7.学園生活
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出店する前日、オルギウス達が商人ギルドを通して用意してくれたのは学園から少し離れている市民街の広場だった。
貴族街とは全く隣接しておらず、むしろ貧民街の方が近くさえあるその立地に丁寧な感謝状とポーション、民芸品を贈る。
広場にテントを張り、開店の準備をしているとジンが転弧、圧紘と共にスラム街の子供達を連れてきてくれた。茂が言っていた働いて欲しい10才前後の子供が16人、それよりも幼い子供たちが30人だ。
そんな子供たちの前で自己紹介をし、目線を合わせるためにしゃがむ。
「これから五日間ここでお店を開くんだけど、そのお手伝いをお願いしたいの」
「この子たちも、お腹いっぱい食べていいってほんと?」
「本当だよ。もう少ししたらみんなでお昼ご飯を食べるから、みんなも一緒に食べようね」
今日は全員で接客の練習をするから参加してくれと言われ、16人全員が頷いてくれたのでまずはお風呂に入ろうと子供達をテントへ入れた。
清潔さを保つのも接客には重要な事だと、石鹸とたっぷりのシャンプーを使って子供達を洗い、バスタオルで拭いてから全身に茂が造った薬と薬草から作ったボディクリームを塗って傷だらけの肌を治していく。
そして薄茶色の作務衣を着てもらった。
「みんなの仕事はカウンターの近くでお客さんをこっちですって案内してもらう役だから、そんなに緊張しなくてもいいよ」
でも言葉遣いとお辞儀は出来るようになってねと練習を始める。
「こっちの服は五日後にちゃんと返すから、安心してね」
元々着ていた服を取り込んでキレイにしているスライムに、子供達の目が輝いていた。
そんな子達に笑い、侍女達にお辞儀を見てもらっていく。
今回は働かない子供達も参加して、本人たちは真剣な顔でお辞儀の練習をしていた。
「お疲れ様、じゃあお昼ご飯にしようか」
満たちがテーブルに食事を並べていくと、驚きながら本当に自分たちも食べていいのかと何度も確認をしてくる。食べてもいいんだよと頷いて席に座るように促すと、「同じテーブルを囲んでいいの!?」と更に驚いていた。
「もしもこれから貴族の人たちとお仕事をすることがあったら、別々がいいかもね。私達は貴族じゃなくて平民の商人だから大丈夫だよ」
そして、食前の祈りをしている皆が終わるのを待ってから、茂達は両手を合わせて「いただきます」と言って食事を始める。
その中にジンがいたので、10歳の男の子がなぜジンは祈りではないのかと質問をした。
「俺は学園に入るまで食前の祈りとかしたことなかったし、教会の神様もよく分かんねぇからな」
それなら食事になった命と作ってくれた相手に感謝するわという事でこっちになっただけだと返し、籠の中からサンドイッチを皿に取り分けてから食べ始める。
「そっか」
「その子、ジンの知り合い?」
「学園に入る前に一年だけ同じとこに住んでたんだよ」
今日スラムへ行ったらポーターの仕事へ行こうとしていたので声をかけたら、こっちに来てくれたと隣に座るベンノを紹介してくれた。
「、うっま!!」
「これ!もっと食べていいの!?」
「いいよ、夕飯も楽しみにしててね」
昼食はマナーについて誰も口を出さず、とにかくお腹いっぱいになるまで食べさせてあげ、飲み込みが早かったので給仕の練習もしているとすぐに夕方になった。
そこで食器の使い方を少し教え、他のみんなを見ながら気をつけてご覧と言う程度で口うるさくは言わない。
「明日はお風呂屋さんだから、案内する事も男湯か女湯だけだよ。お風呂から出てきたお客さんに水を出すのもお願いしようかな?ひなた達もついてフォローしてくれるしね」
あまり不安がらなくても大丈夫だよと笑いかけ、風呂に入ってパジャマとしてガウンのような作務衣を着せて茂たちの部屋の場所も教える。
「何かあったらあの部屋にいるから、すぐに来ていいよ」
ひなた達に言えば迷子になっても連れてきてくれるから安心してねと言われ、子供たちを大部屋にあるベッドに一人ずつ寝かせていく。
「これからここにずっといたい」
四歳の女の子にそう言われて侍女の一人が涙ぐんでしまった。
「ごめんね。今回は五日間しかここでお店を開かないの」
そう言って茂が眉を垂らしながら謝る。
「でも大丈夫だよ。みんなが大きくなった時、自分達でお金を稼げるようになったらこうして暮らしていけるようになるからね」
それまではどうしたらいいか考えていこうと、優しく頭を撫でて額にキスをしてから部屋を出た。
「学園長からのお返事が来ました」
つむぎがトレーに乗った手紙を持ってきたので、それを受け取った現津が茂へ差し出す。
「ありがとう、卒業してからもお世話になっちゃうね」
手紙をその場で読みながら言うので、どういう事かとギルとアディが寄ってきた。
「あの子達のお給料、学園長に預かってもらえるか聞いてて、その返事が来たの」
「対価はお支払いになっているのですから、あまりある利益ですよ」
「学園長がそう思ってくれると良いんだけど。あ、オルギウスさんとフェアグリンさんの署名もある。なんか大げさなことになってない?」
苦笑しながら、みんなと明日の打ち合わせをし、宿屋の状態となっているテントの奥へと入っていった。
「あいつは、本当に平民なのでしょうか」
「本人がそう言い張ってるしねぇ」
アディとギルの会話にスカーレット達も頷いて自分たちに割り振られた部屋に消えていく。
こうして一晩を明かし、子供たちを起こして朝食の席につくとアディが使者と話をしていた。
「今日、父上たちが来るそうだ」
「え、お風呂屋さんだよ?」
「ああ、入りたいと母上達が言っているらしい」
「貸し切りとかできないけど大丈夫?」
「気にしなくていい。父上に何かあっても兄上がいる」
「何も良くないよね?それ」
ギル(今はグレン)が肩をすくめて大げさにため息を吐いてみせる。
「お忍びってことでちゃんと平民として来てくれる。あまり気にするな」
使者には直接案内ができるか分からないが、気がついても他の客と同じ扱いになるのは了承してくれと返事をして見送った。
起きてきた子供たちと共に朝食をとり、子供たちに歯を磨かせて昨日と同じ薄茶色の作務衣を着せて準備はできた。
「これから五日間よろしくお願いします。一日笑顔で乗り切りましょう!」
「おー!」
みのり屋に続き他のみんなも返事をするので、小さな子供たちも手を上げて声を出す。
「では、開店しまーす!」
本日のメニュー「風呂屋」と書かれた黒板をテントの入り口横に引っ掛けて出していれば、こちらを遠巻きに見ていた民衆が押し寄せてきた。
今回は働かない幼い子供たちは火の民の子供たちと保育室で大人と共に遊びだす。大きなガラスで窓を作っているため、保育室からもこちらからも様子が見えるようになっていた。
カウンターに座り、入ってきたお客を笑顔で迎えて風呂屋の説明(一人銅貨10枚)をして料金を受け取ったら柔らかいタオルを人数分渡していく。
「こちらはお持ち帰りいただいて構いませんよ」
みのり屋紋の描かれたタオルと、その柔らかさに騒ぐお客たちを錬金術師達が案内する。
「どうなってんだ、ここテントの中だよな?」
「我々も研究中です」
驚いている客に苦笑しながら大浴場へと入って細かな説明をしていった。
しばらくすると、テントの前に質素な馬車が停まり、大きな花束を持った男が降りてきた。
「開店おめでとうございます」
「ありがとうございます」
とても立派な花束なのでカウンターに飾らせてもらおうと、笑って受け取ろうとした茂を遮り現津が体を割り込ませる。
そのやり取りを引きながら見ている錬金術師科たち。
「こらこら、恩人と喧嘩をしないでくれ」
そういって質素な服装のオルギウスがミッシェルを止め、花束はつむぎが受け取ってひなたの用意した花瓶に生けていく。
「ビビちゃん、グレンくん、ご案内してくれる?サブリナちゃんもお願いできる?女性の人数の方が多いから」
「はーい!」
「ご案内しまーす!」
「こちらです」
王族が来たと分かって呼ばれたのは、今日初めて見る子供たち。
しかし、スラム街の子供たちではないのはその所作と外見で分かるのだが、誰か分からない。
赤い作務衣なのだから錬金術師科なのは確かだ。
「あの者は?」
「・・・皆様のよく知る方ですよ」
居合わせたアディに小声で聞くと、言葉を選んで返してきた。
オルギウス達が誘ったのかエラたちも一緒に来ていたので、声をかけてから浴場へと案内をする。
それからしばらくすると、ちょっと細くなったガウェイン達がカウンターへやってきた。
「どうしたの?ちゃんと休憩してる?」
「いや、気づいていないと思うが、両親が来ていたんだ」
「僕も」
「あ、なるほど」
いきなり参観日になったのかと心中を察した。
それも二人は去年から実家に戻っていないので、その事も少しは関係しているのだろう。
それから一時間ほどして全員がピカピカになって出てきた。
「素晴らしかったわ」
「ありがとうございます。明日はまた違うお店になりますが、お時間がありましたらまたいらしてください」
オルギウス達が元気よく返事をして帰っていく。
「明日も来るかな?」
「予定は知らせてあるしね」
「明日からが本番だしな」
そんな話しをしているとフェアグリンが神官たちとやってきて挨拶をし、保育室に気がついてウッキウキで中に入っていった。
因みに、保育をしてくれている火の民達からするとフェアグリンも保育対象だ。
忙しい中昼休憩にしようと、初めから分けていた班割りで、交代で休憩へ入る。
「お弁当だ!」
たまにしか食べられない特別な料理だと喜ぶみんなに満が笑っていた。
「水もこまめに飲むようにしてね。人は水を飲まないとすぐに弱っちゃうって望が言ってたから」
子供たちには声をかけているが、みんなも喉が渇く前に一口でも良いから水を飲むようにと言う。
子供たちも学生たちも、術師団たちも返事をしてもりもりと弁当を食べていく。
「皆さん、これをたまに食べて下さいね」
「なんだ?これは」
「塩とビタミンを固めたタブレットですよ」
沢山汗をかいた時は濃い食事が欲しくなる。それは体が必要というサインを送っているのだという。
「塩の取り過ぎも体に良くはありません。ですので一日2、3個を目安に食べ、沢山水を飲んで出ていってしまった水分もしっかりと補給してくださいね」
望が子供たちにも声をかけ、休憩を挟んで迎えた午後。王都出身の生徒たちの両親、親族がやってきて担任の教師達に挨拶をしていた。
「ありがとうございました。またいらしてくださいね」
全員がピカピカになって帰っていく。
親族が来られない、いない他の生徒たちがそのやり取りを見ていたのに気づき、手招きをして抱きしめた。
「明日も大変だろうけど、よろしくね」
茂に抱きしめられ、一瞬桃の香りに包まれたように感じた。
次いで寂しさのような感情、と言ってよいのか。
それよりももっと奥の、何かが満たされていくような感覚に危うく泣きそうになったジンが慌てて離れた。
「うおおい!!アキツに殺されんだろ!!」
その叫びを聞いて現津が笑う。
「そこで少しでも茂さんに恋愛感情、性欲を持つなら
「シゲルは!仲間!!」
ノアもブンブンと首を横に勢いよく振って騒ぎ、みんなでそれを笑い出す。
「明日は来るお客さんの雰囲気も変わるだろうから接客の仕方も気をつけてね」
商品の説明で分からない物があればひなた達に任せていいと言って、またテント内を宿屋に変えた。
「一日しっかり働いたらゆっくり休んで、体が元気になる食事をとる。これがいつまでも研究を続けられる秘訣だね」
皆を席につかせ、夕食を並べていく。ひなた達にも休んでねと声をかけて果物を沢山用意していた。
全員で食事を済ませ、明日の打ち合わせをしたら風呂に入り各部屋に入ってぐっすり眠る。
そして、朝がやってきた。