7.学園生活(続き)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それから一時間ほどして三国が止まったので蜻蛉切が車の中へ入ってきた。
「お疲れさまでした」
「メェー」
「プキ」
「喉渇いた?水も用意してるからね」
子馬の姿になって戻ってきた三国を撫でれば、嬉しそうに擦り寄りモコにも労われながら休憩に入る。
「蜻蛉切も夜まで休んでてくれ。わしは森を見て来る」
「すでに気配がありますな。私も行ってまいります」
「なら反対側から見てきてくれるか」
「かしこまりました」
進とガーフィールが車から出て行くのを見送り、茂たちは造ったポーションの在庫を確認、満は昼食の準備。それぞれが自分の仕事をしていた。
「お、いたいた」
進が見つけたのは、弓を使うジェネラルゴブリンだった。サイズは通常のゴブリンの三倍はあり、人間の大人よりも少し大きいくらいとなっている。
その体に見合う大きな弓と矢を背負い、ゴブリン達に指示を出していく。
(弓が一体。
そう笑って音を立てずに森の中を移動した。
「おかえり、どうだった?」
「ああ、ゴブリンの集落が出来てた」
「こちらは魔物も動物もいましたが、まだ常識の範囲内でしたよ」
進とガーフィールの説明を聞き、ウォリスが腕を組む。
「計四体の上位種か、更に増える前に見つけられたのは幸いだったな」
「ここから人のいる村までは距離がありますからね」
アイリーンの言葉に頷いて仲間の騎士たちとも互いに顔を見合わせていた。誰一人として、怯んだ様子はない。
「100体未満とはいえ、逃してしまった場合の被害を考えると一度に殲滅したい所だ」
「そうですな、幸いゴブリンの背後は岩山。左右、正面から囲むように追い込むのはいかがでしょう」
他種族の女性を攫って増えるゴブリンなので、一匹でも残ればいずれまた群れを作っていくだろう。
「梅智賀、今すぐ滅ぼして来て下さい」
「行ってくる」
「一人で!?」
「行くにしても我々も行く!」
「殿下の護衛に残る者と分かれるので少し待って下さい!」
「戦力を分散すんな。これからスタンピードもあんだぞ、お前らの体力がここで削れる方が問題だ」
「ここで戦闘を経験して肩慣らしをするのもいいですが、それで気が高ぶり今夜休めなくなられても困ります」
「だからといって一人で行かせる訳にはっ」
「地形を変えない程度に抑えて下さい」
「分かった。あんこ、満から離れるなよ」
「キュー」
「ホムンクルスを置いていくんですか!?」
「当たり前だろ。満に何かあったらどうすんだ」
「梅智賀一人で問題ありません。昼食までには戻ってきますよ」
「行ってらっしゃい」
「ん、行ってくる」
足元に魔法陣を出すと、本当に一人で飛んで行く梅智賀を見送っている現津たちに「大丈夫なのか」とマイケルが話しかけた。
「問題ありません。梅智賀は私よりも攻撃力が高いですから」
「あの、巨大な魔法陣を出したアキツ殿よりも・・・」
アイリーンは去年の学園祭を見ていたようで、現津が魔法士にとって頂点に近いような力を持っていると知っていたらしい。その本人に自分よりも攻撃力が高いと言わせる弟。
「満ちゃん、ここに結界を張ってもらっていい?明日圧紘くんが本を持ってきてくれるまでキャンプしてるつもりだから」
「うん、じゃあ外にタープも出して焚き火もしようか」
一瞬で高濃度の魔力を練り上げて光るドーム状の結界を張った満は、そのまま疲れた素振りもなく昼食を作っていた。
「アキツよりも強いというが、何か得意な攻撃魔法があるのか?」
「梅智賀に苦手な魔法などありませんよ。しいて言えば、頭に血が上った時に魔力制御が甘くなり被害を拡大するくらいです」
「昔は私が造った武器を補助に使ったりもしてたけど、満ちゃんと結婚してから落ち着いたし、最近は使ってるところも見なくなったよ」
茂の言葉に、錬金術師たち以外が信じがたいという顔をしていたので苦笑する。
しかし、そんな面々の顔を見て現津が口を開いた。
「”梅は食うとも核食うな、中に天神寝てござる”という言葉は、この国に無いのですね」
「ないだろう。毒があると認識はされていたようだが、食べる習慣はなかったんだからな」
「その言葉も、飛梅伝説が派生だしな」
「?」
蜻蛉切と利刃が苦笑する中、今度は錬金術師たちも含めた全員が首を傾げる。
「ほら、生梅って毒があるでしょ?種の中にも毒があるから食べちゃダメだよっていう意味でね、天神様、あまつかみとかも言うんだけど、神様を怒らせるのと同じくらいやっちゃダメみたいな言葉があるんだよ」
「天神とは、大雑把にいえば天を司る神という意味だな」
「”梅智賀”、これ以上ない名前でしょう」
「・・・あいつって風属性だったのか?」
「ううん、全属性持ってるよ」
「全属性?!」
「でも一番使ってるの水属性だよね?」
そんな話をしていると、遠くの森から煙が上がった。
「終わったようですね」
「今日は天気もいいし、外で食べようか」
「そうしましょうか」
「じゃあこっちにテーブル並べちゃうね」
ひなたが車のサイドにタープを付けてくれたので、その下に大きなテーブルを四つ出して料理を並べていると空から梅智賀が下りて来た。
「おかえり」
「キュー」
「ん」
満とあんこに迎え入れられ、殲滅は問題なくできたと現津と茂に報告をする。
「後、一応全部の耳と魔石は持ってきた」
「100体近くいたのに!?」
「冒険者ギルドに行きゃ金になるらしいしな。魔石は母さんが使うかもしれねぇだろ」
「数と時間の話ししてんだよ!」
「洗ってきてくれたんだ、ありがとう」
「洗浄はかけましたか?」
「かけてきた。あいつら本当に特有の臭いするからキツイ」
鼻が曲がりそうだったと言いながら、テーブルに向って歩いていく。その感情の薄そうな表情と声に、メイナが満に聞いてみる。
「ミツルってウメチカのどこが好きなの?」
「え、可愛い所かな」
その言葉と共に、歩いていた梅智賀が胸を押さえて前のめりに倒れて動かなくなった。
「え、」
「死んだ?」
「これ本当に死んでねぇか!?」
「心臓止まってんぞ!」
「え!?」
「息しろ!」
アランが慌てて心臓マッサージをしている隣に、走ってきたフェアグリンが来て即座に高位の回復魔法を重ね掛けていく。
そして、ようやく戻ってきた梅智賀が目を腕で覆って泣きながら絞りだす。
「可愛く生まれてっ、本当によかったっ」
「ふざけんな!」
「馬鹿かテメェは!!」
「全然可愛くねぇよバカ!」
「貴重な回復役の魔力ゴリゴリ削りやがって!」
「お前狂犬みてぇなことばっかやってるくせにマジか!!」
「ウメチカくんって、そんなにミツルちゃんの事が好きだったんだ」
「好きの度合いがおかしいだろ」
命に直結してるぞとガウェインが額を抑えながら深くため息を吐いた。
「今のは不意打ちだったし」
「いや、二人って夫婦だよね?寮でも同じ部屋使ってるよね?」
「朝起きて来るので大丈夫なんでしょう」
「起きてこないとか怖すぎるよ」
「あんこがどうにかしてくれてるよ」
「生命維持をか?」
「ミュイ」
焦ったと胸を撫でおろしているアランに、満が笑う。
「もうずっと一緒にいるので、だいぶ慣れてきましたよ。ね?」
「これで!?」
「梅智賀のプロポーズが成功した時はみんなでお祝いしたわよね」
「現津がずっと回復かけてたり、茂が気付け薬飲ませまくったりしながらな」
「あのまま死んでいたとしても幸せだったと思いますよ」
そんな驚きもありながら、皆で昼食を食べて自由時間となった。
錬金術師たちは薬草などの使える物を採取に行き、その護衛をする騎士たち。昼寝に入ろうとしている進の近くにいたティアナが、聖書を開いたので「どこか一説でもいいから読んでくれないか」と声をかけた。
「聖書で、よろしいのですか?」
「ああ、聖国に行ったことがあるしこれから関わろうとしてる割に、何も知らないからな」
「では、」
神が聖国の人間たちを救うために使わして下さった聖女のお話を読んで聞かせる。
「聖女は空から国に降り立ち、貧しい者たちに自らの食料を与えた。人々を導き、神へ祈り、いくつもの奇跡を起こしてみせた」
空を歩き、闇を祓い、安寧をもたらした。
「・・・フェアグリン枢機卿」
「はい?」
「悪とは、なんでしょうか」
教会の教えに従い、厳しい戒律の中で生きてきた。罪を犯したことがあるかと聞かれれば、犯していないと言える。
しかし、それは法に背いていないという意味かもしれないと、クリストファーが溢す。
「教えに従ってきました。従順に、敬虔な信徒でいようと、してきました。ですが、その結果が今の聖国なのならば、・・・私は間違っていたのでしょうか」
「・・・それは私にも分かりません」
フェアグリンは、クリストファーとティアナが人種差別をしている所を見たことが無い。態度に出していないだけかもしれないが、こうして会話をする機会が増えても嫌悪感を向けられていると感じたことが無い。
クリストファーとティアナは、王国に来るまでの十数年を聖国の中だけで過ごしてきた。大人たちに言われた通り、聖国の王族としてふるまい続けてきた。疑問を持つ機会を与えられることもなく、そう育てられてきた。
それでも、人種差別をしないという事は、聖書の内容を自身で考えて解釈をしてきたという事だ。
「聖書には、聖女様のように人間が他種族を導けと書かれています。王族として、聖国を導くことに疑問はありません。ですが、王国を見て、目指すべき国の姿が分からなくなりました」
王国では人種差別がない。ありはするだろうが、それは個人の感情の話だ。
しかし、聖国では国を挙げて人間とそうでない種族をはっきりと分けている。
「私が王として立つ国に、出来る事がなんなのか、・・・言葉に出来る程定まっていないのです」
15歳の子供が見上げる壁が大きすぎて、けれど逃げずに向き合おうとしている姿に敬意を表して、深く頷いていると進が口を開いた。
「クリストファー、お前が考える善悪はどんなものだ?」
「善悪、ですか」
「ああ、教会の教えとかを抜きにした時だ」
「・・・」
教会の教えを指針に物事を考えてきたクリストファーには、即座に返答が出来ない。
「わしから言わせれば、その善悪を考える時点で十分”人らしい”事をしていると思うがな」
そう言って微笑む。
「前に、無意味に命を奪うのは人だけだと言っているのを聞いたことがあるが、だが動物も遊びで殺しをするぞ」
「そうなのですか?」
「ああ、殺した後食うわけでもなく、ただ自分よりも弱い相手をなぶり殺しにして遊んだら、そのまま狩りに行ったりする事がある」
しかし、その光景を見て残酷だと思うのは人だけだと、いつもと変わらず穏やかな声で話していた。
「自然の中で生きるのが心地いいわしにとって、善悪を二つに区切る考えはない。だが、人の生きる国の王になるお前は、悪を何にするかは答えを出しておいた方がいい」
「善、ではなくですか?」
「人の上に立って国を動かす立場で善に拘るのは、難しいかもな。清濁併せ吞む、それが出来た方がうまく回ることもあるだろ」
だから、決めるべきは超えてはならない一線をどこにするかだと言う。
「理解はできても、納得はできないだろう?だが、わしはこれ以上の言葉を持ち合わせてない。だから、和に会った時に”悪”は何か聞いてみると良い」
あいつなら、血の通った答えをくれるだろうと笑うと寝返りを打って昼寝を始めた。
その日の夜、みのり屋では夜になると皆風呂に入ってから寝る習慣があるという事で、交代で車についている風呂へと向かう。
「その、私は最後に、一人で入ってもよろしいでしょうか」
ティアナが皆と入る事を拒否したので、また進の部屋にある風呂に一人で入る事になった。
「そんなに裸を見られたりするのって嫌かな?」
「っていうか、王族ってまず高貴な人だから直接触っちゃダメだよ」
「え!?」
バッと勢いよくアディ達を振り返る平民たち。
「今更過ぎるだろ」
「一緒にお風呂にも入った仲じゃない」
「普通に最初から俺らと同じ風呂使ってたよな?」
「森で泣きながら走り回った仲だろ」
グレンとアディのセリフに、シリウスが笑い出す。
「王侯貴族がいくら高貴とはいえ、人であることには変わりないからな!」
「ある程度は図太くいてもらった方が助かることもある」
シリウスとマイケルの言葉に、場合によってかと呟いて男湯に入っていった。
「はぁ・・・」
ティアナは一人、湯船に浸かってため息を吐いていた。
こんなに毎日風呂に入り、清潔な服を着る事が出来るなんてと故郷を思い出して目を閉じる。一人で使うには十分以上の大きさがある風呂で足を伸ばし、体の力を抜くと水面から顔を出すだけの状態となった。
「・・・」
皆は、自分が気位の高い王女だと思っているだろうかと想像して、そういう事を思ったりしないメンバーの顔がすぐに思い浮かんだ。
(私も、みんなみたいに、誰かとお風呂に入ってみたかった・・・)
しかし、それは決してしてはいけない事だ。
この体を見られる訳にはいかない。
ティアナが生まれた時、その姿を見て母はショックを受けてしまったと聞いた。そして体力も戻らず、衰弱していき死んでしまったらしい。世話をしてくれた乳母にも、絶対に人前で肌を晒してはいけないと言い聞かせられてきた。
これから一生、結婚もせず神に仕える聖女として生きていくしかないのだと、分かっていても仄暗い感情は胸の中でくすぶり続ける。
(・・・ススム様なら、)
盲目の進ならば、この体を見ることはできない。それどころか、見たとしても拒絶をしないかもしれないと、期待が膨らんでいく。
ため息を吐いて、立ち上がった。
美しい白い肌に、黒い痣が広がる。
「・・・」
いい香りのする石鹸で体を洗っても、消えることの無い痣。兄だけが、醜くないと言ってくれた全身に広がる痣。
鏡に映る自分を見ても、もはや何も感じなくなってきた。
「せめて、ススム様のように、美しい痣だったらよかったのに」
あの背中に描かれた月と雲のように優美で力強い痣だったなら、自分でも堂々と女湯に入ることができただろうか。
飛び散ったインクのような、この痣でなければと小さく呟いてから、もう一度体を温めるために湯船に浸かった。
