魔法の森編

8─みかんちゃん達への応援式

お夕飯の時間のことです。
食堂で食べていると、こよりちゃんが来てくれました。
こよりちゃんは9歳。小学校では4年生です。
肩までの黒い髪の毛をツインテールにしていて、それがきれいにくるくるしている子だよ。
そのこよりちゃんがお誘いしてくれました。
「こより達も、みかんちゃんとつばめくんの応援式をします!
7時半に秦館のきのこのお部屋で、みんなで待ってるね」
そう聞いて、わたしはうれしくなりました。
「わあ。楽しみだなあ」
食べ終わってから、すぐにつばめくんのところに行きます。
つばめくんは紅(べに)ちゃんからお誘いを受けたそうです。
2人でわくわくしていると、タルトちゃんが懐かしそうに言いました。
「私もみかんちゃんとつばめくんが開いてくれたパーティーうれしかったなあ。
紅ちゃん達のも楽しみね」
この応援式というのは、毎年2日目の夜に行われる伝統行事です。
1日目にその計画を立てるからね。
魔法のステッキを使える小学2年生~4年生の芽クラスの子達が、森の学校の1年生になった先輩を招いて、パーティーを開きます。
パーティーといっても、9歳の子の部屋に集まってお話をする会なんだけど。
それぞれ自分達の魔法で、工夫したおもてなしをしてくれるんです。
「今年はどんなパーティーになるんだろうね」
そうつばめくんと、期待に胸ふくらませます。

約束の時間になると、つばめくんと一緒に隣の秦館に行きました。
きのこのお部屋の前では、紅ちゃんが待っていてくれました。
「いらっしゃい。準備はできてますよ。どうぞ」
そうドアを開けてもらって中に入ると、電気は点いていませんでした。
奥の壁に「みかんちゃん、つばめくん 一年生おめでとう」と赤色のネオンが光っています。
「こういうのも作ってくれたんだあ」
デザインできれば思ったものを出せる、魔法って便利です。
わたしが感心していると、
紅ちゃんが大きな声で、応援式の開会の言葉をいいました。
「それではこれより応援式を始めます。
みかんちゃん、つばめくん、1年生おめでとうございます。
パンッ、パーン」
そう紅ちゃんがいった後に、クラッカーの音が聞こえました。
それからネオンのように光る2羽のツバメさんが、部屋の中を飛びまわりました。
わたし達は驚いて叫びます。
「わあ!」
青色でとてもキレイです。
そのツバメさんが消えると、すぐに電気が点きました。
「やった!ちゃんとできたね」
そう8歳組の子が大喜びします。
「ゆかたくんとすなくんが出してくれたんだあ。魔法上手になったね」
そうわたしはにっこりします。
去年一緒にやった時は、こういうことはできなかったので。
こういう時、お姉さんのような気分で、しみじみとうれしいです。
「じゃあわたしは…」
次に紅ちゃんがステッキを振ると、プラネタリウムのような物が現れました。
去年わたし達もこういうのを出しました。
その時は、1分間に1回流れ星が見られるおまけ付きにしたんです。
紅ちゃん達のは、スイッチを押すと、パッと満開の桜の木が写し出されました。
プラネタリウムみたいに、上にね。
魔法の映像なので、電気が点いていても、はっきり見えます。
それについて紅ちゃんが説明してくれます。
「わたし、みんなとお花見してみたかったんだ」
「みんな、ここに座って」
そうつづみちゃんがステッキを振ると、草色のお花見シートが現れました。
それは広げても机などにはあたらない、ちょうどよい大きさでした。
「つづみちゃん、すごい!」
わたしはつづみちゃんが魔法を使ったのは初めて見たけど、上手で感心しました。
習い始めでこんなに出来るとは、魔法は得意みたいです。
「つづみちゃん、バッチリ」
そう紅ちゃんも指で〇を作ると、つづみちゃんはうれしそうに笑います。
紅ちゃん達に続いて、わたしとつばめくんもシートに座ります。
映像でも、上を見上げるとキレイな桜の花があるなんて、うれしいです。
「少し花びらも舞ってて、キレイだね」
そうつばめくんのいう通り、ちらちらと舞っている様子もステキです。
桜を見上げてうっとりしていると、今度はすなくんが飲み物を持ってきてくれました。
渡されたグラスのふちには、白いお花とツバメが交互に並んで輪を作っています。
「これはみかんの花だよ」
そうつづみちゃんが教えてくれます。
「そうなんだ。これも魔法で作ったんだよね」
「うん。こよりのデザインだよ」
わたし達の名前から、こんなにおしゃれな物を作ってくれるなんて、とってもうれしいです。かわいい。
「これは食堂からもらった、みかんジュースなんだけど…」
そうグラスに注いでくれます。
そのジュースは、あちこちがきらきらと光っています。
「わあ。ジュースの結晶だ!」
こういうのは初めて見たので、わたしとつばめくんは、ジュースと同じように瞳をきらきらさせて喜びました。
するとすなくんは意外なことを教えてくれました。
「これはね、魔法じゃないんだよ。ね!」
そうこよりちゃんを振り返ります。
こよりちゃんはうなずいて説明してくれます。
「そう、凍らないギリギリまで冷たくしておくと、結晶ができるってテレビで言ってたの」
「だからそこまで、ぼくが冷たくしておいたんだよ」
そうすなくんは胸を張ります。
「ありがとう。とってもキレイだよ」
そんな5人の後輩たちのいろいろな心尽くしに、わたし達は感動しました。
そのジュースで、みんなで乾杯をします。
キラキラのジュースはとっても冷たくて、頭が冴えるようです。
「おいしーい」
食堂のジュースは果汁30%で、ちょうど良い甘さです。
そしてゆかたくんが、お菓子の入ったお皿も渡してくれました。
ふちの模様はグラスと同じで、全体はみかん色をしています。
「みんな、ステキなおもてなしをしてくれて、本当にありがとう。
食器はかわいいし、キラキラした物もたくさん見られてうれしいな」
そうわたしは心からお礼をいいます。
「こんなにぼく達の名前の物にしてくれるなんて、ありがとう!
みかんちゃんと一緒のこの食器なんて、家でも使いたいくらいだよ」
そうつばめくんも食器をみつめて、喜んでいます。
すると後輩の5人みんなが、とてもうれしそうな顔になりました。
それから応援式らしく、早速紅ちゃんから質問をされました。
「ではみかん先輩、つばめ先輩、双葉クラスの勉強はどうですか?」
そうテレビのリポーターのように。
わたし達はきちんと答えます。
「初めてだから緊張したけど、がんばったらなんとかできたよ」
「自分1人でもできるように、もっと練習していかないといけないけどね」
それからわたしはみんなを見回していいます。
「みんなも夢魔法うまくなったね!」
「うん。どれもすごかったよ」
そうつばめくんも感動しているようです。
「みんなとお花見できるなんて、夢みたいだしね」
小中学生の魔法使いは運動会をするために、春休みにも集まります。
その時に会場の近くでは桜が咲いていることも多いけど、みんなでお花見をしたことはありません。
そのことを紅ちゃんも言います。
「そう。運動会の後は夕方で、いっつも立ち見で終わっちゃうのが残念で…。
今夜は9時までパーティーしてもいいってお許しをもらったので、それまで遊びましょう!」
その言葉にみんなはしゃぎます。
「9時まで遊べるなんて、この応援式だけだよね」
「最後まで起きていられるかなあ?」
そうつづみちゃんやゆかたくん達が顔を見合わせます。
それからみんなと、この一学期の間のお話をします。
みんなのお話を聞いてみると、やっぱり魔法使いにはいろいろあるね。
小学校では魔法使いは1人だけになっちゃうけど、こうやって世界にはたくさん仲間がいるからがんばれます。
「わたし達はここではもう芽クラスじゃなくなったことは寂しいけど、
紅ちゃん達も来るのを楽しみに、勉強がんばろうね」
そうつばめくんとお話しました。

「ねぇねぇ、みかんちゃん、みかんちゃん」
8時半くらいになった頃に、こよりちゃんに話しかけられました。
「どうしたの?」
わたしが聞くと、こよりちゃんは真面目な顔で質問しました。
「わたしのお父さんとみかんちゃんのおかあさんって、仲いいよね?」
「……えっ?」
そう突然言われた内容に、思い当たらなかったわたしは戸惑いました。
するとこよりちゃんは具体的に説明してくれます。
「わたしのお父さんは花クラスで、いちごさんとは今クラスが違う…わりには話しかけている気がする」
「…そうなの?」
そう言われてみれば、おかあさんがこよりちゃんのお父さんと話しているのは見たことある…けど、それについて気にしたことはありませんでした。
「わたし、お父さんの様子はよく見てきたから、これはもしかして…と思ってる。つまり…」
「つまり?」
こよりちゃんの言葉が1度止まったので、わたしも真剣に聞き返します。
「つまりわたしのお父さんといちごさんが、結ばれる運命の相手なんじゃないかって…」
!!
そう聞いて、わたしは衝撃を受けました。
「もし本当に、わたしのお父さんとみかんちゃんのおかあさんが結婚するとしたら、みかんちゃんはどう…」
そうこよりちゃんが言い終わる前に、わたしの高まる気持ちが外に出ました。
「そういうの待ってました!」
そして瞳をキラキラさせながら言います。
「だってだっておかあさんが結婚するっていうことは、わたしにもお父さんができるんだよね?」
するとこよりちゃんもうなずきます。
「そう。わたしもおかあさんがほしい。
お父さんも大好きだけど、わたしにもおかあさんがいたらと考えたことが何度あったことか…」
そしてこよりちゃんは、さらにうれしくなることを教えてくれました。
「それに2人が結婚したら、こよりとみかんちゃんも家族ということに…」
ハッ。そうだよね。こよりちゃんとも家族に…。あこがれの姉妹…。
そんな4人とテトリちゃんの家族の姿を想像して、わたしは叫ばずにはいられませんでした。
「キャー!うれしすぎるの!」
それから少し気持ちを落ち着かせてからたずねます。
それから少し気持ちを落ち着かせてからたずねます。
「わたし達って、そのために何かした方がいいのかなあ?」
するとこよりちゃんは少し考えてから言いました。
「うーん。聞いた話によると、周りが余計なことをすると、2人が結ばれるのが遅くなることもあるって言ってたような…」
それは困る!
「だからわたし達はジャマにならないように、ひそかに応援してましょう」
「うん!そうするね」
わたし達は特に何もすることがないと思うと、幾分か落ち着きました。
「そういえば結ばれる運命の人って、みんなどうやってわかるのかなあ?
大人になったら、何かが教えてくれるのかなあ?」
わたしがそもそもの疑問を口にすると、こよりちゃんも首をかしげました。
「ぼくもそういう話は聞いたことがないなあ」
少し離れたところで遊んでいた、つばめくんもそう答えます。
するとこよりちゃんはこう教えてくれました。
「それはわからないけど、特に好きな人とはたくさん一緒にいたいって思うんだって。
だから2人ともそういう気持ちでいるなら、多分…」
いわれてみれば、わたしもお母さんといっぱい一緒にいたいと思うもんね。
「じゃあとりあえず、おかあさんがそういう気持ちなのかだけでも知りたいなあ」
わたしがそう考えると、こよりちゃんもうなずきます。
「わたしもお父さんにさりげなく確かめてみよう」
「さりげなく、かあ」
そういうのは難しそうと思ったけれど…。
「2人の心が離れちゃったら、大変なので!」
こよりちゃんにそういわれたら、気を付けようと思いました。
「さりげなくでがんばる!」
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