7.学園生活
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月に一度の観劇の日。エラとソフィアがアディ達と共にクリストファーとティアナと共に座り、ヴィクトリアが護衛に加わるという形で一緒にやって来た。そこでフェアグリンとも挨拶をし、表面上は人種差別をしない事に笑顔を見せている。
しかし、護衛騎士には冷たい視線を向けられていた。初日に苦言を挺していた騎士で、一番年上と言うのも理由かもしれない。
「護衛の責任者なんだろうし」
「あれは、どうなんだろ。責任感じゃなくない?」
「年を取ると新しい事を受け入れられなくなってくるって本当なんだな」
「そういう意味じゃ、この王国は貴族も大人も柔軟じゃない?」
「陛下達がヤバい貴族を先に晒しあげてたってのが理由だろ」
「確かに」
ギルの元いた婚約者も側近も、それで全員がいなくなったのだから大々的な粛清だったのはよく分かる。
「粛清してなかったら、する気になるような人じゃ無かったらって思うと怖いよね」
「みのり屋とか関係なくいつか滅んでたんじゃないかな」
この国にも、まだまだ頭の硬い貴族はいるしねとリックが肩をすくめてジョージを隣の席に座らせた。
演目は「天使にラブソングを・・・」
終われば初めてみのり屋の歌劇を見た一年生から、聖国側からも感動したとスタンディングオベーションをいただき、圧紘と至が汗だくの姿で一礼をする。
次の日、錬金術師科の生徒が連れている生き物が魔物でも召喚獣でも無い事を知ったクリストファーとティアナが授業の参加を求めてきたので、一年生の授業に混ざる事になった。
「今はホムンクルスとゴーレム、タルパについての授業をしております。途中からになりますがよろしいですか?」
「構いません」
そう言い切られてしまったので拒否する理由はない。
「つまり、ホムンクルスとゴーレム、タルパの違いは生物の身体を持っているか、非生物の身体を持っているか、そもそも肉体を必要としていないかの違いだけとなります」
分からない所は無かった?と聞くと、ティアナが手を上げた。
「錬金術師は、無尽蔵に兵を造れるということでしょうか」
顔色の悪いティアナの質問に、クリストファーも同じような表情で見つめてくるので、茂は困ったように眉を垂らす。
「もしも錬金術師が兵にする為だけにこの子達を造るのだとすれば、それは一人では抱えきれないだけの憎悪や惨状からの脱却、自身の命と引き換えにしても何かを守りたいと思ったからだと思いますよ」
「それは、つまり?」
「錬金術師だけの問題では無いということです」
魂とは心だ。それも自分自身の魂を分けて造った存在を、理不尽に傷つく戦場へ送る事など出来はしない。
「来月錬金術師科の全体授業がありますので、授業を受けていただければ、錬金術師にとってこの子達がどれだけ特別な存在かという事をご理解いただけると思います」
護衛たちにも、優しく笑いかけた。
「いずれ救われる魂と、ただ散るだけの命の違いをこの学科では曖昧にしないためにハッキリと区別しています」
だから無闇やたらとホムンクルスやゴーレムを増やしたりはしないし、大切にしている。
「錬金術を外から見た時心配になってしまうのは、当人達が何をしているのか分からず得体がしれないと思うからでしょう」
けれど、それは分かり合える部分でもあると言って授業を進めた。
その後、騎士科と魔法士科の公開授業が終わり、錬金術師科の番になる。そこで錬金術師が何を信条に研究しているのかという説明を受けてから、クリストファーとティアナがエラ達と共に塔へやって来たのでティールームへと案内すればすぐに自分達もホムンクルスを作りたいと言い出した。
「やめた方が良いんじゃね?」
茂よりも先に、近くのテーブルにいたジンが口を開く。
「なぜでしょうか」
「そりゃあ王族だからだろ」
そう言って膝に乗せている白いモフモフした玉を撫でる。
「俺は聖国に行った事ねぇけど、魔法が盛んなら召喚獣の方が良いんじゃねぇの?」
主人の為に何でもするこの命を、まだ本当の意味で分かっていない王侯貴族という立場の者が、無闇に大切な存在を造らない方が良いと言うと、アディが物凄いまともな事を言うじゃないかとからかう。
「入学してから、王族だの貴族だのの内情知っちまったからな」
「卒業したら王宮勤めしてみる?」
「俺は冒険者になるからパス」
平民最高とギルに言い、来てくれたら心強いのにと笑われていた。
「似たような立場の私がゴーレムを造っていますので説得力は無いかもしれませんが、もう少ししたら私の王位継承権放棄の発表が国王陛下からあります」
「え」
「私の王太子という立場は弟妹が生まれる前から公表されていましたが、私達兄弟もそれで納得しているんですよ」
「ザックと共に生き、この国に王族として留まり、兄上との関係を守る為にはそのくらいハッキリと表明しなければなりません」
王位を手放しても良いくらいの存在がゴーレム達なのだと言うアディの表情に、クリストファーも護衛達も固まってしまう。
「錬金術師の常識が、魔法士の常識と同じとは限りませんからね」
きっとこの差は埋まらないけれど、溝にしない努力は惜しまないと互いに思うことが大切だと言って注がれたお茶に口をつけた。
「ギルバート殿下も、ゴーレムをお造りになられたのですか?」
「私はホムンクルスですが、ええ、今造っている最中です」
胸ポケットを上から撫でて見せる。
「今はまだ卵ですが、既に共に支え合っていける相棒です」
そう微笑んで優雅にカップを持ち上げた。
「私たちのように権力も立場もありながら孤立してしまいがちな者にとって、この子たちは本当に心から救われる存在になります。ならば私もこの子を、何を投げうってでも守っていかなければなりません。それが貴方にはできますか?」
そう聞かれ、即答出来ないクリストファーとティアナは口を閉じてカップを見つめていた。
「同じ王族でも、国によって向かっていく方向は変わります。私たちは錬金術がこの国を発展させ、国民の生活を豊かにできると思い、こうして国を挙げて力を入れることを決めました。もちろん反対もありましたが、この国をどうしたいのかと模索して陛下が決断した事です。なので、錬金術師と共にいるホムンクルス達に手を出すことがどういうことか、王侯貴族皆が理解しています」
それが聖国でもできるかと聞かれ、やはり口を開く事ができない二人にファビオラが笑いかける。
「今は親の世代で、次世代である貴方方が出来ることはまだ少ないでしょう。けれどそれは今だけよ」
これから先を作っていくのは貴方たち若い世代なんだからと言われ、強張っていた表情を少しだけ解いた。
「留学であっても聖国から外に出ることなんて今まであまりなかったんでしょう?」
「はい、外交もほとんど、自国で行っておりましたので」
「なら、今はゆっくり外の世界を見てみるといいわ。そうすれば自国のいい所もこれから向かうべき方向も、きっと見えてくるはずよ」
自分もこの年になって新しい世界を知ったのだから、まだ若い二人にならもっと広い世界が見えるに違いないと、膝に乗っているビオラの頭を撫でると、ファビオラの面影がある顔で笑い返してきた。
それから少しして、一年生が初級ダンジョンへ向かったのだが、今年も教会の神官がついてきてくれることになった。
それも、聖国王太子と聖女がいるためか、フェアグリン自ら参加してくれるとの事。学園としてもより安心して子供たちを見送ることができると感謝を示した。
フェアグリンからは神官たちと共に力を高めるための修行の一環なのでと、好感の持てる返事が返って来る。
そんなやり取りを見て、クリストファーとティアナは静かに自国での事を思い出していた。
フェアグリンはエルフ。
つまり、聖国では迫害にあう人種だ。それなのに、今まで国で飢饉が起こった時は誰よりも率先して国を助けに来てくれていた。
それでも、イアグルス教の教えとして人間族以外は邪悪であるという考えから、まともに謝礼をしたことも労いの言葉を贈った事もなかった。
いったいどれだけの恥を上塗りしてきたのだろう。
優という美しい魔法士が、授業中に「ごめんなさい」と「ありがとう」が物事の基本と言っているのを聞いてうつむいてしまった。
そんな基本さえ、ずっと出来ていなかった。