5年生7月編

21-みんなが大好きな海

「わー。海のにおーい」
バスから降りると、わたしはそう両手を広げました。
そしてにおいだけじゃなくって、本当に向こうに見える海に心がはずみます。
耳を澄ますと、波の音も聴こえてくるようだよ。
久しぶりなので、もう早く海に走り出したい気分です。
夏休みに入って1週間ほど経った今日は、7月28日。
学校行事の宿泊会で、わたし達5年生は海に来たんです。
わたし達の雪笠市には海がないので、ここまで来るのに午前中いっぱいはかかりました。
そのバスに乗っている間も、これからのことをみんなでお話しながらわくわくしていたよ。
そしてやっと目的地に着いたんです。
お天気はもくもくと入道雲が出ていて、お陽さまの光が強い本当に濃い青い空をしています。
夏だけの、とってもきれいな景色だよね。
海に来られたとっておきの日が、こうお天気がよくってよかったです。
わたしだけじゃなくって、クラスのみんなもとってもうれしそうだよ。
これからはまず、目の前にあるお泊りをする施設に荷物を置きます。
それから先生のお話を聞きます。
この宿泊会の出発式は、もう学校でやってきました。
だからそのお話は、海で遊ぶ時の注意などの短いものだそうです。
それが終わったらすぐに、海に行っていいことになっているんだよ。
お泊りする部屋割りは、今回は席順で決められています。
1つのお部屋に8人です。
お勉強している時に近くにいる人のことをよく知っておいた方が、これからの学校生活がもっと楽しくなるからということで決められたそうです。
席が近いと、給食当番やお掃除当番など、いつも一緒だもんね。
よく一緒にいる分、いろいろとわかっているつもりだけど、この宿泊会で新しい発見もあるのかな?
わたしは、健治くん、光くん、麻緒ちゃん、港くん、高志くん、ももちゃん、桜ちゃんと一緒です。
お部屋に行ってみると、2段ベットが4つありました。
2段ベットに憧れを持っていたわたしは、そこでもわくわくします。
でもそれは後で、今はやっぱり海だよね。
荷物を置いて、急いで必要な物だけを持ちます。
そうしてみんなで元気に飛び出しました。

海もまぶしいお陽さまの光を浴びて、真っ青です。
先生のお話が終わると、わたし達は一斉に海に向かって駆け出しました。
水着を中に着てきた子が多くって、着替えはみんなすぐに終わります。
わたしのは大好きな黄色の水着です。
水着でも、もちろんペンダントはかけてね。
それからひまわりの絵の入った、オレンジ色のうきわも持ってきています。
それをしっかり空気詰めでふくらませてと。
じゃーん!これで用意完了だね。
うきわを持って、わたしはにっこり顔です。
わたしのようにうきわやビーチボールにお砂場セットなど、みんなそれぞれ遊ぶ物を持ってきているよ。
準備ができた子から、海に向かって砂浜の上を走り始めます。
「この砂浜がまた、海に来たって気分になるよね」
美穂ちゃんの言葉に、みんなでうなずきます。
そうだよね。この砂浜も海にしかないさらさらさだよね。
晴れている日は、こうやって走らないと熱いけど。
お陽さまの光だけで、立っていられないほど熱くなるってすごいです。
やっぱり夏は、お陽さまが元気なんだね。
足の裏から感じる熱さで、そう実感しました。
こういうのがあると、ますます早く海に入りたくなります。
でもみんなが海に入る前に、龍太郎くんが止めました。
「ちょっと待った!
海に入る前には準備体操をしておかないと。
海はプールの時よりも、もっと気をつけないとな」
そう注意されてはっとします。
そうだね。うれしさのあまり、ついついさぼっちゃうところだったよ。
でも勢いをくじかれたみんなは、ちょっと不満げです。
「体操って、やっぱりかけ声がないとやりづらいよなあ」
その温広くんの言葉に、わたしは思いつきました。
「じゃあ、毎朝やってるラジオ体操ならいいよね」
夏休み定番のラジオ体操なら、みんな慣れているから、簡単にできるしね。
そういって早速魔法を使います。
「ミラクル・ドリーミング!
ラジオをお願いしまーす」
すると願った通りに、小さなラジオが出てきました。
そしてラジオ体操の音楽が流れてきます。
わたしは砂を平らにならしてから、ラジオをそっと置きました。
砂が入って壊れたりしたら困るもんね。
魔法で出した物とはいっても、大切にしなくちゃいけないんです。
消すときにまたすぐに使うから、ステッキも近くに置いておきます。
「じゃあ暑いから、足だけ濡らしてからやろっか」
そうわたしは提案しました。
足の裏が暑すぎて、このまま体操を続けるのは大変だもんね。
みんなうなずいて、足首まで海に入ってみます。
「わー。気持ちいーい」
それだけでも海に来たのが実感できて、大喜びする子が多いです。
波がひいていく時の感じとか、本当にたまらないよね。
ますますわくわくして、早く海で思いっきり遊びたくなったよ。
そのためにも、まずは体操です。
急いで戻って、みんなでまじめにやりました。
体操をやっている間にまた暑くなったのも我慢して、がんばりました。
その後にプールの前にやる足首回しなどもやったし、これで大丈夫です。
今度こそ、心置きなく遊べるね。
体操が終わると、またみんなでわーっと海に駆け出しました。
わたしもラジオをちゃんと片付けて、ペンダントに戻してから続きます。
早速うきわを付けて、波に揺られて遊び始めました。
去年優香里ちゃんに教えてもらったおかげで、わたしは25m泳げます。
でも海は波があるから特に、うきわで遊ぶのが大好きなんです。
ぷかぷか浮かびながら流されるのって、おもしろいよね。
立って足の付け根くらいまでの深さで遊ぶのが安全です。
最初はちょうどその場所まで行きます。
泳ぎが得意な子や背が大きい子は、わたしよりももうちょっと奥の方で遊んでいるよ。
わたしのいるところは、時々ザッバーンと高い波がきます。
すると水を頭からかぶった上に、岸まで戻されたりもします。
でもそれも楽しいです。
「みかんちゃん、大分頭がぐちゃぐちゃになってるけど、大丈夫?」
しょっちゅう流され続けていたわたしは、そうももちゃんにいわれました。
「えっ?そんなにひどいかなあ?」
確認すると、桜ちゃんもうなずきます。
「うん。後できれいにすればいいんだろうけどね」
今は鏡を持っていないので、どのくらいひどいのかは自分ではわかりません。
頭をさわってみると、確かに結び目が大分ゆるんでいました。
砂で頭がじゃりじゃりもいっているし……。
いつもならありえないぐちゃぐちゃさです。
うーん、でもまあ、楽しいから今はいいかな。
今直しても、また波をかぶったらそうなっちゃうもんね。
そうわたしは、今は気にしないことにしました。

そしてまたかぶっちゃったわたしは、タオルで顔をふきます。
すると波打ち際で遊んでいた正くんは、めがねをふいていました。
「潮風でめがねが真っ白になるなあ」
そういっている通り、正くんがふいていない方は真っ白になっています。
海の風って、名前の通り本当に塩が混じっているんだあ。
だからちょっとしょっぱいんだね。
それを見て、わたしはよくわかりました。
そんな正くんの様子に気付いて、いつもは同じくめがねをかけている秋子ちゃんがいいました。
つまり今はかけていないんです。
「かけてない方がいいよ。
わたしは先生に預かってもらってるんだ」
そう秋子ちゃんが振り返る先には、当番の先生がいました。
ビーチパラソルの下にレジャーシートを広げて、2人でわたし達を見ています。
今は2組の千夏先生と、4組の和幸先生が座っているよ。
「じゃあ、そうしよう」
正くんはそう先生のところに預けに行きました。
めがねをかけている人って、かけていなくても大丈夫なのかな?って不思議です。
でもプールの時もちゃんと泳いでいるし、平気なのかな?
今はかけていない龍太郎くんも普通に遊んでいるしね。
そのことを秋子ちゃんに聞いてみます。
「うーん。
確かにはっきりとは見えなくて不便だけど、こうやって遊ぶ分には平気なんだよ」
だそうです。
めがねといえば、つばめくんもかけていたなあ。
魔法使いは目も悪くならないから、みんなとは違う理由でかけているんだけどね。
つばめくん、変わらず元気かなあ?
去年会った時の元気な笑顔が浮かんできます。
そう来週久しぶりに魔法の森で会える、お友達のことも思い出しました。




22-海でできる、いろいろな遊び

海で遊ぶのは楽しいんだけど、長い間入っていると寒くなってきちゃいます。
だから今度は砂浜で遊ぶことにしました。
そう決めたら、1度髪の毛も直しておきます。
簡単に水道のお水で洗って、結い直します。
わたしは結わなくても平気な肩までの長さだけど、やっぱり結っておきたいんだよね。
幼稚園の時から、この髪型にはこだわりがあるんです。
そしてまずは、麻緒ちゃんと砂でお山を作ることにしました。
ある程度の大きさの山ができると、トンネルも掘ります。
そのトンネルは水をかぶると、すぐに埋まっちゃうんだけどね。
でもそれもまたおもしろいです。
そうやってわたし達は、ちょっとでは崩れないような丈夫なトンネル付きのお山を作りました。
「できたあ」
完成するとわたしはバンザイをして、麻緒ちゃんは拍手をします。
2人で満足して、それから周りを見回しました。
そうしたら港くんと修くんが、2人で一生懸命何かを作っていました。
気になって、麻緒ちゃんと2人で見に行ってみます。
するとそれは、お城の形にしているようでした。
今は、完成の半分以上はできているというところかな。
なかなか細かく作っていて、途中でも立派に見えるよ。
わたし達は手で作っていたけど、港くん達はお砂場セットをちゃんと準備してきていました。
そのわたし達のとのあまりの違いに、2人で感心します。
「港くん達の、すごいね。
どれくらい前から作っていたの?」
そう聞くと、2人とも楽しそうな顔をあげてくれました。
「ありがとう。
ぼく達は、みかんちゃん達の30分前くらいからかな」
プラスチックのスコップで形を整えながら、修くんが答えてくれます。
「せっかくだから、うんと立派なのを作るんだ。
これから海に来る人にも見てもらいたいなと思って、がんばってるんだよ」
そういう修くんに続いて、港くんも張り切ります。
「うん、できるだけ長い間残るように、丈夫なのを作らなくちゃね」
そう2人で顔を見合わせて、楽しそうです。息がぴったりみたいだね。
そんな2人の話を聞いて、わたしもわくわくします。
わたし達が帰っても、その砂のお城を見る人がいるっていいよね。
きっとその人達もみんな、わたし達みたいに感心するよ。
せっかく港くんと修くんが作ったお城に残っていてほしいなって、わたしも思いました。
でもこういう時に必要な状態魔法を、まだわたしは使えません。
状態維持の魔法をかけられれば、魔法が切れるまでは、そのお城をそのまま残しておけるんだよ。
あれならぴったりなんだけど、わたしが使えるのは夢魔法だけ。
こういう時に役に立たないようです。残念だなあ。
でもあきらめずに、普通に記念として残しておく方法を思いつきました。
「じゃあ完成したら、先生達に写真を撮ってもらおうよ。
そうしたらいつでも見られるし、みんなもきっとその写真をほしいよ」
先生達がこの宿泊会の写真を撮っているのを思い出して、わたしはそう提案しました。
その写真は後で貼り出されて、ほしいのを注文できるんだよね。
港くん達のお城の写真があったら、もちろんわたしも買うよ。
この言葉に、2人は元気にうなずきました。
「そうだね。完成したら、先生達に撮ってもらうよ」
それから麻緒ちゃんが、周りを見渡していいます。
「ここならわたし達のところと違って波もかぶらないし、長持ちしそうだね」
そういう通り、わたし達は波打ち際のすぐ側に作っていました。
だから高い波が来たりすると、崩れていっちゃうと思います。
でも港くん達は結構離れた場所に作っているので、そういう心配はなさそうです。
「うん。だからここに作ったんだ。
水を運ぶのは大変だけどね」
修くん達はそう笑顔でいいました。
港くんのすぐ近くに、水の入ったバケツが置いてあります。
その水をスコップで汲んで、使っているみたいだね。
とっても繊細な作業のようです。
でも港くんも修くんも、それは大変よりも楽しいみたい。
「じゃあ、がんばってね」
わたしと麻緒ちゃんは、そう港くん達に手を振りました。

それから貝殻拾いもしました。
海にしかない物だから、お母さん達への立派なおみやげにもなるよね。
この宿泊会のお話をテトリちゃんにした時に、貝殻を持って帰るねって約束もしていたんです。
だから張り切ってかわいいのを探さなくっちゃ。
「わたしもまぜてー」
彩ちゃんも来て、3人で一緒に拾います。
貝殻って1言でいっても、大きさも形もいろいろあるよね。
それはいろんな種類の貝がいるからなんだけど。
その砂浜によって違ったりもするので、どんなのがあるか探してみるのは楽しいです。
ここでは白くてまあるいのや、紫色で細長いのをよく見かけます。
貝殻だけじゃなくって、つるつるしている石もあったから、それも拾ったよ。
これは何なのかな?
わからないけど、きれいなので拾っていきました。
そうしてわりとすぐに、貝殻で両手がいっぱいになりました。
わたし達はそんな状態にご機嫌です。
「きれいなのがいっぱいあったねー」
麻緒ちゃんがそうにこにこ顔でいうと、彩ちゃんが答えます。
「もうこれくらいあれば充分だよね」
わたしも張り切って、うなずきます。
「この集めた貝殻を誰かに見てほしいなあ。
でもみんなはそれぞれ忙しいし…。
そうだ!先生達に見てもらおうよ」
そうビーチパラソルの下に座っている先生達のことを思い出しました。
麻緒ちゃんと彩ちゃんもうなずきます。
わたし達は貝殻を落とさないように気を付けながら、先生達のところに行きました。
すると千夏先生はそのままいたけど、今は和幸先生の代わりに友子先生がいました。
「先生―!こんな貝殻が落ちてましたー」
そうわたし達は元気にいいます。
すると先生達も笑顔になって応えてくれました。
「わあお。ずいぶん拾ったねー。
それ、入れるもの持って来てるの?」
千夏先生の言葉に、わたし達は3人とも首を振りました。
そういえば、うっかりして持ってきていませんでした。
旅館に置いてあるバックの中には、ぴったりのがあります。
こうやって拾うつもりでいたからね。
でも海を見たら泳ぐことで頭がいっぱいになっちゃって、持ってくるのを忘れていました。
こうやって両手で持っていくか、旅館まで取りに戻るしかないかな。
ちょっと大変だけど、そうするしかないもんね。
そう考えて困っていると、千夏先生が元気に笑っていいました。
「心配ないよ。
こんなこともあろうかと、先生達は準備がいいんだよね」
そう千夏先生は少しの間、後ろを振り返ります。
後ろに置いてある先生の荷物から、何かを探しているようです。
そして、じゃーんと取り出しました。
「ちょうどいい袋を持ってきているから、これに入れておきなよ。はい」
そう3人分の袋を渡してくれます。
「わあ。ありがとうございます」
わたし達は安心して、袋を受け取りました。
それから友子先生が、わたし達の持っている貝殻を見ていいました。
「本当にいろんな種類のが落ちているのねえ。
これなんかみかんちゃんの名前と同じ、みかん色の石ね」
そうおもしろそうに、その石を指差します。
そんな友子先生を見て、わたしは提案しました。
「じゃあ友子先生にも千夏先生にも、この中から1つずつプレゼントします」
貝殻はたくさんあるし、袋をもらったお礼もあるしね。
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて…」
そう2人の先生は、わたしの手の中の貝殻をよくよく見始めました。
「どれがいいかしらねえ」
そうして友子先生はみかん色の石を、千夏先生は細長い貝殻を選びました。
「ありがとう。いい記念になったよー」
そう口の周りを手で囲っていう先生達に、大きく手を振ります。
そうして貝殻を袋に入れたわたし達は、また元気に砂浜を駆け出しました。

それからわたしは、また海に入ることにしました。
貝殻は麻緒ちゃんに預かってもらってね。
今度はわたしならではの遊び方です。
最初はペンダントをブレスレットに変えます。
「ミラクル・キーピング」
このブレスレットは、周りがどんな状況でも普通に感じられるように、わたしを守ってくれます。
1番使う時は少ないんだけど、とってもありがたいアイテムです。
これを付けていれば、海の中でも普通に息ができます。
だから海の中を見ながら、好きなだけ泳いでいられるんだよ。
魔法が効いていて安全とはいっても、深いところには行っちゃいけないきまりがあります。
だから場所は限られるんだけどね。
それでも思いっきり泳ぐのは気持ちがよかったよ。
うきわを付けて泳ぐのも大好きだけど、自分で泳ぐのはまた違った気分の良さだよね。
そんなわたしを見て、優香里ちゃんがいいました。
「みかんちゃん、うらやましいなあ。
あ!そうだ。苦しくならない今こそ、ちょっと難しい泳ぎ方を教えてあげるよ。
平泳ぎとか背泳ぎとか。
ちょっとやってみない?」
そう提案してもらって、わたしもいいアイディアだと思いました。
そうだね。こうやってずっとクロールをしているよりも楽しそうです。
海だから波はあるけど、このブレスレットで安全は保障されています。
いつもより恐いって思わないで、チャレンジできそうだよね。
そう思ってお願いすることにしました。
そうしたら優香里ちゃんは、本当に運動が得意なだけの上手さです。
わたしにとっては難しくって、ちゃんとその通りにはできませんでした。
でも優香里ちゃんの真似をしてやってみるのは楽しかったよ。
もっと大きくなったら、そういう泳ぎ方もできるようになりたいです。

潜って、海の生き物のお話も聞いてみることにしました。
めったに来られないところに、せっかくいるんだもん。
いろんな物と知り合っておきたいよね。
いつもならカチューシャにして、お話をしていくところです。
でもブレスレットにしておかないと、水の中では息が続きません。
だからここでは聞くだけになってしまいました。
ちょっとずつ潜って、耳を澄ませて聴いてみます。
今度はカチューシャにしてみます。
するとわたしが気付いていなかったところからも、たくさんの声が聞こえてきました。
みんな隠れるのが上手なんだね。
いろんな生き物がいるんだなって、とってもおもしろかったです。
これはあんまり長い時間はやれなかったけど、聴いてみてよかったよ。
将来立派な魔法使いになった時に、海の中でもたくさんお話したいなあ。
そんな夢も強くしました。
海の中っていう、わたしが知らない世界に住んでいるみんなだもんね。
そのためには、いろんな魔法を1度に使えないといけません。
たくさん生きると、そういうことも簡単にできるようになります。
その時が楽しみだなあ。
そのためにはまず、これからの魔法のお勉強をがんばらなくちゃね。

そう満足して、みんなのいる浜辺に戻ります。
すると大体のみんなは、もう集まってきていました。
もうすぐ遊び時間も終わりだからです。
みんなで本当にたくさんの海の遊びができて、わたしは幸せ気分です。
そんな時、少し離れたところにいた健治くんの言葉に注意を引かれました。
「ほら、見ろよ。
ちっちゃなカニがいたぜ」
そんな声に振り返ると、健治くんがカニさんを持っていました。
言葉の通りに、お店で見かけるのよりもずっと小さくて、緑色をしています。
『きゃー。離せー』
カチューシャをしたままだったので、そんなカニさんの声が聞こえます。
隣にいた温広くんが、そのカニさんを見ていいました。
「うーん。これは小さすぎて、食べられる大きさじゃないなー。
おれ、カニって大好物なんだけど…」
食べる!?
その言葉を聞いて、わたしは急いで健治くん達のところへ走っていきました。
そういうことに、わたしは敏感なんです。
そして大きな声で、早口でいいます。
「だめだめだめ。
絶対に、そのカニさんを食べちゃ嫌だよ」
そう本気になって大騒ぎします。
「え!?」
そんなわたしに、健治くん達は本当にびっくりした顔をしました。
そして慌てていいます。
「いや、本気で食べようなんて思ってないから」
そう手を振る健治くんに、温広くんも続きます。
「そうそう、それに食べられないっていったんだぜ。
今すぐ放すよな」
その通りにカニさんはすぐに放されました。
カニさんはさささささと岩陰に隠れます。
『ああ。びっくりした』
カニさんは、そうため息をついているようです。
わたしもほっとしました。
あ、ちょっと瞳もうるうるしていたみたいです。
瞳のはしっこに小さくあった涙を、こっそりぬぐいます。
さすがにあれくらいで泣いちゃったなんて、みんなに知られちゃいけないもんね。
心配されちゃうし、健治くん達にも悪いです。
ちょっと大げさだったよねえと、自分にため息をつきます。
でもわたしは動物の言葉がわかるだけに、お友達にそういうことをされたくなかったんです。
みんなにとって生き物も食べるっていうのは、当たり前のことです。
そういうふうになっているんだから、それは仕方ないのかなあっても思います。
でも今生きているのまで、自分からは食べてほしくないです。
いじめたりもしないでほしいし。
わたしにとっては、他の生き物もお友達だもんね。
そういっても給食の時間とかは、わたしもみんなと同じように食べたりもしています。
給食は残さないってお約束だし、食べてみるとおいしいなあっても思うし。
わたしはどうしたらいいのか難しい問題だね、うん。
そうまじめに考えていると、ちょうど時間になりました。
先生達が大きな声で、わたし達に呼びかけます。
「はーい、みんな。時間ですよー」
千夏先生に続いて、和幸先生もいいます。
「体をよく洗ってきてくださーい」
そんな先生達の言葉で、海で遊ぶ時間はおしまいになりました。
最後にちょっと考えることもあったけど、とっても楽しかったです。
そうそうさっきの港くん達のお城はね、立派に完成していたよ。
平らな砂浜の中にちょっと高さがあるから、遠くから見ても目立ちます。
後片付けをしている時に、そのことを聞いてみました。
2人とも、さっき以上にすがすがしい顔をして答えてくれたよ。
結構時間ぎりぎりまでがんばって、やっとできたそうです。
友子先生に、写真もちゃんと撮ってもらったって。
その場にいなかっただけに、どんな写真になっているのか楽しみだね。


23-夜の林へお散歩に行こう☆


海での時間が終わったら、お部屋で荷物などを整えます。
そうしたらすぐにお夕飯の時間です。
宿泊施設「もみじの家」の1階には、大きなダイニングがあります。
そこで5年生4クラスのみんなで食べるんだよ。
それでもまだ席が余っているくらいの広さです。
いろんな学校がお泊りにくるところだから、それを考えてのことなんだって。
タルトちゃんの小学校も、ここに来てるっていっていました。
タルトちゃんは1つ上の6年生だから、去年来たそうです。
来週魔法の森で会ったら、そのお話もする約束をしています。
来る前にちょっとお話は聞いてきたけど、実際来てからだと違うもんね。
この夕食の席はクラスごとには分けられているけど、後は自由です。
今回はバイキングなので、普通は見られないくらいのたくさんのお料理が並んでいます。
和食や中華もあるけど、1番多いのは洋食だね。
デザートもあって、本当にどれもおいしそうです。
気持ちではいろいろ食べてみたいです。
でも本当はたくさん食べられないので、どれにしようかちゃんと考えないとね。
みんなでわいわい選びながら、楽しく食べました。
そしてみんながおなかいっぱいに食べ終わった頃には、7時半を過ぎていました。
6時から始まったから、結構長くいたんだね。
お話をしながら食べていたら、いつのまにかこんなに時間が経っていました。
みんなでごちそうさまの挨拶は、7時の時にしてあります。
そこからは食べ終わった人から、自由に帰っていいことになっていました。
だから他のクラスは、もう半分くらい席が空いています。
でもわたし達のクラスはまだみんな揃っていて、そろそろ帰り始めようというところです。
今日この後は、1時間後に班長さん達の会議があるくらいで、もう予定はありません。
移動もあったし、みんな力いっぱい泳いだ後だからね。
疲れただろうから、今日はゆっくり休んで、明日に備えようということだそうです。
後はみんなで入れる大きなお風呂に入って、お休みします。
そういうこともみんなでって、いつもはできないことだから楽しみです。
そうしてみんながそれぞれのお部屋に戻ろうとし始めた時です。
うきうき気分でいるみんなに、健治くんがさらにおもしろい提案をしました。
立ち上がって、クラスのみんなを見回していいます。
「こうやってみんなが揃ってる夜なんて、普通ないよな。
今夏だし、せっかくの機会だから、肝試しやろうぜ」
その言葉に、帰ろうとしていた子も止まって振り返ります。
肝試しかあ。確かに夏の定番の遊びだね。
わたしはうんうんとうなずきます。
そうはいっても、今までにやったことはないんだけどね。
だからどんなことをやるのかな?って、興味津々です。
この突然の提案に、みんなからはいろんな意見が出ました。
「おもしろそうだな、それ」
健治くんとよく意見の合う温広くんが、最初に張り切ります。
「うわあ。肝試しって、ちょっと憧れてたんだー」
優香里ちゃんや、修くんも笑顔になっていいます。
そう一緒にわくわくし始める子がたくさんいました。
「だろ?」
健治くんは、そんな返事にうれしそうです。
そして港くんのように反対する子もいます。
「えー。やりたくないよー」
「わざわざ怖い思いなんてしたくなーい」
麻緒ちゃんもその言葉通りのおびえた顔でいいます。
そうやりたくないという子達に、健治くんは明るくいいました。
人差し指を1本立てて、得意そうな笑顔でね。
「海まで行った、林の一本道を歩いてみようっていってるだけだよ。
それも1人ずつじゃなくて2人でさ。
だったらそんなに心細くないだろ?
おどかし役も作らないし、思い出にみんなでやろうぜ」
それって肝試しっていうより、夜の林のお散歩会だね。
そう説明してもらって、わたしの中でもずっと素敵なイメージになりました。
「それくらいだったらいいけど…」
健治くんの説明に、大体の子はうなずきました。
「でもなあ…」
それでもとっても困った顔をしている子も、何人か残っています。
こういうのって、苦手な子は本当に苦手だもんね。
わたしはね、そういうのっておもしろそうって、張り切っちゃう方です。
魔法使いは怖いものなしだもん。
それにみんなで一緒に何かをやるって、楽しいしね。
こういうことができるチャンスなんて、本当にめったにありません。
だからさらにやってみたい気持ちになります。
そしてその計画に協力することをいいました。
「じゃあ、暗い道を歩いて転んだりしたら大変だから、わたしがらんたんを出すね」
らんたんがあれば安全だし、ちょっとおしゃれなので、これに決めました。
他には提燈や懐中電灯なんて案もあったんだけど。どうかな?
そんなわたしの言葉に、健治くんはうれしそうにうなずきます。
「そうだな。頼むぜ」
それからみんなを見回して宣言しました。
「じゃあ決まり!
みんなで外に出ようぜ」
そうしてわたし達5年3組のみんなで、外に向かったのでした。

お星様がたくさん瞬いていて、とってもきれいな夜空です。
そんな空を見上げていると、このお散歩会が素敵になりそうな予感がしてきました。
「先生の許可は取ってきた」
そう温広くんが戻ってきて、外で待っていたわたし達にいいました。
みんなで、元々の予定にないことをするわけだもんね。
夜の外だし、やってもいいか許可をもらってこないとねって話になったのです。
代表で温広くんが聞きにいってくれたのでした。
「でもあんまり時間をかけないようにっていわれた」
そう温広くんが注意をいうと、健治くんはうなずきました。
「わかった。サンキュー」
そうお礼をいうと、健治くんは温広くんからみんなに向き直りました。
そして早速さっきの話の続きを始めます。
「みかんが出してくれたらんたんもあるし、1本道だから迷う心配もないし、安全だよな」
健治くんがいう通り、もうらんたんを組数分出してあります。
2人で行くっていっていたから、クラスの人数の半分を出しました。
その組について、すぐに説明されます。
「それで2人のペアだけど、やっぱり男女で組んだ方がいいと思うんだよな。
で、その組を今から決めると時間がかかるから、わかりやすく席順で行こうぜ。
ほら、今回の宿泊会は部屋も席で分けられているし、これもその一環ってことでさ」
なるほど。本当にそれならわかりやすいし、今回の宿泊会にぴったりだね。
そうわたし達は納得してうなずきます。
「じゃあ、わたし達はどうするの?」
女の子同士でお隣のももちゃん達がそう聞きます。
すると男の子同士で座っている健治くんなので、すぐに答えが返りました。
「それはオレか光が順番を交代するよ」
だったらちょうどいいね。
これでみんな男の子と女の子で組めることになりました。
みんなが納得すると、説明の続きに戻ります。
「そしてさっき遊んだ海がゴール。
確かあそこまで歩いても、15分くらいだったよな。
往復しても30分くらいになる」
うん、それ位がちょうどいい時間だよね。
海へ行く時は待ちきれなくて、みんな走っていきました。
だからもっと早かったけれど、帰りはそんなくらいでした。
それから健治くんは、最後に素敵なルールをいってくれました。
「着いたことの証拠は、砂浜に名前を書いてこようぜ。
1組目から順番に、横1列にさ。
そうすれば、オレ達クラス全員の名前がきれいに並ぶわけだ」
うわあ、それっていいなあ。
すごくいい思い出にもなりそうだよ。
わたしはその様子を想像して、うれしくなりました。
みんなもそのことについてコメントします。
「その後、それを見た人はどう思うんだろうな」
正くんのつぶやきに、彩ちゃんが答えます。
「意味はわからないけど、仲のいいクラスだって思うんじゃない?」
その話に、龍太郎くんが冷静に考えて付け加えます。
「みんな字の形が違うから、それぞれ書いたのはすぐにわかるわけだしな」
そううなずいています。
みんなその証拠に乗り気なようです。
よーし、そのためにはみんなでゴールしなくっちゃね。
健治くんの説明が終わると、わたしはそう張り切りました。
そして早速席の順番に、1組目から始めます。
らんたんの灯りが見えないくらい小さくなったら、次の組が行くんだよ。
出発する時にみんなで、がんばって!って応援します。
張り切っている子は、歩きながら振り返って、手を振ってくれたりもするよ。
そんな楽しそうな様子を見ると、行くのが待ち遠しくなるよね。
そしてわたしも順番は早いほうなので、自分のことも考えます。
席ってことは、わたしは高志くんと一緒だね。
その高志くんを探そうと見渡します。
でも姿を見つける前に、声で振り向きました。
その高志くんが、健治くんのところに来て怒り始めたからです。
「健治~~!!
おれがこういうことを苦手だって、知ってるよな?
なのに、なんでよりによって席順にするんだよ!」
そう必死にいっています。
大きな声だから、ちょっと離れたところにいるわたしにも、はっきり聞こえてきます。
これからのことをお話している子以外は、みんなわたしと同じように注目しました。
でも高志くんは、そんな周りの様子を気にしているどころじゃないみたいです。
高志くんって何か気にかかっていることがあると、いつもそうなんだよね。
そういえば高志くんは、最後まで困った顔をしていた1人でした。
「夜の林の中に30分もいなきゃならないなんて、おれにはとてもできない!」
そう強くいう高志くん。
それに対して健治くんは、両手を顔の前に出しながらも笑顔です。
「まあまあ高志、そんなに緊張しなくたって大丈夫だって。
案ずるよりうむが易しっていうだろ?」
そんな健治くんの明るい態度に、高志くんは言葉に力を入れて返します。
「緊張……って、何か勘違いしてるだろ?
本当にそういう問題じゃないんだよ。
だからみかんとは1番行きたくないのに…」
そう最後は小声でいって、うつむきました。
でも注意して聞いていたわたしには、はっきりと聞こえました。
みかんとは行きたくない!?
その言葉に、わたしはショックを受けます。
高志くんはいっつも正直なだけにね。
え!?なんでわたしだとだめなの?
そうわたしが否定されたことに悲しくなります。
でもすぐに首を振って考え直しました。
ううん。いつも優しい高志くんのいうことだもんね。
きっと何か理由があるはずです。
わたしだからこそっていうと……。
魔法使い!?
そうすぐに辿りついて、わたしは1つ思いつきました。
ああ、だからかあ。だったら、そうだよね。
そう自分で納得して、それを一生懸命高志くんにいいます。
「大丈夫だよ、高志くん。
もしお化けが出ても、今日はわたし、お友達になったりしないよ」
高志くんは、お化けが本当に苦手なんです。
本物だけじゃなくって、お話を聞いたり、絵も見るのもだめなくらいにね。
だから今、肝試しをしたくないって一生懸命いっているんだよ。
そのことから、わたしは考えつきました。
魔法使いのわたしは、何でもお友達にします。
だからもしお化けが出た時に、そうやってまたわたしがお友達になったりしたら怖いなって思ったんだよね、きっと。
実際場合によっては、そうすることもあります。
だって仲良くなれるなら、なった方が楽しいからね。
でもね、そんな新しい出会いもいいけど、今のお友達のほうがもっと大事です。
だからそのお友達が嫌なら、今日は絶対にそういうことはしません。
そう両手で握りこぶしを作って、わたしは心の中で誓います。
そんな突然のわたしの言葉に、2人とも振り返りました。
そしてそう心を決めたわたしに、びっくりした顔をしています。
まず高志くんは、いきなりわたしに声をかけられたことに驚いたようでした。
「え!?何?
もしかしてみかん、今の話聞こえてたのか?」
そうあたふたして聞きました。
わたしはしっかりうなずきます。
うん。全部聞いてたもんね。
すると高志くんは、ますます大慌てになりました。
「ああ、ごめん。
今のはそういうことでもなくって……。
行きたくないっていったのは、みかん自身が嫌なわけじゃあ…」
そうそこまでいってから、困っています。
???何だろ?
はっきり教えてくれないので、本当はどういうことなのかはわかりません。
でもわたしと一緒なのが嫌なわけじゃないっていうことに、安心しました。
そして健治くんは、さっきのわたしの言葉について聞きました。
「なんでここで、お化けと友達って出て来るんだ?」
そんな戸惑った様子を見て、わたしもまたきょとんとします。
あれ?違ったかな?
不思議に思って、ちょっと考えてみます。
するとすぐに、さっきのわたしの話のおかしいところに気が付きました。
ああ、そっか。これじゃあお化けが出るっていっているようなものだよね。
お化けに会いたくないっていっている子に対して、ひどいことをいっちゃっていました。
だから健治くんに注意されたんだね。
言い方を間違えちゃったと、わたしは反省。
それから高志くんに安心してもらえるように言い直します。
「ううん、この林にお化けはいないよ。
さっき通った時も何も感じなかったし、今だってそう。
とっても平和な林の空気だよ。
さっきのは例え話ね」
本当にこの林からは、そういう気配は全然ありません。
魔法使いは使える力が少ない子でも、そういう気配などはしっかりわかるようになっています。
その感覚に全然引っかからないんだから、怖いことなんて起きたりしないよ。
そしてもう1言付き加えておきます。
「わたしがいるから、万が一何か起きたとしても大丈夫だよっていいたかったの」
そうわたしは自信を持って、力強い笑顔でいいました。
大事なお友達だもん。魔法使いのわたしが絶対に守ってみせるよ。
さっきもいったけど、魔法使いはどんな相手とだって仲良くなれるもんね。
それから頼めばバッチリだよ。
それがだめだったどうしてもの時には、魔法があります。
わたしは1種類の魔法しか使えないけど、それでも自分の力を信用しています。
3年も練習していると、思った魔法が出ないってことはもうありません。
それに種類に合うように考えれば、結構いろいろできるもんね。
だから安心だよ。大丈夫!
そうさっきとは違った気合いを入れ直しました。
健治くんは、そんなわたしを不思議そうな顔で見ていました。
みかんの話って、どうにもオレ達の話とかみ合ってないよなあ。
そう首をひねったけれど、すぐにうなずきます。
でもみかんが高志を心配しているのはよくわかるな。
だったら大丈夫だろ。
「そうか」
それから高志くんになだめるようにいいます。
「そうだよ、高志。
魔法使いのみかんちゃんと一緒の方が安心だぜ」
でも高志くんは、恐い顔で健治くんを見ます。
「あのなあ…!」
そう話している間に、いつのまにか健治くん達の順番まで進んでいました。
それでこの話は、おしまいになります。
「健治、どっちが先に行く?」
そう光くんに聞かれた健治くんは、迷わずに答えます。
「ああ、じゃあ光達が先でいいよな。
オレは高志達の後から行くからさ」
つまり光くんと健治くんの順番の時に、光くんと桜ちゃんが行きます。
そしてももちゃんと桜ちゃんの順番の時に、健治くんとももちゃんが行くことになりました。
そうしてうなずいていった光くん達で、席の1列目はおしまいです。
その次はわたし達の列の麻緒ちゃんと港くん。
だけど2人とも、とっても怖がっているようです。
思い出してみれば、話が出たときに真っ先に反対していたもんね。
大丈夫かな?
麻緒ちゃん達も心配だけど、わたしは一緒に行く高志くんの方も気になります。
高志くんはさっきいっていた通り、このお散歩を嫌なのがはっきりしているもんね。
それにさっきの様子だと、機嫌も悪いのかなあ?
いつもなら、さっきみたいに励ませば機嫌を直してくれていました。
でも今回はそれでもだめなくらい、嫌みたいだね。
それでも行こうなんて、いっちゃいけないのかもしれません。
でもわたしも、やっぱりみんなでやりたいなあ。
だから本当に高志くんが怖い思いをしないように、わたし考えるよ。
そんな気持ちを込めていいました。
「楽しく行こうね、高志くん」
高志くんはうつむいたままで、何もお返事はありませんでした。
でもわたしは気にしません。
お散歩の最中に元気になってもらえれば、それでいいもんね。
わたしが困った時には、高志くんからよく励ましてもらっています。
そのお礼も兼ねて、みかんは張り切るよ。
夜は夜でおもしろいことだってあります。
わたしが一生懸命心を込めれば、きっとできるよ。
そう前向きな気持ちで考えます。
みんなでゴールできますように。
そしてみんなにとって、このお散歩がいいものになりますように。
そうお祈りもしておきます。
そしてとうとうわたし達の順番がやってきました。
高志くんがらんたんを持ちます。
わたし達もみんなに続いて、ゆっくりと林の中に入っていきました。

健治くんは苦笑いしながら、そんなわたし達を見送っていました。
「まったく高志ったら照れちゃって…。
大体、高志のために席順にしたのにさあ」
その後ろで、残っていたみんながうなずきます。
「やっぱりそうだったんだ」
桜ちゃんのつぶやきに、秋子ちゃんがうなずきます。
「健治くんのやることもわかりやすいよね」
そして龍太郎くんが付け加えます。
「だから高志も、仕組まれたことがすぐにわかったんだよ」
そして高志くんの気持ちをわかっていた美穂ちゃんが、健治くんに説明しました。
「健治くん、高志くんは本当に嫌だったんだと思うよ。
いくら高志くんが怖がりだって、みんなが知っているとはいってもね。
実際そういう姿を見られたくなかったんじゃないのかなあ。
1番弱いところを、大好きなみかんちゃんにはね」
そういわれて、やっと健治くんはわかったようでした。
「ああ、そうか」
そうはっとした顔をします。
でもすぐにさっきの表情に戻りました。
「でも魔法使いが付いてるんだし、なんとかなるだろ」
そう適当にいった健治くんに、みんなはつっこみます。
「その魔法使いに頼りたくないんだってば」
美穂ちゃんに続いて、龍太郎くんもため息をつきました。
「無責任だなあ。全く」
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