不思議な夜の おひなさま
[chapter:4 おひなさまと妖精さん]
下は電気が点いてなくて真っ暗です。
わたし達はリビングに行くと、おひなさまがある隣の部屋のふすまをそっと少しだけ開けてみました。
まだ何も起きてないみたいだね。
何も変わっていないのを確認すると、少しすき間を開けたままにしておきます。
これから何か起きた時に、すぐにここから覗けるようにね。
それから背中をおひなさまの部屋のふすまに向けて、すぐ側に座りました。
できるだけ近くにいて、小さな音でも聞こえるようにです。
電気を点けると向こうが気にして、その不思議なことが起きなくなるかもしれません。
だから、窓からのお月様のぼんやりとした明るさの中で待っています。
お話もできないので、2人でどきどきしながら静かにしていました。
これは大分大変だったけど、一生懸命がまんです。
時々真美ちゃんと顔を見合わせて、瞳と瞳でがんばろうねってはげましあいました。
緊張していたので、2人とも眠くなりませんでした。
そしてがんばったかいがありました。
大分時間が経って、隣の部屋から、何かがトントンと跳ねているような音が小さく聞こえてきたのです。
時計を見てみると、1時を少し過ぎたところです。
──何かな?
わたし達は向こうに見つからないように、そーっとふすまに近付きました。
そしてすき間からやっと見えるギリギリのところから覗いてみました。
するとなんとそこで、小さな人が1人、向こうを向いて跳ねていたのです。
着ているお洋服も長い帽子もみんな緑色で、10㎝くらいの大きさの人かな。
おひなさま達を見ているみたいです。
わたしはその姿を見て思い当たりました。
ああっ!あれは……、妖精さん!
妖精さんを知っているわたしも驚いたし、真美ちゃんはもっと驚いています。
それはそうだよね。
普通の子は妖精さんが本当にいるということに、まずびっくりします。
でもこの状況だと、説明している余裕はありません。
それにわたしも、なんで妖精さんが来たのかわからないし。
でもおひなさま達が動いていることに、きっと関係があるんだよね。
わたし達はこれから何が起こるのか知りたくて、まだなんとか静かに見ています。
その妖精さんはさっと杖を取り出して、指揮をする時のように振り始めました。
見ていると楽しくなってくるような、元気な振り方です。
するとなんと、おひなさま達みんなが動き出し始めました。
そしてぴょっこんぴょっこんと跳ねながら、ひな壇を降りてきたのです。
ひな壇の前に、ずらっとおひなさま達が勢ぞろいします。
こうやって妖精さんの力で動いてたんだあ。
わたしは納得してうなずきました。
普通に考えると不思議だったけど、妖精さんの力があれば簡単なことです。
でもまさか妖精さんがやっていたとは、思いつけませんでした。
妖精さんはそんなおひなさま達を見て、満足そうにうなずいています。
それから突然、わたし達に話しかけました。
「そこに隠れているのはわかってるんだぜ。妖精さん」
おじさんのような声で、落ち着いた言い方です。
妖精さんが手を下ろすと、おひなさま達もまたぴたっと止まります。
そう気付かれていたことに、わたしはとってもびっくりしました。
一生懸命大人しくしていたけど、やっぱり不思議な力を持った人にはみつかっちゃうね。
そうちょっと困った気持ちにもなりました。
でもその妖精さんが思い当たる人だったこともあって、わたしは笑顔で出て行きます。
「はーい、そうです。はじめまして、妖精さん」
すると妖精のおじさんからも笑って返されました。
「おう、はじめまして。妖精のお嬢ちゃん」
さっきまで緊張した気持ちだったのに、そういきなり仲良くあいさつをしているわたし達です。
でもどの妖精さんに会った時も、いつもこんなふうなんだよ。
そんなわたし達のところに、真美ちゃんも出てきて聞きました。
「みかんちゃんは、その妖精さんを知ってるんだね?
それに、魔法使いのことも妖精っていうの?」
その声に振り返った妖精さんは、真美ちゃんにも驚いた様子がありませんでした。
そしてその質問に元気に答えてくれます。
「おうよ。お嬢ちゃんは人間だな。
本当は人間にはみつかっちゃいけないんだけど、まあこのひな壇の持ち主だからいいか」
そう妖精さんはひな壇を振り返ってみて、自分で納得していました。
それから詳しく説明をしてくれます。
「神様から特別な力を与えられて、助けを仕事とする者を妖精っていうんだ。
この世界に生まれたみんなを幸せにするために、どの妖精も日々がんばっている。
で、担当する者が振り分けられていて、同じ担当同士と、担当されているものには魔法使いと呼ばれるのさ。
担当が違う相手のことは、敬意を込めて『妖精さん』と呼ぶことになっている、そういうわけよ」
妖精さんはそうすらすらと、上手に教えてくれました。
つまりわたしの場合は動物担当なので、その動物みんなや、お母さん達同じ仲間からは魔法使いと呼ばれます。
その他からは妖精さんと呼ばれるということです。
「妖精さん」って呼ばれるのは慣れていないから、照れちゃうけどね。
それから妖精のおじさんは付け加えます。
「自分とは違う妖精さんのことは話に聞いている。
だから実際に会ったことがなくてもわかるんだ。
それに仲間だから、初対面でもこうやって仲がいいんだな」
わたしもその言葉に大きくうなずきます。
うん、わたしもそう妖精さんのことを聞いていたから、わかったんだよ。この妖精さんは、かわいい格好をしているよね。
絵本に出てくる小人さんのようなその姿を、魔法使いの本で見たんです。
その時から気になっていたから、こうやって会えてとってもうれしいな。
妖精さんの説明には難しい言葉もあったけれど、真美ちゃんはちゃんとわかったようです。
「そっか。みかんちゃんと妖精さんはその担当が違っているだけで、おんなじことをしている仲間なんだね」
のみこみが早い真美ちゃんに、妖精さんは元気にうなずきます。
それから自己紹介をしてくれました。
「その通り!オレはポッコロ。人形担当の魔法使いさ」
人形担当?
妖精さんに出会ったことにびっくりして、少し忘れていました。
でもそう聞いて今回の目的を思い出します。
それでわたしは早速質問しました。
「毎日おひなさま達を動かしていたのは、ポッコロさんだよね?
わたし達は今日、それを確かめるために来たんだよ」
そういうと、ポッコロさんは困った顔になって、片方の手を頭にやりました。
「あちゃー。ばれてたのか。
お雛さん達、喜びすぎて、ちゃんと戻れなかったんだな」
そう全然否定しません。
その言葉に、わたしと真美ちゃんは顔を見合わせました。
それから声も揃っていいます。
「じゃあ、やっぱり……!」
ポッコロさんはうなずいて、はっきりいいました。
「そうだよ。オレが毎晩こうやって、お雛さん達が動ける魔法をかけていたのさ」
やっぱりおひなさま達自身じゃなくて、外からの力だったんだね。
そうわたしは自分の勘が当たっていたことがわかりました。
ポッコロさんはその理由を説明してくれます。
「雛人形ってほとんどしまわれていて、外に出ていられる時間が少ないだろ?
そんな湿気た生き方だけじゃなくて、外で元気に遊ばせてやっているのさ」
なるほど。おひなさま達にもそういう楽しい時間がなくちゃね。
クラスのみんなとお話したこともあって、わたしはよくよくうなずきます。
「みんなで何をしているの?」
そうたずねると、ポッコロさんは明るい顔になって答えてくれます。
「いつもは動けずに立ちっぱなしでいるだろ?
だから踊ったり走ったり、そりゃあもう元気だな」
「そうなんだあ」
おひなさま達が元気に遊んでいるのを想像してみます。
うん、とっても楽しそうです。
その様子を思い描いて、わたしは笑顔になりました。
「でもどうして、わたしの家のおひなさまが毎日動いていたんですか?」
真美ちゃんが不思議そうにたずねます。
そうだよね。おひなさまってたくさんの家にあります。
それでも毎日このおひなさまのところに来ているのは、何か理由があるんだよね。
するとポッコロさんは大きくうなずいて、おひなさま達を見ながらいいました。
「それは、ここの雛人形があんまり立派だったから…、つい通い詰めちまった。
どうせ遊ぶなら、大人数の方が楽しいなーと思ってよ」
そう聞いて、わたし達は納得しました。
ここのひな人形は、他のお家よりもずっとたくさんいるもんね。
だからなんだあ。
確かにみんなで遊ぶ方が楽しいです。
今回も心配してくれたクラスのみんなを思い出して、わたしはうなずきます。
今こうやっていることも、そんなみんなに後でお話しなくっちゃね。
妖精さんのしわざだったよっていったら、みんなもびっくりするだろうなあ。
そう考えて、わたしはちょっと楽しくなりました。
それからポッコロさんは、意外な言葉も付け加えます。
「もちろん他の家も見回ってるぜ。
1年に1回、全部の家の雛人形を動かす約束だからな」
そのお話に、わたしはびっくりしてたずねました。
「じゃあ、わたしの家にも来たの?」
するとポッコロさんはしっかりうなずきます。
「ああ。今行ってきたところだよ。
今日は芽吹町の日だからな」
芽吹町とは、わたしの住んでいる町です。
ポッコロさんは、わたしの家の場所も知っているんだね。
そう聞いて、わたしはうれしかったのと残念な気持ちがありました。
うれしいのは、わたしの家のおひなさまも元気に遊べてよかったねということ。
残念なのは、そこにわたしがいなかったことです。
動いたわたしのおひなさま達を見てみたかったなあ。
でも熱心な真美ちゃんがいたからこそ、こうやってお人形の妖精さんに会えたんだもんね。
じゃなかったら、今年もその時間は気付かないまま、寝ていたはずです。
だからそういうことがわかっただけでも良かったなって、思い直しました。
来年はぜひ会ってみたいものです。
そうわたしは、これからに期待しました。
そしてポッコロさんは、もう1つの理由を話してくれます。
「それにここの雛人形さん達、とっても明るくって幸せそうなんだよな。
中には、せっかく動けるようになっても、元気のないのがいるんだ。
せっかく出してもらっても、持ち主に見向きもされないとさびしいんだな」
そうポッコロさんもさびしそうな顔になります。
ポッコロさんは、お人形さん達のための魔法使いです。
だからおひなさま達の気持ちがよくわかるんだろうね。
お人形さんだけじゃなくて、こうやって心がある物は実は多いんです。
わたし達から見ると物だと思う物にも、心はあったりするんだよ。
そういう物達の気持ちがわかる魔法もあります。
それは難しいので、わたしのおじいちゃんがちょっと使えるくらいなんだけどね。
わたしもその気持ちを教えてもらったことがあります。
やっぱりね、みんなに大事にしてもらえると、その物達はとっても喜んでいるようです。
だからそれを知っている魔法使いのわたしも、みんなに物を大切にしてもらいたいなあって思います。
そうしたらわたし達人だけじゃなくて、本当にみんなで幸せな気持ちになれるよね。
そういうふうにつられて、わたしもまじめに思いました。
それからポッコロさんは、さっきとは違う、うれしそうな顔になっていいます。
「…だけど、この雛人形さん達はよっぽど大事にされてるってことだ!
オレもそんなお雛さん達に会うと、うれしくってよ」
その言葉にわたしと真美ちゃんは、またおひなさまを見ます。
そういわれてみると、みんなとってもおだやかな顔をしているのに気が付きます。
真美ちゃんとお母さんの2人が、おひなさま達をとっても大事にしていることを知っているから納得です。
あれだけ大事に思ってくれている人が2人もいるんだから、本当に幸せだよね。
そして妖精さんも気に入っちゃうくらい、立派な上に心も素敵なおひなさまなんだね。
真美ちゃんはそう聞いて、とってもうれしそうでした。
そしておひなさまの真ん前に行くと、感動している様子でいいました。
「そうなんだ。みんなに、大好きってちゃんと伝わってたんだね」
そうじーんとしている真美ちゃんの様子から、本当におひなさま達を大事に思っていたのが伝わってきます。
わたしはそんな真美ちゃんを見ていて、今やっと気が付きました。
そっか。よく考えてみるとそうなんだよね。
ポッコロさんのお話によると、みんなのお家を回っているんだよね。
だったらどのおひなさまも、毎年動いた日が必ずあるということです。
でもわたしにこうやって相談しにきたのは、真美ちゃんだけでした。
他のみんなも、そしてわたしも気が付いていなかったのに。
ううん、もしかしたら、気付いた子は他にもいるのかもしれません。
でもこうやって一生懸命考えて、夜更かしまでしてがんばったのは、真美ちゃんだけなんだもんね。
その気持ちは本当にすごいよ。
だから真美ちゃんのおひなさまは、ポッコロさんが毎日来たくなるくらい幸せなんだね。
ポッコロさんもそんな真美ちゃんの様子を見て、にっこり笑いました。
下は電気が点いてなくて真っ暗です。
わたし達はリビングに行くと、おひなさまがある隣の部屋のふすまをそっと少しだけ開けてみました。
まだ何も起きてないみたいだね。
何も変わっていないのを確認すると、少しすき間を開けたままにしておきます。
これから何か起きた時に、すぐにここから覗けるようにね。
それから背中をおひなさまの部屋のふすまに向けて、すぐ側に座りました。
できるだけ近くにいて、小さな音でも聞こえるようにです。
電気を点けると向こうが気にして、その不思議なことが起きなくなるかもしれません。
だから、窓からのお月様のぼんやりとした明るさの中で待っています。
お話もできないので、2人でどきどきしながら静かにしていました。
これは大分大変だったけど、一生懸命がまんです。
時々真美ちゃんと顔を見合わせて、瞳と瞳でがんばろうねってはげましあいました。
緊張していたので、2人とも眠くなりませんでした。
そしてがんばったかいがありました。
大分時間が経って、隣の部屋から、何かがトントンと跳ねているような音が小さく聞こえてきたのです。
時計を見てみると、1時を少し過ぎたところです。
──何かな?
わたし達は向こうに見つからないように、そーっとふすまに近付きました。
そしてすき間からやっと見えるギリギリのところから覗いてみました。
するとなんとそこで、小さな人が1人、向こうを向いて跳ねていたのです。
着ているお洋服も長い帽子もみんな緑色で、10㎝くらいの大きさの人かな。
おひなさま達を見ているみたいです。
わたしはその姿を見て思い当たりました。
ああっ!あれは……、妖精さん!
妖精さんを知っているわたしも驚いたし、真美ちゃんはもっと驚いています。
それはそうだよね。
普通の子は妖精さんが本当にいるということに、まずびっくりします。
でもこの状況だと、説明している余裕はありません。
それにわたしも、なんで妖精さんが来たのかわからないし。
でもおひなさま達が動いていることに、きっと関係があるんだよね。
わたし達はこれから何が起こるのか知りたくて、まだなんとか静かに見ています。
その妖精さんはさっと杖を取り出して、指揮をする時のように振り始めました。
見ていると楽しくなってくるような、元気な振り方です。
するとなんと、おひなさま達みんなが動き出し始めました。
そしてぴょっこんぴょっこんと跳ねながら、ひな壇を降りてきたのです。
ひな壇の前に、ずらっとおひなさま達が勢ぞろいします。
こうやって妖精さんの力で動いてたんだあ。
わたしは納得してうなずきました。
普通に考えると不思議だったけど、妖精さんの力があれば簡単なことです。
でもまさか妖精さんがやっていたとは、思いつけませんでした。
妖精さんはそんなおひなさま達を見て、満足そうにうなずいています。
それから突然、わたし達に話しかけました。
「そこに隠れているのはわかってるんだぜ。妖精さん」
おじさんのような声で、落ち着いた言い方です。
妖精さんが手を下ろすと、おひなさま達もまたぴたっと止まります。
そう気付かれていたことに、わたしはとってもびっくりしました。
一生懸命大人しくしていたけど、やっぱり不思議な力を持った人にはみつかっちゃうね。
そうちょっと困った気持ちにもなりました。
でもその妖精さんが思い当たる人だったこともあって、わたしは笑顔で出て行きます。
「はーい、そうです。はじめまして、妖精さん」
すると妖精のおじさんからも笑って返されました。
「おう、はじめまして。妖精のお嬢ちゃん」
さっきまで緊張した気持ちだったのに、そういきなり仲良くあいさつをしているわたし達です。
でもどの妖精さんに会った時も、いつもこんなふうなんだよ。
そんなわたし達のところに、真美ちゃんも出てきて聞きました。
「みかんちゃんは、その妖精さんを知ってるんだね?
それに、魔法使いのことも妖精っていうの?」
その声に振り返った妖精さんは、真美ちゃんにも驚いた様子がありませんでした。
そしてその質問に元気に答えてくれます。
「おうよ。お嬢ちゃんは人間だな。
本当は人間にはみつかっちゃいけないんだけど、まあこのひな壇の持ち主だからいいか」
そう妖精さんはひな壇を振り返ってみて、自分で納得していました。
それから詳しく説明をしてくれます。
「神様から特別な力を与えられて、助けを仕事とする者を妖精っていうんだ。
この世界に生まれたみんなを幸せにするために、どの妖精も日々がんばっている。
で、担当する者が振り分けられていて、同じ担当同士と、担当されているものには魔法使いと呼ばれるのさ。
担当が違う相手のことは、敬意を込めて『妖精さん』と呼ぶことになっている、そういうわけよ」
妖精さんはそうすらすらと、上手に教えてくれました。
つまりわたしの場合は動物担当なので、その動物みんなや、お母さん達同じ仲間からは魔法使いと呼ばれます。
その他からは妖精さんと呼ばれるということです。
「妖精さん」って呼ばれるのは慣れていないから、照れちゃうけどね。
それから妖精のおじさんは付け加えます。
「自分とは違う妖精さんのことは話に聞いている。
だから実際に会ったことがなくてもわかるんだ。
それに仲間だから、初対面でもこうやって仲がいいんだな」
わたしもその言葉に大きくうなずきます。
うん、わたしもそう妖精さんのことを聞いていたから、わかったんだよ。この妖精さんは、かわいい格好をしているよね。
絵本に出てくる小人さんのようなその姿を、魔法使いの本で見たんです。
その時から気になっていたから、こうやって会えてとってもうれしいな。
妖精さんの説明には難しい言葉もあったけれど、真美ちゃんはちゃんとわかったようです。
「そっか。みかんちゃんと妖精さんはその担当が違っているだけで、おんなじことをしている仲間なんだね」
のみこみが早い真美ちゃんに、妖精さんは元気にうなずきます。
それから自己紹介をしてくれました。
「その通り!オレはポッコロ。人形担当の魔法使いさ」
人形担当?
妖精さんに出会ったことにびっくりして、少し忘れていました。
でもそう聞いて今回の目的を思い出します。
それでわたしは早速質問しました。
「毎日おひなさま達を動かしていたのは、ポッコロさんだよね?
わたし達は今日、それを確かめるために来たんだよ」
そういうと、ポッコロさんは困った顔になって、片方の手を頭にやりました。
「あちゃー。ばれてたのか。
お雛さん達、喜びすぎて、ちゃんと戻れなかったんだな」
そう全然否定しません。
その言葉に、わたしと真美ちゃんは顔を見合わせました。
それから声も揃っていいます。
「じゃあ、やっぱり……!」
ポッコロさんはうなずいて、はっきりいいました。
「そうだよ。オレが毎晩こうやって、お雛さん達が動ける魔法をかけていたのさ」
やっぱりおひなさま達自身じゃなくて、外からの力だったんだね。
そうわたしは自分の勘が当たっていたことがわかりました。
ポッコロさんはその理由を説明してくれます。
「雛人形ってほとんどしまわれていて、外に出ていられる時間が少ないだろ?
そんな湿気た生き方だけじゃなくて、外で元気に遊ばせてやっているのさ」
なるほど。おひなさま達にもそういう楽しい時間がなくちゃね。
クラスのみんなとお話したこともあって、わたしはよくよくうなずきます。
「みんなで何をしているの?」
そうたずねると、ポッコロさんは明るい顔になって答えてくれます。
「いつもは動けずに立ちっぱなしでいるだろ?
だから踊ったり走ったり、そりゃあもう元気だな」
「そうなんだあ」
おひなさま達が元気に遊んでいるのを想像してみます。
うん、とっても楽しそうです。
その様子を思い描いて、わたしは笑顔になりました。
「でもどうして、わたしの家のおひなさまが毎日動いていたんですか?」
真美ちゃんが不思議そうにたずねます。
そうだよね。おひなさまってたくさんの家にあります。
それでも毎日このおひなさまのところに来ているのは、何か理由があるんだよね。
するとポッコロさんは大きくうなずいて、おひなさま達を見ながらいいました。
「それは、ここの雛人形があんまり立派だったから…、つい通い詰めちまった。
どうせ遊ぶなら、大人数の方が楽しいなーと思ってよ」
そう聞いて、わたし達は納得しました。
ここのひな人形は、他のお家よりもずっとたくさんいるもんね。
だからなんだあ。
確かにみんなで遊ぶ方が楽しいです。
今回も心配してくれたクラスのみんなを思い出して、わたしはうなずきます。
今こうやっていることも、そんなみんなに後でお話しなくっちゃね。
妖精さんのしわざだったよっていったら、みんなもびっくりするだろうなあ。
そう考えて、わたしはちょっと楽しくなりました。
それからポッコロさんは、意外な言葉も付け加えます。
「もちろん他の家も見回ってるぜ。
1年に1回、全部の家の雛人形を動かす約束だからな」
そのお話に、わたしはびっくりしてたずねました。
「じゃあ、わたしの家にも来たの?」
するとポッコロさんはしっかりうなずきます。
「ああ。今行ってきたところだよ。
今日は芽吹町の日だからな」
芽吹町とは、わたしの住んでいる町です。
ポッコロさんは、わたしの家の場所も知っているんだね。
そう聞いて、わたしはうれしかったのと残念な気持ちがありました。
うれしいのは、わたしの家のおひなさまも元気に遊べてよかったねということ。
残念なのは、そこにわたしがいなかったことです。
動いたわたしのおひなさま達を見てみたかったなあ。
でも熱心な真美ちゃんがいたからこそ、こうやってお人形の妖精さんに会えたんだもんね。
じゃなかったら、今年もその時間は気付かないまま、寝ていたはずです。
だからそういうことがわかっただけでも良かったなって、思い直しました。
来年はぜひ会ってみたいものです。
そうわたしは、これからに期待しました。
そしてポッコロさんは、もう1つの理由を話してくれます。
「それにここの雛人形さん達、とっても明るくって幸せそうなんだよな。
中には、せっかく動けるようになっても、元気のないのがいるんだ。
せっかく出してもらっても、持ち主に見向きもされないとさびしいんだな」
そうポッコロさんもさびしそうな顔になります。
ポッコロさんは、お人形さん達のための魔法使いです。
だからおひなさま達の気持ちがよくわかるんだろうね。
お人形さんだけじゃなくて、こうやって心がある物は実は多いんです。
わたし達から見ると物だと思う物にも、心はあったりするんだよ。
そういう物達の気持ちがわかる魔法もあります。
それは難しいので、わたしのおじいちゃんがちょっと使えるくらいなんだけどね。
わたしもその気持ちを教えてもらったことがあります。
やっぱりね、みんなに大事にしてもらえると、その物達はとっても喜んでいるようです。
だからそれを知っている魔法使いのわたしも、みんなに物を大切にしてもらいたいなあって思います。
そうしたらわたし達人だけじゃなくて、本当にみんなで幸せな気持ちになれるよね。
そういうふうにつられて、わたしもまじめに思いました。
それからポッコロさんは、さっきとは違う、うれしそうな顔になっていいます。
「…だけど、この雛人形さん達はよっぽど大事にされてるってことだ!
オレもそんなお雛さん達に会うと、うれしくってよ」
その言葉にわたしと真美ちゃんは、またおひなさまを見ます。
そういわれてみると、みんなとってもおだやかな顔をしているのに気が付きます。
真美ちゃんとお母さんの2人が、おひなさま達をとっても大事にしていることを知っているから納得です。
あれだけ大事に思ってくれている人が2人もいるんだから、本当に幸せだよね。
そして妖精さんも気に入っちゃうくらい、立派な上に心も素敵なおひなさまなんだね。
真美ちゃんはそう聞いて、とってもうれしそうでした。
そしておひなさまの真ん前に行くと、感動している様子でいいました。
「そうなんだ。みんなに、大好きってちゃんと伝わってたんだね」
そうじーんとしている真美ちゃんの様子から、本当におひなさま達を大事に思っていたのが伝わってきます。
わたしはそんな真美ちゃんを見ていて、今やっと気が付きました。
そっか。よく考えてみるとそうなんだよね。
ポッコロさんのお話によると、みんなのお家を回っているんだよね。
だったらどのおひなさまも、毎年動いた日が必ずあるということです。
でもわたしにこうやって相談しにきたのは、真美ちゃんだけでした。
他のみんなも、そしてわたしも気が付いていなかったのに。
ううん、もしかしたら、気付いた子は他にもいるのかもしれません。
でもこうやって一生懸命考えて、夜更かしまでしてがんばったのは、真美ちゃんだけなんだもんね。
その気持ちは本当にすごいよ。
だから真美ちゃんのおひなさまは、ポッコロさんが毎日来たくなるくらい幸せなんだね。
ポッコロさんもそんな真美ちゃんの様子を見て、にっこり笑いました。
