで預かってました」
そういったら、響香ちゃんは驚きました。
「えっ!?リリーちゃん、怪我してたの?」
そしてリリーちゃんを抱き上げて、調べ始めました。
「あ、大丈夫。もうほとんど治ったよ」
わたしがそういった後、響香ちゃんは前足の傷跡を見つけました。
「本当だ。戻ってくる途中に怪我しちゃったの?
リリーちゃん、外では気を付けなくちゃだめだよ」
そうまじめな顔でいう響香ちゃん。
「ごめんなさい」
リリーちゃんはシュンとして謝りました。
響香ちゃんにその言葉はわからないけれど、リリーちゃんの気持ちは伝わったみたいです。
それから響香ちゃんはわたし達に向かって、元気に笑ってお礼をいいました。
「リリーちゃんをありがとうございました。
わたしは響香といいます」
やっぱり響香ちゃんだったんだね。
リリーちゃんのいっていた通り、本当にしっかりしてみえます。
わたしより3歳も下とは思えないくらいだよね。
今回はリリーちゃんや響香ちゃんとお友達になれて、とってもよかったです。
でもリリーちゃんがいなくなった家に帰ると、ほっと気が抜けました。
そうなんとなく寂しくなっているわたしに、お母さんがたずねました。
「みかん、元気ないわね。やっぱり家に動物がいてほしい?」
「うん」
お母さんに無理なことはいえないけど、正直な気持ちなのでわたしはうなずきました。
「そう。わかったわ」
そうお母さんがうなずいた意味を、その時のわたしはわかっていませんでした。
次の日わたしは学校で、昨日のことをうれしい気持ちで話しました。
港くんはわたしの話を聞いて、安心したようでした。
本当にリリーちゃんのことを心配していたんだね。
やっぱり港くんは、時鳴さんやリリーちゃんがいっていた通りの子です。
「お茶会にも招待してもらえたんだよ」
最後にそういうと、みんなはにっこり笑って答えてくれました。
「よかったね。時鳴さん一家と仲良くなれて」
「うん!」
美穂ちゃんの言葉に、わたしは元気にうなずきました。
そんなわたしに、高志くんがいいました。
「みかん、思ってたよりもずっと元気だな」
その言葉に、わたしは明るく答えます。
「うん。だってもう会えないわけじゃないもんね。
近くに住んでいるんだから、会いたくなったら、すぐに会いに行けるもん」
昨日は急に静かになっちゃったから寂しい感じがしたけど、もうわたしは元気です。
だって美穂ちゃんがいったように、リリーちゃんや時鳴さん一家と仲良くなれたことがうれしいから。
そう前向きに考えられたわたしに、みゆきちゃんがこういってくれました。
「みかんちゃんって、本当に友達たくさんだよね。
魔法の力のおかげもあるのかもしれないけど、やっぱりみかんちゃんの人柄がいいからだよね」
そうほめてもらえて、わたしはとっても幸せな気持ちになりました。
これからもそう思ってもらえる子でいたいです。
その頃お母さんは、デパートの中の大きなぬいぐるみ売り場にいました。
ぬいぐるみを1つ1つよく見ています。
そして首に赤いリボンを巻いて鈴を付けた、かわいい黒猫さんを手に取りました。
お母さんはそのぬいぐるみを見て微笑むのでした。
「ただいまーっ」
わたしが元気に学校から帰ると、玄関に黒い猫さんがいました。
「お帰りなさい、みかんちゃん。
はじめまして、テトリです」
笑顔で、そう丁寧にあいさつをしてくれます。
声から女の子みたいです。
テトリちゃんっていうんだ。
家にいたし、わたしの名前はお母さんから聞いたんだね。
「こんにちは、テトリちゃん。はじめまして」
わたしも笑ってそうあいさつを返します。
でもすぐに不思議なことに気が付きました。
あれ?何で言葉がわかるのかな?
今はペンダントのままだから、わからないはずです。
そしてよくよく見てみると、そのテトリちゃんは普通の猫さんじゃありません。
大きな瞳や毛の感じといい、ぬいぐるみみたいです。
でもおもちゃみたいじゃなくて、動きは普通の猫さんです。
そのテトリちゃんがわたしに向かってジャンプしてきました。
わたしは思わずだっこします。
不思議だけど、とってもかわいいです。
その黒猫さんは首に赤いリボンを巻いて、鈴を付けています。
テトリちゃんが動くと、その鈴がチリンチリン鳴ります。
そこにお母さんが来ました。
「ご主人様!」
テトリちゃんは振り向いてうれしそうにいいます。
やっぱりお母さんの知り合いなんだよね?
そう考えているわたしに、お母さんはいいました。
「どう?その子は。
今日から家族の仲間入りをするテトリよ」
「え?」
家族の仲間入りって、今日から一緒に住むってこと?
でも動物と暮らすのは、禁止だったんじゃなかったのかな?
その話にわたしがびっくりしていると、お母さんが説明してくれました。
「魔法使いは他の生き物を飼ってはいけないっていう、きまりがあるわね」
わたしはその言葉にうなずきます。
他のお友達みたいに家に動物がほしいって初めていった時に聞きました。
その後も何度か詳しく教えてもらっています。
だからわたしは今まであきらめていたのです。
それからお母さんは、わたしが初めて聞く話をしてくれました。
「でも魔法使いの親はね、1つだけ物に命を吹き込んで、子どもに贈ることができるの。
それがその子の一生のパートナーになるのよ」
そんなすごい魔法があるんだあ。
そう感動してから、話の流れから考えます。
「それって、テトリちゃんはお母さんが創ったっていうこと?」
だから普通の猫さんと違っているし、お母さんのことをご主人様って呼んでいるんだね。
そう感心しながらも、話をよくはわかっていないわたしに、お母さんがはっきりいいました。
「そうよ。このテトリがみかんのパートナー。
これからずっとみかんの側にいるの」
「みかんちゃん、これからよろしくお願いします」
そのお母さんとテトリちゃんの言葉で、わたしはやっとわかりました。
うれし涙が出てきます。
これからずっと、こんなかわいいテトリちゃんと一緒にいられるんだね。
リリーちゃんが来た時もとってもうれしかったけど、テトリちゃんは本当にわたしの家族になるので、もっともっとうれしいです。
わたしはすぐに涙をふいて、テトリちゃんににっこり笑っていいました。
「こちらこそ!よろしくね」
お母さんはそんなわたし達を見て、にこにこ笑っています。
お母さん、本当にありがとう!
わたし、とってもうれしいよ。
こうして、今日からわたしの家は3人家族になりました。
2001~02年制作