魔法の森編

2─魔法使いのお友達

するとそのお披露目が終わっていたみんなが、声をかけてくれます。
「みかんちゃーん、こっちこっちー」
そう呼んでくれるのは、歳の近いお友達です。
12歳のタルトちゃんに、中学生のきりんくんとえびさん。
種クラスの時から仲良しのお兄さん、お姉さん達です。
わたしより小さなこよりちゃん達は、もう芽クラスの先生のお話を聞いています。
こよりちゃん達には、後であいさつしよう。
わたしも去年まではあそこにいました。
でも今年からは、またタルトちゃん達と一緒の、1つ上級クラスです。
そうだ。今年はここのみんな、双葉Aクラスなんだね。
タルトちゃんは小学生だけど、もう12歳になっています。
だからここでは、きりんくんと同じ学年です。
普通の学校とはちょっと違って、今何歳かで学年が決まるんです。
一昨年から双葉クラスだから、もうすっかり慣れているみたい。
タルトちゃん達は3人で集まって、お話をしていたようでした。
今年一緒にクラスに仲間入りをする、つばめくんはまだみたいです。
久しぶりに魔法使いのお友達に会えてうきうきするわたしに、お母さんがいいました。
「じゃあ、いってらっしゃい。
テトリは、今は私と一緒にいてもらうわね」
お母さんはこれから先生と、この1年間のお仕事のお話などをするんです。
本葉クラスの先生達と、教わった魔法がどんなふうに役に立ったかとかね。
大人はそれが成績表を見せる代わりなんです。
その時に、テトリちゃんのことも紹介するんだろうね。
わたしもタルトちゃん達に話したいことや聞きたいことが、たくさんあります。
テトリちゃんのことは、後でゆっくり紹介した方が良さそうです。
「うん、じゃあテトリちゃんは、今日の予定が終わってから、みんなに紹介するね。
行ってきまーす」
そう2人に手を振って、みんなのところに駆けていきました。
あんまりうれしくって、少し弾んでいます。
「わー。みんな、お久しぶりー」
そうわたしは両手を広げて、笑顔いっぱいになっていました。
そしてすぐに、みんなの輪の中に入ります。
「今年からわたしもお勉強を始めるので、よろしくお願いしまーす」
そう最初に年上のみんなに、きちんとあいさつをしました。
するとえびさんが、にっこりと笑いました。
「そう、今年はみかんちゃんとつばめくんが、クラスに入ってくるのよね」
わたしは元気にうなずきます。
「はい。ちゃんと合格をもらえました」
そのお約束に、きりんくんはため息をつきます。
「小学生は通知表だけだから、まだいいんだよ。
中学生になると考査も全部ラインを引かれているから、気を抜けないんだ。
毎回全体の5分の1には入ってないといけないってさ。
今回は大丈夫だったけど、この先心配だなあ」
きりんくんは、今年その中学生になったんです。
その言葉に、2年生のえびさんもうなずきます。
「そうよねえ。学力テストの結果表まで、全部持ってこなくちゃいけないんだもの」
そう困った顔をします。
でもすぐに明るい顔に戻って、きりんくんにいいました。
「でも成績はここでの評価だけじゃないんだし、がんばりましょうね。きりんくん」
その言葉に、きりんくんは黙ってうなずきます。
わたしとタルトちゃんはその大変さがわからないので、首をかしげます。
考査とか受けたことないもんね。
難しいものなのかなあ?
「私も来年から持ってくるようにいわれたけど、そんなに大変なんだ」
そうタルトちゃんはうなずいています。
それからくるりとわたしに向き直って、元気に声をかけてくれました。
「みかんちゃんとは、この前の遠足以来よね。
元気にしてた?」
そうタルトちゃんと会ったのは、たった2ヶ月前なんです。
「うん。とっても元気だったよ」
わたしがうなずくと、その話にえびさんがおそるおそる尋ねました。
「遠足…って、たまたま会ったとかじゃないんでしょ?」
えびさんとは逆に、タルトちゃんはしっかりうなずきます。
「そう。私の素雪(もとゆき)市の水道局に、みかんちゃんの学年が来るって聞いたから、授業を休んで行ったの。
私もその水道局の大切さと、苦労を話そうと思って。
人間には子どものうちから、そういうことをきっちり教えておかないといけないでしょ?」
そうなったのは、わたしが電話をしたからでした。
遠足でタルトちゃんの素雪市に行くって聞いたら、お話したくなってね。
そうしたらタルトちゃんが張り切ってくれたんだよ。
その話に、きりんくんが困った顔になりました。
「タルト…。仕事熱心なのはいいけど、学校を休んじゃだめだよ」
するとタルトちゃんは気合いが入っていいました。
「勉強の方は大丈夫よ。
今回だって、ちゃんと合格をもらってるでしょ?
まあ確かに「欠課が多いわね」っていわれたけど…」
その言葉に、わたしは首をひねります。
「けっか」って何だろう?お休みとは違うよね?
それは欠席だし…。
みんなはわかっているみたいで、そこは尋ねられないままでした。
タルトちゃんは続けて力強くいいます。
「それよりも、地球環境を悪くしても平気な大人が増える方が困るのよ。
私は環境を守る、魔法使いになるんだから」
そうタルトちゃんは、もう将来の目標を決めています。
環境について習った時に、すごく興味を持ったそうです。
それからはずっと、学校に通いながらも毎日がんばっているそうです。すごいなあ。
感心しているわたしの隣から、えびさんはちょっと注意しました。
「でもゴミをポイ捨てしている人間を見つけると、ピコピコハンマーで叩いてお説教をするわよね。
それはちょっとやり方が厳しいんじゃない?」
その話を聞いて、わたしもその時の様子を思い出します。
タルトちゃんは悪いことをしている人を見つけると、魔法でピコピコハンマーを出します。
そのおかげで魔法を使うのが、とっても早くなったそうです。
わたしも見たことがあるんだけど、すごく慣れている様子だったよ。
そんなタルトちゃんのお説教の仕方は、結構有名なようです。
確かにタルトちゃんの方が正しいです。
でもいきなり叩かれた人は、びっくりしちゃうよね。
叩き方に勢いもありました。
それでもね、ピコピコハンマーにしているのは、手加減をしているからなんだそうです。
そのタルトちゃんは人差し指を出して、さらにビシッといいました。
「私はみんなみたいに、人間に甘くないの!
考えが曲がっているやつは、叩きなおしてやらなくちゃ」
それからタルトちゃんの話は、もっと深いところにいきます。
「私達の魔法は、人間個人のためにあるものじゃないのよ。
いちいちそんなことをしていたら、人間が魔法に頼りすぎて、努力しなくなるしね」
タルトちゃんは人間のみんなを好きじゃないそうで、よくそういっています。
そのお話にはいつものように、みんな困った顔になりました。
わたしも、そうなのかな?って思ったりして。
でもその後のタルトちゃんの言葉は素敵でした。
「――それに私の環境を守っていく仕事は、生き物全体の幸せにつながっているんだから。
ちゃんと人間のためにやっているといえるわ。
きれいな環境の中で暮らせるって、とっても幸せなことなのよ」
そうまじめな顔でいうお話に、みんなで感心してうなずきます。
本当にそうです。
タルトちゃんの目指すお仕事は、たくさんのみんなの毎日を幸せにできる、大事なことだよね。
きれいな環境で安心して暮らせるって、とっても素晴らしいことです。
神様も笑顔になるんじゃないのかな。
そんな立派なことをいった後に、タルトちゃんはため息をつきます。
「私がこんなにがんばっているのに、人間にはそのことがわからないのよね。
クラスの男子なんか特に。
みかんちゃんの方が良かったとかいうし!」
そういわれた時のことを思い出しているのか、握りこぶしを作ります。
タルトちゃんのクラスの子に、わたしは会ったことがありません。
でも隣の市と1番近くにいる魔法使いだから、噂がいくようなんです。
それは逆もあるので、わたしはそのことをタルトちゃんにお話します。
「わたしのところにも、素雪市のお話が聞こえてくるよ。
タルトちゃんのおかげで市の人のマナーがとっても良くって、きれいな町なんだって。
クラスのみんなもね、タルトちゃんはすごいなあっていってたよ」
それは本当のことです。
さっきお話に出たポイ捨てをする人は、めずらしいんじゃないのかな?
新聞の地域の紹介欄で、素雪市がそうほめられていました。
タルトちゃんのこともしっかり載っていたよ。
それをクラスのみんなで見て、そういうお話をしたんです。
タルトちゃんはこんなふうにがんばっているんだよって、わたしが知っていることをお話したよ。
そうしたらみんな、タルトちゃんに感心していました。
そう教えると、タルトちゃんはぱっと明るい笑顔になりました。
「本当!?やっぱり私は偉いわよね。
素直な年下はかわいいわあ」
でもそれからまた、タルトちゃんは不機嫌な顔に戻ります。
「うちのクラスの男子達にも聞かせたいわ。
全く、何度いっても私のことを「水巻」って人間ネームで呼ぶし!
魔法使いにとって苗字なんて仮にあるだけで、私の名前はタルトよ、タルト!」
そうさっきよりも強く握りこぶしを作ります。
タルトちゃんは、苗字で呼ばれるのがとっても嫌らしいのです。
タルトちゃんとよく喧嘩になる男の子が、そう呼ぶんだって。
確かに魔法使いの名前に苗字はないし、わたしも呼ばれることはほとんどありません。
身近にいる人だと、勝子先生くらいかなあ。
わたしも名前で呼ばれる方がうれしいです。
でも苗字で呼ばれるのもまた、新鮮な気分がします。
ちょっと大人の気分になれるよね。

そんなお話をしていると、後ろから元気な声が聞こえてきました。
「みんなー。みかんちゃーん」
振り返ると、わたしと同じ歳のつばめくんが、右手を上げて駆けてきています。
魔法使いは目も悪くならないんだけど、つばめくんはめがねをかけています。
お母さんに似合うってほめてもらえるので、おしゃれでかけているそうです。
その顔を見たら、わたしも笑顔になりました。
「わー。つばめくん」
あいさつで、つばめくんと手を取り合います。
つばめくんとは同じ歳なだけじゃなくって、こうやって1番気が合うお友達でもあるんです。
みんなからもよく、「似てるね」っていってもらうよ。
その手を離してから、つばめくんがいいました。
「久しぶりだね。
みんな早いなあ。
ここへ1番家が近いのは、ぼくなのに」
そうタルトちゃん達を見回します。
つばめくんが来たら、タルトちゃんも怒るのをやめます。
そしてえびさん達も、また笑顔になりました。
つばめくんは、そういう雰囲気を持っているんだよね。
そのつばめくんのお家は、この魔法の森のお隣の県にあるそうです。
つばめくんもこの森の場所はよく知らないんだけど、そうお母さんに聞いているんだって。
そのつばめくんはにっこり笑いました。
「今年からは、ぼくとみかんちゃんも魔法を教えてもらえるね。
とっても楽しみにしてたんだ。
がんばろうね」
するとわたしの代わりに、えびさんが聞きました。
「その様子だと、学校の成績も○だったみたいね」
つばめくんは元気にうなずきます。
「はい。がんばったので二重丸です」
それからつばめくんは、今度は得意そうな笑顔になって続けます。
「それにね、ぼく、家でも新しい魔法を覚えたんだよ」
その言葉に、わたしは張り切って聞きます。
「えー。何の魔法なの?」
もう2つめを教えてもらえる頃なんだね。
魔法は種類ごとにかけ方が違います。
だから今の種類をちゃんと使いこなせるようになったら、新しいのを教えてもらえるんです。
きちんとかけ方を覚えてから次のを始めた方が、将来も上手に魔法を使っていけるからだそうです。
わたしも今の魔法は失敗することもなくなったし、そんな時期なんだね。
これでここにいるわたし以外のみんなは、2つめを覚えたことになります。
1つめの種類は、夢魔法を教わる子が多いです。
そして2つめからは、人によっていろいろです。
自分で好きなのを選べるんだって。
「交換魔法だよ。
みんなに見てもらおうと思って、練習してきたんだ!」
そうつばめくんは早速見せてくれます。
「つばめのワンダータイム!」
そうバッジをステッキに変えてからね。
「じゃあこの木の枝と、そこの小石を交換するよ」
つばめくんは手のひらに小枝を乗せました。
そしてたくさん落ちている小石の中から1つを選んで、わかりやすい場所に置きます。
わたし達はわくわくしながら、木の枝と小石を見比べます。
それからつばめくんは、木の枝にステッキの先をあてました。
「あの小石と交換!」
するとパッとつばめくんの手の上から、木の枝が消えました。
そして代わりに、小石が乗っています。
小石のあった場所を見ると、ちゃんと木の枝がありました。
まるで手品みたいだけど、こういう魔法なんです。
こうやって物同士を交換できるんだよ。
交換したことで、誰かに迷惑をかけたりしないのがお約束です。
「おおー。完璧」
きりんくんの声の後に、わたしは拍手をします。
「つばめくん。すごーい」
教わったばかりなのに、ばっちりだったね。
そうほめてもらえて、つばめくんはうれしそうです。
「えへへ。こういうふうに、近くの小さい物とならできるようになったよ」
そんなつばめくんの魔法を見て、わたしはうらやましくなりました。
「わたしも新しい種類を習いたいなあ」
新しい種類の魔法のお勉強は、最初できるようになるまでがとっても大変です。
そのやり方を覚えてくれば、みるみる上手になれるんだけどね。
そう大変でも、新しいことができるようになることに憧れます。
わたしがそういうと、つばめくんはにっこり答えてくれました。
「みかんちゃんは魔法も上手だから、きっとすぐに教えてもらえるよ」
「うん。ありがとう」
そうつばめくんに思ってもらってるんだから、教えてもらえる時にはがんばろうって思いました。
その前に、ここでのお勉強をがんばらなくっちゃね。
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