7.学園生活(続き)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「長旅ご苦労様でした。我がグロスター辺境伯家は皆さまを歓迎いたします」
堅牢な造りの塀に囲まれた大きな門が開き、車が見える前からそこで出迎えてくれていたグロスター辺境伯がみのり屋と王族のギルバート達に礼の姿勢から頭を上げた。年の頃はオルギウス達と同じか少し上くらいで、グロスター辺境伯の後ろには次期グロスター辺境伯である長男家族も勢ぞろいだった。
「皆さまには出発まで迎賓館をお使いいただければと思います」
「急な日程だったというのに、歓迎に感謝致します」
「いいえ、皆さまをもてなす機会をいただき、心よりお礼申し上げます」
少し堅苦しい挨拶を終え、城の説明や晩餐とパーティーのお誘い。準備が出来るまでは迎賓館を使いつつゆっくり寛いでくれと庭などの案内をしながら部屋へと通された。
「貴族・・・」
「城の中に城がある・・・」
「中ってこういう造りになってるのか・・・」
「触るなよ!?いくらするか分からねぇぞ!」
個室に案内されたが豪華すぎて落ち着かないと言い、迎賓館の団欒室に集まって口々に言い合っているのは錬金術師科の平民、もしくはスラム街出身者たち。他学科の三、四年生にはまだ貴族家出身しかいないので、そこまで落ち着かないという事は無いらしい。といっても、貴族にも家柄や経済的事情など千差万別なので、平民の皆と同じように緊張した様子で大人しく座っている者もいた。
「あれ、楽器がある」
「本当だ!ずい分デカいハープだな」
「ああ、先代の辺境伯夫人がハープの名手だったから、きっと当時の物でしょうね」
「僕も家庭教師に教えられたよ」
ローランドが小さなハープ型のゴーレムと共に、シャーリーの七倍近く大きなハープを見上げた。
「これどうやって弾くんだ?」
「ここに椅子を持ってきて座って、こうやって手を伸ばしながら、だね」
「こちらは、弾いてはいけないのでしょうか?」
今回の遠征には、アディ達三人の婚約者であるエラ達も参加してくれていたので、ローランドの婚約者のソフィアが世話係として部屋に残っていたメイドに声をかける。
「現在の辺境伯家にはハープを弾ける方がいらっしゃらないのです。もしもお弾きになられたのなら、当主の辺境伯様は大変お喜びになると思います」
「だって」
「ローランド、弾いてみたら?」
「このサイズのハープは初めてなんだけど、弾けるかな?」
メイドに持ってきてもらった椅子に座り、ハープを構えるとゴーレムのシャーリーが邪魔をするように腕の間に割り込んできた。
「あれ、どうしたの?」
「自分以外のハープを弾こうとしたことに嫉妬したのでしょう」
「嫉妬!?」
「ゴーレムって嫉妬するの!?」
「感情があるんですから、当たり前でしょう。何を言っているんですか」
「当たり前なの!?」
「当り前っていうか、うーん、当たり前なのかな?」
茂もそう言いながら少し考え、頷いて顔を戻す。
「自分がいるのに、みたいな感じでくっついてくるから、魂を持ったゴーレムの正常な行動かも」
「そうだったの!?」
「・・・ザックも、嫉妬をするのか?」
「こくん」
「するんだ!?」
初めて知ったと驚いている錬金術師科たちと、信じがたいと驚いている他の学科生たち。特に、ホムンクルスに強い興味のある教師たちが身を乗り出してきた。
「ホムンクルスにも、そういった感情はあるのですか?」
「主人の幸せだけを願うと、授業では言っていましたが・・・」
「ちゃんと主人の幸せも願ってくれますよ」
「普通の犬猫でも他の動物を触ったら臭い嗅いでくるんだから、そりゃ嫉妬くらいするだろ」
梅智賀が、転弧の飼っている犬たちが転弧を取り合っている姿を思い出しながら言う。
「モモノスケも嫉妬とかするの?」
「するよ。でもどっちかっていうと、拗ねたり、遠くからこっちをジッと見てるとかの方が多いかな」
「そうですね、拗ねたら甘やかしてもらえると思っている節もあると思いますが」
「ねぇー?」
「ブブブ」
茂の膝に乗せられて機嫌よく喉を鳴らしている姿に、愛馬のいるメンバーが納得をし始めた。
「確かに、他の馬を可愛がるとこちらをジッと見て来るな」
「無言なのに圧がすごいですよね」
「そうなのですか?」
「はい、その後好物の果物を持って行って機嫌を取ったりもします」
「拗ねると鞍を着けさせてさえもらえない事もありましたよ」
「馬はそんな風に拗ねるんですね?」
「可愛いですねぇ」笑っている向こうでは、ローランドが初めてシャーリーが嫉妬してくれたと自分のゴーレムを掲げて喜んでいた。
「でも、この中でハープが弾ける人他にいる?」
「楽器は一応習ったけど、ハープはあんま触ってこなかったな」
「私たちの中じゃローランドが一番ハープを弾いてたしね」
そのローランドがシャーリー以外のハープを弾けないのなら、この大きなハープも聞けないかと皆で見上げていると、至が手を上げる。
「なら私が弾いてみてもいい?」
至が変わりに座り、試しに全ての弦を鳴らしてみると美しい音色が部屋に響き渡った。
「弦もしっかりしてる。弾く人がいない割に、ちゃんと手入れをしていたんですね」
嬉しそうに笑って初めて聞く異国の歌と共に弾き始めると、至の足元では日輪が座ってリズムを刻むように尻尾を振る。燃えている尻尾の先の炎がユラユラ揺れて、冬の寒い日に暖炉を眺めているような温かな雰囲気が広がっていく。
至の歌と演奏がそうさせるのか、炎の揺らめきがそうさせるのか。壁際で静かに命令を待っているメイド達でさえその空気に包まれて行った。
「やっぱりイタルの音楽はすげぇな」
「本当ね」
「そうだわ、もしも演奏する時間があったら辺境伯にも聞かせてあげたらどうかしら」
「ああ、今はハープが弾ける人がいないんですもんね」
「このハープは確かに弾けないのかもしれないけれど、それでもグロスター辺境伯家は辺境伯として軍事力もそうだけれど、音楽にはとても造詣が深いお家なのよ」
「そういえば、訓練の時も相当至の歌を気に入っていましたね」
王国には辺境伯家が四家あるが、その中でも一番軍事力に力を入れていたのがスカーレットの実家であるダンマルタン辺境伯家であるのなら、グロスター辺境伯家は音楽に精通していたと言えるのだとファビオラが微笑む。
「私が若い頃はグロスター辺境伯の奥方が開くサロンに音楽を心から楽しむ方ばかりが集っていたのよ」
「へー!そうだったんですか!」
「それなのに今は楽器の弾ける方がいらっしゃらないのは、残念ですね」
「けれど、今でも音楽は好きなんじゃないかしら。イタルの歌もそうだけれど、ハープの手入れも怠っていないようだし」
「はい!すごく弾きやすかったです!」
「隣接してる国が呪われてるし、領自体が暗くならないようにと当時の奥様も気にかけてたのかもね」
「かといって呪われている最中の国からすれば隣が盛り上がっているのは癇に障るでしょうし、気苦労も絶えなかったでしょう」
「そういえば、授業で精霊種とか妖精種って音楽が好きな事が多いって言ってたよね」
「うん、寿命が長かったり魂が精霊とかに近いとか関係あるのか分からないけど楽しいことが好きな傾向が強いよ」
「なら、これから聖国が他種族と交流が盛んになっていったら、楽器の名奏者とかが重宝されるかもね」
「その可能性は十分にありえますね」
「火の民のみんなも音楽とかダンスとか好きだもんね」
「天の民も音楽とか好きだよね」
「結構な割合で自分の楽器持ってる人いるもんね」
「そんなに?」
「うん、笛とか太鼓とか、それこそハープが弾ける人もいるよ」
「そうなんだ。なら精霊種とグロスター辺境伯家って結構相性がいいのかもね」
そんな話をして盛り上がっていると、晩餐の準備が出来たと本館のメイド達が呼びに来てくれたので、長い廊下を渡った先にあるホールへと移動した。
ホールの中は立食パーティー会場として設営されており、王族や国からの要請で隣国への援助に来ている生徒たちをもてなす晩餐会としては失礼なようにも見える。しかし、平民なども混ざっている事を考えると気を使ってくれたのだろうと分かる温かな空間が広がっていた。
「招待いただきありがとうございます。晩餐に制服で参加することをお許しください」
「こちらこそ、急なご招待にもかかわらず皆さんで参加していただきとても嬉しく思います」
ギルとグロスター辺境伯の挨拶が終われば、お互い力を抜いてパーティーを楽しみ始める。
「このソースすごく美味しいね」
「満の作るバーベキューソースの方が美味い」
「デミグラス系とまったく違う味付けだから、それは好みだよ」
濃厚なのにサッパリしてるのは柑橘系の香りのおかげかと料理の研究をしている満と、その隣で皿に料理を一口ずつ取り分けている梅智賀。辺境伯家の女性陣に囲まれて化粧品やスキンケアについて質問攻めに合っている茂と望を見ながら、ファビオラ達もそれぞれパーティーを楽しんでいると、辺境伯自身が至に声をかけて来た。
「メイドから聞きました。迎賓館にあるあのハープを弾くことが出来たと」
「はい、勝手に弾いてしまってすみません」
とってもキレイな音のする最高のハープでしたと言うと、嬉しそうに笑って子供の頃はあの音色がいつでも聞けたのですがと苦笑しながら肩をすくめる。
「私には母の様な音楽の才が無かったのが残念です。息子たちも私に似たのか武の才に偏ったようで」
辺境伯家としてはそれで良いのだが、個人的には一人くらい音楽に才能を発揮してくれてもよかったと思っていると笑う。その隣で、ギルと話していた次期辺境伯である長男が同じような表情で苦笑した。
「私の子供たちはまだ幼いですが、生憎祖母の様な奏者が近くにいないもので」
「才能はなくとも耳は肥えているつもりですが、その特徴も息子たちの代で終わりそうですよ」
今日のようにパーティーをするとなれば専属の楽団を連れて来るが、以前のように音楽に情熱を燃やしている者たちも減ってしまったと小声で呟く。
「今でも十分すごいと思いますが、」
「ええ、もちろんです。今現在、我が家で雇っている者たちは私が直接聞いて選んでいますから」
しかし、昔はもっと花があったのだと、遠い記憶を思い出すように微笑んだ。
「それはもったいないですね?これからもフェアグリン様が聖国に行くときはこちらの領を通るでしょうし、他の精霊種とか妖精種とか、音楽が好きな種族は沢山いますから」
人間種にだって辺境伯のように音楽好きがいるくらいだしと至が首を傾げる。
「そうだ!毎回観劇にも来てくださいましたよね!その中で気に入ったものがあったら演奏しましょうか!」
ひなた達を呼んでもいいのなら歌ってもいいと言うと、「是非!」と親子そろって嬉しそうに即答してきた。
そして、それぞれ違う曲をリクエストした事でちょっとした親子喧嘩が始まる。
「せっかくのご厚意ですよ!これから聖国へも行く親善大使にさえ近い扱いで陛下から直々の任命でいらっしゃってるんですから明るい曲調の物がいいに決まってるでしょう!」
「明るければいいという問題ではないだろう!今まで呪いで閉ざされていた聖国との架け橋を作ってくださったみのり屋という意味でも開かれた国交という意味でもだな!」
「本当に音楽がお好きなんですね」
「ごめんなさいね。主人と長男はどうしても、お母様(先代の女主人)と一緒にいた時間が長くて」
それこそ音楽が身近にあるのが当たり前の中で育ったので、次男以降の他の兄弟よりも思い入れが強くてと辺境伯婦人が至たちに謝りながら声をかけて来た。
「二人とも、王太子殿下に妃殿下だけでなく王太后陛下までいらしているんですから、その辺になさって?」
「そうですよ、何も一曲に絞らなくても構いませんし」
「本当ですか!?」
「みんなもリクエストあったら聞くよー!」
「やったー!」
この日、辺境伯家の楽団員たちが新しい音楽に触れて火をつけられたのは言うまでもない。
そこから二日後、グロスター辺境伯と楽団員たちに猛烈に別れを惜しまれながら聖国へと出発した。
「すごかったね」
「辺境伯家ってみんなキャラ濃いよな」
「風評被害だな」
「我が家は弁明が出来ませんけどね」
ダンマルタン辺境伯家も、方向性が違うだけでキャラが濃い自覚があるとレティが苦笑しながら生徒たちと笑っている。
「でも、あんな感じで音楽とかが盛んな街になってくれたらいいよね」
「ね、天の民も土の民も森の民も、それこそ海の民も音楽が好きな人多いし」
「サラさん達だって賑やかで活気のある街の方が好きだろうし」
「・・・それはそうだろうな」
「あ、帰りにサラさん達の様子を見て行ってもいいですか?」
「天の民と魔族の夫婦だったか。我々も国と学園に報告をしたいと思っていた所だ」
「今後、生徒たちも関わることがあるかもしれないしな」
桃を採りに行って失礼が無いように忠告もしたいし、挨拶もしたいと言ってくれたので帰りにサラ達の様子を見に行くことが決まった。
「あ!もう茨が見えて来た!」
「呪いから解放されても、まだ茨があるんですね?」
「今は呪いじゃなくて、他の国から聖国を守るための防壁だけどね」
「自分のせいで弱体化した聖国への罪滅ぼしで国境を一周してくれてるんだよ」
「そんな事までできるのか」
「妖精種の魔力は底なしか?」
「さすがに上限はありますよ。でも人間種より魔力効率が良いのは確かですね」
同じ魔法を使ったとしても、消費量が全然違うだろうと話していればすぐに検問へと到着した。
「みのり屋様!!」
「こんにちわ、お久しぶりです」
「皆さん御代わりはありませんか?」
「みんなー!みのり屋様が来たぞー!!」
門番として立っていた兵士の若者が声を上げると、街中から住民が出て来て取り囲まれた。
「どこに行っても熱烈な歓迎を受けるな、お前たちは」
「うーん、嬉しいけど、みんなの迷惑にはなりたくはないかなぁ」
自分たちの仕事放り出してないかなと心配しながら手を振って、広場の端に車を止めて下りる。
「お久しぶりです。新しい村での暮らしは順調ですか?」
村長を兼任してくれている教会の神官が出迎えてくれたので挨拶をすると、嬉しそうに笑って頷いた。
「皆さまのおかげで、王都にいる神官たちとも恙なく連絡を取れています」
「それは良かったです」
今まで差別で苦しんできた者と苦しめて来た者で感覚も違うだろうが、今のところ大きな問題も起こっていないらしい。
「今回は学園の生徒たちに特級ダンジョンで経験を積ませるためと、国王陛下より聖国への支援品の運搬としてやってきました。短い間ですけど、滞在をご許可いただけるとありがたいです」
「もちろん、皆さまを心より歓迎いたします。あれから数ヶ月しか経っていませんが、皆で村を支えていました。どうかお声をかけてやってください」
茂たちに対して、ギル達へするのと同等かそれ以上の敬意を持って接している神官たちに驚いている生徒も何人かいたが、そこは貴族として静観に徹していた。
「ギル君たちはこのまま神官さん達と話し合い?」
「枢機卿から書状も渡されてるからね。支援物資と今後について、後王国から巣立った錬金術師たちの近況と確認かな」
「先輩たちどうしてるかな」
「カタリナさん達は、ワットさん達と交代してるだろうし」
「なら今この村にいるのってワットさんって事か」
二、三人で分かれてたけど、三人はどうしてるだろうと卒業していった先輩たちを探すように辺りを見回す。
「彼らなら表の商店街の一軒で店を開いて下さっていますよ」
「そうなんですか!?」
「数日前までいてくださったカタリナさん達に、余っている家を一軒そのまま使っていただくように提案したんですが、」
これから住人も増えるだろうし、後々掃除をするための人手を集めるのも申し訳ないからと、レイモンドとリンクの三人で一店舗を錬金術師の店として造った薬などを店頭に並べながら住民たちに店を開くデモンストレーションの様な事をしてくれていたのだという。
「ワットさん達が来てからは三人で王都へ向かいましたので、今はお二人が店を引き継いでくださっています」
「そうだったんですか。後で顔を出してみますね」
「そうして下さると、あの五人には本当に助けられていますから」
ようやくこの村の教会に就任するメンバーが決まって王国の王都からやって来たが、やはり男女比が均等にはならず、カタリナには助けられっぱなしだったと、ドワーフの老人である神官が眉を垂らす。
「今までの傷だって癒えるには時間がかかるんですから、もうしばらくは踏ん張り時ですね」
「ええ、まだまだ死んでも死に切れません」
ずっと神に祈っていた明るい未来が見えて来たのだからと笑って、ギル達と共に商店街へ向かうのを見送ってくれた。
「こんにちわー」
「いらっしゃー、先生!!来てくれたんですか!!」
「久しぶり、元気そうで安心したよ」
「うわー!薬もポーションもある!!」
「あ!魔導具も造ったんですね!」
後輩の錬金術師たちが店の中を見回している姿に笑っていると、二階からイーサンも降りて来て再会を喜んでいた。
「先輩たちはこのまま聖国で店を開くんですか?」
「いや、それは無いな」
「まず自分たちの研究だってひと段落すら付いてねぇのに」
「村に来る前、クリストファー陛下から各ギルドが聖国に支部を置くために視察に来るって連絡が入ったらしくてな」
錬金術ギルドが来たら支部としてこの店ごと渡すことにしようと話し合っていたという。
「えー、もったいない」
「こんな立派な店なのに・・・」
「まぁ、俺らはもうみのり屋の倉庫型テント持ってるからな」
「自分たちの店を開くならそっちを使った方が絶対やりやすいだろ」
「先輩たちあのテント買ったんですか!!?」
あんな高額商品!と驚く後輩たちに、真剣な表情で見つめ返す。
「特級ダンジョンは儲かるぞ」
「おまけにみのり屋は物々交換をしてくれる」
「素材の卸値を誤魔化したりしないし、状態に応じて最高額を付けてくれる」
「さ、最高かよっ!!」
そんな錬金術師同士のやり取りを眺めている他学科の教師と生徒たちだった。
この日はワット達と神官たちで村への物資配布の割り振りを決めると言ってくれたので、数名の錬金術師が店番をし、他の学科生たちは教師たちと共に村の中と周囲の森へ探索に出かけた。
「畑がこんなに、」
「数ヶ月前に開墾したばかりと聞きましたが、」
「ふむ、水やりを魔法で、」
「優様が魔法を教えてくださったので」
この村は人間種の中でも人間族以外が集まっているので、魔力量の多いエルフも沢山いる。なので日常的な仕事を魔法で肩代わりしても魔力切れで苦しむ者も少ないのだ。こういう所は種族別の利点だなと教師たちも積極的に村人に声をかけながら畑を見て回っていく。
「しっかり育ってますねぇ」
「いただいた作物の種は全て発芽しました」
「こんなに大きい豆が採れたんだよ!」
「今は夏真っ盛りで一番忙しい時期だもんね」
子供たちも畑の世話や文字の勉強などで忙しいだろうに、皆笑顔で走り回っていてとても健康的だ。
「皆さんこの数ヶ月で体もふっくらして来ましたね。前は病的に痩せていましたから、心配していたんですよ」
「それもこれも、全て皆さんのおかげですよ」
もう子供たちも、自分たちも飢えることが無くなったと嬉しそうに笑っているので、この夏に収穫できる作物で保存が効く物と、野生動物から備蓄を守るための倉庫は作れそうかと歩き出す。
「これからひと月内には建築ギルドから大工が来てくれるそうです」
「木材は足りそうですか?斧やノコギリなんかも置いては行きましたけど」
「はい!とても切れ味が良くて!大きな木を倒すのも一刻もあれば出来る程なんですよ!」
「今のうちに冬用に薪を乾かしておいた方がいいと言われて、子供たちだけでも収穫が出来るようになってからは大人たちの仕事として割り振る様になりました」
「そうだったんですね」
それならば今年の冬は寒い思いをせずに過ごせるだろうと笑い、いくつも建てられている薪棚を眺めて食糧庫へと向かっていく。
「ここが余っている食糧庫ですね」
「はい。今の収穫量を見ても、さすがにこの倉庫までは埋められないと思います」
「では、こちらに保存用に加工したお肉を干させてもらいますね」
「おにく!!」
「お肉を持ってきてくれたんですか?!」
神官に案内されている後ろを付いてきていた子供たちが「お肉!」と嬉しそうに声を上げるので笑いながら頭を撫でる。
「あの森ではまだ狩りはできないだろうからね」
「秋の味覚を求めて野生動物が移動してきそうですし、来年にもなれば村で食べられるだけは狩ることが出来るでしょう」
「今回お持ちしたお肉はスタンピードの時に手に入った物ですので、遠慮なく召し上がってください」
保存も効くので、冬の年越しにでも皆で具沢山の豪華なスープか煮込み料理でも作って新年を祝ったらいいと、大量の干し肉やベーコンなどを倉庫に所狭しと積み上げていく。
「教会の地下にも食糧庫がありますが、スペースは空いていますか?豆から作った疑似肉も沢山作ってきましたから、皆さんもしっかり食べて体力をつけてくださいね」
「お心遣いありがとうございます」
ここ最近は皆自宅で食事をするようになっていたが、今日はこの開拓村に到着したばかりの時のように、広間に集まって皆で食事をしようと思うのですがという提案を受け、ギルもレティもファビオラも、全員が嬉しそうに頷いてその案を受け入れた。
日が傾き始めたころ、広場に集まって来た住民たちで手分けをして夕食の準備に取り掛かる。
「陛下、本日の毒見は私は務めさせていただきます」
「今回は必要ないわ。貴方方もみのり屋との再会を一緒に楽しんでちょうだい」
「我々も錬金術師の端くれです。解毒剤の用意もあるのですから」
「寛大なお心とお気遣い、ありがとうございます」
この小さな村で精いっぱいのもてなし料理などたかが知れているというのに、食事を共にすることも毒見さえいらないと微笑む王国の王族に神官たちが膝をついて礼をする。
「アディってあっち側なんじゃないの?」
「今更だろ」
「それが問題って話じゃね?」
一緒に夕食の準備をしているアディとそんな話をしながら、住民たちに囲まれ子供たちと食材を洗っている茂たちに目を向けた。
「シゲル達がどこかの領主とか王族になったら、ものすごく治安がいい国になりそうだよね」
「多分、すごく発展してる」
「スラム街とかないんだろうな」
「天国みたいになりそうだよね」
「忘れるな。領主はシゲルでも治安を維持しているのはアキツだ」
「・・・うわ」
「法律厳しそう」
その会話が聞こえたのか、茂が笑う。
「法律とか作るかな?」
「茂さんの庭を荒らすなら殺します」
「ただの恐怖政治だった」
「天国のルール、怖い」
「天国っていうか、桃源郷になるんじゃないかな?」
天国は死者や神々の住む世界。桃源郷は人がたどり着けるユートピア。
「榊ちゃんが集めたおとぎ話であるんだよ。桃の花が咲き匂う林に迷い込んだその先で、戦から逃れた人たちで作り上げた平和な別天地っていうのが」
仙桃と言う桃が実っているのだと話すのを聞きながら、桃之丞の口にトマトを一切れ入れてあげる。
「そのおとぎ話を現実にしてしまえるのがシゲル、というかみのり屋だな」
「人が頭の中で考えられる事は、現実にできる範疇って言うしね」
まだまだ現実にした事ない物ばかりだがと笑う茂に、錬金術師たちの目が輝いていくのを見て、錬金術師以外の者たちも夢を見るような表情をする。イーラとナルなど、もはや錬金術師と同じように目を輝かせていた。
「あの、そのお話をもう少しお聞かせ願いませんか」
「桃源郷のお話ですか?」
司祭の補助として村に着任した助祭が、興味が湧いたというには真剣な表情で話に入って来る。
「その、以前村の名前を新しく決めた方がいいとご助言頂いたと伺ったのですが、」
「助言という程の事は無いと思いますけど、はい。進言?しましたね」
新しい村なのだし、これから街にも発展するだろうから名前も良いものを付けてねと言った記憶があると頷くと、その名前がまだ決まっていないのだと困った顔をされた。
「皆が良い案を出し合っているのですが、なかなか一つに決まらなくて・・・」
「そうだったんですか?」
「確かに、まだ名前のある村として報告が上がって来ていないな」
アディ達が頷くと、だから新しい名前の参考にしたいと強い口調で乞われる。
「お話としては長いですけど、まとめるとさっき言った通りのお話なんですよ」
その物語がある周辺国では桃源郷と呼ばれているが、他の国では『現実には存在しない理想的な社会や場所を指す言葉』としてユートピアとも言われていた。
「他にもほぼ同じ意味で、理想郷、
気が付くと、助祭の他にも神官や村人たちが話をジッと聞いていたようで、いつの間にか広間が静かになっている。
「とても参考になりました!」
「それは良かったです」
そう笑い、また夕食の準備が再開された。
