5年生7月編

21-みんなが大好きな海

「わー。海のにおーい」
バスから降りると、わたしはそう両手を広げました。
そしてにおいだけじゃなくって、本当に向こうに見える海に心がはずみます。
耳を澄ますと、波の音も聴こえてくるようだよ。
久しぶりなので、もう早く海に走り出したい気分です。
夏休みに入って1週間ほど経った今日は、7月28日。
学校行事の宿泊会で、わたし達5年生は海に来たんです。
わたし達の雪笠市には海がないので、ここまで来るのに午前中いっぱいはかかりました。
そのバスに乗っている間も、これからのことをみんなでお話しながらわくわくしていたよ。
そしてやっと目的地に着いたんです。
お天気はもくもくと入道雲が出ていて、お陽さまの光が強い本当に濃い青い空をしています。
夏だけの、とってもきれいな景色だよね。
海に来られたとっておきの日が、こうお天気がよくってよかったです。
わたしだけじゃなくって、クラスのみんなもとってもうれしそうだよ。
これからはまず、目の前にあるお泊りをする施設に荷物を置きます。
それから先生のお話を聞きます。
この宿泊会の出発式は、もう学校でやってきました。
だからそのお話は、海で遊ぶ時の注意などの短いものだそうです。
それが終わったらすぐに、海に行っていいことになっているんだよ。
お泊りする部屋割りは、今回は席順で決められています。
1つのお部屋に8人です。
お勉強している時に近くにいる人のことをよく知っておいた方が、これからの学校生活がもっと楽しくなるからということで決められたそうです。
席が近いと、給食当番やお掃除当番など、いつも一緒だもんね。
よく一緒にいる分、いろいろとわかっているつもりだけど、この宿泊会で新しい発見もあるのかな?
わたしは、健治くん、光くん、麻緒ちゃん、港くん、高志くん、ももちゃん、桜ちゃんと一緒です。
お部屋に行ってみると、2段ベットが4つありました。
2段ベットに憧れを持っていたわたしは、そこでもわくわくします。
でもそれは後で、今はやっぱり海だよね。
荷物を置いて、急いで必要な物だけを持ちます。
そうしてみんなで元気に飛び出しました。

海もまぶしいお陽さまの光を浴びて、真っ青です。
先生のお話が終わると、わたし達は一斉に海に向かって駆け出しました。
水着を中に着てきた子が多くって、着替えはみんなすぐに終わります。
わたしのは大好きな黄色の水着です。
水着でも、もちろんペンダントはかけてね。
それからひまわりの絵の入った、オレンジ色のうきわも持ってきています。
それをしっかり空気詰めでふくらませてと。
じゃーん!これで用意完了だね。
うきわを持って、わたしはにっこり顔です。
わたしのようにうきわやビーチボールにお砂場セットなど、みんなそれぞれ遊ぶ物を持ってきているよ。
準備ができた子から、海に向かって砂浜の上を走り始めます。
「この砂浜がまた、海に来たって気分になるよね」
美穂ちゃんの言葉に、みんなでうなずきます。
そうだよね。この砂浜も海にしかないさらさらさだよね。
晴れている日は、こうやって走らないと熱いけど。
お陽さまの光だけで、立っていられないほど熱くなるってすごいです。
やっぱり夏は、お陽さまが元気なんだね。
足の裏から感じる熱さで、そう実感しました。
こういうのがあると、ますます早く海に入りたくなります。
でもみんなが海に入る前に、龍太郎くんが止めました。
「ちょっと待った!
海に入る前には準備体操をしておかないと。
海はプールの時よりも、もっと気をつけないとな」
そう注意されてはっとします。
そうだね。うれしさのあまり、ついついさぼっちゃうところだったよ。
でも勢いをくじかれたみんなは、ちょっと不満げです。
「体操って、やっぱりかけ声がないとやりづらいよなあ」
その温広くんの言葉に、わたしは思いつきました。
「じゃあ、毎朝やってるラジオ体操ならいいよね」
夏休み定番のラジオ体操なら、みんな慣れているから、簡単にできるしね。
そういって早速魔法を使います。
「ミラクル・ドリーミング!
ラジオをお願いしまーす」
すると願った通りに、小さなラジオが出てきました。
そしてラジオ体操の音楽が流れてきます。
わたしは砂を平らにならしてから、ラジオをそっと置きました。
砂が入って壊れたりしたら困るもんね。
魔法で出した物とはいっても、大切にしなくちゃいけないんです。
消すときにまたすぐに使うから、ステッキも近くに置いておきます。
「じゃあ暑いから、足だけ濡らしてからやろっか」
そうわたしは提案しました。
足の裏が暑すぎて、このまま体操を続けるのは大変だもんね。
みんなうなずいて、足首まで海に入ってみます。
「わー。気持ちいーい」
それだけでも海に来たのが実感できて、大喜びする子が多いです。
波がひいていく時の感じとか、本当にたまらないよね。
ますますわくわくして、早く海で思いっきり遊びたくなったよ。
そのためにも、まずは体操です。
急いで戻って、みんなでまじめにやりました。
体操をやっている間にまた暑くなったのも我慢して、がんばりました。
その後にプールの前にやる足首回しなどもやったし、これで大丈夫です。
今度こそ、心置きなく遊べるね。
体操が終わると、またみんなでわーっと海に駆け出しました。
わたしもラジオをちゃんと片付けて、ペンダントに戻してから続きます。
早速うきわを付けて、波に揺られて遊び始めました。
去年優香里ちゃんに教えてもらったおかげで、わたしは25m泳げます。
でも海は波があるから特に、うきわで遊ぶのが大好きなんです。
ぷかぷか浮かびながら流されるのって、おもしろいよね。
立って足の付け根くらいまでの深さで遊ぶのが安全です。
最初はちょうどその場所まで行きます。
泳ぎが得意な子や背が大きい子は、わたしよりももうちょっと奥の方で遊んでいるよ。
わたしのいるところは、時々ザッバーンと高い波がきます。
すると水を頭からかぶった上に、岸まで戻されたりもします。
でもそれも楽しいです。
「みかんちゃん、大分頭がぐちゃぐちゃになってるけど、大丈夫?」
しょっちゅう流され続けていたわたしは、そうももちゃんにいわれました。
「えっ?そんなにひどいかなあ?」
確認すると、桜ちゃんもうなずきます。
「うん。後できれいにすればいいんだろうけどね」
今は鏡を持っていないので、どのくらいひどいのかは自分ではわかりません。
頭をさわってみると、確かに結び目が大分ゆるんでいました。
砂で頭がじゃりじゃりもいっているし……。
いつもならありえないぐちゃぐちゃさです。
うーん、でもまあ、楽しいから今はいいかな。
今直しても、また波をかぶったらそうなっちゃうもんね。
そうわたしは、今は気にしないことにしました。

そしてまたかぶっちゃったわたしは、タオルで顔をふきます。
すると波打ち際で遊んでいた正くんは、めがねをふいていました。
「潮風でめがねが真っ白になるなあ」
そういっている通り、正くんがふいていない方は真っ白になっています。
海の風って、名前の通り本当に塩が混じっているんだあ。
だからちょっとしょっぱいんだね。
それを見て、わたしはよくわかりました。
そんな正くんの様子に気付いて、いつもは同じくめがねをかけている秋子ちゃんがいいました。
つまり今はかけていないんです。
「かけてない方がいいよ。
わたしは先生に預かってもらってるんだ」
そう秋子ちゃんが振り返る先には、当番の先生がいました。
ビーチパラソルの下にレジャーシートを広げて、2人でわたし達を見ています。
今は2組の千夏先生と、4組の和幸先生が座っているよ。
「じゃあ、そうしよう」
正くんはそう先生のところに預けに行きました。
めがねをかけている人って、かけていなくても大丈夫なのかな?って不思議です。
でもプールの時もちゃんと泳いでいるし、平気なのかな?
今はかけていない龍太郎くんも普通に遊んでいるしね。
そのことを秋子ちゃんに聞いてみます。
「うーん。
確かにはっきりとは見えなくて不便だけど、こうやって遊ぶ分には平気なんだよ」
だそうです。
めがねといえば、つばめくんもかけていたなあ。
魔法使いは目も悪くならないから、みんなとは違う理由でかけているんだけどね。
つばめくん、変わらず元気かなあ?
去年会った時の元気な笑顔が浮かんできます。
そう来週久しぶりに魔法の森で会える、お友達のことも思い出しました。
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