5年生7月編

24-星灯りの魔法

もみじの家から離れるほど、静かに、そして暗くなっていきます。
そうはいっても、らんたんとお星様の灯りがあるから、お互いや道はちゃんと見えるよ。
それから魔法を秘めているペンダントも、ほんのり光っています。
こんな光の組み合わせって、あんまり見ません。
普通は夜外に出る時って、らんたんみたいな強い光の出る物を持っていないもんね。
だからなんとも不思議な気分になって、おもしろいです。
こういうのも幻想的っていうのかな?
前を見ると、遠くに点々とみんなのらんたんの灯りも見えます。
それから、ふくろうさんが鳴いている声も聞こえるよ。
これだけ暗くなっていても、遠くから鳥のはばたく音や声も聴こえてくるね。
たまに風が吹いたりすると、樹の葉っぱも揺れてさらさらといっています。
注意して聴いてみると、夜の林もにぎやかなんだね。
そうわたしは周りを見回しながら、瞳から耳から伝わってくるものにわくわくしています。
でも隣を見てみると、高志くんはとっても青ざめています。
そして何か音が聞こえるたびにびくっとして、周りを見ています。
ずっとらんたんを、胸の高さまで上げたままね。
うーん、やっぱりよっぽど苦手なんだねえ。
高志くんの様子から、そのことがとっても伝わってきます。
今何だろう?って思う時って、わたしは好奇心でそれが何なのかを探しています。
でも高志くんは怖い気持ちの方が先に来るみたいです。
あれは何だから平気だよって、教えてあげた方がいいのかな。
でもそれだと、いったその時に安心するだけで、ずっと落ち着いてはいられないよね。
こういう時は、他の楽しい事を考えるといいんです。
よーし!
わたしは気合いを入れると、元気な笑顔を浮かべました。
そして高志くんの様子に気が付かないふりをして、空を指差します。
「ねえ、高志くん。
今日はとってもきれいな星空だよね」
天の川も見える程、いつもよりもずっとたくさんのお星様が瞬いています。
見ていると、本当に気持ちもきらきらしてくるよ。
そんなわたしの突然の話しかけに、高志くんはびっくりしたようでした。
わたしの方を向いて、それからわたしの見ている空を見てうなずいてくれます。
「そうだな。山だから、家よりもずっとよく見えるんだな。
そういえば、こんなにたくさんの星を見るのは初めてだ」
そうお返事してくれたことに、わたしはうれしくなりました。
そこでお星様の話を続けてみます。
「よく見えると、星座も見つけやすいよね。
夏の星座って何があったっけ?
乙女座とさそり座、カラス座に冠座!」
そうわたしは指を折りながら、思いつくだけいってみます。
すると高志くんも付け足してくれました。
「しし座もあったよな。どれだろう?
さそり座は、あれだってわかるんだけど」
そう高志くんはSの星座を指差してから、空を見回しています。
お星様を見るのに夢中で、もうらんたんも下げていました。
そのことに気付いて、わたしは少し安心します。
それからお星様を見るのが大好きなわたしは、星座もわりと知っている方です。
「しし座もね、まぶしい星が多いから見つけやすいよ。
あそこにある四角が体でね、あれがしっぽなの。
手足は小さいのも多いんだけど、見えるかな?」
そう指を動かして説明します。
「えーと…、みかんがいっているのは、あの星のことかな?」
高志くんはわたしの指先をよーく見て、そうまじめに考えています。
わたしもまた、高志くんがそういっているのを見てみます。
すると当たっていたのでうなずきます。
「うん。その小さなお星様をこうつないで、しし座になるんだよ」
そう見つけると、高志くんは感心してくれました。
「みかんって、こういうことにも詳しいんだな。
おかげで、おれも少しかしこくなった」
そううなずいている高志くんに、わたしは笑顔で答えます。
「うん。お星様って、まぶしくてキレイだから大好きなの。
魔法でも手の届かないところで輝いているから、憧れちゃうのかな。
こうやって見ているうちにね、好きなんだからもうちょっと詳しくなりたいなあと思って、少しずつお勉強してるの」
そう空に手を伸ばしながら、お星様を見上げます。
お勉強っていっても、本を読んでいるわけではありません。
もらった星座盤を見ながらお空を眺めて、自分で探しているだけなんだけどね。
だから星座だけ詳しいんです。
わたしがそういうと、高志くんは優しい顔になってうなずきました。
「うん。わかるなあ、そういうの」
お星様のことをいっているのかな?
高志くんもさそり座の見つけ方をちゃんと知っていたし。
それとも、高志くんにもそういうふうに大好きなものがあるんだろうね。
そうお星様の話をしていたら、高志くんは大分落ち着いたようです。
いつものおだやかな顔に戻りました。
やっぱり他のことに気持ちが向くと、怖い気持ちなんて薄まるものだよね。
そんな高志くんを見て、よかったあってほっとします。
それから安心したわたしは、おもしろいことを思いつきました。
「そうだ!わたしもお星様を出してみようっと」
そう今も心をあったかくさせてくれた素敵なお星様を、わたしができる魔法でね。
そうはいっても、ステッキで魔法を使ったりしたら、とっても目立ってしまいます。
使う魔法の力が強いほど、きらきらするからね。
魔法を使っていないペンダントの形でも、今はこういうふうにわかるくらいなんだもん。
昼間でもわかるような物をこんなに暗い中で使ったりしたら、遠くからでも見えると思います。
だからめずらしく、ステッキなしで使ってみることにしました。
この手のひらの魔法は久しぶりだから、使うわたしもどきどきします。
思った通りに、ちゃんとできるかな?
ステッキは、あれ自体が魔法の力を持っているわけではありません。
わたしの中にある魔法の力を、バランスよく使うことができるようになるアイテムなんです。
大きな力が使えるようになるのは、そのバランスの取り方がうまくなったということなんだって。
だからわたしの中には、いつも使っている以上の力があるということです。
ステッキの力なしで、どれくらいの魔法が使えるのかな?
それはわたし自身でもよくわかりません。
前に手のひらの魔法を使った時よりも、ステッキでは上手に使えるようになりました。
だからこっちの魔法も、少しは上達したんじゃないかな?
そのためには、心を込めてね。
右手を握って、それを左手で包んでお願いします。
「小さなお星様、出てきてください」
そういうと、握った手が少し明るくなりました。
魔法がかかった証拠です。
そしてぱっと手を開いてみると、5cmくらいのお星様が現れました。
わたしが思い描いた通り、ふわふわと浮かんでいます。
やったあ!上手にできた。
ちょっと心配だったので、成功してとってもうれしいです。
そして、こうやって自分の力だけで使った魔法というのは自慢です。
「わたしの魔法も、結構うまくなったよね」
そう自分でいいたくなります。
すると高志くんは、感心してうなずいてくれました。
「何も使わなくても、そういう不思議な物を出せるんだ。
魔法使いって、やっぱり違うんだなあ」
そう本当に素直な気持ちでいってもらえると、もっと得意な気分になっちゃいます。
「このお星様にはね、もう1つ仕掛けがあるんだよ」
浮かんでいるお星様を手に取ります。
それから高志くんに頼みました。
「そのらんたんで、このお星様をよーく照らしてね」
どうなるんだろう?って顔をしながら、高志くんがいう通りにしてくれます。
そして充分に光を浴びせてから、少し経ちました。
わたしはお星様を放します。
そこでお星様に名前がないと呼びづらいので、付けておくことにしました。
「『ほし』だし、ここは海の近くだから、この子はシーちゃんね」
そう高志くんにいってから、今度はシーちゃんにいいます。
「シーちゃん。ちょっとだけ向こうに離れてみて」
するとシーちゃんは、いった通りにふわふわと飛んでいきます。
そんな様子を見て、高志くんが聞きました。
「シーちゃんって、生きてるのか?」
わたしは首を振ります。
「ううん。魔法で生き物は出せないよ。
シーちゃんは、わたしの気持ちで動いてるの」
だから声をかけなくても、わたしが思えば動きます。
でもそこは気分の問題だよね。
わたしが黙ったままシーちゃんが動くよりは、声をかけていた方がお友達みたいで楽しいでしょ?
それからシーちゃんを指差します。
「ほら。見て!
シーちゃんがぼんやり光って見えるよね?蛍光付きなの。
あれくらいの明るさなら、遠くからは見えないかなあと思って。
やっぱりお星様は光らなくっちゃね」
そう本当は大したことはないんだけど、気分で得意そうにいいます。
お星様ってぴかぴか光るものだから、あれくらい明るいのも出してみたかったです。
でも今回はこっそりだからね。
他のみんなには見えない明るさにしておかなくっちゃ。
ペンダントを見て、この明るさを思い出しました。
夜ってこういう光る物があると、とってもおもしろくなるよね。
こういう蛍光のものも、電池を入れて光るものも、わたしはみんな大好きです。
電気を消して、お部屋で遊んだりもよくします。
それから夜お外に出るときも、いくつか持って行ったりします。
わたしのためもあるけど、そんな楽しさを高志くんにも感じてもらおうと思ったんだよ。
そしてシーちゃんに呼びかけます。
「シーちゃん、戻っておいで」
するとシーちゃんは、わたし達のすぐ近くまで戻ってきます。
高志くんは、そんなシーちゃんを興味津々な顔で見つめています。
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