5年生7月編

~プロローグ~

私はテトリ。魔法使いのパートナーになるために生まれました。
見た目は黒猫のぬいぐるみです。
なので動かなければ、普通のぬいぐるみのフリをできます。
本当の猫さんの習性なども、私はあまりないみたいです。
私の家族は、魔法使いとして仕事に就いている、29歳のいちごさん。
そして魔法の勉強をしながら、普通の人が通う学校にも行っている、10歳のみかんちゃんの、2人の親子です。
私は男の子か女の子か、はっきりと決まってはいません。
でも周りの人の様子を見ていると、私もお2人と同じ女の子の方がしっくりくる気がします。
これから私の家族など、周りの人の紹介をしていきたいと思います。
では、始まり始まりです。


1話

私を生み出したのは、いちごさん。
いちごさんが大学生の時にみかんちゃんをもらったこともあって、魔法使いとしてはまだ子どもだそうなのに、しっかりしている人です。
子どものみかんちゃんを大事にしていて、みかんちゃんが学校から帰ってくる頃には、お仕事から帰ってくるようにしています。
魔法使いとしてのお仕事もきちんとやっていて、自宅でもできることをいろいろしています。
親が子どもにパートナーをプレゼントするそうで、私はみかんちゃんのテトリです。
まだ自立していない魔法使いがパートナーをもらうことは、めったにないそうです。
でも元々2人だけの家族だったということと、みかんちゃんが動物を大好きな子なので、どちらかというと家族として、私は迎え入れられたみたいです。
そんなこともあって、みかんちゃんが学校に行っていて、私はお留守番をしている間などは、私はいちごさんと一緒にいることが多いです。
魔法使いは自分が住んでいる市や町の人達を担当しているそうです。
そして魔法使いがいない隣の市へも、1週間に1度は出張に行っています。
この県には、ご主人様(いちごさん)のご両親も住んでいます。
それもあって、今ご主人様は2つの市を受け持っています。
私も隣の市へもついていってます。
この日も、ご主人様がお仕事の話をしているのを、私は見上げていました。
そこに通りかかった、サバシロ模様の猫さんに声をかけられました。
「あら!あなたが魔法使いのところのテトリね!うわさで聞いたの。わたしはグリースよ」
生まれつき私は、いろんな種類の動物とお話ができます。
「初めまして。テトリです」
そうあいさつをすると、グリースさんは私の近くをちょこちょこと歩きながら、興味津々な様子です。
「わあ。本当に不思議な猫だわ」
そうまじまじと見てから、グリースさんは私を誘ってくれました。
「それよりも!
テトリはこの町に来ても、いつも魔法使いにくっついているだけなんでしょ?
たまにはわたし達と、猫らしく過ごしましょうよ!」
「え?でも…」
今は仕事で来ているんだから、勝手なことは…。
そう考えながらも、少しはこの町でも自由にしてみたいという気持ちもありました。
そんな私達の話が聞こえたらしいご主人様も、私の背中を押してくれました。
「そうね。テトリもこの町に慣れた方がいいし…。
お友達と出掛ける時があってもいいわよ。
今日はまだここを発つまでに1時間もあるから、それまでに帰ってくるんだったら」
そういってもらって、私はうれしくなりました。
「いいんですか!?じゃあお言葉に甘えて、行ってきます!」
そう張り切る私に、グリースさんも喜びました。
すぐにも駆け出しそうなグリースさんの姿を見て、ご主人様は慌てていいました。
「ちょっと待って!
テトリ、ここにはあなたを知らない人も多いと思うわ。
困った時にはどうしたらいいか、覚えてる?」
そうたずねられて、すぐに思い出した私はうなずきました。
「はい!迷子札ですよね」
私は生まれてすぐに、「魔法使いのパートナー テトリ」と住所の書かれた札を付けてもらいました。
それがあると動きづらいこともあって、普段は見えなくなっています。
私が合言葉をいうと、出てくるんですよ。
「わかってるならいいわ。羽を伸ばしていらっしゃい」
そう手を振ってくれたので、グリースさんは駆け出しました。
「じゃあ行きましょ。
わたしのおすすめスポットに案内するわ」
私も急いで付いていきます。

少し進んだところで、グリースさんは屋根の上を見つめました。
「見て!あそこにも、わたし達に似てるのがいるのよ」
「あ!猫さんの風見鶏ですね」
黒猫さんがくるくる回っていました。
そしてグリースさんは、植物がいっぱいの公園に案内してくれました。
「ここはわたし達のお気に入りの場所よ」
見回してみると、木の上や茂みの中、日当たりの良いところなどに猫さんがいます。
「魔法使いのところのテトリも連れてきたわよ」
「初めまして」
すると何匹かの猫さんが寄ってきてくれました。
「あ!知ってる。
ようこそ、猫の集会所へ」
そしてお互いのことをいろいろお話しました。
「テトリ、また遊びに来なよー」
それから私はこの町に行くと2回に1回位は、猫さん達と遊んでいます。


2話

今日は家族で大型スーパーへお買い物に行きます。
1ヶ月に1度ほど行ってるんですよ。
魔法で物を出すことができるのに、買うなんて不思議に思います?
何かと交換するわけでもなく、素材も使わない魔法は、物を出している間はずっと力を使っていることになるからだそうです。
そしてその時に使える魔法量は限られているので、出しっぱなしの物が多くなるほど、使える魔法が減っちゃうんですって。
だからすぐに片付けない物は買う、魔法使いが多いそうです。
「お母さん、わたしは折り紙と鉛筆がほしい!」
そうみかんちゃんが右手をあげて頼んでいます。
「そうね。足りなくなりそうな物だったらいいわよ」
ご主人様はOKを出してから、私にもいってくれました。
「テトリも何かほしい物があったらいってね」
ありがたいことですが、今はこれといって思い付きませんでした。
「何か見つけた時は、お願いします」

大型スーパーに着くと、みかんちゃんは瞳をきらきらさせて、ご主人様をふり返りました。
「最初におもちゃ売り場を見に行っていい?」
すると慣れているらしいご主人様はうなずきました。
「いいわよ。でもおもちゃを買うのは誕生日の時ね。
私は他の売り場を見てるから、15時に待ち合わせね」
そう約束するのも忘れずに。
「はーい。行こう、テトリちゃん」
私もおもちゃ売り場大好きなので、2人で張り切って向かいます。

おもちゃ売り場に着いたとたん、みかんちゃんはすっかりおもちゃに夢中です。
「リスさんのお家いいなあ」
そうショーケースの中に飾ってある、木の形をしたドールハウスを見つめたり。
「あー!ミーちゃんのぬいぐるみがある!」
そう「ぽこたんの冒険」の新キャラを手に取ってみたり。
私もここでは密かな楽しみがあるんです!
見回して、誰もこっちを見ていないか確かめてから、ジャンプ!
うふふ。また兄弟に埋もれました。ほわほわ。
私もこうして、ここにいたんですよねー。
兄弟に囲まれてリラックスするのが、私の癒しの一時です。
そう浸っていたら、こちらを指差されました。
「ママ!あの黒猫がほしい!」
そしてみかんちゃんより少し小さいくらいの女の子と、そのお母さんが目の前にやって来ました。
女の子はこちらに手が届かないながらも、私を指差しているような…。
「この動いてるのがいいな」
ハッ!よく考えたら、今私は商品のところにいるんですよね!
そう気付いて、私は慌てて弁解しました。
「ごめんなさい!私は売り物じゃありません!」
そう頭を下げましたが、信じてもらえません。
「あら!最近のおもちゃはすごいわねー」
「ねっ!この猫ちゃん、いいよね」
この頃のおもちゃは進化してるからと、私の見た目がぬいぐるみだからですねー。
私があわあわしていると、これに気付いたみかんちゃんが駆け付けてくれました。
「テトリちゃん!迷子札だよ!」
そういわれて理解した私は唱えました。
「テトリの迷子札!」
するとちゃんと私の迷子札が現れます。
みかんちゃんは私を抱き上げて、女の子の方に向けました。
「ごめんね。このテトリちゃんは、うちの子なの」
そう聞いた親子は戸惑ったようでしたが、私の迷子札を見たら、納得したようでした。
「まほう使いのパートナー テトリ?
本当だ!これだけ名札が付いてる!」
「魔法使い…。ああ!魔法で動いてたのね」
みかんちゃんは私の考えがわかっていて、それを女の子に伝えてくれました。
「テトリちゃんもここから買ったから、またお友達と一緒にいたかったみたい」
そう聞いて、女の子は私の兄弟を振り返ります。
「そっかー。他のは動かないの?」
そう知った女の子は少し悩んでいましたが、くるっとお母さんに向き直っていいました。
「やっぱりこの黒猫がほしい!
この黒猫もわたしのところに来たいって思ってる気がする」
そう自分の兄弟が受け入れられて、私はとてもうれしいです。
みかんちゃんもにっこり笑っていいました。
「うん!その猫さんといっぱい仲良くなってね」

私はこんな家族が大好きです。
これからずっと一緒にいろいろなことをして、みかんちゃんのいう通り、いっぱい仲良くなっていきたいです。


おしまい
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