7.学園生活
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次の日、子供たちにシャワーを浴びさせてキレイにしてから朝食を食べていると、外から沢山の声が聞こえてきた。
「もう並んでんのかよ」
「期待してくれてるんだねぇ」
「今日も忙しくなりそうですね」
「いいか、客と揉めてもお前らは手出しすんなよ」
「そういうのは我々の仕事だからな」
黒い作務衣を着ている梅智賀たちを見て、頼もしいと呟くみんな。
朝食もしっかりと食べ、時間になるまでは店を開けないから焦らずに準備をしていいと子供たちにも声をかける。
互いに身だしなみをチェックしている姿など、この数日で様になってきた。
「今日も一日頑張りましょー!」
「おー!」
掛け声もピッタリ揃っていて、保育室へ入って行く小さな姿さえ堂々としていてとても可愛らしい。
そして、茂が看板を持って扉を開けた。
「お待たせいたしました。本日のメニューは"錬金術師の部屋"でございます」
どうぞご覧くださいとテントの入口を大きく開くと、そこには所狭しとポーションや器具、素材や研究書などがビッシリと棚に収められていた。
中央にある机やイスが今まで誰かが座っていたかのように置かれていて、錬金術師以外が見ても何故か心が踊る。
これがきっと、好奇心というものなのだろう。
「これはなんですか?」
「これはベッドです」
「ベッド?!これが?!」
「はい、この様に広げて使います」
「このくらいにするとソファーにもなります」
「同じ作りのイスもありますよ」
「おおー!!」
至る所で生徒や教師、師団員達の実演販売が行われていた。
「なっ、ノゾム殿とシゲル殿の合作医学書?!」
「すまないが関連書籍を全て買わせてくれ!」
いつの間にか宮廷医師団も来ていたようで、本棚に食らいつく勢いで本を買い漁っている。
「これは!あの時手術で使っていた器具ではないか!一式セットだと?!」
「なぁ!このポーションエリクサーって書いてあんだけど本物か?!」
「もちろんです」
「ドロップ品ではなくお手製なので安いですよ」
「若返りの秘薬は無いの?」
「秘薬はありませんが、お肌に良い化粧品はこちらです」
「こんなっ、一瞬で白くてプルプルになるなんて!」
「秘薬じゃない!」
「秘薬ではありません」
「乳液です」
「こっちはなに?!」
「こちらは乳液の他にも化粧水や保湿効果のある薬液を染み込ませたパックです」
「見て!手の甲が左右で別人みたいになったわ!!」
「面倒だ、あの集団には全部買わせろ」
支払いはきちんと出来ると、お忍び姿のマリー達の相手が鬱陶しくなったようでアンとカタリナに任せてアディが次の接客へ行ってしまった。
王妃三人を椅子に座らせ、化粧を落としてから乳液でしっかり肌を整え、今までとは全く違う白粉などで化粧をされていく。お忍びということで、つむぎがナチュラルメイクにしてくれた。
「そんな、まるで十代じゃない!!」
プニプニと頬を触りながらキャーキャー!と本人達は無意識だろうが、大いに宣伝してくれていた。
「救急箱が売ってる。テントには付けていただいたが、予備は必要だろうな」
店内を見て回っているオルギウスにミッシェルが話しかけ、何を買うかと相談していた。
「倉庫型を一つくれ!」
「だから!俺たちで使うならこっち(ベル型)だろ!」
「いいや!ダンジョンに行くなら倉庫型だろ!」
「トイレとお風呂が付いてるんだから絶対ベル型!!」
「少し高くなるけどロッジ型にしようよ」
家具は今使ってるのをそのまま入れられるし、一番広い部屋を荷物置き場にすれば解決じゃん。
掃除は物凄く大変だろうけどと、喧嘩をしている冒険者パーティーが至るところにいる。
「商人ギルドです!こちらのテントを卸して頂けませんか!」
「そのお話でしたら後日こちらからお伺いさせていただきます」
日程を合わせる話し合いも後ほどと、現津が間に入って茂をガードしていた。
喧嘩がヒートアップしている冒険者達は、テントを買えるだけあり高ランクなのだが、そんな者ばかりではないので他の冒険者は野営道具のコーナーへ誘導していく。
子供達も生徒達もてんやわんやになっているが、そこは術師団と教師達がフォローに回ってくれていた。
「やはりこの道具は一式揃えたいな」
「予算が足りないが、この道具があるのとないのとじゃかなり違うからな」
「遠出した時に温かなお茶が飲めるなんて、それも魔力の心配もなしで」
ミッシェルとヘレンが小型コンロを見つめながら真剣に話し合っている。
茂はカウンターに座って案内をしていたのだが、次はいつ店を開くのかと質問攻めにあっていた。中には外見的な特徴と年齢で明らかに舐めて来る者もいたが、そこは現津達が対処していたので特に問題はない。
グレンもビビも、みんな接客が上手いなと時折見ていると、侍女長達もお客を本棚へ案内し、これがいかに素晴らしいかと本を片手に熱弁していた。
因みに、満と書いた料理のレシピ本だった。
何処かの屋敷で雇われているらしい下っ端のコックや町の厨番の中には字が読めない者もいたので、挿絵が多い本を勧めていく。
もちろん主婦たちも大喜びだ。
「素材のとり方まで本にしてあんの?!」
「これ!GからSSまであるよ!」
「ちょっ、ギルマス呼んでこねぇと!!」
騒ぎ出す冒険者たちの隣では、商人ギルドの職員達が次々と本を買っていく。必要としている情報は同じなのだ。
そんな客で賑わっている中、多分街で工房を開いているのだろう錬金術師が案内していた一年生に怒鳴りだした。
「この本に書かれている事はでたらめだ!」
賑やかだった周囲が静まり返る。
「こんな事ができる訳ないだろう!薬草の下処理まで間違っている!!」
この研究書は嘘ばかりで、同じように作っても売っている物とは別物になると言うので、売っているポーションなどの商品にケチをつけている訳ではないのだなと聞いていると、怒鳴られた一年生が真っ赤になって怒鳴り返した。
「そんな訳あるか!このやり方でみんな同じポーションを造れるようになったんだ!!」
転弧が行こうとするのを止め、茂が杖を付きながら立ち上がると現津がエスコートのため手を出す。
「言い返してくれるのは嬉しいけど、怒鳴ったら上手く伝えられないよ」
でもありがとうと一年生の頭を撫でて、お客の前でまっすぐと立つ。
「そちらに書いてあることは、今私がつき止めた事ですから、いずれは間違いになるかもしれませんね」
「ほらみっ、なに?」
「昔ながらのやり方から、私が見つけた方法がそこに書かれています。そして、いずれそれも古くなることでしょう」
誰かがきっと、もっと良いものを見つけてくれると微笑んで中央にある机へと向かった。
「良ければ近くでご覧ください」
次はあなたが新しいものを見つける人かもしれないのだからと呼び寄せ、椅子を引いて座ると杖は現津が受け取った。
「初級ポーションは薬草と蒸留水、魔力というシンプルな材料なだけに誤魔化しがききません。けれど、その変わりに素材の良し悪し、自分の魔力との相性でいくらでも底上げしてあげられます」
魔力が合わなかったとしてもポーションを造るという手順、手際を磨くには最適な作業だと、机の上に置いてあった器具を使ってポーションを造り出す。
この時にはすでに、テント内の空気がはっきりと変わっていた。
本日のメニュー「錬金術師の部屋」
その名の通り、ここは今茂の部屋だった。錬金術師が追い求める賢者の石。
それさえ造り上げた錬成術師の部屋だった。
怒鳴っていた男の他にも錬金術師が何人もいたようで、本人も気づいていない内に机へと近づいてきている。
「はい、これで初級ポーションの完成です。手順や注意点はその本に書いてあった通りですよ」
笑いかけながら小瓶に移し、栓をして仕切りのある箱へ納めて棚に並べておいてくれとひなたに頼んで立ち上がった。
すかさず現津が杖を差し出してくるのでそれを受け取り、つむぎに器具は後で洗うので新しいものに変えて飾っておいてくれと歩き出す。
「実演はここまでになりますが、他にもご質問がありましたら少しですがお答えいたしますよ。今のポーションレシピは錬金術ギルドを通して公表致しますが、流石に細かな手順などは本にしかまとめていませんので」
そう言ってカウンターへ戻れば、本棚から研究書を手に持ち長からず短からずの列を作っていく。
最初に怒鳴っていた男も、その列に並び研究書を開いて一つ質問をしたらまた列の後ろへ戻り、を繰り返し始めた。
もちろん他の錬金術師たちも同じことをしている。
関係者は「まぁ、そうなるよな」といった目で見て仕事に戻っているが、他の客たちは戸惑っていた。
「シゲルはいつもああなのか?」
「そうですね、いつもああです」
その様子を見ていたオルギウスと学園長がクミーレルの返事に静かに頷く。
「シゲル殿だけではありません。みのり屋の女性は皆さんあのように落ち着いているというか、余裕のような包容力があります」
「男は、聞くまでもないな」
笑いながらグレンに「この商品の説明をしてくれ」と、普通の従業員のように声をかけた。
「閉店の時間が近づいてきましたので、これからお一人最後の質問とさせていただきます」
残念そうな、というか絶望しているような声が上がったのでまた王都に来た時は店を出すと約束をしながら苦笑した。
閉店後、最後のお客を見送ったので夕食の支度をしている間、店の中は自由に見ていていいと声をかければ疲れているだろうに「わー!!」大騒ぎをしながらそれぞれ目当てのものがあるコーナーへ走り出した。
「五日間ありがとうね」
礼を言って子供たち全員に給料の入ったなかなか重たい袋を渡す。
連日の忙しさも考慮して少し色を付けておいたといえば、こんな大金を初めてみたと目を輝かせていた。
そして、16人の子供たちに視線を合わせ、銀貨が20枚入った袋を示して聞く。
「みんなは早ければ来年か、二年後には12才でしょ?学園には12才になったら通えるようになるんだけど」
そのためには試験に受かり、銀貨15枚を払う必要がある。
「みんなはいつも仕事をしてると思うけど、それで毎日ご飯は食べていけてる?」
「うん、たまに食べられない日はあるけど」
「それでも食べてるよ」
「銀貨五枚あれば、少しはその生活も楽になる?」
「当たり前だよ!」
「なら、もしもみんなに学園に行く気があったら、その中から銀貨15枚は学園に預けてみない?」
もちろん学園に通わないなら全額持っていってもいいし、試験に受からなかったらその時は戻ってくると説明をする。どちらの方がみんなにとって幸せ?と聞かれ、子供たちは互いの顔を見合わせた。
「これ、おれたちのって分かるようにできんの?」
「うん、この袋に、自分で入れてもらうの。そうしたらみんなが自分で入れた分だけしか取り出せないよ」
そういう魔導具だからと、試しに茂が入れたものが取れるか確認してもらい、子供たち同士でも自分で入れたものしか取り出せないと納得してもらう。
「今回の出店はね、学園の生徒も先生も一緒にしてたの。それに街の人たちが沢山来てくれてたでしょ?」
だから茂がこの袋を持ち逃げしたとしても街の住民のほとんどが子供たちの顔を見ている。
だから衛兵も騎士団もみんなの為に怒って取り返しに来てくれると説明をした。
「盗まれちゃう心配はしなくてもいいよ」
その言葉に、少し考えてからベンノがジンを見上げた。
「学園に行ったら、ジンみたいにつよくなれる?」
「訓練とかやらなきゃならないことは沢山あるけどな」
「それを一つずつ出来るようにしていったらちゃんと強くなれるよ」
強くなる以外にも、沢山のことが学べるのが学園だと微笑む茂に、ベンノ以外の表情も明るくなった。
こうしてほとんどの子が銀貨を預け、持ち帰る子には銅貨に変えて渡す。
「明日の朝、少しずつ靴の中に入れたり、服の内ポケットに入れたりしてね?」
ここで働いているのを見ていた、悪い事を考えている誰かに襲われたら全力で大声を出しながら逃げるんだよと言い聞かせる。そこはスラム街出身の子供たちなので、幼いながらにしっかりしていた。
「この作務衣はプレゼントだから着ていっていいよ」
この五日間着ていた薄茶色の作務衣を二着、背負袋に入れてあげる。
一着は少しサイズが大きいものと、ここに着てきた元々の服も一緒に入れて荷物を一度部屋に置きに行く。
その間に他の皆にも給料袋を渡す。アディたちは働いた対価に給金をもらうのは初めての経験なため、嬉しさもひとしおだろう。
「よくそんなすごい魔導具造れたな」
「学園長も協力してくださる事になったので、張り切りました」
この出店が始まる前に受け取っていた手紙を見せてきた。
笑っていると、子供達が部屋から戻ってきた。
今日は打ち上げという事で、ビアガーデン風にテーブルを出したまでは昨日と同じだったが、並べる料理はそれよりも豪華だ。
全員でテーブルを囲んでいると、馬車が入り口に停まりお忍びの格好をした王族が下りてきた。
ミッシェルにはまたお疲れ様でしたと花束を渡されたので、礼を言いながら受け取ってテーブルに飾らせてもらう。
王族が来たことで大人たちの空気が引き締まったが、今日は何をしても不問だと言って子供たちにも笑いかけて同じ席についた。
それを見て、オルギウスに昨日の「酒場」で飲めなかった酒を出してやる。
他の大人たちも酒と研究書を片手に夢中で語り合い出した。
「今回は今後の学園のあり方について考えさせられる良いテストケースとなったよ」
「なにかのヒントになったのなら良いのですが」
学園長も連日来てくれていたしと言うと、生徒たちが驚いていたので気づいていなかったのかと笑い出す。
「今度は他の学科と合わせてバザーなんかもいいですね」
平民とのやり取りって大人になってからよりも柔軟さが高い若い内に知っておくと強みになりやすいと言い、ちゃっかり打ち上げに参加していた学園長がオルギウスの隣で頷いていた。
「今回の出店は学園と多方面に良い影響を与えたと思っとるよ」
壮年特有の穏やかな笑みを浮かべ、「ですよね」と茂と望が笑い返しながら料理を取り分けて食べてくれとすすめる。
そんな望の姿にガーフィールが笑顔を深めて現津に何か耳打ちをすると、あっという間に白髪と言うか、シルバーグレーの老紳士の姿になって二人で食事をしないかと望を誘って手の甲にキスをする。
「ノゾムってやっぱアレだよな」
「ありゃ分かりやすかっただろ」
イーサンとリンクがそんな二人を見て、食前の祈りをさくっと終わらせてすぐに食べ始めるのでそこにイーラとナルが入っていき、詳しく聞きたいと見上げてくる。
「いや、詳しくも何も、ノゾムがかなりの年上好きなのなんか見てれば分かるって」
「つーか今みたいな姿になったガーフィールがたまに寮にいたし」
「幻術ってすごいわよねぇ」
カタリナも笑って料理を取り分けていると、「こんにちわ」とエルフの冒険者がやって来た。
今回は一人ではなく、人間の男が二人、獣人の子供が一人と共にやって来たのを見てオルギウスが手を上げて自分の近くの席を勧める。
「初めまして、フィンと申します」
「よろしければこちらの料理をどうぞ。君は辛いものも食べられる?」
麻婆豆腐は少し試してからにしてねと獣人の子供に笑いかけると、お礼を言って嬉しそうに祈りを捧げ始めた。
「この国は種族に対する差別が少なくて助かりますよ」
「そうですよねぇ、すごい所はすごいですから」
「まぁ、国とか関係なく差別意識がすごい奴はどこにでもいるがな」
「環境の影響もあるだろうけどな」
進がもりもり食べながら言うと、スラム街の獣人の子供達の表情が柔らかくなったように思う。
「次はいつくるの?」
「こんどはぼくもはたらいて、おかねをかせぎたい」
「もじだってかけるようになったのよ!」
「みんな頑張っていたものね」
保育室で遊ぶ合間に優たちが字を教えてくれていたらしい。
「来年になったらまたお手伝いをお願いすると思うから、その時はよろしくね」
「ジン、文字って学園で教えてもらえるのか?」
「いいや?いや、聞けば教えてもらえっけど、授業中にやったりはしないな」
「・・・本を買えばいいのか?」
「お前さっき入学金分は預けたから、銀貨五枚持ってるよな?」
「うん」
「なら三日に一回はポーターの仕事休んで教会か学園に来いよ」
そうしたら門の所で待っててやるから教えてやると約束をしているジンとベンノ。
「それは良いわね!私も仕事が休みになったらみんなの所に行こうかしら」
「ほんとう?!」
「ええ、お話の続きも気になるでしょ?」
そして字がかけるようになったら更に小さな子に教えてあげてと、優が美しく笑う。
「先生も?来てくれる?」
「ああ、会いに行くよ」
金剛の膝に乗っている幼い子供たちも嬉しそうに笑って抱きついてる。
「すっかり仲良くなったね」
「みんな素直でたくましくていい子達なんですもの!魔法もかけちゃったわ!」
「魔法?」
「ふふふ、私は魔女ですもの」
沢山幸せがあふれる人生になるわと、抱きついて来た子供の額にキスをした。
打ち上げは盛り上がり、酒の進んだ大人たちの話もどんどん熱を帯びていく。
「シゲル殿は天才的な研究者です!!」
「馬鹿と天才は紙一重といいますし、私の場合は馬鹿が突き抜けたといった感じですよ」
「茂さんは天才です」
「力こそパワーって言いながら武器造ってた時は笑ったけどな」
「徹夜ハイになってたんだよ。あれは」
「俺たち全員が天才だとは思ってるぞ。人格共に人として尊敬してる。けどなぁ、確かに馬鹿なとこもあんだよなぁ」
アランが酒の入ったグラスを片手に目を覆う。
「無茶言うだけの実力と周囲のフォローもできんだよ。ちゃんと。でもなぁ、すげぇぶっ飛んでんだよ、シゲルだけじゃねぇけど」
「そのくらいでなければ錬金術を極めるなど出来ませんぞ!」
「そうです!先生の編み出した技こそうんにゃんかんにゃん!」
「担任の先生が言ってるのが一番近いと思うよ」
師団員たちとベロベロになりながら話しているのを聞き、みのり屋たちが笑い出す。
「無茶はしても無理はしないのが信条ですよ」
こうして楽しく食事をしていれば子供たちが寝てしまったので部屋へ運び、酔い潰れた大人達を振り返る。
その中にはアランがおり、テオがポケットから毛布を出してかけてやる。
そして、その傍らで手をつなぎながら目を閉じた。
「ラッコは仲間と逸れないように、寝る時は手を繋ぐ習性があるんです」
「こんな可愛らしい事ってある?!」
「テオ、先生も部屋に運ぶからベッドで一緒に寝ようね」
「キュッ」
声をかければ目を開けて返事をしてからひなた達に担架で連れて行かれるアランの後を追う。
「ザックだっていつも側で休んでいますよ」
「シャーリーもです。勝手に部屋に入ろうとする人がいたら起こしてくれます」
というか朝になると起こしてくれるとゴーレムを造った二人がいい、ガウェインは自分で起きるが、その時にはもうオリビアも起きていると頭を撫でた。
「ビオラも起こしてくれるのよ。とっても助かっているわ」
今ホムンクルスを造っている皆も、錬金術師では無い者も「いーなー」とその話を聞いていた。
この日、もう遅いからとオルギウス達も泊まっていく事になり、それぞれに部屋へ案内してひなた達にも、何かあればすぐに知らせてくれと声をかけて部屋へ入っていく。
次の日、全員で朝食を食べてから子供達を転弧達が送り、馬車に乗り込む王族達にも手を振る。
「フィンさんたちもこれから戻るんですか?」
「ええ、そのつもりです」
「では、こちらをどうぞ。お昼にでも召し上がって下さい」
四人には多すぎるだろうお結びと、筒に入ったお茶をお土産にすればとても嬉しそうに笑って歩き出す。
「私達も戻ろうか」
全員がテントから出ているのを確認してテントの入り口にくっついていた袋を開く。
すると一瞬でテントは消え、その場はただの空き地へと戻った。
「処理は後でするとして、忘れ物はない?」
空き地に何も落ちていない事を確認して学園の門を潜る。
「五日間お疲れ様でした。今日は一日ゆっくり休んでください」
私達もさすがに疲れたねと笑い、皆で錬金術師科の塔へと入っていく。
明後日から二日間だけ校庭にテントを出して店を開く事になっているので、錬金術師たちが自分の買い物を出来るのはその後だ。
もちろん学園関係者なら誰でも来店できるので、次の日にはいつ開店するのかとソワソワしている生徒たちがテントの周りに集まっていた。
「みんな、疲れてるだろうけど後二日だけ頑張ってね」
「七日分を合わせたとしても十分な報酬はもらってるしな」
「こっちこそお礼を言わないと」
「袋を開けてビックリしたぜ」
金貨が入っているなんてといわれ、笑いながら「そりゃね」と頷く。
「あの子達も物凄く頑張ってくれてたし、その分は払えたと思うけど、みんなは商品を覚えて実演までしながら説明してくれたんだから。同じお給料じゃ割に合わないでしょ?」
知識は宝だよと言われ、全員が嬉しそうな顔をする。
今回は二日間という事で、一日目に風呂屋と診察所、冒険者の部屋を、二日目に軽食と錬金術師の部屋という内容になっている。
生徒達には教師からその説明がされているので、茂たちは安心して扉を開いた。
「どうぞご覧ください」
茂はカウンターに座って風呂から出てきた教師達に冷たい水、ミルク、ミルクコーヒー、フルーツミルクなどを渡していく。生き返ったと言いベンチに座って話している姿は、まるで日本そのものだ。
次の日は、酒は売れないと断ると実家から頼まれていたらしく落ち込んでいる生徒もいた。
今日も沢山の生徒が来てくれたが、この学園は貴族がほとんど。お小遣いであったとしても、額が違う。
「テントのベル型を三つ!倉庫型を四つくれ!!」
「こっちはロッジ型を六つだ!」
「はい、こちらが品物です。外で錬金術師科の誰かに声をかけて動作確認をしてくださいね」
お目当てはテントのようだが、折りたたみベッドも本も圧倒的人気を誇っている。
学園長も野営セットを学園用としてまとめて購入してくれたので、おまけとして保存食を全生徒分付けるとテンションが上がっていた。
スザンヌ達もやってきて包丁をそれぞれ買っていったり、調理器具を見てレシピ本を開きながらわいわいと騒いでいる。
「いつか本屋さんもやってみたいね」
「そうなったら私の部屋から色々持ってくるねぇ〜」
「来年までにいくら貯められるだろうか」
「家にも手紙を書かないとな」
「春休みにダンジョンに行けないかな?」
中級ダンジョンに潜ればそれなりに稼げるよねと話しながら接客をこなしているアディ達。
夕方になり、店は閉店となったので今度は錬金術師たちの番となった。
「割引するって本当!?」
「もちろんだよ。何か気にいる物があった?」
ファビオラ達も近衛騎士達と共に研究書やら器具やらを富豪買いしていく。
ギルもスカーレットと話しながらホムンクルスについてまとめられた研究書を読んだり薬草図鑑、動物図鑑を端から端までまとめ買いしていた。
そんな姿を見ていると、ディーノがエリクサーを一本持ってカウンターへやって来たと思えば、あり金全てを出して足りない分は一生をかけて払うから買わせてくれと頭を下げてきた。
「誰か不治の病を患ってたの?」
「病気、じゃ、ないです」
「それなら四肢の欠損?」
「・・・それも、違います」
口籠りながらうつむくので、優しくその頭を撫でる。
「欲しいならお金はいつでもいいよ。ただ、今の感じだともしかしたらエリクサーじゃなくても良いかもしれないから、もうちょっとだけ詳しく教えてくれない?」
研究材料として欲しいならそれでもいいしと言われ、コクリと頷く。
カウンターは榊に任せ、その後ろで向かい合うと母親のためだと話し出した。
「俺が、もっと小さい頃、街で貴族にぶつかって・・・」
ステッキで殴られた所を母親がかばうと捕まり、鞭打ちにされたのだという。
「っ、」
近くにいたアディが口を抑えて固まった。
「今も、その時の跡が背中とか足に、残ってるんだ。それを治したくて、学園に入った。・・・入るまで、貴族が大嫌いだった」
早く母親を治す薬を作りたい気持ちから焦り、入学当初は茂にも周囲にも当たり散らしてしまったと頭を下げる。
「ウィリアムに、貴族にも色々いるって教えてもらったし、ギルさんと学園長があいつみたいな貴族を減らすように頑張ってるのも知れた」
「そっか、一人で戦ってたんだね」
よしよしと頭を撫でられ、悲鳴を上げていた心が癒やされ涙が溢れていく。
「それならエリクサーじゃなくても大丈夫そうだよ。金貨三枚で買える薬があるから、そっちを持っていってあげて?」
「え、そんなに安くっ、そんな薬があるんですか!?」
「うん。その代わり塗り薬だから不治の病は治せないんだよね」
だけど金貨三枚分の効力はしっかりあるもので、もしも肉がえぐれていたとしてもきちんと治ると言われ、呆然としているディーノの肩を叩きながらウィリアムが喜びだす。
そんな二人に笑顔で薬を渡した。
「割引で少し安くしておくね。後、もしも嫌じゃなかったら薬を使った感想をレポートに書いてくれないかな?」
薬としては完成しているのだが、まだ実際に売った事が少ないのだという。
「スラムの子供たちの古傷とかもキレイに治ってたし、問題ないんだけど欠損が治るわけじゃないから出番が難しいんだよね」
だから感想をくれといえば、そんなことでいいなら構わないと頷く。
「ありがとう、それなら金貨一枚で」
「ええ!?安くなりすぎじゃっ」
「消費者の声って製作者からしたらお金で買えないくらい価値があるよ?」
「そ、」
それはそうだけどと口の中でモゴモゴと何か言おうとしている姿に笑い、持ってきていた給料袋から金貨を一枚抜いて見せる。
「はい、まいどあり。お母さんも喜んでくれると良いね」
この日、クアンドロが学園長から外泊届をもらってきてくれたのでディーノは直ぐに走り出した。
その時バチバチと電気のようなものを放出して、走る速度は凄まじいスピードだった。
「良い帰省になればいいねぇ」
茂は笑っているが、アディたちの顔色は悪いままだ。
「まさか、ただぶつかっただけで、それも、相手は子供だぞ・・・」
ショックを受けているアディに、ガウェインとローランドも声をかけられずにいる。
そしてファビオラが口を開く。
「アディ、ギルも。どんなにいい国であろうと、そういった貴族は一定数いるものよ」
「そうですね。特に先代や、先々代が優秀だと、その時に築いた信用、信頼、権力が次世代では当たり前となり、そのように横暴な態度に出る者が多いように思います」
クミーレルも、自分も貴族の端くれだが、貴族同士でも多かれ少なかれあることだと少しだけ疲れたような顔で笑った。その言葉に、他の大人たちも同意見だと目を伏せる。
「そういう貴族が出てくるくらい平和ってことでもあるけどね?」
これが建国したてだったり、戦争真っ最中だったりする時に内部分裂に繋がるような事をすれば、周囲も放っておかないだろうと茂が言う。
「それはそうだろうが・・・」
言い返してくるアディに、これも一つの学びだよと笑いかけた。
「よく言うでしょ、何を言うかは知性、何を言わないかは品性、何をしても何か言われるのが人生って」
「そんな名言初めて聞いたが、まぁ、・・・そうなのかもな」
「だからこそ、自分で選んで好きに生きたら良いんだよ」
その貴族が憎まれてるのも好きに生きた結果なら、子供を守って消えない跡が残ったのもディーノの母親の勝手。
「それで好きに生きてた私達とディーノくんが知り合ったのは何かの縁」
「人生は小説よりも奇なりって言うしねぇ〜」
「・・・お前たちが同じ年だと信じるのが大変だ」
「僕にとっては年下だよ?」
その言葉にみんなが笑い、食堂へと移動した。
「なぁ、王族の家庭教師にならないか?」
「今でも全員学園へ通っているようなものなんだから、それで十分よ」
ファビオラが笑いながら優しくアディを止めて、美しい所作でパンを一口大に千切ると口に入れた。
夕食後、教師だけが集められ一人二本ずつの清酒が渡される。
「子供達には内緒ですよ」
四年生にもなれば家で酒を飲んでいる者もいるかもしれないからと言われ、皆瓢箪を持って大喜びしていた。
「このお酒はお米から作っているんですが、ウィスキーやワインの方が飲み慣れている皆さんのお口に合いますかね?」
「これも物凄く美味いぞ」
「来年は酒屋とかやってみましょうか。買いたがっていたお客さんも多かったですし」
来年は学科別でも出店して街の人たちと交流する事になっているので、後日教師たちから生徒へ連絡が行く事になっている。
今までにない仕事が増える事になるので、茂から心ばかりのお礼でもあった。
「これからもよろしくお願いします」