不思議な夜の おひなさま

[chapter:2 次へ向かって、みんなで作戦会議]

授業が終わったら、約束通り真美ちゃんと千枝ちゃんが4年3組に迎えに来てくれました。
3人で真美ちゃんの家に行きます。
今日が5時間で終わる日でよかったよ。
6時間ある日だったら、真美ちゃん達に待っててもらわなきゃいけなくなるところだったもんね。
真美ちゃんの家のリビングから見える、隣の部屋にそのおひなさまは置かれていました。
「大きいからリビングには置けないって、いつもここに飾ってあるんです」
真美ちゃんがおひなさまの前に案内してくれて、そういいます。
「真美ちゃん家のおひなさま、本当に大きくてすごいよねえ」
そう千枝ちゃんがいう通り、本当に立派なおひなさまです。
わたしの背よりもずっと大きいし、見たこともないものがたくさん並んでいます。
あっ!牛さんが引いてる車もあるよ。すごいなあ。
「何かわかりますか?」

千枝ちゃんに聞かれて、すっかりおひなさまに感心していたわたしは、はっと思い出しました。
そうそう、このおひなさまが何で動くのか調べるんだったよね。
わたしはおひなさまに近付いて、よーく見てみました。
でも何も感じるものはありません。
もし生きていたり、何かが宿っていたりするとわかるはずなんだけど…。
気持ちをもっと集中してやってみても、何も伝わってきませんでした。
「今は本当に普通のおひなさまだねえ」
わたしがそういうと、2人はがっかりしたみたいです。
「そうですか」
「みかんちゃんでも理由はわからないんだね」
でも真美ちゃんは顔を上げて一生懸命いいました。
「でも、絶対動いている不思議なおひなさまのはずです!
夜だけ特別なのかも!夜に一緒に見てもらえませんか?」
わたしはもちろんうなずきます。
今は普通だけど、真美ちゃんのいう通り夜は違うのかもしれないって、わたしも思います。
その動く理由や、何が起こっているのか、謎を知りたいもんね。
お母さんにはお仕事っていえば、夜でも大丈夫じゃないかな。
前にこういうことがあった時には、行かせてもらえました。
そこでとっても肝心なことがあります。
「うん、いいよ!でも何時くらいかな?」
すると真美ちゃんは、まじめな顔で考え始めました。
「えーと、お父さん・お母さんが起きている間は、この戸を開けてあるんです。
それで寝る時に閉めるそうだから、それから朝わたし達が起きてくる間のはずです」
「それってつまり…?」
千枝ちゃんが具体的に聞くと、真美ちゃんはうつむきました。
「お母さん達が寝るのは、夜の12時なんだって…」

わたしと千枝ちゃんはびっくり顔になりました。
みんなが知らない夜の時間なんだから、なんとなーく遅いんだろうなって思っていたけど、それよりもずっとです。
夜の12時って、次の日に変わる不思議な時間だよね。
わたしが1度も起きていたことのない時間です。
大晦日の時も起きていようとしても、どうしても途中で眠っちゃうから。
そこでわたしは困って、いってしまいました。
「わたし、毎日9時に寝てるよ」
真美ちゃんも、わたしよりも困った顔でいいます。
「わたしも8時30分…」
…………………。
(そんな時間に起きていられるかなあ?)
3人で何秒か止まってしまったけど、わたしはぱっと気を取り直しました。
真美ちゃんも夜遅いのを気にして困ってるもんね。
それくらいなんとかできなくっちゃ、立派な魔法使いになれないよね。
みかんは頑張るよ!
そう心の中で決意して、真美ちゃんに聞きます。
「その前にたくさんお昼寝しておけばいいよね。
でも、そんな夜遅くにわたしがいても大丈夫?」
わたしがあきらめなかったので、真美ちゃんはうれしそうな顔になりました。
そして元気に、いいアイディアをいってくれます。
「お母さんにはおとまり会っていえば大丈夫です。
それだったら、何時でもよくなるし」
うん。本当にそれなら真夜中にもいられる、1番いい方法だね。
「そっか、そうだね」
わたしは感心してうなずきました。
でも千枝ちゃんは、そう聞いて残念そうです。
「わたしは夜に来られないや。
でも後で何があったか教えてね」
そんな千枝ちゃんに、真美ちゃんはしっかりうなずきます。
「うん、もちろんだよ。千枝ちゃん」
そう約束している2人は本当に親友らしくて、見ているわたしにとってもよかったです。
そうして夜に調べるのは、わたしと真美ちゃんの2人になっちゃいました。
でもそのお泊まりの時のことについては千枝ちゃんも一緒に、3人で詳しく決めます。
「お昼寝する時間がいるし、お泊まり会をするんだから、学校がお休みの日がいいよね」
わたしがそういうと、千枝ちゃんがカレンダーでチェックしてくれました。
「だったら、ひな祭りの前の日がお休みです」
その答えに、ちょっと考えます。
「そっか、それじゃ遅いね」
謎がわかるのは、本番のおひな祭りの日になっちゃうもん(正確にいうと日付が変わっているからだよ)。
今日が月曜日だから、お休みまで1番遠いんだよね。
真美ちゃんもわたしと同じように思ったみたいで、そしてもっと考えていました。
「千枝ちゃん、その日って何曜日なの?」
真美ちゃんの質問に、千枝ちゃんはわかりやすく答えてくれます。
「日曜日だよ。その前の土曜日は3月最初だから、学校あるもんね」
その言葉に、わたしと真美ちゃんはぱっと顔を見合わせます。
「土曜日だったら、家に帰ってから眠れば、なんとか大丈夫そうだね」
わたしがそういうと、真美ちゃんも期待を持った顔でいいます。
「お昼寝をして、夕方来てもらうことにすればできそう。
すぐにお母さんに聞いてみますね」
こう話がまとまって、次の日には、お泊まり会ができるって真美ちゃんからお返事がきました。
わたしは3月1日の夕方に真美ちゃんの家にお泊まりして、おひなさまの謎を調べることになったのです。

〈日にち〉2月24日(月曜日)
〈お願いしてきた人〉1年2組の真美ちゃん、千枝ちゃん
〈お仕事の内容〉夜に動いているのかもしれないおひなさまを調べる。
〈方法〉3月1日の5時に、真美ちゃんの家に行く。
→夜の12時から、真美ちゃんと2人でおひなさまをこっそり見守る。
「何を書いてるの?」
お昼休みにノートを書いていたわたしは、前の席の麻緒ちゃんに声をかけられました。
でもわたしが答える前に、後ろのももちゃんに当てられました。
「わかった!いつも付けてるお仕事ノートでしょ」
そう聞いて麻緒ちゃんは納得しました。
「そっか。昨日相談されてたもんね」
わたしはうなずきます。
「うん。どんなお仕事をしたか、ちゃんと書いておかないとね」
お泊まり会ができるって朝にきいたので、今回もそろそろ書き始めることにしたのです。
そんなわたしに、桜ちゃんがほーっと息をつきました。
「みかんちゃんって、結構まめだよね。ノートは何ページいったの?」
そう聞かれたので、わたしは今までのノートの枚数を数えてみました。
でも最初の方だからすぐ終わったよ。
「3年生になった時から書いてるんだけど、このノートが2冊目で、今5ページ目だよ」
そういうと、周りにいたみんなに驚かれました。
「うわー。すごくたくさん」
「1つの出来事に1ページ使ってるんだったよね。
…ということは、1ヶ月に3件くらいってことだね」
そう秋子ちゃんが素早く計算までするので、わたしは手を振っていいました。
「わたしにはできなかったお願いも書いているから、たくさんになってるんだよ」
そう、わたしの使える魔法が少ないからできなかったことや、魔法使いにもできないお願いもたくさんありました。
でもわたしは一応全部書いています。
たまにこのノートを見て、今度同じことをお願いされた時にできることはないか考えています。
お勉強すればできそうなことは、できるだけ頑張って力になりたいもんね。
そのおかげで役に立ったことも、少しはあるんだよ。
「今回は、どんな内容だったんですか?」
正くんがいつものようにノートを持って聞きます。
魔法使いがどういうお仕事をするのか、とっても興味があるそうです。
だから、お願いした人が秘密っていった時や、わたしが他の人にはいわない方がいいんじゃないかなって思ったこと以外は話しています。
今回のは真美ちゃんの悩みっていうよりも、不思議なお話だからいってもいいよね。
わたしはそう思って、みんなに話すことにしました。
「毎朝おひなさまを見た時に、昨日よりも少し動いているんだって。
だから夜に動いているのかもって、調べることになったんだよ」
そういうと、やっぱりみんな驚きました。
「とってもおもしろそうな話」
柾紀くんがそう笑顔でいったのを最初に、女の子達も張り切ります。
「本当におひなさまが動いていたら感動するねー」
でも温広くんは逆に、まじめな顔でいいました。
「それってあぶなくないか?
人形が動くって、いい理由よりも…、たたりだったりとかさー」
その言葉で、一気にみんな暗ーい顔になりました。
「たしかに…」
龍太郎くんも、そう左手をあごにやってうなずきます。
すると彩ちゃんがわたしの手を取りました。
「みかんちゃん、大丈夫?」
そうみんながまじめに心配してくれたけど、わたしは自信を持って答えました。
「大丈夫!そういうのじゃないよ。だったら見た時わかるはずだもん」
そんな怖いことじゃないって、不思議と信じられます。
そう笑顔でいられるわたしに、正くんが質問しました。
「じゃあ、みかんさんはどう思っているんですか?」
そこでわたしは、昨日少し考えてみたことをいってみます。
「お人形自体は普通で、自分で動いているんじゃないと思うの。
だからおひなさまを動かしている、何かがあるのかなあ?」
それが何かはまだわからないんだけどね。
でもその答えに、正くん達みんなは満足したみたいです。
「そうですか、なるほど。ではわかったら教えてくださいね」
正くんがノートを閉じていいました。
「その何かが素敵なものだといいなあ」
そう瞳をきらきらさせていう、みゆきちゃんの言葉にうなずきます。
「うん、そうだね。きっといいものだよ」
そう話がまとまると、今度は高志くんに聞かれました。
「そういえば、さっき夜に調べるとかいってなかったか?」
「うん」
わたしがうなずくと、途端にまたみんなに心配されました。
「夜って8時くらい?」
優香里ちゃんの言葉に、光くんが答えます。
「いや、いくら何でもそんなに早くないんじゃない?」
「そうそう。なんたってみんなが知らない間だし…」
港くんがそういった後に、みんながわたしをじーっと注目します。
わたしはちょっと気が引けたけど答えました。
「夜の12時からなの…」
すると思った通り、みんなに騒がれました。
「夜の12時…って、おれ達だってきつい時間だぞ!?
夏の学校宿泊会の時、自分が何時に寝たか覚えてるか?」
そう健治くんにいわれて、半年前の宿泊会のことを思い出しました。
雪湖小学校は夏に、3・4年生は学校で、5・6年生になったら遠くまで連れて行ってもらって、お泊まり会があるんだよ。
たしかこの前は、昼間元気にはしゃいで疲れちゃったから、すぐ寝ちゃったんだっけ。
あれって何時だったのかな?
わたしが思い出せないでいると、健治くんが強くいいました。
「8時30分だぞ、8時30分!
みかんと、麻緒と、柾紀と、港は、夜更かしなんてぜーったい無理!」
そう早く眠ったらしいみんなまでおまけに指を指されて、力説されてしまいました。
えへへへへ。わたしは仕方なく、とりあえずごまかし笑い。
健治くんのいう通り、12時まで起きているなんてわたしには無理です。
でもそれももちろん考えてあるんだよ。
わたしは人差し指を立てて、そのことを付け加えます。
「ちゃんと考えてあるよ。
土曜日の5時からだから、学校が終わってから3時間眠っていけるでしょ。
それから真美ちゃんの家に行っても、時間まではできるだけ寝ることになってるもん」
昨日しっかり真美ちゃん達と、そう眠る時間のことまで決めておきました。
今回はお仕事のために行くので、遊ぶよりもお仕事を成功させるための計画を立ててあります。
わたしがそう説明すると、龍太郎くんがうなずいてくれました。
「なら、大丈夫なんじゃないか?前もって寝てるんなら安心だよ」
みんなも納得してくれたようです。
「でもみかんは夜弱いんだから、あんまり無理するなよ」
そう最後に注意してくれた高志くんに、わたしはうなずいていいました。
「うん、そうだね。気を付けるよ。
でも楽しそうなお話だし、できるだけがんばってくるね!」
そう元気に答えてから、みんなに向き直っていいます。
「何でだったのか、みんなに報告するからね」
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