7.学園生活
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それから数ヶ月間、舞踏会へ向けての練習の他にも、聖国へ向かう者は旅行の準備にも追われることとなり毎日忙しく動き回っていた。
「今回の旅行で稼げっかなぁ。来年のバザーまでに金貯めて倉庫型テント買いてぇ」
「去年の給料は、使っちまったんだよな」
「みのり屋の研究書とか金以上の価値があるからな」
むしろ書かれている物をまだ全部再現することができないとため息を吐きながら、錬金術ギルドに登録した四年生たちが売るためのポーションを造っていく。
「なんにせよ、実験に必要な備品が全部そろった状態で卒業できるだけでも最高だぜ」
「本当よね。お金が貯まるまではどこかのダンジョンの中でしばらく過ごそうかしら」
「それいいな!」
素材も取り放題。人も来ないから時間を気にせず実験し放題。冒険者とかがいればポーションを売ったり治療したりで稼げると言うので、その手があったかと下級生たちも顔を上げた。
「私たちも卒業したらダンジョンで稼ぐつもりでいたから、どこかで会えるかもね」
そんな話をしつつ、穏やかながらに忙しい最後の学生としての時間を楽しんでいる中には、もちろんアディ達もいる。三人は飛び級をしているので、正真正銘錬金術師科の四年生。他の四年生よりも年齢は若いが、皆よりも一足早く卒業していく。
「アディ、研究に集中していてもいいよ?使節団の調整とかは僕がウォリスと話しておくから、後で確認してくれれば」
「ありがとうございます」
「陛下の代わりに使節団を率いて聖国を訪問か。卒業したとたん責任重大な仕事が待ってるとか、王族も大変だな」
「実際に準備をしてるのは、使節団に選ばれた他の団員だけどな」
とりあえず術師団は全員参加、騎士団と魔法士団もそれぞれ、ミッシェルとヘレンから推薦された第三部隊と第四部隊が動いていると言う。
「第三騎士部隊は対魔物、人どちらも実戦経験が豊富ですし、魔法士団の第四部隊は攻守のバランスが良い部隊です。使節団として友好的に話が纏まらなかった時のことを考えても、聖国への道中を考えても最高の人選ですね」
クミーレルが微笑むので頷きを返してため息を吐く。
「枢機卿とも話し合い、こちらからの贈り物は調度品よりも食料などを多くしたが・・・、本当にそれでよかったと思うか?」
「そっちの方が絶対喜ばれると思うよ?」
「聖国では畑を耕す事も森で食べ物を見つけることも難しいですからね」
「聞けば聞くほど、過酷な場所だな。聖国」
「唯一の生命線が塩の輸出ですからね」
穏やかな入り江があるので、国民は基本的に皆海産物を食べているのだが、神官はそれも口にできないので少ない野菜、穀物、木の実と海藻を中心に食べているのだと言う。
「では、やはりワインなどの嗜好品も喜ばれるか」
「喜ぶと思いますよ。そう言った方面で贅沢が出来ることなど一年を通しても少ないでしょうから」
「よく生きてんな。その国で」
「国土は広いですが、国民は最少とも言われている程ですから。それでどうにか賄えているのでしょう」
ちなみに、その少ない国民の中にスラム街の住民は入っていないと言われ、何人もがこめかみを抑えながら目を閉じた。
「冒険者になった人たちが泣いて感謝する訳だよ」
「国民が最少って、どのくらい?」
「そうですね、スラム街の人数を入れなければ王都の五分の一。入れれば四分の一といった所でしょうか」
「少なっ!!」
「王国でも王都が一番デカいって言ってもっ、街一つだぞ?!」
「そうですよ。他国が本気を出せば聖国など一年もせずに救う事も滅ぼすこともできるでしょう」
しかし、そんな事を考えもしないくらい今の聖国には魅力がないのだと言う。
「魔族の呪いか、マジでやべぇな」
「苛烈なのは認めるけどね~」
「神出鬼没!」
「今日はちゃんと扉から入って来たって~」
笑いながら部屋へ入ってきた圧紘が、少し真剣な色を目に灯しながら茂たちを見る。
「榊さんの執筆が結構進んできて、途中まで読ませてもらったんですけど~、今回は俺たち聖国には行かない事にしました」
「それは転弧たちも含めてという事ですか?」
「はい、転弧もモンステラちゃんも。小説が書きあがってから決めますけど、もしかしたら火の民の皆さんにも協力をお願いするかもしれませんね~」
「そうですか。分かりました」
「小説が完成したら届けてもらってもいい?」
「もちろんですよ」
多分出発してすぐくらいには書きあがるだろうから、それをすぐに持っていくと笑って部屋を出て行った。
「何かあったの?」
「これから起こるんですよ」
「・・・私たちが用意しておく物などはありますか?」
何かを察知したクミーレルの質問に、少し考えてから口を開いた。
「生き残る覚悟と度胸でしょうか」
「何が起こるんだ」
「あの感じからして、どうにかなる事でしょう」
「来年の入試もあるし、できるだけ早く戻ってこないとね」
生徒たちはまだしも、教師たちはそれが仕事だしと言ってポーションを造っている茂を見て、自分たちもできるだけポーションを造っておこうと全員が動き出した。
数ヶ月後、豊の作ったドレスを着て入場した舞踏会はとても煌びやかで、吟遊詩人が歌う貴族のお話そのものだった。
しかし、その煌びやかな会場では、貴族たちの壮絶な争いと腹の探り合いが行われている。
「バザーで面白いものを見つけましてね」
「そうでしたか。私も新しものが見られてとても有意義な時間を過ごしましたよ」
いったいどの錬金術師に唾を付けるか、優良株は誰かと話しながら探り合いをしているのは生徒たちの両親だ。
「レイモンド、こちら僕の父と妹なんだ」
「ご紹介ありがとうございます」
騎士科の同級生に声をかけられ、その父親に向かって礼の姿勢をとって声をかけられるのを待つレイモンドに、「息子からいつも話を聞いているよ」と微笑みかける。
「君は水属性なんだってね。うちの領地は水源もあるし、錬金術師の視点から見ても面白いものもあると思うよ」
「それはとても興味をそそられます」
卒業後は素材を集めるためと修行のために数年は色んな場所に行ってみたいと思っていたので、是非お伺いしたいですと礼儀正しく笑顔で返すレイモンドに、妹は来年これから学園に通うようになるだろうから、もしも王都に戻って来た時に見かけたら声をかけてやってくれと推され、「ハイ」と返事をしていた。
「みんなコネクションを作れて良かったね」
「先輩たち、ものすごく助けを求めてない?」
「カタリナさんが、足をくじいたって壁際から動かなくなっちゃったね」
「言っておくが、明日は我が身だからな、お前ら」
みのり屋と同世代で同じ学年。その教えを一心に受けた錬金術師ということで、黄金世代と呼ばれているぞとアディが言うと三年生の表情が消える。
「今も私が話しかけているから近寄ってこないだけで、自分の子供に紹介しろと言っている親がいるだろ」
「アディ、ずっとここにいてくれ」
「残念だが、挨拶回りがある」
「いい機会だ、貴族とのコネを広げておけよ」
「これからきっと役に立つよ、面倒ごとも増えるけど」
「それが嫌なんだよっ」
ガウェインとローランドもいなくなってしまった為、三年生も含めた錬金術師科の生徒が貴族たちに囲まれることとなった。
そんな舞踏会も終わり、卒業生たちが学園から巣立っていく中、錬金術師科塔の前ではみのり屋と術師団、錬金術師科の三年生と卒業生が旅の準備をしていた。
「後一年早く生まれてればっ」
「それは言わない約束だろ」
本気で落ち込んでいるディーノを慰めているウィリアムや他の二年生たち。今回は国から出るという事で、下級生たちは一緒に行けない事になっているのだ。
「一応国を代表しての訪問だからな。そこは諦めてくれ」
「・・・ばいっ」
「ほら、血涙拭けよ」
「血涙」
悔しがっている下級生たちにお土産を沢山持ってくるから、みんなも家に帰る者と残る者に分かれるだろうが、休暇を楽しんでねと笑いかける。そうしていると、ティアナとクリストファー達もやって来て、今回の旅に同行する神官たちも学園に集まってきた。
「これからしばらくの間よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。皆さんと旅が出来ると聞いて楽しみにしていましたよ」
笑っているフェアグリンの後ろには、人間族以外にも獣人やドワーフの神官たちがそろっている。
「里帰りになる方もいらっしゃいますか?」
「はい、今回の同行は全員名乗り出てくれた者たちです」
だから聖国へ行くことにも覚悟が決まっていると言葉にはせず頷くので、茂も「それは心強いですね」と笑い返した。
荷物の確認はもう済んでいるかと話していると、一度家へ戻ると言って早朝から出かけていたクミーレルが子供たちを連れて戻ってきた。
「あれ、全員じゃないんだね?」
「ああ、今回は俺たちだけだ」
王妃たち三人と幼い二人がいない事に驚いていると、何かあるかもしれないとクミーレルが言うので置いてきたと言う。
「俺たちも行かない事になってるからな、あいつらには秘密にしてくれ」
「さすがにすぐバレるでしょう。というか今頃大騒ぎをしているでしょう」
アディが両手で顔を覆いながら
「まぁ、バレた時はバレた時だ」
「ひたすら謝りましょう」
「バレない事を祈ってて」
こうして今回の参加メンバーが全員そろったので、改めて聖国の者たちと使節団の騎士団第三部隊隊長のウォリス、魔法士団第四部隊隊長のアイリーンに挨拶をして車の中へ案内した。
「広い、まるでみのり屋のテントのようですね」
「テントと違ってこちらは完全に住まいとしてしか使えないんですけどね」
やろうと思えば店の様にもできるが、テントがあるのでそれで十分だと話して皆にテーブル席を勧めてお茶を出す。
「今回の旅程なのですが、お伝えした通り行きは時間をかけずに進もうと思います」
「ああ、聖国の状況が分からない以上、こちらもその方が安心だ」
「我々も、そのつもりで準備をしてまいりました」
「ありがとうございます」
「、本当に」
言葉に詰まるクリストファー達に、そんなに心配をするなと眉を垂らして笑って見せた。
「榊ちゃんの執筆も明日には終わりそうという事なので、私たちは先に進んで、明日グロスター辺境伯領で本を受け取りましょう」
「、明日までにグロスター辺境伯領までっ」
「はい、三国くんが頑張ってくれるので大丈夫ですよ」
「三国が走れば昼には到着できます。そこで森に入り、魔物が溢れていないかの確認をしましょう」
魔物だけではなく、もしかしたら動物もいなくなっているかもしれないがと言われて全員の表情が引き締まった。
「そこまでひっ迫した状況という事ですね」
「あの子たちは人よりも感覚が鋭いですから」
「やはりっ、魔族が1000歳に、なるのですね」
「それもありますが、実は状況が少し変わりました」
「え」
「スタンピードが起こるかもしれないんです」
「スタンピード!?」
「ダンジョンがあったのですか!?」
「私たちが以前聖国へ訪れた時からダンジョンがある事には気が付いていたんですが、茨の中でしたし、特に何も感じていなかったんです」
そのダンジョンがここ最近活発になってきているのを進が感じ取ったのだと言う。
「なので、和ちゃんに手伝ってもらう事にしました」
「その方一人でスタンピードがどうにかなるのですか!?」
「一人ではないですよ。和ちゃんと神様たちのお力を借りるんです。ですが、和ちゃんが来るとなると夫のフーさんもいらっしゃいます」
「、なるほど」
魔族に呪われている聖国が、同じ魔族に助けを求められるかという問題になってくる。
「・・・、分かりました。よろしくお願いします」
頭を下げるクリストファーを護衛の聖騎士が慌てて止めたが、この頭一つで国を救えるのなら構わないと手で制した。
「我が国がどのような経緯で呪いを受けたのか、私には見当もつきません。ですが、今いる国民たちはただの被害者です。その皆を救う事が出来るのなら、責任は私が取ります」
王国へ来たばかりだった時には見せなかった王族としての顔に、神官たちの空気が少し変わる。それがいいものだったのか悪い変化だったのかは、分からない。
一言では言い表せないだけの感情だという事しか、分からない。
「了承していただいてありがとうございます。これでこのまま全員で出発することができます」
「場合によっては置いていったのか?」
「うん、使節団と聖国の皆さんもね」
「え!?」
「和ちゃんに来てもらうのは確定だからね。クリストファー殿下の許可がもらえなかったら私たちだけで勝手に行こうって決めてたよ」
「王子様の命令を無視したことになるしな」
「だからと言って!我々もですか?!」
「戦う準備もして来たんですよ!?」
「だって王国の皆さんを連れて行ったら聖国と亀裂が入りそうですし」
なのでみのり屋だけでこっそり行ってどうにかして戻ってくるつもりだったと言われ、答えを間違わなくて本当によかったとクリストファーが両手で顔を覆った。
「話もまとまりましたね。では出発しましょう」
「三国、準備はいいか?」
「ブルブルブル」
「車の中は外の影響を受けないようになってるけど、外に体の一部でも出たら風圧で飛ばされちゃうだろうから、動いてる時は窓を開けないでね?」
「飛ばされるっていうか、木っ端みじんじゃね?」
空を飛べるジンが言うと、全員がここからグロスター辺境伯領までの距離は分からずとも人間の生身で耐えられないだけのスピードが出る事だけは理解した。
「全員窓には触るなよ!」
「はい!」
「錬金術師は理解が早くて助かります」
「大丈夫なのですか!?」
「窓や扉から手を出したりしなければ大丈夫ですよ」
「車の中は揺れもありませんので、お寛ぎください」
モネが笑いながら到着までの間にとお菓子を用意し、それを食べ始める進。皆にはひなた達がお菓子を配り始めた。
「いいか?出発するぞ」
「トンボは外に出て大丈夫なの?」
「豊が付与をした防具を着ているからな。問題ない」
「ずっりー!」
「そこは夫の特権でしょ」
恥ずかしそうにしている豊に笑いながら、到着までの時間を各々に過ごすことになった。のだが、聖国の者たちと使節団は頭を抱えていた。
「まさかっ、スタンピードまで起こるとはっ」
「規模によっては、準備してきた装備で足りるとは思えません」
「ポーションや回復に関しては私たちで援助しますよ」
「であるならば、我々は腹をくくる以外にないな」
ウォリスとアイリーンの会話に、クリストファーが青い顔をしながら「何故こんな事に」と呟く。
「スタンピードはどこのダンジョンで起こってもおかしくない事ではあります」
現にフェアグリンは30年程前に上級ダンジョンのスタンピードを経験したと言う。
「そうね、あの時は王国の西南にある森でダンジョンが出来ていたのに気づかなかったの。そこでスタンピードが起こったのよ」
「その話は聞いたことがある。確か、当時も王国から騎士団が派遣され、教会からは枢機卿と神官が同行したはずだ」
「私も聞いたことがある。スタンピードが起こったことで当時の森と付近の村は踏み潰されて無くなってしまったそうだが、それが今の辺境伯領の一部になったと」
「そうですね。ラジヴィウ辺境伯が一番近かったという事で尽力し、その功績を認められて現在は辺境伯領の一部となっています」
「詳しいのですね」
「家庭教師が耳にタコができるくらいうるさかったのでな」
教育のたまものかと、養子たちが優秀に育っているのは素晴らしいと言われてなんとも言えない表情でお礼を言うクミーレル。
「当時を経験した人(フェアグリン、ファビオラ、クミーレル)の話が聞けるのは助かるね」
「ええ、私たちが生まれる前の話だものね」
「その時って上級ダンジョンだったんですよね?どんな感じだったんですか?」
「森と村が更地になるって、そんなに沢山の魔物が溢れてきたんですね」
「はい、あの時は魔物の流出が収まるまで三ヶ月はかかりました。ですが、王国を拠点にしていSランク冒険者パーティーや、他にも上級と呼ばれるランクの冒険者が大勢応援に来て下さいました」
冒険者たちがダンジョンの中へ入っていき、溢れて来る魔物たちは騎士や神官たちで対処した。
「私は回復魔法が使えますので、ダンジョンの中へ一緒に潜りました」
「だろうと思いました」
「今回は我々もお供しますので、お一人では向かわないでくださいね」
ハリーに念を押され、苦笑しながら頷いている。
「今回は中に入らなくてもいいかもしれないぞ」
「何故ですか?」
「向こうから出て来るからだ」
どうしてかは分からないが、聖国の国土全てに蓋がされているのだという。
「蓋、ですか?」
「それは、魔族の呪いの事でしょうか」
「いや、あれは魔族の物じゃない」
「あれは天の民の邪気を払う力です」
「邪気?」
「天の民って、空の上に住んでる精霊種でしょ?」
「どういう流れでそうなったのかは、私たちにも分からないんですよね」
理由はどうあれ、その邪気を払う力がずっと聖国に蓋をしていた事でアンデッドが現れなかったのだという。
「でもその力も800年ですり減ってきて、もう保たなくなってきたっていう感じなのかな?」
「多分な。まだわずかに感じられはするが、本当に微かなもんだ」
「その天の民の方が、魔族と戦ったという、事でしょうか」
「それは無いな」
「言い切れる根拠は?」
「精霊種と血の騒いだ魔族が本気で戦って国が残る訳がない」
「なるほど、これ以上ない証明が聖国の存在という事か」
「そうなるな」
両手で顔を覆ってしまっているクリストファーに変わり、ティアナが口を開く。
「天の民の邪気を払う力とは、どのようなものなのでしょう」
「あー、口で説明するよりも体験した方が分かりやすいか?」
「そうね。金剛、今光輪を出すことはできる?」
「ああ、出来る。少し弱めにしておくか」
まるで大きな家の居間ともいえる車内だが、それでも室内だと言って手を顔の前で合わせて目を閉じる。すると、金剛の後頭部に光の円が現れ、その光を浴びた皆が胸の前で両手を組む。
「なんと神聖な、」
「心が洗われたような気分です」
「これが天の民が持つ特徴だよ」
「本人の生き方がそのまま修行僧に近かったり、争いを好まなかったり、邪気を払う力があったり、何かと神聖視されやすいのよね」
「だから信仰を集めやすい、か。なるほどな」
授業で聞いただけでは分からなかったが、これは確かに信仰する相手に成りうると納得する皆。
「フェアグリン様?」
「どうなさいましたか?」
「いや、何でもないよ」
魔力が頭に集まるのはいつもの事だからと笑って、押さえていたこめかみから手を放す。
「天の民であれば幼い頃からこの光輪を出すことが出来るんだけど、いつから出せるようになるかは個人差ね」
「基本的に成人するまでには出来るようになるみたいですよ」
「成人しても出せない場合は、それも日々の祈りや修行の一つの目標になるみたいですから、あまり気にしている様には見えませんでしたね?」
「光輪を出せないからと言って、何か困るかと聞かれると何も思いつかないな」
こうして光輪を出さずにいる事の方が多いし、出せる天の民も一生使わずに終わる者もいると言われ、天の民が高尚すぎると呟いた。
「天の民が争いを好まない種族とはいえ、戦えない訳ではありませんよ。それこそ光輪を出して争いを止めたりはするでしょうが、いざ戦えば人間種の勝ち目は薄いですね」
「妖精種は渡り合えると思いますが、そこは血の濃さとか相性とかで勝敗が分かれるところです」
「その勝敗がつくまでの間に、人間種や周辺の国はなくなります」
なら聖国に蓋をした天の民と魔族は敵対していた訳ではないという事かと、全員が頷く。
「この話は榊ちゃんを待つ他にありませんね」
「榊殿の書いた本が、全て事実だという事ですか?」
「はい」
それが榊の力だからと笑顔で言う。
「榊ちゃんは軌跡を残すことが出来る力を持っているんですよ」
「軌跡、ですか」
「蜻蛉切、今どこだ?」
「グロスター辺境伯領まで後半刻というところまで来た」
「もうか?!」
「今日中に聖国に行った方が良くない?」
「その前にやる事があるんだよ」
「シリウスくん、グロスター辺境伯から森で魔物が増えてるって連絡来てたりする?」
「ああ、魔物が増えてきたとは言っていたが、私兵と冒険者で対処できる範囲内だと言っていた」
「そうか、なら小国が集まってる方に流れたかな。もしくは、茨に吞まれたか」
「茨に呑まれてたら、あの蓋が無くなったらアンデッドが出るようになるかもしれませんね」
「そんなっ!」
「そうだとしても何十年も後の事ですよ」
「今考えるべきなのは、スタンピードをどうにかする事だ」
この優先順位を間違えれば被害がデカくなるぞと梅智賀に言われ、どうしようもないのかと握る手に力が入った。
「まぁ、スタンピードは和が手伝ってくれる。わしも出るし、満に結界を張ってもらえば聖国の国土から出すことも、街に入れることもない。終わるまでは不安だろうが、いつかは終わる」
その終わる時を腐らずに待てるかも重要な事だと言われ、ティアナと二人で顔を上げる。
「グロスター辺境伯領に着いた後は森の中で一晩野宿だ。ゆっくり考える時間はあるが、狭い視野で出した答えが最善手になる事は少ない」
今日までの間、聖国の為に食料を集めたり手紙を送って現状を伝えたり、出来ることはやって来たんだろ?と言って笑う。
「出来ることはもうやった。スタンピードも天の民の力が無くなるのも、お前が原因でもなければどうする事も出来ない自然の流れだ。それを知って被害を少なくする準備はしてきた」
なら、後は国民たちにこの説明をして落ち着かせる事を考えていろと言う進に、ティアナがときめいている。
「これはしょうがない」
「しょうがない」
「納得しかない」
錬金術師たちが頷きながら空いているスペースでポーションを造り始めた。
