7.学園生活
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
生徒たちが準備に追われている中、会議室で王宮、教会の神官たちと何度も話し合いをしてバザーの日がやってきた。
前日から各学科でテントの用意をし、学園の護衛をしてくれている兵士たちが見張りをしてくれてる。
そして、バザーよりも先に前入りしていたみのり屋は、皆と協力してスラム街全員に風呂屋を開放していた。
「髪も伸びてますね。お嫌でなければ切りましょうか?」
「お髭も、こだわりが無ければ剃りますよ」
ボランティアに名乗り出てくれた他学科の学生たちに手伝ってもらいながら、身だしなみを整えていけば皆見違えるようになった。それに、心なしか姿勢もよくなっている。
「貴族の皆さんがお家で余っている服や布を持ってきてくださって助かりました」
豊が嬉しそうに美しいドレスを容赦なく切って動きやすい服に作り替えていく。
「やっぱり貴族の方々が着るだけあっていい生地。これなら長く着られるよ」
「わー!ありがとう!!」
「ありがとうございます」
「サイズが合わなくなってきたらここの紐を解いて、こうするとまた少しの間なら着られるからね」
子供も大人も、新しい服を着て笑顔で帰っていく。
もちろん中には図々しい者や、必要以上に恵んでもらおうとする者もいるが、そこは兵士や現津たち黒い服を着ている者が止めて追い出していた。
「これだけの事をするには、やはり我々だけでは足りない事が多いですね」
「そうとは限りませんよ」
シャンプーや石鹸などは確かに作らなければならないのだが、そこは工夫しだいだと茂が笑う。
「メイナちゃんは元々の魔力特性がシャボンですし、ここまで泡は立たなくても綺麗にする植物はあります」
目的は贅沢ではなく清潔なのだと、湯から出てきた子供の頭をタオルで拭いていく。
そのタオルなどの用意も考えなければと、やはり問題は山積みなのだがクオリティを下げればやりようはある。
「明日は町の人たちがお金を払ってお風呂に入りに来てくれる日ですから、やはり今日と同じとはいきません」
けれど、そうやってゆっくりみんなの認識が変わっていけばいい。現に、テントから出ていったスラム街の者たちはもはや一般市民と区別がつかない。
「あしたも来ていい?」
「ごめんね、明日はバザーが始まるからお金を払った人しか入れてあげられないの」
残念そうな子供たちに眉を垂らして謝って笑う。
「みんなが自分で入りに来てくれるようにするには何ができるか、沢山の人が考えてくれてるからね」
だからその時は今よりももっとサービスするよと笑ってスラム街に戻っていくのを見送った。
「明日、また子供たちを雇うっていうのは本当か?」
「はい、本当ですよ」
「俺たちは働けねぇか?」
茂に話しかけてきたのはスラムで暮らしている大人の男たちだった。
「働く意欲がある方は誰でも歓迎ですよ。後で少し面接をしましょうか」
「めんせつ?」
「人と話すのが苦手な方に接客をさせてもお互いに良いことってありませんからね」
苦手だからこそ挑戦したいというのならそれは協力するが、今回は五日間しかないバザーなのだ。得意そうな事で成功体験を積んでおくのも悪くないだろうと言い、働きたいという大人たちには残ってもらった。
他にも、すでに今回働くことが決まっている子供たちと、その子供たちが面倒を見ているまだ働けない幼い子供たち。
その子たちを火の民達に任せようとしていると、榊がその子供たちと一緒に保育室へと入っていく。
「榊は今回、保育室で働くの?」
「そうしたくなったらそうかな?圧紘くんがフォローしてくれるからこっちの人数は気にしなくていいよ」
「・・・シゲル達も自由っちゃ自由だけど、榊は気分で動いてるよな」
「榊ちゃんはストレスとか感じやすいからね。私たちと一緒に行動してる時くらいはこのくらいでいいんだよ」
「なんか甘やかしてる?」
圧紘が榊を甘やかしているのは見ていれば分かるが、他のみのり屋メンバーもなんか甘やかしてないか?と聞かれ、少し考えながら口を開く。
「甘やかしてるっていうか、それだけの事してるからねぇ?正当な扱いって感じかな?」
「正当?」
「うん、榊ちゃんって私たちの中でも特殊なタイプだから」
だからただの日常の中ではストレスを感じるような事をしなくてもいいのだと笑って面接へと向かっていった。
「お疲れー、こっちも落ち着いたからみんなも部屋から出てもいいよ」
「ねぇちゃん!俺でかくなったらにんぎょみにいく!」
「にんぎょ?」
「人魚が出て来るお話を読んであげてたんだよぉ~」
「本物の人魚さんは大陸から近い島に住んでるから、会いたいならその島まで行けるようにならないとかな?」
「そうなんだ!」
「皆さんもテントの中なら自由にしていて大丈夫ですよ」
「これから夕食の支度をするので、少し休んでいてくださいね」
子供たちのように薄茶色の作務衣を着た大人たちにもそう声をかけ、手伝ってくれていたボランティアの生徒たちにも食べていけるかと笑いかければ、神官、医師団と共に喜んでくれた。
「ねぇちゃん!さっきのもっかい読んで!」
「他のみんなはまだ聞いてないもんねぇ~」
夕飯が始まるまでならいいよと笑って錬金術師たちにも囲まれて「人魚姫」という物語を読み始めた。
夕食が出来たと呼びに来ると、何人かが泣いていた。
「まさかっ、こんな悲しい最期になるなんてっ」
「偽物に気づかないでっ」
「浜辺で助けてくれてるから偽物ではないんだけどね~」
「んなとこにいたら誰だって声かけるだろっ」
人魚を知らないみんなが本気で悔しがっているのを見て笑いながら、好きな場所に座っていいよとテーブルを囲む。
「今日はパキラくん達に戦い方を教えてもらってたんだよぉ~」
沢山負けて失敗もしてたんだよと嬉しそうに話す榊に、子供たちはそんな話はしなくていいのだと止めるが茂たちもよかったじゃないかと笑っていた。
「失敗をするってそれだけ新しいことに挑戦したってことだからねぇ」
「チャレンジ精神を大切にしようね」
「失敗すればそれだけどうすれば成功するか考えるんだもの、とってもいいことよ!」
明るく笑いながら毎日なにかしらの失敗をすればいいと笑っているみのり屋に、授業以外に関りがなかった他の生徒たちまでもが納得したように自分の食事に手を付け始める。
貴族として隙を見せてはいけないと厳しく躾られてきたからこそ、根本的に何もかもが違うのだと理解したのだ。
夕食が終わった後は学園へ帰る生徒たちを見送り、歯を磨いてパジャマに着替えた大人たちも寛いでいる居間で榊の周りに集まって寝物語に耳を傾ける。
本を捲りながら大人たちまでもが引き込まれていく物語を語っている榊は、不思議な魅力があった。
「・・・おやすみ」
その場で寝てしまった子供たちを手の空いている者たちで部屋へ運び、明日から忙しくなるからみんなももう休もうと、大人たちにも用意していた部屋へ案内する。
「榊さんももう寝よっか」
「うん」
床にそのまま座っていた榊に寄り添い、手を出して優しく立たせると奥の部屋へと消えて行く圧紘。その姿を見て、フェアグリンが茂に小声で話しかけた。
「すみません、榊さんは、さっきのあの姿が、」
文献で見た信託を授かった修道女に似ている気がしたのだがと言うと、笑って見上げられた。
「やっぱりフェアグリン様には分かってしまいましたか」
「では、」
「私たちは信託とは呼んでいませんが、きっとその修道女さんと同じ状態で当っているとは思います」
「・・・そうなんですね」
みのり屋の言う神が精霊や妖精も含まれるのなら、きっとそういった存在と波長を合わせているという事なのだろう。フェアグリンはそれ以上深くは聞かず、金剛たちと共に子供たちの様子を見に行った。
次の日、朝食の席へやってきた皆によく眠れたかと声をかけて配膳をしていく。去年も来てくれていた子供たちが手伝い始めるのを見て、大人たちも何をすればいいと満に手伝いを名乗り出る。
朝食をしっかりと食べてからひなた達に身だしなみを整えられていく大人たち。それを見ていた働けない程幼い子供たちに、「大きくなったらみんなもあんな風にかっこよく働けるようになったらいいね」と笑って保育室へと入っていくのを見送る。
フェアグリンの申し出で孤児院の子供たちとその面倒を見ている神官たちも来てくれたので、保育室の人数はとても充実していた。
「子供たちまで連れてきたんだ。アツヒロさんがいるから神官さんのコピーは作れるのに」
「多分こっちの方が安心するんじゃないかな?」
「・・・保育室に入ると枢機卿も子供扱いなんだよなぁ」
「そりゃそうだろ」
大きな窓から保育室で子供たちと遊んでいるフェアグリンと、それを微笑ましそうに見守っている火の民たちを見ながら自分たちの仕事へと戻っていった。
「フェアグリン様!ぼく自分のなまえが書けるようになったんですよ!」
「わたしもです!」
「これで学園にはいれますか!?」
「名前だけでは難しいと思いますが、名前が書けるくらい文字を読み書きできるようになったのは素晴らしいですね」
これからも勉強を続ければ、きっと入学することが出来ると小さな子供たちの頭を撫でていた。
保育室は保育室で大いに賑わっていたが、初日の風呂屋も戦場かと思うほどの大忙しだ。
オルギウス達もお忍びで来ていたが、さすがにこの混雑の中で一日中いる事はなく帰ることにしたようだ。
「クミーレルにシリウスを連れて行けと言ったのだがな」
「街の皆さんも、去年よりも今日を楽しみにしてくださっていたみたいですから。人に潰されてしまう事を心配されたんですよ」
バザーの日程が近づいた時に商人ギルドへ挨拶へ向かったら道中も、ずっと話しかけられたりしてましたからと苦笑しながら見送った。
「豊殿!新しいタオルをお願いいたします!」
「こちらに積んであるのを使ってください。手ぬぐいの追加も置いておくね」
「ありがとう!助かったよ!」
「こちらへどうぞ。ご案内します」
スラム街の大人たちも口調などを気遣いたどたどしい接客だったが、午前で大分慣れてくれたらしい。
「お昼ご飯を食べてしっかり休んでくださいね」
今日はまだあるから休める内に休んでと学生たちにも声をかけて交代しながら皆で休んでいると、塩タブレットは足りているかと望が声をかけて来る。
「ここにあるお水は好きに飲んでくださいね」
他のメンバーも事あるごとに声を掛け合っている姿を見て、風呂屋を回すのを手伝っていく。そうしていると夕方になり、ガークの父親たちが工房の職人たちを大勢連れてきてくれたので、閉店までずっと大忙しだった。
「みんなもお疲れ」
「いやぁ、今日も働いたなぁ」
進たちが伸びをしている中でぐったりと座り込んでいるみんなを振り返って苦笑した。
「ご飯の準備してる間にお風呂に入っておいで」
「みんなもそうしよっか」
保育室から出てきた子供たちに榊と優が笑いかけて奥へと入っていった。
風呂に入って汗を流して夕食を食べていれば、働いてくれていた子供たちがウトウトし始めたので部屋へ行こうかと言うも、まだ寝たくないと甘えたようにわがままを言うのでまた物語を読んであげようかと頭を撫でる。
テーブルの上を片付けて柔らかい絨毯の上に直接座り、もはや寝転んでいる子供たちに物語を聞かせていく。今日は冒険ものだったので逆に興奮させてしまうかと思ったが、一人、また一人と眠っていった。
「おやすみ」
見れば子供たちだけでなく大人の中にも寝ている者がいたので、ひなたとつむぎに担架とサイコキネシスで運んでもらう。
「明日も忙しくなりそうですね」
「お客さんが来て下さるといいんですんが」
「明日は診療所ですから、また大忙しでしょう」
医師団たちも明日に備えて今日はもう寝ようと医療器具の点検をしてから寝ると部屋へと入っていった。ノアも明日はイヴが生まれてから初めての医療行為なので力が入ると言って部屋へと向かう。それを見て、一、二年生の医者志望の子たちもバインダーを開いて持ってきたメモと新しいメモ用紙を整えながら明日に備えていた。
次の日、前日のように皆で朝食を食べてから幼い子供たちを保育室へ送り出し、全員で向かい合う。
「今日も一日頑張りましょう!」
「おー!」
このやり取りにも慣れたようで、全員のそろった気合が響いた。今回も生徒たちが診察をするため、時間がかかることも説明をして去年同様安い値段となっている。
スラム街の子供たち、大人たちでお客を迎え、順番が来るまで座って待っていてくれとお茶を出していく。
「今年も診てもらえるなんてねぇ」
「お義母さんったらずっとこの日を楽しみにしてたのよ」
「そう言っていただけてこちらも嬉しいです」
順番が来るまでゆっくりしていて下さいねと番号札を渡し、雇われてれた子供がベンチまで案内してお茶を差し出した。
「この傷の深さなら初級ポーションで大丈夫じゃないか?」
「でも怪我したのが大工作業中なんだから破傷風になる可能性もあるし、」
「初級ポーションと薬を併用するなら中級ポーションとどっちの方が安くなる?」
ちょっと計算するんで待ってくださいと生徒同士で相談しているのを医師団の一人がカルテを書きながら軽く手当をして次の班も見やすいようにしてから奥の生徒たちがいるカーテンの説明をしていた。
「う~ん?破傷風とかにならなければ初級ポーション一本で終わるんだけどなぁ」
「こればっかりはなぁ、運みたいなもんだし・・・」
「こういう時は初級ポーションの半分を傷にかけて、残りを飲んでもらうと有効なんだ。それでも感染症を発症する可能性はゼロじゃねぇから、先に抗生物質を投与して数日様子を見るようにするのがいいな」
「計算は終わったかい?このメモも一緒に次へ回すよ」
上級生の話を聞いていた子供たちの計算したメモとカルテをまとめ、神官が患者をカーテンの奥へと案内して行く。
去年までは考えられなかったが、みのり屋が秘匿すべき重要な技術を大公開した事によって新しい知識を吸収するためにそんな秘密主義は吹っ飛んでしまった。
望と茂が生徒たちに囲まれながら最終チェックをしてカルテを書き、自分たちの判を押していく。
今日はさすがに他の学科は手伝いに来ていない。とはいえ、医療の最先端に立ち会えないのは辛過ぎると言って休憩が来るたびに聖国の者たちが様子を見に来ていた。
「ティアナ様も休憩はしてくださいね?」
明日が本番なのに今無理をしてもいい事はないと声をかけながらお茶を出して今何をしているのかの説明をする。
そうしながら一日が過ぎていき、テント内にいるお客がいなくなったのを確認して看板を下げた。
「はぁ~、疲れたー」
「お疲れ様、みんなもちょっと休んでてね」
ぐったりしているみんなに声をかければ、気だるげな大人たちをよそに元気な子供たちが保育室から出て抱き着いてくる。
「皆さんもお疲れさまでした」
「先にお風呂に入ってきてもいいですよ」
「
「ありがとう。昨日とは違う汗を沢山かいたから嬉しいわ」
「今日のはね、緊張感が強いもんね」
「本当ね。大きな怪我の治療と、診察で病気を見落とさない緊張感も別物だし」
「皆さんはお酒は飲めますか?」
「あ?いや、・・・はい」
口調が戻ってしまったことに気が付いて改め、何故そんな事を聞くのかと一年生たちと同じ年にしか見えない満を見下ろす。
「明日は酒屋ですから、お客さんに聞かれたら少し答えられるくらいの味は知っておいて欲しいんです」
術師団たちは普段から飲む機会があるので良いのだが、スラム街の六人の大人たちはそうはいかない。錬金術師科の生徒たちも、明日からは学科のテントで自分たちの造った魔導具などを売るためにみのり屋の店を手伝うことはできない。なので今回成人している者を雇うことができたのはありがたいのだと微笑んだ。
六人全員が飲めるというので、他の大人たちの前にも小さなお猪口を並べて明日売るつもりでいる酒を注いでいく。
「ぼくたちも飲みたい!」
「お酒は大人になってからね」
「みのり屋の出してくださるお酒は全部透明度がありますよね」
「ワインもありはするんですが、飲みなれている方が多いでしょうしこういった変わり種の方が注目を引きますしね」
フェアグリンさんはこちらをどうぞと、子供たちと同じように葡萄ジュースをグラスに注ぐ。
「こちらも私たちとしては目玉にできると思うんですよね。ワインを作るのと同じくらい本気で造ったジュースです」
「!!これがジュース!?」
「ものすごく濃いな!」
「これは絶対売れるでしょ!!」
「そうだといいんだけど。貴族の人の中にもお酒が苦手な人とかいるよね?」
そういう人はパーティーなどならまだしも、個人的な親交を深める食事会で侮られたりする事があるので大変だろうと茂が呟く。
「このジュースをワインと同じかそれよりも少々高めの値段を付ければ、自分だけでなく相手に振舞ったとしても相当好感をもらえるでしょう」
「貴族の内情を本当によく知っているなお前たちは」
ジュースを飲んでいる子供たちを見て、大人たちにも後で飲んでみるかと笑いかけた。
しかし、あのジュースはとても味が濃いので先に酒の繊細な味と香りを知ってくれと満が笑う。
「まぁ!なんてフルーティーなのかしら!」
ビビが一口飲んで目を輝かせていた。
「これはっ、去年飲んだウイスキーと全く違いますね!」
「あれも用意していますよ。ドワーフの方々は度数の強いお酒の方がお好きみたいですから」
スピリットと言うお酒は茂の力作だというと、大人たちが手を止めてジュースを飲んでいる茂を見る。
「こちらは焼酎というお酒です。先ほどのお酒はお米が材料でしたが、こちらは芋が材料なので、もしかしたら口馴染みがよかったりするかもしれません」
「芋!?」
「芋で、酒がつくれるのか・・・」
「結構なんでも作れますよ。美味しいかはおいておいて」
それこそ神様へのお供え物でよく使われるからどこの国でもお酒というものはあるのだという。
「こういう食文化っていいよねぇ。その国ならではの作物が絶対に関わってくるから、同じ料理でも味付けが違ってたり、食べる時期とか習慣とか」
「どこに行っても楽しめることだよね」
こちらは白く濁っているがこれが完成形で、早めに飲まなければ発酵が進んで味が変わってしまうのだと説明をする。
「っ、まったく違う舌ざわりだ!」
「香りも別物ね。これは、もしかしてお米?」
「そうですよ。どぶろくというお酒です」
酒に感動している大人たちを見て、ずるいと言ってる子供たちに至がシンデレラというジュースのカクテルを作ってあげていた。なので大人たちはそれを見ながら試飲を続ける。
「これすごく美味しいよ。外交の時とか使えるかも」
「お養父さん、陛下に手紙を書いた方がいいわよ」
「君たちがしっかりしていて本当に心強いよ」
これで好奇心で突っ走らないでくれたら心労もなくなるんだけれどと、グレンとサブリナを見てクミーレルが肩をすくめながら頷いていた。
「お酒が外交に使われるってよくある話だよね」
「あ、それで言うならこのワインは有名かもしれませんよ」
「!あっま!!」
「これが酒!?」
「じゅ、ジュースじゃねぇのか!?」
「これも列記としたワインですよ」
それからスピリットと、そのスピリットに薬草を漬け込んで香りを付けたものを出すと、スラム街の大人たちが泣き出した。度数の高い酒だったので酔って泣き上戸になったのかと心配したが、そうではないらしい。
「こんな酒がっ、生きてる内に飲めるなんてっ」
「いや、みのり屋と会わなかったら・・・ってことじゃないか」
スラム街出身というだけで、なれるものなど冒険者が関の山。しかしその冒険者も誰でもなれるものではなく、なれたとしても実力が無ければその日暮らしのスラムとさしたる違いはない。いや、定期的に仕事があるのだからもちろん冒険者になった方がいいのだが。
今回みのり屋に雇ってもらえたのだって一生分の幸運を使ったからなんだと泣いているので、そんなに言うほどの事ではないと笑って新しい試飲用の酒を注いだ。
それからジュースを飲んだ子供たちをトイレへ行かせ、榊がまた新しい物語を聞かせて子供たちは夢の中へと落ちていく。
「おやすみ」
子供も大人も、優しい夢を見る者、温かい夢を見る者、勇ましい夢を見る者、誰もが夢の中では平等に幸せを感じていた。
そして、その幸福を胸に、また地に足を付けて現実を生きていくのだ。
「おはようございます。ご飯の準備はできているので顔を洗ってきてください」
満にそう言われ、子供たちは嬉しそうに返事をして奥へと走って行く。他の者たちも、小さなその姿に笑って返事を返していた。
「今日から錬金術師科のみんなは違うテントでお仕事だから、みんなだけになっちゃうけど術師団の皆さんと神官さん達はいるから安心してね」
「夕飯はこっちで食べられるのが本当に助かる」
「他の学科は学園の厨房から運ばれてくるんだって」
「シゲル達が卒業したら俺たちもそうなるからな」
「嫌だー!」
「ずっといてくださいよー!!」
「それは難しいねぇ」
嘆いている一、二年生を笑って見送り、少なくなった人数で掛け声を合わせて開店する。
本日のメニュー「酒屋」
黒板を入口の横に引っかけて出していると、開店を待っていた客たちが「酒屋だー!!」と叫びながら入ってきた。
「酒だ!待ってたぜ!!」
「一年待った甲斐があったー!!」
冒険者だろう者が泣いて喜んでいて、去年食事処をした時に酒を注文してくれた人たちだと思い出した。
「そんなに気に入ってくれていたんですね」
「あんな酒飲んで!この一年どんな酒も不味くて飲めなかったんだぞ!!」
途中から諦めて普通に酒代を貯めていたと言われ、健康的な生活をしていたんだなと笑ってしまう。
「なにか入れ物を持ってきていただけたら二割引きにしますよ」
「マジか!」
「いやでもっ、この、なんだこれ?これってみのり屋のマークが入ってるじゃねぇか!!」
「これは瓢箪という植物を加工したものです。瓶よりも軽いですし使いやすいんですよ。ただやっぱり落としたりすれば壊れちゃうので、そこは気を付けてくださいね」
「蜻蛉切さん達の国でよく使われていたものですよ」
「こうやって紐を付けて持って歩いてましたよね」
紐をそのまま持ったり腰に付けてみたりと、豊がやってみせれば、それが異国風なのかと瓢箪入りを一つ、持参した瓶にできるだけ入れて持ち帰る者が多発した。記念品扱いになっている瓢箪に、蜻蛉切と利刃は笑っていた。
「待ってたぞ!!」
来てくれた生徒たちの親族と挨拶をしていると、ガークの父親たちが大金を持ってやって来て樽で売った後お礼として瓢箪に入れたスピリットを渡す。
「おお!これだこれ!」
去年背負えるだけのサイズのものをもらったと嬉しそうに両手で持てるサイズの瓢箪を持って笑いだした。
「瓢箪は植物ですから、火には気を付けてくださいね?お酒が入っているのでそこら辺の扱いには慣れているでしょうけど」
入れ物を持って来れば二割引きと聞き、後でもう一度あの大きな瓢箪を持ってくると言って嬉しそうに帰っていく。
その後にも商人ギルドのギルドマスターや、酒場が併設してる冒険者ギルドの職員たちもやって来ていくつか試飲をしてもらっていく。すると全種類を買っていくと言って注文を受けたのだが、量が量だったのでひなたとつむぎのどちらかを一人ずつ付けて見送ることにした。
「ああいうサービス精神だよね。大事なのって」
「気前がいいのと侮られるの境が難しいわよね」
茂たちを見ながら何かを学んでいるグレンとサブリナ。そんな二人を見て笑っているビビ。
そうしていると、お忍びの格好をしたオルギウスとミッシェルがやってきた。
「いらっしゃいませ」
「珍しい酒があると聞いたんだが、いくつか試せるか?」
「もちろんですよ。あちらのお席へどうぞ」
試飲席へ案内し、いくつかのお猪口に一つずつ違う酒を注いでいく。
「お仲間の方もいかがですか?」
「今は気分が乗らないので」
「そうでしたか。では、こちらはサービスですので、よろしければどうぞ」
いつもポーションを入れている手の平サイズの瓢箪を出してミッシェルに渡す。
「このお酒はものすごく度数が高いお酒ですので、気付け薬や消毒代わりにする人もいるんです。飲む時は舌を湿らせるくらいの量にしてくださいね」
「ありがとうございます」
受け取って中を確認するように匂いを嗅ぐと、そのアルコールの高さに咽たのでオルギウスが笑い出す。
「ずい分良いものをもらったな」
「お酒として以外の出番がないのが一番ですけどね」
そんな話をしながら酒の説明をしていれば、一つ飲むごとに良いリアクションをしてくれるので他の客もあれが飲んでみたい、一本分くれと注文が入っていく。
「良い酒ばかりだな。しかしこちらも懐具合があるので、これに書かれている分の用意を頼めるか」
「かしこまりました。ご注文ありがとうございます。ご購入いただいたお客様にはいくつかサービスをしていますので、こちらも少し色を付けさせていただきますね」
そう言って、受け取った注文リストにもう一枚紙を出してサラサラと何かを書くと、茂の判を押してつむぎを呼んだ。
「奥で品物のご確認をお願いいたします」
他にもお忍びの格好をした貴族が沢山来たが、去年のような態度の悪い者はおらず市民に対しても横柄な物言いをする事もなかった。
「明日は何屋をやるんだ!?」
「それは明日になってからのお楽しみですよ」
「やっぱり告知はしてくれねぇのかー!」
「錬金術師の部屋はやるよな!?今年こそあのテントを買うって決めてんだ!!」
「そんなに気に入ってくださっていたんですね」
「あれを気に入らねぇ奴なんかいるかよ!」
「ふふ、それなら尚更楽しみにしていてください」
私も錬金術師として去年よりも成長しているのでと言われ、テント内にいた客たちがより賑やかな声を出しながら帰っていった。
「茂ー!交代するよ」
「ありがとう、じゃぁこっちはお願い。錬金術師科のテントがどうなってるか気になってたんだよね」
「魔法士科の演劇も良かったわよ」
「ティアナちゃんも練習の成果が出てたよね」
「そうだな。まぁ、エラに喰われていたが」
すでに休憩で魔法士科のテントを見て来たらしい優とキリル、ホーキンスがそれぞれ感想を言っている。金剛は今まさに何人かの子供たちと保育室を出て見に行くところだった。
「騎士科の焼肉屋もそれなりに客が入っていたぞ」
「みのり屋が飲食店をしていないのと、あの匂いで誘われてというのが大きいな」
「最初にサクラで食ってたら、何人も入ってきた」
進が自分で焼いて食べている姿を見てどういう食べ方をするのかが分かったらしく、そこから客入りがよくなったと言う。
みんな頑張っているんだなと笑って現津と二人でテントを出ると、通り向かいに建っている錬金術師科のテントへと入っていった。中には客も沢山いたが、街の錬金術師も多くいて皆が造った魔導具について話し合っている。
「お、休憩か?」
アランが茂に気づき近寄ってきたので「順調ですか?」と聞いてみる。
「造った本人たちは、他のテントにいるんですか?」
「いや、上で減った分を追加で造ってるんだ」
ポーションは元々売れると踏んでいたが、まさかそれ以外の魔導具も売れるとはなと言いながら苦笑する。
「リックが魔導コンロの注文に追われてな、とりあえず用意してた分を設置しに行ってる」
「もう設置しに行ったのですが?後日でもいいと思いますが」
「相手が貴族御用達の高級宿と、貴族本人だったんだ」
「それはお断りできませんね」
「ジョージもいるし、設置はすぐに終わるだろ。そこから使い方の説明と、変な勧誘が無けりゃすぐに戻ってこられると思うんだが・・・」
念のため術師団の一人が付いて行ってくれたからそこまで心配はしてないがと肩を落とす。
「クミーレルさんとマウロさんが数名ずつこっちに配置するって言ってた理由ですね」
「将来有望な錬金術師は早々に囲っておきたいでしょうしね」
それこそ王族が懇意にしてる学科生でもあるしと現津に言われ、本当にそうなんだよとアランが溢した。
「俺はその辺貴族のやり取りが分からんし、俺自身は教師だから誘われても立場があるから断りやすいんだが、生徒はそうはいかないからな」
「あんまりしつこく勧誘したり脅しとも取れるお誘いは逆に錬金術師が遠ざかる原因になりますしね」
これはお互いに難しい話だなと頷きながらテント内を見てから二階へ上がり、作業をしていたみんなに差し入れとしてケーキとお結びを渡して声をかけてから隣にある騎士科のテントへ入る。肉がたらふく食べられてタレが美味いから自分で焼くのも許すと、なかなかな賑わいを見せていた。
「お食事に来て下さったのですね」
配膳をしていたヴィクトリアがこちらに気が付いて声をかけてくれた。ガウェインも顔を出しに来てくれたと話しながら席へ案内してくれたので、各部位盛り合わせを二人前とパンを二つ注文した。話しながら店内を見ていると、注文した商品をベンジャミンが運んできてくれたので「繁盛してるみたいだね」と声をかけると、嬉しそうに頷く。
「こんなに街の人とお話をしたのは初めてかもしれません」
神官用のメニューもあるので、それを試しに注文して楽しんでいると教えてくれた。
他の生徒や客たちにも声をかけられながら食事をし、料金を支払って外へ出てから現津に洗浄魔法をかけてもらい、魔法士科のテントへと歩いていく。
丁度これから新しい演目が始まる所だったと受付で案内され、「不思議の国のアリス」を観劇する。主人公がウサギの巣穴から落ちていく姿や、不思議の国の住民たちとのやり取りを魔法で演出している所などとてもよい表現をしていた。
演目が終わり、拍手をしていると現津が笑って茂に耳打ちをすると、それは良い案だと頷いたのでテント内に魔法陣を展開する。その大きな魔法陣に舞台上の生徒と袖にいた教師たちが身構えたが、頭上から花弁が降ってきたことで歓声に変わった。
テントから出る時に受付まで生徒たちが出てきて礼を言っていたので、気に入ってくれたのだろう。
他学科の催し物をたっぷり楽しんでから自分たちのテントへ戻り、午後も最後まで大きな問題もなく終わることができた。
「いやー、よく売れたね!」
「お酒ってどこに行ってもみんな好きだよね」
店じまいした中でそう話しているみのり屋と、前日までの客とは全く違う熱量に当てられて疲れ切っているアルバイトたち。
「おさけってすごいっ」
「大人になったら飲んでみたらいいかもね」
飲んでも飲まれるな。お酒を飲むうえで大事なことだと言って保育室を開ければ、幼い子供たちが走って出てきた。
「あしたは何屋さんするの?」
「明日は、あ、良いこと思いついた!」
明日はみんなにも手伝ってもらえる?と目線を合わせながら頼むと、全員が目を輝かせて「やる!」と手を挙げた。
「何をするんですか?」
「フェアグリン様もいかがですか?明日は食べ物を売るので、テントの外で実食をお願いしようと思うんです」
去年のように外に席を作ってそこで食べてもらい、どういう食べ物なのかをお客さんに見てもらうのだという。
「新鮮な反応が欲しいから、どんな食べ物かは明日までのお楽しみね」
子供たちと一緒にフェアグリンも楽しみだと笑っていて、神官たちも一緒に食べることになった。
「明日の朝ご飯は少し抑えめにね?お昼ご飯はお腹いっぱい食べていいよ」
お給料は銅貨二枚でどうかなと言うと、やっと自分たちも働けると嬉しそうに了承の返事をしてくれた。
