みかんちゃん 関連作

4-美紅ちゃん、ありがとう

ぼくは美紅ちゃんと楽しく過ごしたよ。
美紅ちゃんとってもいい子だし、食事の時見てたけど、美紅ちゃんの家族もとっても素敵だよ。
龍太郎くんも、お父さんも、お母さんも。
早希ちゃんは3年生の弟、良平くんがいるんだ。
だから早希ちゃんと美紅ちゃんは立場が逆なのかな。
みんなとっても楽しそうに話してる。
美紅ちゃんは、ぼくが屋根で眠った時に付いた汚れに気が付いて、ていねいに洗ってくれたよ。
ドライヤ-もかけてもらって、元通り真っ白。
夜は、美紅ちゃんが布団に入れてくれて、一緒に眠ったんだ。
美紅ちゃんは、僕にたくさん話し掛けてくれたよ。
ぼくも心の中でお返事した。
美紅ちゃんはぼくの気持ちをわかってくれて、ちゃんとおしゃべりになったんだよ。
美紅ちゃんとの過ごし方は、早希ちゃんとはまた違っていて、新鮮だったり楽しいけど、美紅ちゃん大好きだけど、でもぼくは早希ちゃんのところに帰らなくちゃ。
ぼくは、早希ちゃんのふくふくなんだもん。
早希ちゃんとぬいぐるみの仲間達がいるあの家がぼくの家なんだよ。
ぼくは美紅ちゃんと過ごしながら、そんな思いを新たにした。

美紅ちゃん家にきた次の日の夜、明日がお休みなため、9時まで起きていられる美紅ちゃん。
(いつもは8時に寝てるみたいだよ)。
ぼくを真面目な顔で見て言った。
「あざらしさん、なんだか元気ないね」
ぼくの気持ちがわかる美紅ちゃんは、理由もわかっているみたい。
悲しそうだけれども、でも元気な表情にして言った。
「あざらしさん、おうちにかえりたいんだよね。かえっていいよ。
みくとしばらくいっしょにいてくれて、ありがとう」
えっ!?
そんな美紅ちゃんの言葉に、ぼくはショックを受けた。
そう言ってもらえるのはうれしいけど、まだ小さいと思っていたみくちゃんが、自分の気持ちを押さえても、ぼくのことを考えてくれたんだってことに。
美紅ちゃんは、ぼくが思っていたよりも大人だったんだ。
ぼくは、みくちゃんのてのひらの上に乗った。
「あざらしさんがいてくれて、みく、すっごくたのしかった。
またあそびにきてね」
ぼくは胸がいっぱいで、涙が出そうだった。
ぼくの1番は早希ちゃんだけど、こんなに仲良くなれた美紅ちゃんと、今お別れするんだって思ったら。
でも、美紅ちゃんの言うとおり、きっとまた会えるよね。
それまで元気でね。
ぼくは、美紅ちゃんにそう言った。
美紅ちゃんは、ぼくが帰れるように窓を開けてくれた。
ぼくは、美紅ちゃんのてのひらからふわふわと飛んだ。
「あざらしさん、だいすきだよ。みく、あざらしさんのこと、ずっと覚えてるから」
窓のふちで一旦止まったぼくに、美紅ちゃんが言ってくれる。
うん、ぼくも美紅ちゃんが大好き。
さようなら!
ぼくは寂しかったから、勢いよく部屋から飛び出した。
でも気持ちがとっても悲しくて、まっすぐ早希ちゃんの家に帰る気分になれなかった。
だから途中の家の屋根に降りて、寂しい気持ちのまま座ってた。
せっかく美紅ちゃんに洗ってもらったのに、また汚れちゃうね。
でも…、お別れってとっても悲しくて。
しばらく泣いていたぼくだけど、いつのまにか眠ってた。


5-イラストレーター レナさん

目を覚ますと、あれから大分時間が経ったみたいで、どの家も明かりが消えてる。
真っ暗になっちゃった。
でもよく見ると、明かりが点いている部屋が1つ。
何であそこの人はまだ起きているんだろう?
ぼくはまた好奇心からそこに向かった。
早希ちゃんは今眠っているだろうから、朝までに帰ればいいって思ったしね。
そこはアパ―ト。
中には女の人がいて、机に紙を置いて、ペンを持ちながら考え込んでいた。
ぼくは、そのおねえさんの机の上に乗った。
なんだかおねえさんは安心できる雰囲気を持っていて、普通にそうしちゃったんだよ。
するとおねえさんはぼくに気付いて、そして普通に声をかけてきた。
「やっ!どうしたの?こんなところに来て」
ぼくはびっくり!
大人で、ぼくにこんなふうに声をかけてくれた人は初めて。
ぼくがおねえさんの正面に行ってみても、全然驚かないで笑ってる。
そして得意そうに言った。
「目がくりくりしてる。驚いてるね。かわいい」
そしてぼくの頭を指でたたく。
ぼくの気持ちまでわかっちゃうなんて、このおねえさんは何者だろう?
ぼくがそう考えていると、ぼくを見ていたおねえさんはさらに指摘した。
「あっ!涙のあと。どうしたの?」
そう優しく聞いてくれてから、おねえさんは自己紹介してくれた。
「あたし、子どもに夢を与えるイラストレ-タ-だからね。わかるんだよ。
あたしはレナ。ね、話してごらん」
レナさんにそう言われたら、ぼくはまた気持ちが熱くなって、一生懸命今までのことを話した。
レナさんはぼくの話をまじめに聞いてくれた。
「幸せを配る旅か…。すごいことをやったんだね」
そして聞き終わると、ぱっと明るい顔をして言った。
「ね、あたしのイラストのモデルにならない?
今ちょうど次のイラストどうしようか考えていたところなんだ。
その美紅ちゃんにも見てもらえるように、いいのにするよ。
そうしたら、ふくふくのことを思い出してさびしくないんじゃない?」
レナさんのその話を聞いて、さっきまでさびしかったぼくの心が明るくなった。
えっ!?そうかな?
美紅ちゃんにずっと覚えていてもらえるんだったら、もう会えなくてもさびしくない気がする。
ぼくはそう思って、レナさんにお願いした。
「よし!じゃあちょっとの間、動かないでいてね」
レナさんはそう言って、鉛筆でスケッチを始めた。
ぼくが絵になるんだと思ったら緊張。
レナさんに言われて、いろいろな向きで座るぼく。
レナさんは、向きを変えたり、見る角度を変えたりして、たくさんのぼくを描いていく。
でもぼくは簡単に描けるみたいで、1つの絵を描くのは短かったからあんまり時間はかからなかったよ。
レナさんはスケッチが出来上がると、晴れ晴れとした顔で言った。
「これをいい絵に仕上げてみせるからね!
ふくふくはもう帰った方がいいんじゃない?
そろそろ夜が明けるよ」
えっ!?ぼく、そんな時間に訪ねてきてたんだ。
驚いた後、でもレナさん、こんな時間まで起きてるんだねえなんて、尊敬もしたりして。
じゃあ早希ちゃんも待ってるし、レナさんの言う通り帰ることにしよう。
ぼくがそう思うと、レナさんは明るく笑って言った。
「ふくふくや早希ちゃんも、ぜひ見てよね!」
そしてまたぼくは感動しちゃうような言葉をもらった。
「それから、さっきふくふくが幸せを配る旅してるんだって言ってたけど、成功だよ!
あたしも、ふくふくといると気持ちが明るくなっちゃったし、モデルをやってくれたおかげでいい絵になりそうだから」
……。何度こんな言葉をもらったんだろう。
確かにぼくは人に「ふくふく」をあげたくて旅に出たけど、こんなにみんなに喜んでもらえるなんて思ってなかった。
それにぼくこそ出会った人みんなに「ふくふく」をもらったんだよ。
美紅ちゃんにも、美紅ちゃんの家族にも。
美紅ちゃんに一緒にいてって言われたからいたぼくだけど、美紅ちゃんと一緒に遊んで、生活して、ぼくも幸せだった。
レナさんだって、ぼくの話を聞いてくれて、絵も描いてくれて…。
おかげでさっきしぼんだ気持ちが、今は大きくふくらんでる。
レナさん、本当にありがとう!
「じゃ、また会えたらいいね。ばいばい」
そう小さく手を振って言うレナさんに、ぼくも小さな手を振って、
レナさん、さようなら!
美紅ちゃんとお別れした時とは正反対の明るい気持ちでレナさんの家を飛び出した。


6-ただいま、早希ちゃん

さあ、早希ちゃんの家まで休まず飛ぶぞ!
ぼく飛ぶの遅いし、早希ちゃんが起きるまでに間に合いたいしね。
力いっぱい飛んでいると、前の方が少しずつ明るくなってきた。
そして地平線の向こう側に顔を出したお陽さま。
うわあ。まぶしい。
ぼく、お陽さまが沈んでいくところは見たことあるけど、出てくるのを見るのは初めてだよ。
初めての朝日に感動して、ぼくはますます元気になった。

早希ちゃん家に帰ってきた頃には、もうお陽さまは体全部を出していた。
これからみんなが起きるんだね。
早希ちゃんの部屋は、大きな窓が開いていた。
ぼくが入れるように開けておいてくれたのかな?
窓の手すりに座って中を見ると、早希ちゃんはまだ眠っていた。
良かった。間に合ったんだ。
こうして部屋の中を見回してみると、なんだかとってもなつかしい。
ぬいぐるみの先輩達は起きていたから、すぐあいさつしたよ。
「ただいま、帰ってきました-」
「お帰り」
するとみんなうれしそうに迎えてくれたんだ。
ぬいぐるみの先輩達の側にも行きたかったけど、早希ちゃんにぼくが帰ってきたのを見つけてほしかったし、ぼくは屋根の上に座ったりして汚れているから、このまま手すりに座っていることにした。
ぼくはここから眠っている早希ちゃんに声をかける。
早希ちゃん、ただいま。
本当にふくふくがあげられたかわからないけど、ぼく一生懸命頑張ってきたよ。
美紅ちゃん家や、レナさんや、いろいろな人に出会って、初めてのこともたくさんあったよ。
ぼくはこの旅をして、幸せって片方があげるものじゃなくて、お互い一緒になるものだって、大きなことも学んだんだ。
早くこの旅のことを早希ちゃんに話したいな。
早希ちゃんには言葉は通じないけど、ぼくのこの変わった気持ちをきっとわかってくれる。
朝日をあびながら、ぼくは早希ちゃんが起きるまでずっと待っていた。


7-たくさんの人に、ふくふくが

朝わたしが目を覚ますと、窓の手すりにふくふくがいた。
みかんちゃんに話を聞いて、いつふくふくが帰ってきてもいいようにって窓を開けておいたの。
でも、まさかこんなに早く帰ってくるなんて思ってなかったから、驚いてうれしくって。
「ふくふく、お帰り」
わたしはふくふくを手のひらに乗せて言った。
胸がいっぱいになって、言えたのはそれだけ。
そのふくふくの瞳を見ると、前とは違うみたい。
たくさんのことを経験すると瞳が変わるって聞いたことあるけど、ふくふくもそうなのかな。
でも大人になったところもあるようだけど、前よりずっと情熱を持った瞳になってる。
わたしはふくふくがどんなことをしてきたのかはわからないけど、とてもいい経験をしてきたのはわかる。
ふくふくが一生懸命やってきたのはわかる。
あれ、その証拠によく見ればふくふく汚れてる。
ちゃんと洗ってあげるからね。
わたしはふくふくに心の中で言って、笑った。
きっとふくふくには通じているよ。

それからわたしはふくふくとずっと一緒。
前みたいに一緒に遊んだり、それからふくふくはいなくなっていた間、何があったのかなって時々考えてみたり。
それから何ヶ月かして、ちょっと不思議なことがあったのよ。
ふくふくのイラストが入った文房具やグッズが、お店で売られるようになったの。
ふくふくは元々お店で売っていたぬいぐるみだから、グッズが出ても不思議はないのかもしれないけど。いきなりなんだもの。
なんでも、あるイラストレ-タ-さんが、ふくふくと同じ種類のぬいぐるみをモデルにして描いたら大人気になったみたい。
そのイラストレ-タ-さんが描いた本、わたしも今度本屋さんに行って買おうと思っているんだ。
わたしの大事なふくふくの仲間がどんなふうに描かれているのか興味あるじゃない?
「ほら、ふくふくの仲間よ」
ふくふくに、早速買った文房具を見せたら、とってもうれしそうだった。
「あ、あざらしさん」
ほら、わたしの目の前にいる幼稚園くらいの女の子も、ふくふくの絵を見て喜んでる。
こんなに大人気になって、良かったね、ふくふく。
ふくふくはそう心に願った通り、今たくさんの人を幸せにしている。

さて、ふくふくの大冒険は、これでおしまい。
わたしは知らなかったけど、あの旅をして、たくさんの人に「ふくふく」をあげられたのね。
すごいよ!ふくふく。
わたしも今ふくふくにたくさんの幸せをもらってる。
あなたにも、この「ふくふく」が届きますように。


おしまい


2003年9~11月制作
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