7.学園生活
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気が済むまで桃を収穫し、全員で森を出て学園へ戻る。昼までに依頼料を用意しておくので、また後で来てくれと手を振って冒険者たちを見送った。
そして、ジンを始めとしたスラム出身の子供たちを手招きする。
「私たちはこれから角煮マンを作ったりして手が離せなくなっちゃうから、スラムの子供たちを呼びに行ってもらってもいい?」
「え、い、良いんですか!?」
「うん、だってみんなも仕事したでしょ?」
学園の課外授業だとしても、きちんと働いたのだから報酬は必要だと言って笑った。
「といってもお金で支払ってはあげられないんだよね。今回は学園の教師としてみんなに声をかけちゃったから。だから好きなだけ角煮マンを食べさせてあげて」
「ありがとうございます!!」
「お前らはまだ働けねぇチビ達を連れて来てやれ!俺は東門の近くに行って働いてる奴らに声かけてくる!」
「その子たちの分は残しておくから、仕事が終わったら学園においでって言ってあげてね。変に雇い主とかに嫌われたり目を付けられても可哀想だから」
「分かった!!」
駆けだす子供たちに笑い、他学科の教師たちにも丁寧に礼を言って午後まで生徒たちをゆっくり休ませてあげてくれと昼食の説明をしてから校庭へ出したテントへと入って行く。中ではスザンヌ達が準備万端で満と打ち合わせをしていた。
「フェアグリンさん達もお昼には孤児院の子供たちを連れて一緒に来てくれることになってるし、お肉を使ってない角煮マンと肉まんも作らなきゃね」
「どんな料理なのか今から楽しみで仕方がないよ!」
「めっちゃ良い匂いする・・・、腹減ったー」
「もうすぐだから大人しくしていろ」
「グルルルル」
「口を閉じてても空腹を主張してくるわね」
進の腹の虫を聞いて
テントの外で待っていると、豊が出て来て学園長とクミーレル(シリウスとマイケル、ハイジ、ビビ達も一緒)、フェアグリンに集まってもらい「実は」と話し出す。
「私たちの家族に和っていう子がいるんですけど、その子におすそ分けをしようと思って連絡をしたんです」
するといいお酒が手に入ったので丁度こちらに来ようと思っていた所だったのだと言われ、今回の打ち上げに参加することになったという。
「一人くらい構わないだろう?」
「いえ、和が来るとなるとフーさんも、えっと、夫の魔族の方も一緒に来ると思います」
「なるほど。昨日一緒に戦った冒険者たちも、ホーキンスさん達を魔族と知って驚いていましたしね」
「急に知らない魔族が現れたとなれば、騒ぎになってしまっても仕方がないか」
大人たちが顔を見合わせて頷き合う。
「今日は天気もいいですし、外にタープを張って席を用意しようと思います。テントの中へは入りたい人だけ、というかフーさんたちが来ていると知っている方だけが出入りするという形でお願いしたいんです」
「それで構わんじゃろう。椅子やテーブルは、ありがたい事に学園には沢山ある。必要なものがあったら使っておくれ」
「ありがとうございます。助かります」
「フーさん?は、それでよいのですか?」
「いいと思います。和が心配で、一人では行動させたくなくて一緒に来るだけだと思うので」
フーは和に血が騒いでいるし、ゾオン系で匂いにも敏感なので特に男性は和に触らない様に通達をしてくれと注意してからテントへと戻っていく。
「魔族とはいえ、悪い方ばかりではないのですがね」
「まぁ、そうだけど。フーさんは普通に悪い事もする怖い魔族だよ?」
「え」
「大丈夫だろ、フーさん優しいし。荒いけど」
「面倒見は間違いなくいいな。口は悪いが」
仲良くなった魔族からそんな事を言われ、大急ぎで全生徒にテントへは近づかない様に注意喚起がなされた。これから来る魔族はみのり屋の客なので無害だが、こちらが失礼をすればその限りではないと周知される。
そうしているとスラム街から子供を連れて戻って来たジンたちにも知らされた。
「おお、マジか」
驚いてはいたが、それだけだった。
「まぞくってどんな種族なんだ?」
「ん~、そうね~?その時が楽しければって感じだから刹那主義とか、享楽家とかよく言われるかなぁ」
「せつな、きょうらくか?」
「人生を楽しみまくってるって感じ。何を楽しいって思うかは人によって違うから、怖がられることもあるけどね」
ベンノを見下ろして笑って見せる。
「みのり屋のみんなは、愛情深くて世話焼きってよく言ってるよ」
「そうなのか」
「そうそう。おじさんも魔族だから、よろしくね~」
ポケットからトランプを出して簡単なマジックを見せると、周囲にいた子供たちも目を輝かせて集まって来る。
そんな子供たちに笑い、シルクハットからいくつもの国旗を出したりトランプが鳩になったりするマジックを披露すると歓声を上げていた。
「みんなぁ、お待たせぇ~」
「沢山出来たからいっぱい食べてねぇ」
完成した角煮まんをコックたちがメイドに渡し、テントの外へ用意していたテーブルへと並べていく。
冒険者たちもやってきて、報酬もいいし、こんなに美味い物が食べられるなんて最高だと叫んで賑やかになった。
外が賑やかになって来た頃、テントの中に3mを越える大男が現れて少し悲鳴が上がった。
「なんだ、今日はずい分人間族がいんだな?」
「今みんなどっかの国に長居してるって言ってたからね」
その大男の腕の中には、まるで幼子を抱くように少女が一人抱えられている。
「こんにちわ、お待ちしていましたよ」
「久しぶり」
手を上げた和をそっと床へ下ろし、持っていた大きな酒瓶を現津に差し出す。
「前に会った時より縮んだんじゃねぇか?」
「これでも成長したのですよ」
現津と笑って話した後、茂に「ゆっくりしていってください」と大きな座布団と酒、つまみになりそうな料理と角煮マンを勧められた。
「こっちでも強いのっている?ダンジョン?とかあって面白そうだったけど」
「お前らにゃ物足りねぇんじゃねぇか?」
近くで食事をしてる進に話しかけていると、つむぎがグラスに酒を注いだので頭を撫でて飲み始めた。
その姿を見て、もしかして意外に良い人?と周囲が顔を見合わせていると、御代わりをもらいに来たスラム街の子供たちがテントへ入って来る。
「御代わりしてもいいって本当!?」
「これ本当にただなの!?」
「ただじゃないよ。みんなのお兄ちゃんとお姉ちゃんが働いてくれた分だから」
「相変わらず優しいんだか甘いんだか分かんねぇ事してんのか」
「商人なんてお客様と人の繋がりありきですからね」
「うわー!」
「あのおじさんなんで大きいの?」
「魔族って体のサイズとかまちまちだからかな?」
「まぞくってなに?」
「海の向こうにいる妖精種の事だよ」
「あん?人間族の国って言ってたが、ここにゃミンク族がいんのか」
「ミンク族?」
「大陸で言う獣人族の事ですよ」
「ずい分人間族の血が入ってんな。ほとんど人間族じゃねぇか」
近寄ってきた子供を一人掴むと目線まで持ち上げて匂いを嗅ぐように見つめ、そっと床へ下ろす。その子供は泣くどころか眼を輝かせて「もう一回やって!」と膝を叩いて見上げてきた。
「あー、遊んだんじゃねぇよ。ミンク族の匂いが薄いって思っただけだ」
「やってやって!」
「あたしもー!」
「おれもー!」
「うるせぇな、尻尾にでもじゃれてろ」
シュルッと背後から太くて長い尻尾が子供たちを纏めて持ち上げれば、キャッキャッと高い声をあげながら大喜びでフーズ・フーを遊具にして遊びだす。
「御代わりもらいに来たんじゃないのか?」
「何個か包んで持たせて上げようか」
膝に和を乗せたまま酒を飲んで子供たちを見てくれているフーズ・フーに礼を言ってから、追加の角煮まんを作り始めた。
「さっきまで尻尾なかったですよね?」
「ゾオン系は人型、獣人型、獣型になれんだよ」
好奇心に負けた錬金術師科とシリウス達、アディ達と共にテントへやって来たエラ達が近づいていく。
「私獣人族と人間族の相の子とか初めて見たけど、ほとんど人間族だね?」
「人間種同士なら三世代くらいでそうなってもおかしくねぇな」
「フーさん?が獣人型?になったらどうなりますの?」
「見せてやろうか」
ニヤッと笑ってフーズ・フーが人の姿から獣人型へなってひと鳴きすると悲鳴が上がる。
しかし、獣人族の血が入っている子供たちは眼を輝かせた。
「ハッハッハ!」
腰を抜かしている者たちを見て笑っているフーズ・フーに、エラが睨み返せばまたニヤニヤと笑うので「もー」と和が見あげながら咎めた。
「ビックリするって分かっててやったでしょ」
「こいつらは喜んでんぞ」
「子供ってすごいよね」
「お前は子供じゃねぇのかよ」
アランのツッコミは流され、和を構いながら酒を飲んで尻尾で子供たちの相手をする。
「あの方!あれで本当にいいんですの!?あれじゃ体のいい生贄じゃなくて!?」
「そんな事ないですよ。和ちゃんも好きで一緒にいるんですから」
「こいつが大人しく生贄になるような性格してる訳ねぇだろ」
様子を見ていたフェアグリンが首を傾げて和を見た。
「気が強そうには、見えませんが」
「こいつは人の下につくようなタマしてねぇんだよ」
「前に性格の話をしただろ?和は支配者だからな、自分で好きに動いてる方が性に合ってるんだよ」
「ただでさえ自由人しかいねぇみのり屋の支配者がお淑やかだとでも思ってんのか」
「・・・そうなの?」
フーズ・フーの膝の上で大人しく角煮まんを食べている姿を見ながら首を傾げる。
その疑問に進が笑い、モネが持って来てくれた皿を受け取って新しい角煮まんを食べ始めた。
「おじさーん!おれもひざにのせてー!」
「乗りたきゃ勝手に乗ってろ。あんまさわぐなよ」
「落ちない様に気をつけてね」
よじ登って来る子供たちを見守っている和からは、気の強さも支配者としての威厳のようなものも貫禄も、何も感じなかった。
「僕も大きくなったらおじさんみたいに人と獣人のどっちにもなれる?」
「お前はミンク族だからなれねぇよ」
「おじさんは?」
「俺は魔族だからな」
「どうやったらまぞくになれるの?」
「生まれ直すしかねぇな」
馬鹿にしたように鼻で笑いはするが、そこに侮蔑のようなものが含まれていないからなのか、子供たちがもっと質問攻めにしていく。
「魔族のイメージがここ数年でガラリと変わってしまいました」
フェアグリンが厚揚げで作った角煮まんを食べながら見上げて言う。他の神官たちも近くに座って食事を始めていて、魔族に対する警戒心はほとんどなかった。
膝に乗ってきた子供たちと笑っている和を見て機嫌良さそうに笑い、氷の入ったグラスを遊ぶように回して口をつける。その姿がなんだか様になっていて、男子たちが額をつき合わせて話し出す。
「どうしたらあんな風にかっこよくなれるんだ」
「俺もあんな感じの大人になりたい」
「バーとかで一人渋く酒とか飲んで女の子の方から声かけて欲しい」
「馬鹿ね、夢見過ぎ」
「幸せな妄想を壊すな!」
「結婚相手ならこちらで見つけるぞ!」
「そうだよ!僕も紹介できる子いるよ!?」
「お前らのいう相手貴族じゃねぇか!」
「平民万歳なの!平民のまま自由に研究したり素材採りに行きてぇの!」
「地方の領地持ちだったら素材採りに行かせてくれるし!領地発展のために研究も自由にやらせてくれるって!」
「それ今の領主が生きてる間だけだろ!」
「その後俺らが領主になろうもんなら領地経営とかやんなきゃいけなくなって研究の時間無くなるやつじゃん!」
「そこまで分かる頭があるんだから国に貢献しろ!」
「質の良いもんとか新しい魔導具とか造って貢献するから許せ!」
「ギリギリいけて下級貴族の四女とか五女とかで市井に下って生活しても良いとかいう、貴族の中じゃ変わり者呼ばわりされるような娘じゃなきゃ価値観合わなくて破局一直線じゃねぇか!」
「なるほど、的を射ているな」
「カタリナは?!」
「素朴な疑問だけど、貴族のご婦人が研究三昧で社交にも参加しないって普通に旦那さんの立場悪くならない?」
なら私もいけて市井に下って生活するくらいの相手じゃなきゃ無理よと言われ、アディとグレンが落ち込む。
「研究者と貴族社会ってすれ違い多そうよね」
「結婚が遠のくぞっ」
「それでも大人の色気は欲しい!」
「んなこと言ってるうちゃ出ねぇよ」
まずはいい酒と美味い飯でも食って舌を鍛えておけと、まるで子供をあやす様に笑って四年生を見下ろす。
「やっぱりフーさんって面倒見いいよね」
フーズ・フーの周りに集まってきている者たちを見ながら新しく出来た角煮まんを運んでいく茂と、テントの入り口から今までのやり取りを黙って見ていたクリストファーたち。
聖国に残っている文献では、機嫌を損ねた魔族が一方的に聖国を蹂躙し、反抗したため今でも呪い続けていると書かれていた。
それをずっと信じてきたが、目の前で広がる光景がそれを否定する。
スラム街で生活をしているだけあり、決してキレイではない子供たちに囲まれても怒ることなく食事を分けている姿からは、恐ろしさなど感じない。
むしろ、穏やかささえ感じる。
「今日はこっちに泊まっていく?」
「ううん、カイドウの所に行く約束してたからそっちに行くよ」
「あ、もしかしてお酒じゃない方が良かったですか?」
「これくれぇで酔う訳ねぇだろ」
そんな気遣いはしなくていいと満と話している所に、クリストファーが前へ出て口を開いた。
「あの、実はこの大陸で、八百年前、魔族との大戦があったのですが、その詳細を、ご存知でしょうか」
「さぁな、俺はこの大陸に来たのは今日が初めてだ」
「そう、ですか・・・」
「その大戦ってのは、魔族同士の戦争に巻き込まれたって話か?」
「いいえ、聖国、国と魔族とのです」
「魔族の人数は」
「一人だと、聞いています」
「そうか。ならその国の人間種が魔族の血が騒いだ奴を殺しちまったんだろ」
「え」
「魔族は魂が二つあるのは知ってるか?」
「は、はい。存じております」
「一つの肉体に二つの魂。そんな矛盾した状態で安定すると思うか?」
その質問に、口を閉じる。
「覚醒前はそのせいで一つの事に執着しにくい。その時が楽しけりゃぁそれでいいからな。だから享楽家、刹那主義なんざ言われるが、あながち間違ってねぇんだよ」
そもそも妖精種はその傾向が強い。一つの事に拘っていったい何になる。それならば別の楽しいことを見つけた方がいいではないか。
その話をフェアグリン達神官も静かに聞いていた。
「だが、覚醒前の魔族でも一つの事に執着することがある。気に入った場所、食い物、酒、女、何でもいいが、その中でも血が騒いだ相手は別格だ」
その相手が全て。この世の中心。終わらない人生全てをかけて愛し抜く相手。
「会う前に生きるのが面倒で死んでいく奴ばっかだ。血が騒いだとしても相手によっちゃこっちが狂って人生終了。ガキからお気に入りの玩具を取り上げてみろよ、火が付いたように泣きわめいて手が付けられねぇだろ」
その例えに、全員が息をのむ。授業で茂に、魔族本人に聞いてはいたが、想像していた以上の代償を支払う覚悟がなければ絶対に手を出してはならない事だと再認識した。
「血が騒いでなくても、魔族って気に入った相手にはとことん優しいけどね?カイドウたちも、別に誰にでも優しいって訳じゃないし」
「お前はこれ以上ペット拾ってくんなよ」
「一回も拾った覚えがないんだけどなぁ」
笑っている和にため息をついて酒を飲む。
「享楽家で刹那主義、んな魔族が他人のケンカに首突っ込んでも大戦になるまでやりあうなんざまずねぇ。自分に吹っ掛けらえたケンカならやるがな」
「八百年前から今でもずっと呪い続けてるみたいですよ~、やっぱりどう考えても血が騒いだ相手殺しちゃってますよね」
「殺して一国で済んでんのか、ずい分若い魔族だったんだな」
「そ、そこまで、直ぐに分かるのですか」
「俺がこいつ(和)を殺されたら国どころかやった奴と同じ種族、性別ってだけで全員殺して周るくれぇのことするぞ」
「関係ない人巻き込んだらかわいそうだよ」
「魔族のもんに手ぇ出すってのぁそういう事なんだよ。お前だってこんだけ俺の匂いつけてんのに人間族にゃ分からねぇんだからな」
ゾオン系かミンク族じゃなきゃ通じないのだから警戒はいくらしても足りないのだと大きな手で小さな顎を掴むように頬を触る。
その様子を見て、顔を青くしたクリストファーがまた質問をした。
「千歳になると、力が増すのは、本当ですか?」
「そうだな。千年周期で強くなるって考えていい」
「どうして?」
膝に乗っていた子供が見上げると、分かったように話しに入ってくるな?と笑って指でつつく。
「魔族の魂は一万年かけて混ざりあう。だからほっときゃ勝手に覚醒すんだよ。その第一段階が千年生きた時に起こる、簡単な話しだ」
「おじさんは?いまなんさい?」
「千年以上は生きてんな。つっても、俺はもう覚醒してるが」
「い、一万年生きずとも、覚醒できるというのも、本当なのですか・・・」
「できる。条件はあるがな。現に俺の周りにゃ覚醒した魔族しかいねぇよ」
中には成人前の若い魔族もいると言われ、その返答に崩れ落ちそうなクリストファーをティアナが支えた。
「魔族が怖いって思われるのも分かるけど、それはどの種族も同じじゃない?」
中でも魔族がよく取り上げられるのは、単に感情だけでどこまでもいけるからじゃないかなと和が首を傾げる。
「大勢を救うための正義は犠牲がつきものだから、そういう犠牲になっちゃう少数の為に戦える魔族みたいな妖精種の力が強いのは当然だよ。そうしないとバランスが悪いでしょ?」
そう笑って言う和を、引き寄せる。
「お前マジで一人で出歩くのやめろよ」
「うん、しないよ。何かあったら大変だしね」
そんな話しをして、二人は仲良くお土産の角煮まんを持って帰っていった。
「どう?いい人だったでしょ?」
茂が笑ってからつむぎと一緒に使った食器を下げていく。
クリストファーとティアナは青い顔のまま空いていた席に座り込み、無言で頷きを返した。そんな二人に、フェアグリンが教会へ来て少し話さないかと誘う。
「あ、そうだ。わしも二人に話があったんだ。できればオルギウス、さん?様?も揃ってる時がいいんだが、別々に話をした方がいいか?」
「なら俺が代わりに聞こう。陛下に直接会う機会もあるからな。その時に伝えておくぞ」
シリウスが手を挙げたので、なら自分もとマイケル、ハイジも手を挙げて騎士団長、魔法士団長に直接伝えることができると言って話しに参加することになった。
もちろん、その保護者のクミーレルは強制参加だ。
「我々は子供たちを送ってまいります」
「あ、ありがとうございます!」
「またな」
「うん!」
神官達がスラム街の子供たちを家まで送ってくれるというので、案内の為に何人かの生徒が一緒にテントを出ていった。
そして、残ったのは錬金術師科とフェアグリンの側近の司祭が二人、王宮関係者だけとなる。
「それで?何かあったの?」
「もしかしなくても、今回の事件?と関係ある?」
「あるな」
進が言うには、今回のオークジェネラル達は聖国側からやってきたのだという。
しかし、最初からジェネラルという上位種であった訳ではなく、長い移動の間に上位種へと変化していったのではないかと。
「聖国と面してるグロスター辺境伯領に直接来てなかったから、もしかしたら聖国の海近くからグルっと周って来たのかもな。国境の森に入る前からオークジェネラルの足跡だった。聖国から出れば食うもんもあるからな、いっきにあの数まで増えたのもそのせいだろう」
「なぜ、そんなことが・・・」
「逃げてきたんだ」
足跡はオークだけではなかった。他の魔物も多数いたという。
「オルギウス、じゃない、国王陛下から辺境伯領全部に連絡を取って確認してみな。冒険者ギルドでもいい。反対側以外の全部で最近魔物の出現、もしくは目撃情報が多くなってきてるって分かると思うから」
「聖国から魔物が逃げている、か・・・。原因は分かるか?」
「憶測だけど、聖国を呪ってる魔族が千歳を迎えそうなんだと思うよ」
俺らもその話しはしてたと、圧紘が肩をすくめた。
「生まれたばかりの魔族ならいざ知らず、八百年前すでに戦えて一国に大打撃を与えられるだけの力があった所から成人はしてると思ってたけど」
「俺らがいる時にかち合うとはな」
「フーさんも言っていただろう。俺たちは千年周期で力を増す。その時が来ただけだ」
今回でなかったとしても、いずれはこうなっていたとホーキンスが答えてカードを取り出す。
「お前たちの話し合いが終わったら、占ってみるか」
「今占ってくださいよ」
「それでも構わんが、お前たちはそれでいいのか?」
顔色の悪い聖国の者たちに顔を向ける。
「引き金を引いたのはお前たちではない。無関係の俺たちからすればお前たちは被害者だとさえ思っている。しかし、聖国で今も暮らしている者たちからすれば縋れるものもお前たち王族しかいないという事実は変わらない」
その最後の命綱がか細ければそれだけ暴動に繋がるし、パニックになった結果自分で命綱を引きちぎる者も出てくるかもしれない。
「得体のしれない恐怖から逃げる為なら、人は悪魔にでもなれるぞ」
「・・・」
「あまり時間はないかもしれんが、まだ考える時間くらいはある」
今日知ったばかりの事もあるし、本国に帰らなければ分からない事もある中で答えを出すのは難しいだろうと進が笑いかけた。
「話しを聞くだけならわしにもできる。これから聖国の辺りを中心に見てみるから、変化があったら知らせるよ」
「猶予はどれくらいあると考える?」
「そうだな、とりあえず一年は大丈夫じゃないか?」
「言い切れる根拠は?」
「あの魔族がパラミシアでその場から動かない、からかな」
フーズ・フーのようにゾオンであれば、もしくはロギアであれば単独で移動して被害地という物が移動してしまう上に予測を立てづらい。
しかし、今回の場合は違う。
「聖国にいる魔族は移動をしていない。だから被害にあうだろう場所にも目星がつけやすい。後、逃げ出してる魔物の数的に、だな」
「なるほど!」
「おお、お前本当に分析者なんだな」
「ははは、よく言われる」
笑ってカリブーに地図を出してもらい、聖国を指さして示す。
「この線が聖国とその周りの国との国境線だ。国を覆っている茨との境界線でもあるこの線は、榊が調べた限り八百年前はもっと違ったらしいが、その時間をかけて今の形になってる」
「つまり、気が付いていなかっただけで元々ゆっくり変化はしていたという事か」
「そんなっ」
「向こうだって生きてるんだから動いて当然だろ」
「っ、その・・・、」
「今から話す内容は他言無用でお願いいたします」
「分かった。生徒たちを塔へ戻して休ませてやってくれ」
「えー!?」
「聞きたい!!」
「みんなにも協力してもらうかもしれないけど、その時までは少し待っててもらってもいい?」
好奇心はとても大切だけれど、その知りたがりが誰かを傷つけてしまうのなら使う時を間違えているかもしれないから考える時が来たのだと笑顔で言われ、全員口を閉じてテントを出て行った。
「さすが」
「好奇心は大切だよ。でも使い方を間違えると命に関わっちゃうでしょ?」
このタイミングを使って自分と向き合うのはあの子達にとっていい機会だよと、ひなたにお茶の用意をお願いして席に着く。
その落ち着いた態度にシリウスが笑って椅子のひじ掛けに頬杖をつき、みのり屋の面々を見つめて穏やかな表情を浮かべるとフェアグリンに続きを促した。
「ご配慮ありがとうございます。殿下、これから聖国のイアグルス教会にあるものについて話すことをお許し下さい」
「・・・致し方ありません。もしも来年、もしくは数年であの魔族が千歳を越えて被害が我が国だけで収まらないのなら、」
もう隠しておいてよい事ではないと思いつめた表情で頷いた。
「では、僭越ながら私からお話しさせていただきます」
フェアグリンの話では、聖国にあるイアグルス教教会の裏には立ち入り禁止区域の森があるのだという。
「そこに、いらっしゃるんです。石像に、祈るように眠る茨を全身にまとった女性が」
「女性だったんですね」
「はい。髪が茨のようになっていて、それが地面を伝う様に国中を包んでいます」
「俺のような力を持つパラミシアだったのか」
「あの茨、モミジイチゴだったよね?実とか花とかなかったから一瞬分からなかったけど」
「モミジイチゴ美味いし、好きなんだけど探しても一個も無かったよ」
「そういうのを実らせないで全部枝の成長に使ってんだろうね~」
フェアグリンの話を誰も疑わず、聖国へ行った時を思い出しながら疑問が解決したとでもいう様に頷いているみのり屋たち。
「中心地はここだな。で、こうやって聖国を一周。この辺から逃げてきた魔物が王国に来たんだろう。多分この辺の国にもそれなりに逃げてるだろうが、まぁ、それはしょうがないな。どうにかしてるだろ」
その国境がもしもこれから変化するのなら、こうなるだろうなと指でなぞる道は、大国であるこの王国の三分の一を飲み込んでいた。隣接している小国など完全に飲み込まれてその向こう側にある小国まで半分以上埋まっている。
「こんなっ、こんなにいっきに広がるのですか!?」
「わしの予想だがな。覚醒前だというし、二百歳前後から一国を飲み込んでたならこのくらいいってもおかしくないだろ」
「進さんが今なぞったとこ、結構ガチ目に考察した結果だぞ」
「この辺は俺らも実際見て周ったから地形とか知ってるしね」
「この大陸から精霊種、妖精種がいなくなった理由って、」
「長寿の種族から見て、長く住み続けられる土地ではないと思わせるには十分な理由だな」
「ホーキンス、占いの内容は、そうね。聖国の現状かしら」
「はい」
優に言われ、カードをシャッフルして伸ばした藁に並べていく。
「『愚者』の正位置、『女帝』の正位置、『皇帝』の逆位置、『恋人』の正位置、『隠者』の逆位置」
捲ったカードを読み上げ、口を触って一度考えてから最後の一枚を捲る。
「『運命の輪』の逆位置。ふむ、間違いなく今現在の聖国は”どん底”と言える状態です。ですが、その状況を一転させるだけの材料も、全て揃っているようです」
「あら!それは素敵ね!」
「良かったですね!これなら安心して対策を練ることができますよ!」
喜んでいるみのり屋だが、こんな占いで喜ぶことが出来る王族はいない。複雑そうな表情をするクリストファー達に、とりあえずは良かったじゃないかと進が笑いかけた。
「時間はまだある。舞踏会が終わった後の長期休暇に一度戻って相談したとしても余裕はあると思うぞ」
「・・・そうですね。とにかく、我々ができることが何かを考えようと思います」
「それがいい。聖国の中にいたんじゃ、この話しをお前たちに直接することはまず無理だっただろうし、何かあった時の物資とか備えを用意するにしたって国外にいた方が動きやすいだろ」
「はい・・・」
「占いを信じすぎるのはどうかと僕も思うけど、とりあえず優先生とホーキンスの占いは軸に考えて動いても損はないと思うよ?」
伊達に魔女を目指して子供の頃から魔術に心血注いでないしというキリルの言葉に、優も頷いて微笑む。
「ホーキンスは元々占いの素質があったけれど、ずっとその力を磨いてきたものね」
「ようやくこの精度までたどり着けました。魔女と名乗れるようになるにはまだまだ掛かりそうですが」
「魔女、?」
首をかしげる聖国出身者に、そういえばあの国では魔女は忌諱する存在だったかと視線を向けた。
「俺たちにとって”魔女”とは称号だ。魔法使い、魔法士、魔術師の頂点にたどり着けた者を”魔女”と呼ぶ」
「だから性別に関係なく魔法を極めた人の事はみんな”魔女”って呼ぶんだよ」
「ちなみに優の事です」
「!?」
「”魔女”って国によっては怖いイメージがついているのよね」
強大すぎる力は恐れられるものだから分からなくもないがなと笑って、ホーキンスがカードをしまった。
「でも一年後かぁ、どうしようね?このままだと学園も王都も丸々範囲内なんだよねぇ」
「半年後には我々も長期休暇に入りますし、一度様子を見に行ってみましょうか」
「そうしよっか。新学期が始まる前に戻って来れば臨時講師の仕事にも穴を開けずにすむしね」
「シリウスさん、聖国の秘密に関わる部分は伏せた状態でこの情報をダンマルタン辺境伯に伝えるご許可を、国王陛下に頂けるよう打診してもらえますか?」
「そうだな。ダンマルタン辺境伯領は聖国とは面してないが、これから被害が出ること、魔物が多くなっているかについて他の辺境伯領にも確認を取らなければならないんだ。陛下もご許可下さるだろう」
「グロスター辺境伯領へは騎士団からも数部隊派遣して、国境の現状を確認に向かうように私から騎士団長に伝えておく」
ありがたいことに、現在長期保存が可能な食料も揃っているのでもしも王都が飲まれてしまっても水さえあれば当面はしのげるとミッシェルが言っていたというマイケルの言葉に、魔法士団からも魔法障壁の熟練術士を門に配置するように手筈を整えるとヘレンなら言うはずだとハイジが顔を上げた。
「そうしてくれるように頼んでくれ。クリストファー殿下、我々はこれから自国を守るために動き出します。陛下も、”そなた等も己にできる事が何かを考えてみてはいかがか?”と発破をかけてくると思いますよ」
もしもその中で、協力できる部分があるのならば助け合おうというシリウスに、まるでオルギウスに感じた王としての格の違いを思い出させられたクリストファーが静かに頷きを返す。
「ありがとう。私たちも、何が最善なのか話し合ってみる」
「魔族について知ることができたのは、俺たちにとっても幸運だったな」
何も知らないまま呪いが直撃したら、きっと大国として安泰だったこの国も崩壊していただろうという。
「この幸運を逃さないために、俺達が出来ることはなんでもしよう。国王の肩に乗ってる物は、容易く払えるチリではないんでな」
「、そうだね」
同世代の少年に触発され、クリストファーはさっきよりももっと力強く頷いて目に力を灯した。そしてもう一度地図を見て、フェアグリンと共に教会へ行くため学園長と担任教師に外出許可を取りに行った。
「俺たちも帰るぞ。これからやる事が山積みだ」
「僕も帰ったほうか良い?」
グレンを見て、茂へと視線を戻す。
「舞踏会が終わってから、向かうんだったな」
「うん、そのつもりだよ」
「それはみのり屋全員でか?」
「どうだろう。どうする?みんなで行く?」
茂が振り返って皆を見ると、優が行くと手を挙げた。
「スラム街の子供たちの様子も見たいのよね。あの子たちどうしてるかしら」
「私も気掛かりだ。王都の子供たちの様子を見てからで良いのなら共に向かうか」
「俺も行きます。占いの”現状を一転させるもの”がなんなのか気になるので」
「また治療とかしていいんですよね?なら僕も行きたいです」
金剛、ホーキンス、キリルが行くと手を挙げ、望、ガーフィールを始めとした皆が行くと手を挙げた。
「榊さんはどうする?」
「ん〜、王宮の本がどのくらいで読み終わるか分かんないからなぁ〜」
「区切りがついてたら行けば良いんじゃない?最近新しい本も書き始めたんでしょ?」
「あまり予定を入れすぎるのはご負担になると思いますよ?」
転弧、モンステラにも無理に決めないほうが良いと言われ、もう少し近づいてから決めると返事をする。
「うん、あんまり無理してこっちに合わせなくていいからね?」
「ありがとぉ〜」
「因みに、書き始めたという本はどの様な内容ですか?」
「えっとねぇ、聖国を題材にした小説だよ。前から夢で見てたんだけど、色々調べてて資料も揃ったから良いのが書けそうなんだよねぇ」
榊のその言葉に、みのり屋全員が頷いた。
「では榊にはそのまま好きに過ごしていてもらいましょう」
「そうだね。書き上がったら読ませてね、どんなお話か楽しみだよ」
「うん、大筋は決まってるからそんなに待たせないと思うよ」
でもラストがまだなんだよねと笑っている榊の事は、圧紘と転弧、モンステラに任せ、シリウスに向き直る。
「取り敢えず、私達のほとんどは行こうと思うよ」
「そうか。ではその時俺たちも同行していいか?」
「良いけど、大丈夫?家の事とか」
「”家”の為に行くんだ、文句は無いだろう」
「そっか、じゃあ一緒に行こうか」
頷く茂に笑い返し、これから忙しくなるぞとクミーレルを引っ張って皆で帰っていった。