5年生7月編

19─とっても暑い夏の日

7月になりました。
…とはいっても、今日はもう真ん中の15日です。
夏休みが近いので、みんなうきうきしています。
1週間前だもんね。
夏休みに出掛ける予定とかをみんなとお話して、とっても楽しいよ。
わたしの1番大きな予定は、8月になったら魔法の森に1週間行くことです。
魔法の薬や魔法陣など、わたし達のとは違った魔法の使い方を、今年から教えてもらえます。
1週間でしっかり覚えないといけないから、がんばらなくちゃ。
つばめくんや、タルトちゃんや、たくさんの魔法使いのお友達にも会えるので、とっても楽しみです。
そうやって魔法使いみんなが集まる時って、そんなにないもんね。
みんな元気にしてたかな?
あとお母さんのお友達の健太お兄ちゃんも、毎年夏休みの終わり頃に、家に来てくれます。
健太お兄ちゃんと一緒だと、お母さんが大分元気に変わるからおもしろいです。
健太お兄ちゃんがいうには、それがお母さんの本当の姿らしいです。
わたしのためにいいお母さんのふりをしてくれているんだって。
わたしは、いつものお母さんの優しいところも、本当じゃないかなと思います。
でなきゃ、とても毎日続けられないもんね。
そうおもしろいことをいう健太お兄ちゃんも、わたしは大好きです。
今年も会えるのが楽しみだよ。
そしてこのクラスみんなが一緒の行事もあります。
5年生は7月末に、臨海学校に行くんだよ。
海と山がお隣になっているところでね、海でも遊んで、山の方にお泊りします。
みんなでどっちにも行けるなんて、ぜいたくだよね。
そういうことも考えると、さらにみんなで気分が盛り上がります。
自由時間に何をして遊ぼうかなとか、何を持っていこうかなとか、みんなで毎日話し合っているよ。
本当に夏休みには、とっても楽しみなことがたくさんあります。
そしてわたしは、また魔法が使えるようになったので、さらに元気です。
やっぱり魔法を使えてこそ、魔法使いらしいよね。
7月になってからというもの張り切っちゃって、機会があれば使っています。
そうやってとっても元気です。

でも夏休み前ということは、その目的を考えれば当然暑いわけです。
「暑い……。もうダメだー」
温広くんがそう机に倒れこみました。
何日も前からこんな暑い日が続いていて、もうみんなまいっています。
気分だけなら元気でも、体の方はしおしおです。
暑いと、頭がぼーっとしてくるしね。
みんなは少しでも涼しくしようと、下敷きで仰いでみたり、ぬらしたハンカチで汗をふいたりしています。
それでもまだまだ足りません。
わたしもこういう暑さ、寒さについてはみんなと同じなので、汗をいっぱいかいています。
こういう時に冷たい物を食べると本当においしいから、夏も大好きです。
でもこれだけ暑いと、やっぱり辛いなあ。
ペンダントを、自分の周りの環境を保ってくれるブレスレットに変えたいくらいです。
そうしたら暑くもなくなるもんね。
でもわたしだけ楽になるのもみんなに悪くって、学校ではやっていません。
「午前中なのに、30度もあるんだもんね」
優香里ちゃんが温度計を見て、ため息をつきます。
夏はお勉強するなら午前中っていわれるよね。
11時近い今では、もう大分暑くなっています。
そしてこれからますます暑くなっていくんです。
それを考えると、みんなでため息が出ます。
「職員室はいいなあ。扇風機があるから」
こんな時なんとかするのが、魔法使いのわたしです。
柾紀くんの扇風機という言葉をきいて、わたしは提案しました。
「じゃあ扇風機出そうか?」
でも美穂ちゃんに首を振られました。
「ううん。教室に扇風機があったら、怒られちゃうよ」
そっか。扇風機が回ってる小学校って、普通ないもんね。
大学とか、もっと大人が行く学校でなら聞いたことがあるけど。
そう止められて、わたしはがっかりします。
すると修くんが違った提案をしてくれました。
「じゃあ気温を下げるとかは?
だったら見えないよね」
とってもいいアイディアです。
でも残念ながら、今度はわたしが首を振りました。
「それは状態魔法になるんだよ。
風を吹かせて涼しくするっていうのも、自然魔法だし。
わたしの使える夢魔法は、主にイメージしたものを出せるものだからなあ」
そうわたしは小さなため息をつきます。
こういう時に役に立ちそうな魔法の種類を、わたしは使えません。
そうはいってもあきらめないで、わたしはその夢魔法でなんとかできないか考えます。
イメージしたものか、イメージしにくいものは具体的にいえば出すことができるんだよね。
――だったら、涼しいところの空気を出すっていうのはどうかな?
修くん達の言葉から、わたしはそう思いつきました。
決めたら、早速魔法を使う準備をします。
「ミラクル・ドリーミング!」
そう元気に呪文を唱えます。
7月になってからずっと、こうやって魔法を使うのがすごくうれしいです。
それにこれは、なかなかいいアイディアだよね?
クーラーみたいに涼しい風を出せれば、教室の気温が下がります。
そしてその風を浴びれば、みんなも元気になるよね。
そう考えると、わたしはにっこにこ。
呪文をいう時にペンダントを放る高さが、いつもよりも上になりました。
しっかりステッキを受け止めると、みんなに聞きます。
「ねえ、涼しいところってどこかな?」
張り切って聞くと、港くんが真っ先に答えてくれました。
「涼しい…っていえば、南極かなあ?」
そうだね!絵本で見ると、氷がいっぱいだし、とっても涼しそう。
納得したわたしはうなずいて、ステッキを持った右手を高く上げました。
「それって涼しいっていうより、かなり寒いんじゃ…」
そう光くんがつぶやきます。
でもわたしは暑さのせいか、最近魔法を使う時の勢いのせいか、よく考えずにかけました。
「南極の空気をお願いしまーす!」
「ええっ!?ちょっと待って」
わたしの言葉に驚いた正くんが、慌てて止めようとしました。
でももうしっかりかけた後です。
ステッキから南極の空気が出てきました。

休み時間が終わって、教室に友子先生が入ってきました。
「本当に毎日暑いわねー。
みんなバテてない?」
そうみんなを見回して聞きます。
でもみんなは、何かいう元気はありません。
そんなみんなを見て、友子先生は不思議そうにいいました。
「あら?みんなふるえてない?
どうしたの?」
実はさっきの、南極の寒さのショックが残っているのでした。
こういう時にはよくないことに、近頃わたしの魔法はとっても切れがいいんです。
だから寒い空気がすぐに広がってしまいました。
でも夢魔法で出したから、まだ良かったです。
教室の元々の空気が残っているところに出したわけだから、瞬間的に変わったわけじゃありません。
失敗に気付いたら、すぐに止められたしね。
もし交換魔法だったら、おしまいだったかもしれません。
みんな半そでで薄着をしているんだから、凍っちゃうよ。
そういえばかき氷を食べると頭が痛くなったりするくらい、氷の冷たさって強力なんだよね。
そう、やってから思い出しました。
ペンギンさんは、あんなに寒いのによく暮らせるなあ。
窓は開いていたから、魔法を止めたら、その空気はどんどん外にいきました。
今は外の暑い空気と混じって、南極の寒い空気も周りとすっかり変わらなくなっています。
でも大体元の教室の気温に戻っても、さっきのあまりの寒さが尾を引いているのでした。
みんな黙ってふるえています。
寒さの中心にいたわけだから、わたしもとっても寒かったです。
でもそう自分のことよりも、みんなをそんな目に合わせてしまったうしろめたさでいっぱいです。
あまりの失敗になんていっていいのかわからないわたしは、『ごめんね』って謝るしかありませんでした。
毎年7月って、こういうやりすぎた魔法をしやすいんです。
魔法は強い力だから、こういうふうにみんなに迷惑をかけないようにしないといけません。
だから魔法使いは、頭がよくないといけないっていわれるんだよね。
でもみんなは怒ったりしませんでした。
『いや、みかんちゃんに頼んだのはわたし達だしね』
そう元気なくいうだけで。
でも責められないと、逆に悪い気がしちゃいます。
今も、誰も先生にいわないでくれているんだよ。
だからわたしから友子先生に説明しようと、手を挙げようとしました。
でもそんなわたしの様子に気付いた高志くんに、小さな声で止められました。
「わざわざ先生にいわなくていいから。
この気温の中にいれば、寒いのなんてすぐにおさまるからさ」
そう高志くんは、引きつった笑顔でいいました。
多分本当は、いつも励ましてくれる時の笑顔でいいたかったんだと思います。
でも寒さのあまりに、普通にはできなかったみたいです。
それにふるえているし、鳥肌も立っているし、大分寒そうです。
なのにそういってくれるなんて、無理をしてまで気を使ってくれているのがよくわかります。
高志くんは本当に優しいなあって、感動しました。
みんなも本当に大丈夫なの?
そう心配して周りを見回してみます。
するとみんなもうなずいてくれました。
だからわたしは、そんなみんなの優しさに感謝して、黙っておくことにしました。
わたし達にそんなことがあったとは、友子先生には想像もつきませんでした。
だからクラスのそんな様子にも深く気にしませんでした。
「そういえばこの教室、他と比べて涼しいわね。ちょうどいいくらい」
友子先生はにっこり笑って、ガッツポーズを取りました。
そう友子先生だけにでも喜んでもらえて、少しは良かったです。
でも、うーん。大失敗でした。
これから魔法を使う時は気を付けなくっちゃ。

次の日も、昨日と同じような暑さになりました。
お昼休みに、みんなはまたまたぐったりしています。
昨日とっても寒い思いをしたといっても、時間が経つとそれも何とやらになるもんね。
「やっぱり暑―い」
ももちゃんのその言葉をきっかけに、またみんなはわたしに頼みました。
「みかんちゃん、やっぱりお願い」
桜ちゃんがそうまじめな顔でいいます。
「そうそう、昨日は場所が悪かったんだもんね」
みゆきちゃんが取り成すようにいうと、港くんもうなずきました。
「うん、ぼくがいいかげんなことをいったから」
そうみんなに期待されると、わたしもやる気になります。
「うん、まかせて。じゃあどこがいいか、よく考えよう。
昨日は本当にごめんね」
昨日のような失敗は、もうできないもんね。
今日こそは、昨日の分もみんなのためにならなくっちゃ。
そうわたしは、心に落ち着きを持ちました。
すると、すぐに正くんが提案してくれました。
「昨日も考えていたんだけど、北海道なんてどうかな?
涼しいって聞くし、国内だし」
みんなはその言葉にうなずきます。
北海道は日本で1番北にあって、気候は亜寒帯なので涼しいと習いました。
ぴったりな場所です。
さすが正くんだね。
やっぱりとっても寒いところよりも、ここより涼しいくらいのところにしておかなくっちゃ。
その方が安心だし、今の暑さが少しでもやわらいでくれればいいんだもんね。
決まったところで早速ステッキに変えると、魔法をかけます。
「北海道の空気を出してくださーい」
すると昨日の凍りそうな空気とは違って、涼しい風が出てきました。
それに草原の匂いのするような、素敵な空気です。
今度は成功だね!
みんなもとっても喜んでいます。
その空気が教室いっぱいに広がったかな、というところで止めました。
教室中にひんやりとした空気が行き渡っています。
お陽さまの光は変わらずに、窓から入ってきています。
だからこれからまた少しずつは暑くなってくると思います。
でも帰りまでなら、そんなに汗をかくような暑さにはならないんじゃないかな。
今まで毎日暑さに困っていたわたし達には、いい息抜きになりそうです。
帰り道はまた暑いんだから、今のうちに元気になっておかなくちゃね。
「すごく気持ちいいねー」
麻緒ちゃんが、そう空気を吸い込んでいます。
「みかんちゃん、ありがとう」
「これで今日は、夏の暑さを忘れていられるよ」
彩ちゃんと龍太郎くんが、そうほっとした顔でいいます。
そうクラスみんながにこにこしているよ。
その笑顔を見ていたら、わたしはこの学校のみんなをそういう気分にさせてあげたくなりました。
それくらいこの魔法で、わたしもとっても楽になったんだよ。
本当は暑いっていってるみーんなに、魔法を使いたいくらいの気分です。
でもそれは無理なので、知っているお友達もたくさんいる、この学校のみんなだけでもって思いました。
わたし達のクラスだけ涼しいのも、気が引けるしね。
そう考えたわたしは張り切って、手を握ります。
「よーし、じゃあ他のクラスのみんなも暑くて大変だろうから、回ってくるね。
お昼休みはまだまだ残ってるし」
時計を見るとまだ25分もあるから、早めに回ればいけそうです。
わたしの言葉に、クラスのみんなはびっくりしたようでした。
「みかんちゃん、もしかして20クラス全部行ってくるの?」
秋子ちゃんの言葉に、わたしはうなずきます。
「うん。急いでいってくれば間に合うよね。
あっ、職員室も行ってこようかな。
扇風機はあるけど、あれだけ広いから暑いよね」
先生達もうちわでぱたぱたと仰ぎながら、お仕事をしているのをよく見かけます。
よーし、みんなも涼しくしてあげようっと。
きっとクラスのみんなみたいに、とっても喜んでくれるよね。
そんな様子を想像して、わたしはにこにこ顔になります。
そして元気に教室を飛び出しました。
そんなわたしを見送るみんながいいます。
「さすがみんなの魔法使いだね」
美穂ちゃんが驚いた顔のまま、感心しました。
「そんなに大っぴらに回るんだったら、見えない魔法にした意味があったのかな?」
秋子ちゃんの疑問に、龍太郎くんが答えます。
「まあ、それがみかんだもんな」


20─他のクラスでも大人気

わたしは近いクラスから回り始めました。
まずはお隣の4組です。
開いている戸から覗いてみます。
するとやっぱり4組のみんなもばてばてになっています。
わたしはそんな雰囲気を変えられるように、元気に声をかけました。
「みんなー。涼しくする魔法が上手にできたから、来たよー」
5年生のクラスはみんな同じ通りにあるから、こうやってよく来ます。
3年生まで一緒のクラスだった子もいるから、なつかしいしね。
わたしが顔を出すと、真っ先に恵ちゃんが走ってきてくれました。
「あ、みかんちゃん。いらっしゃーい」
恵ちゃんは、同じベルマーク委員会のお友達です。
とっても元気で、委員会の最初の集会の時から仲良くなったんだよ。
「失礼しまーす」
恵ちゃんに手を引かれながら、わたしはあいさつをします。
別のクラスに入るときは、しっかり断っておかないといけないもんね。
そして魔法がちゃんと広がるように、教室の真ん中まで行きました。
「隣から盛り上がってる声が聞こえてきたけど、さっきいってたみかんちゃんの魔法だったの?」
3年生まで一緒だった早希ちゃんにそう聞かれて、わたしはうなずきます。
「うん、そうだよ。
本当は昨日もやってみたんだけど、失敗しちゃったの。
でも今日はバッチリだったよ」
わたしはそう正直な話をします。
すると3年生まで同じクラスだったみんなが、前のことを思い出しているのか、うんうんとうなずきました。
「なるほど」
「目に浮かぶなあ」
そういわれて、わたしは苦笑いをしました。
前の方がもっと失敗が多かったからね。
その時のことは、あんまり思い出さないでほしいよう。
でもね、今のわたしは、前よりずっと良くなってるよ!
わたしはそう気持ちを入れて、ステッキを上げました。
「じゃあいくね!
北海道の空気をお願いしまーす」
するとさっきと同じように、涼しい風が吹きます。
その風を浴びると、みんなみるみる元気になってきました。
「涼しくて生き返るー」
瞳を閉じて、そう幸せそうな顔でいっている子も多いです。
そしてわたしの魔法をほめてくれました。
「みかんちゃんの魔法は、ますます上手になってるねー」
やったあ。そうでしょ?
わたしは心の中でバンザイをしました。
さっきちょっと気にしただけに、そうほめてもらえてよかったです。
「ほんと、みかんちゃんと同じクラスになれた子が、うらやましいよね」
そうもいってもらえました。うれしいです。
実際は同じクラスだと、やっぱり魔法の失敗にあうのも多くなります。
だからいいのかはわからないところがあるなあとも思うんだけどね。
そういってもらえた時に、自信を持ってうなずけるようになりたいです。
「じゃあ、また今度ねー」
目的を達成すると、わたしは早々と駆け去ります。
「みかんちゃん、また遊ぼうねー」
そんな恵ちゃん達の声にうなずきながら。
みんなとお話したいこともあるけど、時間がないもんね。
なんたって移動も考えると、1つのクラスに1分もいられないことになります。
でもなんとか間に合わせなくっちゃ。
こういう時走り回っても、魔法使いは疲れなくってよかったです。
そうやって似たように、5年生のクラスは回り終わりました。
次は同じ3階だけど違う通りにある、6年生のクラスに行きます。
6年生のみなさんは、わたしが入学した時から知っているんだよね。
だから5年生と同じだけ、一緒の学校にいる学年なわけです。
そしてお兄さん・お姉さん達なので、訪ねるとかわいがってもらっています。
「こんにちはー」
顔を出してあいさつをします。
すると、今日もたくさんの人に騒がれました。
「あー。みかんちゃんだー。どうしたのー」
「あいかわらずちっちゃーい」
そういわれる通り、1歳違うだけなのに6年生って大きいです。
わたしが3年生の平均身長しかないから、余計そう見えるっていうのもあるんだけどね。
何人もの人が、わたしのいるドアまで来てくれました。
わたしはちょっと緊張しながら、でも笑顔で答えます。
「毎日暑いので、涼しくする魔法をかけて回ってるんです」
「ありがとう。偉いねー」
そうほめられると、わたしはさらにがんばろうって気持ちになりました。
「いきまーす!北海道の空気、出てきてくださーい」
そうわたしが魔法をかけると、またすごいすごいってほめてくれます。
うーん。わたしって、年上の人にほめてもらうのに弱いみたいです。
なんだか気持ちがやわらかくなっちゃいます。
「これからも応援してるよー」
「ありがとうございまーす」
わたしはたくさんほめてもらったことにはにかみながら、教室を後にしました。

それから気持ちを切り替えながら、階段を降ります。
今度は、わたしより下の学年のみんなのところに行くんだもんね。
「みかんちゃんだー。
今日はどんな魔法を使うのー?」
わたしが顔を出すと、そう期待を込めた顔で聞かれます。
こんなふうに小さいみんなは、わたしの魔法をとっても喜んでくれるんだよ。
だからますます張り切っちゃいます。
「今日はね、見えないんだけど、とっても涼しい北海道の空気を出すね。
そうするとクーラーをかけたみたいに、教室が涼しくなるんだよ。それーっ」
風が吹くと、小さい子ほど大騒ぎです。
「わーい、涼しい涼しーい」
そういいながら喜んで走り回る男の子とかもいます。
つまずいて転んだりしないかがちょっと心配です。
でもそこまで喜んでもらえたのはよかったな。
「みかんちゃんはなんでもできるねー。
わたしもできたらいいのになー」
そうわたしの魔法をうらやましがる女の子もいます。
「うーん、確かにわたしも2年生になるまでは、こういう魔法を使えなかったんだけど…」
でもわたしは魔法使いの子だから、みんなと違うもんね。
普通の子が、わたしと同じようにお勉強したらできるようになるっていうものじゃないもんなあ。
そうわたしは、はっきりいえないで考えます。
するとわたしの代わりに、別の子が続けてくれました。
「みかんちゃんは特別だもんね」
そうちょっと大人っぽくも見えるにっこり顔をして、わたしを見上げています。
小さいのにわかってくれているその子に、わたしは感心しました。
だから笑顔でお返しします。
「みかんちゃん、また来てねー」
そう元気にいってくれるみんなに手を振ります。
「うん、また来るよー」
こうして無事に教室をみんな回り終わりました。

そしてわたしは、最後に職員室へとやってきました。
開いているドアから見てみると、扇風機が何個か回っています。
でも先生達が仰いだりしている様子からも、涼しそうではありません。
やっぱりここも魔法が必要だよね。
かけるかは、先生達がいるっていったらだけど。
そんなふうに観察しているわたしに、友子先生が気付きました。
そしてこっちに来て、不思議そうに聞きます。
「あら、みかんちゃん。どうしたの?」
今までとは違った緊張が少しあって、わたしはきゅっとステッキをにぎります。
「毎日とっても暑いから、教室みんなを涼しくして回っているんです。
職員室も暑いだろうなって思ったので来ました」
そう説明すると、先生達もうれしそうな表情になりました。
「それはありがとう」
「暑くて、能率が落ちてたんだよ」
そううちわでぱたぱた扇いでいた先生がいいます。
先生だから断られるかなっても思ったけど、そう喜んでもらえるならよかったです。
でもわたしが魔法をかける前に、勝子先生が来ました。
そしてわたしに、おだやかにいいます。
「ありがとう、白石さん。今年は特に暑いものね。
でも外と中の気温が違うほど、具合いを悪くしてしまうものなのよ」
そういえば、そういうお話を聞いたことがあったなあ。
わたしはそれを思い出して、少ししょんぼりしました。
「そうですね…」
もうクラスみーんなを涼しくした後です。
どこかやりすぎぎたところはなかったかなあって考えます。
今日1回だけなら大丈夫なはずだけど、魔法を使う時はそういうことも考えないといけないんだね。
わたしは心にそう、ちゃんと入れておきました。
じゃあやっぱり、職員室には魔法はいらなかったのかなあ。
そう心配したけど、勝子先生は笑顔で付け加えてくれました。
「だから控えめによろしくね。わざわざありがとう」
その優しい声の調子に、わたしはまた元気になりました。
そしていわれた通りに気を付けて、涼しい風は少しだけ吹かせておしまいにしました。
でも扇風機があるおかげですぐに部屋中に回って、ちょうどよかったみたいだよ。
こうやって、学校中みんなに喜んでもらえました。
魔法を1度に使いすぎてくたびれちゃったけど、うれしい気分です。
そんなわたしに、友子先生が尋ねました。
「みかんちゃん、こうやって学校中を回っていたのよね?」
わたしはうなずきます。
「はい。全部のクラスを回って、この職員室が最後です」
そう答えると、友子先生がグラスを渡してくれました。
「本当にお疲れさま。
授業まで時間がないけど、麦茶を飲んでいって」
学校でこういうふうにもらえるなんて、あんまりないことだよ。
お得な気分です。
「ありがとうございます」
もらった麦茶は、氷は入っていなくても冷たかったです。
暑くなっていた体に広がっていくようでした。
とってもおいしかったし、なんだかとっても楽になったよ。
そんな感覚ににこにこしているわたしを見て、勝子先生がいいます。
「白石さんってよく騒ぎを起こして、こっちは大変だけど、気持ちはいい子なんですよね」
そう久しぶりに、勝子先生にまでいってもらえました。
えへへ。今日は本当に、みーんなにほめられ日です。
そして今回の魔法を使ったことで、色んなことを気を付けようっても思ったよ。
あんまり暑い日が続くと、こうやって魔法を使っちゃったりもするけど、わたし達は夏も元気です。
もうすぐ来る夏休みは、どんなに楽しいかな?


2006年5、6月制作
2/6ページ
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