7.学園生活(続き)
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次の日、遅くまで続いていた宴でそのまま寝落ちしていた皆が起きると、満が朝食を作っている姿があった。
「きょうも食べていいの?!」
「もちろんいいよ、お腹すいた?」
薄茶色の作務衣を着た子供たちに笑って答えている向こうでは、豊が他の者たちにも着替えの服を与えていた。
「お~、こりゃずい分大掛かりな戦闘だったんだなぁ?」
「ああ、みんなが来てくれたおかげであんまり時間もかけずに終わらせられたよ」
「そうだったのか。さぁて、どうするか。この道、ほとんど獣道だが、これは残しとくか?」
「そうだな、これからわしらは王国に戻るし、道があると助かる」
「そこらに転がってる死体はどうする?ずい分前の死体だな?」
「ああ、忘れてた。茂、これも全部回収したほうがいいよな?」
「そうしてくれる?埋葬にも時間がかかっちゃいそうだし」
アンデットになって長いならもしかしたら魔石が出来ているかもしれないし、聖国の復興にも使えるものもあるだろうから選別するためにも一度全て回収したいというと、頷いてカリブーを呼んだ。
「おら仕事だ!お前昨日もちゃんと働いてたんだろうな?姐さんに迷惑かけたらぶっ殺すぞ!」
「してねぇよ~!おお~怖っ」
「カリブーは昨日も魔物の回収に回ってくれたぞ。おかげですぐに宴の準備に入れたんだ」
「ちゃんと仕事はしてるみてぇだな」
その会話を聞き、カリブーが悪いことをしたら殺してくれと言っても殺さず拷問をするのはあの人かと、何人かが無言で見上げていた。
「カリブーが回収し終えたら、さっそく始めるか。満の姐さん、森にしたくねぇ場所に結界を張ってくれねぇか?」
「はい、分かりました。クリストファー殿下、昨日と同じ範囲でいいですか?それとももう少し広くしますか?」
城下町を一つ作るなら、畑なんかの分も合わせてもう二回りくらいは広い方が復興がしやすいかと見上げられ、聖騎士たちも神官と共に走り出し、聖国の地図を広げて話し合いだした。
「こちらが800年前の地図でございます!」
広げられたのは、今の聖国と800年前の地図の二つ。その地図を見比べて、これからどうすべきかと話し始める。
「ここに当時畑として使われていた土地がございます」
「では、北を少々広めに取れば」
「それはやめておきなさい」
サラが口を開き、クリストファーを止める。
「そこは昔隣国から侵略があったの。農村しかなくて侵略に気づくのが遅れたのよ。そのせいで被害が大きくなったわ」
「っ、そんな事が」
聖国の歴史は800年前に大半が失われていた。自国の事を何も知らないと悔しがっているクリストファーの向こう側で、王国の者たちも興味深そうに話を聞いていた。
「今、この国にある物で一番古い物ってどれ?」
和の質問に皆が振り返る。昨日の内に子供の姿から15歳へ戻してもらったようだ。
「サラはこれからもこの国に住み続ける?」
「いいえ、それは無理よ。ライアンにした事はもちろんだけど、グリフェス達、昔馴染みのみんなの事も、天の民にしていた事も。何も知らなかったこの子たちを恨もうとは思わないけど、この国に住もうとはもう思えないわ」
「、そうですよね」
「そっか。じゃぁ今はサラの知ってる事を教えてもらえても、これからは難しいね」
ならばやはり何か古い物が欲しいと見上げる。
「この国って800年以上前からあるんでしょ?ならどこかに付喪神になってる物とかあると思うんだよね」
「ああ、それはいい案だな。その付喪神が昔の事とか細かく覚えてたら今後の方針とかも決めやすいだろ」
「ツクモガミ?」
「うちのみんなみたいな神様のことだよ」
「皆さんには精霊といった方が分かりやすいですかね」
茂の言葉に、わずかに残っていた聖国の貴族たちが眼を見開く。
「森にする範囲を決めるのは時間がかかりそうか?ならアラマキには今度また声をかけることにするか」
「そうする?一回全部森にしちゃって、そこを開いていくのもありだと思うけど」
「ここの奴らは全員非力だからな。そっちの方が時間かかって動物だの魔物だのが住み着く方が先だろ」
「あー、そうなっちゃうか」
「難しいね」
「なら、私がお手伝いできるのって住民のみんなに家を建ててあげることくらいかな」
「居住地が整えば復興の足掛かりになるものね」
「上下水道も整備する?」
「待て待て、どんな街を作るつもりでいんだ。一部だけ急に発展させてもまた戦争の火種になるだけだぞ」
「え?」
「お前ぇらはよぉ、いつになったら人を疑うってことを覚えんだぁ~?」
「甘やかしたらそんだけ付け上がるって言ってんだよ」
なんでもかんでもやってやろうとするなと、魔族たちがみのり屋を止める。
その様子を、他の人間種たちが見ていた。
「いいか?ワノ国はお前ぇらを神だのなんだの言って崇めてるからあんな感じで終わってるがな、他もそうだと思うなよ」
「前もどっかの国を助けたら事あるごとに呼び出して来ようとしたりもしてたんだろ?」
「お前さんらが助ける分には別にいいんだが、ナメてかかって搾取するってんなら俺が黙ってられねぇよい」
特級ダンジョンのスタンピードをものの数時間で納めてしまった男たちの言葉に、何人もがゴクリと喉を鳴らす。
「うーん、どこまでならみんなが嬉しいって思うラインなんだろう?」
「昨日倒した魔物を我々で分けたとして、聖国分をどうするかで考えてはいかがですか?」
現津が地図を指でなぞりながら話し出す。
「この王国へ繋がる獣道、ここを整備するだけの費用を魔物で払っていただくなどすれば、それだけで復興はかなり早くなると思います」
「道、確かに。そっちの方が長く使ってもらえたりするかぁ」
「はい。後、こちらの小国郡と面している部分、こちらは全て森にしてしまってよろしいと思います」
今の小国はそこまで荒れていなかったが、これからもそうとは限らない。いつか道を作るにしても、それはまず聖国が落ち着いてから考えてもいいだろうと、アイテムボックスから榊の書いた本を出す。
「900年前、サラが言っていた侵略ですね。隣接している海沿いの小国で津波が押し寄せる天災が数年続き、穏やかな入り江のある聖国を落とすために戦争を開始。その時の戦争で活躍したのが天の民のイアグルス、魔族のサラ、
「ええ!?」
皆がサラを振り返ると、本当だと肩をすくめながら頷く。
「そんな事まで書いてあったんだ」
「うちには下調べを趣味にしている小説家がいますので」
微笑みながらグレンに頷きを返した。
「そんなっ、それではあなたはっ、救国の英雄ではありませんか!」
「やめてよ、私は単に仲の良かった農家が襲われたからイアグルス達に手を貸しただけ。国を救うだとかそんな考えは無かったわ。当時はまだ子供だったしね」
だから戦争が終わった後も森の中に住んでいた。
しかし、イアグルスとグリフェスの仲間達は本当に英雄として王都に住み、教会も増設して共に暮らしていた。
「そこからたった百年で呪いの悪魔か。なんとも、・・・波乱万丈な人生だな」
「本当よ」
シリウスにため息を返すサラに、クリストファーはまた頭を抱えてしまっている。
「王国へ繋がる道という事なら、こちらからも支払いをしよう。塩や海産物は王国にも利がある。魔物の素材もだが、解体などの労働でも賄う事ができる」
「じゃぁ私たちは道の整備を中心にするとして、あ、サラさん。これからどこに住むとかの目処はありますか?」
「さぁ、どうしようかしら。今はとにかく、ライアンとゆっくり過ごしたいわ。昨日何故か覚醒できたから、どこへ行ってもどうにかなるでしょうしね」
それこそライアンにも心の整理をする時間が必要だろうと、自分を見上げていたライアンの背中を優しく撫でた。そんな二人を見て、それならいい場所があると茂が手を打つ。
「聖国と王国の間にある森なんですけど、前にちょっとあって一部が開けた草原になってる場所があるんです」
「森に草原を作るって、なにやったんだよ」
「角煮まんが食いたくてな」
「あそこか!!」
「そこに桃が木を植えて、その木の実が美味しいんですよ」
なんならその木の実を収穫して王国か聖国に売りに行って生活すればいいという。
「あら!それは嬉しいわ!さすがに毎回採りに行くのは遠かったから!」
「王国でも桃が食べられるようになるの!?」
皆の反応を見てサラが茂に顔を向ける。
「そんなよさそうな場所、私たちが住んでもいいの?」
「もちろんですよ。土地としては誰のものでもないはずですし」
ただ、もしも自分で桃を採りに来た人がいたら木の実を好きに採らせてあげて欲しいと頼む。
「そこでオークの群れを倒したんですけど、色んな人が協力してくれたんです。その時にいつでも食べに来ていいって言っちゃったんですよね」
「そういうこと、それなら問題ないわ。ある程度お金が手に入ったらまたジャムも作れるし、そうすればそのモモ?だけに頼らなくてもいいでしょうし」
「桃之丞が植えたとはいえ、茂さんの象徴でもある木です。自分で採取に来るのはかまいませんが、あの草原を奪いに来る輩がいたら殺してでも追い払ってください。桃の木は誰かが独占してよいものではありません」
茨で草原を一周し、侵入者が来たらすぐに分かるようにしておいてくれと現津が言う。
「それ一歩間違えば戦争じゃん」
「王国に帰ったら報告書を出しておきます」
「モモってなんなの?」
ちょっと困惑しているサラとライアンに桃を切って出し、みんなにも果物を出して一息つく。
サラとライアンの今後が決まり、安心して付喪神を探せるとクリストファー達に案内を頼んで城兼教会の中へと入っていった。
「うわ」
「あっくしゅみー・・・」
「え!?」
ついてきた他種族たちが城内を見て、飾られている石像の数にドン引きしている。
「どこが?」
「すごくきれいなのに」
「思い出してみて」
「天の民、イアグルス様が石像になっていたでしょう?」
「・・・え?」
「つまり、」
白い宮殿のような教会に飾られている石像全てが、天の民の死体ということだ。
「知らなかったとはいえっ」
「皆様をっ、埋葬して差し上げましょう!!」
「天の民は死体を埋葬したりしないのよ」
「自然の中に放置してるな」
「時間をかけて風化するのにまかせるの」
ものすごいダメージを受けているクリストファー達の肩をたたきながら、森が出来たらそこにおいてあげようと励ました。
「安心するといい、誰も怨念を残してなどいない」
昨日のスタンピードでも、人間種以外のアンデッドはいなかっただろと金剛に言われ、本当に申し訳なさすぎると呟きながら奥へと入って行く。
「うーん、いはするけど、んー、やめといた方がいいかな」
「どうして?」
「この国に友好的?な感じがしないから」
多分荒れた後に作られた武器なんだと思うという和に、聖騎士たちが驚いていた。
「私が連れて行くとかなら別にいいんだけど、クリストファー達と一緒にこの国を守っていくってなると、ちょっと」
「こ、こちらなどはいかがでしょうか!」
大臣が国庫からいくつか見繕ってきた装飾品などを見せて来るが、和は頷かなかった。
「んー、どうしようかなぁ」
そう呟いて、クリストファーを見る。
「クリストファー、ボードゲームできる?」
「ボ、え、はい?えっと、
「それどういうルールのゲーム?教えてもらっていい?」
突然どうしたと思いながらも、神官が持ってきたゲーム盤を二人で挟み、駒を触りながらルールを説明されて頷く。
「うん、分かった。じゃぁちょっと遊ぼうか」
「は、はい?」
「和が勝つ方に一億ベリー」
「誰も和以外に賭ける訳ねぇだろ」
笑っている魔族たちに囲まれながら、大陸では一般的なボードゲームを始める。後ろから見ていたシリウス達が、ゲームを進めるにつれて驚きを現していった。
「ま、負けました」
「これ面白いね」
「一式持ってく?」
「うん!手に入ったら欲しい!」
茂とそんな話をしている和に、マイケルが末恐ろしいとこぼして盤を指さす。
「ここに駒を置くなど、よく思いついたな」
「私ならそうするってだけだよ」
そう笑って立ち上がった。
「ねぇ、ここにも図書館ってある?」
案内された図書館は、王国のものとはとても比べられない程小規模なものだった。
しかし、それでも一国の書庫。一般人からすればありえない程の蔵書の数だ。
「あ、ちゃんといるよ」
そう言って昨日の地響きでまだ荒れている室内を真っすぐ歩いてカウンターの前に立つと、一つのスタンプを手に取った。
「か、管理用の、スタンプですか?」
「うん」
笑って振り返る。
「ねぇ、この国って宗教の国だから神様とかを大切にしてるんだよね?」
「は、はい。イアグルス様には、その、申し訳ないことをしましたが・・・」
「大丈夫だよ、神様はそういうのも全部見ててくれてるから」
「、」
罪を暴かれると怯えたが、和の声は柔らかく笑っていた。
「悪いことをしたのも、ちゃんと謝ったのも、これから頑張っていこうとしてるのも、全部見ててくれてるから大丈夫だよ」
「、・・・はい」
危うく、また泣きそうになってしまった。
「神様を大事にする国なら、呼ぶのもみんなでやった方がいいのかな?
教会の前よりも、広場の方がみんなも見られるかと笑いながら図書館を出て行った。
広場では百人を超える男たちが和を中心に囲み、さらにその集団を住民たちも含めた今聖国にいる者たちが囲んでいる。
「トンボがあっちにいるんだけど」
「同郷のよしみですかね」
「リジンはいいの?」
「俺は護衛だからな」
そう話していると、昨日も見た女の子用の人形を出すと紋に触れた。するとどこにもいなくなってしまう。どこに行ったのかと探す暇もなく、地面に宿り木の紋が大きく広がった。
まるで男たちとそれ以外を分ける、境界線のようだった。
「これより先は、神の領域」
真っ白な付喪神が、紋を超えないようにと声をかけて中心へと向き直る。
紋が光り、和がスタンプと向き合うと一瞬で空気が変わった。
「交わされた歌 物語 かみおろし 昇る篝火 稀人まだか 稀人まだか」
「言の葉よ 言の葉よ 依り代となれ 依り代となれ 歌の音よ 歌の音よ 依り代となれ」
「やまとうたは人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける」
「人の想いで紡がれた物語を
異国の音楽に、まるで歌っているかのような呪文の詠唱。その呪文に合わせて付喪神たちも輪を作って動き始める。
「一つ、心の臓が脈打ち始め」
「二つ、赤き血は巡り廻る」
「三つ、
「四つ、手足は分かれ指を成し」
「五つ、耳は音の意味もわからず」
「六つ、口はまだ言葉を持たず」
「七つ、その肺に空気を吸い込めば」
「君は産声を上げるだろう」
異様な空気に、冷や汗が流れていく。
歌っていた神々が足を止め、一糸乱れぬ動きで和と共に手印を結ぶ。その時に唱えられた呪文はもはや、人に理解できるものではなかった。
「時は満ちた。満ち足りた」
神々もその場に座って頭を下げる。
「八つ、今こそ
和が恭しく頭を下げるとスタンプがまばゆい光を放ちながら宙へ浮き、人のシルエットをした何かが現れた。
周囲には、人のものなのか、それとも獣のものなのか、まったく違うものなのか。ドクン、ドクンと心音が鳴り響いている。
「おおおぉ、ぉぉぉお、おおおおおお」
まるで苦しんでいるかのような、怒りで震えているかのような、唸り声にも聞こえそうな声が満ちていく。
「我を呼び起こすのは、燃え滾る、八つの炎。我に与えられたのは、肉体と、八つの苦悩」
苦しみを確かめるように、人の形をしたシルエットが動く。声も聞こえているのだが、口から放たれているというよりも、空気を震わせているかのように聞こえて来ていた。
「
「共に生きるため、共に歩むため」
「滅びるのも、道の一つ」
「滅びないのも、道の一つ。どうか力を貸し給え」
深く頭を下げて乞うてくる和を見て、シルエットは動きを止める。
「産まれた
その声からは、もう怒りも苦しみも感じなかった。
人の形をしていたシルエットがゆらりと揺れて、一瞬霞のように消えるとそこには長い髪、眼鏡の奥に光る厳しい目、細身で少々頬がコケているようにさえ見える、そんな容姿をした一人の男が立っていた。
「私はクラウサン聖王国が建国された年に造られた。書物、書類、スクロールの管理が主な仕事だ」
「名前は?」
「個体名はない。好きに呼んでくれ」
「そうなんだ。じゃぁ、作った人の名前とかは分かる?」
「セレスタンという男だ」
「一番最初の主は?」
「クロード・ブレタ」
「一番思い入れのある主は?」
「・・・クロード・ブレタ」
そう答えた男に、和が笑いかける。
「ならセレスタン・クロード・クラウサンにしようかな。セレスって呼んでいい?」
「ああ」
立ち上がって手を出すと、セレスタンは膝をついてその手を握り手の甲に額をあてる。
「?」
「私が知っている中で最大の感謝と敬愛を示す方法だ」
そう言って微かに笑う。
「この国を救い上げてくれた事、感謝する」
「見つけたのは茂たちだけどね」
笑って手をかざすと紋が現れ、そのままセレスタンの胸に溶け込んで消えた。
すると、周囲に薄ピンク色の花びらが降り注ぐ。
「あなめでたや めでたや」
笑っている付喪神に向かい、背の高いセレスタンの手を引いて歩きだす。まるで幼い子供のように見上げてくる和に、抵抗することなく歩き出した。
一瞬で、広場が祝いの空気に染まった。
こんな光景が出てくるお話を、知っているような気がする。神々が住む場所はとても美しく、地上には咲いていない花が咲き乱れる幻想的な場所なのだと、幼い頃に夢物語で聞かされた気がする。
美しい人の姿をした神々が、美しい花びらが舞い踊る場所で、美しい歌を歌っている。
背景は荒廃したがれきの山だ。それなのに、その一部だけは間違いなく神の領域だった。
「私も歌うー!利刃さんも一緒に行こ!」
「お疲れ様です、蜻蛉切さん」
みのり屋の至と豊が、その神域へと踏み込んでいく。
神々はそれを拒否することなく、境界線は、弾くことなく二人を受け入れた。
「歓迎の宴は夜でいい?」
「うん!ありがとう満!」
和が手を振って地面で光っていた紋を消すと、神々の頭上で舞っていた美しい花びらが風に巻き上げられ全ての者たちの上へと降って来た。
風が届く場所にいる者の上には、分け隔てなく降り注いでいく。
この世に神はいるのだと、疑いようのない光景だった。
「お前いつもあんなスゲー事してたのか!!」
「ううん、いつもは省いてるからやってないよ」
ただ紋を出すだけでできると抱き上げられたまま紋を出して見せると、「もっとスゲー事してんじゃねぇか!!」と騒がしくなる百獣海賊団と白ひげ海賊団。
「今回は政?のためと、ここの人たちにセレスのお披露目も兼ねてたから、こっちにしてみたんだよ」
みんなに見せた方が、セレスがどういう存在か分かりやすいかと思ってと笑う。
「クリストファー」
「は、はい!!」
「セレスならこの国とか大陸とかの事詳しいと思うから、いろいろ意見を聞けるよ」
サラがいなくなった後もいてくれるから安心していいよと言う。
「よ、よろしいのですか?!」
「構わない。私の願いを汲み取ってくださった主の計らいだ」
「願いってのはなんだ」
フーズ・フーが見下ろすと、和が夫だと紹介したので納得したように頷いて見上げる。
「私は、この国が建国された年に造られた蔵書印。この国の滅びるその時に歴史書へ押印するのが最後の仕事となるだろう」
自分の職務を全うする。それが願い。
「この国が無くなる時が私の最期と思っていたが、主がその後も役目を与えてくださるというのなら、生まれた役目を全うしてから仕えよう」
「人の体に慣れるのにちょっと時間はかかると思うけど、疲れたら部屋で休んだりしてね。後で用意しておくよ」
「ありがたい」
二人の会話を聞き、フーズ・フーが警戒心を解いて和を改めて抱きなおす。
「クリストファー、いつかこの国が無くなったらセレスを連れていくけど、それは許してね」
物の中には主人や生まれた場所で一緒に死ぬことを望む者もいる。けれど、今和がセレスタンを選んだ事でそれはできなくなった。それを理解してくれと言われ、そこに文句などないと見上げられる。
「そっか、よかった」
ならより安心してセレスを置いていけると笑った。
「セレス、昨日スタンピードがあってちょっと国が荒れたんだけどさ」
「ちょっとどころじゃねぇだろ」
教会の最上階から周囲を見せ、これからアラマキが森にしてくれると説明を始めて地図を見せた。
「今でもこのような荒い地図を使っていたのか。これでは詳細が分からないだろう」
少し待っていろと、まだ地震の影響で荒れたままになってる図書館へ消え、一枚の羊皮紙と三冊の本を持って戻ってきた。
「こちらを使うといい。その地図よりも正確だ」
「こんなっ、このような詳細な資料があったなんて!」
それを即座に持ってこられるなんてと驚く人間たちに、このくらいは造作もないという。
「書庫に収められている本には全て私が押印したのだ。内容も覚えているし、どこにあるかも把握している。以前は書庫の禁書庫に書類やスクロールや魔法の研究書も収められていた」
建国当時から図書館で保管していた全てに一度目を通して押印していたのだ。今ここにいる誰よりもこの国やその周辺について知識があるのは、セレスタンだろう。
「セレスがいれば決められそう?」
「はい!本当にありがとうございます!」
「よかったね」
なら決まるまで時間もできたし、ダンジョンに潜った時の話し合いをしていてもいいかと見上げ、歩き出そうとする和を呼び止める。
「あのっ、なぜ武器ではなくクロード様を召喚してくださったのでしょうかっ」
「ん?クリストファーとゲームで遊んだからかな」
「ゲーム、たった一度ですが・・・」
「そうだけど、クリストファーが気遣い屋っていうのは十分伝わってきたし」
「き、気遣い屋」
「うん」
ルールを教えたばかりの相手。この国どころか大陸に縁もゆかりもない和。そんな相手との一戦。
「クリストファーは前線に出るタイプでもないし、作戦を立ててからめ手を使うとかいうのも苦手でしょ?」
「、」
「それが悪いって言ってるんじゃないよ。そういうのに罪悪感を持つ性分って言ってるんだよ」
そんな人物を国のトップにさせるのなら、武功を上げられるパワータイプか策士タイプを側に置く方がいい。
しかし、クリストファーはそういう人物が一番近くにいると疲れて萎れていく節がある。
「自分が出来ないから、部下が代わりに手を汚すのも嫌でしょ?」
そんな事をさせてしまったと、罪悪感を持ってしまう。
「なら、まずそうならないように流れを作れる人の方がいいと思ったんだよ。セレスは十分人の側で生きてきた付喪神だし、いい組み合わせだと思うよ」
「とはいえ、私は一度この国と共に亡びる事を受け入れた身だ。歴史に学び、同じ道を歩まぬというのなら延命を手助けするのも吝かではない。しかし、何も学ばず無知をひけらかすだけの愚か者に、命を奪わぬ以上の慈悲を与える気はない」
場合によっては死も温情の一つと考え、その道を増やす事も考えておこうと言うセレスタンに、聖国の者たちが冷や汗を流す。
「今の私の主はこの国の誰でもない。主が国を欲すればそのように動くことを忘れるな」
「私国とかお世話できないからいらないよ」
「ウォロロロロロ!」
和の返しに、魔族たちが笑い出した。何事だと聖国の者たちが目を瞬かせると、カイドウが口を開く。
「せっかく手に入れた部下を貸してやんだ!献上金でも払わせたらどうだ?」
「お金もいらないよ。使い道もないし、どこで使えばいいかも分からないのに」
というかこの国お店あるの?と見上げられ、また爆笑してセレスタンを見た。
「オメェもんな脅しで尻蹴らにゃ動かねぇ奴らのお守りなんざいつまでもしてねぇで、見限ったらとっとと和のとこに戻れよ!」
面白れぇもん見逃すぞと笑っていると、賑やかな声が和を呼んだ。
「主!見ておくれ!昨日倒した魔物の死骸で罠を作ってみたんだ!!」
だんじょんへ潜った時に使ってみてもいいかね!と、朝尊が手に持っているのはとてもグロテスクな何か。
「先生!まずは茂に素材の確認をしてからだろ!」
「その茂殿が言っていたのだよ!この皮はとても熱に強いとね!」
その皮で鉱物と火薬を包み許容以上の熱で爆発させれば強力な武器になると思わないかね!と熱く語る朝尊と、頭を抱えている肥前。
「あぶねぇな!近くにいる奴も被害にあうだろうが!」
「そこは問題ないよ。茂殿から回復薬を大量に頂いてから行くからね」
「被害が出る大前提じゃねぇか!!」
「主ー!見てくれ!茂が新しい銃と弾を作ってくれたがじゃ!!」
「陸奥守ー!!」
「お前さんとこの奴らは相変わらずみてぇだねい」
「うん、特に朝尊とか髭切とかはふわふわしてるしね」
「ふわふわ、性格ですか?」
「それもあるけど、どっちかって言うと倫理観とかかな」
「一番アウトだよバカ!!」
怒鳴り、笑い、呆れている者たちに連れていかれる和が一度振り返った。
「セレスも!落ち着いたら一緒に冒険しようね!」
笑顔で手を振る和に、わずかに口角を上げるような微笑みを向けて答える。
「主が、それを望んでくれるのなら」
和に聞こえていないと分かっていながら、小さな声で呟いた。
とても、とても穏やかな声と眼差しで、そう呟いた。
「主人を得るというのは、それほど嬉しいものなのですね」
子供の純粋なその質問に、視線を向ける。
「国の所有物である私を手荒に扱う者は、ほとんどいなかった」
そして、この声が届いた事も、一度もなかった。
「クロード・ブレタを主と思っていたのも私だけだろう。司書という職に就いていたから私を使っていただけで、一度も個人の物になどなった事はない」
何度となく、司書が変わるのを見送ってきた。
「ある日突然来なくなり、別の者が本に押印をする。その繰り返しだ。お前たちの寿命はあまりにも短い」
その短い人生で、何十冊という本を残し次代へ繋いできたのを知っている。
「お前たちの先祖が後世のために託した知識を、無に帰すというのなら止はしない。それも選択の一つだ。しかし、もうお前たちと共に滅びてはやらぬ。私はこの知識全てを持って主と共に歩む未来を選んだ。ここで得た全てで主の役に立とう。それが今の望みだ」
いつまでこの国にいさせられるかは、お前たち次第だと、厳しい目に優しい光を灯して真っすぐに言った。
