5年生6月編

15─温かい心配

そしてわたし達は、中庭へと戻ってきました。
すると真っ先に、勝子先生に呼びかけられました。
「白石さん!」
声の方を見ると、勝子先生に友子先生、そしてクラスのみんなが揃っていました。
授業が終わっても、みんなで待っていてくれたみたいです。
そして勝子先生がいることに、わたしはびっくりしました。
勝子先生はわたしのところに駆け寄ってきます。
そして真剣にいわれます。
「全く!黙って学校を出て行くなんて!
うさぎ探しなら、先生に相談すればいいでしょう?
幾ら魔法っていう特別な力を持っているからといって…。
先生にとっては、みんなと同じ子どもなんです。
だからあなたが心配なんですよ!」
そのお話を聞いて、わたしはカンさんからの言葉も思い出して反省します。
わたしは魔法使いの自分1人でやった方がいいって思っていました。
でも友達のみんなも先生も、わたしはみんなと同じ仲間だからって思ってくれています。
それがとってもうれしいです。
わたしは反省と温かさを感じながら、勝子先生を見つめます。
勝子先生はほっと息をついて続けました。
「無事にうさぎを見つけてこられたのは良かったですけど。
これからは先生に相談なさい」
そうきびきびと注意されます。
そして最後に、穏やかにほめてくれました。
「……でも今回は白石さん、1人だったのによくがんばりましたね」
その最後の言葉だけ、わたしは訂正しました。
「いいえ、先生。
いろんなお友達に助けてもらったから、見つけられたんです」
高橋さんにも励ましてもらったし、八百屋のおじさんは葉っぱをくれました。
そしてカンさん達鳥のお友達がいなかったら、見つけられなかったよね。
もちろん最初から付き合ってくれたテトリちゃんも。
そんな気持ちを込めて、わたしは大きく頭を下げました。
「勝子先生、友子先生、それにみんなも。
大事なことを、こうわたし1人でやろうとして、ごめんなさい」
そう謝りながらも、気持ちは晴れ晴れとしています。
1人で重くなることはなくって、みんなで一緒に解決しようっていうこと。
それを今日わかりました。
そんなわたしのところに、クラスのみんなが駆け寄ってきました。
「みかんちゃん、心配したよ」
そう真っ先にいったのは、みゆきちゃん。
「ありがとう。トキくんを見つけてくれて。
みかんちゃんに頼もうとしたわたしが1番悪いんだよね」
そうほっとしながらも、落ち込む彩ちゃん。
わたしは手を振って答えました。
「その話を聞いたら、きっと頼まれなくても、わたしが行こうって思ったよ」
そう心配するみんなの中で、健治くんはうなずいています。
「みかんなら、ちゃんとトキを連れてくるだろうって思ってたぜ。
魔法が使えなくても、約束したもんな」
美穂ちゃんはその言葉を確認します。
「本当?健治くん。
みかんちゃんが魔法を使えなかったことも忘れてたじゃない」
「あの時は本当にびっくりした」
そう港くんがつぶやきます。
そしてみんなで楽しそうに笑いました。
??何かあったのかな?
知らないわたしはきょとんとして、そんなみんなを見ています。
あ、そうだ。トキくんをお家に帰してあげよう。
みんなとのお話を先にしちゃって、うっかりしていました。
そう思い出したら、トキくんを地面に下ろします。
するとトキくんはうれしそうに、自分が掘った穴の中に入りました。
そして小屋の中で、家族に迎えられています。
その中で、トキくんはじっとわたしを見ています。
(みかんちゃん、ありがとう。
ぼくのせいで、たくさん大変な目に合わせてごめんね)
そんなトキくんの声が聞こえた気がしました。
「トキくん、うれしそうですね。
みかんちゃんに感謝してます」
そういうテトリちゃんにうなずきます。
それからまだわたしは、お礼をいっていなかったことを思い出しました。
「テトリちゃんも、今日はずっと一緒にがんばってくれて、ありがとう。
テトリちゃんがいてくれたから、できるって思ったんだよ」
そうにっこりと感謝をします。
するとテトリちゃんは、逆にシュンとしました。
「でも私、あんまりお役に立てませんでしたね」
その言葉に、わたしは首を振ります。
「ううん。一緒に探してくれたことが大事なの。
そう考えちゃうのは、今日のわたしの失敗と同じだよ」
そう人差し指を立てて、ちょっと得意そうにいいます。
するとテトリちゃんも笑いました。
そうしたら後ろから勝子先生の声が聞こえました。
「それから白石さん。
さっきの話は終わったとしても、なぜ動物を学校に連れてきているのですか?」
その言葉に、わたしははっとしました。
あっ!そういえばそんな問題もあったことを、すっかり忘れていました。
行きは見つからないように、とっても気を使っていたのに。
トキくんが見つかったら、そのことばかり考えていました。
そんなわたしに、勝子先生は落ち着いていいます。
「自分の家の動物を連れてきたい子は、他にもたくさんいるんですよ。
あなただけ特別扱いできないのは、わかりますね」
「はい」
わたしはよくわかって、うなずきます。
テトリちゃんは、魔法を使えないわたしを心配して、来てくれていました。
でもそれは、わたしがみんなと同じになっただけなんだもんね。
特別に連れてきていい理由にはなりません。
だからわたしは、テトリちゃんに向き直って、それを伝えます。
「テトリちゃん、この1週間本当にありがとう。
これからは、今まで通りお家にいて」
「え?でも…」
そう心配をするテトリちゃんに、わたしは元気に応えます。
「学校にはたくさんお友達や先生がいるから大丈夫!」
それからテトリちゃんにだけ聞こえるように、こっそり付け足します。
「どうしても困った時にはテトリちゃんを呼ぶから、その時は助けにきて」
それでテトリちゃんも安心してくれたみたいです。
「はい!わかりました」
勝子先生も、今までのことは大目に見てくれました。
そうしてすっかり勝子先生からのお話が済むと、友子先生が困った顔でいいました。
「私ったらちっとも気が付かないなんて…。
授業が終わってみんなから聞いた時は、びっくりしたわ」
その時のことを温広くんが教えてくれます。
「放課後に中庭でみかんを待っていたら、先生に見つかっちゃってさ」
でもそれまではみんな、約束を守ってくれていたんだね。
そしてそんなに心配してくれていたことに、わたしは感動しました。
それから高志くんに、心配そうに聞かれます。
「みかん、服があちこち汚れてるけど、何かあったのか?」
その言葉に、わたしは自分の姿を見てみました。
すると本当に、色々なところに土や葉っぱが付いたりしています。
今まで一生懸命になっていたので、全然気が付きませんでした。
わたしは手を振って答えます。
「色々なところを見て回ったからだよ。
何にも危ないことはなかったからね」
本当に何もなかったから、心配をかけないようにしないとね。

そうして今日の大事件は終わって、みんなで帰ることになりました。
もう5時も過ぎて、いつもより2時間も帰るのが遅くなっちゃいました。
お母さん達、心配してるかな?
お日さまが1番長く出ている季節だから、まだまだ空は明るいんだけどね。
トキくんの掘った穴は、先生がしっかり埋めてくれるそうです。
良かった。トキくんの様子だと、しばらくは中庭にも出たくないみたいだけどね。
今は家族に囲まれて、安心して眠っています。
ナラちゃんやミキくん達には、とっても感謝されました。
秋子ちゃんが気を配って、わたしのカバンを持ってきてくれていました。
おかげで教室に戻らなくても、このまま帰れます。
「先生、さようなら」
そうわたし達みんなで、先生にあいさつをします。
「気を付けてね」
「お母さん達が待っていますから、寄り道をするんじゃありませんよ」
そう中庭で友子先生や勝子先生に見送ってもらうなんて、初めてです。
今日は本当に特別な日だなあって実感します。

そしてみんなと、お互い今日のことを話しながら帰ります。
こんなにクラス大勢で帰るのも初めてです。
みんなが気になっていると思うので、わたしが先にお話します。
「それでね、カンさんが鳥さん達をたくさん呼んでくれて、みんなで見つけてくれたの」
「すごーい!」
このお話に、瞳をきらきらさせて聞くみゆきちゃん。
続いて正くんが感心したようにいいました。
「みかんさんだからこそ、できる業だな。
ところで、かえるも魔法使いのことを知っているんですね」
そうさっきお話したところが気になったみたいです。
わたしはうなずきます。
「うん。みんな知っているんだって。
小さな虫さんもね」
だから説明しなくてもわかってもらえるので、とっても楽です。
それから秋子ちゃんがいってくれます。
「みかんちゃんもテトリちゃんも、今日は大活躍だったね。
お疲れさま」
そういう言葉をかけてもらって、わたしとテトリちゃんは清々しい気分で笑います。
そうわたしのお話が終わったら、今度はみんなが教えてくれました。
「健治くんが任せろっていうから、わたし達何も考えてなくってね、すごく困ったんだ。
でも高志くんが魔法の森のことを思い付いてくれて、なんとかなったのよ」
そう美穂ちゃんが話してくれます。
みんなにもそんなハプニングがあったんだね。
「そうだったんだ。
高志くん、すごいね」
そういう場面で、前に聞いたことをとっさに思い出すなんて、わたしだったらできるかな?
高志くんって、頭の回転がいいんだね。
そうわたしが感心すると、高志くんは照れました。
「大したことじゃないよ」
「そうそう、高志はみかんの話をよく聞いてるからさ」
そう右手の人差し指を立てていっていた健治くん。
するとなぜか龍太郎くんに、ガツンとなぐられました。
いきなりだったので、わたしはびっくりします。
優しい龍太郎くんがそう手を挙げることも、めったにないし。
うわあ、グーだし、あれは結構痛そう。
みんなもぎょっとして見ているし、わたしも心配します。
でも健治くんはそのことについて、何も返しませんでした。
今の出来事は一体、何だったのかな?
そう不思議がっているわたしに向き直って、龍太郎くんが付け加えました。
「人の話をよく聞くっていうのは、大事なことだよな」
わたしは落ち着いて、うなずきます。
「うん、そうだね」
自分が話したことをちゃんと聞いてもらえると、うれしいです。
そして覚えていてもらえると、もっとだね。

「じゃあ、また明日ね」
わたしはそう右手を挙げていいました。
ここからはみんなと違う道なので、お別れです。
また明日会えるって、いいね。
今日は大変なことがたくさんありました。
けどお友達の大切さがわかった、いい日でした。
帰りの時間が遅いこともあって、ここから家までは小走りで行きます。
「ただいまー」
家に帰ると、やっぱりお母さん達にも心配されていました。
テレホンカードをもらっているんだから、かけておけば良かったね。
わたしがドアを開けると、3人揃って出迎えてくれました。
「みかん、今日は大分遅かったのね」
そう真っ先にいったのはお母さん。
おばあちゃんはわたしの格好を見ていいます。
「あらあら、久しぶりに土でいっぱいね」
「何かあったのかい?」
そうおじいちゃんにたずねられます。
わたしが説明を始める前に、お母さんがいいました。
「その前に、その服をきれいにしなくちゃね」
すると1番この魔法を得意なおばあちゃんが、ステッキを構えました。
「私がやりましょう」
洋服を元のきれいな状態に戻す魔法。
だから状態魔法になります。
この状態魔法は3人とも使えるので、わたし達の家には洗濯機はありません。
「みかんちゃんの服よ、きれいになーれ」
そう唱えると、わたしの着ていた服に魔法がかかります。
そしてすっかりきれいになりました。
「すごいですねー」
テトリちゃんも、おばあちゃんの魔法の効きように感心しました。
するとおばあちゃんは謙遜して答えます。
「今日付いた汚れだから、簡単なのよ」
でもわたしはそれよりも、別のことが気になって聞きます。
「おばあちゃん、最初からステッキになっていたけど…」
するとおばあちゃんは、わたしが思った通りのことを教えてくれました。
「念のために、すぐ魔法を使えるようにしていたのよ」
おじいちゃんも付け加えます。
「みかんちゃんに危険なことはないって、感覚でわかってはいたけど、やっぱり心配だったからね」
その様子を想像して、わたしは反省します。
やっぱりこれだけ遅くなると、心配かけちゃうよね。
これからはきちんと連絡するようにしなくちゃ。

そしてさっぱりしたところで、リビングに場所を移します。
みんなで座ってから、今日のことを詳しくお話しました。
「それでトキくんは、お家に帰ってこられたんだよ」
「みんなの協力のおかげでしたね」
そうテトリちゃんと2人で説明します。
みんな、わたし達の行いに感心してくれました。
魔法を使えないのに、2人でよくがんばったねって。
学校を早退(?)したことも怒られませんでした。
あ、でもお母さんに注意されたこともあります。
大切なペンダントにそんなことをしちゃいけないって、いわれました。
これからは、もっと他のやり方を考えます。
ごめんね、ペンダントさん。
そうペンダントをなでて、反省しました。
そして話を全部し終わると、1番心配しやすいおばあちゃんがいいました。
「私達に相談してくれれば、すぐに見つけてあげられたのにねえ」
「あ、そうだね」
そういわれるまで、全然気が付きませんでした。
お母さん達は、魔法を使えるんだもん。
ぱっとトキくんの居場所がわかったよね。
そうしたらすぐに帰れて、みんなに心配をかけることもありませんでした。
何で思い付かなかったのかな?
わたしはその時の自分に、ちょっと疑問を感じました。
でもおじいちゃんがいってくれます。
「でもみかんちゃんにとっては、いい経験になったみたいだ。
何でも私達が手助けをすればいいということでは、ないのかもしれないよ」
その通り、1人でがんばろうとしたからこそ、わかったことがありました。
だからこれで良かったのかな。
わたしもそう思えました。
するとお母さんも微笑んでいってくれます。
「そうね。
私達のことをまず考えなかったのは、それだけ自分で出来るようになってきたっていうことよね」
そうなのかな?
わたしは、お母さん達には頼りっ放しなところがあります。
だからそこは友達との場合とは違って、自分で出来るようになった方がいいよね。
そう思ってもらえて、うれしいです。
そしてトキくんのお話とは別に、もう1ついうことがありました。
「お母さん、明日からはまた1人で学校に行くね」
すると思った通り、お母さんは不思議そうな顔をしました。
「あら、どうして?
1人で平気なの?」
わたしはしっかり答えます。
「うん、わたしは大丈夫。
わたしだけ特別扱いなわけにはいかないの」
そんなわたしの様子を見て、お母さんは納得してくれました。
それからテトリちゃんを向いていいます。
「そう。じゃあテトリはひまになっちゃったわね。
明日からはまた、私の仕事を手伝ってもらおうかしら」
「はい!」
テトリちゃんはとっても張り切って返事をします。
お母さんを大好きだから、うれしそうです。
そうみんないい方に解決して良かったです。
そんなわたし達の様子を見て、おじいちゃん達はにっこり笑います。
「みかんちゃんもしっかりしてきたな」
「これなら私達も、安心して帰れるわね」
そのおばあちゃんの言葉を聞いて、思い出しました。
いろいろなことがあって忘れていたけど、今日はおじいちゃん達が来て7日目です。
毎年おばあちゃん達は、この日にお家に帰ります。
そのお別れのあいさつに、わたしが学校から帰ってくるまで待っていてくれる約束をしていました。
おばあちゃん達と、またしばらく会えなくなっちゃうんだね。
次に会えるのは、夏休みに魔法の森でです。
わたしは寂しくなりました。
この1週間、家にはおばあちゃん達がいてくれました。
そして学校にはテトリちゃんが来てくれて、とってもにぎやかでした。
それが明日からは、両方なくなっちゃうんだね。
ほうきに乗って、夜の空をお散歩したこと。
おばあちゃん達のすごい魔法を見せてもらったこと。
サンタさんのお家に連れて行ってもらって、とっても感動したよね。
それがずいぶん前のことのように感じます。
でもわたしは今日のことを思い出して、気持ちをふるい立たせました。
さっき決心したばかりだよ。
おばあちゃん達には2ヶ月経ったら、また会えます。
そしてわたしの周りにはたくさんの人がいてくれることが、よーくわかりました。
寂しいことなんてありません。
そう考えて、わたしは悲しい顔から普通の顔に戻しました。
そしておじいちゃん達にあいさつをします。
「おばあちゃん、おじいちゃん。色々ありがとう。
また来てね」
そういうと、みんなびっくりした顔をしました。
そしておばあちゃんが落ち着いていいます。
「みかんちゃん、本当に大人になったわね。
今までお別れする時はいつも寂しそうにしていたから、実は気掛かりだったのよ」
その言葉に、わたしもびっくりします。
「えっ?そうだったの?」
その時その時一生懸命で、気付いていませんでした。
思い出してみたら、この前リリーちゃんとお別れした時も、落ち込んでいたっけね。
よく考えると、思い当たります。
そんなわたしに、おじいちゃんが優しくたずねました。
「でももう大丈夫だな。
今日はおじいちゃん達を、笑って見送ってくれるかい?」
わたしは元気にうなずきます。
「うん!」
今までの分も、今日は元気にお見送りするね。

みんなで家の前に出ます。
お日さまはもう沈みそうでした。
夕方帰ってきて、それからお話していたからね。
おばあちゃん達はもう帰る準備を済ませていました。
後はほうきに乗るだけです。
「じゃあ、またな」
「次は魔法の森で会いましょう」
そういって浮かび上がる、おじいちゃんとおばあちゃん。
「おじいちゃん、おばあちゃん。元気でね!」
わたしはおじいちゃん達が見えなくなるまで、大きく手を振り続けます。
「お父さん、お母さん、ありがとう」
「お世話になりましたー」
そうお母さんとテトリちゃんも、笑顔でいいます。
そしておばあちゃん達はどんどん小さくなって、夜の空に見えなくなってしまいました。
行っちゃった…。
2人が見えなくなると、わたしは吹っ切れた気分になりました。
だってわたしは、明日からさらに元気でいなくちゃいけないもんね。
テトリちゃんやおじいちゃん達に安心してもらうためにも。
みかんはこれからも、みんなと一緒にがんばります!
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