不思議な夜の おひなさま
そしてまた元気に杖を振り始めます。
「じゃあ説明も終わったことだし、続きを始めるか」
すると話していた間止まっていたおひなさま達が、また動き出しました。
「今日は特別。
人間のお嬢ちゃんも一緒に踊ろうぜ♪」
そのポッコロさんの言葉に、2人でうなずきます。
「すごいね。魔法使いのわたしにとっても、こういうことってあんまりないんだよ」
そうわたしは張り切って、真美ちゃんにいいます。
おひなさま達と一緒に遊べるなんて、今までのがんばりにもお釣りが出るくらい素敵なことです。
そうしておひなさま達のパーティーに、真美ちゃんとわたしも混ぜてもらうことになりました。
おひなさま達と一緒に跳んだり跳ねたりして、とっても楽しいです。
まるでトランポリンでも使っているみたいだね。
お友達と遊ぶ時だって、普通こんなには大はしゃぎしません。
でも始めてすぐに、とっても大変なことに気が付きました。
「ああっ!夜中だから、今まで一生懸命静かにしていたんだよね。
なのにこんなに音を立てていたら、絶対真美ちゃんのお母さん達に聞こえちゃうよ」
わたしは大慌てです。
いろいろお話を聞いている間に、すっかり忘れていました。
もうこれだけ騒げば、今から静かにしても遅いんだけどね。
お母さん達が、びっくりして降りてきちゃうかなあ。
そうしたら真美ちゃんのお母さんにも、こうやって動いているおひなさま達に会わせてあげることができます。
だからそれもいいのかもしれません。
子どもの頃からずっとおひなさまを大事に思っていた人だもんね。
きっとわたし達よりももっと感動するんじゃないかなあと思います。
でもやっぱり、この状況はなんだか気まずいです。
夜中にこっそり、みんなで遊んでいたっていうことがね。
お泊まりに来たのも実はこのためだったんですって、説明することになります。
そう魔法使いとしての気持ちと、わたし自身の事情で板挟みです。
困るわたしに、ポッコロさんは落ち着いて教えてくれます。
「お雛さん達を動かしてからは、もちろん音が外に聞こえないようにしてるさ。
でないと、必ずどこかで見つかっちまうよ」
そう聞いて、わたしはほっと息をつきます。
そっか、そうだよね。よく考えれば。
こういうパーティーを見たって、誰からも聞いたことないもんね。
妖精さんはいろんな力を持っているんだなあ。
わたしも状態魔法を覚えれば、そういうこともできるようになります。
そう考えて、わたしははっとしました。
そうだ、魔法!わたしも魔法使いなんだもん。
せっかくの機会がもっと楽しくなるように、考えなくっちゃ。
今の遊びから、わたしはすぐに思いつきました。
「ミラクル・ドリーミング」
わたしはいつもかけているペンダントを、大きな魔法が使えるようになるステッキに変えます。
そして何か踊る曲をかけてくださいってお願いしました。
するとCDラジカセが出てきて、音楽が流れ始めます。
ゆっくりとしたテンポの曲でした。
これなら踊りやすそうです。
わたしはみんなに呼びかけます。
「みんな、曲をかけたので踊ってみてね」
そんなわたしの声におひなさま達が振り向きます。
そして楽しそうに、音楽に会わせて踊り始めます。
やっぱりおひなさま達は、動くのが大好きみたいだね。
普段は大人しく立っているからかな。
真美ちゃんはおひなさま達に誘われて、一緒に踊っています。
本当にうれしそうな、とびっきりの笑顔をしているよ。
大好きなおひなさま達と一緒に遊べて良かったね。
そうわたしもうれしい気分になって、そんな真美ちゃんを見ていました。
そんなわたしのところにも三人官女さんが来て、誘ってくれます。
真美ちゃん家のおひなさま達にとってわたしは、初めて会ったようなものです。
だから誘ってもらえて、さらにうれしい気持ちになりました。
でも自分で音楽をかけてみたのに、わたし達は踊り方を知りませんでした。
おひなさま達が教えてくれるのを、まねしてやってみます。
おひなさま達はうなずいてくれていたから、なんとか踊れていたのかな?
どっちにしても、とっても楽しかったです。
次々流れる音楽に合わせて、踊り方を変えていきました。
ゆっくりした曲に、元気な曲といろいろあったよ。
そしてそろそろ踊り疲れてきた頃、五人囃子さん達が手を上げました。
するとみんな踊るのを止めて、静かになって五人囃子さんを見ます。
わたしもCDを止めました。
何かな?
不思議に思っていたら、なんと五人囃子さん達が、それぞれの楽器で演奏を始めてくれたのです。
うわあ。あの楽器も、今は本物になっているんだね。
笛も鼓も心に響く音だし、みんなとっても上手です。
わたしと真美ちゃんは、座って聴き入りました。
わたしは今までに聴いたことのないような大人の曲だったけれど、なんだかわくわくしたよ。
だってこういう楽器の音って、なかなか聴けないものだよね。
日本の伝統の楽器だけの演奏って、テレビでなら見かけたことがあります。
でも直接っていうのは機会がなかったです。
だから2つの意味で貴重な経験でした。
演奏が終わると、みんなで大きな拍手をします。
ポッコロさんも清々しい顔をして、息をつきました。
「何ともいい演奏だったな。
五人囃子がこういうふうに演奏してくれるなんて、珍しいんだぜ。
聴けてよかったな、お嬢ちゃん」
真美ちゃんもわたしもうなずきます。
「本当に素敵だったね」
そう2人で笑い合いました。
でもポッコロさんは、今度は困った顔になります。
「ありゃあ。今日は長くいすぎたな」
その言葉に時計を見ると、ポッコロさんに会ってから1時間以上経っていました。
針が3時に上ろうとしています。
夜中の3時って、お化けのおやつの時間だよね。
説明をしてもらったり、色んな曲で踊ったり、演奏を聴いたり、盛りだくさんだったもんね。
楽しくて、いつの間にかこんな時間になっていました。
「みんな戻れー」
そうポッコロさんが、少し急いで声をかけます。
するとお人形さん達はまず、着物をキレイに直し始めました。
1人で直すのが難しいことはお互い手伝って、きちんと整えていっています。
着物って、動き回るとすぐにくずれてきちゃうものだもんね。
だからわたしには難しくて、七五三でしか着たことがないんです。
終わったお人形さんから、ぴょっこんぴょっこんとひな壇に戻り始めます。
でもその前に、みんな真美ちゃんのところに行って、握手をしていくのでした。
そのことに真美ちゃんは感動して、泣いています。
「みんな、ありがとう。また会おうね」
今までこういうふうに会ったことはなくても、心は通じていたことのわかる場面です。
そしてひな人形さん達は真美ちゃんの次に、そう見ているわたしのところにも来て、手を差し出してくれました。
「わあ、わたしも?ありがとう」
小さくてキレイな両手で、人差し指を握ってくれます。
お人形だから本当は、おひなさま達の手はひんやりとしているはずです。
でもその時は温かく感じました。
友達の輪の中にわたしも入れてもらえて、本当にうれしかったです。
そうしておひなさま達がみんな自分の位置に戻りました。
するとポッコロさんは、杖の端と端を両手で持って高く上げます。
するとみんなぴたっと止まりました。
これが魔法の止め方なんだね。
みんなすっかり普通のお人形になりました。
でも、あれ?
よく見ると、おひなさま達のほっぺがほんのり赤いです。
それに今まで見た時よりも少しだけ、優しい幸せそうな表情をしています。
そう気付いたわたしに、ポッコロさんが教えてくれます。
「持ち主のお嬢ちゃんと遊べて、よっぽどうれしかったんだな。
時間が経つと、だんだん元の顔に戻っていくよ」
そうなんだ。だったら明日の朝、真美ちゃんのお母さんにもわからないよね。
真美ちゃんはそんなおひなさま達をうれしそうにながめていました。
おひなさま達と同じように、そんな真美ちゃんのほっぺも幸せそうな桃色になっているよ。
元気に動き回ったから、わたしもそうなっているのかな?
それから真美ちゃんは、おひなさま達を1つずつ手に取り始めます。
「でも位置はちゃんとしておかないとね。
みんな、どうもずれてるんだもん。
お母さんにも不思議に思われちゃうよ」
そういいながら大切そうに、そしてキレイに並べています。
真美ちゃんは毎日そうしていただけあって、慣れているようです。
わたしから見ると、それはちょっとの差のように感じます。
でも真美ちゃんには、おひなさま達の場所はここって、ちゃんとわかるんだね。
真美ちゃんが並べている間、ポッコロさんは黙って待っていました。
そして直し終わった真美ちゃんが満足そうにうなずくと、ポッコロさんさんはいいました。
「じゃあ、オレは帰るな。
そうだ!お嬢ちゃんの名前は?」
そう真美ちゃんを見つめて聞きます。
「真美です」
そうきちんと答えると、ポッコロさんは優しくいいました。
「真美ちゃん、これからも雛人形を大事にな。
オレ達妖精にとっては、人形を大事にしてくれる子がいてくれることが、何よりうれしいんだ」
そうにっこり笑います。
そうだよね。お人形さんの幸せって、持っている人がどれだけ大事に思ってくれているかっていうことが大きいもんね。
わたしもこれからもっともっと、物を大切に思うようにしよう。
今日改めてそう思いました。
ポッコロさんは、そう考えているわたしに向き直ります。
「妖精のお嬢ちゃんは?」
「わたしはみかんです」
そう答えると、ポッコロさんはうなずいて元気にいいました。
「みかんちゃんか。また会うこともあるかもな。
お互い、この仕事をがんばろうぜ」
「はい!」
そう仲間扱いしてもらえたことがうれしくて、わたしは大きくうなずきます。
これからもみんなを助けられるように、わたしもがんばるよ。
そして本当に、またポッコロさんに会えるといいな。
一緒にいると楽しかったし、とってもいい人だよね。
わたしはそう心から思いました。
そのポッコロさんは、目を閉じて腕を組みます。
そして今度はわたし達2人にいいました。
「それにしても、よく小さいお嬢ちゃん達が、こんな時間まで起きていられたもんだ」
真美ちゃんがそれに元気に答えます。
「とっても気になったから、がんばりました。
みかんちゃんにも付き合ってもらえたし」
わたしとポッコロさんの思うことは違うけど、一緒にうなずきます。
わたしも本当にその2つの理由があったから、がんばれたんだよね。
その謎が楽しい理由で、とっても清々しい気分になれました。
そう聞いて、ポッコロさんはわたし達に感心したようでした。
でもわたしに対しては、ちょっと勘違いをしています。
「ふうん。大したもんだ。
2人とも8歳くらいだろ?」
そういわれたわたしは今までの笑顔から、まじめな顔になります。
「わたしは10歳だよ。小さく見えるって、よくいわれるけど」
本当にわたしって、こういっつも本当の歳より小さく思われちゃうんです。
それがなぜなのかはわからないんだけどね。
小さい子扱いされるのが嫌なわけじゃないけど、わたしってそんなに見えないかなあ?
そうわたしはちょっとむくれました。
そんなわたしに、真美ちゃんは困った顔になります。
そしてポッコロさんは慌てて取り直しました。
「いやあ、悪い悪い。
でもいいじゃねえか。歳より若く見えるって。
じゃあさ、オレだっていくつに見える?」
そう質問されて、改めてポッコロさんをよーく見てみます。
おひげもあるし、しっかりとしたおじさんの声だから…。
「40歳くらい?」
そう答えると、ポッコロさんは得意そうにいいました。
「もう80年は生きてるよ」
その返事に、わたしはとっても驚きました。
わたしが答えたのの倍だあ。
「ええっ?そうなの?」
とてもそうは見えません。
普通の人と比べて考えてみると、上に見ても50歳にも見えないよ。
するとポッコロさんは、それが当たり前のことのようにうなずきます。
「妖精って、若く見える方が多いんだぜ。
なんたって周りから愛されるかわいさのあった方が、やりやすい仕事だしな。
だろ?みかんちゃん」
そうおちゃめにウインクします。
そういわれて、わたしもやっと笑ってうなずきました。
うん、そういっているポッコロさんも、動きなどがかわいいです。
わたしもそうかわいくみえていていわれているんだったら、いいんだけどな。
「だからみかんちゃんも、周りからそういわれたら、ほめ言葉だと思いな」
わたしがその言葉にうなずくと、ポッコロさんは安心したようでした。
それからはっとした顔になって、慌てていいます。
「おっと、本当にもう行かなきゃな」
お別れの前に、真美ちゃんが最後に聞きます。
「ポッコロさん、また来年もおひなさま達を動かしに来てくれるんだよね?」
ポッコロさんは笑顔で、大きくうなずきます。
「ああ。絶対に毎年来るぜ。それじゃあな」
その言葉が、この素敵な出来事の最後の記憶でした。
「じゃあ説明も終わったことだし、続きを始めるか」
すると話していた間止まっていたおひなさま達が、また動き出しました。
「今日は特別。
人間のお嬢ちゃんも一緒に踊ろうぜ♪」
そのポッコロさんの言葉に、2人でうなずきます。
「すごいね。魔法使いのわたしにとっても、こういうことってあんまりないんだよ」
そうわたしは張り切って、真美ちゃんにいいます。
おひなさま達と一緒に遊べるなんて、今までのがんばりにもお釣りが出るくらい素敵なことです。
そうしておひなさま達のパーティーに、真美ちゃんとわたしも混ぜてもらうことになりました。
おひなさま達と一緒に跳んだり跳ねたりして、とっても楽しいです。
まるでトランポリンでも使っているみたいだね。
お友達と遊ぶ時だって、普通こんなには大はしゃぎしません。
でも始めてすぐに、とっても大変なことに気が付きました。
「ああっ!夜中だから、今まで一生懸命静かにしていたんだよね。
なのにこんなに音を立てていたら、絶対真美ちゃんのお母さん達に聞こえちゃうよ」
わたしは大慌てです。
いろいろお話を聞いている間に、すっかり忘れていました。
もうこれだけ騒げば、今から静かにしても遅いんだけどね。
お母さん達が、びっくりして降りてきちゃうかなあ。
そうしたら真美ちゃんのお母さんにも、こうやって動いているおひなさま達に会わせてあげることができます。
だからそれもいいのかもしれません。
子どもの頃からずっとおひなさまを大事に思っていた人だもんね。
きっとわたし達よりももっと感動するんじゃないかなあと思います。
でもやっぱり、この状況はなんだか気まずいです。
夜中にこっそり、みんなで遊んでいたっていうことがね。
お泊まりに来たのも実はこのためだったんですって、説明することになります。
そう魔法使いとしての気持ちと、わたし自身の事情で板挟みです。
困るわたしに、ポッコロさんは落ち着いて教えてくれます。
「お雛さん達を動かしてからは、もちろん音が外に聞こえないようにしてるさ。
でないと、必ずどこかで見つかっちまうよ」
そう聞いて、わたしはほっと息をつきます。
そっか、そうだよね。よく考えれば。
こういうパーティーを見たって、誰からも聞いたことないもんね。
妖精さんはいろんな力を持っているんだなあ。
わたしも状態魔法を覚えれば、そういうこともできるようになります。
そう考えて、わたしははっとしました。
そうだ、魔法!わたしも魔法使いなんだもん。
せっかくの機会がもっと楽しくなるように、考えなくっちゃ。
今の遊びから、わたしはすぐに思いつきました。
「ミラクル・ドリーミング」
わたしはいつもかけているペンダントを、大きな魔法が使えるようになるステッキに変えます。
そして何か踊る曲をかけてくださいってお願いしました。
するとCDラジカセが出てきて、音楽が流れ始めます。
ゆっくりとしたテンポの曲でした。
これなら踊りやすそうです。
わたしはみんなに呼びかけます。
「みんな、曲をかけたので踊ってみてね」
そんなわたしの声におひなさま達が振り向きます。
そして楽しそうに、音楽に会わせて踊り始めます。
やっぱりおひなさま達は、動くのが大好きみたいだね。
普段は大人しく立っているからかな。
真美ちゃんはおひなさま達に誘われて、一緒に踊っています。
本当にうれしそうな、とびっきりの笑顔をしているよ。
大好きなおひなさま達と一緒に遊べて良かったね。
そうわたしもうれしい気分になって、そんな真美ちゃんを見ていました。
そんなわたしのところにも三人官女さんが来て、誘ってくれます。
真美ちゃん家のおひなさま達にとってわたしは、初めて会ったようなものです。
だから誘ってもらえて、さらにうれしい気持ちになりました。
でも自分で音楽をかけてみたのに、わたし達は踊り方を知りませんでした。
おひなさま達が教えてくれるのを、まねしてやってみます。
おひなさま達はうなずいてくれていたから、なんとか踊れていたのかな?
どっちにしても、とっても楽しかったです。
次々流れる音楽に合わせて、踊り方を変えていきました。
ゆっくりした曲に、元気な曲といろいろあったよ。
そしてそろそろ踊り疲れてきた頃、五人囃子さん達が手を上げました。
するとみんな踊るのを止めて、静かになって五人囃子さんを見ます。
わたしもCDを止めました。
何かな?
不思議に思っていたら、なんと五人囃子さん達が、それぞれの楽器で演奏を始めてくれたのです。
うわあ。あの楽器も、今は本物になっているんだね。
笛も鼓も心に響く音だし、みんなとっても上手です。
わたしと真美ちゃんは、座って聴き入りました。
わたしは今までに聴いたことのないような大人の曲だったけれど、なんだかわくわくしたよ。
だってこういう楽器の音って、なかなか聴けないものだよね。
日本の伝統の楽器だけの演奏って、テレビでなら見かけたことがあります。
でも直接っていうのは機会がなかったです。
だから2つの意味で貴重な経験でした。
演奏が終わると、みんなで大きな拍手をします。
ポッコロさんも清々しい顔をして、息をつきました。
「何ともいい演奏だったな。
五人囃子がこういうふうに演奏してくれるなんて、珍しいんだぜ。
聴けてよかったな、お嬢ちゃん」
真美ちゃんもわたしもうなずきます。
「本当に素敵だったね」
そう2人で笑い合いました。
でもポッコロさんは、今度は困った顔になります。
「ありゃあ。今日は長くいすぎたな」
その言葉に時計を見ると、ポッコロさんに会ってから1時間以上経っていました。
針が3時に上ろうとしています。
夜中の3時って、お化けのおやつの時間だよね。
説明をしてもらったり、色んな曲で踊ったり、演奏を聴いたり、盛りだくさんだったもんね。
楽しくて、いつの間にかこんな時間になっていました。
「みんな戻れー」
そうポッコロさんが、少し急いで声をかけます。
するとお人形さん達はまず、着物をキレイに直し始めました。
1人で直すのが難しいことはお互い手伝って、きちんと整えていっています。
着物って、動き回るとすぐにくずれてきちゃうものだもんね。
だからわたしには難しくて、七五三でしか着たことがないんです。
終わったお人形さんから、ぴょっこんぴょっこんとひな壇に戻り始めます。
でもその前に、みんな真美ちゃんのところに行って、握手をしていくのでした。
そのことに真美ちゃんは感動して、泣いています。
「みんな、ありがとう。また会おうね」
今までこういうふうに会ったことはなくても、心は通じていたことのわかる場面です。
そしてひな人形さん達は真美ちゃんの次に、そう見ているわたしのところにも来て、手を差し出してくれました。
「わあ、わたしも?ありがとう」
小さくてキレイな両手で、人差し指を握ってくれます。
お人形だから本当は、おひなさま達の手はひんやりとしているはずです。
でもその時は温かく感じました。
友達の輪の中にわたしも入れてもらえて、本当にうれしかったです。
そうしておひなさま達がみんな自分の位置に戻りました。
するとポッコロさんは、杖の端と端を両手で持って高く上げます。
するとみんなぴたっと止まりました。
これが魔法の止め方なんだね。
みんなすっかり普通のお人形になりました。
でも、あれ?
よく見ると、おひなさま達のほっぺがほんのり赤いです。
それに今まで見た時よりも少しだけ、優しい幸せそうな表情をしています。
そう気付いたわたしに、ポッコロさんが教えてくれます。
「持ち主のお嬢ちゃんと遊べて、よっぽどうれしかったんだな。
時間が経つと、だんだん元の顔に戻っていくよ」
そうなんだ。だったら明日の朝、真美ちゃんのお母さんにもわからないよね。
真美ちゃんはそんなおひなさま達をうれしそうにながめていました。
おひなさま達と同じように、そんな真美ちゃんのほっぺも幸せそうな桃色になっているよ。
元気に動き回ったから、わたしもそうなっているのかな?
それから真美ちゃんは、おひなさま達を1つずつ手に取り始めます。
「でも位置はちゃんとしておかないとね。
みんな、どうもずれてるんだもん。
お母さんにも不思議に思われちゃうよ」
そういいながら大切そうに、そしてキレイに並べています。
真美ちゃんは毎日そうしていただけあって、慣れているようです。
わたしから見ると、それはちょっとの差のように感じます。
でも真美ちゃんには、おひなさま達の場所はここって、ちゃんとわかるんだね。
真美ちゃんが並べている間、ポッコロさんは黙って待っていました。
そして直し終わった真美ちゃんが満足そうにうなずくと、ポッコロさんさんはいいました。
「じゃあ、オレは帰るな。
そうだ!お嬢ちゃんの名前は?」
そう真美ちゃんを見つめて聞きます。
「真美です」
そうきちんと答えると、ポッコロさんは優しくいいました。
「真美ちゃん、これからも雛人形を大事にな。
オレ達妖精にとっては、人形を大事にしてくれる子がいてくれることが、何よりうれしいんだ」
そうにっこり笑います。
そうだよね。お人形さんの幸せって、持っている人がどれだけ大事に思ってくれているかっていうことが大きいもんね。
わたしもこれからもっともっと、物を大切に思うようにしよう。
今日改めてそう思いました。
ポッコロさんは、そう考えているわたしに向き直ります。
「妖精のお嬢ちゃんは?」
「わたしはみかんです」
そう答えると、ポッコロさんはうなずいて元気にいいました。
「みかんちゃんか。また会うこともあるかもな。
お互い、この仕事をがんばろうぜ」
「はい!」
そう仲間扱いしてもらえたことがうれしくて、わたしは大きくうなずきます。
これからもみんなを助けられるように、わたしもがんばるよ。
そして本当に、またポッコロさんに会えるといいな。
一緒にいると楽しかったし、とってもいい人だよね。
わたしはそう心から思いました。
そのポッコロさんは、目を閉じて腕を組みます。
そして今度はわたし達2人にいいました。
「それにしても、よく小さいお嬢ちゃん達が、こんな時間まで起きていられたもんだ」
真美ちゃんがそれに元気に答えます。
「とっても気になったから、がんばりました。
みかんちゃんにも付き合ってもらえたし」
わたしとポッコロさんの思うことは違うけど、一緒にうなずきます。
わたしも本当にその2つの理由があったから、がんばれたんだよね。
その謎が楽しい理由で、とっても清々しい気分になれました。
そう聞いて、ポッコロさんはわたし達に感心したようでした。
でもわたしに対しては、ちょっと勘違いをしています。
「ふうん。大したもんだ。
2人とも8歳くらいだろ?」
そういわれたわたしは今までの笑顔から、まじめな顔になります。
「わたしは10歳だよ。小さく見えるって、よくいわれるけど」
本当にわたしって、こういっつも本当の歳より小さく思われちゃうんです。
それがなぜなのかはわからないんだけどね。
小さい子扱いされるのが嫌なわけじゃないけど、わたしってそんなに見えないかなあ?
そうわたしはちょっとむくれました。
そんなわたしに、真美ちゃんは困った顔になります。
そしてポッコロさんは慌てて取り直しました。
「いやあ、悪い悪い。
でもいいじゃねえか。歳より若く見えるって。
じゃあさ、オレだっていくつに見える?」
そう質問されて、改めてポッコロさんをよーく見てみます。
おひげもあるし、しっかりとしたおじさんの声だから…。
「40歳くらい?」
そう答えると、ポッコロさんは得意そうにいいました。
「もう80年は生きてるよ」
その返事に、わたしはとっても驚きました。
わたしが答えたのの倍だあ。
「ええっ?そうなの?」
とてもそうは見えません。
普通の人と比べて考えてみると、上に見ても50歳にも見えないよ。
するとポッコロさんは、それが当たり前のことのようにうなずきます。
「妖精って、若く見える方が多いんだぜ。
なんたって周りから愛されるかわいさのあった方が、やりやすい仕事だしな。
だろ?みかんちゃん」
そうおちゃめにウインクします。
そういわれて、わたしもやっと笑ってうなずきました。
うん、そういっているポッコロさんも、動きなどがかわいいです。
わたしもそうかわいくみえていていわれているんだったら、いいんだけどな。
「だからみかんちゃんも、周りからそういわれたら、ほめ言葉だと思いな」
わたしがその言葉にうなずくと、ポッコロさんは安心したようでした。
それからはっとした顔になって、慌てていいます。
「おっと、本当にもう行かなきゃな」
お別れの前に、真美ちゃんが最後に聞きます。
「ポッコロさん、また来年もおひなさま達を動かしに来てくれるんだよね?」
ポッコロさんは笑顔で、大きくうなずきます。
「ああ。絶対に毎年来るぜ。それじゃあな」
その言葉が、この素敵な出来事の最後の記憶でした。
