7.学園生活
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「じゃぁ、今日も一日頑張りましょう!」
「おー!!」
本日のメニュー「冒険者の部屋」
テント内は、どこかの冒険者が使っている部屋のようなディスプレイになっていた。
ランクに合わせたようにいくつかの机が置かれ、そこに各ランクで必要とされる道具が揃えられている。
「・・・俺ってFランクだよな?」
「・・・この前登録したばかりだしね?」
「でも中級ダンジョンも行くよ?」
ジン達が持っているもの、必要としてるものが全部上級ランク。
つまり冒険者として一人前として扱われるC−ランク以上の物ばかりだ。
おまけにクミーレル達はC+ランク辺りから必要な物が揃い始めていく。
「みんなは学園を通して換金したりするからね。卒業してからちゃんとランクを更新していくと実力も分かっていくよ」
「もしかして実は上級冒険者に入れたりする!?」
「実力は今でも十分あると思いますよ」
「パーティーを組むか、ソロで活動するか。ランクはそれによっても変わるだろ」
それもそうかとみんなも店内を見回していく。
「閉店したらじっくり見ていいよ」
「やったー!!」
「魔物図鑑に解体方法も書いてあるよ!」
「スクロールもあるぞ!」
そんな話しをしていると、お客が入ってきた。
「おおー!今日は冒険者の日なのか!」
昨日も来てくれた冒険者たちが賑やかにやってきて、カウンターに座っている茂へ嬉しそうに話しかけて来た。
「なぁ、これから中級ダンジョンを目指すつもりなんだがオススメってあるか?」
「もちろんですよ。皆さんの個人、パーティーのランクを教えていただけますか?」
少し話をし、ひなた達がついたリンクと一年生たちにそれぞれを別のエリアへ案内し始める。
「同じパーティーなのに別々でいいの?」
「役割とか役職とかで必要なものって変わってくるからね」
DランクであってもタンクはCランクなど、一つ上のランクの武器や防具を持ったほうが良いこともある。
「後衛の人ならマナポーションとかの方が重要なことってあるでしょ?」
「確かに・・・」
話を聞いていたみんなが納得しながらあれこれ質問していると、お忍びの格好をした騎士達がやってきた。
「いらっしゃいませ」
声をかければ満面の笑みで嬉しそうにやってきたミッシェル。
みのり屋といる時は笑顔になる団長にちょっと困惑している部下達。
現津は茂の横にピッタリとくっついて冷たい微笑みを浮かべていた。
「どのようなものをお求めですか?」
周囲の反応は気にせず声をかければ、野営に必要な道具、ナイフや剣なども見て気に入れば購入したいという。
「なんか一般の騎士たちまで懐いてるね」
「あんなに短い訓練で身体強化が使えるようになりましたしね」
「昨日も来てたし、お風呂とかも気に入ったんじゃない?」
「来てたの!?」
カタリナの言葉に他の皆が驚いていた。
「魔法士団も来ていたわよ」
「・・・全然気づいてなかった」
「これでも人の顔を覚えるのは得意なの」
今の外見は14才くらいだが、さすが貴族社会の頂点を生き抜いた人は経験が違うとビビ(ファビオラ)を尊敬すると言うと笑い出す。
「夕方のちょっと落ち着いた時間に来てくれたけど、それでも賑わってたしね」
豊がフォローのような事を言って次のお客を案内し始めた。
茂は買い物をしてくれた客に一食分の保存食をおまけで渡していく。
「明日は”診察所”を開く予定なんです。体調が悪い人や怪我をした人、そうじゃなくても興味を持ってくださった方に声をかけていただけませんか?」
茂のお願いに、買い物も大満足だったこととおまけが手に入った喜びで自分たちも来るし、知り合いにも声をかけてくれると約束をして店を出ていく。
「上手いな」
「あたしたちも見習わなきゃね」
三年生達は卒業後自分たちで店を開く予定でいるので商売の仕方を吸収していく。
そして、すぐに帰った客が猛スピードで戻ってきて保存食を買わせてくれと騒ぎ出す。
「はい、ありがとうございます。何種類かありますけど、どれがお好みですか?」
「さっきのってどれだ!?」
「これよこれ!!」
「待って!こっちにオークって書いてない!?」
「これも食えんのか!?」
「はい、これはこうやって、お湯で戻して食べるものです」
シワシワの何か分からないものを大きなカップに入れ、蓋をして戻している間に人数分のフォークを用意する。
「もう出来ていますから、よかったら試食してみてください」
リーダーだろう一人が喉を鳴らしてから一口すすり、ぱぁあああ〜!と表情が明るくなっていくのを見て、仲間である他のメンバーが早く変われと奪い合う。
その騒ぎを、店内に入ってきている客たちも注目していた。
「な、なんだこりゃ!!」
「こんなっ、何?!神様か何かの食べ物なの!?」
「まさか、私はただの錬金術師ですよ」
「錬金術師!?みのり屋は賢者だろ!?」
「噂ではそうなってるみたいですけどね?私には魔法の才能がありませんから、残念です」
周囲で聞いていた客たちが、お前がみのり屋なのかと大騒ぎとなった。
「いやいや!おかしいだろ!!」
「あ、あたし達っ、一回みのり屋に会ったことあんのよ!?」
聖国にいた頃、スラム街でと言うパーティーを見つめ、あの時の子供たちかと茂以外のメンバーも驚き、こんな所で会えるなんてと笑いながら現津に頼んで大人の姿にしてもらう。
「獣人は成長が早いって思ってたけど、もう一人前の冒険者をしてたなんて」
成人前は若いことが良いことばかりじゃないから、こっち(大人)の姿でこっそり商売をしていたから子供だとバレていなかったのだと隻眼の顔で優しく微笑む。
「元気そうで安心したよ」
カウンターから出てきて杖を義足に変えて二本足で立って見せれば、六人が同時に泣き出した。
六人に抱きつかれながら笑って落ち着かせていると、リーダーの男が金に余裕がある分は全種類の保存食を買うと言うので、まだ数日出店するからそれを見てからどうお金を使うか決めてと笑った。
それでも保存食は欲しいと言うので、人数分の料金を受け取ってから保存食と、オマケで直接火にかけられる食器を袋に入れて渡す。
「私達も後二年もしたら行商人に戻るから、またどこかで会えるかもね」
幻術を解いて13歳の姿に戻ってから六人を見上げる。
「明日もいるんだよな!?」
「いるよ。あと三日はここでお店開いてるから、また来てね」
中級ダンジョンに行くのはみのり屋が店を閉めてからでも良いと、近くの森で稼いでくると嬉しそうに出ていった。
「良かったですね」
「うん」
六人を見送った後、騎士達にもおまけで保存食を渡したらどのくらい在庫があるのかと聞かれたので、とりあえず倉庫2つ分はすぐに渡すことが出来るというと「また来ます」と言って店を後にした。
「大口注文が入りそうだな」
「んー、国庫が心配」
「そこは心配するな」
梅智賀と話しているとアディが肩をすくめてから仕事に戻る。
他の客たちもカウンターへやって来て保存食、欲しいものを叫ぶように伝えてきたので、ひなたとつむぎ、みんなに指示を出しながら新しい客も入れるように誘導していく。
そして、10人ずつ昼休憩に入りながらどうにか店を回していると、ヘレン達がやって来て倉庫一つ分ごっそりと保存食を買っていった。
「こちらがリストです。後、食べ方の説明書と、おまけです」
今日の仕事終わりにでも皆さんでどうぞとチーズをカリカリに焼いたツマミを差し出し、今年献上した倉庫型テントの中へ運んでいく。
「ありがとうございます。貴女方に何かあれば、我々が全力でお力になります」
「ありがとうございます」
魔法のスクロールも少しならあるが見ていくかと声をかけると、他の魔法士団員たちも嬉しそうに奥の棚へとついて行った。
それから更に時間が経ち、夕方が近くなると仕事から戻ってきた冒険者達が流れ込んできた。
それも皆興奮したように買ったスクロール、ナイフが最高だったと口々に言い、消耗した分を買い足したいと棚へ走っていく。
「もしもポーションの瓶があるなら3割引にしますよ」
もちろんロゴ入りの瓶だけだがと言うと「やった!」と何人もが初級ポーションの瓶を出してくる。
「はぁ、ずっとここに店出しててくれよ」
「それは難しいねぇ、私達行商人だから」
だが教え子達はそのうちこの街で商売をするようになるだろうからそっちに期待していてと言う。
「今いる三年生が、再来年には卒業するんだよ」
「そいつらもこんなに良いポーション作れんのか?」
「ポーションは基本だからねぇ。一年生でも入学してすぐに練習を始めたよ」
「マジか!助かるぜ!!」
「あの味は何回飲んでも慣れないもんねぇ」
明日も楽しみにしていると機嫌よく帰っていく皆を見送る。
お客が全員いなくなったのを確認し、看板をしまってテントの中を宿屋に変えて夕食を並べ始めれば、三年生達が茂に礼を言いに来た。
しかし、いたずらっ子のように笑い返す。
「今日来てくれた人たちの中で相当ハードル上がってるだろうからね、そこでお客さんとして常連になってくれるかはみんな次第だよ」
それは三年生だけではない。全員だと言われ、頭を抱えながらもやる気に満ちていく姿に笑ってしまう。
「ここにいる全員、そんじょそこらの錬金術師には負けないから、心配はしてないけどね」
特に、他国を知っている冒険者や商人は必ず気づいてくれる。
しかし、こちらがそれを知らなければ良いように搾取されるだけになってしまう。
「きちんと自分と周りを見てあげてね」
そうすれば自分の腕に自信が持てる。そしてふっかけてきた者にも、貶して買い叩こうとする者にも正面からノーと言えるようになる。
これはとても大切な事だとクリームパスタを食べ始めた。
食事中も今日売っていた商品について盛り上がり、明日の打ち合わせも早々に商品を見に言った学生たちを見送ってから子供たちを風呂に入れて寝かしつける。
そして次の日、朝食を食べ終えて開店準備をしているとミッシェルとオルギウス達が王宮医師団を連れてやって来た。
「いらっしゃいませ。今日は一番乗りですね」
まだ準備が終わっていないので申し訳ないと謝ってから、診療所の説明を始める。
今日は広い空間をカーテンで区切っているだけだ。
まずは生徒達が数人で診察。最終的に茂と望が診るという流れになっている。
二人では人数が足りないので、そこは圧紘がコピーをして対応しているためそこまで待たせることはないと言う。
「では健康診断をさせていただきます」
望が診察をしている間、ミッシェルが茂に書状を差し出して現津が受け取って中を見てから茂へと手渡した。
「この者たちを助手として、一日働かせてくれ」
「今日は生徒たちの経験を積む場ですから、助手に徹していただくことになりますがよろしいでしょうか」
「それで良い。こちらもそのつもりで来ている」
「かしこまりました」
七人の医者が頭を下げた。
「私も皆さんと現場で情報交換が出来たらとても励みになります」
望も挨拶をし、一同が一礼をした。訓練後も神官たちと共に医療の授業をしていたので、仲は良好なようだ。
オルギウスの診断書を書き上げて自身の収納バッグから望の個紋が描かれた判を押す。そしてその診断書を茂に渡した。
「血圧共に問題はなさそうですね。ですが眼精疲労が目立ちます。書類仕事が多いのでしょうか」
「そうだな、毎日机に書類の束が積まれていくのだ」
「卒業するのが嫌になることを言わないでくださいよ」
カーテンで区切られているそこにいるのは術師団と医師団、王族のみ。
いきなり軽口を叩いた子供に驚いた医師団に、隣にいた同じ年頃の女の子が笑い出した。
そして、頭上に向かって声をかけると幼い子供のようなゴーレムが姿を表す。
「こっ!?」
「私の名前はビビっていうの、よろしくね」
「僕はグレン」
「私はサブリナです」
「羨ましすぎる学園生活を送っているようだな」
「貴方も名前を考えておいたらどうかしら。卒業旅行で上級ダンジョンに行こうって話していたのよ」
「なんと!」
「卒業旅行に父兄参加っ」
「そこは諦めてよ」
その卒業旅行を最後にみのり屋も国から出るんだから思い出作りだよとグレンがアディに笑っていた。
「この診断書は、後で主治医に渡してください」
王族たちのやり取りに笑って診断書にもう一枚、満が書いたレシピを重ねる。
「食事にキャトロンなどを入れるように料理長へもお伝え下さい。少しは楽になると思いますよ」
そう言って箱から目薬を一つ出して使い方を説明した。オルギウスの許可を取り、茂から薬を受け取った望が一滴眼に差す。
「、随分即効性のある薬なのだな」
見える世界が変わったと周囲をキョロキョロと見回す。
「それでも、今までと同じ生活をしていてはすぐに戻ってしまいますから、寝る前に温かいタオルを目に当てて力を抜くのも良いですよ」
忙しいのは分かるが、自分もしっかりと労わってくださいと笑いかけた。
みのり屋紋の入った封筒に診断書とレシピ、薬の成分、説明書を入れて手渡す。
「これから騎士や魔法士達もやって来ると思うが、よろしく頼む」
「はい、かしこまりました」
その後、ミッシェルと三人の隊長たちの診察もし、眼精疲労と関節痛の炎症を治したのだが、皆治ってみるとその違いに感動していた。
そして、フェアグリンが今日の診察所を手伝う神官を連れてやって来た。
どころか保育室を手伝う者たちまで連れて来てくれた。
皆でオルギウス達が帰っていくのを入口まで見送り、今日も一日頑張ろうと声をかけて「診察所」と書かれた看板をかけていると、昨日も来た聖国出身の冒険者達がやって来た。
「一人銅貨三枚!?」
「ありえねぇだろ!?」
「今日は学生たちが診てから私たちが診るっていう二度手間に付き合ってもらう事になるからね。どんな治療も銅貨三枚だよ」
「やったぜ!」
「ねぇ!副ギルマス連れて来ようよ!」
「ああ、足が痛ぇってずっと言ってるからな」
ワイワイと賑やかに戻っていき、他の客も来始めた頃に一人の壮年に差し掛かった男性を連れてきた。
「ほら!安いだろ!?」
「俺らが払っとくから黙って診てもらえって!」
「誰が若造に奢ってもらうか!」
厳つい外見をしているが人望はあると分かるやり取りをしながら、カウンターに座る榊の受付を済ませて一つのカーテンの奥へと入って行く。
生徒五人、助手として医師一人(ひなた、つむぎのどちらか一人がついている)に囲まれながら診察を受けて茂の元へやって来た。
「お付き合いいただいてありがとうございます」
礼を言ってから、脛から下が無くなった足を見た。
「片足仲間ですね」
笑いかけて椅子に座ってもらい、みんなが書いた診断書に眼を落す。
「こちらの足が痛い、という事ですが、一度立ってみて頂いてよろしいですか?」
義足としての長さは申し分なく、体のバランスも悪くない。
「元冒険者ですか?足を失ってからも鍛えるのは止めていないんですね。体の軸も変わったでしょうに。日常生活は問題ない程戻したなんて、相当な努力家ですね」
その言葉で口を閉じて噛み殺すようにくぐもった声をもらす。
「失ったものは戻りませんが、これから必要な事はお手伝いできると思いますよ」
生徒たちの手伝いを許してもらえるだろうかと言って、これからどのような処置をするか説明を細かくしていく。
「つまり、この骨が塞がった肉を抉ってたって事か」
「これは痛かっただろうね。義足も付けてるし、歩くたびに激痛が走っていたんじゃないですか?」
「ああ、だから外に出る時以外は外してた」
「そうだったんですね。ですが、ここを削ったら肉に食い込むこともありませんし、楽になると思いますよ」
その言葉に、やってくれと頷いたのでベッドへ寝てもらい足だけを出すようにして本人からは見えない様にカーテンをかける。
「まずは麻酔を使って痛みを感じない様にして、本人にも見えないようにしてね」
感覚がある無しに関わらず、自分の体を触られるというのは不快なものだからと説明をし、容器を出した。小さなナイフ、メスと呼ばれる器具で切り開いていく。
「見える?ここが刺さってた部分。この骨がずっとナイフみたいに抉ってたのが分かるでしょ?」
「、よくここまで騒ぎながら来られたな、この人」
「痛み以外にも、何がどうなってるのか、何を考えてるかは本人にしか分からないからね」
だからこそ、どういう苦しみを持っているのかをしっかりと分かってあげたいと思う事は忘れないでと骨を削り、丸く整えて抉れた肉にポーションをかけながら洗っていく。
「状態は酷く見えるけど、直接かけてあげられるなら初級ポーションで大丈夫だよ」
そう言いながら肉を縫い合わせた。
「なぜわざわざ縫うのですか?」
「こうする事で、使うポーションの等級を下げられるんです」
ここが町ではなく森、ダンジョンだったなら命に関わる違いがあると言い、ポーションを半分かけた。
もちろん、医者として治療をした時の料金も下げられると説明した後、縫合した糸を抜いてしっかりと塞ぐ。
「糸であっても体には負担になる事もありますから、しっかりと取り除いてあげてください」
そうできない場合もあるけれどと言いながら器具をひなた達に任て、血で濡れた手をスライムにキレイにしてもらってからカーテンを開けた。
「お待たせしました。しっかりと塞ぎましたが、違和感がないか確認していただけますか?」
ベッドの上で起き上がり、治療前と何も変わっていない様に見える足を撫で、もっと強く触ってみるが何処も痛くはなかった。
「こんな、こんなにすぐっ」
厳つい顔で泣きそうな表情で礼を言ってくる。
「ただ、義足は少し合わなくなってしまいましたから、あちらでつむぎに調整してもらってください」
「そこまでしてくれるのか!?」
「応急処置ですけどね」
後日きちんと職人の所で見てもらってくれと言い、生徒たちの勉強に付き合ってくれた事にもう一度しっかりと礼を言って次の患者を呼んだ。
茂と望の側で助手をするのは交代でまわっていたのだが、医師団の七人は一人ずつずっとくっついていた。
「休憩中はしっかり休めよ」
「まだ半日残ってんだぞ」
途中でもたなくなるぞと、クミーレル達よりも年上の医師達を止めている一年生達を見ていれば、血だらけの数名が運び込まれてきた。
「頼む!こいつらを先に診てやってくれ!」
「どうしたんですか!?」
「向こうの通りで馬車が横転したんだ!」
まだ他にも怪我人がいると言うのを聞き、榊の指示が飛ぶ。
「今患者さんを診てない一年生は手伝いに行ってあげて!圧紘くんもお願いしていい?」
「もちろんいいよ」
「俺先に行ってくる!」
「私もお手伝いします!!」
転弧とモンステラ、フェアグリンがテントを出ていく。
コピーした圧紘もすぐにその後を追いながら一年生を誘導するのを見て、クアンドロも引率として走っていく。
「フェアグリン様!お一人では行かないでください!」
「ローランド!そっちは任せたぞ!」
「阿保か!!お前はここで俺らと治療に専念しろ!」
フェアグリンを追うハリーとローガンと一緒に飛び出そうとするアディをワットが力ずくで止め、ガウェインに眼を離すなよと言いながら呆然としている子供たちにカーテンの向こうに来るなと言ってから奥へと入って行く。
「あっぶねぇ、お前は前線に出ちゃダメだろ」
「ほら!ポーションと器具揃えるぞ!」
「すまん、体が勝手に動いた・・・」
「それで強化系じゃねぇんだから、性格って難しいよな」
レイモンドとイーサンもアディを引きずって消えていく。
「ローランド!こっちに氷ちょうだい!塊で出してくれたら私が砕くわ!」
「カタリナさんかっこよ!」
「洗浄液も必要よね!?」
「何人くらい来るんだろっ、薬草増やしておく!?」
「グレンとビビはのこっ、やる気かよ!強ぇな!?」
「サブリナ!血が苦手なら包帯の方をっ」
「そのくらい平気だか大丈夫!」
「頼もしいな?!」
騒ぎながら生徒たちがカーテンの奥で治療の準備を進めていく中、望とノアが運ばれてきた患者の容態を診ていく。
「こっち方がっ、重症!」
「ノアさん!そちらの方は魔力で麻痺させてあげてください!意識があるようですから痛みで負担が大きくなっています!」
医師団はさすがに落ち着いており、ナタリーと共に残っている一年生たちにも指示を出していた。
「急患を診終わりましたら皆様の診察を再開いたしますので、少々お待ちください」
ガーフィールが一礼し、テント内で順番待ちをしていた患者たちにお茶の準備を始めた。
侍女たちも我に返り、不安を取り除くように、安心させるように声をかけながら笑顔でお茶を振舞いだす。怯えたように固まっていた子供たちには榊と豊、満が話しかけ、落ち着くまで休んでいいよと座らせた。
血だらけの患者を見てしまったのもあり、文句をいう者はいなかった。
むしろ無事を祈っている者までいた。
「、内臓が出てる」
うっと口を抑えている一年生たちを二、三年生たちが支え、望たちがどんどんと処置していく。
「これ、腸?」
「そうです。ここが破裂してしまっています。上から重い物が落ちてきて押し潰されたんでしょう」
質問の多くなるノアに答えながら一人ずつ確実に処置していく。最後に造血剤を飲ませれば、顔色が良くなり安心した。
「この方はもう大丈夫でしょう、後は至に任せて構いません」
折り畳みベッドの上に処置の終わった患者を寝かせると、後ろの一角で待っている至の所へと連れて行った。
至が歌い出せば光の粒が表れ、患者の体の中へと入って行く。
これでもう大丈夫だと望たちも次々運ばれてくる急患たちの対処に追われた。
「こっちの人は、肝臓が捩じれてる。中で内臓の位置が変わって負担が来てるんだね」
「何故、そのような事が?」
「これを見て下さい」
服をはだけさせれば肋骨の上に何かあるのか変な盛り上がり方をしていて一目で異様だと分かった。
「これはっ」
「内臓ですね。この方はもう中級ポーションで治しましょう。次から来る方がどのくらいか分かりませんし、ここでこちらの体力が無くなっては元も子もありません」
そう言って中級ポーションを飲ませ、診断書を書き上げた現津がベッドごと至のいる一角へ移動させる。
すると神官たちと患者の家族だという者たちが一緒に駆け込んできたので、もう大丈夫だと満たちが説明をしていれば神官たちも至と共に回復の手伝いをしてくれた。
事故現場にいっていた皆と騎士(お忍びの恰好)が怪我人を運んできてくれる。
「これで全員だ。他の怪我人は駆けつけたフェアグリン様が治してくださいました」
だからここに連れてこなかった町民たちも無事だと知り、皆は胸を撫でおろしてストレッチャーで患者を奥へとつれて行く。
「手伝ってくださってありがとうございました」
カウンターで名簿を作っていた榊が騎士達に礼を言い、冷たいお茶を出す。
それからあまり長くかからず全員の処置が終わり、生徒たちも全員でその場に崩れ落ちた。
「みんなお疲れ様。でもまだ終わってないよ」
一年生たちも戻って来たから交代で休憩に入り、子供たちは受付の手伝い。上級生も診察の再開、下級生たちに良い所を見せないとねと手を叩きながら囃し立て、近くにあった水差しに魔力を注いだ。
「一息入れたら、気合入れてね」
桃の味がする甘い水が配られ、みんなはそれをいっきに飲み干し、何人かは自分で頬を叩いて「お待たせしました」と待たせていた客の診察を始めた。
それからしばらくして、茂の下へ騎士たちが回ってきた。
もうそこまで来たのかと笑いかけ、先ほどは手助けしていただきありがとうございましたと礼を言う。
「皆さんのおかげで、助かった命も救われた家庭も沢山あります」
そう言って全員の健康診断と礼を言っていれば一日が終わり、看板を下げたテント内では生徒だけでなく、医師団、術師団、神官たちも椅子に深く座り込んでぐったりしていた。
スラムの子供たちも、子供達同士で背中を合わせて座り込んで疲れ切っている。
「お疲れさま。今日は早めに夕飯を食べてゆっくり休んでね」
保育室から出てきた優が皆に声をかけ、ひなた達がカーテンを片付けて大きなテーブルを出すとすぐに料理を並べ始める。満が作ってくれていたシャーベットをデザートに出すと、侍女たちの顔色も良くなった。
医師団が食後にゆっくりしていると迎えの馬車が来たのでアディ達とともに見送りに行くと、護衛としてミッシェルが来ていた。
「今日は部下の皆様のおかげで助かりました。改めてお礼を言わせてください」
「いいえ、むしろこちらから礼を言わせていただきたい程です」
どういう事だろうかと見あげれば、戻ってきたら士気が上がっていたと言われ、患者の家族にも礼を言われていたからなと思い出す。
「明日は酒場でしたね」
「はい、普段は満ちゃんが作ってくれますが、私たちも料理は趣味ですから」
「もしご迷惑でなければ、数名を交代で忍ばせていただかせてよろしいでしょうか」
「こちらからすると有難い申し出ですが、よろしいのですか?」
「既に誰が来るか手合わせで決め始めていますよ」
そんなにかと笑い、護衛を依頼すると嬉しそうに笑顔で一礼した。
その姿に医師団が物凄く驚いた表情でミッシェルを見ているが、その驚いた表情も見慣れてきたと笑いながら見送った。
「慕われすぎだろ。分からなくもないが」
「彼のあんな表情、シゲルたちが来てから初めて見たわ」
子供の頃でさえ勝気な笑顔くらいしか見た事がなかったとビビが笑う。
神官たちも教会へ戻ると言うので、ガーフィールと利刃が護衛として送って行くことになった。
「今日は忙しい中本当にありがとうございました」
豆腐、疑似肉、醤油、植物油をたっぷり土産に持たせて見送った。