7.学園生活(続き)
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幻術が解かれた青空を見上げ、皆がフェアグリンを振り返る。フェアグリンは眼を見開いたまま、動けずにいた。
「え、フェアグリンって」
「じゃあ、あの赤ちゃん、」
「てか、天の民?」
「私は、エルフでは、ない?」
本人も皆と同様、幻術で見たものを呑み込めずに驚きの表情のまま立ち尽くしている。
「やっぱり、自分でも本気で
「知ってたの!?」
「そりゃぁねぇ」
「うちには精霊種が沢山いますからね」
「私たちは大陸を回って来たし、聖国の事も知ってたから、隠して当然だよねって最初は思ってたんだけど、」
「ですが、以前医療の授業を受けてくださった時に、」
『ずっとなぜミルクが口にできないか疑問だったのですが、納得が行きました!』
「ご自身の事を、アレルギー体質だとおっしゃったので・・・」
「それで現津さんに呪いとかがかかってないか見てもらったんだよね」
そうしたらかなり高度な認識阻害の魔法が内臓にかけられている事が分かったと言う。
「どうやって内臓にって思ってたんだけど、なるほど。タバコの煙でだったんだ」
「あれならば、抵抗なく体内へ魔法を隠すことができます」
「でも、赤ちゃんにタバコの煙を吹きかけるのは・・・」
「そこは喫煙者だらけの土の民らしいですね」
後、精霊種がそのくらいで体に害を及ぼさないと分かっていてだろうと、呆れたようにため息を吐く。
「今のが真実であるのならっ」
「フェアグリン様が、イアグルス様の、」
「唯一のご子息という事になりますね」
フェアグリン本人も、神官たちも、聖騎士たちも、全員が同じように驚いているそこで教皇が怒鳴りだすが、進がそれを止めた。
「悪いが、この問題を落ち着かせるだけの時間は、今はない」
「誰にものを言っておるのだ貴様!!」
そう怒鳴られるも、進は表情を変えない。
「狩場でその考えは危険だな」
また怒鳴ろうとしている教皇たちを梅智賀が魔法で黙らせるのを誰も止めず、進に「もう始まるのか」とシリウスが顔を向けた。
「ああ、これからここはどでかい狩場になる。この気配、大物が数匹。ドラゴンもいるな」
「ドラゴン!?」
マイケルだけでなくフェアグリンも身構える。神官たちが周囲を見回すが空にもどこにも、そんな影は見えない。
だというのに、王国から来た誰も進の言葉を疑ってはいなかった。
ここからでは皆にも見えないだろうからと、教会を出て騒がしい町の通りへ出て茨の森を見下ろす。
「あそこだ。今は茨で見えないが、あの中にダンジョンが出来てる」
「ええ!?」
「さっき見ただろ。イアグルスが命を懸けて光輪を放ってたの」
天の民の光輪は邪気を払う。今までこれだけのスラムの住人と天の民へ拷問と殺人を繰り返して呪いと魔力が溜まりに溜まっていたにも関わらず、ダンジョンもできなければアンデッドの出現もなかった。
「800年、サラが静かにライアンを待つことができたのはイアグルスのおかげだ。だが、その間恨みを買いすぎたな」
サラが1000歳になって呪いの範囲が広がるのとは話が別だと、茨の海へ顔を向ける。
「なんだろうな?あの気配」
「それこそ、魔物がこの国から逃げ出してたのはサラじゃなくてあっちが原因じゃねぇか?」
サラの茨からは何も感じなかったが、向こうからは明確な殺意を感じると梅智賀も進と同じ方向へ顔を向けた。
「ドラゴンの他にもなにかいるの?!」
何が起こっているのか分からない緊張感が漂う場所に、場違いな弾んだ声が響く。
「あれだけデカいダンジョンだからな、ドラゴンと同じくらい強い奴が出て来るぞ」
「やった!じゃぁカイドウ呼ぶね!カイドウ!ドラゴンが見つかったよ!!」
進からドラゴンの気配があると聞いた和は嬉しそうに声を弾ませて光る紋を出すと話し始める。
「スタンピードっていう、魔物?があふれ出して茂たちの友達の国が押しつぶされそうなんだって!この魔物って食べられるの?」
「食べられるよ。全部じゃないと思うけど。とりあえずドラゴンは食べられる種類じゃないかな?」
「ドラゴンも食べられるって!」
「カイドウさん達ってドラゴン食べていいの?」
「前に食べるなって言っていませんでしたか?ササキさん達が」
「見てダメそうなら別の魔物を食えばいいんじゃないか?」
「魔族はドラゴンを崇めているのですか?」
「んな訳ねぇだろ。単にカイドウ達がリュウ、あー、お前らがドラゴンっつってる生き物のゾオン系ってだけだ」
「え?」
「やった!カイドウが来てくれるって!ドラゴンと戦ってみたいって言ってたよ!」
「お、なら大分楽になるな。教会と国民は満たちに任せるとして、梅智賀と現津も出るなら、時間はかかるがどうにかなるか」
「俺は行かねぇぞ。こんないつ暴動が起こるか分からねぇ場所に満をおいて行ける訳ねぇだろ」
「私もです。茂さんに何かされたら私がこの国を滅ぼしますよ」
「うん!お前たちは残れ!!」
「私たちも頑張るから!」
「いざという時に頼れるのは己の力のみだ!!」
「いいか!少しでも怪我!疲労を感じたら!結界の中に戻ってきて回復だ!」
「はい!」
そんな王国民のやり取りを見て笑っていたフーズ・フーが大きく息を吐く。
「スタンピードって言ったか?気配から言って相当な数だな。進、お前の見積りで、どんくれぇかかる」
「そうだな、わしが寝ないで戦ったとして、五日ってところだ」
「そりゃ時間をかけ過ぎだ」
その間にヤケを起こして背中から刺されたんじゃ笑い話にもならない上、向こうでカイドウの不在に気づいた奴らが騒ぎだすとため息と一緒に煙を吐き出す。
「仕方ねぇ、和。他の奴にも声かけろ。一日だ。今日中に全部終わらせるぞ」
「今日中!?」
「なら一回カイドウの所に行って説明した方がいいかな」
「そうだな。俺も仲間に声かけて連れてくる」
「そうか、早めに終わらせた方がいいか。じゃぁわしもニューゲート達に声かけてみるかな」
「白ひげもくんなら、半日ってとこか?」
「そ、そんなすごい人なんですか?」
「パラミシア最強とまで言われてる男だからな。あー、満。今結界は二重で張ってんだよな?」
「はい、この王都周辺と、国境沿いです」
「そうか、そのまま戦闘が終わるまで解くなよ」
そう言ってから和を抱き上げると、光る紋と共に姿を消す。
「おお、エース。今ニューゲートと話せるか?少し頼みたいことがあってな。いや、エースも手を貸してくれるなら助かるが」
進が鞄から出した黒電話でしばらく話している姿を見ていると、受話器を置いた。
「今海の真ん中にいて周囲に人もいないから船ごと来るそうだ。あっちの入り江を使わせてもらうぞ」
ニューゲート達の船はデカいから海に近づくなよと言われ、まったく理解ができていない者たちに質問攻めに合う。
そうしていると、和が戻ってきた。
「カイドウだけじゃなくて、みんなで来てくれることになったよ。だからちょっと準備に時間かかるって。フーもみんなと一緒に来るって」
「主さん、もしかしてだんじょんってあれ?」
乱が指さした方向へ顔を向け、茨の中に埋まっていてかろうじて見える洞窟のようなものを見た。
「至、今日はずっと歌ってたりする?」
「うん、歌だけじゃなくて踊りも踊ってるつもりだよ」
「そっか、ならいつもと違う手が打てるね」
「なになに~?どんな作戦?!」
「ふふふ、みんなの力を思いっきり発揮できる作戦だよ」
「それは楽しみですねぇ、huhuhu」
「頭、お下がりを。どうやらそろそろ魔物が溢れてくるようです」
「お、思ったより早かったにゃ」
何人もの男たちが現れ、塀に登る和を手伝いながら共に茨の海を眺め始める。
「この者たちは?」
「和ちゃんと一緒に冒険をしている神様たちです」
「そうなの!?」
「めっちゃ人っぽいけど」
「ぬし様の召喚術によって人の姿をしているにすぎませんよ」
「俺たちの本体は
「みんな切れ味がいいから、触っちゃだめだよ」
「殿下!このような者たちの言うことを本気になさっているのですか!」
教皇がクリストファーに怒鳴り、その勢いのまま和を指さしながら声を荒げる。
「この国を呪っていた悪魔を解き放つようなっ、国のみならず大陸さえ滅ぼそうとしている者たちをっ」
そこまで叫ぶも、それ以上は身動き一つできなくなった。
「よそ者である我らを疑うのは致し方ない」
そう笑っているのは、椒林剣だ。教皇の体に絡みついている輝く蔦も、椒林剣がやっているのだろう。
「え、そんなに怒らくてもよくない?」
和の言葉に、刀を持った神々が笑う。
椒林剣の術が無くとも、教皇は動きを止めていただろう。何人もの男たちが、その首や胴にむき出しの刀を当てているのだから。
「みのり屋、引いてはぬし様への無礼はその首一つで償えましょうが、今はいささか状況が異なります故」
「お前の首で国を守れるとなれば安かろう」
「な、なにっ」
「これから己の命を懸けて国の為に戦へ向かう者に対し!その態度はあまりにも不敬っ」
「うん、それはその通りなんだけど、その人この国の人でしょ?どうするかは殿下?に任せていいよ」
私は茂たちの友達の国を守るのを手伝いに来ただけだしと笑う。
「この国のいざこざに一切関係ないからこそ出来ることじゃない?さっきのを見た感じ、人間族以外に助けてって言えないみたいだし」
「っ」
悔しそうに顔を歪ませた教皇を見ていると、地響きが町を揺らした。
「本当に、ギリギリだったんだね」
「ああ、間に合ってよかった」
和と進が、茨の中にある空洞へ顔を向ける。
「なっ、何がっ」
「スタンピードの始まりだ」
進の言葉が真実であることを示すように、空洞から噴出される魔物が溢れてきた。その光景に、腰を抜かした教皇と神官、聖騎士たち。
「じゃぁ、行こうか。フーとカイドウが来たら作戦を始めるから、そのつもりでいてね」
「主命とあらば」
「わしは海側から片づけていくな。ニューゲート達が上陸するスペースは作っといてやらないと困るだろ」
「うん、そっちは任せるね」
まるで日常会話をするかのように笑って手を上げ、背中を向けあう。
最早、茨の海は魔物の海となっていた。もう逃げ場はない。このまま踏み潰されるだけだと、誰もが思っていた。
「ティアナ」
「は、はい!?」
「みんなの事、回復してやってな」
お前も結界の近くに行くなら危ないからこれを着ていろと、上着をティアナの肩にかける。
「豊の付与がされてるから、怪我はしないだろ」
そう言って海へと走っていった。
「行かなくてよいのですか?」
この国を守る聖騎士に現津が声をかけるが、誰一人動けるものはいない。
「行くぞマイケル!」
「血沸き肉躍るとはこのことだな!!」
「自分たちの立場を忘れないでよ!」
「行くぞー!!素材の取り放題だ!」
「おっしゃー!!」
王国から来ていた使節団と、錬金術師たちが満の結界から死地へと飛び出していく。
「子供たち、こちらへおいで」
結界から出なければ危険はないが、近くにいるのも怖いだろうと金剛がスラムの住人たちを呼び寄せて自分の後ろに来るよう促す。
町の住民たちはそれぞれで集まり教会の近くへと押し寄せていたが、スラムの者たちがその中へ入っていける気配はなかった。
「怖がらなくてもいい、お前たちは私が守ろう」
以前もスラムに現れ、自分たちを人として扱ってくれたその人に皆が涙を流しながら感謝を示した。
「っ、さすがに多いな!!」
「引け!一度休むぞ!!」
戦っていた皆が結界内へ戻ってきたので、茂たちがそれぞれを回復していく。
「至の回復が届かない範囲に行くのはまだ無理かっ」
「無理はしないでね?」
「ああ、分かってるって」
「ちょっと無茶してすぐに戻ってきてるからね」
そんな話をしていると、海に大きな光が現れた。
「なっ、なんだ!?」
「ニューゲートさん達が来たんですよ」
海の上に現れた光が門の形になり、ゆっくりと開いていく。そこから現れたのは、白いクジラを模した巨大な船。
「グララララ!俺たちの分はまだ残ってるかぁ!?」
「まだまだ湧いてきてるんだ。来てくれて助かった」
お礼は
すると空にヒビが入り、立っていられない程の揺れが大地を襲う。
「行くぞ野郎どもー!!」
「おー!!」
何百という男たちの雄たけびが、空気を震わせた。
進が守っていた入り江から武器を手に持った者たちが上陸し、溢れて来る魔物をなぎ倒していく。
巨人のように巨大な体を持つ者、肌の色が違う者、背びれや鰓のある者、本でしか読んだことのない種族の特徴を持つ者たちが、光の壁を守るように戦っている。
「もう一発行くぞー!構えろー!!」
巨大な男の背中で、光の翼がはためく。
「フンッ!!」
また空に、ヒビが入った。
「あ、みんなー!カイドウ達の準備ができたって!」
今日は小さくしないでそのままだから気を付けてねと和の声が響き、空に特大の紋が広がる。
「ウォロロロロロ~!!」
紋から出てきたのは、海の向こうにいると言われている、御伽噺に出てくる体の長いドラゴンだった。
「遅れちまったからもう終わってるかと思ったぞ!」
「まだまだ溢れて来るよ。ドラゴンも出てこれないみたい」
「お行儀よく順番待ちしてんのかよぉ!!」
ドラゴンが大きく口を開けて笑うと、地上へ向けて火を吐いた。
「
息がかかった一帯が火の海と化し、茨も魔物も瓦礫も、すべてが等しく焼き払われていく。
「和ー!助けに来たでありんすよー!」
「怪我してねぇかー!」
「してないよー!」
「茂ー!終わったら何体かもらっていくぞ~!!」
「分かりましたー!好きなのを選んでくださいねー!」
空を飛んでいたドラゴンが人の姿へと変わり、背中に乗せていた者たちだけでなく、握っていた赤い玉から何百人という武装した者たちが地上へ降り立ち、魔物を切り伏せていく。
小さな少女が、刀を手に魔物と戦っている。自分の何十倍もある魔物の前で、刀を振るう。
少女が刀を振ると、魔物は切り離された上部を残して足を踏み出し、死んでいると気づくことなく倒れていく。
血でぬれた刀を、羽織の袖でぬぐう姿からさえ、目が離せなかった。
「キングー!」
和がキングの肩まで駆け上がった。
「これからちょっと無茶するから、百獣海賊団の指示とかフォローお願いね」
「あ?」
「これやるとカイドウも巻き込むから、多分戦うのに専念しちゃうと思う」
「ちょっと待て!何やる気だ!!」
ジャックが止めるも和は笑って飛び上がり、積みあがっていた魔物の死体の上に立つ。
「行くぞー!!」
まるで頭に響くかのように、喧騒と雄たけびで埋め尽くされている地獄でその声がはっきりと聞こえた。
「門戸開放!憑依召喚っ、反転!!」
紋が輝いて大きくなり、紋様が一度回転すると和の姿が消えた。
大型獣の咆哮が二つ、空へと轟く。
「お前の力ぁ!マジでどうなってんだぁ!?」
カイドウの笑い声と共に黒い炎が肩から噴き出す。胸では和の紋が反転した状態で輝き、額では痣が影となって浮き上がっていた。
カイドウは純粋な魔族ではない。棘の数も少なく、後頭部を覆うことができる程度のものだった。その痣が今、宿り木の葉で補われている。
野茨と宿り木。その二つが重なり、三重に編まれた美しい冠を被っているかのようだった。
胸の奥、頭の中、魂が、温かい。
和が、近くにいる。
甘いミルクのような香りが、鼻孔をくすぐる。
みなぎる力と高揚感。そして、無垢な信頼。
「ガァアアアア!!最高か!マジでっ、たまんねぇな!!」
フーズ・フーが叫びながら自分よりも巨大な魔物をその爪で引き裂いて殺した。
「お前は俺のだっ、俺だけのだっ、死んでも離してやるか!」
地獄に落ちる時も殺してでも連れていくと、ヘルメットで見えてはいないがその両目を悪魔の色に染めて叫ぶ。
「主と共に立つ戦場!これも俺の新しい語り草!!」
「我らの物語!ここにっ!」
「キェェェェェ!」
カイドウとフーズ・フーのみならず、刀剣全てが知っている以上の力で戦っている姿に、キングの指示が飛ぶ。
「一匹残らず殺せ!とにかく全滅させて早くこの戦いを終わらせるぞ!!」
「あぁ~ん?何焦ってんだぁ~?」
「もうここは至の回復の範囲外だ!和にどれだけの負担が掛かってんのか分からねぇ!」
「!!」
和の紋が付いている者たちは、ハイになっているのか力の衰えを見せることなく突き進んでいく。その人数は百を優に超えている。
たった一人で、その人数にあれだけの恩恵を与えている和が無事である保証は、どこにもない。
「あいつがわざわざ”無茶する”なんざ言ってきたんだ!常人が耐えられねぇ事になってるに決まってんだろ!!」
キングの言葉に、百獣海賊団だけでなく白ひげ海賊団までもがざわついた。
「和ー!」
「なんでんな無茶してんだお前ー!!」
叫びながら魔物を殺すも、一向に減っている気配はない。
「燃やし尽くしてやる!!」
「お前らー!キングの兄御の攻撃からあぶれた奴を狙え―!!」
黒い羽根の生えた大きな男が、その背中で燃えていた炎で戦場の一角を燃やし始める。
「こらキングー!全部燃やすんじゃねぇ~!!」
「言ってる場合かブタ野郎!!」
「ウーター!」
「ウタ!?」
「お前まで紋が逆になってんのか!」
本当に紋がついている奴全員かよと驚いていると、クイーンの肩から宙へ向かって飛び、和の紋を足場にして立った。
そして、いくつものスピーカーを出現させる。
「ウター!!」
スピーカーからは、至の歌が聞こえてきた。それだけではない。あの光の粒が血なまぐさい戦場を包み込んでいく。
「マジか!!」
「お前そんな事までできたのか!!」
「ウタ!前線だ!とにかく和の紋がついてる奴らがいる近くに行け!!」
お前らは戦線を広げないように回り込め!と指示を出しながら刀を構え、キングはまた空へと飛び立った。
「ウォロロロロロ!ようやくお出ましか!!」
ポカリと空いている空洞からあふれ出てきていた魔物たち。その魔物たちを踏み潰し、喰らいながら現れたのは山羊、ライオン、狼の頭を持った怪物だった。
「あん?これがドラゴンか?」
「下がれカイドウ!」
ニューゲートが叫ぶと、怪物の後方から蛇が噛みついてきたので金棒で受ける。すると背中に生えていた蝙蝠のような羽根で滑空するように飛び、地上へと降り立った。
「きっ、キマイラっ」
上級ダンジョンのボスになることもある魔物だと人間の誰かが呟いた。
そのキマイラの次に、この世界の者でなくとも一目で分かるドラゴンが咆哮を上げながらニューゲートめがけて尻尾を打ち付ける。
そして、そのさらに後ろからガチャガチャと音を上げながら巨大な人骨が空洞から這い出てきた。
落ちくぼみ、ただの暗い穴となっている目の奥で青白い光が揺らめき、まるで笑っているかのように顎を鳴らして立ち上がる。7mの身長を持つカイドウの倍はありそうな巨体だ。
「
「このような者までいるのかこの世界はっ」
「いやっ、見ろ!」
立ち上がった巨人のような人骨は、町にいる神官たちを見ると目を光らせオーラで体を包み、まるで教皇のようにローブを再現させた。
「こいつっ」
「学習してやがる!」
大きく両手を広げ、口を開く。
『目覚めよ!我が眷属たちよ!!』
初めて聞くその声に応えるように、今まで殺してきた魔物たちが起き上がる。それどころか、踏み荒らされ、燃やされていた茨の海から人影が近づいてきた。
「おいおい嘘だろ」
何百万人分もの人骨や霊体。腐乱死体は、最近死んでしまった聖国民のものだろう。
「祟り神であったか」
「そんなっ」
崩れ落ちたのはクリストファーだけではない。神職の者たちも、身分に関わらず皆が膝をついた。
生活圏が少なくなる前の、サラの呪いが降りかかる前の聖国は小国と数えられることのない規模だった。その国土と人口の死人が、ダンジョンから出てきた巨大なドクロの声に応え、こちらに向かってくる。
「あ、ああっ」
もう助からないと、皆の心を折るには十分な光景だ。
「キャー!」
「な、なんだこいつらは!?」
満の結界で守られているはずの王都の中にまで、アンデッドが現れた。しかも、その出所は街の裏路地と、教会。アンデッド達が、苦悶と怨念の籠った声と表情で周囲にいた者たちを誰彼構わず襲いだす。
叫び逃げ惑う者もいるというのに、涙は出るのに、体に力が入らなくてぬぐうことができない。声も、喉が震えて口からはまともな言葉など何も出てきはしない。
「子供たち、そのまま動かないでいなさい。怪我をしてしまわないように」
立ち上がった金剛の、その黒い背中が視界に入った。
「せ、せんせい」
「何も心配しなくて良い」
一歩、足を踏み出すごとに足元には雲が現れ、金剛を空へと運ぶ。
「帰る場所を忘れたのか。それとも捕らわれてしまったのか」
まるで、仏教絵画で描かれるような神々しい姿で、うめき声をあげるだけの死人たちに話しかける。
金剛の乗る淡い色のついた雲からは、同じ色の、人のような姿をした武器を持った者たちが何百人と現れて立ち並んでいく。
「今、私の懐には助けを求めるか弱い子らがいる。しかし、懐に入らずとも皆も可愛い子らだ」
「おぉ・・・っ、あぁ~ぁ~」
「さぁ、お帰り。母が待っている」
祈ろうと、両手を合わせて合唱をした。
「何者でもないお前たちを愛し、慈しむのが母であるのなら、私は何者かになろうとするお前たちを見守り導く父であろう」
光輪が輝き、アンデッドとして立ち上がっていた死体、霊体が倒れていく。魔物までもが安らかな表情をしていると、そう思ってしまった。
雲に乗り、その光輪で安寧をもたらし、弱い者たちに手を差し伸べたとされる聖女。
聖書に記されたまさにその光景が広がっていた。
