魔法の森編
7─おじいちゃん達に見守られて
魔法のお薬作りは時間がかかります。
だから次はもう、お昼ごはんの時間です。
食堂に行くと、待っていた2人が来ていました。
「あ!おじいちゃんとおばあちゃんだ」
2人がいたのは入り口近くの席だったので、すぐに見付けました。
おばあちゃん達も、そんなわたしに気が付きます。
テーブルに座ったまま、手を振ってくれました。
この学校を卒業した人達は、今日来ることになっています。
だから他のおじいちゃん、おばあちゃん達もたくさん来ているよ。
中を見回してみたけど、お母さんはまだ来ていないみたいです。
おばあちゃん達に久しぶりに会えてうれしいです。
だからつい小走りになりました。
おじいちゃん達は、もう食べ終わっているようでした。
ゆったりとお茶を飲んでいます。
「やっぱり、ここで待っているのが1番良かったわね」
そうおばあちゃんがにこにこします。
「いつから来てたの?」
そう尋ねると、おばあちゃんは食堂の時計を見ながら答えました。
「1時間前くらいね。
みかんちゃんがお薬を完成させた頃かしら」
その通りだったので、わたしは驚きます。
「うん。そうだったよ。
おばあちゃん、ぴったり」
「初めての薬作りはどうだったんだい?」
そうおじいちゃんにたずねられます。
「今日はつばめくんと2人で作ったんだけど、ちゃんと出来たよ。
それから今までやったことのないことを色々出来て、楽しかったの。
すすきちゃん達に材料の場所まで案内してもらったり、包丁を使ったり」
そう思い出しながら説明します。
そんなわたしの言葉を聞いて、おじいちゃんは喜んでくれました。
「それは良かったね。
明日からもまたがんばれそうだな」
「うん」
わたしはにっこりうなずきます。
そんな時に、エルナちゃんが飛んできました。
わたしを見つけたエルナちゃんは、いつも通りに元気に声をかけてくれます。
「あー、みかん!久しぶり!元気にしてた?」
エルナちゃん、ミリスくんとは4ヶ月ぶりです。
わたしは振り返って答えます。
「エルナちゃん、運動会ぶりだね!
うん、とっても元気だよ」
そんなわたしの周りを、エルナちゃんはふわりと回ります。
そういつもの洋服チェックをされました。
そしてびしっと注意されます。
「あ!スカートが汚れてるじゃない!
だめよ!女の子なんだから、いつもきれいじゃないと」
そういわれて確認してみます。
これは材料を探すときに付いたのかな?
スカートにちょっと土の跡が残っていました。
でもわたしの場合、これくらいならよくあることです。
汚さないようにするのは難しくて、すぐに黒くしちゃうんだよね。
きれいなお洋服を着るのは、大好きなんだけど。
お家に帰れば、お母さんが魔法で元通りにしてくれます。
そういう安心もあるからかな。
そうわたしは気を使えないので、動きづらい服は苦手です。
ミニスカートとかもはけないの。
対してエルナちゃんは、いっつもきれいです。
ふわふわの毛糸のスカートを着ています。
ちょっとさわりたくなる気持ちよさです。
「幼稚園の頃ならともかく、みかんももう10歳なのに。
周りの子がどう思っていることか」
そうエルナちゃんは、おなじみのため息をつきます。
わたしは赤ちゃんの時から、こんなふうに注意をされてきたそうです。
だから叱られているのに、懐かしく感じます。
エルナちゃんはわたしにとって、お姉さんのような子なんだよね。
おかげでわたしは、お部屋や引き出しの中はきれいに片付ける習慣が付きました。
エルナちゃんがお家に遊びに来た時に、こっちは○をもらえます。
そうエルナちゃんが戻ってきたので、おじいちゃんは席を立ちました。
「じゃあミリスも迎えに行かなきゃな」
そしてパートナーの子達のお部屋へと向かいます。
入れ違いに、お母さんとテトリちゃんもやって来ました。
「お母さん、エルナ。お久しぶり」
「お久しぶりです」
そうおばあちゃんにいったテトリちゃんを、エルナちゃんは確認しました。
「わあ。この子がれもんのいっていたテトリね?
猫っぽいけど、きれいそうね」
そうテトリちゃんは、チェックにOKだったようです。
「初めまして。エルナさん」
テトリちゃんは頭を下げます。
エルナちゃんも元気にあいさつをしました。
「私はれもんのパートナーのエルナよ。よろしくね」
そこにおじいちゃんとミリスくんもやってきました。
「僕はミリス!」
そういいながら、頭を揺らしています。
「初めまして。テトリです」
テトリちゃんはまたあいさつをします。
そうやっと揃ったところだけれど、おばあちゃんも立ち上がりました。
「せっかく会えたのにゆっくりとお話できなくて残念だけど、私達は行くわね」
「また後で話そうな」
そうおじいちゃんとおばあちゃんは出て行きました。
おじいちゃん達には、お勉強とは別の予定があります。
だから学生とはあんまり休み時間が合いません。
でもこうやって会える時もあるし、おじいちゃん達も来てるんだって思うと安心します。
おいしいご飯を食べて、午後のお勉強もがんばろう!
午後は魔法陣を描く授業です。
この授業はABクラスに分かれます。
大人は木諸先生と、真魔法使いのおじいさんの2人です。
森の中に空き地のように開けている場所があって、そこが教室でした。
こういう場所が4ヶ所もあって、それぞれ練習しているそうです。
本葉クラスの人は、わたし達とは逆の時間割になっています。
だから午前中に、ここでお勉強をしていたそうです。
初めて挑戦するわたし達にもわかるように、木諸先生は説明を始めました。
「魔法陣は、かけたい人の周りに描いて行く物です。
まずは人と同じ大きさの人形を出しましょう。
そうねえ、みんなのお父さんやお母さんくらいがいいかしら。
練習している間に、倒れないような物にしてね」
そういわれて、それぞれ夢魔法でお人形を出します。
わたしはお母さんにそっくりなお人形を出しました。
お母さんに見ていてもらえると思って、がんばります!
「次は魔法陣用の杖を用意しましょうね」
そういわれて、それぞれの呪文を唱えます。
「ミラクル・ドリーミング・スティック」
するとわたしの胸の高さまでもある、大きな杖に変わりました。
いつものステッキと模様は同じです。
違うのは、下の飾りが付いていなくて平らなこと。
そして大きさは全然違うので、別の物みたいです。
でも不思議と重くはありません。
魔法陣を描きやすいように、かな?
この形にするのは初めてなので、まじまじと見てしまいます。
「立派な魔法使いになったみたいだね」
この杖を持てるようになったことを、わたしは誇らしく思いました。
「うん。みんな、かっこよく見えるね」
そうつばめくんは周りのみんなを見回して、うれしそうです。
このステッキを棒のように使って、地面の上に魔法陣を描きます。
「これがお手本です。
地面に置いて、見ながら練習してみましょうね」
そう先生が、お手本の描かれた布を渡してくれました。
わたし達1年生が今年教わるのは、明るい気分になれる魔法陣です。
落ち込んでいる人がこの魔法陣の中に入ると、とってもよく効くそうです。
初めて習うものだけあって、そんなに難しい模様ではありません。
大きな丸の中に小さな丸があって、その間がきれいに6つに分けられています。
これなら、出来るようになるかな?
「お天気記号の雪と似てるなあ」
そう学校で習ったことを思い出して、つぶやきました。
つばめくんは、別の見方をしています。
「お陽様の形みたいだね」
そういわれてみると、真ん中の丸がお陽様に見えます。
「うん。お絵描きをする時は、こういう線が周りにあるよね」
そううなずいてから、気が付きました。
「あ!明るい気分だから、お陽様なんだね。
つばめくん、当たりだよ」
そう答えると、つばめくんもお陽様みたいな笑顔になりました。
描く前から、魔法陣が効いたわたし達です。
そしてそれぞれ練習を始めます。
木諸先生は真っ先に、わたし達のところに来てくれました。
「みかんちゃんとつばめくんは、感じをつかむところから始めましょう。
最初はお人形を使わないで、大きな丸を描いてみましょうか」
そういわれて、きれいな丸を描けるようになるまで練習しました。
そんなわたし達を、さっきのおじいさんが黙って見ています。
踏み台の上に登って、ちょっと高いところから、みんなを見回しているよ。
丸をたくさん描いていると、すぐに地面がいっぱいになってしまいます。
だから次のに取り掛かると、おじいさんは状態魔法で元のまっさらな地面に戻してくれます。
そのために来てくれているんだね。
先輩達は魔法陣を完成させると、おじいさんに手を振って合図しています。
この丸に合格をもらえたら、次のステップに進みます。
「うん。きれいに描けるようになったわね。
次はその丸を、お人形の周りに描いてみましょう。
まずはお人形の近くの、中の円を描きます。
外側の円はこのお手本を見て、バランスを考えて描いてね」
今の練習のおかげで、中の丸はわりとすぐに描けました。
でも外側の丸との間隔をつかむのは難しいです。
木諸先生に見てもらいながら、何度もやり直しました。
つばめくんも、汗をかきながらがんばっています。
そんなわたし達を、木諸先生は励ましてくれます。
「この円は、どの魔法陣にも共通している基本なの。
これが出来るようになると、来年からは模様の練習に集中できるから、楽になりますよ」
その通りに、2年生以上の子達は丸はすぐに描けていて、中の模様の練習をがんばっています。
わたし達もなんとか丸を描けるようになったら、今度は中の練習を始めます。
そうわたし達も、先輩達と同じラインに立ちました。
すると木諸先生は、2年生以上の子達も見回り始めます。
この模様は、まずは縦の線を描きます。
それから右と左と、きれいに3つに分けます。
それだけじゃなくって、向かい側の線と繋げて、きれいな直線になるように考えないといけません。
間の丸がなかったら、もっと簡単なのになあ。
そう小さなため息をつきます。
でもお母さん人形を見て、がんばろうって思い直しました。
描いてみて、回って見て確認していきます。
そのうちにだんだんとわかってきました。
まっすぐな線だから、さっきの丸よりも描きやすいしね。
今年覚える魔法陣もこれ1つなんだから、ちゃんと描けるようにならなくちゃ。
そう心を強く持って、がんばり続けます。
すると、出来たかな?と思える物を描けるようになってきました。
そこで先生は、最後に唱える呪文を教えてくれます。
「ちゃんと魔法陣らしく描けるようになったわね。偉いわ。
ではちゃんと描けたかどうか、魔法をかけてみましょう。
小さな声で唱えてね。『この形に、魔法が降りますよう』
それから呪文のように。『トモタハヒミ ラヨスバ ソキラヌオス』
そして杖で、魔法陣の手前をトンと突きます。
それで白く光れば、成功よ」
そういわれたけれど、2番目の呪文は難しいです。
真魔法使いは集中すれば覚えられる力はあるけど、唱えるのも大変そうです。
つばめくんもそう思ったようで、先生に聞きました。
「木諸先生。その2番目の呪文って、どういうふうに決まったんですか?
言葉の並びに秘密があるんですか?」
つばめくんの言葉に、わたしも思い出しました。
言葉が魔法を持つこともあるんだよね。
これもその言霊っていうものなのかな?
そう2人で真面目な顔をして、答えを待ちます。
それに対して、木諸先生は笑って首を振りました。
「ああ、それはみんなに聞かれるわね。
これは最初の言葉の子音をね、2つずらしたものなのよ。
だから、最初の呪文と意味は一緒なの」
そういわれても、わたし達は「しいん」という言葉もわかりません。
?
つばめくんと首をかしげます。
すると木諸先生は、その子音についても教えてくれました。
「子音っていうのはね、あいうえお表の縦の並びのことなの。
横の並びは、母音っていうのよ。
その子音を2つずらすっていうのは、あ行の言葉はその2つ隣のさ行に、か行の言葉はた行に代えるってことなの」
そう聞いた通りに思い浮かべてみたら、やっとわかりました。
わたし達は納得してうなずきます。
おばあちゃん達が唱えていた不思議な言葉も、そうなんだね。
「そっか。そういう決まりだった」
「きちんといえるように練習しなくちゃね」
そして木諸先生は、そうする理由も教えてくれます。
「難しい魔法陣ほど、さらに増やしていくの。
『ソモサナニヒ…』って、元から1つずらしたものとかね。
難しいと思うけど、元の呪文を普通の人にはわからなくする必要があるから。
いいづらいときは、ゆっくりといってみてね」
そう聞いて、少し安心しました。
ゆっくりでもいいなら、いえそうです。
「この形に、魔法が降りますよう…トモタハヒミ ラヨスバ ソキラヌオス。…トモタハヒミ ラヨスバ ソキラヌオス」
そうつばめくんとそれぞれ何回か練習します。
それから早速試してみることにしました。
できてるかな?
ドキドキしながら魔法陣を杖で突いてみます。
でも残念ながら、これは光りませんでした。
ああ…。ちゃんと描けてなかったんだ。
そうがっかりして、肩を落とします。
でもあともう少しのはずだから、くじけません!
そうぎゅっとステッキを握り直しました。
木諸先生に見てもらいながら、練習を重ねていきます。
半分以上の子は、時間までに成功できました。
つばめくんは2個も描けていたよ。すごいです。
「やったー。光ったよ!
─よーし、もう1回描こう」
そう張り切って、すぐに練習を続けていました。
わたしもなんとか1個は成功しました。
おばあちゃん達の魔法陣で見ていた白い光が、目の前に広がります。
そのまぶしさにびっくりして、思わず瞳を閉じてしまいました。
これは、わたしにも初めて魔法陣が描けたんだよね?
そうわかると、うれしくってジャンプしちゃいました。
「わあ。見てみて!わたしにもできたよ」
そう大喜びします。
すると木諸先生がほめてくれました。
「おめでとう。よくできましたね」
「みかんちゃん、やったね!」
先に出来たつばめくんも一緒に喜んでくれます。
授業の最後に、木諸先生がわたしとつばめくんにたずねました。
「どう?初めての魔法陣は」
わたしとつばめくんは元気に答えます。
「わたしにも魔法陣が描けて、うれしかったです」
「難しかったけど、描いていて楽しかったです」
それと木諸先生もにっこり笑ってくれました。
「楽しく描けて良かったわ。
きちんとした魔法陣を描き続けられるように、明日からもまたがんばりましょうね」
「はい!」
わたしとつばめくんは、しっかりとお返事をしました。
明日からは、正しい魔法陣を何個も描けるようになりたいです。
魔法のお薬作りは時間がかかります。
だから次はもう、お昼ごはんの時間です。
食堂に行くと、待っていた2人が来ていました。
「あ!おじいちゃんとおばあちゃんだ」
2人がいたのは入り口近くの席だったので、すぐに見付けました。
おばあちゃん達も、そんなわたしに気が付きます。
テーブルに座ったまま、手を振ってくれました。
この学校を卒業した人達は、今日来ることになっています。
だから他のおじいちゃん、おばあちゃん達もたくさん来ているよ。
中を見回してみたけど、お母さんはまだ来ていないみたいです。
おばあちゃん達に久しぶりに会えてうれしいです。
だからつい小走りになりました。
おじいちゃん達は、もう食べ終わっているようでした。
ゆったりとお茶を飲んでいます。
「やっぱり、ここで待っているのが1番良かったわね」
そうおばあちゃんがにこにこします。
「いつから来てたの?」
そう尋ねると、おばあちゃんは食堂の時計を見ながら答えました。
「1時間前くらいね。
みかんちゃんがお薬を完成させた頃かしら」
その通りだったので、わたしは驚きます。
「うん。そうだったよ。
おばあちゃん、ぴったり」
「初めての薬作りはどうだったんだい?」
そうおじいちゃんにたずねられます。
「今日はつばめくんと2人で作ったんだけど、ちゃんと出来たよ。
それから今までやったことのないことを色々出来て、楽しかったの。
すすきちゃん達に材料の場所まで案内してもらったり、包丁を使ったり」
そう思い出しながら説明します。
そんなわたしの言葉を聞いて、おじいちゃんは喜んでくれました。
「それは良かったね。
明日からもまたがんばれそうだな」
「うん」
わたしはにっこりうなずきます。
そんな時に、エルナちゃんが飛んできました。
わたしを見つけたエルナちゃんは、いつも通りに元気に声をかけてくれます。
「あー、みかん!久しぶり!元気にしてた?」
エルナちゃん、ミリスくんとは4ヶ月ぶりです。
わたしは振り返って答えます。
「エルナちゃん、運動会ぶりだね!
うん、とっても元気だよ」
そんなわたしの周りを、エルナちゃんはふわりと回ります。
そういつもの洋服チェックをされました。
そしてびしっと注意されます。
「あ!スカートが汚れてるじゃない!
だめよ!女の子なんだから、いつもきれいじゃないと」
そういわれて確認してみます。
これは材料を探すときに付いたのかな?
スカートにちょっと土の跡が残っていました。
でもわたしの場合、これくらいならよくあることです。
汚さないようにするのは難しくて、すぐに黒くしちゃうんだよね。
きれいなお洋服を着るのは、大好きなんだけど。
お家に帰れば、お母さんが魔法で元通りにしてくれます。
そういう安心もあるからかな。
そうわたしは気を使えないので、動きづらい服は苦手です。
ミニスカートとかもはけないの。
対してエルナちゃんは、いっつもきれいです。
ふわふわの毛糸のスカートを着ています。
ちょっとさわりたくなる気持ちよさです。
「幼稚園の頃ならともかく、みかんももう10歳なのに。
周りの子がどう思っていることか」
そうエルナちゃんは、おなじみのため息をつきます。
わたしは赤ちゃんの時から、こんなふうに注意をされてきたそうです。
だから叱られているのに、懐かしく感じます。
エルナちゃんはわたしにとって、お姉さんのような子なんだよね。
おかげでわたしは、お部屋や引き出しの中はきれいに片付ける習慣が付きました。
エルナちゃんがお家に遊びに来た時に、こっちは○をもらえます。
そうエルナちゃんが戻ってきたので、おじいちゃんは席を立ちました。
「じゃあミリスも迎えに行かなきゃな」
そしてパートナーの子達のお部屋へと向かいます。
入れ違いに、お母さんとテトリちゃんもやって来ました。
「お母さん、エルナ。お久しぶり」
「お久しぶりです」
そうおばあちゃんにいったテトリちゃんを、エルナちゃんは確認しました。
「わあ。この子がれもんのいっていたテトリね?
猫っぽいけど、きれいそうね」
そうテトリちゃんは、チェックにOKだったようです。
「初めまして。エルナさん」
テトリちゃんは頭を下げます。
エルナちゃんも元気にあいさつをしました。
「私はれもんのパートナーのエルナよ。よろしくね」
そこにおじいちゃんとミリスくんもやってきました。
「僕はミリス!」
そういいながら、頭を揺らしています。
「初めまして。テトリです」
テトリちゃんはまたあいさつをします。
そうやっと揃ったところだけれど、おばあちゃんも立ち上がりました。
「せっかく会えたのにゆっくりとお話できなくて残念だけど、私達は行くわね」
「また後で話そうな」
そうおじいちゃんとおばあちゃんは出て行きました。
おじいちゃん達には、お勉強とは別の予定があります。
だから学生とはあんまり休み時間が合いません。
でもこうやって会える時もあるし、おじいちゃん達も来てるんだって思うと安心します。
おいしいご飯を食べて、午後のお勉強もがんばろう!
午後は魔法陣を描く授業です。
この授業はABクラスに分かれます。
大人は木諸先生と、真魔法使いのおじいさんの2人です。
森の中に空き地のように開けている場所があって、そこが教室でした。
こういう場所が4ヶ所もあって、それぞれ練習しているそうです。
本葉クラスの人は、わたし達とは逆の時間割になっています。
だから午前中に、ここでお勉強をしていたそうです。
初めて挑戦するわたし達にもわかるように、木諸先生は説明を始めました。
「魔法陣は、かけたい人の周りに描いて行く物です。
まずは人と同じ大きさの人形を出しましょう。
そうねえ、みんなのお父さんやお母さんくらいがいいかしら。
練習している間に、倒れないような物にしてね」
そういわれて、それぞれ夢魔法でお人形を出します。
わたしはお母さんにそっくりなお人形を出しました。
お母さんに見ていてもらえると思って、がんばります!
「次は魔法陣用の杖を用意しましょうね」
そういわれて、それぞれの呪文を唱えます。
「ミラクル・ドリーミング・スティック」
するとわたしの胸の高さまでもある、大きな杖に変わりました。
いつものステッキと模様は同じです。
違うのは、下の飾りが付いていなくて平らなこと。
そして大きさは全然違うので、別の物みたいです。
でも不思議と重くはありません。
魔法陣を描きやすいように、かな?
この形にするのは初めてなので、まじまじと見てしまいます。
「立派な魔法使いになったみたいだね」
この杖を持てるようになったことを、わたしは誇らしく思いました。
「うん。みんな、かっこよく見えるね」
そうつばめくんは周りのみんなを見回して、うれしそうです。
このステッキを棒のように使って、地面の上に魔法陣を描きます。
「これがお手本です。
地面に置いて、見ながら練習してみましょうね」
そう先生が、お手本の描かれた布を渡してくれました。
わたし達1年生が今年教わるのは、明るい気分になれる魔法陣です。
落ち込んでいる人がこの魔法陣の中に入ると、とってもよく効くそうです。
初めて習うものだけあって、そんなに難しい模様ではありません。
大きな丸の中に小さな丸があって、その間がきれいに6つに分けられています。
これなら、出来るようになるかな?
「お天気記号の雪と似てるなあ」
そう学校で習ったことを思い出して、つぶやきました。
つばめくんは、別の見方をしています。
「お陽様の形みたいだね」
そういわれてみると、真ん中の丸がお陽様に見えます。
「うん。お絵描きをする時は、こういう線が周りにあるよね」
そううなずいてから、気が付きました。
「あ!明るい気分だから、お陽様なんだね。
つばめくん、当たりだよ」
そう答えると、つばめくんもお陽様みたいな笑顔になりました。
描く前から、魔法陣が効いたわたし達です。
そしてそれぞれ練習を始めます。
木諸先生は真っ先に、わたし達のところに来てくれました。
「みかんちゃんとつばめくんは、感じをつかむところから始めましょう。
最初はお人形を使わないで、大きな丸を描いてみましょうか」
そういわれて、きれいな丸を描けるようになるまで練習しました。
そんなわたし達を、さっきのおじいさんが黙って見ています。
踏み台の上に登って、ちょっと高いところから、みんなを見回しているよ。
丸をたくさん描いていると、すぐに地面がいっぱいになってしまいます。
だから次のに取り掛かると、おじいさんは状態魔法で元のまっさらな地面に戻してくれます。
そのために来てくれているんだね。
先輩達は魔法陣を完成させると、おじいさんに手を振って合図しています。
この丸に合格をもらえたら、次のステップに進みます。
「うん。きれいに描けるようになったわね。
次はその丸を、お人形の周りに描いてみましょう。
まずはお人形の近くの、中の円を描きます。
外側の円はこのお手本を見て、バランスを考えて描いてね」
今の練習のおかげで、中の丸はわりとすぐに描けました。
でも外側の丸との間隔をつかむのは難しいです。
木諸先生に見てもらいながら、何度もやり直しました。
つばめくんも、汗をかきながらがんばっています。
そんなわたし達を、木諸先生は励ましてくれます。
「この円は、どの魔法陣にも共通している基本なの。
これが出来るようになると、来年からは模様の練習に集中できるから、楽になりますよ」
その通りに、2年生以上の子達は丸はすぐに描けていて、中の模様の練習をがんばっています。
わたし達もなんとか丸を描けるようになったら、今度は中の練習を始めます。
そうわたし達も、先輩達と同じラインに立ちました。
すると木諸先生は、2年生以上の子達も見回り始めます。
この模様は、まずは縦の線を描きます。
それから右と左と、きれいに3つに分けます。
それだけじゃなくって、向かい側の線と繋げて、きれいな直線になるように考えないといけません。
間の丸がなかったら、もっと簡単なのになあ。
そう小さなため息をつきます。
でもお母さん人形を見て、がんばろうって思い直しました。
描いてみて、回って見て確認していきます。
そのうちにだんだんとわかってきました。
まっすぐな線だから、さっきの丸よりも描きやすいしね。
今年覚える魔法陣もこれ1つなんだから、ちゃんと描けるようにならなくちゃ。
そう心を強く持って、がんばり続けます。
すると、出来たかな?と思える物を描けるようになってきました。
そこで先生は、最後に唱える呪文を教えてくれます。
「ちゃんと魔法陣らしく描けるようになったわね。偉いわ。
ではちゃんと描けたかどうか、魔法をかけてみましょう。
小さな声で唱えてね。『この形に、魔法が降りますよう』
それから呪文のように。『トモタハヒミ ラヨスバ ソキラヌオス』
そして杖で、魔法陣の手前をトンと突きます。
それで白く光れば、成功よ」
そういわれたけれど、2番目の呪文は難しいです。
真魔法使いは集中すれば覚えられる力はあるけど、唱えるのも大変そうです。
つばめくんもそう思ったようで、先生に聞きました。
「木諸先生。その2番目の呪文って、どういうふうに決まったんですか?
言葉の並びに秘密があるんですか?」
つばめくんの言葉に、わたしも思い出しました。
言葉が魔法を持つこともあるんだよね。
これもその言霊っていうものなのかな?
そう2人で真面目な顔をして、答えを待ちます。
それに対して、木諸先生は笑って首を振りました。
「ああ、それはみんなに聞かれるわね。
これは最初の言葉の子音をね、2つずらしたものなのよ。
だから、最初の呪文と意味は一緒なの」
そういわれても、わたし達は「しいん」という言葉もわかりません。
?
つばめくんと首をかしげます。
すると木諸先生は、その子音についても教えてくれました。
「子音っていうのはね、あいうえお表の縦の並びのことなの。
横の並びは、母音っていうのよ。
その子音を2つずらすっていうのは、あ行の言葉はその2つ隣のさ行に、か行の言葉はた行に代えるってことなの」
そう聞いた通りに思い浮かべてみたら、やっとわかりました。
わたし達は納得してうなずきます。
おばあちゃん達が唱えていた不思議な言葉も、そうなんだね。
「そっか。そういう決まりだった」
「きちんといえるように練習しなくちゃね」
そして木諸先生は、そうする理由も教えてくれます。
「難しい魔法陣ほど、さらに増やしていくの。
『ソモサナニヒ…』って、元から1つずらしたものとかね。
難しいと思うけど、元の呪文を普通の人にはわからなくする必要があるから。
いいづらいときは、ゆっくりといってみてね」
そう聞いて、少し安心しました。
ゆっくりでもいいなら、いえそうです。
「この形に、魔法が降りますよう…トモタハヒミ ラヨスバ ソキラヌオス。…トモタハヒミ ラヨスバ ソキラヌオス」
そうつばめくんとそれぞれ何回か練習します。
それから早速試してみることにしました。
できてるかな?
ドキドキしながら魔法陣を杖で突いてみます。
でも残念ながら、これは光りませんでした。
ああ…。ちゃんと描けてなかったんだ。
そうがっかりして、肩を落とします。
でもあともう少しのはずだから、くじけません!
そうぎゅっとステッキを握り直しました。
木諸先生に見てもらいながら、練習を重ねていきます。
半分以上の子は、時間までに成功できました。
つばめくんは2個も描けていたよ。すごいです。
「やったー。光ったよ!
─よーし、もう1回描こう」
そう張り切って、すぐに練習を続けていました。
わたしもなんとか1個は成功しました。
おばあちゃん達の魔法陣で見ていた白い光が、目の前に広がります。
そのまぶしさにびっくりして、思わず瞳を閉じてしまいました。
これは、わたしにも初めて魔法陣が描けたんだよね?
そうわかると、うれしくってジャンプしちゃいました。
「わあ。見てみて!わたしにもできたよ」
そう大喜びします。
すると木諸先生がほめてくれました。
「おめでとう。よくできましたね」
「みかんちゃん、やったね!」
先に出来たつばめくんも一緒に喜んでくれます。
授業の最後に、木諸先生がわたしとつばめくんにたずねました。
「どう?初めての魔法陣は」
わたしとつばめくんは元気に答えます。
「わたしにも魔法陣が描けて、うれしかったです」
「難しかったけど、描いていて楽しかったです」
それと木諸先生もにっこり笑ってくれました。
「楽しく描けて良かったわ。
きちんとした魔法陣を描き続けられるように、明日からもまたがんばりましょうね」
「はい!」
わたしとつばめくんは、しっかりとお返事をしました。
明日からは、正しい魔法陣を何個も描けるようになりたいです。
