7.学園生活
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「行くぞラウラー!」
「ピャー!!」
錬金術師科の塔から身体強化全開で飛び降りるジンと、後ろから飛んできたラウラがその大きな足で肩を掴み、より高くへと舞い上がっていく。
途中でラウラが足を離せば、ジンは自分で風を纏い浮いて見せた。
そこへラウラの羽根から仰がれた風が援護として加わり、今まで感じたことのない自由が空一面に広がっていく。
「お前と俺が最強の冒険者だー!!」
「ピャー!!」
「まったく、浮かれすぎだ馬鹿め」
「オリビアが生まれた時の君もあんな感じだったよ」
「俺は自分を最強だなどと言ったことはない」
「言っていないだけだろ」
教室から見ていたアディ達の会話に笑ってしまう。
ラウラは扇鷲という巨大な猛禽類で基本的な戦闘力が高いのだが、そこにジンへの補助の力がプラスされているという、冒険者志望のジンにはピッタリな相棒だと皆が頷いていた。
「ホムンクルスが生まれる期間に差があるのって、なんでなんだろう」
「シゲルは相性も運もあるって言ってたよ」
「ゆっくり待つしかないって事なのねぇ」
まだ生まれる気配のない灰色のモフモフに顔を近づけて撫でるメイナに、ノアも頷く。
そんな話をしてゆっくりできたのは数日だけで、学園祭が終わった今年は、初めての学園を挙げてのイベントが行われる。
それは街の大広場を使って開催されるバザーだ。
去年みのり屋が店を開いたのをきっかけに、今年は各学科が何かしらの催し物を企画して街で店を開く事になっている。
この企画が立ち上がってから一年、学園長を初めとした教師、学生たち、その父兄、様々な貴族たちに声をかけて平民たちとの交流の場にすることに決定した
バザー内容は、騎士科は飲食店。魔法士科は舞台だ。
「これからダンジョンに行って遠征訓練と肉の調達に、忙しくなるなぁ。この前のオークの肉もあるっちゃあるが」
進が天心に話しかけている側では、蜻蛉切たちも教師たちとどう調理するのかと話し合っていた。
「ここ数年で調理に関しての基礎はできたが、街で料理店を営んでいる者たちも来るだろうからな。下手な物を出すとこちらの名に傷がつく」
「とりあえず血抜きさえしっかりとしていれば焼いただけでも美味いぞ」
「それでは足りないと言っているんだ」
「なら焼き肉のタレを作ったらいい。生ハムとかはさすがに時間がないからな。満に頼んで簡単なレシピを教えてもらおう」
「それがいいな。素人にあまり手順の多い事をさせると混乱を生むだけだ」
「タレや漬けダレならいくらでも作り置きができる上、肉だけでなく野菜も食べやすくなるからな」
食材も切っておくだけでいい焼き肉屋にしようと話がまとまり、後日騎士科の塔で満に焼き肉のタレの説明をしてもらい試食をした。その香りに誘われ、お前らは飢えた獣かと聞きたくなる程の視線が生徒たちから突き刺さったのは後日談だ。
魔法士科は舞台にしようと決定したが、巷で人気のお芝居や人気小説の舞台化の案が出るのかと思いきや、みのり屋で上演したことのあるミュージカルを自分たちで演じてみたいという意見が出た。なので至達が中心となって台本、衣装の作製に取り掛かる事となった。
「貴族は詩の朗読会とかしてるみたいだし、すぐにできるようになるよぉ〜」
台本を書いたという榊はのほほんと笑って題材の使用許可を出すと、圧紘達と共に王宮の図書館へと向かっていく。
その数冊の台本を手に持った教師たちは、すでにちょっと疲れたような顔をしていた。
なんでも、どの演目にするかで学年、男女別で相当激しいバトルがあったらしい。
「人数も十分いるのでな、一日四公演という事で好きな題材に学年問わず分かれることで決着がついた」
「一公演が一刻程のもので助かりました」
「そちらも忙しくなりそうですねぇ」
「誰がどの役を演じるかで、すでに争いが起きている」
「どの役になってもいい思い出になるから大丈夫ですよ!」
争いに巻き込まれたくない者は、早々にコーラスか演奏に逃げたようだ。
「”オペラ座の怪人”でクリスティーヌをエラちゃんが演じることになったら、アディくんも劇に出た方がいいんじゃない?」
「私は錬金術師科の生徒なんだ。無茶を言うな」
「ソフィアがメグ役、エラ嬢はカルロッタ役にもう決まってるよ」
「エラちゃんがカルロッタ役なんだ。ならそうとう上手な子がクリスティーヌ役にならないと主役を喰っちゃいそうだね」
「それは褒めているのか?」
「当たり前だよ。主役より悪役とかライバル役の方が人気になるなんてよくある事なんだから」
「ラウルより怪人の方が好きって人多いですよ?」
「・・・そういう物なのか」
あの怪人の方が好き?と首を傾げている男たちは置いておき、魔法士科はとてもにぎやかに準備を進めていった。
錬金術師科は雑貨屋を開くことになっているので、それぞれが造ったポーションや魔導具を商品として置くことになっている。
「雑貨つっーか、雑多屋だな」
「錬金術師らしいじゃないですか」
興味の向くまま、好奇心の向くまま造った物を見て笑う。
商品を出品する者は皆、自分のロゴを描いているので、どれが誰の作か見ただけで分かる様になっているのがまた、錬金術師らしいと去年寄付した倉庫型テントの一階を店とした店内を見て回っていた。
「みのり屋は何をするんだ?」
「一日目はお風呂、二日目は診療所、三日目は酒屋ですね」
「酒屋か!知り合いに声かけとかねぇとな!」
去年も手に入らないのかと相当聞かれたからと額を抑えるアランに笑った。
「今年もアルバイトに来てくれる子が沢山いてすごく助かります」
「診療所の時は、また医師団が来るのか?」
「はい。神官さんたちも応援に来てくださるそうです」
ティアナを始めとした聖国の者たちも来てくれるそうだと見上げられ、そうかと頷く。
「お前らが先に店開いてくれるお陰で俺達も二日間は全員で手伝えるが、三日目からはそうはいかないからな。心配するのもおこがましいかもしれねぇが、気をつけろよ」
「ふふ、ありがとうございます」
今回のバザーで稼いだ分は奨学金に回され、入学金は払えないが試験に合格するだけの力がある子供たちへの救済として使われる。
しかし、奨学金を使った場合は在学中のダンジョン遠征で得たお金、素材の半分が学園へ返還されてしまうので出来るのなら使いたくないという者も多い。
「うちで稼いだ分は一割でいいなんて、太っ腹ですよね」
「断ったらお前が一割でももらっとけってゴリ押ししたんだろ?」
学園長から聞いたぞとため息を吐かれ、また笑いながら準備に走り回っている子供たちを見つめた。
「こういう賑やかな声を聞いているのが好きなんですよ。きっと、来年からもっと生徒が増えますね」
子供を育てるのにはお金が必要だと笑っている茂に、自然と口が開く。
「お前こそ聖女だろ」
「聖女は金貨を数えたりしないんじゃないですか?」
「人の世がどのように周っているかを理解せずに理想を解くのは、ただの馬鹿者ですよ」
「それは経験の差だよ。お金で幸せは買えないけど、不幸は遠ざけられるなんて、実際にお金を使ったことがある人じゃなきゃ分からないでしょ?」
「茂さんは聖女などという生半可なものではなく、最低でも聖母ですし、神に近しいものですよ」
「それは仰々しすぎるよ」
そう笑って錬金術師科の生徒たちへ声をかけながら歩き出した。
「ジンくん、他にもスラム街の出身の子たちにもお願いがあるんだけど」
その前に冒険者志望の子でまだギルドで登録をしていない者はいるかと聞いている小さな背中が、杖を突く一本足の姿が、頼もしくて仕方がなかった。
オルギウス経由で宮廷医師団にも連絡が行き、今回は見習いも全員連れて参加することが決定した。そのため、二日目は子供たちには接客を任せたうえでひなた達にフォローを頼む。
ジンたちスラム出身者には、10歳前後の子供を中心に何人か集めてきてくれと冒険者ギルドを介して依頼を出した。
「はい、パウンドケーキとお茶。上手く使ってね」
「これ、美味かったよなぁ」
「私このケーキで釣られちゃったもん」
去年のことを思い出したのか、一年生たちもバスケットを持って笑顔でスラム街へ向かって走り出した。
「お前が卒業したらどうすっかなぁ」
「スラムの子たちですか?」
「ああ、俺ら教師だけで同じ事が出来るかっつわれても、
「錬金術師科はただでさえ教師不足ですしねぇ」
すでに足りていないのに、これ以上絞り出すのは無理だろう。
「3日間は無理かもしれませんが、今回みたいに王宮や教会が協力してくださるなら一日くらいなんとかなるかもしれませんよ?」
薬などが足りなくなっても錬金術師がいるのなら作れるのだしと、校庭にならんでいるテントを指さした。それぞれのテントの上には学園の紋章と、各学科のマークが描かれた旗が掲げられていた。
この準備期間中も変わらず授業はあるので、たまにやって来るクリストファーとティアナがティータイムの時間に参加していた時、歌劇で主役になってしまったと不安そうに呟いた。
「主役なんてすごいじゃないですか。どの演目に出演なさるんですか?」
「その、オペラ座の怪人という演目で・・・」
「ブッ」
驚いたアディがお茶を吹き出し、ギルが笑顔でおめでとうございますと言うが、二人の後ろにいる護衛たちはアディを見ている。
「その、他の方々は自信がないと、どうしてもと言われまして・・・」
「失礼しました。そうだったのですね」
カルロッタ役のエラが婚約者なので驚いてしまったとハンカチで口元を拭きながら言うと、何故吹き出したのか納得したように護衛たちも視線を戻す。
「エラ様はすごい方ですね。演技もさることながら、歌もお上手で」
エラがクリスティーヌ役の方がいいのではないかと言ったが、カルロッタ役が気に入っているからと断られてしまったらしい。
「彼女は強い女性ですからね。儚気なイメージのあるクリスティーヌとは少し違うかもしれません」
本人もそう思っているのではないかとギルが言うと、アディも頷いていた。
「エラ様は真面目でお優しい方ですから、不安なパートの練習がしたいと言えば相談に乗ってくれると思いますよ?」
「そうですよ。それにティアナ様もお上手でしたし。もしかして感情を出すのが苦手なのかなとは思いましたけどね」
近くにいた榊が笑いながら言うと、「そうなのかも知れません」と少し考えながら呟いた。
「なるほど。舞台の上にいる時はクリスティーヌですからね。あの子は感情を抑えるとかしない子ですし、クリスティーヌになりきればいいんですよ」
「不安になる程歌が苦手そうにも見えませんし」と至が言うと、少し表情を和らげた。
「バザー当日は、王太后陛下もいらっしゃるのですか?」
「行きたいのは山々なのだけれど、私が行くと護衛の数も増やさなければいけなくなって物々しくなってしまうでしょ?」
「私達もです。ここまで皆と準備をしているのですから、街の者たちとも関わりたいのですがね」
「そうだったのですね、それはさぞ残念でしょう」
「ええ、いつか自由に街を歩いてみたいものだわ」
「では当日、錬金術師科は人手不足になってしまうのではありませんか?」
「そこは問題ありませんよ。クミーレル術師団長が養い子の中でも錬金術に興味がある子を連れてきてくださいますから」
去年も来てくれているので勝手も分かっているだろうと言い、グレン達の名を挙げるとアディがそっと視線をケーキに落としてモソモソと食べ始めた。
「そうだわ。ギル、当日は各学科にお花を届けてあげたら良いんじゃない?」
「そうですね、自由に薔薇を咲かせられる様になったんですからこういう時に使わなければ宝の持ち腐れですね」
「ありがとうございます。もしも沢山いただけたら一本ずつみんなの胸に飾らせてもらいますね」
最近生まれたギルのホムンクルスであるラビィと同じ様にしたら町でも流行るかもしれないと言われ、それは良いアイディアだと楽しそうに笑う。
グレン達の正体を知っている皆は、嘘は付いてないんだよなとケーキを食べていた。
それから少しして、ノアのホムンクルスが生まれた。
プカプカと浮いているクラゲにイヴと呼びかけながら抱きつき、その傘の上に乗せられているノア。
「ついにノアまで生まれちゃったかぁ」
「デーヴィッドとルーカスは本当にゆっくり成長してるんだね」
「そのうち生まれるって」
みんなでノアを祝いつつメイナとポーを慰め、授業に参加しに来たクリストファー達とイーラ達が興味深そうにイヴの力を調べていく。
「イヴちゃんは、ノアくん以外にも触らせてくれるんだね」
足を伸ばして来るのでそっと触れてみても嫌がる素振りはない。
「へー!ヒナタ達みたい!」
「、あ。イヴちゃんは体に取り込んだポーションや毒なんかを体の中で造れるみたいだね」
今チクッとしたからそうやって相手の体に入れられるようだと、何本もある足を見てからイヴの口がある笠の裏側に手を入れ、さらに頭を突っ込んでいく。
「!?どっ、どういうっ」
その姿にノアも驚いていた。
「すごいよ。人が何人も入れそう。時間は止められないみたいだけど、ゆっくりはできるかも」
患者を中に入れてポーションなどで治療、もしくは毒で眠らせて現状維持が出来るようなら手術の準備が出来るまでの時間稼ぎが出来るかもしれないというと、イヴがノアと茂を足で掴み飲み込むと、すぐに出して見せる。
「そっか、患者さんだけじゃなくて、ノアくんも一緒に入れば無菌の手術室になるのか」
王宮や教会に贈ったような救急馬車みたいなものだと言えば、ノアが叫びながらイヴに抱き着く。
「イヴっ!」
医者として、多くの命を救いたいと願ったノアから生まれたホムンクルスならでわの力だなと言うと、抱き着いてくるノアを触手でグルグルにしてまた笠の上に乗せていた。
イヴの能力も分かったところで、リチャードが人馬型から人型の体に自分で変えられるのか実験が始まった。鎧の頭が独りで浮き、鎧にくっつくというすご技で体を取り換えていくのを見て、男性陣とイーラ達の目が輝いていた。
「本当に、命を吹き込んだのですね」
様子を見ていたティアナが呟き、クリストファーが頷きを返す。
「錬金術師はなぜ、ホムンクルスやゴーレムを造るのですか?」
授業に戻ったところで、ティアナが手を挙げて質問をする。
「この子たちがいるおかげで、本来の力以上の実力が発揮できるからですよ」
そして、心の支えにもなってくれる。
「分かりやすいのはジンとガウェインよね」
「前衛タイプはな、確かに分かりやすい」
「私たちは中衛の中でも、後衛よりかな?ね、リリー」
「ポ」
「俺たちは完全な後衛型だな」
「キュッ」
「戦い方も性格も、人それぞれですからね」
賑やかで騒がしい教室で、イーラとナルが自分たちも早く相棒を造りたいと夢を語り、それぞれ別の作業に入っていく。
「皆で同じことはしないのですか?」
「座学などはそうなりますが、作業になると個別という形に、どうしてもなってしまいますね。みんな持っている個性が違いますから」
基礎と応用は一、二年で覚え、一通りできるようになる必要はあるが、その後は自由だ。
「苦手なものを克服するのもとても大切ですが、私達にある寿命という時間制限は短いですから」
得意な事、好きなことを伸ばした方がいいとマートンが言ってから苦笑する。
「この子たちが好きに研究した結果、新しい発見が見つかることもあるくらいです」
「研究者の人たちって好きな事になるとのめり込みますからね」
茂も笑ってから一年生たちの間を歩き、質問に答えていっていた。
