5年生6月編
17─時鳴さん家のお茶会
もう6月も終わりが近い日のことです。
「みかんちゃん、お客さんだよ」
お昼休みに、そう彩ちゃんが教えてくれました。
「はーい」
わたしは教室の前の扉に行きます。
誰かな?って思ったら、そこにいたのは時鳴響香ちゃんでした。
前に家に少しいたことのある、リリーちゃんの飼い主さんだよ。
「あー!響香ちゃん、来てくれたんだね」
わたしはうれしくて、思わず大きな声でいいました。
リリーちゃんを返しに行った時のことを覚えてる?
その時に響香ちゃんのお母さんの晴香さんが、今度お茶会に招待してくれるっていっていました。
その日にちが決まったら教えに来てくれるっていっていたので、きっとそのことです。
やっぱりその通りで、響香ちゃんはきちんとお誘いしてくれました。
「みかんちゃん、こんにちは!
約束のお茶会に、ご招待します。
次の土曜日はお休みなので、1時から始めたいと思っているんだけど、いいですか?」
「うん、行けるよ」
わたしははっきりうなずきます。
「よかった!じゃあ待ってます。
リリーちゃんも楽しみにしてるの」
「うん、わたしもだよ。
教えに来てくれて、ありがとう」
まだ魔法は使えないから、動物とお話はできません。
でも久しぶりにリリーちゃんに会えるのがうれしいです。
わたしはそう思って、返事をします。
その答えを聞いた響香ちゃんは、すぐにぱたぱたと帰っていきました。
もう午後の授業まで時間がなかったからね。
わたしはその後ろ姿を見送りながら考えます。
リリーちゃんと一緒にいたのは、1ヶ月前のことだったんだよね。
あれからいろいろあったから、それしか経っていないのが不思議な感じです。
そしてそのリリーちゃんがきっかけで、テトリちゃんが来てくれたんだよね。
今ではすっかり仲良しになったテトリちゃん。
時鳴さん家に連れていったら驚かれるかな。
…なんて、5日後が楽しみです。
そしてお茶会の土曜日になりました。
約束の30分前には、みんな用事を済ませます。
お呼ばれだから、家からもお土産を持っていくことにしました。
午前中にお母さんとクッキーを作ったんだよ。
わたしもいっぱいお手伝いしました。
そう持って行くものをバスケットに入れて、いよいよ出発です。
その時にお母さんが素敵な提案をしてくれました。
「歩いても行ける距離だけど、久しぶりに絨毯を使ってみましょうか」
「じゅうたん!?」
そう聞いて、わたしは懐かしくてうれしくなりました。
魔法の絨毯には、ほうきの乗り方を練習していた1年生の頃までは、よく乗せてもらっていました。
でも今ではめったにありません。
絨毯は2人以上で乗る物です。
だからお母さんもわたしも自分のほうきで飛べる今は、使う必要がないからです。
わたしは絨毯に乗せてもらうの、大好きなんだけどね。
でも今わたしはほうきに乗れません。
めったにないチャンスというわけです。
「せっかくだから乗りたいなあ」
わたしの期待している様子を見て、お母さんは決めました。
「じゃあ取ってくるわね」
絨毯は魔法の部屋に置いてあるんです。
わたしがわくわくして待っていると、テトリちゃんもいいました。
「憧れの絨毯に乗れるなんて、楽しみです」
ほうきで飛んでいる時に、テトリちゃんにも教えたことがありました。
同じ空を飛ぶでも、ほうきとは違った感じなんだよって。
お母さんはすぐに、丸まっていた絨毯を抱えて持ってきました。
全体が桃色で小さないちご柄が入っていて、とってもかわいいんだよ。
絨毯は好きな模様にできるそうです。
そこでわかりやすいように、自分の名前と合ったものにする人が多いそうです。
お母さんは絨毯で手がふさがっています。
だからわたしが荷物を持って、外に出ます。
お母さんは家の前で絨毯を広げました。
そしてペンダントをステッキに変えます。
「マジカル・ドリーミング」
そして絨毯の前の方に座ります。
それからわたし達を呼びました。
「さっ、2人とも座って」
テトリちゃんは、わたしがだっこしていくことにしました。
テトリちゃんは軽いから、風で飛ばされちゃうかもしれないもんね。
みんなが座ると、ここが1番大事な時です。
ほうきは自分で助走がつけられます。
だからあとは魔法のバランスを取れば飛ぶことができます。
でも絨毯は止まっている状態からなので、最初は魔法が必要なのです。
「風の精霊、この絨毯を飛ばしてね」
そういってお母さんがステッキを流れるように振り始めると、
ブワッ
風が起きて、絨毯は勢いを付けて浮き上がりました。
お母さんがいっていた通り、風の精霊さんがやってくれたんだよ。
これは自然魔法という種類で、精霊さんの力を借りる魔法です。
こうやって風を吹かせてもらったり、火の精霊さんには火をつけてもらったりできます。
わたしは精霊さんをよく見かけるし、お話をすることもあります。
でもこの種類のやり方を覚えないと、力は貸してもらえないそうです。
精霊さんが大好きなわたしにとっては、早くかけられるようになりたい種類です。
その精霊さんによってステッキの振り方が違うから、難しいそうなんだけどね。
やっぱりとっても素敵に思えます。
後ろを振り返ると、小さくて透明なかわいい風の精霊さんがたくさんいました。
わたし達に手を振ってくれています。
わたしとテトリちゃんも手を振り返します。
お母さんも振り返っていいました。
「手助けありがとう」
そう精霊さんに、ある程度の高さまで飛ばしてもらいました。
ここからはお母さんの力で飛びます。
ステッキを振るのをやめました。
そして絨毯に気持ちを集中しているようです。
絨毯は、わたしはただ乗っているだけです。
だから自分がほうきで飛ぶ時とは全然気分が違います。
こうやって浮いていることが、不思議な気さえするよ。
そしてわたしとテトリちゃんが座っている絨毯の後ろが、ぱたぱたとなびいています。
その音を聞いて、お母さんは困ったようにいいました。
「私の力じゃこんなものなのよね」
魔法の力の強さで、絨毯がどれくらい安定するかが違うそうです。
でもはじっこがなびいていても、お母さんやわたし達が座っているところはちゃんとしているから、気にならないよ。
「お母さんは18歳の時に、絨毯の免許を取ったんだよね」
ほうきは小学校に入ったら、みんな使っていい乗り物です。
でも絨毯は他の人を乗せるためのものなので、練習して免許を取らなくてはいけないそうです。
みんなが使っている物でいうとほうきは自転車で、絨毯は車みたいなものなんだね。
ほうきで飛ぶよりずっと難しいそうだし、まだまだわたしにはとても飛ばせられそうにありません。
「うん。子どもをもらったら、必ず取るきまりになっているもの」
その子どもをもらうっていうのも、天使様から子育て免許というのをもらってからになるそうです。
その人がきちんと子どもを育てられる力を持っているかどうか、神様がみて決めるそうだよ。
だから人によってもらえる歳はちがうそうです。
15歳から17歳の誕生日までの間には、みんなもらえます。
お母さんは高校生になった時と、早くにもらったそうです。
とってもしっかりしているもんね。
でも免許をもらってすぐに使う人はなかなかいないけどって、おばあちゃんはいっていました。
だからわたしの家は、魔法使いの人達の間でも有名みたいだよ。
わたしは、そんなに早くから赤ちゃんを育てるなんてできないなあと思います。
お母さんは本当にすごいです。
それよりもまず自分の練習をしなくちゃね。
「時鳴さんの家には、私が来るきっかけになった猫さんがいるんですよね」
そうテトリちゃんに話しかけられて、わたしは気持ちを戻しました。
「そうだよ。リリーちゃんっていう白猫さん。
テトリちゃんも仲良くなれるといいね」
そうそう、久しぶりだから絨毯に気持ちが向いちゃっていました。
これからリリーちゃんや響香ちゃんに会いにいくんです。
きっと楽しいだろうなって、にっこり顔になりました。
時鳴さん家の玄関のある広いお庭に、絨毯は到着しました。
地面にぴったりつくのはとっても難しいです。
だから少し浮いたところで降りるんだよ。
降りて、お母さんが絨毯を巻きます。
その時に、玄関から響香ちゃんとリリーちゃんが出てきました。
そしてわたし達のところに、元気に駆けてきます。
「いらっしゃーい。待ってました」
そういう響香ちゃんに続いて、リリーちゃんもうれしそうにあいさつをしてくれました。
でも今日のわたしは、言葉がわかりません。
せっかく会えたのに残念だけど、今日はしょうがないね。
もう少しで話せるようになるから、その時にまた来よう。
わたしはそう思い直しました。
そしてリリーちゃんがテトリちゃんを見ているのはわかりました。
そこで元気に紹介します。
「こんにちは。この子はテトリちゃん。
リリーちゃんが帰った後に、家に来たんだよ」
そういうと、響香ちゃんはテトリちゃんを見て、びっくりしました。
「わあ。普通の猫と違うんですね。
まるでぬいぐるみが生きているみたい」
その通りなので、わたしはうなずきます。
「そうだよ。テトリちゃんは元々普通のぬいぐるみだったんだって」
わたしは、ぬいぐるみだった時のテトリちゃんを見たことはないけどね。
響香ちゃんは瞳を輝かせました。
「本当ですか?魔法ってすごーい」
手を伸ばした響香ちゃんに、テトリちゃんはあいさつをしました。
「こんにちは」
そうお辞儀をしたので、響香ちゃんはますますびっくり。
「言葉も話せるんだ。それに礼儀正しいね」
そう話していると、響香ちゃんのお母さん、晴香さんも出てきました。
わたしのお母さんも、絨毯を移動魔法で家に戻し終わっていました。
人の家に置かせてもらったら悪いからね。
わたしの後ろから、お母さんは晴香さんにあいさつをします。
「こんにちは。今日はお招きありがとうございます」
そうお母さんが丁寧にいうと、晴香さんもにっこり笑顔でこたえました。
「いえいえ。こちらこそあれからお招きをするのが遅くなってしまって、すみませんでした。
どうぞお上がりください」
そう晴香さんに手で合図をされます。
わたし達はお辞儀をして入りました。
「おじゃましまーす」
リビングに案内されると、そこのテーブルには豪華にケーキが乗っています。
真っ白のクリームにいちごののった、きれいなケーキです。
響香ちゃんは胸を張って教えてくれました。
「おかあさんはお菓子を作るの大得意だから、とってもおいしいですよ」
わたしはその本当においしそうな手作りケーキに、よろこびの声をあげました。
「わあ、すごーい。
家からもクッキーを持って来ました」
そのクッキーが入っているバスケットを持ち上げます。
すると晴香さんは、そんなわたしに優しく笑ってくれました。
「ありがとうございます」
「せっかくだから、これは後で開けましょう」
後ろからお母さんがわたしにいいました。
そうだね。せっかくケーキがあるんだから、このクッキーは後で食べた方がおいしく感じるかな。
わたしはお母さんのいった意味に納得しました。
わたし達の席に、バスケットを置いておきます。
みんなが席に着くと、晴香さんはケーキと一緒に準備してあったナイフで、4人分を分けました。
半分を4等分したから、算数でいうと、1人分は八分の一だね。
それをお皿に乗せて、わたし達の前に配ってくれます。
「どうぞ」
そして紅茶も注いでくれました。
「いただきまーす」
ケーキが大好きなわたしは、早速喜んでいただきます。
わたしだけじゃなくって、響香ちゃんもお母さんもおいしそうに食べているよ。
手作りだから生クリームがふわふわで、甘くて、とってもおいしいんです。
晴香さんは、ケーキよりも先に紅茶を飲んでいます。
そしてにこにこして食べているわたし達を見ていました。
「そうだ。テトリちゃんもどうぞ」
ケーキがあんまりおいしいので、テトリちゃんにも勧めたくなりました。
でもテトリちゃんは申し訳なさそうに、首を振っていいました。
「私はクリームは苦手なんです。
みかんちゃんがもらってください」
そういわれて、わたしは考えてみました。
なるほど。手がべとべとになっちゃうからかな?
そういえば出会い記念日の時も、ケーキは食べていませんでした。
でもテトリちゃんにも何かおいしさを味わってほしいわたしは、思いつきました。
「じゃあいちごを半分あげるね」
果物ならテトリちゃんも大好きだもんね。これなら大丈夫なはずです。
いちごをフォークで半分に割って、ナプキンの上に乗せました。
テトリちゃんは期待しているわたしを見ると、今度は食べてくれました。
「いただきます」
そしてテトリちゃんは食べると、にっこり笑いました。
「とってもおいしいです」
「よかった」
そういってもらって、わたしもうれしくなります。
そんなわたし達を、それまで黙って見ていた響香ちゃんがいいました。
「あっ!そういえば、今学校に広まっているみかんちゃんの話があるんだよ、おかあさん」
急にそういわれて、わたしはどっきりしました。
何かな?悪い話じゃないといいなあって心配もしてしまいます。日頃の行いに自信がないからかな?
結構みんなに心配をかけたりしているもんね。
「そうなの。どんな話?」
晴香さんが耳をかたむけると、響香ちゃんは元気に話し始めました。
「あのね、なんとみかんちゃんは1人で、いなくなった学校うさぎを探してきたんだよ」
そう聞いて、わたしはほっと一息です。
あの出来事かあ。あれは3週間前のことだったよね。
わたしはあの時のことを思い出してから、ちょっと不思議に思いました。
あれって、クラスの中だけでまとまった話じゃなかったんだね。
「響香ちゃん、誰から聞いたの?」
たずねると、響香ちゃんは詳しく教えてくれました。
「学校に広まったのは、その時のみかんちゃんや、5年3組の人達を見かけた子達からみたい。
その子達が友達に話して、どんどん伝わったんですね」
そう聞いて、考えてみると納得です。
わたしが帰るまで、クラスみんなが中庭で待っていてくれたりしていました。
それでなかなか目立ったかもしれないね。
わたしがそう思い出していると、響香ちゃんはもう1つ意外なことをいいました。
「そしてわたしは、うわさだけじゃないんですよ。
中庭のうさぎさん達によく会いにいくので、彩さんにも詳しく教えてもらいました。
魔法が使えない時でも、魔法使いはやっぱりかっこいいですね」
そうほめられて、わたしは少し照れました。
わたしだけではみつからなくて、たくさんの鳥さんに助けてもらったんだけどね。
彩ちゃんは何て話したんだろ?
響香ちゃんの様子だと、よく話してくれたみたいだね。
そして響香ちゃんは、今度はテトリちゃんを見ていいました。
「その時にテトリちゃんも学校に来ていたんだよね」
そういわれて、テトリちゃんの活躍を思い出したわたしはうなずきます。
「うん。わたしが動物とお話できなかったから、テトリちゃんが通訳してくれたんだよ」
わたしが魔法を使えないからって、ちょうどテトリちゃんも一緒に学校に来てくれていた時のことでした。
だからすぐに頼めて助かったよ。
元気にいうわたしに、響香ちゃんはにっこり笑っていいました。
「もうすっかり仲良しですね。
今の2人を見ていてもわかります」
そういわれて、わたしとテトリちゃんは顔を見合わせます。
そうみえるかな?
だったら、とってもうれしいです。
わたしもテトリちゃんも、にっこりしあいます。
するとそれまで静かにうなずいて聞いていた晴香さんが、響香ちゃんから、わたし達に向き直って楽しそうにいいました。
「響香から、よくこんなふうに、みかんちゃんの話を聞かせてもらうんですよ」
すると響香ちゃんは照れていいます。
「だって、わたしもみかんちゃんのファンなんだもん。
だからこうやって家に来てもらえるなんて、夢みたい」
そう聞いて、わたしは少しびっくりしました。
そしてとってもうれしくなりました。
わたしの知らないところでも、好きになってくれている人がいるんだね。
それってとっても素敵で、幸せなことだなあって思います。
そうやって見られている分、これからもがんばらなくちゃってことだよね。
紅茶を飲みながら、わたしははにかんだ笑顔になりました。
そんなわたしを、響香ちゃんはまた元気に誘ってくれます。
「そうだ!ケーキを食べ終わったら、庭で遊びましょう」
「うん」
わたしは、いろいろな幸せをいっぱいに感じながらうなずきました。
もう6月も終わりが近い日のことです。
「みかんちゃん、お客さんだよ」
お昼休みに、そう彩ちゃんが教えてくれました。
「はーい」
わたしは教室の前の扉に行きます。
誰かな?って思ったら、そこにいたのは時鳴響香ちゃんでした。
前に家に少しいたことのある、リリーちゃんの飼い主さんだよ。
「あー!響香ちゃん、来てくれたんだね」
わたしはうれしくて、思わず大きな声でいいました。
リリーちゃんを返しに行った時のことを覚えてる?
その時に響香ちゃんのお母さんの晴香さんが、今度お茶会に招待してくれるっていっていました。
その日にちが決まったら教えに来てくれるっていっていたので、きっとそのことです。
やっぱりその通りで、響香ちゃんはきちんとお誘いしてくれました。
「みかんちゃん、こんにちは!
約束のお茶会に、ご招待します。
次の土曜日はお休みなので、1時から始めたいと思っているんだけど、いいですか?」
「うん、行けるよ」
わたしははっきりうなずきます。
「よかった!じゃあ待ってます。
リリーちゃんも楽しみにしてるの」
「うん、わたしもだよ。
教えに来てくれて、ありがとう」
まだ魔法は使えないから、動物とお話はできません。
でも久しぶりにリリーちゃんに会えるのがうれしいです。
わたしはそう思って、返事をします。
その答えを聞いた響香ちゃんは、すぐにぱたぱたと帰っていきました。
もう午後の授業まで時間がなかったからね。
わたしはその後ろ姿を見送りながら考えます。
リリーちゃんと一緒にいたのは、1ヶ月前のことだったんだよね。
あれからいろいろあったから、それしか経っていないのが不思議な感じです。
そしてそのリリーちゃんがきっかけで、テトリちゃんが来てくれたんだよね。
今ではすっかり仲良しになったテトリちゃん。
時鳴さん家に連れていったら驚かれるかな。
…なんて、5日後が楽しみです。
そしてお茶会の土曜日になりました。
約束の30分前には、みんな用事を済ませます。
お呼ばれだから、家からもお土産を持っていくことにしました。
午前中にお母さんとクッキーを作ったんだよ。
わたしもいっぱいお手伝いしました。
そう持って行くものをバスケットに入れて、いよいよ出発です。
その時にお母さんが素敵な提案をしてくれました。
「歩いても行ける距離だけど、久しぶりに絨毯を使ってみましょうか」
「じゅうたん!?」
そう聞いて、わたしは懐かしくてうれしくなりました。
魔法の絨毯には、ほうきの乗り方を練習していた1年生の頃までは、よく乗せてもらっていました。
でも今ではめったにありません。
絨毯は2人以上で乗る物です。
だからお母さんもわたしも自分のほうきで飛べる今は、使う必要がないからです。
わたしは絨毯に乗せてもらうの、大好きなんだけどね。
でも今わたしはほうきに乗れません。
めったにないチャンスというわけです。
「せっかくだから乗りたいなあ」
わたしの期待している様子を見て、お母さんは決めました。
「じゃあ取ってくるわね」
絨毯は魔法の部屋に置いてあるんです。
わたしがわくわくして待っていると、テトリちゃんもいいました。
「憧れの絨毯に乗れるなんて、楽しみです」
ほうきで飛んでいる時に、テトリちゃんにも教えたことがありました。
同じ空を飛ぶでも、ほうきとは違った感じなんだよって。
お母さんはすぐに、丸まっていた絨毯を抱えて持ってきました。
全体が桃色で小さないちご柄が入っていて、とってもかわいいんだよ。
絨毯は好きな模様にできるそうです。
そこでわかりやすいように、自分の名前と合ったものにする人が多いそうです。
お母さんは絨毯で手がふさがっています。
だからわたしが荷物を持って、外に出ます。
お母さんは家の前で絨毯を広げました。
そしてペンダントをステッキに変えます。
「マジカル・ドリーミング」
そして絨毯の前の方に座ります。
それからわたし達を呼びました。
「さっ、2人とも座って」
テトリちゃんは、わたしがだっこしていくことにしました。
テトリちゃんは軽いから、風で飛ばされちゃうかもしれないもんね。
みんなが座ると、ここが1番大事な時です。
ほうきは自分で助走がつけられます。
だからあとは魔法のバランスを取れば飛ぶことができます。
でも絨毯は止まっている状態からなので、最初は魔法が必要なのです。
「風の精霊、この絨毯を飛ばしてね」
そういってお母さんがステッキを流れるように振り始めると、
ブワッ
風が起きて、絨毯は勢いを付けて浮き上がりました。
お母さんがいっていた通り、風の精霊さんがやってくれたんだよ。
これは自然魔法という種類で、精霊さんの力を借りる魔法です。
こうやって風を吹かせてもらったり、火の精霊さんには火をつけてもらったりできます。
わたしは精霊さんをよく見かけるし、お話をすることもあります。
でもこの種類のやり方を覚えないと、力は貸してもらえないそうです。
精霊さんが大好きなわたしにとっては、早くかけられるようになりたい種類です。
その精霊さんによってステッキの振り方が違うから、難しいそうなんだけどね。
やっぱりとっても素敵に思えます。
後ろを振り返ると、小さくて透明なかわいい風の精霊さんがたくさんいました。
わたし達に手を振ってくれています。
わたしとテトリちゃんも手を振り返します。
お母さんも振り返っていいました。
「手助けありがとう」
そう精霊さんに、ある程度の高さまで飛ばしてもらいました。
ここからはお母さんの力で飛びます。
ステッキを振るのをやめました。
そして絨毯に気持ちを集中しているようです。
絨毯は、わたしはただ乗っているだけです。
だから自分がほうきで飛ぶ時とは全然気分が違います。
こうやって浮いていることが、不思議な気さえするよ。
そしてわたしとテトリちゃんが座っている絨毯の後ろが、ぱたぱたとなびいています。
その音を聞いて、お母さんは困ったようにいいました。
「私の力じゃこんなものなのよね」
魔法の力の強さで、絨毯がどれくらい安定するかが違うそうです。
でもはじっこがなびいていても、お母さんやわたし達が座っているところはちゃんとしているから、気にならないよ。
「お母さんは18歳の時に、絨毯の免許を取ったんだよね」
ほうきは小学校に入ったら、みんな使っていい乗り物です。
でも絨毯は他の人を乗せるためのものなので、練習して免許を取らなくてはいけないそうです。
みんなが使っている物でいうとほうきは自転車で、絨毯は車みたいなものなんだね。
ほうきで飛ぶよりずっと難しいそうだし、まだまだわたしにはとても飛ばせられそうにありません。
「うん。子どもをもらったら、必ず取るきまりになっているもの」
その子どもをもらうっていうのも、天使様から子育て免許というのをもらってからになるそうです。
その人がきちんと子どもを育てられる力を持っているかどうか、神様がみて決めるそうだよ。
だから人によってもらえる歳はちがうそうです。
15歳から17歳の誕生日までの間には、みんなもらえます。
お母さんは高校生になった時と、早くにもらったそうです。
とってもしっかりしているもんね。
でも免許をもらってすぐに使う人はなかなかいないけどって、おばあちゃんはいっていました。
だからわたしの家は、魔法使いの人達の間でも有名みたいだよ。
わたしは、そんなに早くから赤ちゃんを育てるなんてできないなあと思います。
お母さんは本当にすごいです。
それよりもまず自分の練習をしなくちゃね。
「時鳴さんの家には、私が来るきっかけになった猫さんがいるんですよね」
そうテトリちゃんに話しかけられて、わたしは気持ちを戻しました。
「そうだよ。リリーちゃんっていう白猫さん。
テトリちゃんも仲良くなれるといいね」
そうそう、久しぶりだから絨毯に気持ちが向いちゃっていました。
これからリリーちゃんや響香ちゃんに会いにいくんです。
きっと楽しいだろうなって、にっこり顔になりました。
時鳴さん家の玄関のある広いお庭に、絨毯は到着しました。
地面にぴったりつくのはとっても難しいです。
だから少し浮いたところで降りるんだよ。
降りて、お母さんが絨毯を巻きます。
その時に、玄関から響香ちゃんとリリーちゃんが出てきました。
そしてわたし達のところに、元気に駆けてきます。
「いらっしゃーい。待ってました」
そういう響香ちゃんに続いて、リリーちゃんもうれしそうにあいさつをしてくれました。
でも今日のわたしは、言葉がわかりません。
せっかく会えたのに残念だけど、今日はしょうがないね。
もう少しで話せるようになるから、その時にまた来よう。
わたしはそう思い直しました。
そしてリリーちゃんがテトリちゃんを見ているのはわかりました。
そこで元気に紹介します。
「こんにちは。この子はテトリちゃん。
リリーちゃんが帰った後に、家に来たんだよ」
そういうと、響香ちゃんはテトリちゃんを見て、びっくりしました。
「わあ。普通の猫と違うんですね。
まるでぬいぐるみが生きているみたい」
その通りなので、わたしはうなずきます。
「そうだよ。テトリちゃんは元々普通のぬいぐるみだったんだって」
わたしは、ぬいぐるみだった時のテトリちゃんを見たことはないけどね。
響香ちゃんは瞳を輝かせました。
「本当ですか?魔法ってすごーい」
手を伸ばした響香ちゃんに、テトリちゃんはあいさつをしました。
「こんにちは」
そうお辞儀をしたので、響香ちゃんはますますびっくり。
「言葉も話せるんだ。それに礼儀正しいね」
そう話していると、響香ちゃんのお母さん、晴香さんも出てきました。
わたしのお母さんも、絨毯を移動魔法で家に戻し終わっていました。
人の家に置かせてもらったら悪いからね。
わたしの後ろから、お母さんは晴香さんにあいさつをします。
「こんにちは。今日はお招きありがとうございます」
そうお母さんが丁寧にいうと、晴香さんもにっこり笑顔でこたえました。
「いえいえ。こちらこそあれからお招きをするのが遅くなってしまって、すみませんでした。
どうぞお上がりください」
そう晴香さんに手で合図をされます。
わたし達はお辞儀をして入りました。
「おじゃましまーす」
リビングに案内されると、そこのテーブルには豪華にケーキが乗っています。
真っ白のクリームにいちごののった、きれいなケーキです。
響香ちゃんは胸を張って教えてくれました。
「おかあさんはお菓子を作るの大得意だから、とってもおいしいですよ」
わたしはその本当においしそうな手作りケーキに、よろこびの声をあげました。
「わあ、すごーい。
家からもクッキーを持って来ました」
そのクッキーが入っているバスケットを持ち上げます。
すると晴香さんは、そんなわたしに優しく笑ってくれました。
「ありがとうございます」
「せっかくだから、これは後で開けましょう」
後ろからお母さんがわたしにいいました。
そうだね。せっかくケーキがあるんだから、このクッキーは後で食べた方がおいしく感じるかな。
わたしはお母さんのいった意味に納得しました。
わたし達の席に、バスケットを置いておきます。
みんなが席に着くと、晴香さんはケーキと一緒に準備してあったナイフで、4人分を分けました。
半分を4等分したから、算数でいうと、1人分は八分の一だね。
それをお皿に乗せて、わたし達の前に配ってくれます。
「どうぞ」
そして紅茶も注いでくれました。
「いただきまーす」
ケーキが大好きなわたしは、早速喜んでいただきます。
わたしだけじゃなくって、響香ちゃんもお母さんもおいしそうに食べているよ。
手作りだから生クリームがふわふわで、甘くて、とってもおいしいんです。
晴香さんは、ケーキよりも先に紅茶を飲んでいます。
そしてにこにこして食べているわたし達を見ていました。
「そうだ。テトリちゃんもどうぞ」
ケーキがあんまりおいしいので、テトリちゃんにも勧めたくなりました。
でもテトリちゃんは申し訳なさそうに、首を振っていいました。
「私はクリームは苦手なんです。
みかんちゃんがもらってください」
そういわれて、わたしは考えてみました。
なるほど。手がべとべとになっちゃうからかな?
そういえば出会い記念日の時も、ケーキは食べていませんでした。
でもテトリちゃんにも何かおいしさを味わってほしいわたしは、思いつきました。
「じゃあいちごを半分あげるね」
果物ならテトリちゃんも大好きだもんね。これなら大丈夫なはずです。
いちごをフォークで半分に割って、ナプキンの上に乗せました。
テトリちゃんは期待しているわたしを見ると、今度は食べてくれました。
「いただきます」
そしてテトリちゃんは食べると、にっこり笑いました。
「とってもおいしいです」
「よかった」
そういってもらって、わたしもうれしくなります。
そんなわたし達を、それまで黙って見ていた響香ちゃんがいいました。
「あっ!そういえば、今学校に広まっているみかんちゃんの話があるんだよ、おかあさん」
急にそういわれて、わたしはどっきりしました。
何かな?悪い話じゃないといいなあって心配もしてしまいます。日頃の行いに自信がないからかな?
結構みんなに心配をかけたりしているもんね。
「そうなの。どんな話?」
晴香さんが耳をかたむけると、響香ちゃんは元気に話し始めました。
「あのね、なんとみかんちゃんは1人で、いなくなった学校うさぎを探してきたんだよ」
そう聞いて、わたしはほっと一息です。
あの出来事かあ。あれは3週間前のことだったよね。
わたしはあの時のことを思い出してから、ちょっと不思議に思いました。
あれって、クラスの中だけでまとまった話じゃなかったんだね。
「響香ちゃん、誰から聞いたの?」
たずねると、響香ちゃんは詳しく教えてくれました。
「学校に広まったのは、その時のみかんちゃんや、5年3組の人達を見かけた子達からみたい。
その子達が友達に話して、どんどん伝わったんですね」
そう聞いて、考えてみると納得です。
わたしが帰るまで、クラスみんなが中庭で待っていてくれたりしていました。
それでなかなか目立ったかもしれないね。
わたしがそう思い出していると、響香ちゃんはもう1つ意外なことをいいました。
「そしてわたしは、うわさだけじゃないんですよ。
中庭のうさぎさん達によく会いにいくので、彩さんにも詳しく教えてもらいました。
魔法が使えない時でも、魔法使いはやっぱりかっこいいですね」
そうほめられて、わたしは少し照れました。
わたしだけではみつからなくて、たくさんの鳥さんに助けてもらったんだけどね。
彩ちゃんは何て話したんだろ?
響香ちゃんの様子だと、よく話してくれたみたいだね。
そして響香ちゃんは、今度はテトリちゃんを見ていいました。
「その時にテトリちゃんも学校に来ていたんだよね」
そういわれて、テトリちゃんの活躍を思い出したわたしはうなずきます。
「うん。わたしが動物とお話できなかったから、テトリちゃんが通訳してくれたんだよ」
わたしが魔法を使えないからって、ちょうどテトリちゃんも一緒に学校に来てくれていた時のことでした。
だからすぐに頼めて助かったよ。
元気にいうわたしに、響香ちゃんはにっこり笑っていいました。
「もうすっかり仲良しですね。
今の2人を見ていてもわかります」
そういわれて、わたしとテトリちゃんは顔を見合わせます。
そうみえるかな?
だったら、とってもうれしいです。
わたしもテトリちゃんも、にっこりしあいます。
するとそれまで静かにうなずいて聞いていた晴香さんが、響香ちゃんから、わたし達に向き直って楽しそうにいいました。
「響香から、よくこんなふうに、みかんちゃんの話を聞かせてもらうんですよ」
すると響香ちゃんは照れていいます。
「だって、わたしもみかんちゃんのファンなんだもん。
だからこうやって家に来てもらえるなんて、夢みたい」
そう聞いて、わたしは少しびっくりしました。
そしてとってもうれしくなりました。
わたしの知らないところでも、好きになってくれている人がいるんだね。
それってとっても素敵で、幸せなことだなあって思います。
そうやって見られている分、これからもがんばらなくちゃってことだよね。
紅茶を飲みながら、わたしははにかんだ笑顔になりました。
そんなわたしを、響香ちゃんはまた元気に誘ってくれます。
「そうだ!ケーキを食べ終わったら、庭で遊びましょう」
「うん」
わたしは、いろいろな幸せをいっぱいに感じながらうなずきました。