不思議な夜の おひなさま

[chapter:4 おひなさまと妖精さん]

それから自己紹介をしてくれました。
「その通り!オレはポッコロ。人形担当の魔法使いさ」
人形担当?
妖精さんに出会ったことにびっくりして、少し忘れていました。
でもそう聞いて今回の目的を思い出します。
それでわたしは早速質問しました。
「毎日おひなさま達を動かしていたのは、ポッコロさんだよね?
わたし達は今日、それを確かめるために来たんだよ」
そういうと、ポッコロさんは困った顔になって、片方の手を頭にやりました。
「あちゃー。ばれてたのか。
お雛さん達、喜びすぎて、ちゃんと戻れなかったんだな」
そう全然否定しません。
その言葉に、わたしと真美ちゃんは顔を見合わせました。
それから声も揃っていいます。
「じゃあ、やっぱり……!」
ポッコロさんはうなずいて、はっきりいいました。
「そうだよ。オレが毎晩こうやって、お雛さん達が動ける魔法をかけていたのさ」
やっぱりおひなさま達自身じゃなくて、外からの力だったんだね。
そうわたしは自分の勘が当たっていたことがわかりました。
ポッコロさんはその理由を説明してくれます。
「雛人形ってほとんどしまわれていて、外に出ていられる時間が少ないだろ?
そんな湿気た生き方だけじゃなくて、外で元気に遊ばせてやっているのさ」
なるほど。おひなさま達にもそういう楽しい時間がなくちゃね。
クラスのみんなとお話したこともあって、わたしはよくよくうなずきます。
「みんなで何をしているの?」
そうたずねると、ポッコロさんは明るい顔になって答えてくれます。
「いつもは動けずに立ちっぱなしでいるだろ?
だから踊ったり走ったり、そりゃあもう元気だな」
「そうなんだあ」
おひなさま達が元気に遊んでいるのを想像してみます。
うん、とっても楽しそうです。
その様子を思い描いて、わたしは笑顔になりました。
「でもどうして、わたしの家のおひなさまが毎日動いていたんですか?」
真美ちゃんが不思議そうにたずねます。
そうだよね。おひなさまってたくさんの家にあります。
それでも毎日このおひなさまのところに来ているのは、何か理由があるんだよね。
するとポッコロさんは大きくうなずいて、おひなさま達を見ながらいいました。
「それは、ここの雛人形があんまり立派だったから…、つい通い詰めちまった。
どうせ遊ぶなら、大人数の方が楽しいなーと思ってよ」
そう聞いて、わたし達は納得しました。
ここのひな人形は、他のお家よりもずっとたくさんいるもんね。
だからなんだあ。
確かにみんなで遊ぶ方が楽しいです。
今回も心配してくれたクラスのみんなを思い出して、わたしはうなずきます。
今こうやっていることも、そんなみんなに後でお話しなくっちゃね。
妖精さんのしわざだったよっていったら、みんなもびっくりするだろうなあ。
そう考えて、わたしはちょっと楽しくなりました。
それからポッコロさんは、意外な言葉も付け加えます。
「もちろん他の家も見回ってるぜ。
1年に1回、全部の家の雛人形を動かす約束だからな」
そのお話に、わたしはびっくりしてたずねました。
「じゃあ、わたしの家にも来たの?」
するとポッコロさんはしっかりうなずきます。
「ああ。今行ってきたところだよ。
今日は芽吹町の日だからな」
芽吹町とは、わたしの住んでいる町です。
ポッコロさんは、わたしの家の場所も知っているんだね。
そう聞いて、わたしはうれしかったのと残念な気持ちがありました。
うれしいのは、わたしの家のおひなさまも元気に遊べてよかったねということ。
残念なのは、そこにわたしがいなかったことです。
動いたわたしのおひなさま達を見てみたかったなあ。
でも熱心な真美ちゃんがいたからこそ、こうやってお人形の妖精さんに会えたんだもんね。
じゃなかったら、今年もその時間は気付かないまま、寝ていたはずです。
だからそういうことがわかっただけでも良かったなって、思い直しました。
来年はぜひ会ってみたいものです。
そうわたしは、これからに期待しました。
そしてポッコロさんは、もう1つの理由を話してくれます。
「それにここの雛人形さん達、とっても明るくって幸せそうなんだよな。
中には、せっかく動けるようになっても、元気のないのがいるんだ。
せっかく出してもらっても、持ち主に見向きもされないとさびしいんだな」
そうポッコロさんもさびしそうな顔になります。
ポッコロさんは、お人形さん達のための魔法使いです。
だからおひなさま達の気持ちがよくわかるんだろうね。
お人形さんだけじゃなくて、こうやって心がある物は実は多いんです。
わたし達から見ると物だと思う物にも、心はあったりするんだよ。
そういう物達の気持ちがわかる魔法もあります。
それは難しいので、わたしのおじいちゃんがちょっと使えるくらいなんだけどね。
わたしもその気持ちを教えてもらったことがあります。
やっぱりね、みんなに大事にしてもらえると、その物達はとっても喜んでいるようです。
だからそれを知っている魔法使いのわたしも、みんなに物を大切にしてもらいたいなあって思います。
そうしたらわたし達人だけじゃなくて、本当にみんなで幸せな気持ちになれるよね。
そういうふうにつられて、わたしもまじめに思いました。
それからポッコロさんは、さっきとは違う、うれしそうな顔になっていいます。
「…だけど、この雛人形さん達はよっぽど大事にされてるってことだ!
オレもそんなお雛さん達に会うと、うれしくってよ」
その言葉にわたしと真美ちゃんは、またおひなさまを見ます。
そういわれてみると、みんなとってもおだやかな顔をしているのに気が付きます。
真美ちゃんとお母さんの2人が、おひなさま達をとっても大事にしていることを知っているから納得です。
あれだけ大事に思ってくれている人が2人もいるんだから、本当に幸せだよね。
そして妖精さんも気に入っちゃうくらい、立派な上に心も素敵なおひなさまなんだね。
真美ちゃんはそう聞いて、とってもうれしそうでした。
そしておひなさまの真ん前に行くと、感動している様子でいいました。
「そうなんだ。みんなに、大好きってちゃんと伝わってたんだね」
そうじーんとしている真美ちゃんの様子から、本当におひなさま達を大事に思っていたのが伝わってきます。
わたしはそんな真美ちゃんを見ていて、今やっと気が付きました。
そっか。よく考えてみるとそうなんだよね。
ポッコロさんのお話によると、みんなのお家を回っているんだよね。
だったらどのおひなさまも、毎年動いた日が必ずあるということです。
でもわたしにこうやって相談しにきたのは、真美ちゃんだけでした。
他のみんなも、そしてわたしも気が付いていなかったのに。
ううん、もしかしたら、気付いた子は他にもいるのかもしれません。
でもこうやって一生懸命考えて、夜更かしまでしてがんばったのは、真美ちゃんだけなんだもんね。
その気持ちは本当にすごいよ。
だから真美ちゃんのおひなさまは、ポッコロさんが毎日来たくなるくらい幸せなんだね。
ポッコロさんもそんな真美ちゃんの様子を見て、にっこり笑いました。

そしてまた元気に杖を振り始めます。
「じゃあ説明も終わったことだし、続きを始めるか」
すると話していた間止まっていたおひなさま達が、また動き出しました。
「今日は特別。
人間のお嬢ちゃんも一緒に踊ろうぜ♪」
そのポッコロさんの言葉に、2人でうなずきます。
「すごいね。魔法使いのわたしにとっても、こういうことってあんまりないんだよ」
そうわたしは張り切って、真美ちゃんにいいます。
おひなさま達と一緒に遊べるなんて、今までのがんばりにもお釣りが出るくらい素敵なことです。
そうしておひなさま達のパーティーに、真美ちゃんとわたしも混ぜてもらうことになりました。
おひなさま達と一緒に跳んだり跳ねたりして、とっても楽しいです。
まるでトランポリンでも使っているみたいだね。
お友達と遊ぶ時だって、普通こんなには大はしゃぎしません。
でも始めてすぐに、とっても大変なことに気が付きました。
「ああっ!夜中だから、今まで一生懸命静かにしていたんだよね。
なのにこんなに音を立てていたら、絶対真美ちゃんのお母さん達に聞こえちゃうよ」
わたしは大慌てです。
いろいろお話を聞いている間に、すっかり忘れていました。
もうこれだけ騒げば、今から静かにしても遅いんだけどね。
お母さん達が、びっくりして降りてきちゃうかなあ。
そうしたら真美ちゃんのお母さんにも、こうやって動いているおひなさま達に会わせてあげることができます。
だからそれもいいのかもしれません。
子どもの頃からずっとおひなさまを大事に思っていた人だもんね。
きっとわたし達よりももっと感動するんじゃないかなあと思います。
でもやっぱり、この状況はなんだか気まずいです。
夜中にこっそり、みんなで遊んでいたっていうことがね。
お泊まりに来たのも実はこのためだったんですって、説明することになります。
そう魔法使いとしての気持ちと、わたし自身の事情で板挟みです。
困るわたしに、ポッコロさんは落ち着いて教えてくれます。
「お雛さん達を動かしてからは、もちろん音が外に聞こえないようにしてるさ。
でないと、必ずどこかで見つかっちまうよ」
そう聞いて、わたしはほっと息をつきます。
そっか、そうだよね。よく考えれば。
こういうパーティーを見たって、誰からも聞いたことないもんね。
妖精さんはいろんな力を持っているんだなあ。
わたしも状態魔法を覚えれば、そういうこともできるようになります。
そう考えて、わたしははっとしました。
そうだ、魔法!わたしも魔法使いなんだもん。
せっかくの機会がもっと楽しくなるように、考えなくっちゃ。
今の遊びから、わたしはすぐに思いつきました。
「ミラクル・ドリーミング」
わたしはいつもかけているペンダントを、大きな魔法が使えるようになるステッキに変えます。
そして何か踊る曲をかけてくださいってお願いしました。
するとCDラジカセが出てきて、音楽が流れ始めます。
ゆっくりとしたテンポの曲でした。
これなら踊りやすそうです。
わたしはみんなに呼びかけます。
「みんな、曲をかけたので踊ってみてね」
そんなわたしの声におひなさま達が振り向きます。
そして楽しそうに、音楽に会わせて踊り始めます。
やっぱりおひなさま達は、動くのが大好きみたいだね。
普段は大人しく立っているからかな。
真美ちゃんはおひなさま達に誘われて、一緒に踊っています。
本当にうれしそうな、とびっきりの笑顔をしているよ。
大好きなおひなさま達と一緒に遊べて良かったね。
そうわたしもうれしい気分になって、そんな真美ちゃんを見ていました。
そんなわたしのところにも三人官女さんが来て、誘ってくれます。
真美ちゃん家のおひなさま達にとってわたしは、初めて会ったようなものです。
だから誘ってもらえて、さらにうれしい気持ちになりました。
でも自分で音楽をかけてみたのに、わたし達は踊り方を知りませんでした。
おひなさま達が教えてくれるのを、まねしてやってみます。
おひなさま達はうなずいてくれていたから、なんとか踊れていたのかな?
どっちにしても、とっても楽しかったです。
次々流れる音楽に合わせて、踊り方を変えていきました。
ゆっくりした曲に、元気な曲といろいろあったよ。
そしてそろそろ踊り疲れてきた頃、五人囃子さん達が手を上げました。
するとみんな踊るのを止めて、静かになって五人囃子さんを見ます。
わたしもCDを止めました。
何かな?
不思議に思っていたら、なんと五人囃子さん達が、それぞれの楽器で演奏を始めてくれたのです。
うわあ。あの楽器も、今は本物になっているんだね。
笛も鼓も心に響く音だし、みんなとっても上手です。
わたしと真美ちゃんは、座って聴き入りました。
わたしは今までに聴いたことのないような大人の曲だったけれど、なんだかわくわくしたよ。
だってこういう楽器の音って、なかなか聴けないものだよね。
日本の伝統の楽器だけの演奏って、テレビでなら見かけたことがあります。
でも直接っていうのは機会がなかったです。
だから2つの意味で貴重な経験でした。
演奏が終わると、みんなで大きな拍手をします。
ポッコロさんも清々しい顔をして、息をつきました。
「何ともいい演奏だったな。
五人囃子がこういうふうに演奏してくれるなんて、珍しいんだぜ。
聴けてよかったな、お嬢ちゃん」
真美ちゃんもわたしもうなずきます。
「本当に素敵だったね」
そう2人で笑い合いました。

でもポッコロさんは、今度は困った顔になります。
「ありゃあ。今日は長くいすぎたな」
その言葉に時計を見ると、ポッコロさんに会ってから1時間以上経っていました。
針が3時に上ろうとしています。
夜中の3時って、お化けのおやつの時間だよね。
説明をしてもらったり、色んな曲で踊ったり、演奏を聴いたり、盛りだくさんだったもんね。
楽しくて、いつの間にかこんな時間になっていました。
「みんな戻れー」
そうポッコロさんが、少し急いで声をかけます。
するとお人形さん達はまず、着物をキレイに直し始めました。
1人で直すのが難しいことはお互い手伝って、きちんと整えていっています。
着物って、動き回るとすぐにくずれてきちゃうものだもんね。
だからわたしには難しくて、七五三でしか着たことがないんです。
終わったお人形さんから、ぴょっこんぴょっこんとひな壇に戻り始めます。
でもその前に、みんな真美ちゃんのところに行って、握手をしていくのでした。
そのことに真美ちゃんは感動して、泣いています。
「みんな、ありがとう。また会おうね」
今までこういうふうに会ったことはなくても、心は通じていたことのわかる場面です。
そしてひな人形さん達は真美ちゃんの次に、そう見ているわたしのところにも来て、手を差し出してくれました。
「わあ、わたしも?ありがとう」
小さくてキレイな両手で、人差し指を握ってくれます。
お人形だから本当は、おひなさま達の手はひんやりとしているはずです。
でもその時は温かく感じました。
友達の輪の中にわたしも入れてもらえて、本当にうれしかったです。
そうしておひなさま達がみんな自分の位置に戻りました。
するとポッコロさんは、杖の端と端を両手で持って高く上げます。
するとみんなぴたっと止まりました。
これが魔法の止め方なんだね。
みんなすっかり普通のお人形になりました。
でも、あれ?
よく見ると、おひなさま達のほっぺがほんのり赤いです。
それに今まで見た時よりも少しだけ、優しい幸せそうな表情をしています。
そう気付いたわたしに、ポッコロさんが教えてくれます。
「持ち主のお嬢ちゃんと遊べて、よっぽどうれしかったんだな。
時間が経つと、だんだん元の顔に戻っていくよ」
そうなんだ。だったら明日の朝、真美ちゃんのお母さんにもわからないよね。
真美ちゃんはそんなおひなさま達をうれしそうにながめていました。
おひなさま達と同じように、そんな真美ちゃんのほっぺも幸せそうな桃色になっているよ。
元気に動き回ったから、わたしもそうなっているのかな?
それから真美ちゃんは、おひなさま達を1つずつ手に取り始めます。
「でも位置はちゃんとしておかないとね。
みんな、どうもずれてるんだもん。
お母さんにも不思議に思われちゃうよ」
そういいながら大切そうに、そしてキレイに並べています。
真美ちゃんは毎日そうしていただけあって、慣れているようです。
わたしから見ると、それはちょっとの差のように感じます。
でも真美ちゃんには、おひなさま達の場所はここって、ちゃんとわかるんだね。
真美ちゃんが並べている間、ポッコロさんは黙って待っていました。

そして直し終わった真美ちゃんが満足そうにうなずくと、ポッコロさんさんはいいました。
「じゃあ、オレは帰るな。
そうだ!お嬢ちゃんの名前は?」
そう真美ちゃんを見つめて聞きます。
「真美です」
そうきちんと答えると、ポッコロさんは優しくいいました。
「真美ちゃん、これからも雛人形を大事にな。
オレ達妖精にとっては、人形を大事にしてくれる子がいてくれることが、何よりうれしいんだ」
そうにっこり笑います。
そうだよね。お人形さんの幸せって、持っている人がどれだけ大事に思ってくれているかっていうことが大きいもんね。
わたしもこれからもっともっと、物を大切に思うようにしよう。
今日改めてそう思いました。
ポッコロさんは、そう考えているわたしに向き直ります。
「妖精のお嬢ちゃんは?」
「わたしはみかんです」
そう答えると、ポッコロさんはうなずいて元気にいいました。
「みかんちゃんか。また会うこともあるかもな。
お互い、この仕事をがんばろうぜ」
「はい!」
そう仲間扱いしてもらえたことがうれしくて、わたしは大きくうなずきます。
これからもみんなを助けられるように、わたしもがんばるよ。
そして本当に、またポッコロさんに会えるといいな。
一緒にいると楽しかったし、とってもいい人だよね。
わたしはそう心から思いました。
そのポッコロさんは、目を閉じて腕を組みます。
そして今度はわたし達2人にいいました。
「それにしても、よく小さいお嬢ちゃん達が、こんな時間まで起きていられたもんだ」
真美ちゃんがそれに元気に答えます。
「とっても気になったから、がんばりました。
みかんちゃんにも付き合ってもらえたし」
わたしとポッコロさんの思うことは違うけど、一緒にうなずきます。
わたしも本当にその2つの理由があったから、がんばれたんだよね。
その謎が楽しい理由で、とっても清々しい気分になれました。
そう聞いて、ポッコロさんはわたし達に感心したようでした。
でもわたしに対しては、ちょっと勘違いをしています。
「ふうん。大したもんだ。
2人とも8歳くらいだろ?」
そういわれたわたしは今までの笑顔から、まじめな顔になります。
「わたしは10歳だよ。小さく見えるって、よくいわれるけど」
本当にわたしって、こういっつも本当の歳より小さく思われちゃうんです。
それがなぜなのかはわからないんだけどね。
小さい子扱いされるのが嫌なわけじゃないけど、わたしってそんなに見えないかなあ?
そうわたしはちょっとむくれました。
そんなわたしに、真美ちゃんは困った顔になります。
そしてポッコロさんは慌てて取り直しました。
「いやあ、悪い悪い。
でもいいじゃねえか。歳より若く見えるって。
じゃあさ、オレだっていくつに見える?」
そう質問されて、改めてポッコロさんをよーく見てみます。
おひげもあるし、しっかりとしたおじさんの声だから…。
「40歳くらい?」
そう答えると、ポッコロさんは得意そうにいいました。
「もう80年は生きてるよ」
その返事に、わたしはとっても驚きました。
わたしが答えたのの倍だあ。
「ええっ?そうなの?」
とてもそうは見えません。
普通の人と比べて考えてみると、上に見ても50歳にも見えないよ。
するとポッコロさんは、それが当たり前のことのようにうなずきます。
「妖精って、若く見える方が多いんだぜ。
なんたって周りから愛されるかわいさのあった方が、やりやすい仕事だしな。
だろ?みかんちゃん」
そうおちゃめにウインクします。
そういわれて、わたしもやっと笑ってうなずきました。
うん、そういっているポッコロさんも、動きなどがかわいいです。
わたしもそうかわいくみえていていわれているんだったら、いいんだけどな。
「だからみかんちゃんも、周りからそういわれたら、ほめ言葉だと思いな」
わたしがその言葉にうなずくと、ポッコロさんは安心したようでした。
それからはっとした顔になって、慌てていいます。
「おっと、本当にもう行かなきゃな」
お別れの前に、真美ちゃんが最後に聞きます。
「ポッコロさん、また来年もおひなさま達を動かしに来てくれるんだよね?」
ポッコロさんは笑顔で、大きくうなずきます。
「ああ。絶対に毎年来るぜ。それじゃあな」
その言葉が、この素敵な出来事の最後の記憶でした。

「真美ー。もう起きなさいねー」
わたしと真美ちゃんは、そんな真美ちゃんのお母さんの声で目が覚めました。
「あれ?」
わたし達はいつの間にか、ちゃんとおふとんに入って眠っていたようです。
もう元気なお陽さまの光が入ってきています。
目を開けたらちょっとまぶしいくらいでした。
時計を見ると10時になっています。
真美ちゃんのお母さんは、階段の下から声をかけてくれたようです。
起き上がったわたしと真美ちゃんは、不思議さいっぱいの気持ちで顔を見合わせます。
「どうして?
わたし達、あの後ちゃんと戻ってきたんでしたっけ?」
そう首をかしげる真美ちゃんに、わたしも同じ顔をしてうなずきます。
「うん。覚えてないね」
これはもしかして、ポッコロさんの力なのかな?
妖精さんはいろんな不思議な力を持っていました。
その力でわたし達のこともおくってくれたのかもしれません。
それから真夜中に起きていたのに全然眠たくなくて、頭もすっきりしています。
これはあの出来事の前に、たくさん寝ておいたおかげかもしれないけどね。
どうなのかな?
でも考えてもわからないし、そういう疑問はひとまずおいておくことにしました。
それにそういうことよりも、わたし達の心はもう他のことでいっぱいです。
「それにしても…」
そうわたしと真美ちゃんは、2人揃っていい始めます。
あの出来事は、わたし達にとってはついさっきのことでした。
だから気持ちは、あの時のドキドキを持ったままです。
わたしも真美ちゃんも、とってもはずんだ声でいいます。
「おひなさま達と遊べたなんて、本当に夢みたいです」
真美ちゃんが、そう輝いた顔をします。
わたしはうなずきながら、自信を持った笑顔でこたえます。
「妖精さんが来ていたなんてね。
びっくりするようなお話だったけど、でも夢じゃないよ」
わたしの言葉に、真美ちゃんもしっかりうなずきました。
思い出すと楽しくって、2人で笑ってしまいます。
それから真美ちゃんは改まって、でもにっこり笑っていいました。
「みかんちゃん、本当にありがとうございました。
もう心配もなくなったし、とっても楽しかったです」
わたしもそんな真美ちゃんに、感謝の気持ちをお返しします。
「わたしもとっても素敵なことがわかって、来て良かったよ」
わたし達2人とも、がんばって調べてみて本当に良かったと思っていました。

そして午後に千枝ちゃんがやってきました。
報告する約束通りの時間です。
千枝ちゃんは昨日の夜は特に気になって、なかなか眠れなかったそうです。
このひな人形のことを、千枝ちゃんも一生懸命考えていたもんね。
それなのに大事な時にいられなかったんだから、本当に残念だったと思います。
だからできるだけ詳しくお話しました。
そんなわたし達2人のお話に、千枝ちゃんはやっぱりびっくりしました。
でも笑顔になってこたえます。
「へえ。そんな素敵な理由だったんだね。
わたしもそのポッコロさんに会いたかったな」
そういう千枝ちゃんに、わたしは前向きに答えます。
「ポッコロさんは毎年来てくれるみたいだから、これからきっと会えるよ。
わたしも、自分のひな人形のところに来てくれた時に会ってみたいなあ」
そう期待を込めていうと、千枝ちゃんも元気にこたえました。
「そうですね。
わたしのひな人形が動いているのを見られたら、感動するんだろうなあ」
そう2人で、その様子を想像してみます。
そんなわたし達に、真美ちゃんはにっこり笑っていいました。
「千枝ちゃんのも、みかんちゃんのおひなさまも、楽しそうだといいね」
そう幸せなおひなさまの持ち主の真美ちゃんがいうと、重みがあります。
だからわたしは元気にいいました。
「うん。おひなさま達がさびしいって思ったりしないように、わたし達も真美ちゃんを見習わなくちゃね」
千枝ちゃんもしっかりうなずきます。
「そうですね。
そして本当に、真美ちゃんのひな人形はすごかったんだね」
その言葉にわたし達3人は、またそのひな人形を見ました。
ポッコロさんがいっていた通り、おひなさま達はすっかり普通の顔に戻っていました。
こうすっかり元通りだと、本当にあれは夢だったみたいだね。
でも本当にあったことだって、わたしの心がいっています。
「動いている理由はきっと、怖いことじゃない」って予感もバッチリ合ってたし、これも大丈夫だよ。
真美ちゃん家のひな人形の立派さと、そして何よりも真美ちゃんとお母さんの2人がおひなさまを大事にしていたからこそわかった、本当に素敵な出来事でした。

「あら?またお雛さまを見てるの?」
その真美ちゃんのお母さんが、わたし達3人のところに来ます。
その顔を見たら、わたしは真美ちゃんのお母さんにも教えてあげたくなりました。
昨日はせっかくの機会だったのに、いろいろあって呼べなかったことがやっぱり気になっていたんです。
それに今度真美ちゃんのお母さんも、そんなおひなさま達に会える時があるかもしれないもんね。
ううん、こんなにひな人形を大事に思っているんだから、会ってほしいです。
そんな気持ちを込めていいました。
「このひな人形は、妖精さんも特別お気に入りなんですよ。
真美ちゃんとお母さんの2人がとっても大事に思ってくれているから、おひなさま達はとっても幸せなんだそうです」
わたしがそうあんまり正直にいうので、真美ちゃんと千枝ちゃんは慌てました。
「みかんちゃん⁉︎」
でもこの世界の不思議なことは、子どもだけのものじゃないからね。
そう思うわたしは、真美ちゃんのお母さんにも知ってほしいです。
だからわたしは、そんな真美ちゃん達の様子を気にしないで堂々としていました。
すると真美ちゃんのお母さんは、やっぱりこの言葉に不思議そうな顔をしました。
でもそれから、わたしをまっすぐに見て答えてくれます。
「そうなの?
お雛さま達が幸せだって思ってくれているなら、本当にうれしいわね」
そうにっこりいってからちょっと止まって、また続けます。
「魔法使いのみかんちゃんにそういわれると、本当に妖精が来てくれているような気がするわ。
私もその妖精を見かけられるといいのにね。
この雛人形について、好きな者同士、お話できたら楽しそうだもの」
真美ちゃんのお母さんなら、そううなずいてくれると思いました。
期待以上のお返事だったので、わたしは元気に答えます。
「妖精さんは、毎年来ているんですよ。
来年ひな人形を出したら、真美ちゃんと一緒に夜起きてみてください」
そういっても、今は信じられない気持ちの方が大きいと思います。
でも会えたら、全然違うよね。
今年ポッコロさんは、このひな人形には毎日のように会いに来ていました。
だから来年も、たくさん来てくれるんじゃないかな?
会える可能性は高そうです。
妖精さんだけじゃなくって、家のおひなさま達が動くのを見たら、すごく感動するよね。
そんな場面を、またわたしも見てみたいなあって思います。
真美ちゃんの時以上に、説明も必要だろうしね。
でもそれは、また頼まれた時は別として、やめておこうかな。
このひな人形を大事に思っている、真美ちゃんとお母さんの2人きりの方がいいと思います。
家族だからこその話もあるだろうしね。
本当に真美ちゃんのお母さんも、いつか元気なおひなさま達に会えるといいです。
「来年お母さんがこのお話を信じてくれていたら、案内してあげてね」って、真美ちゃんにお願いしました。
そしてわたしはそろそろ帰る時間だなって、真美ちゃんのお家を後にしました。

家に帰るとすぐに、わたしのおひなさまのところに行きます。
昨日の出来事を思い出すと、今までとは違う思いでね。
こうやってみると、おひなさま達にもちゃんと気持ちがあるように見えてきます。
いつもは動かなくても、お話できなくても、わたし達を見ているんだね。
そうわかると、今まで以上に話しかけたくなります。
それをしっかり聞いてくれているんだし、気持ちもあるならお友達のようなものだもんね。
そして昨日は、このわたしのおひなさまも動いていたということでした。
そういわれてみると、少し動いているようにも見えます。
でもそう教えてもらってなきゃ気付かないだろうから、わたしはまだまだです。
そうよくよくひな人形を見ているわたしに、お母さんが後ろから声をかけました。
「お帰り。
帰ってきてすぐにお雛さまのところに来たってことは、ポッコロさんに会えたの?」
そういわれて、わたしはびっくりして振り返りました。
「え?お母さん、ポッコロさんのことを知っていたの?」
よく考えてみれば、お母さんはたくさんお勉強しているし、こういうことには詳しいはずです。
だから知っていても、不思議じゃありません。
でも名前まで知っているってことは、会ったこともあるのかな?
そう考えた通りで、お母さんは余裕を持った笑顔でうなずきます。
「ええ。毎年会っているわよ。楽しい人よね。
『今年はみかんが、他の家でこのことを調べようとがんばっているから、会ったらよろしくね』っていっておいたけど」
そうだったんだあ。
そういえばポッコロさんはわたし達を見つけても、ちっとも驚いていませんでした。
あれはお母さんから聞いて、前もって知っていたからっていうのもあったのかな。
そう考えているわたしに、お母さんが付け加えます。
「本当に何にも知らなかったら、私があんなに明るく送り出したりしないわよ。
話を聞いた時に、すぐにピンと来たわ」
「じゃあ、何でそう教えてくれなかったの?」
わたしは不思議に思ってたずねます。
するとそれは、わたしのためにあえてそうしてくれていたのでした。
「自分で直接会ってみた方が、みかんにとってはおもしろいだろうと思ったからよ。
その様子だと、ちゃんと会えたみたいね」
そのお母さんの言葉に、わたしは大きくうなずきました。
そしてきらきらした笑顔になって答えます。
「うん。とっても楽しかったよ。
おひなさま達が毎年あんなふうに遊んでいるなんて、本当にびっくりしちゃった」
そう思い出しながらいいます。
それから少し深い気持ちになって続けました。
「わたしは魔法使いだからいろいろ知っているつもりだったけど、まだまだ知らない素敵なこともいっぱいあるんだね」
そんなわたしの答えに、お母さんは満足そうにうなずきました。
そして元気にウインクして、顔の横で右手の人差し指と親指を立てていいます。
「そうよ。私だって何でも知っているわけじゃないんだから。
こうやってわからないことがたくさんあるから、知らなかったものに出合った時にとってもおもしろいのよね」
「うん」
わたしは元気にうなずきます。
本当にそうでした。
わからなかったから、ポッコロさんや動くおひなさまを見た時に、あんなにびっくり、わくわくしたんだよね。
もしお母さんから前もって話を聞いていたとしたら、どうだったかな
わたしがまたそのことを真美ちゃんに教えたら、ああやって調べたりしなかったのかなあ?
うーん、きっとその妖精さんに会いたくなって、2人で会ってみようって話になったと思います。
そして初めて見るものだから、わくわくはしたと思います。
でもそれは、全然予想が付かない時のドキドキとは違うもんね。
そう自分で見つけて良かったです。
さすがお母さんだね。
そしてこれからもたくさん、あんな気持ちを味わっていけるんだね。
だったら、色々知りながら大人になっていくのも楽しみです。
お母さんはひな人形を見ながら、そう考えているわたしにいいました。
「じゃあ今年も楽しそうに遊んでいたこのお雛さま達と、明日は楽しくお祝いしましょうね」
その言葉に、わたしは張り切って聞き返します。
「本当におひなさま達、楽しそうだった?」
ポッコロさんのお話を聞いてから、それがとっても気になっていたんです。
真美ちゃん家のはとっても幸せそうだけど、わたしのはどうなのかなあって。
わたしは大事に思っていたけど、それをおひなさま達がどう思っているのかはわからないもんね。
するとお母さんは、にっこりうなずいてくれました。
「もちろん。みかんだってよくお雛さまをながめているし、大事に思っているでしょ?
毎年元気で、楽しそうにしているわよ」
そう聞いたら安心して、とってもうれしくなりました。
良かったあ。
うん、わたしもこのおひなさまが大好きです。
その気持ちがちゃんと、おひなさま達に伝わっているんだね。
そうわかったわたしは、元気にいいます。
「そっかあ。
じゃあ明日のおひな祭りは、わたしとお母さんとおひなさま達と、家族みんなで仲良くお祝いしようね」
今年はこういうことがわかった記念に、今までで1番楽しいパーティーにしたいです。
そのために、わたしも色々考えようっと。
明日学校から帰ってくるのが、楽しみです。

その前に月曜日学校に行ったらすぐに、クラスのみんなに約束のご報告をしました。
みんな心配してくれていたし、どういうことかも気になっていたよね。
それにぜひたくさんの人に教えてあげたい、いいことだもん。
張り切ってわたしがお話すると、やっぱり女の子はみんな大喜びです。
「ええっ!?そんな妖精さんがいるんだ」
「家にも、そのポッコロさんの来た日があったんだー」
そうとっても盛り上がりました。
お話するわたしもちょっと得意気で、幸せな気分です。
時々聞かれる正くんからの質問にも、元気に答えます。
「だからね、ちっとも怖いことはなかったの。
それどころかとっても楽しかったよ」
わたしがそうにっこりいうと、みんなほっとしたようでした。
「そうか。良かった」
そう高志くんがほーっと息をつきました。
特に高志くんはそうやってよく気にかけてくれる、優しいお隣さんです。
いつもの感謝の気持ちも込めて、わたしは心配ないよって元気に笑い返しました。
話し終わると、みゆきちゃんがきらきら輝いた顔でいいます。
「さすがみかんちゃんの予想通り、本当に素敵なことだったね。
ひな人形みんなを妖精さんが動かしているなんて、とっても感動的だよ。
そしてわたしが憧れていた妖精が、そんな近くに来ていたんだね」
特にみゆきちゃんは、魔法使いや妖精などが大好きなんです。
だからうれしい気持ちが、誰よりも大きかったみたいだね。
そしてその言葉に、他の女の子達もうなずきます。
「そうだよね。
妖精って、わたし達にとっては幻のような存在だったもんね。
それが実は毎年自分の家に来てくれていたなんて、すごいよ」
美穂ちゃんの言葉に、そうみんなでうんうんといっています。
妖精さんのことはしっかり知っていたわたしも、会ったのは今回が初めてでした。
それに家に来てくれていたことは知らなかったから、びっくりしました。
だからわたしも、みんなと似たような思いです。
やっぱり妖精さんは誰にとっても、会ってみたい素敵な存在なんだね。
そして会ったことはなくても、意外と近くにいるものなんだね。
そんな話をしていると、柾紀くんが残念そうにいいました。
「女の子はいいなあ。
ぼくの家は女の子の姉妹がいなくてひな人形はないから、そんな妖精が来てないってことだもんね。
ぼくも会ってみたいのに」
その言葉にわたしも考えます。
うーん、そうだね。
女の子がいない家には来ないっていうのは、確かに不公平です。
男の子には何かなかったかなあ?
そう考えてみて、思い出しました。
女の子にとってのおひな祭りとそっくりな、子どもの日のことをです。
人差し指を立てて、それをいってみます。
「そうだ!男の子の家には鯉のぼりがあるよね。
もしかしたらそれにも、何か不思議なことがあるかもしれないよ」
わたしは知らなくても、不思議な楽しいことはまだまだたくさんあるというお話でした。
だからそういう他のものにも、きっとね。
そういうと、柾紀くんはわくわくした顔になりました。
「そうかあ。ぼくも探してみようっと」
「何かわかったら、わたしにも教えてね」
わたしはそう付け加えます。
柾紀くんは張り切ってうなずいてくれました。
本当に何かあったらうれしいね。
それに出会うにはまず、大切に思う気持ちが何よりの近道みたいです。
だから柾紀くんが本当に鯉のぼりを大切に思っていたら、見つけられるかもしれません。
そうまた不思議な相談をされたら、みかんはまた張り切っちゃうよ。

そうみーんな解決した今日が、おひな祭りの3月3日です。
こんなに清々しくって、そしてうきうきした気分で迎えられて、とってもうれしいです。
みんなそれぞれのお祝いの仕方があるんだろうね。
真美ちゃん家は、どんなお祝いをするのかなあ?
わたしは昨日お話した通り、お家でお母さんとお祝いします。
今日はわたしのおひなさまとお祝いしたいもんね。
クラスのみんなも、自分のおひなさまと大切に過ごそうって思っているみたいです。
おひなさま達、とっても喜ぶよ。
みんな、いい日になるといいね。
そして明日は、ももちゃんと桜ちゃんのお家でするパーティーに行く約束もしています。
みんなでお祝いするのも楽しいよね。
ももちゃん家のおひなさまは、どうかな?
ひな人形をできるだけ長く出しておいてあげようって、考えているお家だもん。
そのおひなさま達も幸せだと思います。
そんなももちゃんと桜ちゃんのひな人形に会うのも楽しみです。
みんなも、楽しいおひな祭りを過ごしてね。
そしておひなさま達がみんなうれしい気分になれますように。
みかんからのお祈りです。
それからみんながとっても大切に思っているものがあったら、ずっと思い続けていてね。
そうしたらわたしも知らない不思議なことに、あなたが出会えるかもしれないよ。
みんなで、不思議で素敵なことをいっぱい見つけていこうね!



おしまい


2006年1~7月制作
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