魔法の森編

6─魔法の学校の新入生

魔法の森での2日目です。
昨日しっかり眠れたので、気持ちよく目が覚めました。
朝ごはんを食べて少ししたら、早速初めての授業の時間になります。
双葉クラスの帽子をかぶって、わくわくします。
この帽子は小学校に入った年にもらえます。
帽子の色はどのクラスもみんな緑色で、先に☆が付いています。
そして区別はワッペンでしています。
クラス名の通り、わたし達のは可愛い黄緑色の双葉です。
去年までは、何のワッペンも付いていませんでした。
こう模様が付いておしゃれになって、うれしいです。
「つばめくん、包丁で手を切らないように、気を付けるのよ。
もし切っちゃったら、すぐに先生とお母さんにいいなさい」
そうつばめくんのお母さんは、つばめくんの手を取って心配していました。
授業前に、わたしもお母さんに注意されました。
小学校の家庭科の時間では、まだ包丁を使ったことがないもんね。
だから練習も兼ねて、夏休みになってからちょっとお手伝いをしてきました。
つばめくんも、お母さんとちょっと練習をしてきたそうです。
そんな包丁を使うのは、魔法のお薬を作る授業です。
小学校みたいに、ペンケースとノートを持っていきます。
それから用意してきた、みかん印のシールも一緒に。
自分で作ったお薬には、名前のマークのシールを貼るのが慣わしです。
誰が作ったお薬か、ブランドのようになっています。
今までお薬を作れるのは、家ではお母さんだけでした。
だからお家の研究室の薬は、全部いちご印になっています。
わたしもきちんと作れるようになったら、これからはみかん印も棚に置けるんです。
その様子を思い浮かべると、楽しみです。
そのためには、しっかり覚えなくちゃ。
家庭科室や図工室のように、同じ大きさの長方形の机が並んでいる教室でした。
横に3個、縦に4個、そして入り口近くにはありません。
そう全部で11個の机があります。
そして机にはそれぞれ2,3個のイスが置いてあります。
その席について、きりんくんが教えてくれます。
「歳ごとに作るものが違うから、その分机があるんだ」
そしてタルトちゃんは、1つの机に座りました。
きりんくんも向かいの、同じ机に座ります。
そしてわたし達におしえてくれます。
「ここが12歳の机なの。
みかんちゃんとつばめくんの席はあそこよ」
そう左斜め前の机を指差しました。
小学校の教室でいうなら、1番前の真ん中の机です。
わたしとつばめくんは、いわれた通りに座りました。
えびさんはわたし達の後ろの、2番目の真ん中の机に座っています。
「ドキドキするね」
「ちゃんと作れるかな?」
そうつばめくんといっていると、木諸先生が入ってきました。
そしてみんなを見回していいます。
「みなさん、こんにちは。木諸です。
 今年も元気なみなさんに会えて、うれしいですよ」
そう先生がにっこりあいさつをします。
それからわたしとつばめくんに目をとめました。
「では今年から一緒にお勉強を始める、2人とあいさつをしましょう。
 みかんちゃん、つばめくん、出て来て」
そう木諸先生に呼ばれます。
わたしとつばめくんは先生の隣に行きました。
木諸先生はわたし達にいいます。
「じゃあ簡単でいいから、みんなにあいさつをしてね」
こっくりうなずいて、わたしからあいさつをします。
「みかんです。ここでのお勉強、とっても楽しみにしていました。
 どうぞよろしくお願いします」
そう元気にお辞儀をします。
すると、クラスの中でも大きい人達がいいました。
「みかんちゃんって、いちごさんの子どもなんだよね。
 同じクラスにいた時、憧れてたんだー」
お母さんは6年前まではこのクラスにいました。
だから今15歳以上の人は、同じ教室で勉強したことがあるんだよね。
そうお母さんの人気があって、うれしいです。
お母さんに後で伝えておかなくちゃ。
それからつばめくんがあいさつをします。
「つばめです。今までやったことのない魔法のかけ方を教えてもらえるのがうれしいです。
がんばるので、仲良くしてください」
すると応援の声がかかりました。
「みかんちゃーん。つばめくーん。2人ともがんばれー」
その言葉に2人で気合いが入りました。
うん。お母さんの子だもん。しっかりがんばります!
あいさつが終わると、歳ごとに違う紙をもらいました。
わたし達の紙には「傷薬の材料」と書いてあります。
今年はこれの作り方を覚えるんだね。
毎年1つずつ教えてもらえると、前もって聞いていました。
そう考えていると、木諸先生がいいました。
「では今年は、その薬の作り方を覚えましょうね。
まずはそれぞれの薬を作るために、みんなで材料を採りに行きましょう」
そう木諸先生は入り口から出て行きます。
周りのみんなを見ると、文房具は机に置いたまま、先生に付いていきます。
わたし達もそれに続きました。
そしてみんなで森の中へと出ます。
つばめくんは、これから集める材料の確認をします。
「ぼく達の材料は――くりたけ、やなぎまつたけ、かりん……かあ。
 普通に食べられそうな材料が多いね」
それを聞いて、わたしもうなずきます。
「うん。お料理するみたいだね」
タルトちゃんがいっていた通り、きのこも入っています。
そしてひまわりの花びらなんて、お花も入っているよ。
見たこともないものもたくさんあります。
そしてどういうところに生えているのかもわかりません。
すると木諸先生が手を叩いていいました。
「では最初は去年の復習ね。
奇数の歳の子が偶数の歳の子に、材料の場所へ案内してあげてね。
去年採りに行った場所を、ちゃんと覚えているかしら?
全員戻ってきたら、交代しますよ」
なるほど。そうすれば2回分の時間で済むもんね。
わたし達は10歳と偶数だし、最初の学年なので、教えてもらう側です。
わたし達のところに、11歳の3人が来てくれます。
小さな頃から1番同じクラスになることが多かった、身近な子達なのでよく知っています。
そのすすきちゃんが、とってもうれしそうに歓迎してくれます。
「うれしーい!わたし達にも後輩ができたわ!
みかんちゃん、つばめくん、双葉クラスにようこそ!
わたしがバッチリ教えてあげる。任せて!」
そう手のポーズを変えながら、とっても張り切っています。
そのすすきちゃんに、もみじくんがため息をつきました。
「すすき、張り切りすぎだよ。みかんちゃん達が困るだろ。
時間がなくなる。早く行こう」
そう周りの様子を見ていいます。
他のグループは、早速移動を始めていました。
その言葉に、すすきちゃんはほっぺをふくらませました。
「いいじゃない。うれしいんだから」
そんな2人を、とんぼくんが慌ててとりなします。
「その大切な後輩の前で、2人ともケンカをしないでね」
とんぼくんはわたし達と同じ5年生です。
そしてすすきちゃんともみじくんは6年生なので、ちょっと大変だそうです。
わたしとつばめくんもいいます。
「わたし達、全然困ってないです」
「うん。お兄さん、お姉さんに教えてもらえてうれしいです」
するとすすきちゃんは喜びました。
「そうでしょ?もみじも心配しないで。
 ちゃんと案内するから」
その言葉に、とんぼくんがうなずきます。
「そうだね。ぼく達も一緒だし」
そんな3人に案内してもらいます。
最初は、このお薬を作るために森の人が育てている畑に行きます。
どのグループもここから摘んでいます。
わたし達も、どれを摘めばいいか教えてもらいました。
「じゃあ次はひまわりね」
そうすすきちゃんが、お目当てのものを指差して教えてくれます。
するととんぼくんが摘み方を教えてくれます。
「花びらはこうやって採るんだよ」
そうその物を持って、いい摘み方を教えてくれます。
そして摘み終わると、もみじくんがノートを見ていいます。
「じゃあ次はやなぎまつたけを採りに行こうか」
こういう案内は初めてのはずなのに、そう役割分担されていました。
立派なチームワークです。
そして自然に生える物は、その場所に採りに行きます。
これはお使いでお目当てのものが揃っていく時に、似ています。
こうやってみんなで森の中を歩くのも楽しいです。
そして植物のお勉強にもなりました。
そう最初のグループの材料が揃ったら、今度は教える側と教えられる側の交代です。
木諸先生は19歳の子へ案内しています。
だからわたし達は、みんなが見える範囲のところで自由にしていました。
そしてみんなの材料が揃ったら、また教室に戻ります。
材料の入った籠をそれぞれの机に置きます。
すると先生がみんなを見回していいました。
「今日は最初なので、グループごとに協力して作ってみましょう」
わたしとつばめくんは、お薬作りは本当に初めてです。
だから1人じゃないって聞いて、ちょっと安心しました。
「まずは材料をきっちり計りましょう。
 魔法を上手く発揮させるには、それぞれの材料のバランスが肝心なの。
 だから1gも差がないように、気を付けましょうね」
さすが魔法のお薬。繊細なんだね。
そういわれて、みんなではかりを合わせるところから始めました。
木諸先生は、みんなの机を回り始めます。
まずは材料をよく洗いました。
土が取れたら、材料の重さを合わせます。
きのこなどは、どのくらいの大きさでその重さになるのかがわかりません。
だから何回も切って、合わせていきます。
「あと3gって、このくらいかな?」
そう予想を立てて切るのが、わたしはなかなか得意でした。
「ぴったり!みかんちゃん、すごいね」
そうつばめくんも感心してくれます。
つばめくんは、粉類をきっちり計るのが得意でした。
すりきりのやり方もバッチリです。
「そういうのも勉強してきたんだあ」
わたしも感心します。
そこに木諸先生も来て、ほめてくれました。
「2人とも、ちゃんと材料を調えられているわね」
うれしくて、2人でにっこり顔を見合わせます。
「材料を揃えられたら、その材料をできるだけ細かく刻みましょう。
材料をまな板から落とさないように、気を付けてね」
そういわれて、きのこや花びら、葉っぱを刻み始めます。
2人とも普通に切ることはできました。
でもお母さんみたいに、細くは切れません。
そして小さくするために、仕上げにみじん切りのように、細かくしていきます。
みじん切りなら、包丁を動かす程小さくなるので、ちゃんとできたかな?
まな板にうっすら葉っぱの色が付きました。
そしてその材料を落とさないように、そっとおなべの中に入れます。
「材料を平らにならしてから、ひたひたになるまで水を入れてね。
それをお湯にして、煮溶かします」
材料が少ないので、小さなおなべが用意されていました。
それでもお湯も材料の高さまでなので、うっすらです。
これを火にかけて、たまに混ぜます。
クツクツと煮えてきたら、いい匂いがしてきました。
そして最後に一つまみ、わたし達の髪の毛を少し入れます。
髪の毛は不思議とスウッと溶けて、魔法になりました。
それで完成です。
魔法の効果もあって、とってもなめらかなお薬に変わりました。
「やった。ちゃんと作れたね」
そうつばめくんと手を取り合って喜びます。
どの位正しく、効果のあるように作れたかは、お薬の色でわかるそうです。
いいお薬ほど、真っ白に近くなるんだって。
わたし達のお薬は、クリーム色になりました。
それを見た木諸先生はいいます。
「うん。これ位なら合格ね。
材料をもっと細かく刻めると、魔法が行き渡りやすくなるの。
それができるようになると、もっといい薬を作れるようになりますよ」
そうなんだ。もっと包丁を上手に使えるようにならなくちゃ。
そうアドバイスしてもらって、目標ができました。
大体のグループはそう合格することができました。
合格のお薬は瓶に詰めます。
そして木諸先生が受け取りました。
「今回のは共同作品なので、この森でもらいますね。
 明日からは1人ずつ作るようになります。
それでいいのが作れたら、みなさんが持って帰っていいですよ。
だからがんばりましょうね」
そう木諸先生に励まされます。
明日は1人かあ。がんばらなくちゃ。
最後はノートにメモをします。
材料の生えていた場所や、アドバイスしてもらったことを忘れないようにしておかないとね。
生えている場所をしっかりわかっていると、これからいい回り方ができそうです。
材料の紙は、わたしが持っていることになりました。
そして余った材料は、明日使えるように籠にまとめます。
それを先生が預かってくれました。
教室を出ると、タルトちゃんがいいます。
「今年のもなんとか作れるようになりそうね」
きりんくんもうなずいて、わたし達に教えてくれます。
「早くいい薬を作れるようになれれば、それだけたくさん持って帰れるからお得だよ。
材料を1から揃えるのは大変だし」
その言葉にえびさんが付け加えます。
「だから欲しい薬があったら、自由時間に作って持って帰る人も多いの」
そのお話にわたしも思い当たりました。
「そういえば、お母さんもいつもそうしています」
今年も来る前に、作りたいお薬をメモしていました。
このお薬は、お仕事でもとっても役に立つそうです。
だからお家の分の他にも、たくさん作っています。
お母さんはもう14種類もレパートリーがあります。
だからそれを全部作らなくても、凄い数に見えるんだよね。
毎年、休み時間も忙しくしています。
その分、しばらくはお仕事前にお薬作りをしなくていいから、楽なんだって。
「魔法が入っている薬だから、時間が経っても新鮮なままだしね。
使う予定があるなら、来年来るまでに使う分を作っちゃってもいいんだ」
そうきりんくんが付け足しました。
「私も傷薬は作って帰ろう!」
そうタルトちゃんがいいます。
それにえびさんときりんくんもうなずきました。
「私も必要ね」
「僕も後で作ろう」
そうみんなが、わたし達がこれからがんばるお薬を選びます。
それを聞いて、つばめくんが思わずいいました。
「傷薬って、そんなに役に立つんだあ」
するとみんなうなずきます。
「うん。最初に教えてもらえるだけあって、傷薬はとっても役に立つんだから」
タルトちゃんの言葉に、えびさんもうなずきます。
「そう。教えてもらえる順番は、作り方が簡単かどうか、というだけではないのよね」
それからきりんくんが、難しい言い回しを使っていいます。
「普通にもあるからって、あなどること無かれ。
 普通の傷薬よりも、ずっとよく効くからね」
そう先輩達が揃っていいます。
そんな言葉を聞いて、わたし達はますますがんばる気持ちがわきました。
「そうなんだあ。
ぼく達もちゃんと作れるようになりたいね」
そうつばめくんは、目を輝かせます。
わたしもにっこりうなずきました。
「うん。明日からもがんばろうね」


7─おじいちゃん達に見守られて

魔法のお薬作りは時間がかかります。
だから次はもう、お昼ごはんの時間です。
食堂に行くと、待っていた2人が来ていました。
「あ!おじいちゃんとおばあちゃんだ」
2人がいたのは入り口近くの席だったので、すぐに見付けました。
おばあちゃん達も、そんなわたしに気が付きます。
テーブルに座ったまま、手を振ってくれました。
この学校を卒業した人達は、今日来ることになっています。
だから他のおじいちゃん、おばあちゃん達もたくさん来ているよ。
中を見回してみたけど、お母さんはまだ来ていないみたいです。
おばあちゃん達に久しぶりに会えてうれしいです。
だからつい小走りになりました。
おじいちゃん達は、もう食べ終わっているようでした。
ゆったりとお茶を飲んでいます。
「やっぱり、ここで待っているのが1番良かったわね」
そうおばあちゃんがにこにこします。
「いつから来てたの?」
そう尋ねると、おばあちゃんは食堂の時計を見ながら答えました。
「1時間前くらいね。
みかんちゃんがお薬を完成させた頃かしら」
その通りだったので、わたしは驚きます。
「うん。そうだったよ。
おばあちゃん、ぴったり」
「初めての薬作りはどうだったんだい?」
そうおじいちゃんにたずねられます。
「今日はつばめくんと2人で作ったんだけど、ちゃんと出来たよ。
 それから今までやったことのないことを色々出来て、楽しかったの。
 すすきちゃん達に材料の場所まで案内してもらったり、包丁を使ったり」
そう思い出しながら説明します。
そんなわたしの言葉を聞いて、おじいちゃんは喜んでくれました。
「それは良かったね。
明日からもまたがんばれそうだな」
「うん」
わたしはにっこりうなずきます。
そんな時に、エルナちゃんが飛んできました。
わたしを見つけたエルナちゃんは、いつも通りに元気に声をかけてくれます。
「あー、みかん!久しぶり!元気にしてた?」
エルナちゃん、ミリスくんとは4ヶ月ぶりです。
わたしは振り返って答えます。
「エルナちゃん、運動会ぶりだね!
うん、とっても元気だよ」
そんなわたしの周りを、エルナちゃんはふわりと回ります。
そういつもの洋服チェックをされました。
そしてびしっと注意されます。
「あ!スカートが汚れてるじゃない!
 だめよ!女の子なんだから、いつもきれいじゃないと」
そういわれて確認してみます。
これは材料を探すときに付いたのかな?
スカートにちょっと土の跡が残っていました。
でもわたしの場合、これくらいならよくあることです。
汚さないようにするのは難しくて、すぐに黒くしちゃうんだよね。
きれいなお洋服を着るのは、大好きなんだけど。
お家に帰れば、お母さんが魔法で元通りにしてくれます。
そういう安心もあるからかな。
そうわたしは気を使えないので、動きづらい服は苦手です。
ミニスカートとかもはけないの。
対してエルナちゃんは、いっつもきれいです。
ふわふわの毛糸のスカートを着ています。
ちょっとさわりたくなる気持ちよさです。
「幼稚園の頃ならともかく、みかんももう10歳なのに。
 周りの子がどう思っていることか」
そうエルナちゃんは、おなじみのため息をつきます。
わたしは赤ちゃんの時から、こんなふうに注意をされてきたそうです。
だから叱られているのに、懐かしく感じます。
エルナちゃんはわたしにとって、お姉さんのような子なんだよね。
おかげでわたしは、お部屋や引き出しの中はきれいに片付ける習慣が付きました。
エルナちゃんがお家に遊びに来た時に、こっちは○をもらえます。
そうエルナちゃんが戻ってきたので、おじいちゃんは席を立ちました。
「じゃあミリスも迎えに行かなきゃな」
そしてパートナーの子達のお部屋へと向かいます。
入れ違いに、お母さんとテトリちゃんもやって来ました。
「お母さん、エルナ。お久しぶり」
「お久しぶりです」
そうおばあちゃんにいったテトリちゃんを、エルナちゃんは確認しました。
「わあ。この子がれもんのいっていたテトリね?
 猫っぽいけど、きれいそうね」
そうテトリちゃんは、チェックにOKだったようです。
「初めまして。エルナさん」
テトリちゃんは頭を下げます。
エルナちゃんも元気にあいさつをしました。
「私はれもんのパートナーのエルナよ。よろしくね」
そこにおじいちゃんとミリスくんもやってきました。
「僕はミリス!」
そういいながら、頭を揺らしています。
「初めまして。テトリです」
テトリちゃんはまたあいさつをします。
そうやっと揃ったところだけれど、おばあちゃんも立ち上がりました。
「せっかく会えたのにゆっくりとお話できなくて残念だけど、私達は行くわね」
「また後で話そうな」
そうおじいちゃんとおばあちゃんは出て行きました。
おじいちゃん達には、お勉強とは別の予定があります。
だから学生とはあんまり休み時間が合いません。
でもこうやって会える時もあるし、おじいちゃん達も来てるんだって思うと安心します。
おいしいご飯を食べて、午後のお勉強もがんばろう!

午後は魔法陣を描く授業です。
この授業はABクラスに分かれます。
大人は木諸先生と、真魔法使いのおじいさんの2人です。
森の中に空き地のように開けている場所があって、そこが教室でした。
こういう場所が4ヶ所もあって、それぞれ練習しているそうです。
本葉クラスの人は、わたし達とは逆の時間割になっています。
だから午前中に、ここでお勉強をしていたそうです。
初めて挑戦するわたし達にもわかるように、木諸先生は説明を始めました。
「魔法陣は、かけたい人の周りに描いて行く物です。
まずは人と同じ大きさの人形を出しましょう。
そうねえ、みんなのお父さんやお母さんくらいがいいかしら。
練習している間に、倒れないような物にしてね」
そういわれて、それぞれ夢魔法でお人形を出します。
わたしはお母さんにそっくりなお人形を出しました。
お母さんに見ていてもらえると思って、がんばります!
「次は魔法陣用の杖を用意しましょうね」
そういわれて、それぞれの呪文を唱えます。
「ミラクル・ドリーミング・スティック」
するとわたしの胸の高さまでもある、大きな杖に変わりました。
いつものステッキと模様は同じです。
違うのは、下の飾りが付いていなくて平らなこと。
そして大きさは全然違うので、別の物みたいです。
でも不思議と重くはありません。
魔法陣を描きやすいように、かな?
この形にするのは初めてなので、まじまじと見てしまいます。
「立派な魔法使いになったみたいだね」
この杖を持てるようになったことを、わたしは誇らしく思いました。
「うん。みんな、かっこよく見えるね」
そうつばめくんは周りのみんなを見回して、うれしそうです。
このステッキを棒のように使って、地面の上に魔法陣を描きます。
「これがお手本です。
地面に置いて、見ながら練習してみましょうね」
そう先生が、お手本の描かれた布を渡してくれました。
わたし達1年生が今年教わるのは、明るい気分になれる魔法陣です。
落ち込んでいる人がこの魔法陣の中に入ると、とってもよく効くそうです。
初めて習うものだけあって、そんなに難しい模様ではありません。
大きな丸の中に小さな丸があって、その間がきれいに6つに分けられています。
これなら、出来るようになるかな?
「お天気記号の雪と似てるなあ」
そう学校で習ったことを思い出して、つぶやきました。
つばめくんは、別の見方をしています。
「お陽様の形みたいだね」
そういわれてみると、真ん中の丸がお陽様に見えます。
「うん。お絵描きをする時は、こういう線が周りにあるよね」
そううなずいてから、気が付きました。
「あ!明るい気分だから、お陽様なんだね。
つばめくん、当たりだよ」
そう答えると、つばめくんもお陽様みたいな笑顔になりました。
描く前から、魔法陣が効いたわたし達です。
そしてそれぞれ練習を始めます。
木諸先生は真っ先に、わたし達のところに来てくれました。
「みかんちゃんとつばめくんは、感じをつかむところから始めましょう。
最初はお人形を使わないで、大きな丸を描いてみましょうか」
そういわれて、きれいな丸を描けるようになるまで練習しました。
そんなわたし達を、さっきのおじいさんが黙って見ています。
踏み台の上に登って、ちょっと高いところから、みんなを見回しているよ。
丸をたくさん描いていると、すぐに地面がいっぱいになってしまいます。
だから次のに取り掛かると、おじいさんは状態魔法で元のまっさらな地面に戻してくれます。
そのために来てくれているんだね。
先輩達は魔法陣を完成させると、おじいさんに手を振って合図しています。
この丸に合格をもらえたら、次のステップに進みます。
「うん。きれいに描けるようになったわね。
次はその丸を、お人形の周りに描いてみましょう。
まずはお人形の近くの、中の円を描きます。
外側の円はこのお手本を見て、バランスを考えて描いてね」
今の練習のおかげで、中の丸はわりとすぐに描けました。
でも外側の丸との間隔をつかむのは難しいです。
木諸先生に見てもらいながら、何度もやり直しました。
つばめくんも、汗をかきながらがんばっています。
そんなわたし達を、木諸先生は励ましてくれます。
「この円は、どの魔法陣にも共通している基本なの。
これが出来るようになると、来年からは模様の練習に集中できるから、楽になりますよ」
その通りに、2年生以上の子達は丸はすぐに描けていて、中の模様の練習をがんばっています。
わたし達もなんとか丸を描けるようになったら、今度は中の練習を始めます。
そうわたし達も、先輩達と同じラインに立ちました。
すると木諸先生は、2年生以上の子達も見回り始めます。
この模様は、まずは縦の線を描きます。
それから右と左と、きれいに3つに分けます。
それだけじゃなくって、向かい側の線と繋げて、きれいな直線になるように考えないといけません。
間の丸がなかったら、もっと簡単なのになあ。
そう小さなため息をつきます。
でもお母さん人形を見て、がんばろうって思い直しました。
描いてみて、回って見て確認していきます。
そのうちにだんだんとわかってきました。
まっすぐな線だから、さっきの丸よりも描きやすいしね。
今年覚える魔法陣もこれ1つなんだから、ちゃんと描けるようにならなくちゃ。
そう心を強く持って、がんばり続けます。
すると、出来たかな?と思える物を描けるようになってきました。
そこで先生は、最後に唱える呪文を教えてくれます。
「ちゃんと魔法陣らしく描けるようになったわね。偉いわ。
ではちゃんと描けたかどうか、魔法をかけてみましょう。
小さな声で唱えてね。『この形に、魔法が降りますよう』
それから呪文のように。『トモタハヒミ ラヨスバ ソキラヌオス』
そして杖で、魔法陣の手前をトンと突きます。
それで白く光れば、成功よ」
そういわれたけれど、2番目の呪文は難しいです。
真魔法使いは集中すれば覚えられる力はあるけど、唱えるのも大変そうです。
つばめくんもそう思ったようで、先生に聞きました。
「木諸先生。その2番目の呪文って、どういうふうに決まったんですか?
言葉の並びに秘密があるんですか?」
つばめくんの言葉に、わたしも思い出しました。
言葉が魔法を持つこともあるんだよね。
これもその言霊っていうものなのかな?
そう2人で真面目な顔をして、答えを待ちます。
それに対して、木諸先生は笑って首を振りました。
「ああ、それはみんなに聞かれるわね。
これは最初の言葉の子音をね、2つずらしたものなのよ。
だから、最初の呪文と意味は一緒なの」
そういわれても、わたし達は「しいん」という言葉もわかりません。

つばめくんと首をかしげます。
すると木諸先生は、その子音についても教えてくれました。
「子音っていうのはね、あいうえお表の縦の並びのことなの。
横の並びは、母音っていうのよ。
その子音を2つずらすっていうのは、あ行の言葉はその2つ隣のさ行に、か行の言葉はた行に代えるってことなの」
そう聞いた通りに思い浮かべてみたら、やっとわかりました。
わたし達は納得してうなずきます。
おばあちゃん達が唱えていた不思議な言葉も、そうなんだね。
「そっか。そういう決まりだった」
「きちんといえるように練習しなくちゃね」
そして木諸先生は、そうする理由も教えてくれます。
「難しい魔法陣ほど、さらに増やしていくの。
『ソモサナニヒ…』って、元から1つずらしたものとかね。
難しいと思うけど、元の呪文を普通の人にはわからなくする必要があるから。
いいづらいときは、ゆっくりといってみてね」
そう聞いて、少し安心しました。
ゆっくりでもいいなら、いえそうです。
「この形に、魔法が降りますよう…トモタハヒミ ラヨスバ ソキラヌオス。…トモタハヒミ ラヨスバ ソキラヌオス」
そうつばめくんとそれぞれ何回か練習します。
それから早速試してみることにしました。
できてるかな?
ドキドキしながら魔法陣を杖で突いてみます。
でも残念ながら、これは光りませんでした。
ああ…。ちゃんと描けてなかったんだ。
そうがっかりして、肩を落とします。
でもあともう少しのはずだから、くじけません!
そうぎゅっとステッキを握り直しました。
木諸先生に見てもらいながら、練習を重ねていきます。
半分以上の子は、時間までに成功できました。
つばめくんは2個も描けていたよ。すごいです。
「やったー。光ったよ!
─よーし、もう1回描こう」
そう張り切って、すぐに練習を続けていました。
わたしもなんとか1個は成功しました。
おばあちゃん達の魔法陣で見ていた白い光が、目の前に広がります。
そのまぶしさにびっくりして、思わず瞳を閉じてしまいました。
これは、わたしにも初めて魔法陣が描けたんだよね?
そうわかると、うれしくってジャンプしちゃいました。
「わあ。見てみて!わたしにもできたよ」
そう大喜びします。
すると木諸先生がほめてくれました。
「おめでとう。よくできましたね」
「みかんちゃん、やったね!」
先に出来たつばめくんも一緒に喜んでくれます。

授業の最後に、木諸先生がわたしとつばめくんにたずねました。
「どう?初めての魔法陣は」
わたしとつばめくんは元気に答えます。
「わたしにも魔法陣が描けて、うれしかったです」
「難しかったけど、描いていて楽しかったです」
それと木諸先生もにっこり笑ってくれました。
「楽しく描けて良かったわ。
きちんとした魔法陣を描き続けられるように、明日からもまたがんばりましょうね」
「はい!」
わたしとつばめくんは、しっかりとお返事をしました。
明日からは、正しい魔法陣を何個も描けるようになりたいです。


8─みかんちゃん達への応援式

お夕飯の時間のことです。
食堂で食べていると、こよりちゃんが来てくれました。
こよりちゃんは9歳。小学校では4年生です。
肩までの黒い髪の毛をツインテールにしていて、それがきれいにくるくるしている子だよ。
そのこよりちゃんがお誘いしてくれました。
「こより達も、みかんちゃんとつばめくんの応援式をします!
7時半に秦館のきのこのお部屋で、みんなで待ってるね」
そう聞いて、わたしはうれしくなりました。
「わあ。楽しみだなあ」
食べ終わってから、すぐにつばめくんのところに行きます。
つばめくんは紅(べに)ちゃんからお誘いを受けたそうです。
2人でわくわくしていると、タルトちゃんが懐かしそうに言いました。
「私もみかんちゃんとつばめくんが開いてくれたパーティーうれしかったなあ。
紅ちゃん達のも楽しみね」
この応援式というのは、毎年2日目の夜に行われる伝統行事です。
1日目にその計画を立てるからね。
魔法のステッキを使える小学2年生~4年生の芽クラスの子達が、森の学校の1年生になった先輩を招いて、パーティーを開きます。
パーティーといっても、9歳の子の部屋に集まってお話をする会なんだけど。
それぞれ自分達の魔法で、工夫したおもてなしをしてくれるんです。
「今年はどんなパーティーになるんだろうね」
そうつばめくんと、期待に胸ふくらませます。

約束の時間になると、つばめくんと一緒に隣の秦館に行きました。
きのこのお部屋の前では、紅ちゃんが待っていてくれました。
「いらっしゃい。準備はできてますよ。どうぞ」
そうドアを開けてもらって中に入ると、電気は点いていませんでした。
奥の壁に「みかんちゃん、つばめくん 一年生おめでとう」と赤色のネオンが光っています。
「こういうのも作ってくれたんだあ」
デザインできれば思ったものを出せる、魔法って便利です。
わたしが感心していると、
紅ちゃんが大きな声で、応援式の開会の言葉をいいました。
「それではこれより応援式を始めます。
みかんちゃん、つばめくん、1年生おめでとうございます。
パンッ、パーン」
そう紅ちゃんがいった後に、クラッカーの音が聞こえました。
それからネオンのように光る2羽のツバメさんが、部屋の中を飛びまわりました。
わたし達は驚いて叫びます。
「わあ!」
青色でとてもキレイです。
そのツバメさんが消えると、すぐに電気が点きました。
「やった!ちゃんとできたね」
そう8歳組の子が大喜びします。
「ゆかたくんとすなくんが出してくれたんだあ。魔法上手になったね」
そうわたしはにっこりします。
去年一緒にやった時は、こういうことはできなかったので。
こういう時、お姉さんのような気分で、しみじみとうれしいです。
「じゃあわたしは…」
次に紅ちゃんがステッキを振ると、プラネタリウムのような物が現れました。
去年わたし達もこういうのを出しました。
その時は、1分間に1回流れ星が見られるおまけ付きにしたんです。
紅ちゃん達のは、スイッチを押すと、パッと満開の桜の木が写し出されました。
プラネタリウムみたいに、上にね。
魔法の映像なので、電気が点いていても、はっきり見えます。
それについて紅ちゃんが説明してくれます。
「わたし、みんなとお花見してみたかったんだ」
「みんな、ここに座って」
そうつづみちゃんがステッキを振ると、草色のお花見シートが現れました。
それは広げても机などにはあたらない、ちょうどよい大きさでした。
「つづみちゃん、すごい!」
わたしはつづみちゃんが魔法を使ったのは初めて見たけど、上手で感心しました。
習い始めでこんなに出来るとは、魔法は得意みたいです。
「つづみちゃん、バッチリ」
そう紅ちゃんも指で〇を作ると、つづみちゃんはうれしそうに笑います。
紅ちゃん達に続いて、わたしとつばめくんもシートに座ります。
映像でも、上を見上げるとキレイな桜の花があるなんて、うれしいです。
「少し花びらも舞ってて、キレイだね」
そうつばめくんのいう通り、ちらちらと舞っている様子もステキです。
桜を見上げてうっとりしていると、今度はすなくんが飲み物を持ってきてくれました。
渡されたグラスのふちには、白いお花とツバメが交互に並んで輪を作っています。
「これはみかんの花だよ」
そうつづみちゃんが教えてくれます。
「そうなんだ。これも魔法で作ったんだよね」
「うん。こよりのデザインだよ」
わたし達の名前から、こんなにおしゃれな物を作ってくれるなんて、とってもうれしいです。かわいい。
「これは食堂からもらった、みかんジュースなんだけど…」
そうグラスに注いでくれます。
そのジュースは、あちこちがきらきらと光っています。
「わあ。ジュースの結晶だ!」
こういうのは初めて見たので、わたしとつばめくんは、ジュースと同じように瞳をきらきらさせて喜びました。
するとすなくんは意外なことを教えてくれました。
「これはね、魔法じゃないんだよ。ね!」
そうこよりちゃんを振り返ります。
こよりちゃんはうなずいて説明してくれます。
「そう、凍らないギリギリまで冷たくしておくと、結晶ができるってテレビで言ってたの」
「だからそこまで、ぼくが冷たくしておいたんだよ」
そうすなくんは胸を張ります。
「ありがとう。とってもキレイだよ」
そんな5人の後輩たちのいろいろな心尽くしに、わたし達は感動しました。
そのジュースで、みんなで乾杯をします。
キラキラのジュースはとっても冷たくて、頭が冴えるようです。
「おいしーい」
食堂のジュースは果汁30%で、ちょうど良い甘さです。
そしてゆかたくんが、お菓子の入ったお皿も渡してくれました。
ふちの模様はグラスと同じで、全体はみかん色をしています。
「みんな、ステキなおもてなしをしてくれて、本当にありがとう。
食器はかわいいし、キラキラした物もたくさん見られてうれしいな」
そうわたしは心からお礼をいいます。
「こんなにぼく達の名前の物にしてくれるなんて、ありがとう!
みかんちゃんと一緒のこの食器なんて、家でも使いたいくらいだよ」
そうつばめくんも食器をみつめて、喜んでいます。
すると後輩の5人みんなが、とてもうれしそうな顔になりました。
それから応援式らしく、早速紅ちゃんから質問をされました。
「ではみかん先輩、つばめ先輩、双葉クラスの勉強はどうですか?」
そうテレビのリポーターのように。
わたし達はきちんと答えます。
「初めてだから緊張したけど、がんばったらなんとかできたよ」
「自分1人でもできるように、もっと練習していかないといけないけどね」
それからわたしはみんなを見回していいます。
「みんなも夢魔法うまくなったね!」
「うん。どれもすごかったよ」
そうつばめくんも感動しているようです。
「みんなとお花見できるなんて、夢みたいだしね」
小中学生の魔法使いは運動会をするために、春休みにも集まります。
その時に会場の近くでは桜が咲いていることも多いけど、みんなでお花見をしたことはありません。
そのことを紅ちゃんも言います。
「そう。運動会の後は夕方で、いっつも立ち見で終わっちゃうのが残念で…。
今夜は9時までパーティーしてもいいってお許しをもらったので、それまで遊びましょう!」
その言葉にみんなはしゃぎます。
「9時まで遊べるなんて、この応援式だけだよね」
「最後まで起きていられるかなあ?」
そうつづみちゃんやゆかたくん達が顔を見合わせます。
それからみんなと、この一学期の間のお話をします。
みんなのお話を聞いてみると、やっぱり魔法使いにはいろいろあるね。
小学校では魔法使いは1人だけになっちゃうけど、こうやって世界にはたくさん仲間がいるからがんばれます。
「わたし達はここではもう芽クラスじゃなくなったことは寂しいけど、
紅ちゃん達も来るのを楽しみに、勉強がんばろうね」
そうつばめくんとお話しました。

「ねぇねぇ、みかんちゃん、みかんちゃん」
8時半くらいになった頃に、こよりちゃんに話しかけられました。
「どうしたの?」
わたしが聞くと、こよりちゃんは真面目な顔で質問しました。
「わたしのお父さんとみかんちゃんのおかあさんって、仲いいよね?」
「……えっ?」
そう突然言われた内容に、思い当たらなかったわたしは戸惑いました。
するとこよりちゃんは具体的に説明してくれます。
「わたしのお父さんは花クラスで、いちごさんとは今クラスが違う…わりには話しかけている気がする」
「…そうなの?」
そう言われてみれば、おかあさんがこよりちゃんのお父さんと話しているのは見たことある…けど、それについて気にしたことはありませんでした。
「わたし、お父さんの様子はよく見てきたから、これはもしかして…と思ってる。つまり…」
「つまり?」
こよりちゃんの言葉が1度止まったので、わたしも真剣に聞き返します。
「つまりわたしのお父さんといちごさんが、結ばれる運命の相手なんじゃないかって…」
!!
そう聞いて、わたしは衝撃を受けました。
「もし本当に、わたしのお父さんとみかんちゃんのおかあさんが結婚するとしたら、みかんちゃんはどう…」
そうこよりちゃんが言い終わる前に、わたしの高まる気持ちが外に出ました。
「そういうの待ってました!」
そして瞳をキラキラさせながら言います。
「だってだっておかあさんが結婚するっていうことは、わたしにもお父さんができるんだよね?」
するとこよりちゃんもうなずきます。
「そう。わたしもおかあさんがほしい。
お父さんも大好きだけど、わたしにもおかあさんがいたらと考えたことが何度あったことか…」
そしてこよりちゃんは、さらにうれしくなることを教えてくれました。
「それに2人が結婚したら、こよりとみかんちゃんも家族ということに…」
ハッ。そうだよね。こよりちゃんとも家族に…。あこがれの姉妹…。
そんな4人とテトリちゃんの家族の姿を想像して、わたしは叫ばずにはいられませんでした。
「キャー!うれしすぎるの!」
それから少し気持ちを落ち着かせてからたずねます。
それから少し気持ちを落ち着かせてからたずねます。
「わたし達って、そのために何かした方がいいのかなあ?」
するとこよりちゃんは少し考えてから言いました。
「うーん。聞いた話によると、周りが余計なことをすると、2人が結ばれるのが遅くなることもあるって言ってたような…」
それは困る!
「だからわたし達はジャマにならないように、ひそかに応援してましょう」
「うん!そうするね」
わたし達は特に何もすることがないと思うと、幾分か落ち着きました。
「そういえば結ばれる運命の人って、みんなどうやってわかるのかなあ?
大人になったら、何かが教えてくれるのかなあ?」
わたしがそもそもの疑問を口にすると、こよりちゃんも首をかしげました。
「ぼくもそういう話は聞いたことがないなあ」
少し離れたところで遊んでいた、つばめくんもそう答えます。
するとこよりちゃんはこう教えてくれました。
「それはわからないけど、特に好きな人とはたくさん一緒にいたいって思うんだって。
だから2人ともそういう気持ちでいるなら、多分…」
いわれてみれば、わたしもお母さんといっぱい一緒にいたいと思うもんね。
「じゃあとりあえず、おかあさんがそういう気持ちなのかだけでも知りたいなあ」
わたしがそう考えると、こよりちゃんもうなずきます。
「わたしもお父さんにさりげなく確かめてみよう」
「さりげなく、かあ」
そういうのは難しそうと思ったけれど…。
「2人の心が離れちゃったら、大変なので!」
こよりちゃんにそういわれたら、気を付けようと思いました。
「さりげなくでがんばる!」
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