7.学園生活
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一部がオーク討伐やその事後処理などに追われて忙しくしていたら、すぐに四年生にとっては最後の学園祭がやって来た。
満を中心に、皆で厨房のコックたちと共に昼食を作る。
今年もフェアグリンを始めとした神官が回復役で来てくれたので、教会関係者の食事は野菜中心だ。王族も皆で見学に来てくれたので、学園長と共に挨拶回りで忙しい教師たち。
「みんな!お昼は期待しててね!」
「はい!」
茂達も挨拶へ行く前に一年生へ声をかけば、軍隊バリのいい返事が返ってきたので、気合も十分だと安心して来賓席へと向かった。
一種目目はリレーなので、各学科から10人の選手が前へ出て、合図と共に走り出す。
「みんな速く走れるようになったねぇ」
全員が身体強化が使えるようになってから、走る距離が少し長くなった。以前まではフィールドの半周だったのだが、今は一周走ってから次の走者へ交代している。
走っている殆どが叫んでいるのも面白い。
魔力の練り方や使い方はやはり錬金術師科と魔法士科が上手いが、身体の使い方で騎士科が劣るわけもなく、凄まじく拮抗した試合となった。
騎士科と錬金術師科の同着。魔法士科も一歩分遅れてのゴール。今年もどのクラスが優勝してもおかしくはない。
「こんなにっ、レベルが高いだなんてっ」
ギルバートの隣に用意された賓客席でクリストファーが言葉をなくしていた。
あの訓練を子供たちにし続ければ、いずれ王国には身体強化が使える者だけになるだろう。
自身も身体強化を使えるようになったが、その事実に改めて直面し、硬直している聖国の面々。
個人戦もその激しさを増していたが、神官たちがしっかりと回復をしてくれているので大怪我を負った子供たちも元気に控え席へと戻っていっていた。
因みに、錬金術師科の生徒が怪我をした場合は、治療の練習台になるのも変わらない。
個人戦が無事に終わり、昼食となる。生徒たちの前にも、賓客の前にも、神官の前にも、一見同じ料理が運ばれてきた。
「ここ最近は温かい日が続いていましので、本日は身体を労る料理にいたしました」
この料理にした経緯と食材の説明をスザンヌと満がする。王宮の料理長も来ているということで緊張していたが、とてもハキハキとしていて頼もしい。
「去年漬けた醤油の初絞りである生醤油でしか味わえない香りと繊細な塩味をお楽しみ下さい」
「学園祭が終わったら、拡張した畑の視察にいかなければなりませんね」
「上手く育っていると報告は受けているが、実際に見るのが楽しみだ。枢機卿、教会の畑は順調だろうか?」
「はい、おかげさまで教会で消費するだけの調味料は賄えそうです」
「それは何よりだ。今年もスラム街へ十分な炊き出しができるだろう」
このまま畑を増やしたり農作物を加工したりする仕事が増えれば、スラム街もいずれ縮小できると頷く王族たち。
「国民のために動いてくださるのは嬉しいですが、ご自愛も忘れずなさってくださいね」
笑って、デザートの梨と桃のシャーベットを出す満。
「明日はまた違うものを用意していますので、楽しみにしていてくださいね」
午後もやる気十分な子供たち同士のガチバトルが繰り広げられ、まるで小さな戦争のようだと笑って観戦をした。
一年生の試合で既に圧倒されていた聖国の面々だったが、学年が一つ上がっただけでその比較ではないと翌日から更に驚愕していた。
錬金術師科の二年生はディーノが中心となってリレーで勝利し、個人戦も活躍して二年のホープっぷりを存分に発揮していく。団体戦はウィリアムが指揮を取りながら騎士科と張り合い、大いに活躍を見せつけた。
「来年も絶対ぇ優勝するぞ!!」
「おお!!」
トロフィーが渡されたそこで叫べば、他の二年生たちも一緒に叫ぶ。そんな姿に、応援席で泣いている女性がいる事に気がついた。もしかしなくてもディーノのお母さんだろうか。
そうしてやって来た三日目。
ここから一学年が10人にも満たなくなってくるというのに、どのクラスよりも抜きん出ていると言わずにはいられない。七人しかいないので、三人分の穴を埋めるのは大変だろうに、リレーではジンとガーク、リックが凄まじい進化を見せてくれた。
というか、この学年からホムンクルスとゴーレムが追加されているので、人数のハンデはあってないようなものだった。
「いっけー!!」
ジンが風を巻き起こしながら進み、その余波を使ってメイナがシャボンで進む。ガークがリチャードの背中に乗って自分がターボの役割をし、リックがキックボードに魔力を通せばモーターが作動し土煙を上げながら爆走する。アンがリリーと共に草原を作ってスキーで滑り、ノアはアサシンかと聞きたくなるような身のこなしで走り出す。ポーは追いついてきた騎士科の生徒から逃げるように、水晶を足場にして空中を走り、ぶっちぎりの一位をもぎ取ってきた。
「すごーい!」
ナルたちの歓声を受けるも、本人たちはまだ満足はいっていない表情だ。
「はぁ、はぁ、やっぱ、シゲルたちみてぇに走れねぇっ」
「こくん」
「アキツにもっ、まだ届かないよ」
一、二年生から尊敬の眼を向けられながら、個人戦へと五人が中央へと向かう。
「シゲル先生って走れるんですか?」
一年生が担任のナタリーに聞くと、上級生たちも全員が物凄く速いと返す。
「アキツも追いつけないって」
「ええ?!」
目を見開ければ、他の生徒も教師も全員が頷くので何度も足と顔を思い出すように来賓席にいる姿を見る。
「身体強化だけでも、極めればすごいことになるらしいよ」
「ススムのこと見て、騎士科の先生たち本気で喜んでたよな」
そんな話をする中、個人戦はジンとガークのガチバトルとなったのだが、ここでジンが腰に巻いていた毛皮を被り、バイソンになって見せたことで勝敗がついた。
「くっそー!まさかもう出来上がってたのかよ!!」
「まだだよっ、ぜぇっ、また造り直しだっ、ぜぇっ」
バイソンの突進で吹き飛ばされたガークをかばった事で片腕が取れたリチャードに支えられるガークと、フィールドで息を切らせながら倒れているジン。脱いだ皮を握りしめながらマナポーションを飲んで立ち上がった。
「魔力っ、いりすぎだっ、これ」
「最後の切り札としちゃ上出来だけどな」
「でもっ、実戦向きじゃねぇっ」
もっといい皮見つけねぇとと言いながら表彰され、ガークと共に昼食の席に着く。
生姜焼きと杏仁豆腐を食べてすっかり元気になった後は、団体戦へ出るみんなにエールを送っていた。
「ジンは出なかったか」
それを見ていたガウェインがアディの一歩後ろで呟く。
「ノアくんとポーくんが出るなら別に大丈夫だろって言ってたよ」
「そうか」
「ふふ、ジンくんってリーダーとして大事な所が天然で分かってるよね。支配者の特徴が強いとか関係があるのかな?」
「大事なところ?」
「仲間を信じるとか、失敗してもいいから任せるとか。仲間の為に本気で怒れるところとかね」
「・・・確かにな」
「ガークくんは地盤がしっかりしてて揺るがないって感じでドッシリ感があるから、任せたら後ろを気にしなくていいし、」
今戦っている五人の良い所も話しながら観戦をする。
「誰か一人がすごくても上手くは回らないし、一人ひとりがすごくても別の方向を向いてたら足の引っ張り合いになっちゃうし、本当にいいクラスに入れてよかったよ」
「そのいい所を伸ばし、束ねたのは其方だろう?」
オルギウスの言葉に、それは違うと笑う。
「生徒の自主性を大切にして下さる先生方がいらしたからですよ」
育つ芽に陽と水を与え、嵐から守るための盾となる。
「本当に、教師は素晴らしい職業ですね」
足を向けて寝られる日など来ないだろうといい、あっさりと優勝した錬金術師科の皆がトロフィーを掲げている姿に拍手をした。
四日目、四年生は最後の学園祭だと力が入っていて、応援する下級生たちにも力がこもっていく。
「行くぞオリビア!」
オリビアの背中に乗ったガウェインから始まり、ローランド、アディ以外の五人全員がゴーレムかホムンクルスを連れていて、思う存分その力を見せつけてこの日も錬金術師科が優勝となった。
中でも面白かったのはローランド、ガウェイン、ワットの個人戦だっただろう。
アディは今回団体戦に出る事になったが、最後だがいいのか?とマートンが確認すると問題ないと頷いていた。
「構いません。私とザックはどこにいても輝けます」
そう言っていた通り、かつ丼とプリンをしっかり食べて試合に向かい、大活躍で優勝をもぎ取ってきた。
「どうだ!アイテムバッグと対魔法防御を身に着けたザックの力は!」
「すごいのに、言い方が悪役なのよねぇ」
「キュルルル」
カタリナの肩で頷きながら返事をするのは、大きなトカゲの姿をしたホムンクルスのエイダンだ。
「二年でここまで来られたのは、茂さんの指導あってこそですね」
「だといいんだけど」
自身も対物理対策をしているので、素晴らしいの一言に尽きる戦いだった。
そして、五日目の代表戦は、ガウェインとワット、ジンとノアが出場してきた。一、二年生は全力で戦い、その経験を吸収していく。
ジンは現津を指名し、皮の魔導具を使って攻撃を受けるだけでなく反撃までしている。その戦い方に、オルギウスだけでなくミッシェルまでもが賞賛の言葉を口にしていたのだが、負けを宣言された本人は千切れた皮を握りしめながら歯を食いしばっていた。
「もっとっ、俺はもっと戦えたっ」
力を使い果たしたのか、倒れたまま動けないらしい。
「もっと動けたっ、もっと力もっ、出せたっ」
なのになんで上手く操れない。自分の力なのにと歯を食いしばる。そんなジンの言葉に、会場中が同情の空気に包まれた。
しかし、茂がやってきて現津の隣に立つと「大丈夫だよ」と笑って声をかける。
「ちゃんとジンくんの事を支えてくれる子が生まれてくるからね」
人間はもともと、単身で空を飛べない生き物だ。いくら魔法が発展しても、誰もが「人は空を飛べない」と信じ続けてきた。
ジンはただ経験で風圧、風速等を調節して体を浮かせていたに過ぎない。魔法ではなく魔力の特性として持っているジンだったから出来ただけで、それでも単身で飛ぶことは出来なかった。
それを支えてくれる存在が、もうすぐ生まれる。つまり、ジンのホムンクルスが誕生するという事だ。
茂の言葉に目を見開いたジンと、錬金術師科のみんな。
「ええ!?いつですか!?」
「よかったなジン!」
「やったよジン!」
みんなが駆け寄ってきて叫ぶ中、力任せに仰向けになった。上を向くジンと、その腹の上に白いモフモフが浮き上がるのはほぼ同時。
みんなどころか全学園関係者、王国貴族、国王、聖国の関係者達が見守る中、握りこぶし大だった白いモフモフが何十倍にも大きくなっていく。
大きくなるにつれ白だけでなく黒に近いグレーに変わっていき、巨大といってもいいほどの鳥が生まれた。
羽根の中に埋めていた顔を出すと大きな産声を上げ、自分の下にいるジンを見つめる。鼻を優しく甘噛みすると、まるで卵を温めるように腹の上に腰を下ろす。
「ら、ラウラが生まれたー!!」
「ホムンクルスが生まれるの初めて見た!!」
「ジン先輩のホムンクルスでけぇー!!」
「ふふ、おめでとう。ジンくんがもっと自分の力を使えるように手伝いに来てくれた子だよ」
笑いながらジンの側に膝をつき、これからよろしくねと笑いかけると「クア」と小さく鳴いて返事をした。
「ようやくお前にも相棒ができたか」
ガウェインが小さく笑うようにいうと、涙をラウラに拭われながら頷く。
「これで、俺の方が強ぇってはっきりしたな」
「・・・聞き間違いか?強いのは攻防揃っているオリビアと俺だが?」
「攻撃が最大の防御だ!」
やんのかおら、やってやんよと言い争いが始まったので、梅智賀が手刀でジンを落とし、望がいる救護所へと連れていって寝かせた。
「では次の対戦へと移りましょうか」
「俺、今年はアキツ先生にお願いしようと思ってたんだけどな・・・」
「最後だし、思いっきりぶちのめしてもらって来いよ」
「急に怖くなってきた」
『次の選手、ワット!前へ!!』
「心の準備!!」
こうして、四年生最後の学園祭は幕を閉じたのだった。