7.学園生活
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「全員ポーションの数と武器の確認をしておけよ!」
「魔導具の準備もばっちりです!」
「いいですか!今回はみのり屋がいるとはいえ十分命の危険があります!そこをしっかり理解してください!」
「深追いは絶対にしてはいけません!魔導武器が壊れたとしても部品を拾うなどせず即逃げるように!」
「一度戻ってきたら減った分のポーションを造ってからの参戦にしてね!ポーションなしで焦って突っ込んでいってはダメよ!」
「はい!」
上質な素材だと燃えている錬金術師科に触発され、リッチとアイラのテンションも上がっていく。
「いい二人とも、絶対に誰か大人と一緒に行動するのよ?」
「この約束を守れないのならすぐにテントへ戻ってもらうからな」
「絶対に守る!」
「一人では行動しないわ!」
「なんで全員で来てるんですか?城に戻るって言ってましたよね?」
「大丈夫だ。今頃”打たれ弱い”国王陛下が城へ戻って仕事をしているだろう」
「ホントにね~、人使いが荒いよこの国の貴族様は~」
肩をすくめて見せる圧紘に、アディがまたため息を吐く。
「有能すぎるのも問題だな」
「ははは。まぁ、報酬も約束してもらったし~、ちゃぁんとお城でもフォローしてるよ。コピーの俺だけど」
「報酬とは?」
「王宮図書館の使用許可。榊さんが喜ぶだろうと思って」
「ありがとう!すごく嬉しい!一緒に見に行こうね」
「可愛い!気に入る本があるといいね!」
「お前はそれでいいのか」
「平和で良いではないですか」
「まったくだ!」
笑っているシリウスに、頭を抱えた。
錬金術師科と王族が乗った馬車が止まると、そこには森の奥深くだというのに背の高い石垣のような塀があった。
「お待ちしておりました。おや、皆様もお揃いで」
空からガーフィールが降りて来て、グレンとビビ、サブリナの他にもいるメンバーに笑いかけてから茂と現津に声をかける。
「まさかっ、この塀の向こうに閉じ込めているのか!?」
「はい、その通りですよ。捕まえ損ねたオークは全て進さんが塀の中へ放り込みましたので、逃した個体もおりません」
というよりも、他にも気になる事があったので後で進と詳しく話してくれと言われ、頷きを返す。
「まずはこのオーク達を倒して、角煮マンで打ち上げをしてからまたゆっくり考えようか」
「それがよろしいかと」
「この塀の向こうへは、本人の意志がある場合のみ通すようにしてください。とはいえ、熱気に充てられて無謀な突進をするのであれば気絶させて構いません」
「手荒だな」
「自殺をするのなら止めはしませんが、今回はみのり屋の名で依頼を受けているのです。他でやっていただきたいですね。迷惑です」
「アキツってバッサリいくよな」
「ジョージ、シゲルにはイタズラをしたらダメだよ」
「ホ!」
満が結界を張った内側に倉庫型のテントを張り、タープで屋根も付けて望とキリルが手当に必要な品を準備していく。
「緊張感が高まっていると痛みを感じにくくなってしまいますから、わずかな違和感も見逃さない様にしてくださいね」
怪我をしたらすぐに戻ってきて、手当を受けてからまた行くかどうかを考えてくれと説明をすると、全員が大声で返事をしてガーフィールの開いたアーチ形の入口へと入って行く。
「よし、まず先にジェネラルを倒して、後は参加者のフォローに回るか」
「コクン」
「カリブー、この塀に沿って体を広げられますか?狩り終わったオークを吸収し、この辺りに吐き出していってください」
「倒した先から血抜きをして行かなくては素材としてはよくても良い肉になりませんからね」
「ならここにも穴を開けてくれぇ〜、後ぁ、俺に向かって獲物を投げておくれよぉ〜。下手に地面を伝ったんじゃオークと人間を分けるのが面倒だからなぁ〜〜」
「疲れたら交代してもいいぞ」
梅智賀の言葉に、それは頼もしいと不敵に笑って利刃と蜻蛉切がゲートをくぐっていく。
「参加する方は早く行かなければ何もせずに終わってしまいますよ」
「え?!」
「全く、梅智賀の安い挑発に乗るとは」
「楽しんでんだからいいんじゃないか?」
「俺達も行くか。キリル、怪我人は任せたぞ」
「うん、行ってらっしゃい」
「いいか、今日は火を使わずに戦う訓練だ。どうやって戦うか、連携をするのか、キチンと考えて挑みなさい」
「はーい!」
コンシンネたちの足下で黒い翼と背中に火を纏っている子供達が、元気に返事をしてゲートへと向かった。
「あんな子供にまで戦わせるのか?!」
「そういう教育方針ですから」
「どんな教育だよ?!」
「大変だ!!早く行って助けねぇと!」
冒険者達が慌ててゲートを潜り、そこで改めて精霊種だけでなく学生たちの異常さを目の当たりにした。
「あ〜!もう壊れちゃった!!」
「そういうものよ!今回手に入った素材でもっと強い武器を造れば良いんだから落ち込まないで!」
「そっちに行きましたよ!!武器だけに頼らず魔力や魔法でも戦えるように考えながら動きなさい!」
「おわっ!ちちちっ、エラ!もっと魔法を当てる面積を狭めてくれ!素材として使える部分が減る!」
「素材として考えると難しいですわね!」
「シャーリー!」
「ピーン」
「ウィンドカッター!」
「ナイスフォロー!」
ローランドとソフィアは何度も一緒に訓練をしていたらしく、連携も取れていた。
そして、ガウェインとヴィクトリアは共に戦いながら肉体言語で会話をしていた。
壁の向こうから爆音と雄叫びが聞こえる中、残っていたみのり屋と神官達が運び込まれてくる怪我人を治療していく。
「ティアナ様は範囲回復はお使いになれますか?!」
「はい!このテント近くの方々なら全員含める事ができます!」
「それは頼もしい!ではここはお願いしてもよろしいでしょうか」
「かしこまりました!」
「クリストファー様も!どうか皆を励ましてあげてください!」
「もちろんです!」
こちらも戦場のように忙しい。ティアナが真剣な顔で回復魔法を発動し、皆の傷が塞がっていくのを見届けてからフェアグリンが立ち上がる。
「あ!フェアグリン様がいなくなったぞ!!」
「探せ!まだ間に合うかもしれない!!」
「え?」
「あー!」
間に合わなかったと、石と木でできた壁に手を付けて嘆く神官達。
「あなた枢機卿なんですからもっと立場を弁えた行動してくださいよ!!」
「っていうか武器はどうしたんですか!?」
「こんのやろー!アイテムボックスにしまってやがったな!!」
上司に使うとは思えない言葉遣いで叫んでいる神官達の肩に、ローガンが手を置いて慰める。
「せめて俺も連れて行って下さいよっ・・・」
「お前も武僧の素質があるよ」
項垂れている中にハリーがいたのでそう突っ込んでいた。
そんな会話をしている神官達をよそに、ゲートとは別の穴から次々にオーク、上位種、変異種がテント脇へと積み上げられていく。
「一度全て鞄へ仕舞い、一体ずつ血抜きをしてからまた次の個体を取り出してください。打ち上げで余った分はうちの食事か売り物にしますので」
「はい、かしこまりました」
現津の指示に従い、サンスペリアが主導になって火の民の非戦闘員が茂と共に解体をすすめていた。
「やっと見えた!!」
マイケルが進とジェネラルが向かい合っているのを見つけ、観戦を邪魔されないように周囲の上位種たちを斬れ味の衰えない愛剣で切りふしていく。
大きな斧を振り回すオークジェネラルと、素手で殴りに行く進。何発か避け、叫び声と共に全身へ魔力を巡らせて拳を振りかぶった。
本能なのか、攻撃をやめて斧で受ける姿勢になるオーク。この時、
終わった。
「おおおお!!!」
進の拳が武器を砕いてオークジェネラルの首に突き刺さる。刺さった腕を大きく振れば、なんの抵抗もなく首が体から離れて落ちた。
「おおおお!」
それを見ていた冒険者達が喜びと勝利を確信した雄叫びを上げた。
「降魔の相」
「ホーキンスさん!」
「全く、こんなところにまで来て」
好奇心が旺盛なのも考えものだなとリッチとアイラを守る様に前へ出る。
「武器の使い方も戦い方も未熟。それを理解して戦え」
無闇に前へ出なくても良い武器を持っているのだからその利点を活かせと、二人だけでなく魔法士科の生徒たちにも指導をしながら倒したオークを壁へと放り投げていく。
「好奇心旺盛なのは血筋じゃない?いや、周囲の影響かな〜?」
「学園長もノリノリだし、感染力強いな」
「お、お疲れ。ジェネラルもう終わったの?」
「あんま手応えなかった。やっぱキングとかじゃ無いと楽しくないわ」
「お前自分のレベル上げしすぎたんだよ、上級者がスライム倒したってそりゃつまんないでしょ〜よ」
「それでもダンジョンは面白かったし、また行くかな。無限収納とか超チートアイテムもあるし」
「これ最高だよね〜」
そんな会話をしながら、怪我をして動けない者や倒したオークを運び出す。
「だいぶ数が減りましたので、囲いを小さく致します。ご注意ください」
ガーフィールの声があたりに響き、みのり屋が全員に壁から離れて入口へ向かう様に叫ぶ。
「壁から離れろ!!ひき肉になるぞ!!」
「ひき肉になったらさすがに即復帰は無理だから!早く離れろ!!」
「復帰はできんの!?」
「望さんなら可能だ!」
「それでもひき肉の気分は知らないままでいたいだろ!!」
「うわー!!」
走りだした人間たちを追ってオークたちも走り出すが、反応が遅かった者が迫ってくる壁と地面に足を取られ、ミチミチと嫌な音と共に断末魔を上げてひき肉になっていく。
それを見て、人間とオークが同じように走り出した。
「結構仲良くやれんじゃない?」
「出来てたまるか!!」
アディにツッコミを貰いながら、人間では被害者がいないかを魔族で確認。オークのミンチしかなかったので良かった良かったと土に埋めて大地へ帰した。
「魔石だけはください!!」
「牙だ!二本だけだけど牙もあったぞ!!」
「他は、無理だな」
錬金術師科ももう使えそうな所がないと諦め、残っているオークの討伐へと戻っていく。
「錬金術師は恐ろしいな」
「あんな残骸からも素材を取るのか」
「研究職は合理主義者が多いとはよくいうが」
騎士科、魔法士科の通った道よりも錬金術師科の通った道の方がきれいだが、それが逆に恐ろしいと他学科の教師に言われた。
こうして数百匹もいたオークの群れも全て倒し終え、進の合図を受けたガーフィールが石垣を取り除く。
「あー、風呂に入りたい」
「うわっきったな!!」
着ていた作務衣の上着を脱いで顔と頭の返り血を上着で拭いている進に、グレンが驚きの声を上げた。
「しょうがないだろ?なぁ、天心?」
「コクン」
「もー、お風呂に入る前にちゃんと体を流してよ?」
「風呂のマナーに詳しくなったな」
汚れた上着を肩にかけて話しながら歩いていると、大はしゃぎで抱き着いてきたアイラとリッチを受け止めてシリウスとも合流する。
進はこの状態で初めて会ったはずなのだが、誰なのかすぐに察したようだ。
「お疲れ、多分満たちが風呂を用意してくれてるから、入ってきな」
「そうさせてもらうか!」
「、あなた。背中にタトゥーを入れていたの?」
「ん?ああ、それはタトゥーじゃなくて痣だ」
「痣!?こんなっ、絵みたいな痣がある訳ないでしょ!?」
「そういわれてもなぁ、本当に痣なんだよ」
レーナに信じてもらえなかったので、みのり屋創設の九人には全員痣があるんだと説明しているとガーフィールも空から降りてきた。
「きゃっ」
神官たちと駆け寄ってきたティアナが短い悲鳴を上げたので、お姫様には血だらけの姿が恐ろしかったかと謝る。
「どっちかっていうと貴方の裸が原因じゃないかしら」
「ん?いや怪我人の治療とかで肌は見るだろ」
そう言っていると大量のタオルを抱えた満がやってきた。
「お疲れ様」
「ありがと、助かったわ」
「すぐお風呂に入れるよ。皆さんもよろしければどうぞ」
「お言葉に甘えて、先に入らせていただきます」
進ほどではないが、全員ドロドロだ。
「それよりっ、あの、回復をっ」
「ああ、それで来てくれたのか、ありがとう。だがわしは怪我をしてないから大丈夫だ。みんなは見てもらった方がいいんじゃないか?」
「私たちはさっきフェアグリン枢機卿が回復をしてくれたから大丈夫よ」
「フェアグリン様!お一人で行くなど何を考えていらっしゃるんですか!」
「ティアナ様が来てくださったのですから、回復役は十分だったでしょう?それならば現場で回復をした方がいいと思いましてね」
「そうかもしれませんがそうではありません!!」
「お一人では行かないでください。もしもの時私たちが盾になれないじゃないですか」
「あなた達は死に急ぎすぎですよ。もっとゆったり生きてください」
今回も平和をもぎ取って来たんだから一緒に神に感謝しようと、怒っているハリー達をなだめて救護班がいるテントへ歩いていく。
「ベンジャミンも大変だなぁ、あれの右腕になるんだろ?今から強くなれるように頑張れよ」
「は、はい!」
心配げに寄って来ていたベンジャミンの頭を撫でてから、ティアナにも一段落したら休憩がてら風呂に入って行くと良いと声をかければ、更に顔を赤くしてからおずおずと頷いた。
「みんな、今日は夕飯食べていける?オークの配分とかあるから角煮マンは明日になっちゃうけど、そっちも来れそう?」
「食べていく!」
「明日も絶対参加する!」
「私達は今日ここに泊まる事になりそうだけど、一度戻る?馬車貸そうか?」
「大丈夫だ。仕事はきちんと周っているようだからな」
この森に一番近いグロスター辺境伯へ出していた使者と、様子を見に来た辺境伯領の騎士を見て、シリウスが泊っていくというのでアイラとリッチが大喜びで玉ねぎ型のテントへと走って行った。
「あいつらどんどん活発になっていくな」
「クミーレルさん、お部屋はもう用意してありますからゆっくり休んで下さいね」
「ありがとうございます・・・」
労るように背中に手を置く茂に礼を言い、グレタを大切そうに両手で包んでトボトボと歩き出す。
「こういう楽しみがないと老けるのが早くなっちゃうのよ」
「それはイヤですねぇ。私はまだまだ寿命がありますので、いつまでも若々しくいたいものです」
ビビとの会話にフェアグリンも入ってきたので、ならこんな物もいいかもしれないと、太陽をモチーフにした美しいネックレスを差し出す。それを首を傾げながら受け取った。
「
そういう時はこういう美しい物を見たり、身につけたりすると気が晴れる物ですよと笑いかけられ「お心遣いありがとうございます」と、膝をついて茂の手に額に当てて礼を言う。
「貴女との出会いを、何度神に感謝したことでしょう」
「あなたの長い人生では、数えるのも無粋ですね」
茂を引き寄せてフェアグリンの手を離させる現津にも笑いかけていた。
「去年お店を開いた時、フィンさんという凄腕の冒険者がご飯を食べに来てくださったんです。お話しもして、とても紳士的な方だった事は思い出せるんですけど、どうしてもお顔が思い出せなくて」
きっとフェアグリンとも気が合うだろうから紹介がしたかったのに出来なくて申し訳ないと眉を垂らすと、眼を見開いた後ネックレスを握りしめて手を組んだ。
「きっと、神がその方と私を引き合わせて下さいます」
「そうですね。もしも出会う事があったらまた食事を食べに来るようお伝えくださいますか?」
笑いかけてから現津のエスコートで歩き出す。しかし、一度振り返ってまた笑った。
「お仲間も四名まででしたら、いつでも対応可能だともお伝えください」
今度は振り返らず、回復が終わった者たちが休んでいるテントへと歩いていく。
「何か落ち着く物を用意しようか」
「満が作った料理は全部美味くて落ち着く」
梅智賀の言葉に笑顔で礼を言い、二人もテントへ戻って行った。
「皆さんもお疲れさまでした!街へ戻る方は馬車でお送りしますので使ってください」
残る者はテントを使っていいので中へ入ってくれと冒険者、騎士、魔法士たちへ声をかけていくと皆喜んでテントへと入って行く。
そして、外観よりも広いテント内、どこかの宿屋のような内装でありながら高級過ぎず、居心地の良さそうなロビー兼食堂を見てとても嬉しそうに見回していた。
「奥にお風呂がありますので、スライムたちに一度キレイにしてもらってから使ってください」
衣服もスライムたちがキレイにしてくれるから安心してくれと言われ、宿屋の使い方の説明を受ける。といってもほとんどの冒険者が出店時に風呂屋にも入りに来ていたようで、戸惑う者はあまりいなかった。
「夕飯も出してくれんのか!?」
「部屋まで使っていいのかよ!!」
「今回は私たちが王太后陛下から受けた依頼に皆さんが助けに来てくれたっていう形ですからね」
解体の代金を引く代わりに素材も多めにもらっていいという事になっているので、このくらいのサービスはしますよと言われ、大喜びで風呂へと走っていった。
「ねぇ、ススムが背中のタトゥーを痣だって言うの。あなた達にもあるって本当?もしかして榊の首にあるタトゥーも痣?」
レーナの質問に、茂が「本当だよ」と頷く。
「他のみんなのは服で隠れる所にあるけど、私のはすぐ見せられるよ。見る?」
見たいと言うので口を開いて舌を出すと、そこには本当に痣があった。
それを見て驚いているとバリッと大きな音が上がったので辺りを見回すが、特に何もない。
しかし、現津だけは冷笑を浮かべていた。
「やはり殺しておきましょうか」
「すみませんっ、勘弁してやって下さいっ、今のはあいつが可哀想です!」
ウィリアムが現津を止めている間に、レーナたちも本当に痣だったのかと風呂へと向かっていく。
そんなやり取りもありながら、報告のため馬車で王都へ戻る騎士たちを見送ってから茂たちも夕食の準備に入った。
「はーっ、さっぱりした」
「お前!きちんと服を着てこい!」
タオルで頭を乾かしながら出てきた進をアディが怒鳴り、風呂が終わったから者たちで配膳を手伝った。
次の日、朝食を食べて明るくなった森を全員で見て周り、何も残っていないかと確認していく。
「では皆さんは馬車近くでお待ちください」
現津が全員を下がらせ、誰もいない事を確認して巨大な魔法陣を展開した。
「なんだこりゃぁ!?」
「ま、魔法陣!?こんなに大きくなんてっ、できる訳ないわ!!」
「人間にこんなっ」
他の種族の血が入っているようには見えないが、エルフの先祖でもいるのかと冒険者の魔法士たちがざわつく中、破壊され尽くしていた森の土が盛り上がっていく。
「これは?今何をしているんだ?」
「戦闘で踏み固められた土を耕して、柔らかくしてるんだよ。そうしないと植物の根が深くまで伸びて行かないからね」
「なるほど」
シリウスが茂に説明をされて現津を見つめていた。
「このくらいでいいでしょう。桃之丞」
「アア!」
呼ばれた白い子熊が走っていき、現津の隣に辿り着くころには3mを越える巨体となり、首を撫でられると嬉しそうに走り出す。ノワゼットも桃之丞とは反対側から周るとその後からどんどん植物が芽を出し、茶色一色だった広場に緑色の道を作っていった。
「好きな木を植えていいよ。あんまり変なのはダメだけど」
「ガァアアア!!」
茂の言葉に嬉しそうに返事をし、中心に一番太くて立派な木が生えてきた。その木を中心に、ノワゼットがこの森に元々自生していた植物を増やしていく。
「アアア!!」
「まぁ、桃の好きな植物って言ったらそうなるよね」
緑の草原の中にひと際目立つピンク色の花弁が咲き誇り、器用に後ろ足で立ち上がって甘い香りのする桃の実をいくつも地面へ落としていく。
「わんわん!」
「オン!!」
「ギャギャ!」
みのり屋のホムンクルスたちが桃の木へ集まっていき、桃之丞が落した実をくれという様に鳴いて食べ始めた。
「すごい・・・」
「みんなもいくつか採っていく?桃が生やした木だから甘くて美味しいよ」
「こんなことも出来るの!?」
「茂さんが造ったホムンクルスですから、当然でしょう」
「当然ってなに!?」
「モモノスケー!一個くれー!」
二足歩行のままこちらを振り返って手を振って来たので、錬金術師達がいっせいに走り出す。
「やったー!」
子供たちが駆けて行き、ピンク色の桃をいくつも収穫していく。ジンがその場で齧りつき、茂の出した桃と同じ味がすると笑って食べ進めた。
「、種がねぇ」
「そんな所まで同じなのね」
「どういうことですか!?」
「茂が水に魔力注いだらジュースになるのは知ってるだろ」
「本気でもっと注いだらこういう種のない桃になんだよ」
「そうなの!?」
「水!?はぁ!?」
「土魔法に、こんな使い方があったなんて・・・」
「ブブブ」
「お疲れ様。ありがとうね」
子熊の姿に戻ると茂に抱っこを求め、その胸に頭を擦り付けて甘えだしたので笑って小さな背中を撫でた。
「我々もいくつかいただいてもよろしいでしょうか」
「いくらでもどうぞ。多分季節とか関係なくいつでも実ってると思いますし」
ここまで来るのは大変だろうが、いつでも好きに取って食べてくれと言われて神官たちも嬉しそうに桃を収穫し始めた。いくつか取って冒険者へ手渡すと、皮も剥かずに齧りついて驚いた表情で強直する。
「う、うめぇ!!なんだこれ!?」
「こんなに甘い果物食べた事ないわ!!」
「喉が渇いた時に食べても良いですよ。お腹も膨れますし」
でも、皮を剝いてくれと言って苦笑した。
「これで依頼は完了、で大丈夫かな」
「これ以上ないほどの成果だわ!依頼料を上乗せするように言っておかなくちゃ!」
ビビが収穫した桃を両手いっぱいに抱えて言うので笑ってしまう。
「上乗せ分は学園と教会に寄付するように言っておいてくれる?これからどんどん子供が増えたらお金がもっと必要になって来るだろうし」
そう言われてまた笑顔を深めてピンク色の木を見上げる。
「こんなに幻想的で温かい景色を見られるなんて、まるで夢みたい」
なのに、どこか懐かしい気さえしてしまうのだから不思議と呟いた。