7.学園生活
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その数日後、王族達と神官たちが学園へとやって来たので教師達とともに出迎える。
「本来ならば国王陛下への献上品、教会への寄付と、それぞれ私が出向いて説明するのが筋だというのに、本日はご足労いただき誠にありがとうございます」
だが、今後の事を考えると、互いに何を贈られているのか知っておいたほうが良い気がするし、そんな風に思える物を贈るつもりでいるので許してくれと茂が挨拶と共に頭を下げる。
それを見てオルギウスとフェアグリンが問題ないと微笑んだ。
「出店の後には直ぐに舞踏会の準備に入るのであろう?忙しいのはお互い様だな」
舞踏会との間に街で出店をすると考えるとどうしても過密スケジュールになってしまうのだ。
生徒たちを振り回して申し訳ないとも思うが、辺境伯家の訓練も王都以外の神官の訓練も全て終わっているので、来年からはもっと楽になるはずと自分達に言い聞かせている。
「私も同感です。寄付をいただけるだけでも励みになるというのに、それが"みのり屋"なのですから」
「その期待を裏切らないようにしたいと思います」
国王、枢機卿とそんな話をした後、学園長も混ざってにこやかに雑談を交わしてから校庭へと向かう。
「今からお見せするものは出店をした時の展示用になりますので誰でも入れますが、本来は持ち主が招き入れない限り誰も入ることができません」
それでも巨大な魔物に踏み潰されたりすればひとたまりもないので、そこは過信しないでもらいたいと、茂達の他にひなたとつむぎも参加していくつかの班に分かれてもらい説明をする事にした。
そして、手に持っていた小さな袋の口を開くと、そこから既に建っている状態のテントが出てきて見ていた者全員が声を出して驚く。
「わー!テントだ!!」
幼い二人の王族、ナルとイーラも目を輝かせている。
「こちらは個人用テントのサイズですが、3〜4人で使用しても問題のない広さを計算しています。魔力登録も出来ますので、誰かに盗まれてしまっても中を見られる心配はありません」
展示用なので家具などは無いテントだが、間取りと部屋の広さを見てもらいたいからと班ごとに中へと入っていく。
「商品として売る場合は装飾品もありませんし、この一番シンプルなままで販売致します。使う方が好きなように出来るというのを大事にしています」
と言ってもイチからすべての家具を揃えるのも大変だから、中の家具も個別で売っていると、居間、キッチン、風呂、トイレ、寝室の他に3部屋の案内をしてキッチン兼居間の収納棚を開ける。
すると一つの箱が入っていた。
「これはテントを買ってくださった方へのサービスです」
箱は救急セットというもので、初級ポーション三本、痛み止めや傷薬の軟膏など、ちょっとした日常使いの薬が数種類と包帯二巻、その使い方を絵と文字で分かりやすく書いた説明書きが一枚入っていた。
「何もないのが一番ですが、何かあってからの後悔は辛いだけですから」
備えておくに越した事はないと、箱を棚へ戻す。
説明を終えてテントを出ると、袋に戻し更に大切な話があると言う。
「これ以上の機能があるのか?」
「その機能をきちんと使いこなすための説明ですね」
テント袋の口を開き、後ろにいた現津に頼み巨大な水の塊を出してもらい袋の中へと入れていく。
どう見ても袋以上の容量が入っているが見た目は変わらない。
「井戸だけではなく、川や海、泥水でも構いません。この袋を通して貯水していただければ、キッチンやお風呂、トイレでも直ぐにキレイな水として使うことができます」
「それは誠か?!」
「はい、浄水装置を取り付けていますのでキレイな水になって出てきてくれます。なので直接飲む事もできますよ」
だからダンジョンの中や遠征先で水が手に入らなくても水っぽい物があればどうにかなると言われ、ミッシェル達が崇めようとしてきたので気持ちは分かるが止めてやれとオルギウスが止める。
「さっき見ていただいた通り、トイレも水で流れるようにしていますから悪臭などがない事もおわかり頂けたかと思います」
「ああ!あのトイレは素晴らしいからな!」
「そうなんですが、この袋にもやはり容量と言うものがありますので、個人用なら4、5日に一度、数名で使うなら出来れば毎日、袋に戻して"出ろ"と命じてください」
やってみせると、桶の中にキレイな土が出てきた。
「容量内に収まっている内は、浄化装置もきちんと作動しているのでこの様に栄養豊富な土として出てきてくれるんですが、溢れるとそのまま出てきてしまうんです」
「・・・毎日土を出すと肝に銘じよう」
「そうしていただけるといつまでもキレイな状態でお使いいただけると思います」
そんなに直ぐにいっぱいになる様な設計はしていないが、それこそその過信で痛い目にあう事もある。
一日一度は出すと決めておいた方が困ることも無いと言われ、別の班としてテントを見ていた者も全員が頷いていた。
「基本的に、大事な事はこのくらいですね。こちらが家具を入れた雰囲気を掴んで頂くためのテントです」
そう言って別のテントを出すとまた中へ案内する。
今度は誰かが生活しているかの様な温かい空間となっていて、こんなにも変わるのかとイーラ達がはしゃいですべての部屋の扉を開けて騒ぎ始めた。
まるで四人家族が住んでいるかのようなディスプレイに、どんどんテンションが上がっていく。
もちろんそんな二人に落ち着くよう声をかけるが、他の大人達も目を輝かせていた。
テントから出る前に、この班に振り分けられた王族、騎士団長、魔法士団長、錬金術師団長、学園長、枢機卿にそれぞれのイニシャルが刺繍されたテント袋を差し出した。
「こちらは献上品というよりも個人的なプレゼントです。立場のある方は何かと背負わなければなりませんから、時には一人になってゆっくりする時間も必要かと思いまして」
喜ぶ者たちの中で一人、フェアグリンはテント袋に刺された美しい刺繍に指を這わせていた。
「中の装飾は私の独断と偏見で揃えてしまいましたので、皆様違いますが、そこから更に気に入るように作り変えていただけると幸いです」
袋の中に手を入れて魔力を通してもらえば登録完了となり、もう他者には使えなくなると言うのでアディは直ぐに登録をして後でじっくり見させてもらうと笑顔を見せた。
「お前たちも、中を見るのは後でにしなさい」
「えー?!」
「どうなってるか見たいのに!」
「まだ他にも品物はあるみたいだしね」
ギルも二人を止め、ファビオラはビオラと「楽しみねぇ」と小声で話していた。
「次のテントは献上品ですので中に家具なども入れていますが固定はしていませんので、自由に内装を変えていただいて構いませんよ」
次のテント、外観がロッジ風テントの案内だ。
「このテントは集団用ですから個人登録は必要ありませんが、個人で使いたいという場合は出来る様に仕様変更もお受けします」
集団用と聞き、あれよりも中が広いのかとザワついたが、オルギウス達が嬉々としてテントへ入っていったので他の班も後に続く。
入ってすぐのそこは居間で、暖炉までついていた。
「ここがキッチンです。窓は開けると外とも繋がりますから、ここでやり取りもしやすいと思いますよ」
そして、八つあるトイレと大きな風呂が二つ。
「すごいな!どうなっているんだ!」
「そこは秘密ですね。分かる人には分かると思いますが」
「私達が理解できているのは表面上だけでございます」
クミーレルが周りを見回しながら言うと、マウロも頷くのを見てこのテントはやはりみのり屋にしか造れない品物だと再度納得していた。
「こっちの小さい部屋で、ベッドを入れなければ10人が寝られます。こっちは30人、50人の大部屋もあります。ベッドを入れたら半数だと思って下さい。計90人の集団用テントを三つずつ各団、教会、学園に献上、寄付いたします」
長期遠征だけでなく、もしも避難するような事になった時、大切なのはメンタルの維持だと言い、このテントにも二つ救急セットを用意していると置き場所を確認してからテントを袋に戻した。
そして、次が最後のテント。
「こちらは王宮への献上品と思いご用意いたしました。教会でも使い道があるのかが分からない内容でしで、教会へも寄付をしたいのですが、見てから必要かどうか教えていただきたいです」
「他と違うの?」
「私達商人向けに造ったテントですからね。錬金術師なら喜ぶと思うんですけど、他の職業の方が欲しいかと聞かれると・・・。必要としている人は必ずいる、とは言えますが」
そう言って、今度は全員で一つのテントへ入った。
「うわー!広い!!」
「二階もあるの?!」
ハシゴではなくしっかりとした階段がある事にはしゃいでいる二人が走り出す。
「キッチンがないな?二階か?」
「いえ、これは倉庫として使う用のテントですので、キッチンもトイレもお風呂もありません」
区切りの壁もないので、自分でついたてを用意すれば家としても使う事ができると言う。
「単品としてトイレやキッチン、暖房器具にお風呂も造っていますから、それを入れればそんなに困ることも無く暮らせると思いますよ」
倉庫用ではあるが、一階を店舗にして二階に家族で住むこともできるほどの広さがあるから、行商人からするととても使い勝手がいいのだと言われ、説明を聞いていた全員が納得していた。
「確かに!これは錬金術師にとって必需品になりますよ!!」
「棚を入れれば素材の収納に困る事が無くなります!」
「騎士団だと武器庫、とかですかね?使えそうですか?」
「もちろんです!まさか戦場へ武器庫を持っていけるなど!夢にも思いませんでした!!」
「魔法士団だと、スクロールとか、杖の予備とか、ですかね?このテントは大きすぎますか?」
「いいえ!机とイスを持ち込めばその場で書くことも可能になります!」
「使い道があるようで良かったです。ではこれも各団に献上いたしますね。学園と教会でも、そのまま倉庫として使えると思いますし。寄付してもご迷惑になりませんか?」
「もちろんです!避難民の受け入れも勿論ですが、もしもどこかでスタンピードがあった時は私達も現地で救助活動する事がありますから!」
「使っていただけそうです良かったです」
全員がテントから出るとロッジ型のテントと一緒に寄付をする。
「そして、今度は教会への寄付として造った物なのですが、王宮で使うか分からないんです。なのでこちらも一緒にご覧いただきたく思います」
そう言って、アイテムバッグから出したのは、シンプルな馬車だ。
「ただの馬車で無いのだろうな」
「結構力作だと思うんですが、誰がどのように欲しがるかまでは考えが追いつきません」
「そこから先は私達にお任せください」
現津がニッコリ笑うので頼りになるとイチャつきながら車の中へ皆を案内する。
といっても、この中は10人も入ればギュウギュウになってしまうのだが。
「テントのように広くはないのだな?」
「この馬車は住むようではなく、その場で緊急の患者を手当するためのものなんです」
「なるほど!その為のベッドとこの"救急箱"ですか!」
クミーレルがシンプルでありながら寝心地よりも清潔感と掃除のしやすさを重視したらしいベッドや壁を触り、その素材を言い当てた。
「これは、スライム?いや、水を吸収しない物のようですし、海にまつわるものでしょうか?」
「さすがですね、その通りです」
スライムやクラーケン、海綿毛などいくつかの素材を合わせて造ったものだと、バッグから水を出し、ベッドにかけるが中に浸透していく事なくその場でプクリと留まるのを見て「おお!」と士団長達やフェアグリンまでもが声を上げ、拭き取った後で濡れていないかを触って確かめる。
「、柔らかい」
「怪我人は勿論ですが、強いショックを受けてパニックになってしまった人は暴れたりもしてしまいますから」
「それで壁もこの柔らかさなのですね!」
「もしかして、温度調節もできたりするのですか?!」
「はい、ここのスイッチで風を出す事が出来ます」
町中などですぐに教会へ行けるのならそれまでの間の応急手当の場としても使えるし、町の外、教会が側にない時はこの場で大掛かりな手術をする事もできる。
「そして、この馬車と皆さんへプレゼントしたテントだけの仕様なんですが、扉の隣にこのような石が付いています」
「これは初めて見る魔導具ですな」
「ああ、シゲルが持っている武器にもこういうものは無かったな」
「武器とかじゃ無いですからね」
ここに魔力を通すと室内の掃除が勝手にできるという優れ物なのだと言うと、フェアグリンの目が輝いた。
「では!患者を中へ入れて腐臭や血で汚れても直ぐに浄化出来るという事ですか?!」
「そうなります」
頷いてから今度はワインをグラス一杯分壁に向かってかけ、アルコールと赤い染みで汚れたのを見てから魔導具へ魔力を通すと魔導具を中心に室内が光りすぐに何事も無かったかのようにキレイになった。
「素晴らしい!!」
「ですが、キレイになるのは部屋だけで、人や物はそのままですから、やはりお風呂に入ったり手入れをしたりはどうしても必要になります」
「それは当たり前です!そうだとしても!常に清潔な室内を保てるなんて!」
「これは王宮でも必要なものになりますよ!」
「戦場で助かるはずの命がいくつ失われていた事か!」
「つまり、王宮へこの馬車が贈られてきても置物になる事はない、という事だな?」
「それは良かったです。ではこの馬車も教会と王宮、学園へ三つずつ献上致しますね」
「三台も!なんというっ」
「あ、この馬車にも手洗い場とトイレはあるんですが、お風呂は付いていないんです。なので外に少し細工をしてあります」
それも後で見せるが医療器具の説明だけ先にさせてくれと、壁についていた棚を開けて中を見せれば、クミーレルとフェアグリンが目を輝かせてメスやピンセットを手に持ち、その繊細な造りに見惚れだす。
「こんなに小さな刃があれば、アルモスピートの毒で溶けた肉もギリギリの所で削ぐことができます」
「さすが武僧ですね、使用例が具体的で作ったかいがありますよ」
可笑しそうに笑ってメスをもとに戻した。
中にある医療器具についてもひと通り説明を終え、外へ出て後ろへ回る。
「ここが荷物入れになっています」
後ろの戸を開けると何かのシートが折りたたまれて収納されていた。
「開くとふくれますから、少しお下がりください」
何が膨らむんだと困惑する者と目を輝かせる者に分かれたが、茂がシートを持って投げる様に宙へ放ると一瞬で開き四角い枠が出来た。
「携帯用のお風呂です。一応10人用ですが、足を伸ばさなければ大人でも15〜20人は入れると思いますよ」
子供ならもっと多いだろうと言いながら扉にくっついているシャワーも四つセットし、風呂も全て囲む様にカーテンを一周してみせる。
「これでどこでもお風呂に入る事が出来ます。救助へ向かった方もですが、考えたくはありませんがもしも災害や事故があった時、全員がお風呂にも入れず、傷が汚れたままだと疫病が蔓延する可能性も出てきてしまいます」
そう言った時に必要になってくると言いながらカーテンを仕舞う。
「お風呂だけでも、シャワーだけでも使えますから、何か大きな荷物を洗う事も出来ますよ」
仕舞うのも簡単だが、使ったらこっちも洗って干してからまた仕舞わなければカビてしまうかもしれないのでそこは注意が必要だがと説明しながら風呂のしまい方もやってみせる。
「この後ろは中とも繋がっていませんので、もしも知らない人が後ろから襲ってきても中の患者さんや治療中の方々にすぐ危険がおよびはしません。ですが、気づくのも遅れてしまいます。なので、この車を使う時は最低でも3〜4人はいた方が安全だとお考えください」
「それはもちろん!普通の馬車を使う時と同じ条件でこんなに素晴らしい馬車を動かすことができるなんて夢のようですよ!」
「そう言っていただけると寄付もご迷惑ではないと思えて安心します」
ちなみに、水やお湯を使うためにはその後ろのドアの所にあるタンクの様な口を開けて水を入れ、その隣にある魔導具に魔力を貯めておけばお湯が出させるようになると言われ、早速フェアグリン自ら魔力を通して貯めてくれたのでシャワーでお湯を出して見ていた。楽しそうに少年のようなワクワクした表情で更に魔力を通していく。
「フェアグリン様の魔力量も流石ですね。もう満タンになってしまいました」
「なるほど、色で分かるようになっているんですね」
本当に何もかもが規格外だとまた楽しそうに魔力を通していた魔導具を撫でている姿に、茂も嬉しそうに目を細めていた。
この馬車は王宮と教会、学園に贈られることになった。
「そして、またタープ型のテントになるのですが、巨大冷蔵庫と冷凍庫を造ってみました」
「冷たい!」
「わー!冬みたい!」
「これはいつもお世話になっている厨房の方々に使っていただけたらと思います」
「この寒さは食材を腐らせないための物ですか!」
「そうです。素材そのままでも良いですし、調理後の料理をお鍋ごと入れてもいいですね。夏なんかはすぐ悪くなったりもするでしょうから。で、こっちの冷凍庫は」
「うお〜っ、寒っ!」
「お肉なんかをそのまま入れてもいいと思います。ただ直接入れるとくっついて取れなくなってしまうので、吊るしておいたり、バットに入れてとかの方が良いですね」
一度凍ると溶けた時に水分も抜けて味や食感の悪くなるものもあるので使い方は追々慣れていってもらうしかないがと肩をすくめながら言い、早々に全員を出す。
「あまり長い時間ここにいると風邪を引いてしまうので気をつけるよう伝えておいて下さいね」
というか後で直接コックたちに説明しようと言ってテント袋を渡した。
「食事は日々の活力に繋がりますから、これからもしっかりと食事をして健康でいてください」
今度は見慣れたみのり屋の玉ねぎ型のテントを出すと全員を中へ案内してお茶を振る舞った。
「お疲れ様でした。以上が献上品の説明になります。この後は皆さんで一度確認をしていただいて、不備がないかを一緒に見ていきたいと思います」
個人用テントの中も見て、いらないものがあれば引き取るし、必要なものがあればそれに近いものが出せるかもしれないと言えば幼い二人がすぐにでも自分のテントが見たいと言い出す。
なら二人のテントから見てみましょうかと壁に手を付き更に広くすると空いたスペースにどちらかのテントを出すように言うと、二人同時にテント袋を開けた。
「私は一人しかいませんから、お二人同時は無理ですねぇ」
どちらが先かを決めようとしている二人を茂と現津が微笑みながら見ている間、他のメンバーがみのり屋の教師たちとテントの確認をしてくれていた。
「まったく、こういう時は陛下からだと言っているでしょう?」
「今日は構わん。一度見て落ち着かねばずっと上の空だっただろう」
現に自分も気になって仕方がないと笑うオルギウスに、フェアグリンも自分も同じだと笑って眉を垂らす。
しばらくすると、テントをどちらも見終わった二人があんなにすごい物が自分の物になるなんてと興奮で顔を赤くしながら戻ってきたので、それぞれの母親がため息を吐きながら頭を撫でていた。
次はオルギウスが立ち上がり、袋からテントを出して茂たち三人で中へと消えていく。
本来ならばミッシェルかヘレンだけでも付いていくべきなのだが、それはオルギウス本人が止めたので三人だけだ。
それからしばらくして、明るい表情で戻ってきたのでそんなに良いものがあったのかと王妃であるマリーが首を傾げた。
「ああ、独断と偏見と言っていたが、ここまで私好みの内装だと嫌味さえ出てこんな」
室内でもテントが張れるのなら部屋にいる時はずっと出しておこうかと独り言をいうので、どんなだったんだと王妃同士で顔を見合わせる。
「皆さんのことは人伝にしか聞けませんから、喜んでいただけて本当に安心しました」
ファビオラとアディ、ギル、レティは錬金術師だし一緒に生活もしているのである程度自信があると笑ってクミーレルの事も見た。
「ふふ、中を見るのが更に楽しみになってしまったわね」
ファビオラも笑い、マリーたち王族もテントの中を見終わり、クミーレルたちも全員見終わり、学園長もフェアグリンも大満足といった表情で続く商品説明も全て聞いてくれた。
昼食はまた豆腐尽くしの料理となったのだが、これについても不満や文句も出ず逆に御代わりが出ていた。
「デザートは食べられそうですか?」
豆腐アイスのきな粉と黒蜜がけを出せばフェアグリンだけでなく王族を含めた女性陣の目も輝く。
「これも豆から作ったのか。なんと万能な豆だ」
「作り手の頭の柔らかさがなせる技ですな」
「私というよりも、沢山の人が長い年月で編み出して受け継いできたおかげですね」
満が笑ってお土産のオカラクッキーを全員に持たせる。
「豆腐を作った時の絞りカスをおからと言うんですが、こちらも美味しいんですよ。豆なので腹持ちが良いですし栄養価も高いので軽食としても優秀です」
昔からきな粉を遠征へ持っていき牛乳や水に混ぜて飲む事もしていたらしいと聞き、ミッシェルがそれはどういう物なのかと興味を示したので食後のティータイムにきな粉牛乳(フェアグリンは瓢箪ミルク)も出して試してもらった。
「これはそのまま、こちらは蜂蜜で味を付けた物、最後に更にスパイスを入れた物でございます」
少量を三つずつ出して飲み比べてもらえば、これは美味いと大人はスパイスの効いている方が気に入ったようだ。
「スパイスをいれる事で体の内側から温めてくれますから、日常的に飲むのも健康に良いですよ」
「乳は手に入らない事も多いですからね、水でも飲めるようにしておくといざという時に役に立ちます」
「お前たちは何に備えて生きているんだ?」
「何かあった時に空腹だったり、暇を持て余すと悪い事ばかり考えてしまいますからね」
お茶請けとして出した小さな豆腐ティラミスを食べながら、フェアグリンも何か考えているような表情だった。
「豆は畑のお肉と言われるくらい栄養価もタンパク質も豊富で、安価に手に入れられる優秀な食材ですよ」
「ふむ、そなたらが作る食事も食材も、初めて見る物が多い。他にはどのやうな物がある?」
「この国であまり見かけない物で言えば、海藻とかお蕎麦、うなぎ、海産物が多いですね。この国でも同じ食材を見かけましたが、同じ食べ方をしているの物は少なかったと思います」
良ければまた食事に誘っても良いだろうかと、オルギウス達だけでなくフェアグリンにも笑顔を向ける。
「満ちゃんが作ってくれる料理はどれもとても美味しいんですよ。まだお出ししたことの無い物も沢山あります」
訓練の時に出したライスバーガーも気に入ってくれていたし、これからの時期野菜の種類も豊富になってくる。
味覚の秋と言う言葉もあるくらいだと言うと、とても楽しみで今から待ち遠しいと即答で頷いていた。
こうして寄付と献上品の説明を終え、残った教師達もそれぞれの学科へと戻っていく。
「みんなもお疲れ様。明日はゆっくり休んで、それから開店準備に入ろうね」
今日説明した商品は、出店が近づいたらまた説明し、今度は接客の練習もしてもらうからそのつもりでいてねと声をかけた。
「すみません、あのテントを見学してもよろしいですか?」
「私も見学をさせていただきたいです」
「構いませんが、ちゃんと休んでくださいね?」
みのり屋の玉ねぎ型のテントの中に寄付した三種類のテントを展示して自由に見学できるようにする。
錬金術師たちがテントの中へ入っていくのを苦笑しながら見て、スザンヌ達へ冷蔵庫と冷凍庫の使い方を説明しに行った。
のだが、一度戻った教師達が茂を見つけるとやってきてあのテントを買いたいといくつかの注文が入る。
「宣伝効果が高くてビックリ」
「こんなもん、誰でも欲しくなるだろ」
「アイテムバッグに住めるような物だもんね」
「だからこその値段も付けてるんだよ?」
「そうだけどさ」
「その内家を建てるよりテント暮らしがしたいって奴も出てくるぞ」
「こちらとしてはお仲間が増えて嬉しい限りですな」
「情報交換とか出来たら良いですね」
ガーフィールと望も笑っていた。
「出店前にみんなも一緒に商人ギルドに行ってみようか。卒業した後どうやって生活するかはまだ決めなくても良いけど、何になるにせよ知っておいて損はないよ」
特に自分達のような造る側は商人と言うものをよく知っておいたほうが良いと真剣に言う。
「造る人と売る人、買う人は切っても切れない関係だからね。だからこそどう付き合うかは自分の中で決めておいた方がをいいよ」
マイルールだからいつ変えても良いんだしねと笑って自分のロゴも考えておくようにとみのり屋紋を見せてきた。
「うちのイメージは世界樹。かっこいいでしょ」
小さく笑って杖の先を見せる。
「ロゴはあった方が良いよ。自分の偽物が出た時、そっちが悪さをしてもこっちは無実だっていう証拠になるし。何よりお客さんが見ただけで気づいてくれるからね」
見慣れていて信用しているポーションと誰が造ったか分からないポーションが同じ値段で売っていたら買うのは信用している方だと自信を持って言い切る。
そしてそれは自分達も間違いないなと皆がみのり屋のロゴを見つめた。