7.学園生活(続き)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次の日、ダンジョンへ潜っていく一向を見送って、フェアグリンが復興を手伝おうと王都から共に来た神官たちと話し合っていると声をかけられた。
「フェアグリン枢機卿は、これからどうなさるおつもりですか?」
「私は王都の教会へ戻ろうと思います」
一人でクリストファーと、教皇とその周囲を固めていた神官たちから後継として指名された神官と貴族たちに向かい合う。
イアグルスの唯一の息子と証明された今、枢機卿という立場を鑑みても次の教皇はフェアグリンだ。
しかし、天の民という事が分かり、金剛とサラと話せば話すほど胸に広がる確信。
「私には、教会で神官を務めるのが向いていないようです」
「、それは」
聖国の、イアグルス達への仕打ちが原因だろうかと表情を歪めるクリストファーに笑って、それは違うと否定する。
「信仰心はあります。両親と聖国での出来事に、私の今後の選択は関係がありません」
ただ単に、一つ所に留まり続けるのが向いていないのだと、穏やかに笑って答えた。
「とはいえ私はまだ未成年のようですし、枢機卿としての責務もまだまだ全うしたとは言えません」
だから、500歳になるまでは今まで通り教会で神官として過ごしていこうと考えていると言う。
「500歳になったら枢機卿を辞任致します。その後は、金剛先生のように、母や父のように自由に旅をしながら自分に出来る事を続けたいと思ったのです」
精霊種という事は、寿命がない。まだ天の民としての自覚も少なく、光輪を出すこともできない。人生を通して修行を続けるというが、修行を通してたどり着きたいゴールも、まだどこなのか想像もできない。
「枢機卿としてではなく、神官としてでもなく、ただのいち個人として、聖国を故郷として訪れてみたいのです」
「・・・ありがとうございます」
故郷と思ってもらえるだけの事を何もできていないのにと感謝を示すクリストファーに、フェアグリンは苦笑していた。
「精霊種かぁ。火の民の人たちの事は知ってたし、金剛先生も見てたから天の民の事もなんとなくは分かってるつもりでいたんだけどなぁ」
「森の民は魔法を使う時に魔力が眼に見える形で違うっていうし、やっぱ天の民なんだよなぁ」
でもと、今までのフェアグリンを思い出しながら錬金術師たちが話し合う。
「天の民って食事しないんじゃないの?」
「しない訳じゃないよ。必要ないってだけだから」
「それでも未成年はまだ栄養が必要な時ですもの、普通に食事もするわよ」
「他の種族にしたら少ないかもしれないけどね」
フェアグリンがモリモリ食事をしていたのはそれでかと納得している中、茂が笑った。
「後は、やっぱりお父さんの影響が大きいのかもね」
「お父さん、エルフ?」
「うん、エルフって森の民にそっくりだからよく間違われるけど、お肉でも魚でも食べられるからね」
そして、長寿であるが故の弊害で娯楽が少なくなっていくという理由から、食道楽になる傾向が強いのだという。
「そういえば、グリフェスが聖国を次の拠点に選んだのも海産物が目的だったからって言ってたわね」
「なるほど」
食事を楽しむエルフの特徴が強いから食欲旺盛な天の民が出来上がったのかと皆が納得を示す。
「他の血が入ってない成人済みの天の民でも普通に食事はするぞ」
「私みたいに果物が中心だったりするけどね」
「あいつら満の作った飯なら御代わりもするぞ」
「それは超納得」
満の作る食事以上に美味しいものをまだ食べたことがないと頷きながら、ブロック造りに戻っていった。
町中の道はもう点検も終わってしまったので現津が町の外まで整備をしに行き、茂はこれから開拓村に出来る教会用の満腹地蔵を造っていた。
「皆さんも、使い方で分からない事とかありますか?」
「どんぐりとクルミ以外を入れたらどうなるの?」
「他の物を入れたら、エラーになってお腹からそのまま出て来る仕組みになってるよ」
試しに石を賽銭箱へ入れると、地蔵の腕が開いて本来なら蕎麦が出て来る部分に石が乗っていた。
「ホントだ!」
「皆さんを崇めている国にも、この地蔵を設置なさったのですか?」
海賊たちが皆この”満腹地蔵”について知っていたのはそれでか?と、フェアグリンが首を傾げたので頷いて見せる。
「ワノ国にも寄付をしましたし、ニューゲートさんとカイドウさんにもお贈りしましたよ。ワノ国も人間族の国ではあるんですが、皆さん体の大きな方が多かったですから。サイズ違いでセットって感じでしたね」
この大陸ではまだ必要ないだろうがと、3m近い満腹地蔵を収納バッグから出して見せると、その大きさに子供だけでなく大人たちも驚いていた。
「うちの船にあるぞ」
「これのおかげで食糧問題はかなり良くなったよな」
「食糧庫を漁る奴もいるからな。蕎麦用のトッピングを作り置きしとくだけで被害が格段に減るのは助かったぜ」
「育ち盛りなんだから仕方ねぇだろ」
「いつまで育ち盛りでいるつもりだよ」
「妖精種と精霊種の成人済み分かりずらいなぁ」
「みんなあたし達より十数歳くらい上にしか見えないし、それ以上になってもまだ若い範囲だもんね」
「うん」
「こくん」
「それは今を楽しんでるからかな?」
楽しくても金剛のように壮年の姿でいる者もいるので一概には言えないがと笑っていると、何人かの魔族がクリストファー達に満腹地蔵の扱いには気を付けろよと忠告し始める。
「ワノ国ではオデンが最初から屯所を作って国中に設置したからあんま被害出ねぇで済んだが、何度か盗まれそうになってたぞ」
「盗まれるのもそうだが、屯所の責任者が横領とかザラだったからな」
「ただのどんぐりなのに、横領するのがすごいよね」
「ドングリがただでも価値が出来ちまえば独占する奴が出てくんだよ」
「横領!?」
「どうやって!?」
「そこら辺に落ちてるのに?」
ワノ国では、満腹地蔵を屯所の建物の中に設置して管理していたのだが、利用者が持ってきたドングリやクルミを一度職員が預り、個数を誤魔化して引換券を渡すという事例が多発したのだという。
「一度引換券にしちまえばいつまでも腐らねぇからな。いざ食糧難にでもなりゃ確実に食事が出来るんだ。実際の金よりも高額で取引されんだよ」
「まったくなぁ、茂ちゃん達がそういう時の為に作ってくれたってぇのによぉ」
「ちゃんと捕まえたんだろうな」
「当り前ぇだろ」
「つうか、不作とかそういう時の為に大名が年貢だっつっていくらか納めさせてたってぇのに。いざ引換券で配ったら中抜きして町民を飢え死にさせた奴もいたし、権力持つとマジで碌な事しねぇな」
「みんなそういうの気づくの早いよね」
この地蔵一つでそんな事件が起ったのかと驚いている人間たちだったが、和が見上げて聞くと全員が当り前だろと返す。
「拠点置いてる国だぞ」
「人口が減ってたら数が数えられねぇ動物でも普通に気づくわ」
「久しぶりに立ち寄ったらなんか活気がねぇとか、一発で分かるだろ。そりゃぁ」
百獣海賊団だけでなく白ひげ海賊団の皆も同じことを言うので、そういう視野の広さはやはり妖精種と精霊種はすごいなと頷いてしまう。
「オデンの奴も、それを見越して定期的に見回りも決めてたみてぇだが、そいつと屯所の責任者が癒着してりゃぁ発覚も遅れるわな」
「特に内陸はなぁ。海沿いとかなら俺らみてぇに外から来る奴の目もあるし、物珍しがって使いたがるよそ者もいるから騙された奴以外は結構無事だったけどな」
「ま、それもお前さんらが前に来て屋台出した事で大分牽制できたみてぇだよい」
「え?」
「そうだったんですか?」
「そりゃぁそうだろい」
制作者が来たんじゃ誤魔化しようがない上、一杯の蕎麦にトッピングで付加価値までつけてしまったのだからなんとなく不信感を持っていた市民が声を上げるのも当然。
「フジミヤ達も、自分で見て歩けて喜んでたじゃねぇか」
「あれって単純に城下町の外に出られたから喜んでたとかじゃないんですか?」
「まぁ、それもあるがな」
和一人の場合、百獣海賊団や付喪神たちが人里の中に入れたがらないし、本人も街に行くより冒険を優先するのであんな経験は初めてだったんだろうと笑っているマルコ。
「ま、なんにせよすでに横領と盗難の前例がある。これ一つ盗めば、文字通り一生食うに困らなくなるんだ。保管と取り扱いには気を付けろよい」
「肝に銘じておきます」
「そんなに大層な扱いしなくてもいいような気がするけど、」
「盗まれてしまえば住民の怨念も深まりそうですし、用心するに越したことはないと思いますよ」
それでなくともこの土地は魔力が貯まりやすいので、そういった餓死などに繋がりそうな問題には大げさすぎるくらいが調度いいと現津が言う。
「貯まる一方なら私が対処しようかと思いましたけど、ダンジョンを作って均衡を保とうとしているようなので、これはこれで良いんでしょうね」
気を付ければ問題なく人が住み続けられる場所だと望が微笑んだので、それなら教会の一部に地蔵を置く小屋を建てさせてもらう事にした。
扉付きの小さな
「これで大丈夫かな」
「まさかドングリでんな事になってるとはぁなぁ」
「あ~、ワノ国には、茂が改良したデケェドングリとクルミが生えてるからな」
ちょっと話が違うような気もするがと百獣海賊団が口ごもる。
「改良?ドングリをか?」
「うん。私が見つけた奴だよ」
「精霊種には土の民がいるでしょう」
「土の民?」
現津が幻術で土の民を作って見せると、聖国の者たちが国の過去に出て来た男だと呟いた。
「彼らは物作りに特化しており、好奇心旺盛で旅行好きです。そして、成人するまでは家で両親、もしくは祖父母、親戚、場合によっては先祖と過ごし、その年長者たちの知識と技術を継承しながら育てられます」
そうして500歳になり、成人した暁には独り立ちとして旅に出て、家を作った場合はそこを拠点に一生の半分以上を旅に費やす。
「なので知識量が他の精霊種よりも多く、研鑽されている場合がほとんどです」
「今の知識では考えられない程発展してた国が一夜にして滅んだとか、どこにでもそういう伝説はあるだろ。ああいう話しには基本的に土の民が関わってんだよ」
「茂じゃねぇか!」
「私国を滅ぼしたりしてませんよ?」
「本当ですよ。茂さんを何だと思っているんですか」
「そこじゃねぇよ!」
「ありえねぇ程発展させる部分だよ!」
「土属性ですからな。似ている部分があってもおかしくはありませんよ」
「そうですね。土の民は喫煙者が多いのでそこは当てはまりませんが、皆大らかで助けを求めれば基本的に快く応えてくれるでしょうね」
「いなくなった後、膨れ上がった自尊心と制御の効かなくなった国家が、開発した兵器で破滅するのは土の民には関係ねぇだろ」
「そうだとしてもだよ!」
「危ねぇー!
「いても一人が限度だ!」
「たまに尋常じゃねぇ天才とか人間種でもポップするからなぁ~、そのレベルが普通の土の民が何人もなんざ手に負えるか!」
「個人的にはいつかお会いしてみたいんですけどねぇ。多分話が合うと思うんですよ」
「相乗効果でナニ作り出すか分かったもんじゃねぇな」
「この国の過去を見た限り、近くに土の民の家があるようですし、その内戻ってくるとも言っていましたから、その時にこの国を訪れて満腹地蔵を見ればしばらくは居座ると思いますよ」
そうなれば茂のようにドングリやクルミを改良して国に貢献してくれるだろうと言われ、スタンピードから救われたばかりなのに他にも爆弾が潜んでいるのかと落ち込んでいるクリストファー達。
「そこまで心配する事はない。土の民は善良な者たちだ。こちらが自制心を失くして彼らの好奇心に全てをゆだねなければ良き隣人になる」
「茂たちだって善意でここまで復興の手助けしてんだから同じだろ」
「あれだろ?こいつらまだみのり屋の生活見た事ねぇんだろ?」
あの生活水準の高さを知れば少しは理解が出来るかと妖精種と精霊種が話し合う。
「こいつらの生活水準はすこぶる高ぇ。お前らの文化がどんなもんなのかは知らねぇが、とにかく想像の斜め上を行ってると思え。その生活水準を個人的に楽しむのと、国っつう規模で維持すんならどっちが難しいと思う」
「それはもちろん、国です」
「その違いが、こいつらには些細な問題だって話だ」
現に復興前、茂たちは町をその基準に整備しようとしていたのを思い出し、聖国の者たちは開いた口が塞がらない。
「それがみのり屋にも、土の民にも容易に出来るという事か。なるほど、理解した」
「錬金術師は理解が早くて助かります」
頷いているのはアディを始めとする錬金術師たちだ。そして、王国から来た神官と使節団のほとんども頷いているのを見てすでに何かやったんだなと気が付くみのり屋関係者。
もしも聖国に土の民がやって来た場合はセレスタンが対応、助言をくれるという事でひとまず落ち着き、茂は王国に戻った後教会と孤児院にも寄付しようと地蔵を量産していく。
「茂の姐さんも大概だな。お前ぇらがワノ国を非加盟国にしときてぇ理由がなんか分かったぜ」
みのり屋の存在を政府に知らせ、秘密裏に迎え入れればそれはそれで表面上は変わらないのではないかと思っていたが、これはそんな簡単な話ではないなとアラマキが頷く。
「お前ぇらマジでワノ国にちょっかいかけんなよ。赤犬と黄猿が手を回してんのかもしれねぇがな」
「200年前に白ひげと戦争したばっかだってぇのにんな余裕あるかよ。俺一人で行けってんなら行くが、組織がらみはめんどくせぇ決まりごとが多くてな」
「テメェ一人でうちとやり合うってか?ああ?」
「陸地を拠点にしてる海賊が俺に勝てると思うか?らははは!」
「魔族ってすぐケンカするね」
「血の気が多いっていうか、そういうコミュニケーションっていうか、そんな感じかな?」
「ドワーフの国に行った時もこんな感じだったな」
「アラマキさんとカイドウさん達って仲悪いの?」
「悪いっていうか、敵対組織?っていう感じかなぁ」
アラマキが犯罪者を捕まえる組織の人なら、カイドウとニューゲートは犯罪者を犯罪者のルールで潰しているからと和が考えながら言う。
「だから、アラマキからするとカイドウ達も一応捕まえる範疇の人になるみたいな」
「・・・なるほど」
「一般市民としてはどっちにもいて欲しいわね」
「やっぱある程度は自衛できねぇと危ないよな」
「なぁ、ちょっと思いついたんだけどさ」
イーサンが声をかけたので、つい数日前卒業したばかりの錬金術師たちが集まって話し出すのを横目に、進が昼寝をしてくるとテントへ歩き出す。
「あ、ティアナ。風呂に入るか?」
「よろしいのですか?」
「ああ、いいぞ。今日は森で寝てもよさそうだしな」
最近夜も忙しそうで決まった時間に寝られてないんだろと笑いかけてから、天心を肩に乗せて森へと向かっていく後ろ姿に見とれてしまう。
「進ちゃん、いや、うん。そりゃそうだわな」
「俺より女にモテるっ」
「好きなだけ泣け」
「慰めろよ!」
じゃれ合っている白ひげ海賊団には気づかず、女性神官とモネに声をかけて進の部屋についている立派な風呂へと向かった。
「すぐにタオルとお着替えをお持ちいたします」
「ありがとう。私の事は気にせず、ここに置いておいて」
「はい」
脱衣所を出ていく神官とモネを見届け、服を脱いでいく。後は肌着だけとなった所でノックがされた。
「進ー、いる?」
「っ、あ、あの!今ここにはいらっしゃいません!」
「あ、ティアナか。驚かせてごめんね。進どこにいるか知らない?」
「っ森で、お昼寝をすると、おっしゃっていました」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
和の足音が遠ざかっていくのを聞き、安堵のため息が漏れる。
驚きと緊張で早鐘を打つ心臓を落ち着かせていると、扉が開いた。
「、失礼しましたっ」
タオルと着替えを持った女性神官が、もう風呂場へ移動していると思ってしまったと慌てて謝罪をするが、固まっているティアナを見て小さく悲鳴を上げる。
肌着から見える白い肌に広がる無数の痣。
「何かありましたか?」
悲鳴を聞き、モネが入って来た事でティアナは座り込む。まるでこの世の終わりのような表情で力無くへたり込んでしまった姿に駆け寄り、その体中に広がる痣に驚いた後ほころぶ様に微笑んだ。
「ティアナ殿下は神に愛されておいでなのですね」
「、え?」
何かの皮肉だろうかと回らない頭で声を絞り出すが、モネの顔を見て緊張が解けた。
「マスターに惹かれる理由が分かりました」
進の名前とモネの言葉に、自分でもどうしたら良いのか分からず泣きじゃくってしまった。そんなティアナにバスローブを着せ、放心している女性神官にも声をかけて一度脱衣所を出て大きなクッションに座らせる。
「温かいお茶をどうぞ。貴女もご一緒に」
「で、ですがっ」
「いいの。座って」
ティアナにも同席の許可を出され、柔らかいラグの上にクッションを使って腰を下ろした。
「確認なのですが、この国での神が天の民のイアグルス様であるのなら、それ以外の神はいないという扱いなのでしょうか」
「い、いいえ。聖女様は世界創生の神から遣わされた尊い、神の化身という扱いをされています」
なのでイアグルスが神の一面であり、世界創生の神の一部として考えられていると答えると、頷いてゆっくりと口を開く。
「私たち精霊種にとっての神は母代樹です。世界樹とも言いますが、神と言っても世界樹は大いなる力の中に生えている樹なので、この大いなる力を神と呼ぶのなら世界樹は神から遣わされた尊い神の化身、とも言えるかもしれませんね」
分かりやすいようにティアナが使った言葉を交えて説明をすると、二人とも頷いたので理解は出来たのだろう。
「その母代樹から一番最初に生まれたのは火の民です」
「火の民、モンステラさん達ですか?」
「そうです」
植物でありながら自身の天敵に成りえる火を与えられた種族を一番に生み出した。自身が焼けてしまおうが、これから生まれてくる種族には必要だからと、そんな優しさから生まれた精霊種。
「母代樹から最初に生まれた火の民には痣がありました」
「痣が?」
「はい。痣はなくとも他の精霊種も授けられた力が具現化します。天の民であれば光輪であったり雲であったり、」
光の民である自分にもと言って背中から光の翼を出して見せ、魔族にも額に浮き上がる痣があったり、肩から噴き出す黒い炎があっただろうというと、思い出したのか納得してくれた。
「痣とは母代樹の力を強く受け継いでいるという証なのです」
「では、みのり屋の皆さまの、」
「はい、創設の九名はもちろん、現津様と梅智賀様も痣がございますよ」
「そうだったのですか?」
「この大陸へやって来てからは痣について言及されることがありませんでしたが、国によっては何が描かれているのか分かるほどはっきりと濃く浮き上がっている痣は”神のお気に入り”として権力者などに狙われる場合もあるようです」
それでなくとも梅智賀は分かりやすい場所にあるので、痣の由来を知らない者にも珍しがられてしまうので幻術で隠しているのだと説明され、ティアナも神官も少し落ち着きを取り戻したようだった。
「この国は長い間サラさんが呪っていましたから、痣が魔族、悪魔に繋がる特徴として赤毛同様忌避されてきたのかもしれませんね」
「・・・良かったっ」
そう泣きながら安堵し、生まれた自分を見て母がショックで弱ったまま死んでしまったという話を聞き、そんな事になっていたとは知らなかった女性神官も涙ぐみながら悲鳴を上げてしまった事を謝罪する。
「良いのです。私も、この国も、あまりにも無知であると痛感しました」
みのり屋の皆にも痣があると知っていたのに、自分の常識に囚われていたと涙を流すティアナに柔らかなタオルを差し出して涙を拭う。
「クリストファー殿下はその痣について知っていらっしゃるのでしょうか」
「はい。兄だけが、この痣を見ても恐ろしくないと、言ってくれました」
「そうだったのですか」
ティアナは今14歳。まだ安定していない心と精神で痣について背負うのは大変だっただろうと慰め、もしも勇気が出たらみのり屋の誰かが入浴をしている時に一緒に入ってみると良いと微笑む。
「皆さんの痣は絵のようでとても美しいですよ。きっとティアナ殿下の痣もなんの形をしているのか教えて下さるでしょう」
「私のはインクが飛び散ったようで、絵とは程遠いものですが・・・」
進のような痣であったらと何度思ったことかと呟くティアナに、今日は入浴の介助をさせてもらいますとモネが一緒に立ち上がった。
「茂様、今お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「いいよ。どうしたの?」
現津と共に森で何本かの木を伐採していた茂に声をかけ、先ほど起こった事を話す。
「あ~、痣かぁ。確かにねぇ」
「赤毛が娼婦の子供の証とは800年前から言われていたようですが、赤目赤毛が悪魔の使い魔となったのはライアンが発端でしょうし、何か事件が起これば因習へ繋がってもおかしくはないでしょうね」
「そういえば王国でも痣の話はしたことが無かったね?」
もしかして王国でも意味のないものか避けられるものとして伝わっているのだろうかと首を傾げる。
「ここは母代樹が根を下ろした世界だから、痣にもちゃんと意味があるんだけどね?」
「霊樹が贈られた世界でさえそこまでの力が出ずとも意味があるのですが、その区別がつかないというのも”人らしい”と言えばらしですね?」
ティアナの名は伏せて痣について相談したのだが、二人は特に気にせず話し合う。
「でもそっかぁ、痣も避けられる理由になりえるんだ。ちょっとそれは盲点だったよ」
宗教国家でこの話をするのはどうかと思うが、イアグルスが精霊種であると皆が知った今なら痣の話をするのにも調度いいかと頷いた。
「歓迎会の時にでも話してみようか」
「ありがとうございます」
深く礼をして、モネも仕事へ戻っていった。
次の日の夕食は、魚介類をふんだんに使った食事が作られた。
ようやく落ち着いてきたという事で、改めて聖国の郷土料理も並べられて王国から来ている使節団の歓迎会も兼ねている。
「わぁ!美味しい!!」
「キュキュッ」
「良かったなテオ、デカいエビがあって」
「ルルル!」
「御代わりか?」
「イヴも?」
人間もホムンクルスも、海の幸をとても喜んでいた。
「クリストファー殿下、アディくんも、お疲れ様です」
「こうして生きていられるのも皆さんのおかげです。本当にありがとうございます」
「聖国とは今後行き来がしやすくなるでしょうから、またいつでもいらしてください」
「はい、必ず」
「こちら、榊ちゃんが書いた今回の事が書かれている小説です。よろしければどうぞ」
「よろしいのですか!?」
「はい、と言っても複写ですが」
原本は自分たちが持っていくと言い、きちんと製本されている本を受け取って表紙を見つめる。
「ありがとうございますっ。もう、このような事が起こらないよう、我々が犯した過ちも全て後世へ残そうと思います」
「小説として歴史をまとめたのか。面白そうだな」
閲覧した後押印をしてしっかりと図書館で保管しておこうと、セレスタンが眼鏡を光らせながらクリストファーと共に本を見下ろした。
「そっか、セレスは本を読んだりするのが好きなんだね」
管理をしているのだから嫌いではないと思っていたが、好きなのかと和が見上げて来る。
「私の日記なんだけど、テントに置いてるの読んでいいよ」
「日記なのに!?」
「さすがに最近のは恥ずかしいから置いてないけど、昔のは良いかなって。みんなとどこに行ったかとか思い出すのも楽しいし」
「主の日記は日誌の側面もあるからね」
「作戦の詳細が書かれていたりもして、考察もしやすいんだ」
「ほう、それは面白そうだ」
復興が落ち着いたら聖騎士たちの編成の参考にしたいと刀剣の付喪神たちと話していると、脇差と呼ばれる少年とも青年とも取れる外見の神々に囲まれた。
「主様の作戦や部隊編成はとても参考になると思いますよ!」
「ただ対魔物戦みたいなのがほとんどですから、対人戦なら僕達に聞いて下さいね」
「主さんの所に来るまでは対人戦が主だったからねぇ」
「いいか、一ノ巻を読む時は絶対に一人で部屋に鍵かけてからにしろよ」
「鍵?」
「心が元気な時だけにしてくださいね。それと、自分の中できちんと飲み込めない内は人と会ってはダメですよ」
「一ノ巻以外はすごく面白いから同じ感覚で読むと精神がズタズタになるよ」
「・・・どういう事だ?」
怪訝そうにするセレスタンに、主にも色々あったんだと言っているとドレークが正面から両肩を掴んで真剣な表情を向けてきた。
「絶対にっ!軽い気持ちで読んではいけない!!」
「まさかドレークのトラウマになっちゃうなんて思わなかったんだよ。ごめんね」
「和は何も悪くないっ」
「こいつは先に他のを読んでたのが原因だろ」
「ただの冒険譚から読みだしたからな」
「あいつしばらくワノ国にさえ近づかなかったな、そういや」
「自分を抑える自信がねぇって泣きながら仕事代われって言われた」
「しかたねぇよ」
セレスタンを説得しているドレークを見ながらヒソヒソと話している魔族たちは置いておき、茂がもう一冊の本を収納バッグから取り出してクリストファーに手渡す。
「これは精霊種の皆さんが考える神様についてまとめた本です。イアグルス様を聖女として祀っていくのでしたら、イアグルス様がどういったお考えで日々お過ごしだったのかを知るのも良いのではないでしょうか」
言ってはなんだが、800年前の教会はこの部分を見落としていたように思うと眉を垂らした。
「イアグルス様はとても素晴らしい方でした。その生き方に感銘を受けて信仰していた聖国の皆さんも素敵だと思います。ですが、どこかで噛み合わなくなってしまった時に基本に戻って考えてみるというのも、大切なんじゃないでしょうか」
もしもそうであったのなら、きっとイアグルスだけを崇め、それ以外を排除するという考えにはならなかったかもしれない。こればかりはただの希望的観測だが、クリストファーがその過去を過ちだと考えるのなら、基礎知識という物はこれからとても重要になってくるだろう。
「ありがとうございます」
間違いを犯したが、信仰を続けて来た自分たちを否定はせず、止めもしない茂に深く感謝を示して本を受け取った。
「そういえば、火の民も茂たちとは違う神を信仰していると言っていたが、どんな神を信仰しているんだ?」
「王国でもイアグルス教は国教だし、アディくん達も知ってた方がいいかもね?」
もう一冊、クリストファーに渡したものと同じ本を出して開き、アディ達だけでなく他の者にも聞かせるため現津が町を覆う幻術を展開した。
今聖国にいる人間たちが全員で手を繋いで囲んでも足りない程太く、空を覆い尽くすかのように茂る何万枚もの葉。けれど、太陽の光を遮ることなく、木漏れ日として根元にいる者たちにまでしっかりと柔らかな明かりを届けてくれる、そんな巨木が現れた。
『ここがまだ人の住める場所ではなかった頃、世界樹の化身として現れた一本の巨木』
大いなる力の中で逆さまにそびえ立つ世界樹は、その葉が重なる様に下へ新しく根を伸ばして化身を作り光の円で自身を覆う。
そして根を広げる中で何度も葉が落ちて土を作り、輝く水と風を生み出していく。それを何度も繰り返していく内に世界樹の化身の根元は島になり、海に囲まれ海底火山が何度も噴火して新たな島を生み出した。そこでようやく、植物が芽吹く。
美しい植物たちが満ちた世界に、世界樹の化身から動物たちが生まれていく。その様はまるで生命の母のようだった。
こうして世界樹の化身を母の代わりに世界には命が溢れ、ついに巨木の根元から人が生まれて来る。褐色肌の白髪で、背中に黒い翼と炎を背負った数十人の男女には植物のような痣があった。
火の民の次は闇の民、光の民、土の民、天の民、海の民、獣の民、最後に生まれて来たのは森の民だった。
精霊種の子供たちが母代樹の下で共に成長し成人すると、今度は妖精種が生まれて来る。生まれて来た新しい弟妹を抱き上げると、額に美しい冠のような痣が現れた。魔族の他にも続々と妖精種が生まれ、その子供たちが成人すると人間種が生まれ始める。
しかし、人間種たちを全員この島で育てるには狭すぎた。なので空を飛べる精霊種たちが幼い弟妹を新しい島へと連れて行き、そこでの生活が安定するまで共に過ごす。妖精種たちも遊びに来ては他の島で見つけた面白いものを人間種たちへ与え、皆が笑って暮らしていた。
幻術が解かれたそこで、茂が口を開いた。
「あの樹が母代樹で、精霊種の皆さんが神様と呼んでいる存在ですね」
「あの様に子供同士集まって生活したり、大人が面倒を見るという経験があるので精霊種は皆で子供を育てますし、妖精種は土地という物に拘らず気に入った町や人のいる場所に長居するようになりました」
「こういう感覚で皆さん生きていらっしゃるので、種族の違いはあれど全員同じ親から生まれて来たという事で分かり合えなくても尊重し合ったりはしていますね?」
「特に精霊種は最初に生まれて来た上、母代樹の影響をとても強く受けています。中には当時の事を覚えている者もおりますので、人間種にとっては神話でも、精霊種からすれば現実の昔話です」
過去を見た限りイアグルスは若い分類に入る天の民だったと言えば、金剛も頷いて同意を示す。
「若いか、もしくは人間種の中に身を置き修業して間もなかったのだろう」
精霊種と人間種の間には大きな感覚の差があると言われ、サラでさえも納得を現した。
「確かに。悪意っていうか、行き過ぎた信仰を理解できてなかったわね」
「人間種は複雑な感情を持ち、時に想像もつかない新しい答えを出す。その答えの幅の広さを知るのは、いくら生きようと果てはない」
だからあの様な結果になったのだろうと言って、フェアグリン達神官を見て微笑む。
「そして肉体から解き放たれた今、名実ともに神としてお前たちを見守って行くだろう」
精霊種は死ねばその魂が精霊になる。今もきっと皆を見ていると言われ、手を組んで祈りの姿勢を取った。
「もしも痣がある子供が生まれて来たらしっかりと育ててあげてください。火の民や魔族の様にとても力の強い子になるでしょうから」
「力の強い・・・。シゲル達も確かに、力は強いか」
強さの方向性が想像と違うがと呟くアディに笑って本を手渡す。
「人間でもっ、人間でも痣を持つ者がいて良いんですね!?」
泣きそうになりながら良かったと眼を覆って喜んでいるクリストファーに、術師団がもしかして痣があるのかと聞くが、自分ではないがある者を知っているのだと嬉しそうに笑った。
「前に茂さんが見せてくださったでしょうに」
「あの時殿下いた?」
「救護班のテントにいたかも」
「ディーノがアキツに殺されそうになってた所しか思い出せない」
「忘れてやれ」
そんな話をして盛り上がりながら、この日の宴も遅くまで続いたのだった。
