5年生5月編
1-小学生 魔法使いみかんちゃん
朝。とっても空がきれいな朝です。
「おはようございまーす」
庭に出てお片付けをしているご近所の真樹子おばさんに、わたしは空からあいさつします。
真樹子おばさんはわたしの声に振り向いて、笑顔でいってくれました。
「おはよう、みかんちゃん。気を付けて行ってきなね」
「はーい」
元気に手を振って、わたしは今日も元気に学校へ向かいます。
今は5月なので、暖かくていい気持ちです。
小鳥さん達のさえずりも聞こえてきて、とってもさわやかな気分だよ。
わたしの名前は、みかん。10歳の魔法使いです。
これは生まれつきなので、お母さんもおじいちゃんもおばあちゃんもみーんな魔法使いだよ。
魔法使いはみんなを幸せにできるように、神様が創ったそうです。
神様に種から赤ちゃんになるまで育ててもらって、そして神様が育てている特別なお花になる実をもらって生まれるそうです。
その実が魔法を使える元なんだって。
魔法使いは長生きで1000年くらい生きます。
そのうちの最初の100年くらいは、普通の人達と一緒に暮らしています。
魔法のお勉強もあるけれど、普通の学校にも通っています。
魔法使いだけの集まりも、学校で同じ歳のお友達に会うのもどっちも楽しいよ。
みんなと同じ学校では、雪湖(ゆきんこ)小学校の5年生。
魔法は使えるものが少ないけれど、お母さんに教えてもらって頑張っています。
今使っているほうきで空を飛ぶ魔法は、1番最初の1年生の時に覚えたものなので、結構上手になりました。
「おはよー」
お天気のおかげで、わたしはいつもよりも明るい笑顔であいさつしました。
クラスのみんなも元気にあいさつを返してくれます。
「おはよう、みかんちゃん」
「あー、みかんが来た、来た」
クラスは4年生の時から一緒なので、みんなとっても仲良しです。
わたしはほうきをほうき立てに入れて、カバンをおろしました。
このほうき立ては、担任の友子先生が用意してくれたんだよ。
「今日はいい天気だねー」
今朝は雲一つないいいお天気です。
風もとっても気持ちがよかったし。
「五月晴れってやつだね」
秋子ちゃんが窓の外を見ながらいいました。
「そういえば、今日の給食いちごだぜ。ますます春らしいよな」
いつも元気な健治くんが、楽しそうに教えてくれます。
そう聞いていちごが大好きなわたしは、さらにうれしくなりました。
みんなでそんなふうに話していると、
ガラッ
後ろの戸が開いて、温広くんが飛び込んできました。
もうすぐ友子先生が来る時間だったし、わたし達はびっくりしました。
「ま、間に合ったー」
「どうしたんだよ、温広」
健治くんが聞くと、温広くんはとても苦しそうに息をついています。
「朝寝坊して…、全速力で走ってきたんだ」
「大丈夫?」
わたしも心配して聞くと、温広くんがうらやましそうにいいました。
「みかんはいいなあ。5分で学校に着くもんなあ」
わたしは笑うしかなかったです。
だってわたしの家の方が、温広くん家より学校に遠いんですから。
スピードは自転車くらいしか出してないけれど、信号もないし、一直線で行けるほうきは結構早くつけるんだよ。
わたしは普通の家の上を通れるくらいの高さで飛んでいるので、3階以上の建物はよけなきゃいけないけどね。
カラーンコローン♪
やっぱりすぐにチャイムが鳴って、わたし達5年3組の担任の小川友子先生が入ってきました。
友子先生は26歳の優しい先生です。
わたし達が4年生の時に担任だった結城先生は、他の学校に行ってしまいました。
だから去年6年生の先生をしていた友子先生が来てくれたのです。
わたし達のクラスは、友子先生にとって2つめなんだね。
みんな急いで席に着きました。
わたしの席は、窓側から3列目で前からは2番目です。
隣が高志くんで、後ろがももちゃんと桜ちゃん。
前が港くんと麻緒ちゃん。名前で決まった席順です。
友子先生はいつものように出席を取ったあと、今日の連絡を話し始めました。
「今日は3時間目の体育をみんなに教えてくれている千夏先生がお休みしたので、私が行きますね」
わたし達はほとんどのお勉強を友子先生に教わっているのですが、体育だけは千夏先生に教わっています。
「千夏先生、どうしたんですか?」
委員長の龍太郎くんが聞くと、友子先生は少し心配そうな顔で答えました。
「風邪ですって。みんなも気を付けてね。
体育の時間の前に、先生ちょっと用事があるので、10分くらい待っていてくださいね」
千夏先生はいつも元気で、運動がすごく得意です。
でも今は病気になっちゃったんだ。心配です。
「では国語の勉強を始めますよ」
わたしが考えている間に先生の話は終わっちゃって、そして授業が始まりました。
中間休み、次の体育のために着替えをしながら、ももちゃんがため息まじりにいいました。
「わたし、外が良かったなー」
「今日は天気いいのにね」
桜ちゃんもうなずいています。
今日は千夏先生がいないので、いつものように外ではなく、体育館でやることに決まったのです。
いつもは外で短距離走とかやっています。
体育館の中だったら球技かな?
わたしは球技では、バスケットボールが1番好きだよ。
そして今話しているももちゃんと桜ちゃんは双子です。
ももちゃんの方がお姉さん。
ももちゃん、桜ちゃんはとっても仲が良くって、席が隣なのも友子先生にお願いしたからなんだよ。
5年3組は男の子も女の子も同じ人数なので、普通は女の子同士隣ってことはありません。
でもももちゃん、桜ちゃんは双子ってこともあって、先生が許してくれたのです。
だから光くん、健治くんは男の子同士でお隣なんだよ。
魔法使いは普通兄弟がいないそうなので、そんなに仲のいい兄弟がいてうらやましいです。
でもわたしにはお母さんも、こうやってたくさんのお友達もいるもんね。
「みかんちゃーん」
そう考え事をしていたわたしは、突然の桜ちゃんの声にびっくり!
周りを見ると、もうみんな移動を始めています。
なのに、わたしはまだ準備が終わっていません。
いつの間にか、1番最後になっちゃったよ。
「はーい」
わたしは返事をして急ぎました。
みんなで体育館の中おとなしく座って、友子先生を待っていました。
でも先生はなかなか来てくれません。
「先生、遅いねー」
彩ちゃんがいうと、男の子で1番運動が得意な光くんも機嫌が悪そうです。
「もう15分も経ってる。あと30分しか体育できなくなった」
-…そうだ!
退屈そうに座っているみんなを見て、わたしはとってもいいアイディアが浮かびました。
「ねえねえ、みんな!先生が来るまで、楽しくお勉強してようよ」
そう立ち上がると、みんなは首をかしげます。
「ここで楽しい勉強?」
わたしはとっても張り切っていいます。
「そう!科目は違っちゃってるけど、理科のお勉強!」
いつも首にかけているみかん形のペンダントを外して、上に軽く投げます。
そしてこのペンダントをステッキに変える呪文を唱えました。
「ミラクル・ドリーミング」
わたしのこのペンダントは、呪文によっていろいろなアイテムに変わるのです。
ステッキの次によく使うのは、「ミラクル・テイク・シー」。
そう唱えるとカチューシャになって、普通はわからない言葉もわかるようになるんだよ。
外国の言葉とか、動物の言葉とかね。
他には「ミラクル・キーピング」。
ブレスレットになって、自分の周りの環境を保ってくれます。
これを付けていると、宇宙や海の底でも平気なんだって。
ただカチューシャやブレスレットに変わると、他の魔法は使えなくなります。
このアイテムはとっても便利で、魔法使いはみんな持っています。
わたしはこの雪湖小学校に入学した時、お母さんにもらいました。
呪文はその人によって違います。
お父さんやお母さんが子どもの呪文を決めて、神様に登録してもらうそうです。
今変えたステッキは、大きな魔法が使えるようになるんだよ。
ステッキを受け止めると、わたしはお願い事をいいながらステッキを振りました。
「この体育館の中を、宇宙にしてくださーい」
すると魔法がかかって、わたしがお願いした通りになります。
「わー」
「宇宙だー」
みんなが周りを見て、そう驚きました。
そういっても本物にしたわけじゃないんだよ。
もし本物だったら、息ができないとかいろいろと大変だよね。
でもいつもよりも体は軽くなったはずだし、出した星にさわったりすることはできます。
これはわたしが唯一使うことのできる、夢魔法という種類の魔法です。
わたしの中のイメージにあるものや、想像しにくいものは具体的に頼めば出すことができるんだよ。
つまりこれはわたしの心の中の宇宙ということです。
魔法使いといってもどんな魔法でも使えるわけじゃなくて、自分が覚えた種類のだけ使えるようになっています。
だからどんな魔法使いでも大事な魔法は使えるように、ペンダントがいろいろ変わるんだよ。
「そっか。みかんちゃんがいってたお勉強って、この宇宙を見ること?」
美穂ちゃんがうれしそうに聞きました。
「うん。でも遊びもしよう。
みんな、宇宙の中だから浮けるようにもなったはずだよ」
わたしは張り切って答えます。
「うん!遊ぼう!」
修くんが喜んでうなずきます。
その中で、みゆきちゃんが目を見張って聞き返します。
「え?浮けるの?」
その言葉で気付いたわたしは、うれしい気持ちになってうなずきました。
「うん!」
みゆきちゃんは、わたしみたいな魔法使いにずっと憧れていたそうです。
だからわたしに会った時、いっちばん喜んでました。
そんなみゆきちゃんは、わたしのように空を飛んでみたいというのが1番の夢なんだって。
でもわたしは、人を飛ばせるような魔法は使えません。
それは夢魔法じゃなくて、違う種類の魔法だからね。
だから今までできなかったんだけど、とうとう叶えてあげることができてよかった。
空を飛ぶと空中に浮かぶとでは、ちょっと違うかもしれないけどね。
1年以上も同じクラスだったんだから、もっと早く気付けばよかったね。
そうちょっと後悔もしたけど、気を取り直していいました。
「ジャンプをするような感じで、跳んでみて」
「こうかな?」
わたしがいった通りに、みゆきちゃんはやってみます。
すると成功して、空中にふわふわと浮かびました。
「すっごーい」
「よかったね。みゆきちゃん」
みんなはそれを見て驚いたり、みゆきちゃんの夢が叶ったことをお祝いしました。
「うわー。浮いてるよー。すっごくうれしい」
みゆきちゃんは近くなっている天井を見て、今までで1番の笑顔でいってくれました。
「ありがとう、みかんちゃん」
「どういたしまして」
わたしもうれしくなりながら返します。
それからみんなを振り返って、元気にいいました。
「さあ、みんなで遊ぼう!」
「うん!」
みんなは張り切って返事をして、駆け出します。
「みかんちゃん、ありがとう!」
そんなみんなを見て、わたしはとっても幸せな気分です。
うれしいな、喜んでもらえて。
わたし、魔法使いで本当によかったよ。
そう思って見ていたら、大変なことになりそうでした。
「あ!柾紀くん、太陽はさわらないでね」
そうわたしは慌てて注意をします。
あぶない、あぶない。
太陽は元々、近付くだけで溶けちゃうくらい熱いよね。
だからわたしの出したのは効果が弱いとはいえ、やけどくらいはしちゃうのです。
「わーい。土星の輪に乗れたよー」
そんな声に振り返ると、ももちゃんと桜ちゃんがそう喜んでいました。
2人とも輪に乗って、手を振っているよ。
わたしが出した宇宙は、太陽系の惑星です(太陽は恒星だけどね)。
みんな本当の比率で出ているから、地球などは小さめだけど、土星や木星は大きいよ。
「地球って他の星に比べて小さいんだねー」
ちょうど港くんが地球にさわりながら、同じことをいっています。
そうだよね。わたし達は地球って(日本だけでも)とっても大きいって思うけど、宇宙から見ると小さい方なんだもんね。
じゃあ土星って、本当はどんなに大きいのかな?
「みかんさん、みかんさん」
そんなことを考えていると、わたしを呼んでいる声が聞こえました。
振り返ると、正くんでした。
正くんは、わたし達のクラスの中で1番まじめな男の子です。
正くんは遊んでなかったのかな?
まだ床に着いてるの、わたしの他には正くんだけだよ。
不思議に思いながら正くんのところに行くと、いつものように質問をされました。
「みかんさんは、星では何が好きですか?」
この質問にはすぐに答えられます。
「土星だよ。あの輪っかが好きなの。もちろん地球も大好きだけどね」
「なるほど」
正くんはうなずいています。
正くんが質問をしてわたしが答えるというのは、よくあることなんです。
わたしが魔法使いだから、他の人とは違う考え方をしているんじゃないかなって、思っているみたいだよ。
わたしはみんなと同じつもりなんだけどね。
正くんは、将来いろいろ研究をする人になりたいそうです。
だから魔法使いにも興味があるんだって。
それを初めて聞いたのは、4年生の6月頃でした。
新しいクラスにもすっかり慣れていたころです。
正くんに質問をされた時に、前々から不思議に思っていたわたしは、はっきり聞いてみたのです。
『正くんって、どうしてわたしにばっかり質問するの?』
すると意外な言葉が返ってきました。
『僕、将来、研究家になりたいんだ』
質問とは違っていたけれど、その答えに興味を持って聞きました。
『そうなんだあ。どんな研究をするの?』
すると正くんは、
『まずは、未知の生物について調べるつもりなんだ。
…というわけで、このノートにいろいろ質問を書いてきたから、答えてくれないかな』
そういってわたしの手にノートを1冊乗せました。
わたしはいきなりでびっくりしました。
『え!?正くん、どうしてそうなったの?』
でも正くんは落ち着いて答えます。
『僕は未知の生物の研究をしたいっていったよね?
みかんさんは魔法使い。十分、未知の生き物じゃないですか』
わたしにはその言葉が意外でした。
魔法使いのわたし達も、他の人と同じ神様に創られたものだからです。
『魔法使いって未知の生き物なの?』
わたしが確認すると、正くんははっきり答えました。
『うん。大体魔法が使えるなんて、すごく謎だよ』
確かに、他の人とは違う力があるわたし達は不思議なのかなあ。
『でも、それはこのステッキのおかげだよ』
わたしはそう思い直していいました。
そう、わたし達が魔法を使う時はステッキにバランスをとってもらいます。
このアイテムがなければ、あんな魔法は使えません。
『でも、なくても少しは使えるんだったよね?』
するどい正くんの言葉に、わたしはうなずきました。
『うん。そうだね』
確かにステッキがなくても、少しは魔法を使えます。
本当にちょっとしたこと(手品くらいのものかな)しかできないから、普通は魔法を使う時はステッキを使っています。
でもこのクラスになったばかりの時に、ステッキがなくても魔法が使えるところを見せるために、ちょっとやってみたことがあったのです。
正くんは、それをしっかり覚えていたんだね。
『じゃあ、僕の将来のために協力してね』
『うん』
その日わたしは、ノートにたくさん書いてある質問に答えなくちゃいけませんでした。
それからわたしは付け加えます。
「でもね、土星も好きなんだけど、1番の憧れの星はみかん星だよ」
「みかん星?」
正くんが不思議そうな顔をして、聞き返します。
そう。わたしと同じ名前のみかん星です。
物知りな正くんが知らない星なのかな?
「うん。小さい頃に聞いたことあるの。『みかん星』っていってたよ」
そうわたしがいうと、正くんは少しの間考えました。
うーん。
それから、わたしにとっては衝撃の答えを返してくれたのです。
「もしかしてそれって『未完成』じゃあ。まだ完成してないという意味の」
わたしは驚いて聞きました。
「えっ!?未完成って言葉があるの?」
「知らなかったんですか?」
正くんも瞳を丸くして聞き返します。
そう聞いて、わたしはとってもショックでした。
みかん星って星があるって、ずっと思っていたのに…。
そう落ち込んでいると、わたしを呼ぶ優香里ちゃんの声が聞こえてきました。
「みかんちゃーん」
優香里ちゃんは流れ星に乗って、手を振っています。
流れ星はすぐに現れてはすぐ消えるので、次々と飛び乗っているみたいです。
流れ星は小さいし、それは難しいことだと思うけど、運動がとっても得意な優香里ちゃんにはできるみたいだね。すごいなあ。
わたしは感心してしまいます。
そんな優香里ちゃんを見ていたら、さっきのショックな気分も忘れちゃったよ。
わたしもぴょんと跳んで、優香里ちゃんの近くまで行きました。
「楽しい?」
流れ星に乗っている真っ最中の優香里ちゃんに聞くと、にこにこ笑って答えてくれました。
「うん。最高。まるでジェットコースターみたい。何回乗ってもあきないよ」
着地もお見事です。
「よかった」
わたしも笑って返事をしました。
みんなを眺めると、それぞれ楽しんでいるみたいです。
正くんも、今は興味深そうにいろんな星を見ているしね。
よかったよかった。
さあて、わたしもそろそろみんなに混ざって遊ぼうっと。
そう思って跳ぼうとした時に、はたと思い出しました。
そうだ!あれから結構経ってるし、もうすぐ友子先生が来るよね。
先生が来る前に消しておいた方がいいかな。
実は友子先生が担任の先生になってから、こんな大きな魔法を使うのは初めてなのです。
先生はもちろんわたしが魔法使いだって知っているけど、いきなりだったらびっくりしちゃうよね。
でもわたしがみんなに声をかけようとした時には、もう遅かったのです。
体育館の入り口から友子先生の声が聞こえてきました。
「みんなー、ごめんね。遅くなっちゃって」
ガラッ
先生が笑顔で体育館の扉を開けます。
!!
そしてこの光景を見て、やっぱりとっても驚いたみたいです。
体育館の中が宇宙になっていて、みんなが浮いているんですから。
「えっ?きゃあ!」
友子先生はそう叫んで倒れてしまいました。
わたし達は、思っていた以上の友子先生の驚きぶりに大慌てです。
「友子先生!」
わたしもみんなも先生の元に駆け寄りました。
友子先生は倒れた時に頭をぶつけてしまったのか、気絶してしまったみたいです。
わたしはそんな先生を見て、強く反省しました。
先生、びっくりさせてごめんなさい。
朝。とっても空がきれいな朝です。
「おはようございまーす」
庭に出てお片付けをしているご近所の真樹子おばさんに、わたしは空からあいさつします。
真樹子おばさんはわたしの声に振り向いて、笑顔でいってくれました。
「おはよう、みかんちゃん。気を付けて行ってきなね」
「はーい」
元気に手を振って、わたしは今日も元気に学校へ向かいます。
今は5月なので、暖かくていい気持ちです。
小鳥さん達のさえずりも聞こえてきて、とってもさわやかな気分だよ。
わたしの名前は、みかん。10歳の魔法使いです。
これは生まれつきなので、お母さんもおじいちゃんもおばあちゃんもみーんな魔法使いだよ。
魔法使いはみんなを幸せにできるように、神様が創ったそうです。
神様に種から赤ちゃんになるまで育ててもらって、そして神様が育てている特別なお花になる実をもらって生まれるそうです。
その実が魔法を使える元なんだって。
魔法使いは長生きで1000年くらい生きます。
そのうちの最初の100年くらいは、普通の人達と一緒に暮らしています。
魔法のお勉強もあるけれど、普通の学校にも通っています。
魔法使いだけの集まりも、学校で同じ歳のお友達に会うのもどっちも楽しいよ。
みんなと同じ学校では、雪湖(ゆきんこ)小学校の5年生。
魔法は使えるものが少ないけれど、お母さんに教えてもらって頑張っています。
今使っているほうきで空を飛ぶ魔法は、1番最初の1年生の時に覚えたものなので、結構上手になりました。
「おはよー」
お天気のおかげで、わたしはいつもよりも明るい笑顔であいさつしました。
クラスのみんなも元気にあいさつを返してくれます。
「おはよう、みかんちゃん」
「あー、みかんが来た、来た」
クラスは4年生の時から一緒なので、みんなとっても仲良しです。
わたしはほうきをほうき立てに入れて、カバンをおろしました。
このほうき立ては、担任の友子先生が用意してくれたんだよ。
「今日はいい天気だねー」
今朝は雲一つないいいお天気です。
風もとっても気持ちがよかったし。
「五月晴れってやつだね」
秋子ちゃんが窓の外を見ながらいいました。
「そういえば、今日の給食いちごだぜ。ますます春らしいよな」
いつも元気な健治くんが、楽しそうに教えてくれます。
そう聞いていちごが大好きなわたしは、さらにうれしくなりました。
みんなでそんなふうに話していると、
ガラッ
後ろの戸が開いて、温広くんが飛び込んできました。
もうすぐ友子先生が来る時間だったし、わたし達はびっくりしました。
「ま、間に合ったー」
「どうしたんだよ、温広」
健治くんが聞くと、温広くんはとても苦しそうに息をついています。
「朝寝坊して…、全速力で走ってきたんだ」
「大丈夫?」
わたしも心配して聞くと、温広くんがうらやましそうにいいました。
「みかんはいいなあ。5分で学校に着くもんなあ」
わたしは笑うしかなかったです。
だってわたしの家の方が、温広くん家より学校に遠いんですから。
スピードは自転車くらいしか出してないけれど、信号もないし、一直線で行けるほうきは結構早くつけるんだよ。
わたしは普通の家の上を通れるくらいの高さで飛んでいるので、3階以上の建物はよけなきゃいけないけどね。
カラーンコローン♪
やっぱりすぐにチャイムが鳴って、わたし達5年3組の担任の小川友子先生が入ってきました。
友子先生は26歳の優しい先生です。
わたし達が4年生の時に担任だった結城先生は、他の学校に行ってしまいました。
だから去年6年生の先生をしていた友子先生が来てくれたのです。
わたし達のクラスは、友子先生にとって2つめなんだね。
みんな急いで席に着きました。
わたしの席は、窓側から3列目で前からは2番目です。
隣が高志くんで、後ろがももちゃんと桜ちゃん。
前が港くんと麻緒ちゃん。名前で決まった席順です。
友子先生はいつものように出席を取ったあと、今日の連絡を話し始めました。
「今日は3時間目の体育をみんなに教えてくれている千夏先生がお休みしたので、私が行きますね」
わたし達はほとんどのお勉強を友子先生に教わっているのですが、体育だけは千夏先生に教わっています。
「千夏先生、どうしたんですか?」
委員長の龍太郎くんが聞くと、友子先生は少し心配そうな顔で答えました。
「風邪ですって。みんなも気を付けてね。
体育の時間の前に、先生ちょっと用事があるので、10分くらい待っていてくださいね」
千夏先生はいつも元気で、運動がすごく得意です。
でも今は病気になっちゃったんだ。心配です。
「では国語の勉強を始めますよ」
わたしが考えている間に先生の話は終わっちゃって、そして授業が始まりました。
中間休み、次の体育のために着替えをしながら、ももちゃんがため息まじりにいいました。
「わたし、外が良かったなー」
「今日は天気いいのにね」
桜ちゃんもうなずいています。
今日は千夏先生がいないので、いつものように外ではなく、体育館でやることに決まったのです。
いつもは外で短距離走とかやっています。
体育館の中だったら球技かな?
わたしは球技では、バスケットボールが1番好きだよ。
そして今話しているももちゃんと桜ちゃんは双子です。
ももちゃんの方がお姉さん。
ももちゃん、桜ちゃんはとっても仲が良くって、席が隣なのも友子先生にお願いしたからなんだよ。
5年3組は男の子も女の子も同じ人数なので、普通は女の子同士隣ってことはありません。
でもももちゃん、桜ちゃんは双子ってこともあって、先生が許してくれたのです。
だから光くん、健治くんは男の子同士でお隣なんだよ。
魔法使いは普通兄弟がいないそうなので、そんなに仲のいい兄弟がいてうらやましいです。
でもわたしにはお母さんも、こうやってたくさんのお友達もいるもんね。
「みかんちゃーん」
そう考え事をしていたわたしは、突然の桜ちゃんの声にびっくり!
周りを見ると、もうみんな移動を始めています。
なのに、わたしはまだ準備が終わっていません。
いつの間にか、1番最後になっちゃったよ。
「はーい」
わたしは返事をして急ぎました。
みんなで体育館の中おとなしく座って、友子先生を待っていました。
でも先生はなかなか来てくれません。
「先生、遅いねー」
彩ちゃんがいうと、男の子で1番運動が得意な光くんも機嫌が悪そうです。
「もう15分も経ってる。あと30分しか体育できなくなった」
-…そうだ!
退屈そうに座っているみんなを見て、わたしはとってもいいアイディアが浮かびました。
「ねえねえ、みんな!先生が来るまで、楽しくお勉強してようよ」
そう立ち上がると、みんなは首をかしげます。
「ここで楽しい勉強?」
わたしはとっても張り切っていいます。
「そう!科目は違っちゃってるけど、理科のお勉強!」
いつも首にかけているみかん形のペンダントを外して、上に軽く投げます。
そしてこのペンダントをステッキに変える呪文を唱えました。
「ミラクル・ドリーミング」
わたしのこのペンダントは、呪文によっていろいろなアイテムに変わるのです。
ステッキの次によく使うのは、「ミラクル・テイク・シー」。
そう唱えるとカチューシャになって、普通はわからない言葉もわかるようになるんだよ。
外国の言葉とか、動物の言葉とかね。
他には「ミラクル・キーピング」。
ブレスレットになって、自分の周りの環境を保ってくれます。
これを付けていると、宇宙や海の底でも平気なんだって。
ただカチューシャやブレスレットに変わると、他の魔法は使えなくなります。
このアイテムはとっても便利で、魔法使いはみんな持っています。
わたしはこの雪湖小学校に入学した時、お母さんにもらいました。
呪文はその人によって違います。
お父さんやお母さんが子どもの呪文を決めて、神様に登録してもらうそうです。
今変えたステッキは、大きな魔法が使えるようになるんだよ。
ステッキを受け止めると、わたしはお願い事をいいながらステッキを振りました。
「この体育館の中を、宇宙にしてくださーい」
すると魔法がかかって、わたしがお願いした通りになります。
「わー」
「宇宙だー」
みんなが周りを見て、そう驚きました。
そういっても本物にしたわけじゃないんだよ。
もし本物だったら、息ができないとかいろいろと大変だよね。
でもいつもよりも体は軽くなったはずだし、出した星にさわったりすることはできます。
これはわたしが唯一使うことのできる、夢魔法という種類の魔法です。
わたしの中のイメージにあるものや、想像しにくいものは具体的に頼めば出すことができるんだよ。
つまりこれはわたしの心の中の宇宙ということです。
魔法使いといってもどんな魔法でも使えるわけじゃなくて、自分が覚えた種類のだけ使えるようになっています。
だからどんな魔法使いでも大事な魔法は使えるように、ペンダントがいろいろ変わるんだよ。
「そっか。みかんちゃんがいってたお勉強って、この宇宙を見ること?」
美穂ちゃんがうれしそうに聞きました。
「うん。でも遊びもしよう。
みんな、宇宙の中だから浮けるようにもなったはずだよ」
わたしは張り切って答えます。
「うん!遊ぼう!」
修くんが喜んでうなずきます。
その中で、みゆきちゃんが目を見張って聞き返します。
「え?浮けるの?」
その言葉で気付いたわたしは、うれしい気持ちになってうなずきました。
「うん!」
みゆきちゃんは、わたしみたいな魔法使いにずっと憧れていたそうです。
だからわたしに会った時、いっちばん喜んでました。
そんなみゆきちゃんは、わたしのように空を飛んでみたいというのが1番の夢なんだって。
でもわたしは、人を飛ばせるような魔法は使えません。
それは夢魔法じゃなくて、違う種類の魔法だからね。
だから今までできなかったんだけど、とうとう叶えてあげることができてよかった。
空を飛ぶと空中に浮かぶとでは、ちょっと違うかもしれないけどね。
1年以上も同じクラスだったんだから、もっと早く気付けばよかったね。
そうちょっと後悔もしたけど、気を取り直していいました。
「ジャンプをするような感じで、跳んでみて」
「こうかな?」
わたしがいった通りに、みゆきちゃんはやってみます。
すると成功して、空中にふわふわと浮かびました。
「すっごーい」
「よかったね。みゆきちゃん」
みんなはそれを見て驚いたり、みゆきちゃんの夢が叶ったことをお祝いしました。
「うわー。浮いてるよー。すっごくうれしい」
みゆきちゃんは近くなっている天井を見て、今までで1番の笑顔でいってくれました。
「ありがとう、みかんちゃん」
「どういたしまして」
わたしもうれしくなりながら返します。
それからみんなを振り返って、元気にいいました。
「さあ、みんなで遊ぼう!」
「うん!」
みんなは張り切って返事をして、駆け出します。
「みかんちゃん、ありがとう!」
そんなみんなを見て、わたしはとっても幸せな気分です。
うれしいな、喜んでもらえて。
わたし、魔法使いで本当によかったよ。
そう思って見ていたら、大変なことになりそうでした。
「あ!柾紀くん、太陽はさわらないでね」
そうわたしは慌てて注意をします。
あぶない、あぶない。
太陽は元々、近付くだけで溶けちゃうくらい熱いよね。
だからわたしの出したのは効果が弱いとはいえ、やけどくらいはしちゃうのです。
「わーい。土星の輪に乗れたよー」
そんな声に振り返ると、ももちゃんと桜ちゃんがそう喜んでいました。
2人とも輪に乗って、手を振っているよ。
わたしが出した宇宙は、太陽系の惑星です(太陽は恒星だけどね)。
みんな本当の比率で出ているから、地球などは小さめだけど、土星や木星は大きいよ。
「地球って他の星に比べて小さいんだねー」
ちょうど港くんが地球にさわりながら、同じことをいっています。
そうだよね。わたし達は地球って(日本だけでも)とっても大きいって思うけど、宇宙から見ると小さい方なんだもんね。
じゃあ土星って、本当はどんなに大きいのかな?
「みかんさん、みかんさん」
そんなことを考えていると、わたしを呼んでいる声が聞こえました。
振り返ると、正くんでした。
正くんは、わたし達のクラスの中で1番まじめな男の子です。
正くんは遊んでなかったのかな?
まだ床に着いてるの、わたしの他には正くんだけだよ。
不思議に思いながら正くんのところに行くと、いつものように質問をされました。
「みかんさんは、星では何が好きですか?」
この質問にはすぐに答えられます。
「土星だよ。あの輪っかが好きなの。もちろん地球も大好きだけどね」
「なるほど」
正くんはうなずいています。
正くんが質問をしてわたしが答えるというのは、よくあることなんです。
わたしが魔法使いだから、他の人とは違う考え方をしているんじゃないかなって、思っているみたいだよ。
わたしはみんなと同じつもりなんだけどね。
正くんは、将来いろいろ研究をする人になりたいそうです。
だから魔法使いにも興味があるんだって。
それを初めて聞いたのは、4年生の6月頃でした。
新しいクラスにもすっかり慣れていたころです。
正くんに質問をされた時に、前々から不思議に思っていたわたしは、はっきり聞いてみたのです。
『正くんって、どうしてわたしにばっかり質問するの?』
すると意外な言葉が返ってきました。
『僕、将来、研究家になりたいんだ』
質問とは違っていたけれど、その答えに興味を持って聞きました。
『そうなんだあ。どんな研究をするの?』
すると正くんは、
『まずは、未知の生物について調べるつもりなんだ。
…というわけで、このノートにいろいろ質問を書いてきたから、答えてくれないかな』
そういってわたしの手にノートを1冊乗せました。
わたしはいきなりでびっくりしました。
『え!?正くん、どうしてそうなったの?』
でも正くんは落ち着いて答えます。
『僕は未知の生物の研究をしたいっていったよね?
みかんさんは魔法使い。十分、未知の生き物じゃないですか』
わたしにはその言葉が意外でした。
魔法使いのわたし達も、他の人と同じ神様に創られたものだからです。
『魔法使いって未知の生き物なの?』
わたしが確認すると、正くんははっきり答えました。
『うん。大体魔法が使えるなんて、すごく謎だよ』
確かに、他の人とは違う力があるわたし達は不思議なのかなあ。
『でも、それはこのステッキのおかげだよ』
わたしはそう思い直していいました。
そう、わたし達が魔法を使う時はステッキにバランスをとってもらいます。
このアイテムがなければ、あんな魔法は使えません。
『でも、なくても少しは使えるんだったよね?』
するどい正くんの言葉に、わたしはうなずきました。
『うん。そうだね』
確かにステッキがなくても、少しは魔法を使えます。
本当にちょっとしたこと(手品くらいのものかな)しかできないから、普通は魔法を使う時はステッキを使っています。
でもこのクラスになったばかりの時に、ステッキがなくても魔法が使えるところを見せるために、ちょっとやってみたことがあったのです。
正くんは、それをしっかり覚えていたんだね。
『じゃあ、僕の将来のために協力してね』
『うん』
その日わたしは、ノートにたくさん書いてある質問に答えなくちゃいけませんでした。
それからわたしは付け加えます。
「でもね、土星も好きなんだけど、1番の憧れの星はみかん星だよ」
「みかん星?」
正くんが不思議そうな顔をして、聞き返します。
そう。わたしと同じ名前のみかん星です。
物知りな正くんが知らない星なのかな?
「うん。小さい頃に聞いたことあるの。『みかん星』っていってたよ」
そうわたしがいうと、正くんは少しの間考えました。
うーん。
それから、わたしにとっては衝撃の答えを返してくれたのです。
「もしかしてそれって『未完成』じゃあ。まだ完成してないという意味の」
わたしは驚いて聞きました。
「えっ!?未完成って言葉があるの?」
「知らなかったんですか?」
正くんも瞳を丸くして聞き返します。
そう聞いて、わたしはとってもショックでした。
みかん星って星があるって、ずっと思っていたのに…。
そう落ち込んでいると、わたしを呼ぶ優香里ちゃんの声が聞こえてきました。
「みかんちゃーん」
優香里ちゃんは流れ星に乗って、手を振っています。
流れ星はすぐに現れてはすぐ消えるので、次々と飛び乗っているみたいです。
流れ星は小さいし、それは難しいことだと思うけど、運動がとっても得意な優香里ちゃんにはできるみたいだね。すごいなあ。
わたしは感心してしまいます。
そんな優香里ちゃんを見ていたら、さっきのショックな気分も忘れちゃったよ。
わたしもぴょんと跳んで、優香里ちゃんの近くまで行きました。
「楽しい?」
流れ星に乗っている真っ最中の優香里ちゃんに聞くと、にこにこ笑って答えてくれました。
「うん。最高。まるでジェットコースターみたい。何回乗ってもあきないよ」
着地もお見事です。
「よかった」
わたしも笑って返事をしました。
みんなを眺めると、それぞれ楽しんでいるみたいです。
正くんも、今は興味深そうにいろんな星を見ているしね。
よかったよかった。
さあて、わたしもそろそろみんなに混ざって遊ぼうっと。
そう思って跳ぼうとした時に、はたと思い出しました。
そうだ!あれから結構経ってるし、もうすぐ友子先生が来るよね。
先生が来る前に消しておいた方がいいかな。
実は友子先生が担任の先生になってから、こんな大きな魔法を使うのは初めてなのです。
先生はもちろんわたしが魔法使いだって知っているけど、いきなりだったらびっくりしちゃうよね。
でもわたしがみんなに声をかけようとした時には、もう遅かったのです。
体育館の入り口から友子先生の声が聞こえてきました。
「みんなー、ごめんね。遅くなっちゃって」
ガラッ
先生が笑顔で体育館の扉を開けます。
!!
そしてこの光景を見て、やっぱりとっても驚いたみたいです。
体育館の中が宇宙になっていて、みんなが浮いているんですから。
「えっ?きゃあ!」
友子先生はそう叫んで倒れてしまいました。
わたし達は、思っていた以上の友子先生の驚きぶりに大慌てです。
「友子先生!」
わたしもみんなも先生の元に駆け寄りました。
友子先生は倒れた時に頭をぶつけてしまったのか、気絶してしまったみたいです。
わたしはそんな先生を見て、強く反省しました。
先生、びっくりさせてごめんなさい。