魔法の森編

3─魔法使いの、貴重な髪の毛

そう気合いが入ったちょうどその時、魔法の森の人達に呼ばれます。
「では双葉Aクラスのみなさん、髪の毛を切らせてくださいね」
もう時間みたいです。
わたし達魔法使いは年に1度、ここで髪の毛を切るお約束になっています。
その間の1年間はみんなと同じように、ちゃんと髪の毛は伸びています。
でも変わらないように見える魔法がかけられているんです。
見えるだけじゃなくって、実際さわってみてもないのが不思議だよね。
だから髪の長さは、前切った時と1年間ずっと同じです。
1番近くにある建物の1階で、髪の毛を切れるように準備してあります。
たくさんの席を用意していて、クラスみんなが入れるだけあるよ。
そこで髪の毛を切るおじさん、おばさんは、みんなとっても上手です。
建物に入ると、わたしとつばめくんはお隣に座りました。
「こんにちは。今年も会えてうれしいわ」
席に座ると、優しい笑顔でおばさんがあいさつをしてくれます。
「こんにちは。よろしくお願いします」
わたしは髪の毛を切ってもらうのに慣れていません。
だからちょっとドキドキしながら、お返事しました。
そして結っていた髪をほどきます。
それからおばさんがわたしの髪を、櫛でとかします。
するとあっという間に、先っぽから1年分の髪の毛が伸びました。
背中まであって、わたしじゃないみたいです。
おもしろいなあって、鏡の中をよくよく見てしまいます。
つばめくんもはしゃいでいます。
その声に隣を見てみました。
すると今のつばめくんは、いつもとは大違いです。
髪の毛が長いし、めがねも外しているからね。
「わあ。すごいすごい。
クラスではこんなに長い子はいないよ」
つばめくんの髪の毛をとかしていたおじさんが、笑いながら答えます。
「男の子は、こまめに髪の毛を切るからねえ」
そう髪の毛の長いつばめくんを見て、わたしはいいます。
「つばめくん、なんだか昔のお話で見た男の人みたいだね」
日本の昔話には、そういうふうに長い人もいたことを思い出しました。
するとつばめくんは、うれしそうに答えます。
「そっか。昔の人かあ。おもしろいよね。
今度写真を撮りたいなあ。
みんなが見たら、ぼくだってわかるかなあ?」
そんなつばめくんに、おじさんは楽しそうに答えます。
「みんな驚くだろうねえ。
そうか、写真かあ。
簡単になら、今でも撮れないことはないがね」
その提案に、つばめくんは張り切ってうなずきます。
「じゃあぜひ撮ってください」
その話を聞いて、せっかくなので、わたしも撮ってほしくなりました。
横から元気にいいます。
「わたしも撮ってほしいです」
するとおじさんはうなずいてくれました。
「じゃあ2人一緒に1枚撮るよ。
美森(みしん)、いいかね」
そうおばさんに確認を取ります。
すると美森さんは、笑顔でうなずいてくれました。
「本当はこの子達の大事な髪の毛だものね。
行ってらっしゃい」
そう美森さんは見送ってくれます。
そしてつばめくんと、おじさんについていきました。
外に出て、入り口の前で写真を撮ってもらうことになりました。
「榎詩(かし)、カメラを持ってきてくれないか?
この子達の記念写真を撮りたいのでね」
おじさんがそう、ちょうど近くにいた森のお兄さんに頼みます。
「はい。木家(こや)さん。
すぐに持ってきますね」
榎詩さんはそう返事をして、本当にすぐに持ってきてくれました。
「じゃあ、撮るよ」
そう榎詩さんにも注目されながら、木家さんが撮ってくれます。
4人ともみんなにこにこ顔でした。

写真が撮れたらすぐに戻って、元の席に座ります。
わたし達がこうやっている間に、他のみんなはもう大分進んでいます。
でも木家さんも美森さんもそのことには何もいわないで、続きを始めてくれました。
「今回はどのくらい、髪の毛をもらってもいいのかしら?」
そう聞かれて、わたしは去年の思いを思い出しました。
でもはっきり答えます。
「元と同じにしてください」
長い髪の毛がすぐになくなっちゃうのは惜しいけど、いいんです。
すると美森さんは、わたしの髪の毛を持って聞きました。
「ありがとう。上の髪の毛も短めに切っていいの?」
わたしはこっくりうなずきます。
このことにつばめくんはびっくりしたみたいで、隣から尋ねました。
「あれ?みかんちゃん、今度は髪の毛を伸ばしたいっていってたのに」
そういわれてちょっと迷ったけれど、わたしは振り払って答えました。
「いいの。伸ばすのは、もうちょっと大きくなってからにするね」
去年は、今年から伸ばそうかなっていっていました。
でもまだ今年は、森にたくさん役立ててもらうことにします。
つばめくんも、そんなわたしの気持ちがわかったのかな?
前を向いたまま、にっこりといいました。
「そっか。みかんちゃんは、あの髪型がとっても似合ってるしね」
そんな言葉に、わたしはとってもうれしくなりました。
つばめくんはそうやってほめるのが、とっても上手です。
「ありがとう」
そう答えている間に、美森さんは霧吹きでわたしの髪の毛を濡らします。
そして髪の毛を切り始めました。
髪の毛が短くなるのは寂しいです。
でもこうやって切ってもらっている時って、わたしは好きです。

そうきれいに元の通りの長さにしてもらいました。
それから美森さんは、わたしのいつもの髪型を作ります。
そしてそれを三つ編みにしてくれました。
こうやって髪の毛を結うところまで、サービスでやってくれるんです。
ちっちゃな三つ編みだけどかわいくて、とってもうれしいです。
さわるとすべすべしているよ。
三つ編みを留める下の方には、小さな緑色のリボンを付けてくれました。
いつものみかん色の丸い髪飾りに、葉っぱの色のリボンも付いて、ますますみかんらしいです。
長さは一緒でも、髪型が違うと楽しいね。
わたしはそうさっきの寂しい気分を忘れて、うきうきします。
そんなわたしを見て、美森さんもにこにこ笑います。
切った髪の毛はまず、小さなプラスチックのケースに取ります。
そして残りは、袋に入れられました。
そのケースの方を渡してくれます。
「じゃあとりあえずこれが、授業で使う分ね。
このケースには、後で名前を書いておいてね」
そして次に袋の方を持っていいます。
「足りなくなったら、遠慮しないで取りに来てね。
みかんちゃんが充分お勉強に使えるように、ちゃんと残しておくから。
今年もたくさんありがとう」
そううれしそうにお礼をいわれました。
喜んでもらえると、たくさん切ってもよかったなあって思います。
ここでこうやって切るのはね、森の人が魔法使いの髪の毛を必要としているからなんです。
わたし達のこの髪の毛にも、魔法の力があるんだって。
魔法のお薬を作る時に、必要な材料なんだよ。
森の木を育てる栄養にもなっています。
そう聞いた時から、できるだけ協力しようとしています。
だからわたしは、髪の毛を短くしているんです。
わたしは小さな頃から、長い髪の毛に憧れています。
でも今はこうやって、役に立って喜んでもらえる方がいいかなって思います。
大きくなったら、もうちょっとは伸ばしてみたいなって、思ってはいるけどね。
魔法使いは、森の人がみつけた魔法を教えてもらいます。
そして森の人は、魔法使いの力を少しもらいます。
こうやって魔法使いと森の人達は、仲良くお互いの魔法を分け合っているんです。

終わって外に出ると、いきなりみんなの髪型が変わっているのでおもしろいです。
長さが変わらない子も多いよ。
でもわたしのように、違う髪型に結ってもらっていたりするからね。
「みかんちゃん、三つ編みにしてもらったんだー」
そう真っ先に、タルトちゃんが声をかけてくれます。
続いて、つばめくんがほめてくれました。
「リボンもかわいいね」
わたしは照れ笑いをしてしまいます。
つばめくんは元の通りでした。
そしてタルトちゃんは、ちょっと変わったようです。
「タルトちゃんは、おだんごがちょっと大きくなった?」
確かめてみると、タルトちゃんはうなずきます。
「うん。毎年少しずつ伸ばしてるの。
そうだ!みかんちゃんも今度おだんごにしてみない?
お揃いにしましょうよ」
その提案に、わたしは元気にうなずきます。
「うん、いいね」
そういうお揃いって、大好きです。
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