7.学園生活
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この日、ナルとイーラが錬金術師科の塔へやって来た。
「お待ちしておりました」
茂が一礼すると他の皆も礼をし、以前よりもキレイな所作で礼を止めさせる二人に、頑張っているのだなと笑いながら中へと案内した。
二人が学園へ来れるのは今まで逃げていた授業をしっかりと熟したご褒美のような物なので、気分転換も兼ねている。
そして今日はもう一人紹介された。
「シゲル、こちらロレーヌ伯爵夫人よ。うちの子達はみんな夫人にダンスを習ったの」
舞踏会で見かけ、私が一目惚れしたのよと自慢するように紹介したファビオラに、少し驚いてから恥ずかしそうに自己紹介するロレーヌ伯爵夫人。
「はじめまして、茂と申します」
「この度は殿下たちの申し出を受けていただき、お礼申し上げます」
「こちらこそ光栄でございます。我々の中には社交界と縁遠かった者もおりますので、夫人の様なエキスパートに見ていただける貴重な時間をいただき心から感謝しております」
茂の姿を見てもこれといった反応を示さない。
更に現津たち見目麗しい者を見ても大した反応を示さない所から、人としてブレないものを持っているだろうとこちらを心配そうに伺っていたアディとギルに笑い返した。
ダンスの授業が始まれば、壁際で見学していたロレーヌ伯爵夫人にファビオラが声をかけて二人で子供たちが踊るのを見つめる。
「はい!右から足を引っかけられた時!」
「!?」
ナルとイーラは二人でパートナーを組みみんなと一緒に踊り出したのだが、手を叩いてリズムを取っている茂の指示を聞いて物凄く困惑しながら動きを止めた。
「いいですか、お二人は王族ですからこの国ではそんな事は起こらないと思いますが、他国へ行ったらどうなるか分かりませんからね」
ターンの練習をして固まった二人に声をかけ、現津と踊って説明を始める。
「みんなもおさらいだと思って見ててね」
利刃と至に嫌がらせ役を頼み、杖を義足にした茂が優雅に回避していくのを眼を輝かせて見つめる幼い二人。
「曲が終わったら、ここでも優雅にお辞儀。笑顔を忘れないで、気を抜いていいのは壁際で一息入れる時だけだよ」
疲れたら休憩室かバルコニーで、出来るだけ一人にならないようにねと現津のエスコートで教室の中央から美しくはける。
「お二人も、ここではアクシデントに備えた練習をいたしましょう」
きちんとしたダンスのステップや作法はロレーヌ夫人からバッチリ教えてもらっているでしょうし、これからもそうしてくださいと言ってまたみんなの輪の中へと送り出す。
「やべっ、ごめん」
「セーフ!こっちもごめんっ」
あちこちで声をかけ合いながらダンス、というか戦い方の指導を受けているかのような光景に、ナル達はすぐに溶け込んでいった。
しかし、ロレーヌ夫人はまだ固まったままだ。
「面白いわよねぇ。あれで平民だなんて、未だに信じられないわ」
「どこかの国で、このような経験が?」
「さぁ、どうなのかしら」
笑っているファビオラとそんな話をするくらいには、具体的な嫌がらせと言うか、社交界でよくある”事故”を口にする茂。
「とてもお上手ですよ、そこでもっと背筋を伸ばして大きく腕を上げるともっとキレイに見えますよ」
上手上手と手拍子を打ちながら声をかけ、相手を変えて踊ってみようと言われ王族たちは気にした様子もなく気軽に生徒たちへ声をかけに行く。
「ぼっ、僕ですか!?」
「私たちとは普通に話してるだろ」
イーラに手を取られたウィリアムが慌てているのを見て、アディが呆れた。
「アディ達はね」
「王族だってのも分かってるんだけどさ」
「その前に錬金術師っていうか」
二年生より上の女子たちにそう言われ、アディはまた呆れたような表情をしたがギルは嬉しそうにメイナと踊っていた。
「僕も錬金術師科に入るから大丈夫だよ!」
「私も!入学する時はここの科に入るの!」
そのセリフにあからさまに安心したと肩の力を抜いて踊りだすウィリアムとナルに誘われた一年生の女の子。
「
「全員とお話しするのが普通になっているものね」
クミーレル達もダンスの練習をするので、ファビオラとロレーヌ伯爵夫人も参加してくれた。
「はい、今日はここまでです」
午後からは錬金術の授業になるがロレーヌ伯爵夫人も見学していくかと聞くと、二人のお目付け役でもあるので残ると言う。
「ここの学生であった時も、一度もこの塔へ入ったことがありませんでした。中はこのようになっていたのですね」
「いいえ、全てシゲル先生が来てから変わったのですよ」
クミーレルがそう言って、子供の笑い声と隅々まで掃除の行き届いた塔を見上げる。
「まるで、息を吹き返したかのようです」
いや、初めて産声を上げたのかもしれないと困ったように笑った。
「我々の力が足りないばかりに、この科へ入学してきた子供たちには長らく苦労ばかりさせてしまいましたが、これからは、そうならない様に、今度こそ力をつけねばなりません」
その覚悟の決まった声に夫人は何か考えてから、前を歩く赤い作務衣姿の集団について行った。
昼食も食堂で共に摂り、午後からは一年生に混ざって錬金術の基礎を学んでもらっていたのだが、塔にガウェインの叫び声が響きファビオラと二人の近衛だけでなく二人に着いていた騎士までが警戒体勢に入った。
しかし、
「オリビアが生まれたー!!」
「オリビアー!!」
二、三年生の叫びを聞き、クアンドロ達教師も込みで生徒全員がガウェインのいる校庭へ向かい、窓から飛び出して行く。
「ついに生まれたのか!!」
「オリビアという事はホムンクルスね!!」
「どんなホムンクルスなんですか!」
その凄まじい身体能力に、現役の騎士たちまでもが眼を見開いている。
「まぁまぁ!私たちも見せてもらいましょう!ビオラ、みんなをガウェインがいる所まで運んでくれる?」
笑顔で頷いたビオラが教室に残っていた全員を浮かせ、侍女たちが悲鳴を上げるのもお構いなしで窓から校庭へと降り立つ。
「オリビア!よぐ、よぐうまれでぎだ!!」
泣きながらガウェインが縋りついているのは、海亀だった。
「ゴーレムのような体をしているな」
どうなっているんだ?と図鑑を見ながらみんなで浮いているオリビアを見つめている。
「おめでとう!オリビアちゃんも、これからよろしくね」
茂が話しかければ、甲羅から首を伸ばして頷いて見せるので、ナル達も含め一年生たちが眼を輝かせた。
「この子!どんなことが出来るんですか!?」
「どんな、そうだな。オリビアの力も、見てみないとな」
涙を拭い、オリビアの頭を撫でて「何かできる事はあるか?」と聞いてみると、どこからか水を出して操って見せる。
「すげー、水が操れるんだ!」
「ん?オリビアちゃん、この水触っても良い?」
「コクン」
この水は体の一部ではないようなので許可が出た。
茂が水に触り、首を傾げて水をノックすると、コンコンと固そうな音がした。
「え、水・・・だな?」
ガウェインも触ってみるがローランドの出す氷のようにはならず、やはりただの水だった。
「ガークくん、ちょっとオリビアちゃんの出した水に打ち込んでみてくれる?」
「、大丈夫か?」
「コクン」
「大丈夫だって」
本人も頷いているのを見てガークが新作のハンマーで殴ってみれば、まるで鉄を叩いた時のような硬質な音が辺りに響く。
「かってー!!」
「マジかオリビアー!!」
「すげー!」
「お前はなんてすごい奴なんだ!!」
「こいつゴーレムだろ!!」
「ホムンクルスだ!!」
「サイズも立派だし、もしかしたら乗れるかもよ」
「の!?大丈夫なのか!?」
「この子たちって元々体が丈夫だしね。ダメでも怪我とかしないと思うし、やってみるだけやってみたら?」
抱き着いていたオリビアを地面に戻すと、ガウェインを見上げて乗れと言う様に視線を前へ戻す。
「これ、乗れる?」
すごいつるつるしてるみたいだけどとローランドが甲羅を見て言う。
「しかし、オリビアが乗れると言うのだから、乗ってみる他あるまい」
甲羅の上に足を置くと、操った水でガウェインの足を固定した。
「お、おお!!」
「え、すごい!!」
「どうなっているんだこいつは?」
そのまま塔の上まで垂直に飛んで行き、校庭も一周してみんなの前で止まるとガウェインが地面に降りて膝から崩れ落ちた。
「大丈夫か!?」
「違っ、か、感動、かん、かんどっ」
そう言ってオリビアの背中にしがみついて泣き始める。
「無事に生まれてよかったね」
「ああ!!」
「これからご飯どうするか考えないとね」
厨房にお願いしてクラーケンやクラゲ、海藻なんかを仕入れてもらわないとと言われ、そうだったと涙をぬぐって立ち上がった。
「ホムンクルスってそれが大変だよね」
「こちらの魔力がなくなれば動けなくなるゴーレムも似たような物だがな」
「あの見た目で、食べるものテオと同じなんだ」
「海にいる生き物がモデルだからね」
「そう言えば、今まで使ってた金魚鉢、オリビアには小さすぎるね」
「大きな寝床も用意してあげなきゃ」
「準備出来るまではこのタライ使いますか?」
一応新品だと満が収納バッグからタライを出した。
それからというもの、アイテムバッグ造りと戦闘訓練に力を入れるようになったガウェインだった。