5年生6月編

17─時鳴さん家のお茶会

もう6月も終わりが近い日のことです。
「みかんちゃん、お客さんだよ」
お昼休みに、そう彩ちゃんが教えてくれました。
「はーい」
わたしは教室の前の扉に行きます。
誰かな?って思ったら、そこにいたのは時鳴響香ちゃんでした。
前に家に少しいたことのある、リリーちゃんの飼い主さんだよ。
「あー!響香ちゃん、来てくれたんだね」
わたしはうれしくて、思わず大きな声でいいました。
リリーちゃんを返しに行った時のことを覚えてる?
その時に響香ちゃんのお母さんの晴香さんが、今度お茶会に招待してくれるっていっていました。
その日にちが決まったら教えに来てくれるっていっていたので、きっとそのことです。
やっぱりその通りで、響香ちゃんはきちんとお誘いしてくれました。
「みかんちゃん、こんにちは!
約束のお茶会に、ご招待します。
次の土曜日はお休みなので、1時から始めたいと思っているんだけど、いいですか?」
「うん、行けるよ」
わたしははっきりうなずきます。
「よかった!じゃあ待ってます。
リリーちゃんも楽しみにしてるの」
「うん、わたしもだよ。
教えに来てくれて、ありがとう」
まだ魔法は使えないから、動物とお話はできません。
でも久しぶりにリリーちゃんに会えるのがうれしいです。
わたしはそう思って、返事をします。
その答えを聞いた響香ちゃんは、すぐにぱたぱたと帰っていきました。
もう午後の授業まで時間がなかったからね。
わたしはその後ろ姿を見送りながら考えます。
リリーちゃんと一緒にいたのは、1ヶ月前のことだったんだよね。
あれからいろいろあったから、それしか経っていないのが不思議な感じです。
そしてそのリリーちゃんがきっかけで、テトリちゃんが来てくれたんだよね。
今ではすっかり仲良しになったテトリちゃん。
時鳴さん家に連れていったら驚かれるかな。
…なんて、5日後が楽しみです。


そしてお茶会の土曜日になりました。
約束の30分前には、みんな用事を済ませます。
お呼ばれだから、家からもお土産を持っていくことにしました。
午前中にお母さんとクッキーを作ったんだよ。
わたしもいっぱいお手伝いしました。
そう持って行くものをバスケットに入れて、いよいよ出発です。
その時にお母さんが素敵な提案をしてくれました。
「歩いても行ける距離だけど、久しぶりに絨毯を使ってみましょうか」
「じゅうたん!?」
そう聞いて、わたしは懐かしくてうれしくなりました。
魔法の絨毯には、ほうきの乗り方を練習していた1年生の頃までは、よく乗せてもらっていました。
でも今ではめったにありません。
絨毯は2人以上で乗る物です。
だからお母さんもわたしも自分のほうきで飛べる今は、使う必要がないからです。
わたしは絨毯に乗せてもらうの、大好きなんだけどね。
でも今わたしはほうきに乗れません。
めったにないチャンスというわけです。
「せっかくだから乗りたいなあ」
わたしの期待している様子を見て、お母さんは決めました。
「じゃあ取ってくるわね」
絨毯は魔法の部屋に置いてあるんです。
わたしがわくわくして待っていると、テトリちゃんもいいました。
「憧れの絨毯に乗れるなんて、楽しみです」
ほうきで飛んでいる時に、テトリちゃんにも教えたことがありました。
同じ空を飛ぶでも、ほうきとは違った感じなんだよって。
お母さんはすぐに、丸まっていた絨毯を抱えて持ってきました。
全体が桃色で小さないちご柄が入っていて、とってもかわいいんだよ。
絨毯は好きな模様にできるそうです。
そこでわかりやすいように、自分の名前と合ったものにする人が多いそうです。
お母さんは絨毯で手がふさがっています。
だからわたしが荷物を持って、外に出ます。
お母さんは家の前で絨毯を広げました。
そしてペンダントをステッキに変えます。
「マジカル・ドリーミング」
そして絨毯の前の方に座ります。
それからわたし達を呼びました。
「さっ、2人とも座って」
テトリちゃんは、わたしがだっこしていくことにしました。
テトリちゃんは軽いから、風で飛ばされちゃうかもしれないもんね。
みんなが座ると、ここが1番大事な時です。
ほうきは自分で助走がつけられます。
だからあとは魔法のバランスを取れば飛ぶことができます。
でも絨毯は止まっている状態からなので、最初は魔法が必要なのです。
「風の精霊、この絨毯を飛ばしてね」
そういってお母さんがステッキを流れるように振り始めると、
ブワッ
風が起きて、絨毯は勢いを付けて浮き上がりました。
お母さんがいっていた通り、風の精霊さんがやってくれたんだよ。
これは自然魔法という種類で、精霊さんの力を借りる魔法です。
こうやって風を吹かせてもらったり、火の精霊さんには火をつけてもらったりできます。
わたしは精霊さんをよく見かけるし、お話をすることもあります。
でもこの種類のやり方を覚えないと、力は貸してもらえないそうです。
精霊さんが大好きなわたしにとっては、早くかけられるようになりたい種類です。
その精霊さんによってステッキの振り方が違うから、難しいそうなんだけどね。
やっぱりとっても素敵に思えます。
後ろを振り返ると、小さくて透明なかわいい風の精霊さんがたくさんいました。
わたし達に手を振ってくれています。
わたしとテトリちゃんも手を振り返します。
お母さんも振り返っていいました。
「手助けありがとう」
そう精霊さんに、ある程度の高さまで飛ばしてもらいました。
ここからはお母さんの力で飛びます。
ステッキを振るのをやめました。
そして絨毯に気持ちを集中しているようです。
絨毯は、わたしはただ乗っているだけです。
だから自分がほうきで飛ぶ時とは全然気分が違います。
こうやって浮いていることが、不思議な気さえするよ。

そしてわたしとテトリちゃんが座っている絨毯の後ろが、ぱたぱたとなびいています。
その音を聞いて、お母さんは困ったようにいいました。
「私の力じゃこんなものなのよね」
魔法の力の強さで、絨毯がどれくらい安定するかが違うそうです。
でもはじっこがなびいていても、お母さんやわたし達が座っているところはちゃんとしているから、気にならないよ。
「お母さんは18歳の時に、絨毯の免許を取ったんだよね」
ほうきは小学校に入ったら、みんな使っていい乗り物です。
でも絨毯は他の人を乗せるためのものなので、練習して免許を取らなくてはいけないそうです。
みんなが使っている物でいうとほうきは自転車で、絨毯は車みたいなものなんだね。
ほうきで飛ぶよりずっと難しいそうだし、まだまだわたしにはとても飛ばせられそうにありません。
「うん。子どもをもらったら、必ず取るきまりになっているもの」
その子どもをもらうっていうのも、天使様から子育て免許というのをもらってからになるそうです。
その人がきちんと子どもを育てられる力を持っているかどうか、神様がみて決めるそうだよ。
だから人によってもらえる歳はちがうそうです。
15歳から17歳の誕生日までの間には、みんなもらえます。
お母さんは高校生になった時と、早くにもらったそうです。
とってもしっかりしているもんね。
でも免許をもらってすぐに使う人はなかなかいないけどって、おばあちゃんはいっていました。
だからわたしの家は、魔法使いの人達の間でも有名みたいだよ。
わたしは、そんなに早くから赤ちゃんを育てるなんてできないなあと思います。
お母さんは本当にすごいです。
それよりもまず自分の練習をしなくちゃね。
「時鳴さんの家には、私が来るきっかけになった猫さんがいるんですよね」
そうテトリちゃんに話しかけられて、わたしは気持ちを戻しました。
「そうだよ。リリーちゃんっていう白猫さん。
テトリちゃんも仲良くなれるといいね」
そうそう、久しぶりだから絨毯に気持ちが向いちゃっていました。
これからリリーちゃんや響香ちゃんに会いにいくんです。
きっと楽しいだろうなって、にっこり顔になりました。


時鳴さん家の玄関のある広いお庭に、絨毯は到着しました。
地面にぴったりつくのはとっても難しいです。
だから少し浮いたところで降りるんだよ。
降りて、お母さんが絨毯を巻きます。
その時に、玄関から響香ちゃんとリリーちゃんが出てきました。
そしてわたし達のところに、元気に駆けてきます。
「いらっしゃーい。待ってました」
そういう響香ちゃんに続いて、リリーちゃんもうれしそうにあいさつをしてくれました。
でも今日のわたしは、言葉がわかりません。
せっかく会えたのに残念だけど、今日はしょうがないね。
もう少しで話せるようになるから、その時にまた来よう。
わたしはそう思い直しました。
そしてリリーちゃんがテトリちゃんを見ているのはわかりました。
そこで元気に紹介します。
「こんにちは。この子はテトリちゃん。
リリーちゃんが帰った後に、家に来たんだよ」
そういうと、響香ちゃんはテトリちゃんを見て、びっくりしました。
「わあ。普通の猫と違うんですね。
まるでぬいぐるみが生きているみたい」
その通りなので、わたしはうなずきます。
「そうだよ。テトリちゃんは元々普通のぬいぐるみだったんだって」
わたしは、ぬいぐるみだった時のテトリちゃんを見たことはないけどね。
響香ちゃんは瞳を輝かせました。
「本当ですか?魔法ってすごーい」
手を伸ばした響香ちゃんに、テトリちゃんはあいさつをしました。
「こんにちは」
そうお辞儀をしたので、響香ちゃんはますますびっくり。
「言葉も話せるんだ。それに礼儀正しいね」
そう話していると、響香ちゃんのお母さん、晴香さんも出てきました。
わたしのお母さんも、絨毯を移動魔法で家に戻し終わっていました。
人の家に置かせてもらったら悪いからね。
わたしの後ろから、お母さんは晴香さんにあいさつをします。
「こんにちは。今日はお招きありがとうございます」
そうお母さんが丁寧にいうと、晴香さんもにっこり笑顔でこたえました。
「いえいえ。こちらこそあれからお招きをするのが遅くなってしまって、すみませんでした。
どうぞお上がりください」
そう晴香さんに手で合図をされます。
わたし達はお辞儀をして入りました。
「おじゃましまーす」
リビングに案内されると、そこのテーブルには豪華にケーキが乗っています。
真っ白のクリームにいちごののった、きれいなケーキです。
響香ちゃんは胸を張って教えてくれました。
「おかあさんはお菓子を作るの大得意だから、とってもおいしいですよ」
わたしはその本当においしそうな手作りケーキに、よろこびの声をあげました。
「わあ、すごーい。
家からもクッキーを持って来ました」
そのクッキーが入っているバスケットを持ち上げます。
すると晴香さんは、そんなわたしに優しく笑ってくれました。
「ありがとうございます」
「せっかくだから、これは後で開けましょう」
後ろからお母さんがわたしにいいました。
そうだね。せっかくケーキがあるんだから、このクッキーは後で食べた方がおいしく感じるかな。
わたしはお母さんのいった意味に納得しました。
わたし達の席に、バスケットを置いておきます。

みんなが席に着くと、晴香さんはケーキと一緒に準備してあったナイフで、4人分を分けました。
半分を4等分したから、算数でいうと、1人分は八分の一だね。
それをお皿に乗せて、わたし達の前に配ってくれます。
「どうぞ」
そして紅茶も注いでくれました。
「いただきまーす」
ケーキが大好きなわたしは、早速喜んでいただきます。
わたしだけじゃなくって、響香ちゃんもお母さんもおいしそうに食べているよ。
手作りだから生クリームがふわふわで、甘くて、とってもおいしいんです。
晴香さんは、ケーキよりも先に紅茶を飲んでいます。
そしてにこにこして食べているわたし達を見ていました。
「そうだ。テトリちゃんもどうぞ」
ケーキがあんまりおいしいので、テトリちゃんにも勧めたくなりました。
でもテトリちゃんは申し訳なさそうに、首を振っていいました。
「私はクリームは苦手なんです。
みかんちゃんがもらってください」
そういわれて、わたしは考えてみました。
なるほど。手がべとべとになっちゃうからかな?
そういえば出会い記念日の時も、ケーキは食べていませんでした。
でもテトリちゃんにも何かおいしさを味わってほしいわたしは、思いつきました。
「じゃあいちごを半分あげるね」
果物ならテトリちゃんも大好きだもんね。これなら大丈夫なはずです。
いちごをフォークで半分に割って、ナプキンの上に乗せました。
テトリちゃんは期待しているわたしを見ると、今度は食べてくれました。
「いただきます」
そしてテトリちゃんは食べると、にっこり笑いました。
「とってもおいしいです」
「よかった」
そういってもらって、わたしもうれしくなります。
そんなわたし達を、それまで黙って見ていた響香ちゃんがいいました。
「あっ!そういえば、今学校に広まっているみかんちゃんの話があるんだよ、おかあさん」
急にそういわれて、わたしはどっきりしました。
何かな?悪い話じゃないといいなあって心配もしてしまいます。日頃の行いに自信がないからかな?
結構みんなに心配をかけたりしているもんね。
「そうなの。どんな話?」
晴香さんが耳をかたむけると、響香ちゃんは元気に話し始めました。
「あのね、なんとみかんちゃんは1人で、いなくなった学校うさぎを探してきたんだよ」
そう聞いて、わたしはほっと一息です。
あの出来事かあ。あれは3週間前のことだったよね。
わたしはあの時のことを思い出してから、ちょっと不思議に思いました。
あれって、クラスの中だけでまとまった話じゃなかったんだね。
「響香ちゃん、誰から聞いたの?」
たずねると、響香ちゃんは詳しく教えてくれました。
「学校に広まったのは、その時のみかんちゃんや、5年3組の人達を見かけた子達からみたい。
その子達が友達に話して、どんどん伝わったんですね」
そう聞いて、考えてみると納得です。
わたしが帰るまで、クラスみんなが中庭で待っていてくれたりしていました。
それでなかなか目立ったかもしれないね。
わたしがそう思い出していると、響香ちゃんはもう1つ意外なことをいいました。
「そしてわたしは、うわさだけじゃないんですよ。
中庭のうさぎさん達によく会いにいくので、彩さんにも詳しく教えてもらいました。
魔法が使えない時でも、魔法使いはやっぱりかっこいいですね」
そうほめられて、わたしは少し照れました。
わたしだけではみつからなくて、たくさんの鳥さんに助けてもらったんだけどね。
彩ちゃんは何て話したんだろ?
響香ちゃんの様子だと、よく話してくれたみたいだね。
そして響香ちゃんは、今度はテトリちゃんを見ていいました。
「その時にテトリちゃんも学校に来ていたんだよね」
そういわれて、テトリちゃんの活躍を思い出したわたしはうなずきます。
「うん。わたしが動物とお話できなかったから、テトリちゃんが通訳してくれたんだよ」
わたしが魔法を使えないからって、ちょうどテトリちゃんも一緒に学校に来てくれていた時のことでした。
だからすぐに頼めて助かったよ。
元気にいうわたしに、響香ちゃんはにっこり笑っていいました。
「もうすっかり仲良しですね。
今の2人を見ていてもわかります」
そういわれて、わたしとテトリちゃんは顔を見合わせます。
そうみえるかな?
だったら、とってもうれしいです。
わたしもテトリちゃんも、にっこりしあいます。
するとそれまで静かにうなずいて聞いていた晴香さんが、響香ちゃんから、わたし達に向き直って楽しそうにいいました。
「響香から、よくこんなふうに、みかんちゃんの話を聞かせてもらうんですよ」
すると響香ちゃんは照れていいます。
「だって、わたしもみかんちゃんのファンなんだもん。
だからこうやって家に来てもらえるなんて、夢みたい」
そう聞いて、わたしは少しびっくりしました。
そしてとってもうれしくなりました。
わたしの知らないところでも、好きになってくれている人がいるんだね。
それってとっても素敵で、幸せなことだなあって思います。
そうやって見られている分、これからもがんばらなくちゃってことだよね。
紅茶を飲みながら、わたしははにかんだ笑顔になりました。
そんなわたしを、響香ちゃんはまた元気に誘ってくれます。
「そうだ!ケーキを食べ終わったら、庭で遊びましょう」
「うん」
わたしは、いろいろな幸せをいっぱいに感じながらうなずきました。


18─みんなで楽しく遊ぼう

時鳴さん家の広いお庭に、わたしとテトリちゃん、響香ちゃんとリリーちゃんが出て行きました。
響香ちゃんは手に、小さな黄色のボールを持っています。
「猫さんにはやっぱりこれだね。
はーい、2人とも仲良く遊んでね」
そういって響香ちゃんがボールを軽く投げます。
リリーちゃんとテトリちゃんは喜んで追いかけていきました。
テトリちゃんがこういう喜び方をしているのを見るのは、初めてかもしれません。
前からリリーちゃんと遊んでいる響香ちゃんは、さすが猫さんの相手が上手です。
うれしそうな2匹をにこにこして見ている響香ちゃんに、わたしは感心しました。
そして庭を見回したわたしは、すばらしい物に気がつきました。
発見すると、わくわくした気持ちになっていいます。
「すごーい!響香ちゃん家はブランコもあるんだね」
庭の奥に、木でできたブランコが1つありました。
「うん。お父さんが作ってくれたんです」
わたしが瞳をきらきらさせてみつめていると、響香ちゃんが提案してくれました。
「じゃああのブランコで遊びましょうか。
みかんちゃん、お先にどうぞ」
「いいの!?わーい」
わたしは遠慮なく、喜んでブランコへと駆けていきました。
自分からすぐにはいえなかったけど、とっても乗ってみたかったんです。
少し緊張しながら乗ると、最初はゆっくりとこぎ始めます。
人のお家にある手作りのブランコって、公園にあるのとは違った感覚があるよね。
これはそのお友達だけのものなんだなって考えると、宝物を貸してもらっているような気分です。そんな気持ちを感じながら、うれしくってしばらく乗ってしまいました。
「お待たせしました。5分くらい乗ってたかな」
わたしはそう、ごめんなさいの意味も入れていいます。
すると響香ちゃんは首を振りました。
「ううん。こうやってこのブランコで、お友達と遊べるのがうれしいです。
このブランコ大好きだけど、1人だとそんなに楽しくないから」
響香ちゃんはそういってから、はっとして付け加えました。
「あ、でもほとんどはリリーちゃんとのってます。
ひざに乗せてゆっくりこげば、2人でのれるから。
リリーちゃんもブランコ喜ぶんですよ」
「そうなんだ」
その話に、わたしはうなずきます。
2人でそうやって遊んでいる様子を想像すると、ほのぼのとした気分になるね。
わたしはそう考えて、テトリちゃんとリリーちゃんのことを思い出しました。
振り返ると、2匹はとっても楽しそうに走り回っています。
「そのリリーちゃん達は、盛り上がってるねー」
ボール遊びの次は、かくれんぼか鬼ごっこでもしているのかな?
テトリちゃんが茂みの裏に隠れます。
するとリリーちゃんが追いかけたりしています。
ここまではしゃいでいる声が、微かに届いているよ。とっても楽しそうです。
わたしがそんな2匹を見ていると、響香ちゃんもうれしそうにいいました。
「やっぱり同じ猫同士気が合うんだね。
じゃあ次はわたしがのりまーす」
今度は響香ちゃんがブランコに乗って、こぎ始めました。
ここまではしゃいでいるわたしはそんな響香ちゃんとお話をしながら、待っています。
そうやって何回か換わりばんこして、満足するまで乗ったよ。
それからはテトリちゃんやリリーちゃんに声をかけて、4人で一緒にたくさん遊びました。

「あっ。もうすぐ3時半。そろそろ家に戻りましょう」
庭から家の中の時計を見て、響香ちゃんがいいました。
2時間くらい遊んでいたんだね。
元気いっぱい動いて、汗もたくさんかいちゃいました。
横にいるテトリちゃんはどうかなって、見てみます。
するとかくれんぼをした時のものか、草や土も付いたりして、大分ほこりっぽくなっていました。
「テトリちゃんも、大分汚れちゃったね」
わたしはしゃがんで、その付いているところを払ってみます。
するとテトリちゃんの場合は、簡単にきれいになりました。
汚れない魔法がかかっているって、いっていたもんね。
表面に付いていただけのようです。
でもリリーちゃんは、そうはいかないようでした。
「うーん、いつもより汚れたから、今日はお風呂だね」
玄関の前で、響香ちゃんはそういいます。
そしてタオルでリリーちゃんの足をふいてあげます。
そんな様子から、本当に慣れているんだなあと感心しちゃいます。
そう猫さん2匹が大体きれいになりました。
すると今度はわたし達の黒くなった手が気になりました。
そんな自分の手を見つめて、響香ちゃんと2人で笑います。
こういうふうに黒くなった手って、わたしは結構好きです。
元気に遊んだ印だもんね。
みんなで家の中に入ると、わたしと響香ちゃんはまっすぐ洗面所に行きます。
それから石鹸でよく手を洗います。
そしてきれいになって、石鹸のいい匂いのする手は最高に好きだよ。

リビングに戻ると、お母さん達は紅茶を飲みながら、お話を続けていたようでした。
家から持ってきたクッキーもテーブルの上に並んでいます。
「あっ!クッキーが出てる」
わたしはクッキー登場の時にいられなかったことに、がっかりしました。
でもわたし達はずっと外で遊んでいたんだもんね。しょうがないかな。
それに遊んでいる間は、クッキーのことをすっかり忘れちゃっていたしね。
そうしょんぼりとあきらめているわたしに、お母さんは笑っていいました。
「まだ食べてないわよ。みんなが揃うのを待ってたの」
「本当!?」
わたしが喜ぶと、響香ちゃんのお母さんも笑いました。なんでかな?
みんなで座って、早速いただきます。
「とってもおいしい!」
そう響香ちゃんと晴香さんがにっこり笑っていってくれました。
こういう言葉を聞きたかったから、最初の一口の時にいたかったんです。
わたしもぱあっと笑顔になります。
お母さんと作った物をほめてもらえたことと、クッキーのおいしさにね!

みんなでにこにこ食べていると、響香ちゃんがはっとしました。
「あっ!土曜日の3時半といえば、「ぽこたんの冒険」だ」
そしてテレビを点けます。
その言葉にわたしも反応しました。
「そっか!わたしも「ぽこたん」大好きで、毎週見てるよ」
こうやってお外に出る日は遊ぶ方に夢中になっちゃって、今日みたいに忘れていたりすることもあるんだけどね。
響香ちゃんに教えてもらえてよかったです。
「ぽこたんの冒険」とは、たぬきのぽこたん、きつねのこんすけ、うさぎのぴょんぴょんの3人の仲間達の旅のお話です。
わたしが1番好きなアニメだよ。
それがちょうどこれから始まります。
「みかんちゃんも好きなんだ」
うれしそうにいう響香ちゃんに、わたしはうなずきます。
「うん。いろんなところに行くのがおもしろいし、動物さんがわたし達みたいに町を作って暮らしているのが素敵だよね」
いろんな動物がみんな仲良く、しかもわたし達人間みたいに二本足で暮らしている世界なんです。
わたしは現実でも魔法で動物とお話ができるから、みんなの考えていることはわかります。
でもこうやってわたし達と暮らしているみんなとは、また違うもんね。
そんな世界が本当にあったら、行ってみたいなあ。
わたしは憧れの瞳になります。
すると響香ちゃんはそんなわたしを見て、小さなため息をつきました。
「わたし達にとっては、みかんちゃんも素敵な存在ですよ」
そうとだけいわれたので、わたしはその言葉の意味を考えてみます。
?魔法使いがってことかな?
――そうだね。みんなにとって特別な力を持っている魔法使いは、わたしがぽこたん達に憧れるのと同じくらいすごいよね。
わたし達は小さい時から教わっているから、こういう力が使えることを普通に感じています。
でもよく考えてみると、なんとも不思議なことをしているよね。
わたしの使える夢魔法でいうなら、いったことや考えたことが本当になるんですから。
その魔法は、あと3日でまた使えるようになります。
この1ヶ月、魔法でやってみたいことがあってもできなくて、とっても我慢していました。
だからその時がとっても待ち遠しいです。
そうだ!まずは動物のみんなとお話をししに行こうかな。
6月中にあった、おもしろいお話をたくさん聞かせてもらえるよね。
そう予定を立てて、わくわくしてきました。
そんなおかげもあって、今日のぽこたんはいつもよりも楽しく感じました。

ぽこたんを見た後は、みんなでずっとリビングでお話をしていました。
するともう5時、お家に帰る時間です。
お家に帰ったら、すぐにお夕飯の準備をする頃だね。
いろいろとごちそうになったから、今日はそんなにお腹は空いていないけれど。
「おじゃましました」
「ごちそうさまでした」
そうみんなで、玄関であいさつをします。
響香ちゃんとは、また遊ぼうねって約束をしました。
テトリちゃんとリリーちゃんも、とっても仲良くなっていたね。
今も仲が良さそうに、お別れのあいさつをしています。
そんなふうに、仲良くなった2匹を見るのはうれしいです。
だってわたしにとってはどっちも、家で一緒に過ごした大好きな2匹だもんね。
それからリリーちゃんが、今度はわたしの方を向いてくれました。
そしてうれしそうな顔で鳴いてくれます。
きっとわたしにもあいさつをしてくれているんだね。
そうわかって、とってもうれしくなります。
「またテトリちゃんと一緒に来るから、その時はたくさんお話しようね」
今日もテトリちゃんが通訳してくれたから、少しはお話できました。
でも2匹があんまり楽しそうなので、結構遠慮していたんです。
そしてもう1言付け加えます。
「もちろん響香ちゃんも一緒にね」
リリーちゃんの言葉をわたしが通訳すれば、みんなで話せるもんね。
そういうと、響香ちゃんはとっても喜びました。
「わあ。リリーちゃんとお話できるんだ。
とっても楽しみです。
リリーちゃん、何ていってくれているのかな?」
そういって響香ちゃんはうれしそうに、リリーちゃんの顔をのぞき込みました。
お話できないと思っていた相手と話せるっていうのは、とっても感動的だよね。
わたしも初めて動物と話せるようになった時は、うれしくってうれしくって飛び跳ねたい気分だったよ。
……「気分」じゃなくて、実際に飛び跳ねていたっけ。
響香ちゃんとリリーちゃんは、今でもちゃんと通じています。
だからお話ができたら、すぐに盛り上がるんだろうね。
そんな様子が目に浮かびます。
そうまた行く約束をして、時鳴さん家に手を振りました。
絨毯はお家に帰したので、帰りは歩きです。
お外でたくさん遊んだ後だけど、まだまだ元気に帰れます。
気分がうきうきしている時って、結構疲れないものだよね。
夕焼け空の帰り道、そうにこにこしているわたし達を見て、お母さんがいいました。
「2人とも、今日は本当に楽しかったみたいね。
―もちろん私にとっても、いいお茶会だったわよ。
久しぶりにのんびりした気分になれて」
お母さんは、いつもお仕事とかで忙しくしているもんね。
そうお母さんの言葉に心の中でうなずいてから、わたしは元気に答えます。
「うん!こうやってどんどんお友達ができていくって、うれしいな」
元々カンさんとのプルタブ集めに一緒に行って、そこでリリーちゃんに出会いました。
それからその家の響香ちゃんにも会って…。
そうかあ、お友達を大事にすると、また新しい出会いも多くなるんだね。
今回のことで、また1つお勉強になりました。
「私も、猫の友達に会えてうれしいです」
そういうテトリちゃんに、お母さんはうなずきました。
「そうね。テトリは、同じ猫の友達は初めてだったものね。良かったわね」
「はい」
にっこり笑ってうなずくテトリちゃん。
そうテトリちゃんがうれしそうなことに、またわたしとお母さんもうれしかったりします。
今日は本当に家中みんなにとって、いいお呼ばれになりました。


2006年1~4月制作
6/7ページ
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