7.学園生活(続き)
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新しい学期が始まる前に学園の教師たちと会議室で聖国にて何があったのかを説明し、クリストファーとティアナが自国の都合で自主退学をすると言っていたと伝えると手紙が来ていたと学園長が頷く。
「聖国の根幹に関わる事実が判明したうえ、特級ダンジョンのスタンピードまで起こったんじゃ。これからご自身と向き合う時間さえ取れるか分からんだろう」
学園に通っていた短い時間が、少しでも自分というものを思い出す一因になればいいがと眉を垂らして笑うその表情に、望が笑顔を向けていた。
「私たちもお手伝い出来ることはしてきましたが、これからも見守っていきたいと思います。和ちゃんがお友達と一緒にダンジョンへ潜っているので、もうスタンピードの心配はないと思いますよ」
「特級ダンジョンに潜れる友達とは、?」
「旦那さんと、魔族の方が多いですが光の民の方もいらっしゃいますよ。というか、妖精種と精霊種と言ったらいいんでしょうか」
そのメンバーで二回ダンジョンを突破したら一度今まで冒険をしていた場所へ戻ると言っていたので、今頃ダンジョンの中ではしゃいでいるだろうと笑ってお土産のSランクの魔石を使った魔道具を渡した。
「結界を張れる魔導具です。今回のような事が起こった場合にお使いください。王宮と教会にも同じものをご用意いたしましたので、使い方と連動操作などについても一緒にご説明しますね」
「連動操作?」
「卒業したばかりの錬金術師たちも尽力してくれていますし、聖国の事はもう心配しなくても大丈夫でしょう」
自分たちはこれから新入生たちと、街の者たちの不安を取り除く事を第一に考えていこうと思うと言われ、分からない事はあるが頷いてメイドに合図を送る。すると会議室の扉が開いてクミーレルと共にアディが入室してきた。
「今年から着任いたします、新王宮錬金術師団副団長のアンドリュー殿下です」
「副団長?」
「はい、以前から副団長として勤めていくれていたマウロは私術師団団長の補佐として昇格させていただきました」
一歩後ろに控えていたマウロが微笑みながら一礼して見せる。
「僕が師団副団長補佐だよ」
「俺は副団長の護衛騎士だ」
「なんて頼もしい集団かしら」
「言ってくれたら良かったのに」
この国で錬金術が重要視されて嬉しいと笑い、アディの後ろにいるローランドとガウェインにもこれから一年またよろしくねと声をかけた。
こうして錬金術師科の四年生はスラム街出身者から王族まで勢ぞろいした学年となった。
そして、新入生たちが教室へ案内されて来る。
「今年の一年生はものすごく増えましたね?」
「はい、過去最大の人数です」
いっきに四クラスまで増えた一年生を見て、教師不足が解消するのはもうしばらくかかるなと苦笑した。
「ギャー!!」
「あああーー!!」
新入生たちが身体強化を身に着けるための洗礼を受けている声を聞きながら、何故か今回も参加している王族たちに午後の授業が終わった後の時間を少しもらえないだろうかと声をかける。
「特級ダンジョンのスタンピードで想像以上に沢山の素材を手に入れられたので、皆さまにプレゼントを造ってみたんです」
しかし、個人に合わせた調整も必要なのですぐに渡すことができない。使い方の説明と好みなどの細かな要望も聞きたいので時間を作って欲しいのだと言われ、全員が即答で頷き午後の予定をキャンセルした。
「大丈夫ですか?物はできているので後日でも問題ありませんよ?」
「みのり屋からのプレゼントは国の今後に関わりそうなのでな」
他の皆も分かってくれるだろうと後ろに控えていた文官を一人呼び、城に戻ってからの報告を頼んだ。
「そんなに期待していただいてありがとうございます。では、授業が終わりましたらお一人ずつ飛ぶことへの適性があるかどうかの確認をさせて頂きますね」
「飛ぶ、空をか?」
「はい。せっかくのプレゼントですから、ご本人が喜ぶ物を贈りたいと思いまして」
後、適性があった場合空を飛ぶ時の注意事項もあるので、その時はまた授業形式で説明しますと微笑む。
「個人的には騎士団や魔法士団の方々にも適性を確認していただきたいのですが、それは今後の方針が決まった後でも問題がありませんね。クミーレルさん達が魔導具を完成させて、その試運転でもしながらで、」
「クミーレル、研究はどこまで進んでいる」
「お恥ずかしながら、まだ乗り手の技術に依存する段階でございます」
術師団員は自分で造っているので癖や可能限界を理解している為運転ができるが、何も知らない素人が乗れば死亡事故が起こってもおかしくない段階だと言われ、頷いた。
「プレゼントの説明も、適性の判断に関しても騎士団と魔法士団の見学は可能か?」
「はい、問題ございません。広い場所でないと危険ですので、このような森でよろしければ」
「決まりだな」
ミッシェルとヘレンに士団員はこのまま参加させるよう指示を出して予定を変更させる。
「一度に全員というのは大変でしょうし、今日はまず皆さまの適正を見ましょう」
プレゼント内容と説明は明日からするので、護衛や城での仕事についてもそこで変更してくれと声をかけた。
子供たちの授業が終わり、学園へ戻っていくのを見送る中に学園長がいたので戻らなくていいのかと聞くと、自分も適性があるのか確かめたいというので王族たちと並んでもらう。
「フェアグリン様はもう適性があると判明しているので、」
「え!?」
というか天の民で適性が無いとかありえないのでと、列に並ばなくてもよいと言うとしょんぼりと尖った長い耳が下に垂れた。それを見て金剛が並んだままで構わないと笑いながら頭を撫でる。
「適性はあるが、まだ自分でコントロールができる訳ではない。空へ昇る機会は多い方がいいだろう」
そう言われ、金剛を見上げて表情を明るくしていくフェアグリンを見て、錬金術師たちが声を抑えながら口を開く。
「フェアグリン様、なんか丸くなったよな」
「丸くっていうか、幼く?」
「まぁ、精霊種的には本当に子供だっていうけど、」
300歳くらいって人間でいう何歳になるんだ?と首を傾げる。
「そうねぇ、12歳くらいかしら」
「・・・は?」
「え、でもライアンさん?は60歳って言ってなかった?」
「それは外見の変化ね」
ライアンはそれこそ一度人間として成人まで生きているのでそのくらいの年齢で学園へ入っても大丈夫だろうと判断したまでだと優が苦笑する。
「精霊種は確かに人間種よりも肉体の成長は遅いけど、それでも成人前に肉体が完成するのよ」
だからフェアグリンは成人しているように見えるが、肉体が成長しきっているだけで本当にまだまだ子供。学園に入って来た新しい子供たちの一番幼い子と同じくらいなのだと言われ全員が声を上げて驚いた。
「じゃあモンステラちゃんは?!」
「100歳過ぎってどのくらい!?」
「少なくても十歳未満って事か?!」
それは間違いなく保育室に行ったら可愛がられる!と驚きながら納得している錬金術師科と、その話が少し聞こえてきて驚いている王宮の者たち。フェアグリンは金剛に頭を撫でられて嬉しそうに笑っていた。
「いや、しかし、その幼さで枢機卿とは・・・、」
でも今までしっかりと勤めていたし、フェアグリンが王国で立場を得てから改善した部分も多いぞとオルギウスと学園長に言われ、それはそうだろうと頷きを返す。
「天の民は基本的に皆さん頭が良いですからね。それと精霊種特有の善良さが合わされば人間種にとっても嬉しいことが多いと思いますよ?」
それこそ精神年齢の成長がゆっくりなだけで生きた年数の経験はしっかりと培われているのだ。その経験をどのように使うかという面で安心して見ていられるのは、一歩下がって世の中を見る癖のある天の民ならではだと言われた。
「フーさん達のいる所では光の民の方が沢山の国を束ねるために動いているみたいですけど、光の民と天の民は世の中との関わり方が少し違うのでそれなりに衝突はあるみたいですよ」
「衝突、まぁ、・・・ただ生きていた魔族を怒らせて国ごと呪われたという前例がある程だしな」
「そうなんですよねぇ、その辺は妖精種の方が過激になる方が多いような気がしますけど」
「精霊種だけなら、先に話し合いをしようとするでしょうからね。その時に下手に出ていると足元を見れば同じことでしょうが、そうでなければ素晴らしい知恵者が常に味方と言う状況になります」
現津の言葉に、みのり屋が子供だけの集団でありながら世界中を安全に移動していられたのはその為かと、改めて納得をした。茂たち本人の元々の才能もあるだろうが、その才能をこの年齢で爆速で伸ばすことが出来たのは火の民という知恵者が身近にいたおかげだろう。
オルギウス達が何かを勘違いしていると分かっていて微笑むだけで終わらせた現津に茂も笑い、まずは適性を見ようと進を呼んだ。
「まずは金剛さんと一緒に飛んでいただいて、上空にいる時と地上へ戻って来た時の心理状態と肉体の状態を見ましょう」
「状態?」
「はい、まず空の上へ昇ることに恐怖を感じるかという部分と、恐怖は感じないのに体が拒否反応を示すかを確認します」
「?同じことではないのですか?」
「似ているようでいて、実は全く違うんですよ。この二つ」
恐怖を感じる場合は、そもそも空を飛ぶことに向いていない。
しかし、恐怖は感じないのに体がこわばって思うように動けなくなる事がある。
「この場合、空の上という場所が場所なだけに命の危険を感じ、それが恐怖心へと変化します。なので、空を飛ぶ事への適性が無いとは言わないんです」
こればかりは危機感の問題なので訓練で克服できるかも分からない。というか、わざわざ克服したいと思うかも本人次第なので、そこも見ていきたいと言う。
「なので、まずは金剛さんと一緒に空中散歩をしていただきます。足が付くのも最初は安心感がある事が大事だと思いますから」
「なるほどな」
ではと、一歩前へ出るオルギウスとイーラ、ナル、学園長、フェアグリンが互いに顔を見合わせた。
「皆一緒で構わない」
誰が一番最初に乗るかと不穏な空気を察知した金剛が先に止め、足元へ雲を発生させる。
「ありがとうございます」
「わー!雲だー!」
「乗れるわ!」
「陛下が先だと言っているでしょ」
早々に飛び乗ったイーラとナルが雲の触り心地に目を輝かせているのを、母たちが止めるがオルギウスは笑って許していた。
というか、すでに乗っているとは言えないので今更ながら学園長たちにもにこやかに声をかけて一緒に乗って来た。
「まずは低い位置を。それから徐々に高度を上げていくので、立ち上がらないようにな」
「はーい!」
「わしも並走するから、落ちても気にするな」
「気にはするだろ」
ギルは高度が上がると無理なので皆を見送る為笑顔で手を振っていた。
「楽しかったわ!」
「うん!でも僕そこまで飛ぶの得意じゃないかも」
怖くはなかったが、地上に戻ってきたら足が震えているとナルが言う後ろではオルギウスも同じ状態になっていた。
「なんというっ、もったいないっ」
「悔しがり方がアディにそっくりだな」
「貴方たちは
「僕も高い所が怖いって事は無いんだけど、しょうがないんだろうね」
「危機感がしっかりあっていい事だと思うけどな?」
「オルギウス陛下とナル様は空を飛ぶというよりも移動を中心に考える魔導具がいいようですね。では次にスピードはどこまで大丈夫か見てみましょう」
今度は一人ずつ進のエアボードに乗せてもらい、どのくらいのスピードなら平常心でいられるかを確認する。高度はあまり出さず、森の中を木々を避けながらスイスイと飛ばして戻ってくると、こちらはオルギウスとナルも大丈夫だったが、王妃のマリーと第三王妃のフローレンスが得意ではないという事が分かり、バインダーにメモを取っていく。
「やはり先にご協力いただいてよかったです。これならいらない物をお渡しせずに済みそうです」
その後も空を飛ぶという事へのイメージなどのすり合わせを行って実験は終わりとなった。
「明日は実際にプレゼントする魔導具をご覧いただいて、さらに使用しやすいように改良してお渡ししようと思います」
プレゼントの説明が終わった後、騎士団と魔法士団の適性確認に移ろうと言う。
「我々もこのまま適性検査をしていただけるのですか?」
「はい、クミーレルさん達が造っている魔導具も、いずれ実用可能まで来たら乗りたいと思う方もいるでしょうし」
自分の事を知るというのは今後の事も考えると良いことだと言われ、ヘレン達士団員たちも見学だけでなく参加することが決まった。
次の日、一年生たちの授業が終わり、学園へと見送っていると学園長から聞いたらしい教師たちにも適性検査をしたいと言われたので、この洗礼の儀が終わったら教師たちの適性も見る事となった。
そして、プレゼントとして造って来た物を収納バッグから出して並べていく。
「少々大きいのでお気を付けください」
「これは、」
「メー〇ェだ!」
「〇ーヴェじゃないか!?」
転弧とアディが同時に叫んで三つ出した魔導具の内一つへと駆け寄っていく。
「〇ーヴェ?」
「テントで歌劇を始める前に、錬金術師科でお試しで見ていたお話に出て来る乗り物です」
錬金術師がもういなくなった国で文献だけを頼りに作ったお話なのでほとんど創作だがと説明している傍らで、アディ以外の錬金術師たちも集まって「〇ーヴェだ」「本当にメー〇ェだ」と騒いでいる。
「こちらは基本的に一人乗り用ですが、頑張れば二人でも乗れますね。といっても緊急事態など以外では一人乗りが基本だとお思い下さい」
「そうだな、話の中でも二人で乗っているシーンは緊急時だけだったな」
「ここに乗ることで気流を乱さないようになっているとなると、二人ないし荷物でさえ邪魔になりますね」
「では、この魔導具を使用する場合はマジックバックが必須ですね」
「どういうお話なの?」
「魔物と心を通わせる人間のお姫様のお話ですかね?」
「人間同士の醜いお話でもありますよ」
「テントでは公演をしないのか?」
「できない事はないんですが、」
「あれは映像だからこその迫力とかもあるしねぇ?」
「うん、私もあれは実写よりも映像の方が好きかなぁ~」
人間が演じるとグロテスクになりやすくてと榊が眉を垂らすので、茂も至も公演というより上映をしているのだという。
「ご興味がおありでしたら、次の演目を上映に変更しましょうか」
「いつもとテイストを変えるのも良いかもしれませんね」
それがウケたら他のもやってみてもいいと現津と圧紘が話しているのを横目に、ギルがアディにどうやって乗るのかと聞いていた。
「これ、ベルトで固定っていう事じゃないんでしょ?」
「はい、シゲル持ち上げても大丈夫か?」
「いいよ。Sランクの素材を使ってるから結構頑丈に造れたの。だからちょっと高い所から落としたくらいじゃ壊れたりしないよ」
「やべぇな、マジでメー〇ェじゃん」
転弧の呟きに頷きを返しながら持ち上げ、下にある足の様な突起を掴んで頭上へ掲げた。
「作中ではこのように持ち上げて走り、高い場所から飛び降りていました。そして前方に回転しながらこう、このベルトを支えにこうして水平になるように乗っていましたよ」
「そうそう、それで森に一人で採取に行って魔物と戯れて帰って来るんだよ」
「どんなお転婆なお姫様なの?」
「自分の部屋に隠し部屋も作るかなら、お転婆具合でいくと相当じゃない?」
「タイプでいくと和に近いかもな」
「・・・帰って来るだけマシなのかな」
進の言葉に、魔族たちに怒られながら冒険へ行く和の姿を思い出し、何とも言えない表情でアディの持つ魔導具を見つめるギル。
「プレゼントの魔導具の説明をする前に、どれをどなたに贈るかを説明させていただきますね」
みんながさっきから騒いでいる〇ーヴェは第二王妃のヴァイオレットに。第三王妃のフローレンスには、どう見ても美しい絨毯にしか見えない物を。
そして、
「マリー様にはこちらを」
「これは何かしら、ケープ?」
このケープで空が飛べるのかと首を傾げていると、茂が笑った。
「魔力を通していただけますか?」
言われるがままに魔力を通すとケープの内側に魔力を吸われたのが分かった。
「ありがとうございます。これでこのケープはマリー様の物になりました」
このケープの使い方を茂が見せてくれるのかと思い渡そうとするが、茂は受け取るとそのままマリーの肩にケープをかけてしまう。
「私が学園祭の時に海の民や獣の民の姿になったのを覚えているでしょうか?」
「ええ、もちろんよ」
あの姿を忘れられるはずがないと頷けば、笑顔で見上げて来る。
「マリー様、昨日空を飛ぶ時のお話をしたイメージをもう一度鮮明に思い浮かべていただきたいのです」
昨日、プレゼントの調整に必要だからと質問をされていた時の事を思い出した。昔から何度となく思い描いていた空想。
「鳥のように背中に翼が生えて、自由に空を飛ぶ」
子供の頃から何度となく繰り返してきた空想は、その年月分だけ鮮明に鳥の翼を形作っていく。
「今回のエスコートは僕がしましょうか」
「マリーはゆっくり飛ぶ方が好きみたいよ」
「自分で飛ぶのは今日が初めてですしね」
キリルが笑い、優に頷いてから手を差し出した。
「一人で飛ぶなら助走も必要でしょうけど、今日は僕が引っ張りますから羽ばたくことにだけ集中してください」
「え?」
そこでようやく、自分の背中に真っ白な翼がある事に気が付いた。造り物ではない、自分の意思で動く翼。親にねだって買ってもらった美しい小鳥を毎日観察して隅々まで鮮明に思い浮かべていた、自分の翼。
「動きも滑らかですね」
「やっぱりマリー様にはこっちで正解だったね」
「そうそう、そのまま羽ばたいていてください」
頭は混乱しているというのに、体は驚くほどすんなりと動いていた。まるで生まれた時からそれが自分の一部であったかのように自然に動き、光の翼を持ったキリルの手に引かれて空へと昇っていく。
「わたし、」
「大丈夫ですか?もう少し下を飛びます?」
心配そうに見つめて来るキリルの視線など気づかないように、まっすぐと前を見ていた。
「いいえ!もっと上へ行きましょう!!」
目を輝かせ、更に翼を動かして上昇していく。夢にまで見た水平線は、夢で見た以上に美しく果てなく広がっていた。
『これから数ヶ月の内に子供の頃からの夢が叶う』
魔女の占いが頭を過ぎり、泣き笑いの様な表情で両手を広げて風を感じた。
「アディはオルギウスに似てるけど、マリーにも似たんだな」
「せめて様は付けろ」
「母上も空を飛びたい勢だったんだ、知らなかった」
「子供の頃から小鳥を飼っていたが、自分も飛びたいと思っていたのか」
皆で地上からはしゃいでいるマリーを見上げていると、茂が絨毯へと近づいていく。
「フローレンス様は昨日お話をしていた時、以前私たちがお見せした歌劇の演目に出て来る絨毯をイメージしていらしたようでしたので、」
「やっぱりそうなのね!?これが魔法の絨毯なのね!?」
「実物というよりも、それをイメージして私が造った魔導具ですが」
収納バッグから出したのを見てもしかしてと思っていたのだが、マリーを見て確信したと目を輝かせているフローレンスに笑って絨毯に魔力を通してもらう。
「実はまだ少し迷っている部分がありまして、」
「え?このままでは飛べないの?」
「いえ、飛べる絨毯という意味では完成していますよ。ですが、昨日フローレンス様とお話していて、もしかしてビオラちゃんやあのお話に出て来る絨毯のように、
しかし、茂が手を加えれば間違いなくゴーレムになってしまうので少し迷っていたのだという。
「ですので、もしもこの絨毯がタルパの受肉体かゴーレムになってしまっても良いと思えるかを確認させていただきたいのです」
「え、」
「え?!」
「ずるい!」
「確定ではありませんよ。もしもの話です」
フローレンスよりもイーラとナルの方が驚いて駆け寄ってきたので苦笑しながら更に説明をする。
「私が出来るのは、フローレンス様の声に反応、指示に沿う動きが出来る飛ぶ絨毯を造る所までです。ですが、もしもフローレンス様がそんな絨毯に愛着や意思を感じたら、そのままタルパかゴーレムが生まれてしまう可能性があるんですよ」
ビオラもただの人形としてゴーレムの卵のまま成長をしたのだから、この絨毯もそうなる可能性があると言われ錬金術師たちが頷いた。
「これから長く使っていく魔導具だろうしな。その可能性は十分あるか」
「道具として使われているだけで、ツクモガミになる可能性もあるんだしね」
「なので、タルパだった場合はこのまま魔法士として、ゴーレムになった場合は錬金術の勉強を開始する必要が出て来るんです」
その可能性を考慮して、指示に従うような絨毯にするかどうか決めて欲しいと言われ、即決で改良を申し出た。
「構わないわ。もともとタルパを作るつもりでいたし、もしもゴーレムになったとしても錬金術師が沢山いるんだもの」
宮廷錬金術師団に師事しても、ファビオラのように学園へ通い直しても良い。そう力強く言い切ったフローレンスに、茂も笑顔で頷き改良をしてからまた渡すと絨毯を一度広げてみせる。
「今のままでもフローレンス様の魔力とイメージで動くようにはなっていますが、この絨毯はただの魔導具です」
どんなに大切にしても、主人へその喜びを伝えることはない。
「今日は感覚を掴むという意味で試乗をしていただいて、改良をした状態で明日お渡しいたしますね」
このまま金剛に並走をお願いして乗ってみてくれと絨毯を差し出すと、見た目以上にとても軽くて手触りのいい絨毯だと驚いた。サイズにして一畳ほどの絨毯を広げれば美しい刺繍が施されており、魔導具としてではなくただの絨毯としても十分すぎる代物だと目を輝かせて乗ろうと近づくと、劇中で見たように階段の形になった。
まるでエスコートするかのようなその可愛らしさに、あの話しで見た絨毯と同じように生きているのではと期待してしまう。
眼を輝かせて絨毯に乗り、上空へと飛んでいく母をものすごく羨ましそうに見送ったナルの頭を撫でて笑う進。
そして、茂がメー〇ェへと近づいていく。
「次はヴァイオレット様へお贈りするメーヴェの説明をさせていただきますね」
「ついに伏字もなくなったか」
「これも翼のように動くの?」
「いいえ、この乗り物はこの形状から変化は致しません」
ヴァイオレットは上空へ上がっても体が強張らず、なおかつ高スピードにも反応できていたのでこちらを選んだと、乗り方の説明をする前に魔力を通してもらう。
「ヴァイオレット様は火属性の放出系でしたから、このエンジンも十分力を発揮できると思います」
「えんじん。この本体?についている物の事?」
「はい。メーヴェの乗り方は先ほどアンドリュー殿下が説明した通り、こうやって下の足を持って高地から低地へと地形を利用して気流に乗るというものなんですが、」
常にそういった環境が整っている訳ではないので強制離陸の装置もついていると、メーヴェに乗って足元で操作して見せる。
「やってみていただけますか?」
「、こうね?」
「そうです。今の動作で体に負担や動きにくさなどはありませんか?」
「つま先だけですもの、負担にはならないわ」
「そうですか、では次にここに手をついていただいて、」
マリーやフローレンスとは違い、上空へ行く前に事細かに説明をしている茂と、言われるがまま乗り方のレクチャーを受けていくヴァイオレット。
「大丈夫そうですね。ではまずはエンジンを作動させずに飛んでみましょう」
「え、このままでも飛べるの?」
「はい、アンドリュー殿下の様に滑空するといった感じですが」
「・・・私ってそんなに心配させる程身体強化が出来ていないのかしら」
「いいえ?十分出来ていますよ?」
首を傾げている茂を困ったように見下ろすヴァイオレットに、アディが口を開いた。
「僭越ながら、ヴァイオレット殿下は勘違いをしていらっしゃると思いますよ」
「勘違い?」
「私何か失礼な事言ってた?」
「いや、あの映画を見ていないから仕方がないという話だ」
「?」
「シゲル、先にこのメーヴェがどういった飛び方をするのか見せた方がいいと思うぞ」
先の二人とは全く違う魔導具だからこそ茂も慎重に確認と説明をしているのが分かるのは、錬金術師科の四年生と教師たちだけ。後から合流したクミーレル達でさえエンジンがついているのでスピードが出るくらいにしか分かっていないと言われ、そういう事かと手を打ってからヴァイオレットに謝った。
「根本的な説明が欠けていました、申し訳ありません。この魔導具は感覚で言うと進ちゃんの乗っているエアボードに近い物なんです」
「え」
「こういった魔導具は身体強化に長けていないと乗りこなすことが出来ない仕様なんですよ」
身体能力や空を飛ぶ適性があると思ったからプレゼントにメーヴェを選んだのだが、そのせいで怪我をさせるなど嫌なので細かく確認をしていたのだと言い、先に乗って見せるべきだったと眉を垂らして再度謝罪をする。
「メーヴェが出てくるお話の上映までまだ時間がありますし、ご不快でなければこのまま私が一度乗ってお見せしましょうか」
「このメーヴェには乗らず、試作として造っていた物をお使いになればよろしいのではありませんか?」
「そうなんだけど、あれ出力が高すぎて進ちゃんしか乗れない感じになっちゃったし、」
「やべぇ、絶対魔族の肉体でも耐えられねぇ奴だ」
「大丈夫?参考になる?」
「ちょっと待ってね、今出力を出来るだけ絞るから」
「進、生命霊気は限りなく少なくして流してください」
「おお、もしかしてSランクの素材が耐久力あるから限界まで伝導率を上げたのか?」
それであるなら確かに乗れる者は限られそうだなと言う進に、錬金術師科たちがものすごく気になるけど絶対に造ってはいけないとバインダーにメモを取りながら誓い合っていた。
「よし!これなら大丈夫じゃないかな?」
「心配だけど・・・、乗るのは進さんだし、大丈夫か」
「天心は俺らとここで待ってる?」
「ふるふる」
「一緒に行くの?お前の忠誠心も突き抜けてんね~」
「振り落とされたら大変だから、ここに固定するベルトを付けてあげるね」
豊に手すり部分にベルトで体を繋いでもらっている天心を見ながら、進が茂に乗り方をレクチャーされているのを見守る。
「よし、じゃあやってみるか。天心いくぞ」
「こくん」
天心が頷いて手すりにしがみついたのを見て、生命霊気を流して強制離陸のアクセルを踏むと少し離れて見ていた者たちを吹き飛ばしそうな勢いで風が巻き起こりほぼ垂直に上昇した。
「極力絞ったんだけど、やっぱりあれ進ちゃんしか乗れないかも」
「もう少し手を加えればサボ辺りが喜んで乗りそうではありますがね」
「うーん、フォローできないところで乗られるのはまだちょっと怖いし、属性を固定してカリブーくんが乗れるようにしようかな」
「がんばれカリブー」
「ロギアなら何とかなるカリブー」
「およしよ~~!風で干乾びるか飛び散っちまうかするだろ~?!」
「進様もエアボードで移動することが多いですし、飛べるのは良い事だと思いますよ」
「豊様に乾燥防止の何かを作っていただければ、なんとか」
「大丈夫だよ!人間用のは完成してるからあれを改造すれば魔族用になるから!」
「ススムの従者も大変だな」
仲間たちからどうにかなると、あの爆速で飛び回っているメーヴェに乗せられそうになっているカリブーを見ながら呟く人間たち。
「こちらは人間用ですし、しっかりと出力を落としたものですのでご安心ください」
「とはいえ、あの様にむき出しの状態でスピードが出ますので、最初は乗り方とコントロールの練習が必要になりますから、」
だからエンジンを起動しない状態で飛ぶところからスタートしようと言われ、ヴァイオレットは大人しく頷いてホーキンスが持ち上げた状態で滑空しながら着地をする練習を始めた。進の乗るスピードはともかく、あの様に空を飛べたら気持ちがいいだろうと、本人の練習意欲は高かった。
そして、次はイーラだと名前を呼びながら振り返ると目を輝かせて抱き着いてきたので、笑いながら頭を撫でる。
「イーラ様はヴァイオレット様同様スピードと高所での移動に適応していらっしゃいましたので、こちらのキックボード型をご用意いたしました」
「これ!リックがジョージと乗っていたのと同じね!」
「はい、以前の学園祭で二人がリレーに出ていた時の姿が気に入った様でしたので」
イーラは身体強化の使い方も上手く、すでに足だけで壁などを垂直に歩くことが出来るのでこの形でも大丈夫だろうと判断したと説明を受ける。
「ですが、まだ空を飛ぶという段階までは行かない様に設定しています」
「えー?!」
「まずはスピードを出しても反応できるように訓練をしてからですよ」
それから少しずつ高度を上げていき、その都度どのような危険があるのかを確認していくのが重要だと言われ、渋々頷いて車輪のないキックボードを受け取って目を輝かせた。
「最初は私と一緒に乗ってみましょうか」
イーラに魔力を通してもらい、スピードなどもコントロールは全てイーラに任せる。茂はただ一緒に乗ってハンドルを持つだけだと言い、言われた通りに魔力を通すと地面から30㎝ほど浮き上がった。
「では、前進です。前へ進むようにイメージしながら魔力を流してください」
「・・・進んだ!!」
「このままハンドルを傾ければ好きな方向へ曲がれますよ」
「本当だわ!」
「どうですか?これでもなかなかコツが必要な操縦なんですが、練習をしてゆっくりとスピードを上げて行けそうですか?」
「大丈夫よ!やった!これならどこでも走れるわ!」
「高度が低ければ障害物が多く、空を飛べば魔物や温度や湿度など、気を付けなければならない事が沢山ありますから、ゆっくり慣れて行ってくださいね」
このキックボードは本気を出せばヴァイオレットに贈ったメーヴェと同じくらいのスピードが出る物なので、練習中であってもヘルメットとゴーグルは必須だと言われて豊にサイズを確認されながら装着する。
茂が下りた後も楽しそうに草原を走るイーラを見守りつつ、ナルを呼べば待ってましたと言わんばかりに駆け寄って来た。
「ナル様にはこちらをご用意いたしました」
「エアボードだ!」
「進ちゃんが飛んでいるところをいつも見ていらっしゃいましたからね」
宙に浮くのはイーラと同じ原理。
しかし、ナルは水属性で高所が怖いわけではない。高所での移動が苦手なだけなので、進の使っているエアボードとは少し違う仕掛けがしてあると説明をする。
「ただ、この機能を使いこなすには足でボードを捕まえておく必要がありますから、ナル様も練習をしっかりとしてから本当に空を飛べる機能を付けましょうね」
こちらもまず茂と一緒に乗って機能を確認するのだが、このボードは最高スピードを出したとしてもイーラのキックボード程にはならない。
しかし、キックボードとは全く違うトリッキーな動きをすることが出来る。
「うお!なんだあれ!」
「水だ!水を噴射して高く飛んでるんだ!」
ボードの真下から水を勢いよく噴射して宙へ投げ出される二人だが、茂がしっかりと足でボードを捕まえているので本当に投げ出されている訳ではない。
そして、またボードの下から水を噴射して空中をサーフィンの要領で滑り降りて来ると草原の中心へと降り立った。
「どうですか?このくらいの高さとスピードならナル様の許容範囲内だと思ったんですが」
「っ最高!!」
「気に入っていただけたようですね」
これも危険なのでとヘルメットとゴーグルを付けられ、戻って来た進に付き合ってもらい練習を始めた。
「では、お待たせいたしました」
次は陛下ですと振り返れば、魔導武器を造った時のように立ち上がって前へ出る。
「陛下は以前の剣でも私のロマンに肯定的でしたので、今回もロマンを詰め込んでみました」
「なんでよりにもよって国王陛下に渡すもんにロマンを詰め込むんだお前は」
「同じ土属性の勘がオルギウス様はこういったものに寛容であると言っているので」
「勘」
「はっはっは!まずは見て見なくては何も言えんだろう!」
本人が楽しそうなので他の家臣たちもとりあえずは静観の姿勢で見守っている。それでも何かあった時の為に、ミッシェルとヘレンは茂の後ろに控えていた。
「まず、オルギウス様はスピードに耐性がおありでしたので、ギルバート様と同じスクーター型の移動を基本とした魔導具をご用意いたしました」
「ほう、これは跨いで馬のように乗るのだったな」
「はい、その通りでございます」
今はスピードではなく乗り心地を確認して欲しいと言ってエンジンをかける。
「他の皆さまへお贈りした魔導具のように宙へ浮くのもいいと思ったのですが、この状態ではあえて浮かないようになっています」
「なるほど、だから車輪がついているのか」
「移動ではこのスクーター型の時が一番スピードが出ると思ってください」
「移動では、とは、形が変わるのか?」
「はい、実は以前バザーの時に来店してくださいました時に、」
オルギウスはどの鎧にもしっくり来ていなかったと豊が気にしていたのだと言う。
「あの時も、上からどのような鎧を着ても動きやすいようにとインナーに強めの付与をしておいででしたから、僭越ながら私がオルギウス様に良いのではないかと思う鎧をお造りいたしました」
「よろ、鎧になるのですか?!」
「詳しくお願いいたします!!」
驚いているヘレンの後ろから、錬金術師たちがバインダーを開いた状態で押し寄せて来た。
「どのような形になるか予想が出来ないでしょうから、まずは私が起動するのが筋だとは分かっています。ですが、是非とも初のお披露目はご本人にしていただきたいと思います」
御身の安全のためにも自分がすべきだとは重々理解しているが、今回だけは是非と言われ、疑問も文句も言わずハンドルを握って魔力を通す。
そして、茂の説明を聞きながらスクーターに跨るとゴーグルをつけてエンジンを起動した。
「私も気に入っていただけるかが気になるので、先に鎧の形状をご説明したいと思いますね」
「ああ、私も気になって仕方がない」
「この中心部がスイッチになっていますので、ここに手を置いて、」
「こうか」
「はい、それで大丈夫です。皆さん離れてください!」
覗き込んでいた錬金術師たちが身体強化で離れたのを確認し、魔力を通してもらう。すると、またがっていたシート部分と前後のパーツが下半身を、ハンドルと跳ね避けが腕と肩を覆い、車輪が一つずつ両足の下に来てローラースケートの要領で走れるようになっていた。
それも、もはやどこのパーツなのか分からないがゴーグルだけを付けていた頭部も覆い、本当に全身を守るフルアーマーとなり、
「仮〇ライダーじゃん!!」
「いやあれは戦隊もののが近いだろ!」
「やべー!ニチアサじゃん!!かっけー!!」
「マジで茂の姉御の趣味全開じゃねぇか~~」
騒いでいる魔族の声を聞きながら、驚き過ぎて固まっている錬金術師以下士団員たち。
「いかがでしょうか、動きずらくはありませんか?」
これなら自分で剣を握って戦う事もできるはずと言われ、見上げて来る茂を見下ろして手を開閉してみる。グローブのように動きやすく、それでいて繊細な感覚も損なわれていない感触。そして何より、どんな鎧を身に着けた時よりも踊る心。
「気に入ったぞ」
これ以上に自分に合う鎧は存在しないだろう。
「お気に召したようで何よりです」
笑い返してくる茂の指示で
「おお!意外に安定しているのだな!」
「その状態でも移動はできますよ。あまりスピードは出ませんが」
それでも足場や地形に影響を受けずに行動できるようになるので利点は多いと言いながら地面に降り、足についている車輪でも走ることが出来るという。
「スピードでいくと先ほどの飛んでいる状態よりも早いですね。ですが車輪を使っているので地形の影響を直接受けてしまいます。ですので、二つの機能を並行して臨機応変に使うのをお勧めいたします」
そう言ってエンジンを切ればまたスクーターへと形を変えて鎮座する。オルギウスは静かに立ち上がり、満足そうにシートを撫でながら美しい流線形に見惚れていると、茂が口を開いた。
「プレゼントはこのスクーターでよろしいですか?」
「これ以上の物があるものか」
「では、陛下に合わせて少々改良をしてお渡ししますね」
「改良が必要か?」
「はい、そう感じました。そして、オルギウス様にもフローレンス様と同じ確認をさせていただきたいです」
「同じ、ゴーレムか!?」
振り返ると、真っすぐ見返して頷ずいてくる。
「ファビオラ様は錬金術の知識もなくゴーレムをお造りになりました。アンドリュー殿下も短い期間でゴーレムを造り、ギルバート様はホムンクルスでしたがこちらも平均よりも早い段階で卵が産まれました」
つまり、オルギウスもこのスクーターを大切にすればタルパかゴーレムが生まれる可能性が高い。
「その可能性を考慮して、名前を付けても良いとお考えでしたら性能はこのままにデザインもお好みの物へ一新しようと思っています」
好きな動物や植物、形などに変えられると言われ、ゴーグルを外して頷いた。
「錬金術師ではない私はタルパしか作れないと思っていたが、そうか・・・」
ゴーレムを作ることが出来るのかと微笑んで子供の頃から好きな動物の名を挙げた。
「そうです、学園長先生にもプレゼントを用意したんですよ」
「私にもかい?」
「はい」
そう言って収納バッグから出したのは、藍色と黒の中間のような落ち着いた色合いの尖がり帽子。
「これを被れば空が飛べるのかの?」
「そのままでとはいきませんが、飛ばなくてもおしゃれとして使えるかなと思いまして」
どんな風になるかはお楽しみなので、部屋で一人の時にでも試してくれと言われ学園へ戻った後に自室で帽子を被ってみた。鏡に映る自分を見て、茂が学園祭でアラライラオという毛皮を被って動物へ姿を変えた時の事を思い出す。
そして、空を飛ぶと言われてどのように飛ぶ事を想像するかと聞かれ、子供の頃に読んだ異国の物語で呪われた男の事を思い出しながら話していた。呪いで人の姿を失い、暗い森で一人心細く震えていた男の元へ聞こえて来た囀り。美しい音色と、木々の合間から差し込まれる日差しに輝く羽根。目が合うと、その鳥は美しい羽根を広げて青空へと消えて行く。
そんな少し切ないお話。
今、鏡に映っている鳥が、もしかしたら物語に出てくる男が見た希望の鳥なのかもしれない。
王族へプレゼントが贈られた日から、学園長室から大きな美しい鳥とオーロラが飛び立つのが目撃されるようになった。
「フェアグリン様には良いの?」
「うーん、考えてたんだけど、本人に、前にペンダントをもらったからそれで十分って言われちゃって」
「謙虚~」
「謙虚とは少し違うだろ」
「それ相応の代物だったしな」
錬金術師科の塔ではそんな話があったとかなかったとか。
