5年生5月編

1-小学生魔法使いみかんちゃん

朝。とっても空がきれいな朝です。
「おはようございまーす」
庭に出てお片付けをしているご近所の真樹子おばさんに、わたしは空からあいさつします。
真樹子おばさんはわたしの声に振り向いて、笑顔でいってくれました。
「おはよう、みかんちゃん。気を付けて行ってきなね」
「はーい」
元気に手を振って、わたしは今日も元気に学校へ向かいます。
今は5月なので、暖かくていい気持ちです。
小鳥さん達のさえずりも聞こえてきて、とってもさわやかな気分だよ。
わたしの名前は、みかん。10歳の魔法使いです。
これは生まれつきなので、お母さんもおじいちゃんもおばあちゃんもみーんな魔法使いだよ。
魔法使いはみんなを幸せにできるように、神様が創ったそうです。
神様に種から赤ちゃんになるまで育ててもらって、そして神様が育てている特別なお花になる実をもらって生まれるそうです。
その実が魔法を使える元なんだって。
魔法使いは長生きで1000年くらい生きます。
そのうちの最初の100年くらいは、普通の人達と一緒に暮らしています。
魔法のお勉強もあるけれど、普通の学校にも通っています。
魔法使いだけの集まりも、学校で同じ歳のお友達に会うのもどっちも楽しいよ。
みんなと同じ学校では、雪湖(ゆきんこ)小学校の5年生。
魔法は使えるものが少ないけれど、お母さんに教えてもらって頑張っています。
今使っているほうきで空を飛ぶ魔法は、1番最初の1年生の時に覚えたものなので、結構上手になりました。

「おはよー」
お天気のおかげで、わたしはいつもよりも明るい笑顔であいさつしました。
クラスのみんなも元気にあいさつを返してくれます。
「おはよう、みかんちゃん」
「あー、みかんが来た、来た」
クラスは4年生の時から一緒なので、みんなとっても仲良しです。
わたしはほうきをほうき立てに入れて、カバンをおろしました。
このほうき立ては、担任の友子先生が用意してくれたんだよ。
「今日はいい天気だねー」
今朝は雲一つないいいお天気です。
風もとっても気持ちがよかったし。
「五月晴れってやつだね」
秋子ちゃんが窓の外を見ながらいいました。
「そういえば、今日の給食いちごだぜ。ますます春らしいよな」
いつも元気な健治くんが、楽しそうに教えてくれます。
そう聞いていちごが大好きなわたしは、さらにうれしくなりました。
みんなでそんなふうに話していると、
ガラッ
後ろの戸が開いて、温広くんが飛び込んできました。
もうすぐ友子先生が来る時間だったし、わたし達はびっくりしました。
「ま、間に合ったー」
「どうしたんだよ、温広」
健治くんが聞くと、温広くんはとても苦しそうに息をついています。
「朝寝坊して…、全速力で走ってきたんだ」
「大丈夫?」
わたしも心配して聞くと、温広くんがうらやましそうにいいました。
「みかんはいいなあ。5分で学校に着くもんなあ」
わたしは笑うしかなかったです。
だってわたしの家の方が、温広くん家より学校に遠いんですから。
スピードは自転車くらいしか出してないけれど、信号もないし、一直線で行けるほうきは結構早くつけるんだよ。
わたしは普通の家の上を通れるくらいの高さで飛んでいるので、3階以上の建物はよけなきゃいけないけどね。

カラーンコローン♪
やっぱりすぐにチャイムが鳴って、わたし達5年3組の担任の小川友子先生が入ってきました。
友子先生は26歳の優しい先生です。
わたし達が4年生の時に担任だった結城先生は、他の学校に行ってしまいました。
だから去年6年生の先生をしていた友子先生が来てくれたのです。
わたし達のクラスは、友子先生にとって2つめなんだね。
みんな急いで席に着きました。
わたしの席は、窓側から3列目で前からは2番目です。
隣が高志くんで、後ろがももちゃんと桜ちゃん。
前が港くんと麻緒ちゃん。名前で決まった席順です。
友子先生はいつものように出席を取ったあと、今日の連絡を話し始めました。
「今日は3時間目の体育をみんなに教えてくれている千夏先生がお休みしたので、私が行きますね」
わたし達はほとんどのお勉強を友子先生に教わっているのですが、体育だけは千夏先生に教わっています。
「千夏先生、どうしたんですか?」
委員長の龍太郎くんが聞くと、友子先生は少し心配そうな顔で答えました。
「風邪ですって。みんなも気を付けてね。
体育の時間の前に、先生ちょっと用事があるので、10分くらい待っていてくださいね」
千夏先生はいつも元気で、運動がすごく得意です。
でも今は病気になっちゃったんだ。心配です。
「では国語の勉強を始めますよ」
わたしが考えている間に先生の話は終わっちゃって、そして授業が始まりました。

中間休み、次の体育のために着替えをしながら、ももちゃんがため息まじりにいいました。
「わたし、外が良かったなー」
「今日は天気いいのにね」
桜ちゃんもうなずいています。
今日は千夏先生がいないので、いつものように外ではなく、体育館でやることに決まったのです。
いつもは外で短距離走とかやっています。
体育館の中だったら球技かな?
わたしは球技では、バスケットボールが1番好きだよ。
そして今話しているももちゃんと桜ちゃんは双子です。
ももちゃんの方がお姉さん。
ももちゃん、桜ちゃんはとっても仲が良くって、席が隣なのも友子先生にお願いしたからなんだよ。
5年3組は男の子も女の子も同じ人数なので、普通は女の子同士隣ってことはありません。
でもももちゃん、桜ちゃんは双子ってこともあって、先生が許してくれたのです。
だから光くん、健治くんは男の子同士でお隣なんだよ。
魔法使いは普通兄弟がいないそうなので、そんなに仲のいい兄弟がいてうらやましいです。
でもわたしにはお母さんも、こうやってたくさんのお友達もいるもんね。
「みかんちゃーん」
そう考え事をしていたわたしは、突然の桜ちゃんの声にびっくり!
周りを見ると、もうみんな移動を始めています。
なのに、わたしはまだ準備が終わっていません。
いつの間にか、1番最後になっちゃったよ。
「はーい」
わたしは返事をして急ぎました。

みんなで体育館の中おとなしく座って、友子先生を待っていました。
でも先生はなかなか来てくれません。
「先生、遅いねー」
彩ちゃんがいうと、男の子で1番運動が得意な光くんも機嫌が悪そうです。
「もう15分も経ってる。あと30分しか体育できなくなった」
-…そうだ!
退屈そうに座っているみんなを見て、わたしはとってもいいアイディアが浮かびました。
「ねえねえ、みんな!先生が来るまで、楽しくお勉強してようよ」
そう立ち上がると、みんなは首をかしげます。
「ここで楽しい勉強?」
わたしはとっても張り切っていいます。
「そう!科目は違っちゃってるけど、理科のお勉強!」
いつも首にかけているみかん形のペンダントを外して、上に軽く投げます。
そしてこのペンダントをステッキに変える呪文を唱えました。
「ミラクル・ドリーミング」
わたしのこのペンダントは、呪文によっていろいろなアイテムに変わるのです。
ステッキの次によく使うのは、「ミラクル・テイク・シー」。
そう唱えるとカチューシャになって、普通はわからない言葉もわかるようになるんだよ。
外国の言葉とか、動物の言葉とかね。
他には「ミラクル・キーピング」。
ブレスレットになって、自分の周りの環境を保ってくれます。
これを付けていると、宇宙や海の底でも平気なんだって。
ただカチューシャやブレスレットに変わると、他の魔法は使えなくなります。
このアイテムはとっても便利で、魔法使いはみんな持っています。
わたしはこの雪湖小学校に入学した時、お母さんにもらいました。
呪文はその人によって違います。
お父さんやお母さんが子どもの呪文を決めて、神様に登録してもらうそうです。
今変えたステッキは、大きな魔法が使えるようになるんだよ。
ステッキを受け止めると、わたしはお願い事をいいながらステッキを振りました。
「この体育館の中を、宇宙にしてくださーい」
すると魔法がかかって、わたしがお願いした通りになります。
「わー」
「宇宙だー」
みんなが周りを見て、そう驚きました。
そういっても本物にしたわけじゃないんだよ。
もし本物だったら、息ができないとかいろいろと大変だよね。
でもいつもよりも体は軽くなったはずだし、出した星にさわったりすることはできます。
これはわたしが唯一使うことのできる、夢魔法という種類の魔法です。
わたしの中のイメージにあるものや、想像しにくいものは具体的に頼めば出すことができるんだよ。
つまりこれはわたしの心の中の宇宙ということです。
魔法使いといってもどんな魔法でも使えるわけじゃなくて、自分が覚えた種類のだけ使えるようになっています。
だからどんな魔法使いでも大事な魔法は使えるように、ペンダントがいろいろ変わるんだよ。
「そっか。みかんちゃんがいってたお勉強って、この宇宙を見ること?」
美穂ちゃんがうれしそうに聞きました。
「うん。でも遊びもしよう。
みんな、宇宙の中だから浮けるようにもなったはずだよ」
わたしは張り切って答えます。
「うん!遊ぼう!」
修くんが喜んでうなずきます。
その中で、みゆきちゃんが目を見張って聞き返します。
「え?浮けるの?」
その言葉で気付いたわたしは、うれしい気持ちになってうなずきました。
「うん!」
みゆきちゃんは、わたしみたいな魔法使いにずっと憧れていたそうです。
だからわたしに会った時、いっちばん喜んでました。
そんなみゆきちゃんは、わたしのように空を飛んでみたいというのが1番の夢なんだって。
でもわたしは、人を飛ばせるような魔法は使えません。
それは夢魔法じゃなくて、違う種類の魔法だからね。
だから今までできなかったんだけど、とうとう叶えてあげることができてよかった。
空を飛ぶと空中に浮かぶとでは、ちょっと違うかもしれないけどね。
1年以上も同じクラスだったんだから、もっと早く気付けばよかったね。
そうちょっと後悔もしたけど、気を取り直していいました。
「ジャンプをするような感じで、跳んでみて」
「こうかな?」
わたしがいった通りに、みゆきちゃんはやってみます。
すると成功して、空中にふわふわと浮かびました。
「すっごーい」
「よかったね。みゆきちゃん」
みんなはそれを見て驚いたり、みゆきちゃんの夢が叶ったことをお祝いしました。
「うわー。浮いてるよー。すっごくうれしい」
みゆきちゃんは近くなっている天井を見て、今までで1番の笑顔でいってくれました。
「ありがとう、みかんちゃん」
「どういたしまして」
わたしもうれしくなりながら返します。
それからみんなを振り返って、元気にいいました。
「さあ、みんなで遊ぼう!」
「うん!」
みんなは張り切って返事をして、駆け出します。
「みかんちゃん、ありがとう!」
そんなみんなを見て、わたしはとっても幸せな気分です。
うれしいな、喜んでもらえて。
わたし、魔法使いで本当によかったよ。
そう思って見ていたら、大変なことになりそうでした。
「あ!柾紀くん、太陽はさわらないでね」
そうわたしは慌てて注意をします。
あぶない、あぶない。
太陽は元々、近付くだけで溶けちゃうくらい熱いよね。
だからわたしの出したのは効果が弱いとはいえ、やけどくらいはしちゃうのです。
「わーい。土星の輪に乗れたよー」
そんな声に振り返ると、ももちゃんと桜ちゃんがそう喜んでいました。
2人とも輪に乗って、手を振っているよ。
わたしが出した宇宙は、太陽系の惑星です(太陽は恒星だけどね)。
みんな本当の比率で出ているから、地球などは小さめだけど、土星や木星は大きいよ。
「地球って他の星に比べて小さいんだねー」
ちょうど港くんが地球にさわりながら、同じことをいっています。
そうだよね。わたし達は地球って(日本だけでも)とっても大きいって思うけど、宇宙から見ると小さい方なんだもんね。
じゃあ土星って、本当はどんなに大きいのかな?
「みかんさん、みかんさん」
そんなことを考えていると、わたしを呼んでいる声が聞こえました。
振り返ると、正くんでした。
正くんは、わたし達のクラスの中で1番まじめな男の子です。
正くんは遊んでなかったのかな?
まだ床に着いてるの、わたしの他には正くんだけだよ。
不思議に思いながら正くんのところに行くと、いつものように質問をされました。
「みかんさんは、星では何が好きですか?」
この質問にはすぐに答えられます。
「土星だよ。あの輪っかが好きなの。もちろん地球も大好きだけどね」
「なるほど」
正くんはうなずいています。
正くんが質問をしてわたしが答えるというのは、よくあることなんです。
わたしが魔法使いだから、他の人とは違う考え方をしているんじゃないかなって、思っているみたいだよ。
わたしはみんなと同じつもりなんだけどね。
正くんは、将来いろいろ研究をする人になりたいそうです。
だから魔法使いにも興味があるんだって。
それを初めて聞いたのは、4年生の6月頃でした。
新しいクラスにもすっかり慣れていたころです。
正くんに質問をされた時に、前々から不思議に思っていたわたしは、はっきり聞いてみたのです。
『正くんって、どうしてわたしにばっかり質問するの?』
すると意外な言葉が返ってきました。
『僕、将来、研究家になりたいんだ』
質問とは違っていたけれど、その答えに興味を持って聞きました。
『そうなんだあ。どんな研究をするの?』
すると正くんは、
『まずは、未知の生物について調べるつもりなんだ。
…というわけで、このノートにいろいろ質問を書いてきたから、答えてくれないかな』
そういってわたしの手にノートを1冊乗せました。
わたしはいきなりでびっくりしました。
『え!?正くん、どうしてそうなったの?』
でも正くんは落ち着いて答えます。
『僕は未知の生物の研究をしたいっていったよね?
みかんさんは魔法使い。十分、未知の生き物じゃないですか』
わたしにはその言葉が意外でした。
魔法使いのわたし達も、他の人と同じ神様に創られたものだからです。
『魔法使いって未知の生き物なの?』
わたしが確認すると、正くんははっきり答えました。
『うん。大体魔法が使えるなんて、すごく謎だよ』
確かに、他の人とは違う力があるわたし達は不思議なのかなあ。
『でも、それはこのステッキのおかげだよ』
わたしはそう思い直していいました。
そう、わたし達が魔法を使う時はステッキにバランスをとってもらいます。
このアイテムがなければ、あんな魔法は使えません。
『でも、なくても少しは使えるんだったよね?』
するどい正くんの言葉に、わたしはうなずきました。
『うん。そうだね』
確かにステッキがなくても、少しは魔法を使えます。
本当にちょっとしたこと(手品くらいのものかな)しかできないから、普通は魔法を使う時はステッキを使っています。
でもこのクラスになったばかりの時に、ステッキがなくても魔法が使えるところを見せるために、ちょっとやってみたことがあったのです。
正くんは、それをしっかり覚えていたんだね。
『じゃあ、僕の将来のために協力してね』
『うん』
その日わたしは、ノートにたくさん書いてある質問に答えなくちゃいけませんでした。
それからわたしは付け加えます。
「でもね、土星も好きなんだけど、1番の憧れの星はみかん星だよ」
「みかん星?」
正くんが不思議そうな顔をして、聞き返します。
そう。わたしと同じ名前のみかん星です。
物知りな正くんが知らない星なのかな?
「うん。小さい頃に聞いたことあるの。『みかん星』っていってたよ」
そうわたしがいうと、正くんは少しの間考えました。
うーん。
それから、わたしにとっては衝撃の答えを返してくれたのです。
「もしかしてそれって『未完成』じゃあ。まだ完成してないという意味の」
わたしは驚いて聞きました。
「えっ!?未完成って言葉があるの?」
「知らなかったんですか?」
正くんも瞳を丸くして聞き返します。
そう聞いて、わたしはとってもショックでした。
みかん星って星があるって、ずっと思っていたのに…。
そう落ち込んでいると、わたしを呼ぶ優香里ちゃんの声が聞こえてきました。
「みかんちゃーん」
優香里ちゃんは流れ星に乗って、手を振っています。
流れ星はすぐに現れてはすぐ消えるので、次々と飛び乗っているみたいです。
流れ星は小さいし、それは難しいことだと思うけど、運動がとっても得意な優香里ちゃんにはできるみたいだね。すごいなあ。
わたしは感心してしまいます。
そんな優香里ちゃんを見ていたら、さっきのショックな気分も忘れちゃったよ。
わたしもぴょんと跳んで、優香里ちゃんの近くまで行きました。
「楽しい?」
流れ星に乗っている真っ最中の優香里ちゃんに聞くと、にこにこ笑って答えてくれました。
「うん。最高。まるでジェットコースターみたい。何回乗ってもあきないよ」
着地もお見事です。
「よかった」
わたしも笑って返事をしました。
みんなを眺めると、それぞれ楽しんでいるみたいです。
正くんも、今は興味深そうにいろんな星を見ているしね。
よかったよかった。
さあて、わたしもそろそろみんなに混ざって遊ぼうっと。
そう思って跳ぼうとした時に、はたと思い出しました。
そうだ!あれから結構経ってるし、もうすぐ友子先生が来るよね。
先生が来る前に消しておいた方がいいかな。
実は友子先生が担任の先生になってから、こんな大きな魔法を使うのは初めてなのです。
先生はもちろんわたしが魔法使いだって知っているけど、いきなりだったらびっくりしちゃうよね。
でもわたしがみんなに声をかけようとした時には、もう遅かったのです。
体育館の入り口から友子先生の声が聞こえてきました。
「みんなー、ごめんね。遅くなっちゃって」
ガラッ
先生が笑顔で体育館の扉を開けます。
!!
そしてこの光景を見て、やっぱりとっても驚いたみたいです。
体育館の中が宇宙になっていて、みんなが浮いているんですから。
「えっ?きゃあ!」
友子先生はそう叫んで倒れてしまいました。
わたし達は、思っていた以上の友子先生の驚きぶりに大慌てです。
「友子先生!」
わたしもみんなも先生の元に駆け寄りました。
友子先生は倒れた時に頭をぶつけてしまったのか、気絶してしまったみたいです。
わたしはそんな先生を見て、強く反省しました。
先生、びっくりさせてごめんなさい。


2-みかんちゃんのお母さん

あの後龍太郎くんが他の先生を呼びに行ってくれて、友子先生は病院に運ばれていきました。
倒れた時に頭を打ったかもしれないから、検査をするそうです。
それでわたしは今、校長室で教頭の杉田勝子先生に怒られているところです。
「まったく、白石さん。あなたはまたとんでもないことをしましたね」
白石とはわたしの苗字だよ。
勝子先生からは、いつもこうやって苗字の方で呼ばれています。
勝子先生はため息をついていいました。
「またこんな騒ぎを起こして。
だから困るんですよ。魔法使いがいると」
わたしは1年生の時から、こうやって勝子先生に叱られています。
穏やかな毎日が好きな勝子先生にとって、わたしは手に余るみたいです。
いい方がちょっと厳しいけど、でもわたしはそれだけ友子先生に悪いことをしちゃったんだもんね。
友子先生、大丈夫かなあ。
反省しながらも、そうちょっと上の空になってしまいました。
「…というわけで、白石さんが学校にいる間は、そのペンダントは校長室で預かることにします」
だからいつの間にか、話がそんなふうに進んでいました。
「えっ?」
わたしはびっくりして、思わず聞き返します。
「仕方ないでしょう。何度もこうやって事件を起こすんですから。
あなたのお母さんは、そのペンダントはお守りでもあるからいつも身に付けてないといけないといっていたけれど、仕方ありませんね」
勝子先生はそういいながら戸棚の引き出しを開けました。
「どうしてもですか?」
わたしはそう確かめます。
先生のいっていたように、このペンダントは絶対に外してはいけないって、お母さんにいわれていたからです。
これはいろいろと便利に魔法が使えるアイテムにもなるけれど、ペンダントのままでも持ち主を守ってくれる力をもっているそうです。
だから魔法使いにとっては、命の次に大事な物なんだよ。
でも勝子先生は許してくれませんでした。
わたしのせいだし仕方ないので、あきらめて先生にペンダントを渡します。
まあ、学校ではそんなに危ないこともないよね。
勝子先生はペンダントを受け取ると、さっきの引き出しに入れて鍵をかけました。
そして付け加えます。
「これからは毎朝職員室に来るんですよ。預かりますから。帰りには返します」
「はーい」
わたしはそう元気なく返事をして、校長室を後にしました。

ガラッ
わたしが教室のドアを開けると、みんながわっと駆け寄ってきました。
そしてわたしに口々に尋ねます。
「みかんちゃん、教頭先生に呼ばれたんでしょ?大丈夫だった?」
そう麻緒ちゃんが心配してくれます。
わたしがよく勝子先生に怒られているのを、みんなは知っているからです。
「友子先生のこと何かいってた?」
港くんの質問に、わたしは答えます。
「友子先生は、検査をするために、今日と明日、病院にいるんだって」
そういうと、健治くんが首をかしげました。
「先生、病院かあ。そんなにひどかったかな?」
「あれ?みかんちゃん。ペンダントは?」
美穂ちゃんが真っ先に気付いて、そう聞きました。
わたしは仕方なく笑って答えます。
「勝子先生に取り上げられちゃった」
すると彩ちゃんが、わたしの代わりに怒ってくれました。
「えー?ひっどーい。
あのみかんペンダントは、みかんちゃんのトレードマークなのに」
「うーん。でも、わたしが悪いんだしね。
あれ?みんなは今まで何してたの?」
ふと気付くと、教室には他の先生はいなくて、勉強をしていた感じじゃありません。
「ああ、きっと先生達は、おれ達のことを忘れてるんだよ。
他のクラスの先生は自分の授業があるし、余ってる先生は友子先生のことで頭がいっぱいなんじゃないかな。
だからおれ達、教室で自由にしてたんだ」
光くんがそう教えてくれました。
そっか。先生、全然来てないんだ。
「じゃあ、みんな席に着いてよう。
他の先生、もうすぐ来るかもしれないし」
大人しい気持ちになっていたわたしは、そうみんなにいいました。
さっきのショックが続いているからなのか、いつものようにみんなとはしゃげなかったのです。
みんなは席に着いて、それからまたおしゃべりを始めました。
そんな中わたしは、頬杖をついて考えていました。
本当に友子先生にひどいことをしちゃったなあ。
みんなと楽しく遊ぼうと思ってやったことだったのに。
そう落ち込んでいると、隣から高志くんが励ましてくれました。
「みかん、そんなに落ち込まなくていいよ。
友子先生だって、きっと何ともないしさ」
そういってもらったら、心があったかくなりました。
「うん。そうだよね」
そう答えられた時、いいアイディアが浮かびました。
そうだ!友子先生のお見舞いに行こうかな。
友子先生は今日と明日は病院にいるっていってたもんね。
よーし、そうしよう!そして驚かせちゃったことを謝ろう!
わたしはそう思い付くと、気持ちがとっても明るくなりました。
こう気持ちを切り替えられたのは、高志くんのおかげです。
だからわたしは元気にお礼をいいました。
「高志くん、ありがとう!」
そう感謝をして、それからはみんなと楽しくおしゃべりできました。

「ただいまー。お母さん!」
わたしはお母さんに頼みたいことがあるので、いつもより急いで帰りました。
「あら、みかん。いつもより早いのね。
とばしてきたの?ほうきは急ぐと危ないわよ」
お母さんにはちゃんとわかっています。
そう水晶玉を持って立っている人が、わたしのお母さん。
お母さんの名前は、「いちご」といいます。
わたしと同じで、名前の通りのいちご形のアイテムを使っているよ。
お母さんのペンダントはわたしのより大分小さいです。
大人の人がよくする大きさだよ。
アイテムは、持ち主に合わせた大きさになるそうです。
お母さんは24歳です。みんなのお母さんと比べると、とっても若いよね。
お母さんが中学3年生になってすぐにわたしをもらったそうなので、こんなに歳の差がないんです。
そうそう、わたし達魔法使いは、2つ戸籍があるんだよ。
普通のと、魔法使いだけのとあります。
みんなと同じ方は、神様から赤ちゃんをもらったら、出生届を出すんだそうです。
だから学校にも通えるし、成人式のお知らせなどもくるんだよ。
名前はね、子どもが男の子だったらお父さんのを、女の子だったらお母さんの苗字をもらって、名前も関係あるものを付けるきまりになっています。
例えば、わたしのおじいちゃんの名前は水沢椎。おばあちゃんは白石れもんです。
おじいちゃんは樹の名前、おばあちゃんは果物の名前だね。
だからお母さんの名前は白石いちごになりました。
苗字の方は普通の戸籍にだけ載っていて、魔法使いのには名前だけです。
魔法使いは普通の人の10倍長く生きるけれど、世界で1日に1人ずつしか生まれなくて数が少ないです。
そして付けられる名前の種類はみんな違うので、遠いご先祖様くらいしか同じ名前にはならないからだそうです。
おじいちゃん、おばあちゃんは隣の市に住んでいます。
おばあちゃん達は65歳くらいだから、みんなと同じだね。
時々会いに来てくれるし、わたし達も会いにいきます。
お母さんが高校生の時までは、おばあちゃん達の家に一緒に住んでいました。
そして卒業したら、この町に引っ越してきたんだよ。
魔法使いは生活するお金には困らないので、お母さんはわたしが学校に行っている間は、お仕事をしたり、魔法の練習をしたりしているみたいです。
そしてお母さんが今持っている水晶玉は、お母さんの宝物です。
調べものや占いをする時に必要なんだよ。
調べものとは、もう起こっていることについて知りたい時で、占いはこれから起こることのヒントがほしい時のことを、分けてそう呼んでいます。
わたしはその水晶玉でお母さんに調べものを頼みたかったので、ちょうどよかったです。
わたしは早速お願いします。
「あのね、お母さん。今日わたしの魔法のせいで、友子先生が倒れちゃったの。
それで先生のお見舞いに行きたいんだけど、でも先生がいる病院がわからなくって…。
だからお母さんに調べてほしいの」
そう説明をすると、お母さんはしっかりうなずいてくれました。
「いいわよ。お母さんに任せなさい!」
そして水晶玉をマジッククロースで磨き始めました。
前に調べたことと混ざらないように、使う前にはきれいに磨かなくちゃいけないそうです。
マジッククロースっていうのは、水晶玉を持ち歩く時に必要な物です。
水晶玉は直接さわっちゃいけないから、この上から持つんだよ。
お母さんのはえんじ色をしていて、はじっこにいちご模様が入っています。
磨き終わると、マジッククロースで水晶玉を包みます。
それからお母さんは魔法の部屋へ行くようにいいました。
わたしはカバンを下ろしてから、ついていきます。
魔法の部屋とは、玄関から見て左側の最初にあるお部屋です。
水晶玉を使えるのは、この部屋だけだよ。
でも使っていない時は、お母さんのお部屋に置いているそうです。
このお部屋はいつも鍵がかかっています。
広さは10畳くらいで、壁側には本棚が置いてあります。
魔法関係の本がたくさん入っているよ。
魔法文字という特別なお勉強をしないと読めない本や、普通の文字で書かれた大人向けの本が並んでいます。
子ども向けのは、わたしの本棚に入れてもらっているよ。
このお部屋の物はわたしには使えないし、普通は入ることができません。
でもこういう魔法関係の時は、お母さんと一緒になら入れます。
わたしが入ると、お母さんは鍵をかけました。
調べている時に何かの邪魔が入ってしまうと、後でもう1度同じことは調べられなくなるからだそうです。
真ん中にテーブルが1つあって、イスが向かい合って置いてあります。
その2つある奥の方のイスにお母さんが座ります。
つまりわたしはドア側に座るわけです。
イスが2つしかないのは、この家に住んでいるのはわたしとお母さんだけだからです。
わたしにはお父さんはいません。
魔法使いは神様から赤ちゃんをもらうので、こうやってお父さんかお母さんだけの家もあるそうです。
お母さんはとっても優しいから、2人でも寂しいわけじゃありません。
でもやっぱりわたしにもお父さんがいたらいいなあと思います。
「じゃあ始めるわよ」
テーブルの真ん中に置いた水晶玉に、お母さんは手をかざしました。
わたしはうなずきます。
するとお母さんは水晶玉へ呪文を唱えます。
「テルアンサ。
みかんの担任の、友子先生のいる病院は?」
パァァッ
水晶玉が光って、いつものように何かが浮かび上がりました。
わたしには全然わからないけど、お母さんにはわかるみたいです。
「わかったわ。ここは緑光病院ね」
そういって、また水晶玉をマジッククロースでくるみました。
「リビングにある地図で、場所を教えるわね。行きましょう」
そうわたしにいって部屋を出ます。
魔法の部屋から出ると、とってもまぶしく感じます。
この部屋だけ窓がないからです。
実はわたしは、魔法の部屋って苦手かな。
明るい方が好きなので、出るとほっとします。
わたしはそんなことを思って、リビングに行きました。
お母さんは、すぐに地図を開いて教えてくれます。
「緑光病院はここよ。まっすぐ飛んでいけば遠くないわね」
そう病院を指差してから、家から病院まで指で線を引いてくれました。
わたしは途中にある建物などをよーく確認してから、お母さんにお礼をいいました。
「こう行けばいいんだね。うん、わかった。
お母さん、ありがとう!」
それからお母さんは、いつものようにいってくれます。
「お見舞いに行く時、先生にお花を持っていくといいわ」
お母さんはお花や樹を育てるのが大好きなんです。
魔法でじゃなくて自分の手でね。
だからわたしの家のお庭には、たくさんのお花が咲いています。
「そういえば、いつ行くの?」
お母さんの質問に、わたしは元気よく答えます。
「明日行こうと思ってるの。
第2土曜日だから、学校お休みでしょ?」
そう、明日はお休みなんです。
友子先生は明日も病院にいるみたいだし、今日無理をして行くよりは、明日ゆっくり会いに行った方がいいかなって思いました。
わたし達5年生は毎日帰りが3時くらいになってしまうので、学校の後は難しいのです。
「そうなの。気を付けて行ってらっしゃい」
お母さんは、そう優しくいってくれました。


3-友子先生のお見舞い

「じゃあ、行ってきまーす」
次の日わたしは予定通りに、友子先生のお見舞いに出発します。
お母さんが渡してくれたお花も持ったよ。
「方向を間違えたり、お花を落としたりしないように気を付けるのよ」
そうお母さんが注意してくれました。
「はーい」
わたしは返事をして、病院へと出発します。
場所はしっかり覚えたし、バッチリだよ。
わたしの家から緑光病院までは、普通にいけば4kmくらいあります。
でもわたしはまっすぐに行けるから、3kmくらいになるのかな。
わたしのほうきだと10分もかかりません。
「あ、ここかな?」
わたしはちゃんと病院らしい建物を見つけました。
病院って高さがあるからわかりやすいね。
降りてみるとやっぱりそうで、「緑光病院」と書いてありました。
ほうきから降りて、ほうきを持って病院に入ります。
わたしはお母さんみたいにほうきを消せないので、いつも持ち歩いているのです。
受付のお姉さんに友子先生がいるところを聞いて、ほうきを預かってもらいました。
お姉さんがちゃんと教えてくれたので、すぐに友子先生に会えました。
先生はわたしをみてびっくりします。
「みかんちゃん!」
そんな先生にわたしはまず謝ります。
「友子先生。昨日は驚かせちゃってごめんなさい。お見舞いに来ました」
それからお母さんからのお花も渡しました。
「お花も持ってきました。はい、どうぞ!」
友子先生はお花を見て喜んでくれます。
「きれいなお花ね。ありがとう」
それからわたしは1番気になっていたことを聞きます。
「先生、大丈夫でしたか?」
すると友子先生はしっかりうなずきました。
「ええ。検査したらどこも悪いところはないって。
元々何でもなかったんだけど、ついでだからって健康診断並みにいろいろ診てもらってたのよ。
だから2日もかかっちゃったけど、どこも健康だってわかったから、かえってお得だったわよね。
もう終わって、帰るところだったのよ」
そう元気に笑ってくれたので、わたしは安心しました。
「そうなんですか。よかった」
ほっとため息をつきます。
すると友子先生は寂しそうな顔になりました。
「みかんちゃんにそんなに心配させちゃって、私ったらだめな先生ね」
そういわれて、わたしは慌てます。
「わたしのせいで友子先生が倒れちゃったんだから、当たり前です!」
でも友子先生は首を振ります。
「いいえ。先生が悪いのよ。
みかんちゃんが魔法使いだってちゃんと知っていたのに、あれくらいのことで驚いちゃったんだもの。
だからみかんちゃんが責任を感じることないのよ」
そういわれて、わたしは困ってしまいました。
だって悪いのは、やっぱりわたしだもんね。
少しの間2人とも黙ってしまいます。
そううつむいたら、友子先生が持っている本に気が付きました。
雑誌じゃなくて、図書館に置いてあるようなひもが付いている本です。
「友子先生は本を読むのが好きなんですか?」
聞いてみると、先生は明るい顔になって答えてくれました。
「ええ。よく読むのよ。
先生もお勉強しようと思って読むのもあるし、本のお話っておもしろいものね」
そっかあ。友子先生は本が大好きなんだ。
わたしは、友子先生の学校での様子しか知りません。
だから友子先生の好きな物とかをあんまりわかっていませんでした。
でも先生だって、わたしみたいにお家での生活とかあるんだもんね。
お家での友子先生ってどんなふうなのかな?
そんなふうに話は広がって、それからは楽しくお話できました。
「友子先生、じゃあわたしは帰ります」
10分くらいお話して、わたしはそういいました。
友子先生も帰るところだって、さっきいっていたし、そろそろ帰った方がいいかなと思いました。
そんなわたしに、友子先生は伝言を頼みます。
「月曜日はちゃんと学校に行くからね。
みんなも心配しているかもしれないから、みかんちゃんが朝伝えておいてくれないかしら」
もちろんわたしはうなずいて、友子先生に手を振りました。
「はい。さようなら」
「さようなら。今日は来てくれてありがとう」
友子先生もそう手を振り返してくれました。

帰り道、わたしは晴れやかな気分です。
よかった!先生がなんともなくて。
そして今日話したおかげで、友子先生のことがいろいろとわかりました。
お見舞いに来てよかったな。お花も喜んでもらえたし。
そうとってもうれしくなってしまって、困ったことにわたしは反省気分を忘れてしまっていました。

月曜日、わたしはお見舞いに行ったことをみんなに報告しました。
聞いているみんなも、話しているわたしもうれしい気分です。
もちろん昨日お母さんにもお話しました。
お母さんも『よかったわね』っていってくれたよ。
「じゃあ友子先生は、今日学校に来るんだね」
秋子ちゃんが笑っていいました。
わたしは、クラスのみんなと窓のところで話していました。
わたしは窓の手すりのところに座ってね。
普通はそういうことをしないんだけど、その時のわたしは、友子先生が大丈夫だったことに気持ちが浮かれていたからだね。
「うん」
そう答えた時、体がグラッと後ろに傾きました。
え?
わたしは何だかわからなくって、最初は混乱しました。
「みかんちゃん!?」
そうみんなの慌てる声が聞こえます。
わたしは答えた時に、後ろにもたれかかったみたいです。
そして運が悪いことにその窓は開いていました。
つまりわたしは、教室の窓から落ちてしまったようです。
そう気付いたら、すぐに壁にあったパイプにつかまりました。
ちょうど足場になるところもあったから、そこで止まります。
ほっと一息。
でもこれからどうしようかな?
わたし達のクラスの5年3組は3階にあります。
そして今わたしのいるのは、2階より少し上です。
この高さだと飛び降りるのも危ないし、クラスの窓まで戻るのも無理です。
クラスのみんなは、この突然の出来事に大騒ぎしています。
「みかんちゃん、ほうき、ほうき」
わたしが困っていると、そう優香里ちゃんが窓からわたしのほうきを持って振ってくれます。
そうか!飛べばいいんだよね。
わたしは安心しかけたけど、勝子先生にペンダントを預けていることを思い出しました。
ペンダントをかけていないとほうきで飛べないのです。
お守りだし、ペンダントのままでもちゃんと魔法のバランスを取ってくれているんだよね。
いつもはあまり感じていなかったけれど、こうやってないとペンダントの大事さがわかります。
たとえステッキやカチューシャに変えられなくてもね。
「ほうきはペンダントがないと使えないの」
わたしがそう上に向かっていうと、窓から高志くんがいなくなって声が聞こえました。
「わかった!おれが取ってくる。
それまで頑張るんだぞ」

「教頭先生!」
高志くんが勢いよく職員室のドアを開けると、先生みんなが一斉に注目しました。
朝の会の前の時間なので、ほとんどの先生が揃っていました。
「どうしたの?菅原くん」
勝子先生が少し驚いて聞くと、高志くんは慌て気味にいいました。
「みかんのペンダントを返して下さい!
みかんちゃん、今かなり危ないところにいるんです。
でもペンダントがないと飛べなくて…」
「そこってどこなの?」
「校舎の壁です。教室の窓から落ちて、パイプにつかまってます」
そう聞いて、勝子先生は瞳を丸くしました。
「何ですって!」
「みかんちゃんが?」
一昨日いっていた通りにちゃんと来ていた友子先生も、真っ青になりました。
他の先生達も驚いて騒ぎ出します。
勝子先生は急いで校長室に行くと、鍵を開けてペンダントを手に取ります。
それから高志くんと一緒に、教室に向かいました。
はあ。はあ。
(こんなことになるなんて…。全くあの子は)
勝子先生はそう思いながらも、わたしのために急いで階段を駆け上ってきてくれました。
その間、たくさんの先生達が5年3組の教室の窓や校庭から、わたしを心配して見ていました。
クラスのみんなや先生の、わたしを励ます声や心配する声が聞こえてきます。
その声で他のクラスの子達も気付いて、窓からこっちを見ています。
もう学校中大騒ぎです。
わたしはちょっと体勢は辛いけど、とりあえず大丈夫です。
でも、またみんなに迷惑かけちゃった。
とっても大事になってしまって、わたしはとっても反省しました。
浮かれていたりしたからだよね。
3日前に事件を起こしたばっかりなのになあ。
今度はほんとにほんとに反省しました。
すると勝子先生と高志くんが来てくれました。
「白石さん、持ってきたわよ。ちゃんと受け取るのよ」
勝子先生がそう、受け取りやすいように慎重にペンダントを落としてくれました。
わたしは片手を離して、ペンダントのひもをつかみました。
これでとりあえず一安心。
手に持っているだけでもほうきで飛べるはずです。
「じゃあみかんちゃん。ほうきも渡すよ」
「うん」
優香里ちゃんが落としてくれたほうきもキャッチできました。
これで本当に安心です。
ペンダントを持ったままほうきに乗って、落ちたところから教室に入りました。
「みかんちゃん、よかったー」
みんながとってもほっとした顔で迎えてくれました。
わたしはまず謝ります。
「みんな、心配かけてごめんなさい」
すると高志くんが、勝子先生に向かっていつもより強い調子でいいます。
「教頭先生!やっぱりみかんちゃんからペンダントを取り上げるのは危ないと思います。
いざという時にも魔法が使えないのは困ります」
すると他のみんなもいい始めました。
「そうです。みかんちゃんが落っこちちゃうかもしれないって、心配だったんだから」
そういつも穏やかな麻緒ちゃんが、一生懸命な顔をしていってくれます。
そして憧れている時の表情をしながらも、みゆきちゃんもいいます。
「それにみかんちゃんの魔法ってとっても素敵なのに、見られなくなるのは残念です」
あれはわたしが悪かったから起きたことだったのに、みんなはわたしにいう前に、そう勝子先生に訴えます。
でも勝子先生はいい返さずに、わたしを見てため息をつきました。
「そうね。こんなにひやひやするなんて。
それを持っていないと危ないのかもしれないわね。
──白石さん、そのペンダントを持っていてもいいです。
でもこの前みたいに、人に迷惑をかける魔法は使ってはいけませんよ」
いつもはちょっと厳しい先生だけど、その様子からわたしのことをとっても心配してくれたのが伝わってきます。
わたしはいつもよりもっと気持ちを込めて謝りました。
「はい。これからはよく考えて使います」
勝子先生はわたしの後ろを見て、もう1言付け加えます。
「それから、もうあんなところに座ってはいけませんよ。
それはみんなもね」
とっても危ないことが身にしみたわたしは、しっかり返事をしました。
「はい!ごめんなさい。もうしません」
そして勝子先生や他の先生達は戻っていきました。
わたしのせいで、みんなの朝の時間の始まりが遅くなってしまいました。
学校中の人に迷惑をかけてしまいました。
そして残ったのは、クラスのみんなと友子先生です。
「本当によかった。
みかんちゃんの方が大怪我をしちゃうかと思ったわ」
友子先生はそういって、わたしを抱きしめました。
そのあったかさが、先生の気持ちのように伝わってきます。
友子先生にはまた心配をかけてしまいました。そしてクラスのみんなにも。
そんな友子先生やみんなに、わたしはもう1度謝ってお礼をいいました。
本当にごめんなさい、一生懸命心配してくれてありがとう。こんなわたしだけど、これからもよろしくお願いします。


1999年~2000年制作


【あとがき】
12歳の時に、クラスに魔法使いがいたら楽しそうと考えて、みかんちゃんのキャラは生まれました。
この1話は14歳の時に書きました。
当時ファンタジーはドタバタじゃなきゃいけないという思い込みがあって、こんな話にしました。
みかんちゃんがわりとトラブルメイカーで、教頭先生に目を付けられているという点は間違いないですが、
全体的にこういう流れは私には合わないので、3話目から今の作風に決めました。
今となっては毛色の違う1話ですが、一応載せておきます。
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