5年生7月編

24-星灯りの魔法

もみじの家から離れるほど、静かに、そして暗くなっていきます。
そうはいっても、らんたんとお星様の灯りがあるから、お互いや道はちゃんと見えるよ。
それから魔法を秘めているペンダントも、ほんのり光っています。
こんな光の組み合わせって、あんまり見ません。
普通は夜外に出る時って、らんたんみたいな強い光の出る物を持っていないもんね。
だからなんとも不思議な気分になって、おもしろいです。
こういうのも幻想的っていうのかな?
前を見ると、遠くに点々とみんなのらんたんの灯りも見えます。
それから、ふくろうさんが鳴いている声も聞こえるよ。
これだけ暗くなっていても、遠くから鳥のはばたく音や声も聴こえてくるね。
たまに風が吹いたりすると、樹の葉っぱも揺れてさらさらといっています。
注意して聴いてみると、夜の林もにぎやかなんだね。
そうわたしは周りを見回しながら、瞳から耳から伝わってくるものにわくわくしています。
でも隣を見てみると、高志くんはとっても青ざめています。
そして何か音が聞こえるたびにびくっとして、周りを見ています。
ずっとらんたんを、胸の高さまで上げたままね。
うーん、やっぱりよっぽど苦手なんだねえ。
高志くんの様子から、そのことがとっても伝わってきます。
今何だろう?って思う時って、わたしは好奇心でそれが何なのかを探しています。
でも高志くんは怖い気持ちの方が先に来るみたいです。
あれは何だから平気だよって、教えてあげた方がいいのかな。
でもそれだと、いったその時に安心するだけで、ずっと落ち着いてはいられないよね。
こういう時は、他の楽しい事を考えるといいんです。
よーし!
わたしは気合いを入れると、元気な笑顔を浮かべました。
そして高志くんの様子に気が付かないふりをして、空を指差します。
「ねえ、高志くん。
今日はとってもきれいな星空だよね」
天の川も見える程、いつもよりもずっとたくさんのお星様が瞬いています。
見ていると、本当に気持ちもきらきらしてくるよ。
そんなわたしの突然の話しかけに、高志くんはびっくりしたようでした。
わたしの方を向いて、それからわたしの見ている空を見てうなずいてくれます。
「そうだな。山だから、家よりもずっとよく見えるんだな。
そういえば、こんなにたくさんの星を見るのは初めてだ」
そうお返事してくれたことに、わたしはうれしくなりました。
そこでお星様の話を続けてみます。
「よく見えると、星座も見つけやすいよね。
夏の星座って何があったっけ?
乙女座とさそり座、カラス座に冠座!」
そうわたしは指を折りながら、思いつくだけいってみます。
すると高志くんも付け足してくれました。
「しし座もあったよな。どれだろう?
さそり座は、あれだってわかるんだけど」
そう高志くんはSの星座を指差してから、空を見回しています。
お星様を見るのに夢中で、もうらんたんも下げていました。
そのことに気付いて、わたしは少し安心します。
それからお星様を見るのが大好きなわたしは、星座もわりと知っている方です。
「しし座もね、まぶしい星が多いから見つけやすいよ。
あそこにある四角が体でね、あれがしっぽなの。
手足は小さいのも多いんだけど、見えるかな?」
そう指を動かして説明します。
「えーと…、みかんがいっているのは、あの星のことかな?」
高志くんはわたしの指先をよーく見て、そうまじめに考えています。
わたしもまた、高志くんがそういっているのを見てみます。
すると当たっていたのでうなずきます。
「うん。その小さなお星様をこうつないで、しし座になるんだよ」
そう見つけると、高志くんは感心してくれました。
「みかんって、こういうことにも詳しいんだな。
おかげで、おれも少しかしこくなった」
そううなずいている高志くんに、わたしは笑顔で答えます。
「うん。お星様って、まぶしくてキレイだから大好きなの。
魔法でも手の届かないところで輝いているから、憧れちゃうのかな。
こうやって見ているうちにね、好きなんだからもうちょっと詳しくなりたいなあと思って、少しずつお勉強してるの」
そう空に手を伸ばしながら、お星様を見上げます。
お勉強っていっても、本を読んでいるわけではありません。
もらった星座盤を見ながらお空を眺めて、自分で探しているだけなんだけどね。
だから星座だけ詳しいんです。
わたしがそういうと、高志くんは優しい顔になってうなずきました。
「うん。わかるなあ、そういうの」
お星様のことをいっているのかな?
高志くんもさそり座の見つけ方をちゃんと知っていたし。
それとも、高志くんにもそういうふうに大好きなものがあるんだろうね。
そうお星様の話をしていたら、高志くんは大分落ち着いたようです。
いつものおだやかな顔に戻りました。
やっぱり他のことに気持ちが向くと、怖い気持ちなんて薄まるものだよね。
そんな高志くんを見て、よかったあってほっとします。
それから安心したわたしは、おもしろいことを思いつきました。
「そうだ!わたしもお星様を出してみようっと」
そう今も心をあったかくさせてくれた素敵なお星様を、わたしができる魔法でね。
そうはいっても、ステッキで魔法を使ったりしたら、とっても目立ってしまいます。
使う魔法の力が強いほど、きらきらするからね。
魔法を使っていないペンダントの形でも、今はこういうふうにわかるくらいなんだもん。
昼間でもわかるような物をこんなに暗い中で使ったりしたら、遠くからでも見えると思います。
だからめずらしく、ステッキなしで使ってみることにしました。
この手のひらの魔法は久しぶりだから、使うわたしもどきどきします。
思った通りに、ちゃんとできるかな?
ステッキは、あれ自体が魔法の力を持っているわけではありません。
わたしの中にある魔法の力を、バランスよく使うことができるようになるアイテムなんです。
大きな力が使えるようになるのは、そのバランスの取り方がうまくなったということなんだって。
だからわたしの中には、いつも使っている以上の力があるということです。
ステッキの力なしで、どれくらいの魔法が使えるのかな?
それはわたし自身でもよくわかりません。
前に手のひらの魔法を使った時よりも、ステッキでは上手に使えるようになりました。
だからこっちの魔法も、少しは上達したんじゃないかな?
そのためには、心を込めてね。
右手を握って、それを左手で包んでお願いします。
「小さなお星様、出てきてください」
そういうと、握った手が少し明るくなりました。
魔法がかかった証拠です。
そしてぱっと手を開いてみると、5cmくらいのお星様が現れました。
わたしが思い描いた通り、ふわふわと浮かんでいます。
やったあ!上手にできた。
ちょっと心配だったので、成功してとってもうれしいです。
そして、こうやって自分の力だけで使った魔法というのは自慢です。
「わたしの魔法も、結構うまくなったよね」
そう自分でいいたくなります。
すると高志くんは、感心してうなずいてくれました。
「何も使わなくても、そういう不思議な物を出せるんだ。
魔法使いって、やっぱり違うんだなあ」
そう本当に素直な気持ちでいってもらえると、もっと得意な気分になっちゃいます。
「このお星様にはね、もう1つ仕掛けがあるんだよ」
浮かんでいるお星様を手に取ります。
それから高志くんに頼みました。
「そのらんたんで、このお星様をよーく照らしてね」
どうなるんだろう?って顔をしながら、高志くんがいう通りにしてくれます。
そして充分に光を浴びせてから、少し経ちました。
わたしはお星様を放します。
そこでお星様に名前がないと呼びづらいので、付けておくことにしました。
「『ほし』だし、ここは海の近くだから、この子はシーちゃんね」
そう高志くんにいってから、今度はシーちゃんにいいます。
「シーちゃん。ちょっとだけ向こうに離れてみて」
するとシーちゃんは、いった通りにふわふわと飛んでいきます。
そんな様子を見て、高志くんが聞きました。
「シーちゃんって、生きてるのか?」
わたしは首を振ります。
「ううん。魔法で生き物は出せないよ。
シーちゃんは、わたしの気持ちで動いてるの」
だから声をかけなくても、わたしが思えば動きます。
でもそこは気分の問題だよね。
わたしが黙ったままシーちゃんが動くよりは、声をかけていた方がお友達みたいで楽しいでしょ?
それからシーちゃんを指差します。
「ほら。見て!
シーちゃんがぼんやり光って見えるよね?蛍光付きなの。
あれくらいの明るさなら、遠くからは見えないかなあと思って。
やっぱりお星様は光らなくっちゃね」
そう本当は大したことはないんだけど、気分で得意そうにいいます。
お星様ってぴかぴか光るものだから、あれくらい明るいのも出してみたかったです。
でも今回はこっそりだからね。
他のみんなには見えない明るさにしておかなくっちゃ。
ペンダントを見て、この明るさを思い出しました。
夜ってこういう光る物があると、とってもおもしろくなるよね。
こういう蛍光のものも、電池を入れて光るものも、わたしはみんな大好きです。
電気を消して、お部屋で遊んだりもよくします。
それから夜お外に出るときも、いくつか持って行ったりします。
わたしのためもあるけど、そんな楽しさを高志くんにも感じてもらおうと思ったんだよ。
そしてシーちゃんに呼びかけます。
「シーちゃん、戻っておいで」
するとシーちゃんは、わたし達のすぐ近くまで戻ってきます。
高志くんは、そんなシーちゃんを興味津々な顔で見つめています。


25-2つめの手のひらの魔法

そんな時、前の方からかすかに泣き声が聞こえてきました。
えっ!?
わくわく気分になっていたわたしだけど、その声で落ち着きます。
だって、ここと離れている程、本当は大きな声で泣いているということだよね。
魔法使いの感覚を使って、よくよく耳を澄ませてみました。
するとそれは、声や近さから麻緒ちゃんと港くんのようです。
2人とも最初から怖がっていたんだもん。
やっぱり心配していた通りになっちゃったね。
麻緒ちゃん達の場合は2人ともだから、わたし達のところみたいにはいきません。
らんたんの灯りから見ると、その麻緒ちゃん達はここからわりと近くに立ち止まっているようです。
ちょっと行ってきたいな。
元気なわたしが励ましに行かなくちゃ。
そう使命感に燃えて、高志くんにいいました。
「高志くん。わたし、麻緒ちゃん達が心配だから、ちょっと見てくるね」
すると当然高志くんもいいました。
「じゃあ、おれも」
でもわたしは首を振りました。
高志くんも怖いのに1人にするなんて、とってもひどいことをいっているなあってわかっているんだけどね。
その理由を説明します。
「ほら、本当は2人だけでゴールしなきゃいけないでしょ?
高志くんはらんたんを持ってるから、一緒に行くと、後ろの健治くん達にわかっちゃうんだよ」
前には大きく、麻緒ちゃん達の持っている灯りが見えています。
そして後ろを振り返ると、健治くん達のらんたんの灯りも小さめだけどはっきりと見えます。
こうやってわたし達から見えるっていうことは、向こうからもしっかり見えているということです。
いきなり距離が離れたりしたら、何かあったことに気付かれてしまいます。
そうしたら健治くん達も来て、麻緒ちゃん達のことがわかっちゃうかも。
そうなっちゃったら、それはそれで仕方ないのかもしれません。
本当のことなんだから、こうやって秘密にしようとするのっていけないよね。
でもやっぱりわたしは、みんながちゃんとできたっていうのがいいです。
そこでわたしは一生懸命頼みました。
「わたし、みんなでちゃんとゴールしたいの。
すぐに戻ってくるから、ね!
シーちゃんにはここに残ってもらうし。
そうだなあ。30数えるまでには、絶対に戻ってくるよ」
そう両方の手のひらを広げて、高志くんをじーっとみつめます。
すると高志くんはわかってくれました。
「わかった。
じゃあおれは数を数えながら、今まで通りの速さで歩いていればいいんだよな」
そう期待通りのお返事をしてくれます。
高志くんなら、そううなずいてくれると思ったよ。
わたしは一瞬ぱっと笑顔になって、大きくうなずきます。
「うん。本当にすぐ戻ってくるよ!数えててね。
シーちゃんは、ちゃんと高志くんの側にいるんだよ」
そう指を1本立てて、シーちゃんにいっておきます。
わたしがそう思えば、シーちゃんはちゃんということを聞いてくれるはずだもんね。
そう約束をすると、わたしは急いで駆け出しました。
すると「いーち、にーい」って、高志くんが約束通りにゆっくりと数え始めます。
ちゃんと30までに帰らなくっちゃね。
そう思いながら駆けていくと、そんな声も遠くなっていきました。

麻緒ちゃん達はやっぱり立ち止まっていたようで、すぐに追いつきました。
2人とも泣いていて、涙でべたべたです。
ここまで泣いている姿を見ると、わたしも胸がきゅっとなります。
わたしを見ると、麻緒ちゃんと港くんの2人でいいます。
「みかんちゃん、わたし、もうこういうところ歩きたくないよー」
麻緒ちゃんはそういいながら、わたしに抱きつきます。
「本当だよー。暗いし、いろんなところから音がするし…」
港くんはそういいながら、周りを見回します。
2人とも本当におびえた顔をして、気持ちの中で限界まで来ているようです。
よっぽど怖かったんだね。
そうなりそうって気付いていたのに、今まで何もしてなくてごめんね。
わたしは魔法使いだから、みんなを助けるのが役目なのにね。
そう反省してから、そんな2人が元気になる方法を考えてみます。
魔法を使うと、わたしがここにいることがすぐにわかっちゃうから、それ以外の方法でね。
本当はもうこれくらいかわいそうな姿を見ると、魔法を使っちゃってもいいくらいの気持ちになっています。
でもやっぱり麻緒ちゃん達だけだめだったっていうのは悲しいから、とりあえずは違う方法で何かないか考えてみます。
うーんと…。
元気になる方法?それよりは…、怖くなくなる方法かな?
そうだ!
1ついいのを思い出して、2人にいいます。
「じゃあね、麻緒ちゃんも港くんも手を出してみて」
これ、久しぶりだからうまくいくかな?
ちょっと保証はないんだけど、今こそぴったりな方法だと思います。
2人は不思議そうな顔をしながらも、いう通りにしてくれます。
わたしは両手それぞれで、そんな2人の手を取りました。
ちゃんとできるかなってちょっとドキドキするけど、それじゃだめです。
瞳を閉じて、最初にわたし自身を落ち着かせます。
それから麻緒ちゃんと港くんにも届くように、大丈夫、大丈夫って心の中で唱えます。
こうやって魔法使いが気持ちを落ち着かせてさわるとね、相手を安心させることができるんだって。
そう前に教えてもらいました。
手のひらが1番伝わりやすいかなあと思って、やってみています。
2人とも怖さのせいか、手のひらがちょっと冷たいです。
でもこうやって手をつないでいると、少しずつ温かくなってきたように感じます。
そして瞳を開けて2人を見ていると、本当に泣き止んできました。
わあ。これはちゃんと魔法が効いている証拠だね。
2人とも怖さがなくなったみたいで、きょとんとした顔になりました。
それでわたしは手を離します。
そして麻緒ちゃん達に、わたしは魔法使いの余裕の笑顔でいいました。
「みかんが今魔法をかけたから、もう大丈夫だよ。
さっきまでの怖い気持ちは、みんななくなったでしょ?」
そう確認すると、麻緒ちゃん達はこっくりうなずきました。
そう聞いて一安心したわたしは、最後の仕上げをします。
「じゃあ後もう少しだし、2人でなら行けるよね」
そういって、今度は麻緒ちゃんと港くんの手をつながせました。
魔法使いとじゃなくたって、手をつないでいると、心細い気持ちは薄まるものだよね。
わたしもお母さんやおじいちゃん達につないでもらうと、とっても安心するもん。
そう思ってにっこり笑顔で。
麻緒ちゃんと港くんは、そんなわたしのやることにびっくりしたようでした。
わたしと、自分のつないだ手を交互にじっと見ます。
でも元気も取り戻せたようです。
「うん。じゃあ最後までがんばるね」
そんな港くんに続いて、麻緒ちゃんは笑顔になりました。
「みかんちゃん、ありがとう」
そう2人は手をつないで、遅れた分を元気に駆け出しました。
そんな様子を見て、わたしは心からほっとします。
これでもう大丈夫だよね?
自分がちゃんと役に立ててうれしいです。
そう安心したら、すぐに高志くんのところに戻ります。
振り返るとちゃんと見えるくらいの距離に、もう来ていました。
だから本当にすぐです。
弾むように大股でいったら、5歩もなかったかな。
高志くんはきちんと数を数えていたようでした。
いくつかはわからなかったけど、そんな声が聞こえていたよ。
シーちゃんは高志くんの前に浮かんで、同じスピードで動いているようでした。
わたしが麻緒ちゃん達のことを考えている間も、シーちゃんはいうことを聞いてくれていたようです。
そしてまた成功できたわたしは、元気にいいます。
「おまたせ!高志くん、いくつまでいった?」
すると高志くんは落ち着いて答えてくれます。
「お帰り。20くらいだったよ。
みかんがいっていたより早かった」
そう約束が守れてほっとします。
よかった。ちゃんと間に合ったんだね。
それとも、高志くんがゆっくり数えていてくれたからかな?
最初聞こえた数え方を思い出して、そうも考えました。
それからまた2人で歩きます。
シーちゃんはわたしの近くに戻ってきて、わたし達と同じスピードで動きます。
「大丈夫だった?」
そう確かめると、高志くんはおだやかな顔で答えてくれました。
「うん。みかんが本当にいない時間って短かったし、シーちゃんのおかげで怖い気持ちを忘れてたっていうのもあるし」
そう聞いて、わたしはシーちゃんに感謝しました。
そっか。シーちゃん、ありがとう。
わたしのいない間に、ちゃんと高志くんの役に立っていてくれたんだね。
出しておいてよかったです。
そこでシーちゃんを呼んで、手のひらに乗ってもらいます。
それからお礼に、お星様の先っぽをなでました。
そうしたらシーちゃんがなんだか喜んでいるように見えたよ。
また放すと、シーちゃんは元気に飛び回ります。
それから今度は、わたしの方を元気に報告します。
「麻緒ちゃん達はもう大丈夫そうだよ。
気持ちの魔法を使ってみたら、元気になったの。
高志くんにもあの魔法をかけてみればよかったねえ」
林に入ったばっかりの高志くんにだったら、ぜひかけてみたかった魔法でした。
でも今くらい平気になっていれば、あの魔法を使うほどではないよね?
そう思ったけど、高志くんは興味を持ったようでした。
「え?どんな魔法?」
こう高志くんは、よくわたしの話に乗ってくれます。
そう聞かれたので、せっかくだからまたやってみることにしました。
1人にしちゃって、本当は寂しかったりしたかもしれないし。
さっき麻緒ちゃん達にはとっても効いたので、今度もバッチリのはずです。
今の高志くんには、どれだけ効くかなあ?
そうわたしも興味があります。
「じゃあもう1回やるね。手を出して」
高志くんは右手にらんたんを持っていたので、左手に持ち替えて、右手を差し出してくれます。
これから何をするんだろうって、好奇心と緊張の混じった顔でね。
ちゃんと魔法が成功するように、わたしはまず気持ちを落ち着かせます。
準備ができると、そんな高志くんにいいました。
「これはね、魔法使いはみんなできる、気持ちが落ち着く魔法なんだよ」
そう自信を持って、高志くんの手を取ります。
すると高志くんは、とってもびっくりしたようでした。
「!ええっと…」
そう驚いた、そして少し困ったような顔をしています。
そこでわたしは余裕の表情で、わかるように説明します。
「魔法使いがこうやってさわるとね、気持ちが落ち着いてくるんだって。
魔法って、いつもわたしが使っているような、見えるものばっかりでもないんだよ。
どう?さっきより安心した感じする?」
そう聞くと、高志くんは目を上に向けて考えます。
そう聞くと、高志くんは目を上に向けて考えます。
「そう‥なんだ。そういわれてみると、さっきよりも平気になってきたような…」
わあ。やっぱり効いてるの?
そう聞いてわたしはうれしくなります。
でも高志くんは、それから黙ってうつむいてしまいました。
「……………」
――どうしたのかな?
麻緒ちゃんや港くんの時と反応が違います。
とても、よくなったようには見えません。
高志くんは結構元気そうだったのに使ったりしたから、魔法がいい方にいかなかったのかな?
そうちょっと心配になります。
それでわたしも黙ってしまって、高志くんをじーっと見ています。
するとシーちゃんが、わたし達のつないだ手のところに近付いて来ました。
わたしが何か聞こうかなって思い始めた頃、高志くんがぱっと手を離しました。
「ありがとう。もう大丈夫。
怖い気持ちなんて、全然なくなった」
そうほめてくれているけど、早口でいっているのが気になります。
高志くんがこういうふうになる時って、何か秘密にしていることがある時なんです。
高志くんっていつもは嘘をつけない、正直な子です。
たまについても、こうやって周りのみんなにすぐにわかっちゃうしね。
それでも秘密にしたいことがあるってことです。
わたしはついつい考え始めてしまいます。
今のことで、だよね?何かな?
…もしかして、本当は今の魔法は効果がなかったのかもしれません。
でもわたしに気を使ってくれて、いわないようにしているとか、そういうことなのかなあ?
そういう気遣いの嘘なら、つくかもしれません。
でもそうだったら、そうやって教えてもらえない方が、もっと魔法の自信がなくなっちゃうよ。
本当のことをいってもらえないと、だめだった時と、本当にうまくいった時がわからなくなっちゃうから。
だめだった時は考えて、うまくいった時は大喜びしたいです。
だからまじめな顔をして聞きます。
「本当?」
そう確かめると、高志くんはびっくりした顔をしました。
「えっ!?シーちゃんまで…。
本当、本当。みかんの魔法は効いてるよ」
そう慌てて両手を振ります。
シーちゃん?
その言葉通りに、シーちゃんまで高志くんに寄っていっていました。
今のわたしの気持ちと一緒に、自然と動いたみたいです。
そんなシーちゃんを見ると、ちょっと笑えました。
顔もないシーちゃんがじーっと、高志くんを責めるみたいにどんどん近付いていってるんだもん。
わたしの気持ちも今あんなふうだったんだね。
確かに2人からこんなふうに聞かれたら、困るよね。
高志くんはそういってくれたし、見ていると本当に大丈夫そうです。
だから、もうそのことについて考えるのはやめておくことにしました。
こんなふうに気にしていたら、これからの時間が楽しくなくなっちゃうもんね。
めったにない時間なんだから、大事にしなくちゃ。
麻緒ちゃん達にはちゃんと効いたし、高志くんを信じることにします。
そう思っていつもの顔に戻ったわたしは、シーちゃんを呼びました。
「シーちゃん。もういいんだよ」
シーちゃんがわたしのところに戻ってくると、高志くんにいいます。
「そう?ならいいの。
じゃあゴールまでがんばれるね」


26-いつのまにか通じている関係

そして無事にゴールの浜辺に着きました。
夜の海はとっても静か。
お陽さまが出ている時とは違って見えて、ちょっとドキドキします。
でも波の音と潮の匂いは変わらないね。
そうちょっと瞳を閉じて、匂いをかいでみました。
広いところに出たからか、シーちゃんはくるくると大きく輪を描きながら飛び始めました。
わたし達を遠く追い越して、楽しそうに遊んでいます。
そして道を抜けた近くの場所に、健治くんのいっていた通りにみんなの名前が並んでいました。
名前が書きやすいように、海の水で濡れているぎりぎりのところです。
着いた順番に右から書かれています。
麻緒ちゃんと港くんのもきちんと左端にあるよ。
2人でちゃんとここまで来れたんだね。
それを見て心から安心しました。
そしてそのすぐ横に、先っぽに土のついた木の枝が置いてありました。
みんなはそれを使って、名前を書いたようです。
わたしはそれを見て、わくわくしました。
そんな気分で、「みかん」とわたしの名前もみんなの隣に加えます。
そして高志くんに枝を渡します。
「はい!高志くんも」
高志くんの書いた名前を見て、わたしは感心します。
「高志くんは、やっぱり字が上手だね」
高志くんはお習字でも毎回金賞をもらえるくらい、とっても字が上手なんです。
だから隣同士で交換して丸付けをする時に、わたしの字を書くのが悪い気がするくらいだよ。
わたしのは上手っていえないからね。
そうほめると、高志くんは照れているようでした。
「ありがとう」って、小さな声で答えます。

元来た道を通ると、後ろの順番の人に会ってしまいます。
そこで帰り道は、その近くのわき道を通ることになっていました。
だからわたし達も、麻緒ちゃん達以外とは会わなかったでしょ?
その道も迷ったりする心配のない道なので、安心です。
まだ半分あるけど、ちゃんとゴールまで行ってこられたから、もう達成できたようなすがすがしい気分だね。
その帰り道に、高志くんが話し始めました。
「みかんのおかげで、こうやってゴールできた。ありがとう。
さっき行きたくないとかいって、ごめんな」
そうお礼をいってくれます。
そう思ってもらえると、とってもうれしいです。
わたしがにこにこしていると、逆に高志くんは今度は落ち込みました。
「しかし何でおれって、苦手なものはこう、てんでだめなんだろう。
平気そうにできるみんなを見ると、逆に不思議だもんなあ」
そう困った顔をします。
確かに高志くんは、得意なことと苦手なことの差が大きいです。
でもこういう肝試しって、みんなが元々怖いと思うことを我慢してやってみようってことだもんね。
だから怖いのは当たり前だし、その気持ちを越えるのは大変です。
わたしはそう考えて、手を振って励まします。
「そういうのはしょうがないよ。
わたしが本当に平気なのは、魔法使いだからだと思うし」
魔法使いは安全が保障されているから、みんなよりもずっと危機感がないんだそうです。
わたしも怖いものって、ほとんどありません。
それでも少しはあるので、その時の困る気持ちはわかります。
困るっていえば……。
今日似た気持ちになったことを思い出して、ちょっと付け加えます。
「それにわたしだって今日、それほどのことじゃないのに、涙が出ちゃったこともあったんだよ」
あの小さなカニさんのことです。
そうはいっても、高志くんには何のことだかわからないよね。
でも理由は秘密にしておきます。
いったら、高志くんだって困るだろうし。
そうやって心配をかけたかったんじゃなくて、わたしにも平気じゃない時もあるからわかるよって、いいたかっただけです。
そうわたしは思っていたのに、意外にも高志くんはうなずきました。
「ああ。カニの時のこと?
あれはなあ…」
そう当てられて、わたしはびっくりです。
みんな知らなかったと思っていたのに、こうやって気付かれていたなんてね。
それって、まずいなあ。
ああいうことで泣いちゃったのは、秘密にしておきたかったです。
みんなに余計な心配をかけることになるもんね。
わたしが困り始めると、シーちゃんが戻ってきました。
そして大人しく、わたしの隣に止まります。
それからわたしはおずおずと聞きます。
「そんなにわかりやすかった?」
そんなわたしの態度に高志くんは気が付いたようで、慌てました。
「いや、他のみんなは気付いてないと思うけど」
本当?
そういわれても、わたしは疑問です。
「でも、高志くんはわかったんだよね?」
だったら、他のみんなも同じじゃないの?
そう思って、わたしは細かく聞きます。
すると高志くんは、1度止まりながらも説明してくれました。
「それは……、――隣の席でよく近くにいる分知ってるから…、わかったんだよ」
☆!ああ。
そういわれて、わたしは納得しました。
シーちゃんもまた飛び始めます。
わかったわたしは、上を見上げながら元気にいいました。
「そっかあ。うん。
高志くんとは班活動も日直もみんな一緒だもんね。
そういわれると、わたしも高志くんのこと、いろいろ知ってるよ」
「そう?」
高志くんの確認に、うなずきます。
本当に。好きな教科も、苦手なものも、得意なこともよくわかってるよ。
クラスの男の子の中では、1番よく知っている子だよね。
そのことに今気が付きました。
宿泊会で席が近い人と一緒になった意味って、こういうところにもあったのかなあ。
いつもはしないことを一緒にすることで、もう仲良しになっていたことを教えてもらえました。
そうやって自分のことをよく知られているってはずかしい気もするけど、安心もするね。
それを高志くんにいいました。
「お友達って、自分で思っているよりも、通じているものかもしれないね。
そういうことがわかって、うれしいなあ。
高志くんとも、みんなとも、これからもっと一緒にいるのがうれしくなりそうだよ」
そうにこにこいうと、高志くんもうなずきました。
「うん。そうなんだよな。
おれの場合はそれで困っていることもあったりするんだけどさ。
友達がそうやってわかっていてくれるのは、心強いものかなっても思う。
そういう友達って、大事に思わなくちゃいけないんだな」
そう高志くんは前を見つめながら、自分自身にお話しているようでした。
その言葉に、わたしもまたうなずきます。
そんなお話をしていると、シーちゃんがとっても元気にわたし達の周りを飛んでいました。
「シーちゃん、楽しそう」
そういってから、シーちゃんはわたしの気持ちの通りに動いていることを思い出しました。
そっか。わたし、今あれくらいうれしいんだね。
そんなシーちゃんを見ていたら、わたしもますますうれしくなりました。
そこで歩きながらも、2人でくるくると回ってみます。
時々シーちゃんがわたしの手にタッチしたりして、息もぴったりです。楽しいよ。
そう踊っているわたし達を見て、高志くんがいいます。
「本当に星みたいだな」
その言葉に、わたしははたと止まります。
そしてそういわれたお星様のシーちゃんを見ました。
シーちゃんが本物みたいってほめてもらえたんだって、わたしはもっとうれしくなりました。
「よかったね、シーちゃん。
わたしの魔法もそんなに上手になったんだ」
そうわたしがはしゃぐと、高志くんはうなずいてくれました。
そんなお星様がいっぱいで、うれしい気分になれた夜でした。


27─変わりゆく、みんなの気持ち

お散歩の出発地に戻ると、先に行っていた子達はみんな集まっていました。
わたしはすぐに麻緒ちゃんに聞きます。
「麻緒ちゃん、あれからどうだった?」
「うん。みかんちゃんのおかげで、帰り道も不思議と怖いと思わなかったよ」
そう聞いて安心していたら、麻緒ちゃんは意外なことを付け加えます。
「ただ浜辺に着くまでは、港くんと手をつないでいたから、その間はちょっと緊張しちゃった」
「そうなの?」
そう聞いて、わたしは考えます。
わたしが手をつないで緊張した時って…?
「そういえばわたしも、ファンの人と握手した時はドキドキしたなあ」
すると麻緒ちゃんは、少し困ったように笑いました。
「うーん。そういうことでもないんだけど、なんなんだろうね?」

クラスのみんなが帰ってくると、少し前から来ていた友子先生が呼びかけました。
「みんな、無事に行ってこれた?
他のクラスの子達はもうお風呂からあがっているから、みんなもすぐに入りましょう」
もうそんな時間だね。
「はーい」
突然のイベントを許してもらったばかりのわたし達はしっかり返事をして、すぐにお風呂の支度を始めました。

お風呂場で健治くんは、すぐに高志くんに聞きました。
「おお高志!みかんと一緒でどうだった?
時々立ち止まってただろ?
追いつかないように、こっちも進むスピードを調節してたんだぜ」
そう言われて高志くんは初めて気が付きました。
「いわれてみれば、星を見た時とかに立ち止まったりしたな…」
それから高志くんは、さっきから健治くんにいいたかったことを話し始めます。
「おれ、肝試しでみかんとペアを組ませられた時は、泣きたい気分だったけど…」
そこまではうつむいていってから、今度は健治くんの顔を見て続けます。
「でもみかんと一緒に行って良かった。だからありがとう」
そう感謝の言葉を聞いて、健治くんは喜びます。
「おお、そっか!オレ、グッジョブだったな」
「でももう勝手に決めるのは、体に悪いからやめてほしい」
高志くんがそう付け加えると、健治くんはうなずきました。
「ああ、わかったよ。今度は急には言わないぜ」
健治くんが意気揚々と立ち去ると、今度は龍太郎くんが高志くんに聞きに来ました。
「高志、大丈夫だったか?みんな心配してたぞ」
龍太郎くんを信頼している高志くんは、さっき思っていたことを打ちあけました。
「みかんがいろいろしてくれたから大丈夫だった。
おれ正直みかんがあんなに優しくしてくれるなんて、思ってなかった」
「そっか。結果オーライになったってことか」
「うん。ただいろいろ疲れたから、今晩は早く寝たい」
「お疲れ!」
そう龍太郎くんは、高志くんの頭を優しくなでました。

お風呂場でみんなを見て、わたしは戸惑いました。
あれ?なんだか去年よりも、少し大人っぽい体型になっている子もいる!
わたしは身長以外、去年と変わらないのに…。
周りと自分を比べてそう思っていると、美穂ちゃんにたずねられました。
「ねえ、みかんちゃん。行く前に高志くんは大分抵抗してたけど、どうだった?」
そう心配されているので、わたしは明るく答えます。
「高志くんも大丈夫だったよ。
たくさんお星さまが出ていたから、一緒に星座を探したりして、楽しかったよ」
そういうと秋子ちゃんもうなずきます。
「うん。空が明るくてキレイだったよね」
「ちょっと怖かったけど、ペアの子と色々話す機会にもなって、結構楽しかったよね」
みゆきちゃんも龍太郎くんと、たくさんお話し出来たようです。
「海でもたくさん遊べて、楽しい日だったー」
そう優香里ちゃんもにこにこしています。
そう海も、林でのお散歩もどっちも楽しかったなあ。
わたしにもみんなにとっても、いい日になったみたいで、本当に良かったです。

お風呂から上がると、そろそろ寝る時間なのでパジャマを着ます。
みんなの前で着ることもあって、特にお気に入りのを持ってきました。
わたしのは黄色とオレンジ色のチェックです。
そしてトップスの下の部分がひらひらと、少しスカートみたいに広がっている形をしています。
いつもは着ていないミニワンピースっぽくてかわいいので、とっても気に入っています。
そんなわたしのパジャマを見て、秋子ちゃんが聞きました。
「そのたぬきのってアップリケ?」
「そう。お母さんが貼ってくれたの」
お母さんが左側のひらひらの上に、わたしの大好きなぽこたんのアップリケをつけてくれました。
これもとってもかわいいです。
ほかのみんなもえりの形が大きくてかわいいものとか、逆に大人っぽいのを着てる子もいて、みんなオシャレです。
「やっぱりみんなに見られるから、かわいいのを持ってくるよね」
そうみゆきちゃんもうなずいています。
中でも、とびきり目を引いたのが…。
「キャー!麻緒ちゃんかわいい!」
そうわたしは思わず叫びました。
長いワンピースのようなパジャマ姿の麻緒ちゃんが、とんでもなくかわいかったからです。
「うん。麻緒ちゃんはそういうの似合うねえ」
そう彩ちゃんが言うように、みんなもかわいいと思っているようです。
「ありがとう。これ、一目ぼれして、おばあちゃんにおねだりしたものなんだー」
そう麻緒ちゃんははにかみました。
ハミガキなどもして、寝る支度ができたら、
同じ部屋のももちゃん、桜ちゃん、麻緒ちゃんと一緒にお部屋に戻ります。

お部屋に戻ると、もう男の子達はそろっていました。
「早いね?」
そう桜ちゃんが聞くと、光くんが答えてくれます。
「こっちは髪を乾かすのに、時間がかからないから」
それから健治くんがわたし達をジーッと見ていいます。
「女子みんな、パジャマかわいいじゃん」
「ありがとう」
お気に入りのパジャマをほめてもらえたので、わたし達はお礼を言います。
ももちゃんと桜ちゃんのは星柄で、仲良く色違いです。
健治くんは、トップスに大きく怪獣が描かれているのを着ています。
そういえば健治くんは、特撮番組が好きって聞いたことがあるのを思い出しました。
「それは健治くんの好きなテレビのキャラ?」
そう麻緒ちゃんが聞くと、健治くんはうなずきます。
「そう!」
うれしそうな健治くんに、わたしも言います。
「わたしのパジャマにもね、好きなぽこたんが付いてるんだー」
そう楽しくお話している時に、突然ももちゃんが部屋の奥を向いて聞きました。
「ところで高志くん、どうしたの?」
その言葉に、みんなが高志くんを振り返ります。
高志くんはその言葉でこちらを見ましたが、すぐにうつむきました。
「え?高志くんがどうかしたの?」
麻緒ちゃんが不思議そうにたずねると、ももちゃんが首をひねります。
「うーん。いつもより動揺してるから…。
あっ、そうか」
そう思い当たることがあったようで、ももちゃんはそれ以上いいませんでした。
それでわたしも考えます。
高志くんが動揺するようなことって…?
そしてさっきのことを思い出しました。
「あ!もしかして、麻緒ちゃんのパジャマ姿がかわいすぎて、びっくりしたんだよね?
わたしもさっきそう思ったの!」
わたしがそういうと、高志くんは照れたようにうなずきました。
「ああ…、うん。みんなかわいいからね」
「高志くんは浮気をしないタイプだと思うよ?」
「えっ?浮気?」
ってどういうこと?と、ももちゃんに聞こうと思ったら、高志くんは急に大きな声で言いました。
「みんな揃ったし、おれ今日は疲れたから、もう寝る!」
そして布団の中に入ってしまいました。
「うん。おやすみ、高志くん」
みんな驚きながらも、そうあいさつします。

そして10分程たってからーー。
「いやー。高志が一番先に寝るとは、予想外だったな」
そう健治くんが驚きます。
わたしもさっき高志くんのベッドをのぞきに行ったら、すやすやと眠っているのが見えました。
「みかん、何かした?」
そう健治くんに、さっきのお散歩のことを聞かれているとわかったわたしは、思い出してみます。
「え~!?特に走ったりとか、疲れるようなことはしてないはずだけどなあ」
「きっと高志くんは、今日いろんなことと戦っていたんだよ」
ももちゃんの言葉に思い出してみれば、確かに高志くんは、今日苦手なことを一生懸命がんばったんだもんね。
そう思うと、なんだかたまらない気持ちになりました。
高志くんのところまで行って、起こさないように髪の毛だけ「よしよし」ってなでます。
「ぼくも疲れたから、もう寝よう」
「わたしもー」
そう港くんと麻緒ちゃんもあくびをします。
わたしも眠たいなあって思ったら、お家ではいつも眠っている時間になっていました。
「じゃあみんながベッドに入ったら、電気消すか」
そう光くんがいうので、わたしもベッドに入ります。
今日はお母さんとテトリちゃんの代わりに、持ってきたカメさんのぬいぐるみと一緒に寝るんだよ。
じゃあみんな、おやすみなさい。


2006年8月~2007年1月制作
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