魔法の森編

5─魔法使いの夕食会

そうほっと一息をついたら、もうお夕飯の時間です。
外に出たらまだまだ明るいけれど、夕日はもう沈みそうでした。
オレンジ色のまぶしい光の中に、真っ黒な長い影法師が浮かびます。
テトリちゃんと一緒に、弾むように影踏みして行きました。
そう影を楽しみながら、食堂のある建物に向かいます。
このお部屋は、24人も座れる大きなテーブルが3つも並んでいます。
席はもう半分くらい埋まっていました。
お母さんと並んで、まずは今晩のメニューをもらいに行きます。
テトリちゃん達パートナーは、別に集まってご飯をもらうんだよ。
お母さんがテトリちゃんにそれを教えました。
「あそこにガラスで出来たドアがあるでしょ。
テトリ達はね、あの隣のお部屋で食事をするのよ」
そう奥に見えるドアを指差します。
「あの部屋には、いろんなお友達がいっぱいいるよ」
そうわたしもいいます。
元がぜんまいねずみさんや、照る照るぼうずさんもいたなあ。
パートナーって、本当に人それぞれです。
置物だったり、ボールだったり、普通は生き物に見えない子も多いんだよ。
その人が興味のある物が選ばれるからだって。
そうそう、この前はお留守番をしていたから、紹介が遅れました。
おじいちゃんには、作り物のもみの木のミリスくんがいます。
背はわたしのお腹のところまであります。
鉢植えの木だから動くのが大変なので、おじいちゃんが運んであげているよ。
ミリスくんは軽いので、そんなに大変ではないそうです。
もみの木だから、クリスマスの時は主役です。おしゃれにしています。
おばあちゃんは、毛糸で出来たほうき娘さんのエルナちゃんがパートナーです。
大きさは20cmくらい。
毛糸で出来ていて軽いからか、エルナちゃんは飛べるんだよ。
ほうき娘さんとは、スカートの部分がほうきになっています。
でも毛糸なこともあって、そのスカートではお掃除できません。
それでもほうきらしく、とってもきれい好きなんだよ。
お掃除のポイントを教えるのが得意です。
汚れているところがあると教えてくれます。
そんなエルナちゃんがいるので、おばあちゃんのお家はいつもぴかぴかです。
そんな2人もおばあちゃん達と一緒に、もうすぐここに来るんだなあ。
久しぶりに会うのが楽しみです。
まだおばあちゃんの家にいた時は、一緒に暮らしていた家族だもんね。
テトリちゃんは、パートナーの仲間に会うのは初めてです。
わたしがそんなお話をすると、わくわくして駆けていきました。
それを見送って、わたし達は並びます。
真っ白なエプロンと三角巾を着たおばさんが、給食当番のようにお盆に1皿ずつ載せてくれます。
そしてその奥のキッチンでは、お片付けをしている様子が見えました。
席は自由なので、お母さんと真ん中のテーブルに決めます。
席に着く前から美味しそうなスープの匂いがしてきて、楽しみになります。
今晩のメニューはきのこのスープに、木の実の入ったごはん。そしてサラダです。
この林で採れた物がたくさん入っています。
森の人達にはお魚も付くんだけど、わたし達はご飯がメインのおかずにもなります。
お母さんと向かい合わせに座りました。
そう座る時に、斜め前(お母さんの隣)にタルトちゃんを見つけました。
そして同じテーブルにえびさんもいます。
それからつばめくんも来ました。
「みかんちゃん、一緒に食べよう」
わたしはうなずきます。
「うん」
お友達のみんなと近くに座れて、うれしいです。
そこで隣につばめくんの家族が座りました。
隣からつばめくんがたずねます。
「みかんちゃんは、どこのお部屋になったの?」
「輪館の2階の葉っぱのお部屋だよ」
そう答えると、つばめくんはうれしそうにいいました。
「ぼくも輪館!4階のどんぐりのお部屋なんだ」
そう聞いて、前に4階になった時のことを思い出します。
「4階だったら、景色がいいね」
「うん!後で遊びに来てよ」
そう盛り上がります。
するとつばめくんのお母さんに注意されました。
「ほら、つばめくん。早く食べなさい」
そこでわたし達も食べ始めました。
「いただきまーす」
最初にスープを飲みます。
今日のスープは味がしっかりしています。
するとタルトちゃんが教えてくれました。
「魔法の薬にも、よくきのこを入れるのよ。
 薬作りは、材料を採りに行くところから始まるの」
「そうなんだー」
きのこ狩りはしたことがないので、楽しみです。
そしてえびさんが不思議なことを聞きました。
「そのきのこや木の実は、魔法の味がするでしょう?」
そんな意外なお話に、わたしとつばめくんは驚きます。
「えっ?」
「これ、魔法が入ってるの?」
スプーンの上のまあるいきのこを、わたし達はまじまじと見つめます。
するとえびさんはにっこりと説明してくれました。
「お料理に魔法をかけたんじゃないのよ。
このきのこや木の実自体に魔法が宿ってるの。
 だってほら、魔法使いの魔法で育った木に成った物だもの」
「そうかあ」
このきのこ達も魔法も栄養にして、育ったんだね。
そういう物を食べるって、不思議な気分です。
そうきのこを見つめ続けるわたしに、お母さんがいいました。
「そう。夜にここの木の実をたくさん食べることには、意味があるのよ。
 眠っている間に、みんなの魔法を栄養にさせてもらうの。
 それがまた明日、新しい魔法を覚える力になるのよ」
タルトちゃんのお母さんも付け加えます。
「色々な人の魔法が入っているからね。
子どもは大人の深い魔法を、大人は子どものはじける魔法を感じられる貴重な機会ね」
そういわれて味わってみると、なんだか奥から不思議な味がするようです。
色々な物が入っていて、それが渦を巻いているみたい。
そう感覚を研ぎ澄まして、考えます。
そんなお話をしていると、森の人がやって来ました。
名札に緒珠と書いてあります。
「私達が魔女を名乗って魔法を開発してこられたのも、そこにあるんだよ。
 先祖代々、毎日この森の物を食べているからね。
元は普通の人間でも、少しは本当の魔法が通ってるんだ」
その言葉にタルトちゃんがうなずきます。
「なるほど。あれだけの魔法を使えるんだもの。
やっぱりただの人間じゃないわよね」
するとつばめくんがたずねます。
「じゃあこの森の物を食べ続けたら、他の人でも森の人みたいに魔法を使えるようになるんですか?」
その質問を聞いて、わたしも考えます。
魔法を使える人がそうやって増えたら、すごいことです。
仲間が増えるのはうれしいけど、騒ぎになったら大変だよね。
普通の人は魔法の正しい使い方をきちんと知らないから、それをまとめていくのは難しそうです。
そして大事に魔法を受け継いできた森の人にとっては、困ったことだよね。
そうちょっと心配したけれど、緒珠さんは首をひねりました。
「うーん。確かに素質は上がるだろうね。
 でも本当に長い時間をかけないといけないしね。
それにやっぱり、使い方の手順をマスターしないと使えないからね」
そうそんなに心配はないみたいです。
「魔法の料理を食べたから、明日からの勉強大丈夫ね」
そのえびさんの言葉に、わたし達はしっかりうなずきました。
「はい。がんばります!」
そんな時にテトリちゃんが戻ってきました。
テトリちゃんは何だか興奮していました。
そして慌てていいます。
「あの踊る空き缶さんが生きてました!」
そう聞いてわたしは、前におもちゃ売り場で見た、あの空き缶を思い出しました。
サングラスを駆けて、生きているように踊っていたあの空き缶さんを。
わたしとテトリちゃんはその不思議な空き缶さんが気になって、しばらく見ていたんです。
「本当!?あの空き缶さんをパートナーにした人がいたんだね。
 どんなふうだったの?」
「飲むときも、ずっと元気に踊っていました」
どうやら空き缶だから、飲み物だけもらったようです。
その子によって食べる物が違うので、パートナーの子の分は何種類か用意してくれているんだよ。
そんなテトリちゃんを、みんなはまじまじと見つめています。
それで思い出して、わたしはみんなを振り返りました。
「紹介が遅れました。5月の終わりに家に来たテトリちゃんだよ」
「ごあいさつが遅れました。初めまして」
そうテトリちゃんもあいさつをします。
するとみんな、わっと喜びます。
「みかんちゃん家にも来たの。良かったわね」
そうタルトちゃんがいってくれます。
お父さん、お母さんがパートナーを持っている家が多いので、みんな慣れています。
「自分のじゃなくても、家族ができるとうれしいよね」
そのつばめくんの言葉に、お母さんが答えます。
「このテトリは私のじゃなくて、みかんのパートナーなのよ」
その言葉に、みんなは打って変わって驚きます。
「ええ!?いちごさんより早く!?」
そうタルトちゃんは止まります。
「小学生でなんて、すごいわね」
えびさんは目を丸くします。
「みかんちゃん、良かったね」
つばめくんはきらきらとした表情で喜んでくれます。
「うん。わたしが人間のみんなみたいに、家に動物がいたらいいのにって思っていたら、お母さんがくれたの」
そうわたしが説明をすると、タルトちゃんがため息をつきました。
「みかんちゃんのお母さんも甘いわよね。
 まあ、つばめくん家よりはずっといいけど」
そう小さな声でいいます。
そして横目でつばめくんの家族を見ます。
その先ではつばめくんのお母さんが、つばめくんの口の周りを拭いていました。
そうつばめくんのお母さんは、つばめくんのお世話をしすぎるとみんなから評判なのです。
「じゃあテトリちゃんは、みかんちゃんと授業に出るの?」
えびさんが聞くと、お母さんが首を振りました。
「いいえ。双葉クラスにはパートナーを持っている子はいないし、私のクラスに連れて行くわ」
するとつばめくんが残念そうにいいます。
「そうなんだ。じゃあ一緒にいられる時間は少ないんだね」
そんなつばめくんに、テトリちゃんはにっこり笑いました。
「自由な時間に、一緒に遊んでください」
するとつばめくんも明るくなって、うなずきました。
「そうだね。お風呂が終わったら、また会おうね」
そう夕食の後は、みんなでお風呂に入りに行くんです。
それで本当に、今日やることはおしまいです。
その後はタルトちゃんとえびさんときりんくんと、みんなでつばめくんのお部屋に集まりました。
この位の時間になると、少し涼しくなっていました。
窓の外を見てみると、遠くに他の建物の明かりが見えて、いい雰囲気です。
学校のことや魔法の進み具合いなど、いろんなお話を楽しみました。
みんなも魔法使いとしてがんばっているのを聞いて、励みになります。
そしていつもより夜更かしになった9時半頃。
眠くなったので、お開きにしました。
明日からは初めての授業もあるし、本当に楽しみです。


2007年3月~2008年8月制作
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