7.学園生活(続き)
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それから和たちがダンジョンの上層を捜索している間、茂たちは道づくりを進めていった。
「ここに昔は噴水があったんだね」
「配管はもう死んでいるようですが、外観だけでも戻しますか?」
「そうしようかな。少しいじって配管じゃなくて魔石とか付与とかで復活できるようにすれば、ただのオブジェにもならないし」
昔は城下町の顔とされていた噴水と広場の道を整え、噴水を作り終えた所で自分たちの家を復興していた市民たちにも声をかけて昼食を食べた。
「もうこんなに・・・」
「後数日で行ってしまうなんて・・・」
いつの間にかスラム街の者たちだけでなく、元々城下町に住んでいた皆にも慕われ始めたようだ。
「また来るので、その時は仲良くしてくださいね」
そう笑って食事をした。
「シゲル殿、少々お時間をよろしいだろうか」
「はい、どうしました?」
セレスタンとクリストファーがやってきて相談に乗って欲しいというので頷き、教会の者たちも食事をしているのかと首を傾げる。
「これからやる事はいくらでもあるんですから、食事と睡眠を疎かにしては体が保ちませんよ?」
人の体はそんなに頑丈じゃないし、徹夜は寿命の前借でしかないと言って今作ったばかりのシチューと焼きたてのパンを一つ差し出した。
「聖騎士の皆さんもどうぞ。教会にも貯蔵庫はあるんでしょうけど、食料難だったのは市民たちとおなじだったでしょうし」
王族や貴族を守るのだから、いつでも力が出せるようにしておいてくださいと、全員に食事をふるまっていく。
「腰を下ろすなら噴水を使ってください。出来たてですから汚れていませんよ」
平民たちと同じものを食べるとかはもう気にしても仕方がないくらいの事があった後だから諦めろと現津に言われ、聖騎士たちも「それはそう」としかならず、ため息を吐いてクリストファーを噴水へ座らせた。
この数日で何もかもがひっくり返ったのだから、そういう反応になっても仕方がないだろう。
というか、反応が出来るくらい自我をしっかりと持てているのが素晴らしいと褒めてあげたいくらいだ。
満が他の者たちにもシチューとパンを渡し、御代わりもあると声をかけて市民たちの中へと戻っていった。王国の使節団も復興に文句も言わず手伝っているので、余計自分達も動かなければと思っているのかも知れないが。
セレスタンは子供たちに囲まれ、一緒に食べる事にしたらしい。
厳しい眼をしているが、今はその顔が見えないのでどんな表情なのかは分からない。それでもセレスタンを見上げている子供たちが笑っているのだから、そういう事なのだろう。
食事が終わり、皆がまた作業に戻っていくのを見届けてから茂と現津はクリストファー達について教会へと向かった。
「それで、ご相談とは?」
「実は、スラム街で暮らしていた者たちについてなのです」
クリストファーとしては、このまま城下町で暮らして欲しいと思っているのだが、セレスタンから本人に決めさせた方がいいと助言をもらったという。
「シゲル殿らのおかげで、この国で何があり人種差別に繋がり、どのような結果となったのか皆も理解できただろうが、全員の心が付いてくるとは限らない」
むしろ過去の自分を受け入れられずに変われない者の方が多いだろうというのは、何百年も人と共に生き、人々がどのような歴史を歩んできたのかを人間よりも知る付喪神だ。
「なので、本人たちが希望した場合、開拓村へ移住をさせようという事になりました」
「なるほど、それは英断だと思いますよ」
現津からも賛同をもらい、やはりそんなに上手くはいかない物なのかとクリストファーとその側近たちが小さく肩を落とした。
「長い時間をかけて歪めたのだ。それと同等か倍以上の時間をかけるつもりで臨んだ方が良い」
「倍、・・・はい。分かりました」
それこそ人間一人の寿命でどうにかなる事ではないと、優しい声で窘められ素直に返事をするクリストファーの姿に、もう大丈夫だろうと茂は一人微笑みを浮かべていた。
「スタンピードで手に入った魔物なんですが、聖国側の取り分はこうなっております」
リストを出して見せると、それを見た皆が眼を見開きながら口を閉じられず固まる。
「こんなっ、我々はなにもできずっ、ただ守っていただいただけです!」
「そうだとしてもあのダンジョンは聖国のものです。今後どうするかはおいておいて、今は他の国と同じように公的な私物という扱いです」
であるのならば、800年分のこの分配は妥当だと茂が笑う。
「実際にお渡しする時、素材としてお渡しするのとお金でお渡しするのとどちらがいいかは、そちらでお決めいただければ幸いです」
「ちなみに、こちらが現在の相場です」
「ふむ、昔とはかなり変わったな。妖精種や精霊種がいなくなったのならば、仕方がないか」
800年前はもっと低かったと言いながら素材の相場一覧を見て、リストにも目を落とす。
「これであれば、国の復興も開拓村へ送る者たちにも、あまり負担はかけずに済むだろう。クリストファー」
「は、はい!」
「そなたは、聖国を今後どのような国にしていきたいと考えている」
「どんな・・・」
「それに合わせ、みのり屋へ何か製作依頼を出すと良い」
「製作、武器ですか!?」
「それも含めて、どんなものにするか考えるのだ。自分で」
それを復興の旗印にし、国宝、みのり屋との友好の証として周辺国への牽制に使えという。
「私がいるとはいえ、人間種が多いこの大陸で付喪神をどこまで理解できるか定かではない。もっとも分かりやすい形で残す方が妥当だ」
「
スラム街にいたエルフ、ドワーフは皆30歳未満だったので、そういうものだと思うしかない。
「なる、ほど」
「私たちがいる間に決めなくても、決まったらセレスさんを通して連絡をくれれば大丈夫ですよ」
セレスタンが和に声をかければ、和はいつでもみのり屋と合流できるのですぐに製作に取り掛かることが出来ると言われ、深い感謝を示した。
「手始めに噴水でも造ってみますか?」
「噴水、それはさっき、」
「あれは形だけなんです。配管とかがもう使えなくなっていたので。ですがこちらで自由に造って良いんなら配管を使わない方法で水を出せますよ」
その水を生活用水とすればいい。そうすれば住民たちが広場に自然と集まるようになり、幻術で見た活気が少しでも再現できるかもしれない。
「そういう、自分が知ってる国とは違う姿を見たらどんな国を作りたいかも考えやすいんじゃないですか?」
「、ありがとうございますっ」
頭を下げるクリストファーに、王太子がそう頭を下げてはいけないのではなかったか?と笑って広場へ一緒に戻った。
開拓村の話はすぐに全員に告げられ、希望者は使節団と共に城下町を出ると説明された。
「開拓といっても森を掘り起こす開墾の様なものではなく、今回は国境の手前に村を作るのが目的です」
最初は村、いずれ町になるくらい大きくするのが目標だという。
「これからみのり屋が王国までこの道を作っていく。そうすれば商人の行き来も、貿易も行いやすくなる」
「人が沢山通る場所だから、途中でゆっくり休んだりご飯が食べられたり、休憩地点になれる場所が欲しいんです」
みのり屋は行商なので、そういった場所の大切さをよく知っている。だから途中まで一緒に行き、この道を挟むように村を作る人員を募集すると紙が張り出された。
「出発は使節団に合わせる事となるため、考える時間はあまりない。それでも、皆はもう聖国の国民なんだ。自由に決めてくれ」
もう人種に縛られなくていいんだと言うクリストファーに、スラム街で暮らしていた者たちが涙を流しながら礼を言っていた。
それから二日もせずに聖国王都の道が完成したので、残りは町の復興、地ならし、保存食作り、魔物の解体に費やした。
「では、こちらがお渡し分の素材と現金です」
「後、こっちは頼まれていた食料です。使節団が持ってきた分と合わせれば結構保つと思いますけど、何か困ったことがあったら和ちゃんにも相談してみてくださいね」
「はい。何から何まで、ありがとうございます」
「自国がこんな状態じゃ、学校どころじゃなくなったな」
「はい、学園へは退学する旨を手紙で知らせようと思います」
「そうですか」
「ティアナもか?」
「はい。残念ですが」
「そうか。わしに出来る事は少ないと思うが、また来た時は声でもかけてくれ」
「はい!必ず」
「国を救っといて”出来る事は少ない”はないだろ」
「逆にそれ以外できると思うか?」
「・・・極端すぎるっ」
みんなで笑いながら、復興作業へ戻っていく。
「アラマキも、休み取ってきてくれてありがとうな。助かったよ」
「らははは!こんくれぇどうって事ぁねぇさ!」
むしろ、こういう仕事ならいくらでも手を貸すと、嬉しそうに笑って進と共に歩き出す。
「いや、来てくれて本当に助かった。ほら、あそことか。魔物を倒したまではよかったんだが、倒れた奴がデカくてな。その時は茨があったからあまり目立ってなかったんだが、燃えた後だと、な」
やらかしが露見してしまったような気分だとクレーターができている地面を指さしながら言うので、アラマキはまた笑いながら進の肩を組んだ。
「草木が枯れて腐葉土を作り続けりゃその内なくなるさ!」
「魔族の時間感覚やべぇな」
「その内が百年単位だもんね」
「らはははは!」
「俺としてはススムもそうだけど、カイドウさんがやばかったと思うんだよ」
ドラゴンと戦っている時、カイフウ?って言って竜巻なんだか火なんだか吐いてたけどさと、リンクが溢す。
「あれ、ミツルの結界がなかったら隣の国まで行ってたよな?」
「行っていたでしょうね。連発していましたから、小国群がある場所が更地になっていたんじゃないですか?」
「カイドウさんっ」
「まぁ、ドラゴンなんざ何しても天災扱いだろ」
寝返りで町が無くなるし、くしゃみで国が滅ぶという梅智賀に、ダンジョンの中は地上に影響が出なくて本当に良かったと瓦礫からブロックを作っていた。
「人間だけになると規模も肝も小さくなんのか?」
そんなの世界が始まった時からだろと笑いながら、荒野の中心へと向かっていく。その背中に「スケール」と呟いてしまったリンク達は、何も悪くない。
アラマキが荒れ地を一瞬で森にしたそこにはリンゴ、クルミ、ドングリの他にも、見たことのない花が咲き乱れていた。
「わー!綺麗!!」
アンがリリーと共に近づき、触ってもかぶれたりしないかを確認して手に取った。
「あ、戻って来た!!」
「こんな森を一瞬で作れるなんて、本当にロギアは信じられないわ」
パラミシアの自分とは訳が違うと溢しながら木を見上げているサラに、この国を800年呪っていた魔族から見てもそうなのかと怯える聖騎士たち。
「あ、すっかり忘れてた。クリストファー殿下」
「は、はい!」
茂に呼ばれ、呆気にとられていた所から我に返ると表情を引き締めて駆け寄ってきた。
「これ、私が造った満腹地蔵っていう魔導具なんですけど、復興の手助けになると思いますし教会に寄付してもいいですか?」
「まんぷくじぞう、これは、どのような魔導具なのでしょうか」
どことなく満っぽいような気のする地蔵を前に、クリストファーだけでなくセレスタンも、フェアグリン達も興味を引かれたのか近くで眺めだす。
「使い方は簡単ですよ。その説明も兼ねて、広場で実演してみましょうか」
市民の人たちも知っておいた方がいいだろうしと、茂が移動している間に現津が一度離れ、森へ向かったと思ったらすぐに戻って来た。
「みなさーん!お忙しいところ申し訳ないんですが!集まっていただけますかー!」
住民全員に声をかけ、もう一度地蔵を出す。
「なんだこれ」
「そうか、アラマキは初めて見るか」
「こりゃ茂が造った満腹地蔵だ」
「満腹?」
海賊たちは全員知っているようで、これから皆がどのような反応をするのかと楽しそうに遠巻きに眺めていた。
「こちらが今森で拾ってきたドングリです」
「今の一瞬で!?」
現津がいくつもの袋を置き、中身が全部ドングリとクルミであることを確認させる。
「これを、ここに入れて」
地蔵と一体になっている箱にドングリを大量に流し込み、両手を合わせて注文をすると、地蔵が動き腹から湯気の上がる蕎麦が出てきた。
「これがどんぐり蕎麦です」
蕎麦をクリストファーに渡し、次はクルミを入れて出てきた焼き菓子をティアナに差し出す。
「それで、引換券をください」
ドングリとクルミのどちらかの葉で、”引換券”と書かれたものが出てきたので見せて来る。
「こうすれば、どんぐりが拾えない時期でもいつでも食べられますよ」
復興を優先させれば他の作業が疎かになるし、まだ手伝えない子供たちへの配慮も薄くなってしまう。
「みんなでどんぐりとクルミを拾って、頑張ってる大人たちを助けてあげてね」
しかしと、子供たちを見て念を押す。
「今はアラマキさんが作ってくれたばかりの森だから動物とかがいないけど、来年か再来年にはこの森にも動物とか魔物も住み始めるから、子供だけで入るのは今年だけね。後、一緒に入って説明するけど、森ってちょっとでも中に入るとどっちが町かすぐに分からなくなっちゃうから、拾う事に一生懸命になりすぎて迷子にならないように気を付けてね?」
森での迷子は本当にシャレにならないからと、子供たちにクルミの焼き菓子を配っていく。
驚愕している皆を海賊たちが笑い、今日の昼食はドングリ蕎麦とクルミの焼き菓子になり、こんな魔導具を造っていたなんてと騒いでいる錬金術師たちは置いておき、感謝している神官たちに使い方の説明書を渡して子供たちと森へ入っていく。
「おいアラマキ!お前どんなドングリとクルミを植えたんだ!」
「ちゃんと通常サイズのだけだろうな!?」
「ああ?」
「和!お前一人で行くな!またドングリが当たったらどうすんだ!」
「白山!とにかく白山の近くにいろ!」
子供たちと共にドングリを拾おうとしている和をフーズ・フー達が止め、アラマキをエース達が囲んでちゃんと普通のドングリだろうなと問いただす。何を言われているのかさっぱり分からないアラマキだったが、以前みんなでドングリを拾いに行った時に上から落ちてきて頭に当たってしまったのだと和が説明をした。
「その時に倒れちゃって、みんなが心配してるんだよ」
「倒れたんじゃなくて死にかけたんだよ!」
「マルコ!お前和ちゃんの事見とけよ!」
「当たり前ぇだろい」
「白山がいんだからいいんだよ!」
争っている二人を見てから、和を見下ろす。小柄ではあるがちゃんと健康そうである。
「ドングリで?は?」
「あの時のはドンどんぐりだったからで、こういう普通のは流石に大丈夫だよ」
「いやいやいや、ドングリなんだろ!?」
和の脆さを舐めるなとみんなに念を押され、困惑しながらも子供たちと楽しくドングリとクルミを拾いまくって戻って来た。
「いいか!夕暮れになる前には絶対に戻って来いよ!」
「はーい!」
「不安だな。一応帰ってこれる範囲に目印になるもんでも植えとくか?」
「あー、それがいいかもな。ならサラと同じモミジイチゴとかどうだ?」
食べられる実がなるし、今までも身近にあったから見慣れているだろうし、棘があるからそれ以上進もうとは思わなくなるだろうしと進が考えながら言う。
「いいな!この町を半周して植えりゃぁ、沿って歩いてれば海かこの道に出るようになる!」
ちょっと行ってくると一人で森へ入り、すぐに戻ってきて手をモミジイチゴに変えて子供たちに見せた。
「この茨より先には行くなよ」
「はーい!」
「念のため魔物除けの何かを作ろうかな?」
拾いに行くのが子供中心なら、気づかずにモミジイチゴを通り過ぎてしまう事もなくは無いと、豊が茶色い毛糸を出して帽子を編み始める。
「ほら、こういうのはどうかな」
「可愛い!!」
「ぶはっ!」
近くにいたエルフの子供にかぶせると至が眼を輝かせて大絶賛するが、他の大人たちは声を上げて爆笑し始めた。
豊が編んだのは、頭頂部がとがっていてスッポリと頭を覆うタイプの帽子だった。その帽子を幼い子供がかぶれば、もうドングリにしか見えなかった。
「かわっ、あはははは!!かわいっ」
「かわいい!!」
特に女性陣にいたく気に入られ、編み方を教わりたいという主婦たちも現れる。
主婦たちに編み方を教えながら出来上がった帽子全てに付与を施していけば、あっという間に全員分の帽子が出来上がった。その帽子を子供たちがかぶって喜んでいる姿にずっと爆笑しているアラマキ。
「あ、多かったね」
残った帽子は子供が増えた時のために教会に渡しておこうかと豊が呟いていると、うるティが欲しいというので笑顔で一つ手渡す。ものすごい嬉しそうに受け取ったうるティが現津を呼びながらフーズ・フーの膝で抱えられている和へ近づいた。
「んがわいい!!」
「がわいい!!」
「かっ」
また幻術で四歳にされた和は、ドングリ帽子をかぶせられた状態で皆を見上げる。
うるティとページワンが悶えるのはいつも通りなのだが、今日はその隣でドレークが叫びそうになったのを抑えるために口を手で覆っていた。
「お前、ぶはっ、まるっ、んぶふっ」
他の皆も、子供特有の丸い頬がドングリ帽子とマッチしすぎているその姿に腹を抱えて笑い出す。
「・・・なんだろうこの気持ち」
何故また子供の姿にされたのかも、子供なら可愛いのは分かる格好を自分がして笑われているのかも分からない状況で、マルコに手を握られた。
「和、結婚してお前さん似の子供を沢山作ろう」
「死ね!!」
「主様!明日はその姿で一緒にドングリを拾いに行きましょうね!!」
「明日もダンジョンを潜りるから森にはいけないし、この帽子も被らないよ」
この帽子には魔物除けの付与がされてるから被ってダンジョンに潜っても意味がないと断ると、毛利が絶望した表情で崩れ落ちた。
「がわいい!!」
うるティとページワンのおもちゃにされている和は、遠くを見つめていた。
「ライアン、こちらへおいで」
サラの隣で周囲を静かに見上げていたライアンに金剛が声をかけ、目線を合わせるために膝をつく。
「望の治療を受けて健康になったようだが、ずっと地下にいたのでは上手く力も出せないだろう」
「ええ、覇気っていうか気力っていうか、せっかく天の民に生まれ変わったのに弱弱しいの」
少し身構えるライアンに代わってサラが頷くと、怖がらせないように微笑んで頭を撫でた。
「今日はよく星が見える。もう夜だが、最初はこのくらいの光の方が受け入れやすいだろう」
足元に雲を発生させ、その雲に一緒に乗って少し空を散歩してこようと誘うと、ライアンがサラを見上げた。
「行ってきた方が良いわ。今日も日中の光が強すぎて日陰にいたでしょ?」
「・・・うん」
「サラも一緒で良い。一人になるのはまだ不安だろう」
「え、他種族が乗れる雲を作れるの?あなた、ずい分長生きしてるのね」
驚きながら見上げて来るサラに笑うだけの返事をし、フェアグリンを振り返って一緒においでと声をかけた。
「自身が天の民と気が付いたばかりで、力の使い方が分からないだろう」
「は、はい」
戸惑いながらフェアグリンも雲に乗ると、とても柔らかい絨毯の上を歩いているような感覚に驚いた。
そして、とても落ち着くことに気が付く。
「なんでしょう・・・。心地いいです」
「人として地上でだけ生きて来たんでしょ?フェアグリンも自分の力を十分出せてないでしょうね」
というか、800歳にしては若すぎない?とライアンと共に雲に乗ったサラが首を傾げる。
「まだ未成年よね?あの幻術が本当なら土の民が時空に流したって事だけど、」
「は、はい。まだ300歳になっていません」
「300歳?!」
500年以上飛ばしたのかと驚き、ライアンを抱き上げて膝に乗せながら座り直してため息を吐いた。
「あなたを助けてくれた土の民に感謝しなくちゃね」
イアグルスもグリフェスももう死んでしまったが、こうしてその息子に生きて会えたと優しく笑う。
「赤ちゃんの時からグリフェスに似てるとは思ってたけど、でも、笑った顔はイアグルスにそっくりね」
チェンジリングとして人間の家で育てられてきた為、自分の外見と周囲が違うという事を知るのは早かった。育ての親と血が繋がっていない事も、心を病んでしまった母から離されている事も、全てを理解していた。理解すればするほど、幼心に、自分を生んだ両親はどんな人でどこにいるのだろうと考えていた。
エルフの国へ行けば手がかりがあるのだろうかと、頭の片隅で消えなかった思い。
「二人とは、戦争で知り合ったのですか?」
「いいえ、それよりも前からよ」
現在聖国と呼ばれているこの土地は、建国する前はアンデッドが定期的に出現する暗い森が広がっていた。
「その森を人間たちが勝ち取って聖国が出来た。私は建国した後に生まれたの」
そして、冒険者として各地を周りながら旅をしていたグリフェスとイアグルスの夫婦が率いるパーティがこの国へやって来た。
「当時からグリフェス達のパーティは有名でね、Sランクの冒険者パーティが来たってギルドも街も騒がしかったわよ」
「Sランクパーティ?!」
「ええ、ランクを上げることにはあまり興味がなかったみたいだけどね。グリフェスは若い頃から冒険者をしていて、」
世代交代が激しい人間種の中で唯一千年単位で生きるエルフ。同期が世代交代をしていく中気が付いたら一人でSランクになっており、大陸を踏破することが目的になりつつあった。
「そんな時に修行ついでに旅をしていたイアグルスと出会って、一時的に一緒に行動する事になったんですって」
そこで好きになり、プロポーズが成功したと酒が入るといつものろけていたと苦笑する。
「イアグルスと結婚してからは若い冒険者を誘って後進育成を中心に活動してたみたいよ。幻術で見たパーティも獣人とか人間とか、若い仲間が多かったでしょ?」
「そう言われると」
「聖国にも一時的に留まって、若い冒険者を育てたらまた移動って、ルーティーンの一環だったのよ」
しかし、そこで戦争が起こり、住人たちの為に一緒に戦った。その功績と感謝を込めて、天の民とエルフにとって居心地がいいようにと設計され、裏庭と森を区切らない教会が建てられた。
「二人も、この国に落ち着くのもいいかもねって話してて、そして貴方が生まれたわ。
あの幸せな時間がずっと続くと思っていたと、広がる星空を見つめながら呟く。
「あなたから両親を奪ったのは私よね。ごめんなさい」
眼を見て謝るサラに、フェアグリンは「いいえ」と首を振って返す。
「チェンジリングだと言われて育ってきて、その中で私の両親はどんな人なのだろうと想像する事は多かったのですが、」
今回、その答えを知る事が出来て良かったですと笑顔を見せる。
「私の両親は、私が想像していた以上に素晴らしい人たちでした。二人とも、辛い経験をしていましたが、最期まで誰かの為に祈り、戦い、生きた人たちだったのです」
それを知ることが出来て本当に良かったと、両手を組んで祈りを捧げた。
「二人がいたから私が生まれ、二人が繋いできた絆のおかげで助け出され、幸運な出会いで時代を超えて、こうして今、両親を知っている貴女から直接話が聞けた」
現津のおかげで声も姿も見る事が出来たと言ってサラの目を見て微笑む。
「私は貴女の事ももちろん、二人も、誰の事も恨んではいませんよ」
「、あなた、本当にイアグルスにそっくりだわ」
そう笑いながら涙を流し、ライアンに頬を撫でられながら夜の空をたっぷりと時間をかけて散歩した後に地上へと戻った。
