7.学園生活
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茂の近くにいたローランドが、手元のバインダーを覗いて口を開いた。
「何かのレシピ?シゲルちゃんのノートって全く読めないんだよね」
「ノゾム達も全員な」
「読まれても良いとき以外は、一応ね」
「これはなんのレシピなんだ?」
「新しいポーションか?」
「ううん、料理のレシピだよ」
「料理もなの?!」
「これはねぇ、使ってる材料が珍しい物ばかりだから」
調理の出来る段階にする為のメモでもあるので、ここから本当に料理のレシピにするのは満だと笑う。
「動物だろうと植物だろうと、取り過ぎたらいなくなっちゃうからね」
「食事というものはとても大切ですよ。料理も薬と同じです。薬膳料理というものもありますからね」
「こういうのって、これから時間をかけていろんな人が研究していけば沢山見つかると思うけど、今困ってる人達に”だから我慢しろ”っていうのは違うって思ってるしね」
それはそうだとノアがホムンクルスの入ったビーカーを持ちながらやって来た。
「生きるって食べるって行為が必要だからね」
だから味覚はとても大切なのだと、収納バッグから白くてトロトロしたものを出して人数分の小皿に分け、そこにジャムとフルーツをトッピングしていく。
「苦いものとか酸っぱいものは腐ってるって判断しやすいよね。飲み込めなくて体が勝手に吐き出してくれるし」
「それを意思の力で止めて飲み込むというのは、体や精神が弱っている時にさせるのは可哀想ですよ」
「これはケフィアっていう、地方の山奥にある食べ物だよ。動物のミルクを発酵させたもの」
発酵と腐敗の違いはもう知っているよねと茂が先に食べて見せれば、他のみんなも食べてみる。
「美味しい!」
「甘酸っぱくてさっぱりしてる!」
「酸っぱければ不味いって訳でもないでしょ?」
「これって体にいいの?」
「ケフィアは腸から、ジャムはものによって効果が変わってきますね」
今回のは貧血に効くと言って増血剤を飲んで怪我人を一時的に回復させた後、しっかりと体が元に戻るまでこういった食事で補助をして行くのもいいという。
「女の人は特に、毎日じゃなくてもいいから日常的に食べるといいね」
「どうして?」
「生理があったりして、男の人よりも血を失いやすいからだよ」
「せいりとはなんだ?」
術師団員たちがワタワタしているが、ファビオラは頭が痛いというように額を指で揉んでいた。アディは首を傾げたままそれを見ている。
もちろん、首を傾げているのは他の男の子たちもだ。
女の子達がなんと言って良いのか困っている姿を見て、もしかしてこの国でそういった教育を子供にはあまりしないのかと望と顔を見合わせてアランに聞いてみた。
「俺に振るなよ・・・」
「そういえば、私達も女同士でいる時しかこういう話した事なかったね」
「では、他の子供たちはどうしているのでしょう?」
「これは、私達が教師になったのも何かの縁かな?」
各学年、クラス、全ての教師に臨時授業を男女別で行いたいと掛け合った。
「男の子達の授業は現津さん達にお願いしてもいい?」
「・・・かしこまりました」
「ごめんね、女の子達に説明してる時に現津さんがいたら何か気まずいだろうなって思って」
隣の教室にいるから安心してねと言われ、複雑そうな顔をしていた現津だが、当日茂が教室に入っていく所まで見送り、実にテキパキと事を進めていった。
が、現津と梅智賀が受け持った男子側からは授業のやり直しが申請された。
「心を折られた」
「男でいることが辛くなった」
現津たちの授業を受けた生徒たちの感想に、なんとなく察する。
「内容は同じになりますけど、私がやりましょうか?」
こうして茂と望、優が再度授業をすることになったのだが、単に茂達の人気を上げるだけのイベントとなってしまった感は否めない。
「どんな授業したの?」
「当たり前のことしか言っていませんよ」
「騎士科の先生が言うには、一人の生徒が”女子にそこまで気を使う必要があるのか、つけ上がらせるだけ、媚を売るのは男として”って言ったらしい」
「それへの返答は?」
『どうぞそのまま子孫を残せず滅んでください』
「アキツ〜」
「誰にも相手にされずとかも言ってそう」
「言いましたよ」
「金で買えるとか言ってる奴もいたけどな。お前ならいくらもらったら黙って殴られて命懸けで出産してこの世で一番憎んで地獄に落ちろと祈ってる男に日に日に似ていくガキに愛情持って育てられるって聞いたら何も言わなくなった」
「ウメチカ〜」
なんなんだよお前ら兄弟はと顔を覆うみんな。
「相手貴族だぞっ」
「時には商人の方が強くもなるんですよ」
「追い出されても追われても逃げ切る自信あるしな」
「そういうことじゃねぇんだよ!」
「まぁまぁ、二人は茂殿らに愛情深く育てられていますので」
「女性の代表格が自身の母で妻なんだ。それに近い相手を蔑ろにしているのを見るのは不愉快だろう」
「育てられてんの!?」
「育てられてるだろ」
「物心ついてからずっと追いかけていますよ」
「あいつ(茂)はいつから賢者なんだよ」
「さぁ、それは我々にも」
そんな話をして笑っていた。
「てか、ススムは女子の授業して良かったのか?」
「自分達のクラスにも来てくれって誘われてたよね?」
「マスターの授業は楽しいので何度でも受けたいとのお声が上がっています」
「・・・なんであの授業をお前(男)が女にやって人気が出んだよ」
「さぁな?わしにも分からん」
「う〜ん、厭らしさとかを一切感じないからですかね?」
臨時授業が意外に人気だったので、もう一度だけ授業をしてもよいだろうかと言う。
今度は化粧についてだ。
「化粧をして、自分に自信を持つ事ができるなら、男女共にするべきだと思いますよ」
そう言って一クラスずつ周っていく。
「男らしくなりたい、女らしくなりたい、美人の基準に入りたいなど。思うことは人それぞれですが、その誰にでも知っておいていただきたいことは、人の美しさは造形美だけではないということです」
片足、片目のない茂が笑いかける。
「もしも、私が薄汚れた服を着て背中を丸めながら歩いていたらどうでしょう。私自身がどう思っていようが相手にはそんな事は伝わりません。ただの物乞いにしか見えず、裏路地で冷たくなっていたとしても特に思う所もないでしょう」
目も足もなく、誰かに助けられなければ生きていけないのだから仕方がない。
これが世間の共通認識ですと、にこやかに話し続ける。
「これは分かりやすく、極端な話をしましたけど、大なり小なりこういった事は日常的におこっています」
みんなも、それが現実だと分かっている。けれどそれは悪いことばかりではないと説明をして、何事も行きすぎれば良いものも悪くもなると笑いながら男女どちらにも化粧を施していく。
「今回のお化粧は、私が勝手に皆さんの魅力だと思っている所を引き立てる形で進めました」
この結果に理想と違うと思った人はごめんなさいねと先に謝った。
「ですが、どうか今日はこのまま過ごしてみてください。そして、いつもと違う自分というものを体験してください」
そこから今後の自分というものを見つめ直す一つの要因になったらいいと言って、授業は終わった。
それからというもの、男女共に肌の保湿をするようになり、卒業後は結婚する婚約者同士でいちゃつく姿がよく見られるようになった。
そして、今まで性別的魅力に自信がなかった者たちがどことなく前向きになった。
気がする。
「良い傾向ですね」
「はい、そのようです」
教師陣との会議で茂が言うと、後ろに立っていた現津が返すので他のメンバーは呆れと苦笑を零していた。
「しかし、化粧もすごかったが、洗顔と保湿をするだけで変わるものだな」
「白粉を塗るだけがお化粧ではありませんからね。キレイは内側からしか生まれません」
どんなにキレイでも内側の膿はいつか出てくるし、内側に膿がないのなら、後は見せ方を知るだけだ。
今後も一緒に変化を楽しんでいきたい。
どうか温かく見守ってくださいと頭を下げて会議は終わった。
それからというもの、みのり屋の下へいくつもの手紙が届くようになった。
それは肌トラブルの相談から感謝が綴られたものと、いくつもあったのでまとめてグラフにして錬金術師科で発表する。
「へー、男の人でもニキビが気になったりするんだ」
「私から言わせると、男の人は毎日髭を剃ったりしないといけないんだから女の人並みかそれ以上にスキンケアは気をつけたほうがいいと思うんだけどね」
それも男女で特徴も変わってくるしと言いながら、洗顔の仕方、保湿の仕方について実験をしていく。
「良いデータがとれた!」
「この実験結果ってあたしたちも使っていいの!?」
「もちろんだよ。みんなでやったんだから」
「この実験をするようになってからテオが前よりスリついてくるようになったな」
「テオって毛でみっちりしてますけど、分かるんですね」
「リリーは花の香りがしてると嬉しいみたい」
「ゴーレムはその辺気にしないよね」
「こいつらは感触とか気にしねぇからな」
ツルツルになった肌を触りながら言う男性陣。
「アキツはいつもツルツルよね。シゲルって髭の人好きじゃないの?」
「ううん、似合ってればいいと思うよ。現津さんも朝起きたときとかジョリジョリしてるし」
その感触が好きだからよく触らせてもらってると言われ、男子の視線が現津に集まる。とても良い笑顔を向けてきたのが印象的だった。
「アキツは?髭を伸ばしたりしないの?」
「しません。茂さんの肌は繊細ですから。スリついた時に傷が付きかねません」
「男の人の髭ってなんで硬いんだろうね?」
動物も髭は硬いものだから、大切なものではあるんだろうと頷いている。
このデータは女性陣だけでなく、ノアが気に入って保湿に良いものを話し合いながら作っていく。
「ノアも気にしてるんだ?」
「コクン」
村での冬は厳しく、誰でも肌荒れが辛くなるのだと言われ、そういうことなら確かに他人事ではないと他のみんな、特にワットとジンが注力していく。
「皿洗いで手がバキバキに破れるとかあったからな」
「俺も昔ひでぇ目にあった」
冬に子供たちで集まり、どうにかしのいでいた時も指だけでなく耳や口、肘や踵から破れて血で更に冷えての悪循環だったと渋い顔をする。
「分かるぅ。あれ本当に痛いし、感覚がなくなってるのにダメージは入ってるからびっくりするくらい動けなくなるんだよねぇ〜」
「なんでお前が知ってんだよ」
本を読んでいた榊に聞くも、笑って流された。
「経験は百聞に勝るんだよ」
そういう経験をしたからこそ生まれるものがあると、トロリとした保湿剤を瓶から出してみせる。
「これは私の肌に合わせて造ったものだけど、そこは使う人に合わせて調合できる所だから、どうとでもなるかな」
みんながその保湿剤を手に取り、伸ばすように馴染ませていく。
「何これ!すごい瑞々しくなっていく!!」
「これに使ってるのは桃の葉だよ」
「シゲルちゃんと相性の良い植物だね」
「しかし、甘い香りはしないな?」
「使ってるのは花でも実でもないからね。香りは好きなものを使ったらいいと思うよ」
そう言ってまた少し違う容器を出す。
「で、こっちが同じ材料で分量を変えて造った火傷の薬」
「同じなのか?!」
「同じだよ。肌に起こるトラブルって症状は沢山あるけど、つまり肌を良い状態に戻すってポーション造りと同じだからね」
「・・・なるほど?」
「だけど、平民のお給料じゃポーションを毎日飲んでたらそれだけで生活を圧迫するし、世の中にはそういう必要な物を高価格の最低品質で売りつけてくる人もいるよ」
錬金術や薬学について知識がなければ「効果は人それぞれ」、「時間がかかる」、「量が少なかった」と言われてしまえば信じる他ないとため息を吐く。
だからこそ、体調を良くする習慣と言うものを身につけておくべきなのだと、洗顔、保湿、水分補給について説明をしていく。
「説得力ある」
「これでも、今分かっている事って大前提があるんだけどね」
これからもっと研究が進めば、今話した事が間違いだったと言われる日が来るかもしれないと苦笑する。
「それでも一歩、今出来る事をやってみなきゃそれもまた夢の夢だよ」
こうして学園では男女関わらず肌を気にするようになった。