7.学園生活
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歌劇と授業も一通り落ち着いたある日の午後、次の演目を決めていたみのり屋。
その中で茂が桃之丞を抱き上げ、後頭部に鼻を押し付けて匂いを嗅ぎ始めた。
「はぁ~、癒されるー・・・」
「アア」
「嫌だった?ごめんね。甘い物食べよっか」
収納バッグからクッキーを出せば、嬉しそうに手で持って食べ始めるので熊は器用だなとみんなで眺め、ティータイムにすることにした。
みんなも休憩が必要な時間帯だったのだろう。
「何か、訓練の時に授業しただろ?ホムンクルスたちの。あれ以来教師たちが、前よりも羨ましそうにこっち見てくるんだよなぁ」
「それって騎士科の先生たちですか?」
「愛馬を大切にする人も多いですから。その流れでしょうか」
ガウェインが首を傾げながらカップを持ち上げる。
「”絶対に裏切らない味方”というのは、貴族にとって相当羨ましいものだと思いますよ」
ギルにも言われ、そういうものかと呟きながらテオの頭を撫でれば嬉しそうに笑う。
「可愛い」
「デーヴィッドも早く生まれてこないかなぁ」
「エイダンも、このままでも温かくて可愛いんだけどね」
「シゲルちゃん、僕たちもまだホムンクルスの造り方教えてもらえない?」
「教えても大丈夫だとは思ってるけど、これから舞踏会もあるからね、来年かな」
「はぁ、待ち遠しいなぁ」
「ギルはどんなホムンクルスにするんだ?」
「バラだよ。名前ももう考えてるんだ」
「レティは?最近よく図鑑見てるわよね」
「ええ、もしもこの子がいたら、と思う子が見つかったわ」
でもまだ名前が決まらないと苦笑する。
「アディもエラ様を誘えたみたいだし、これで婚約者持ちは全員和解したな」
良かったとかったとみんなで笑いながらティータイムを楽しむ。
「そう言えば、次の演目にもフェアグリン枢機卿を呼ぶんですってね」
「はい、演目の説明をして、見たいと思ってもらえれば良いんですけど」
それは貴族も同じだがと肩をすくめながら笑って見せる。
「あの人、もう二百年近く枢機卿をしてくれてるんだけれど、昔からどこか壁があったの。でもここ最近はその雰囲気も柔らかくなったわ」
「聞いた話ではチェンジリングであったが故に、色々と苦労が絶えなかったそうですよ」
「チェンジリング?」
「妖精がイタズラで他種族の赤ちゃんを取り換えたりする事だよ」
「え、超迷惑」
「人の世界のルールで生きてない存在のイタズラってレベルが違うからねぇ」
「二人の国でもそういうのあった?」
「チェンジリングは聞かなかったけど、神隠しとかは昔よくあったらしいよ」
「”神隠し”とは、ずい分・・・」
「神様がそこら中にいる国ですからねぇ」
「”神隠し”をするのは、大体が人好きの神が多いな。嫌いだからこそする神もいたが」
「好きなのに隠しちゃうの?」
「好きだから隠すんだろ」
「?」
「私たちは神域って呼んでるけど、んー、神様たちの心の中?みたいな場所に連れて行かれるんだよ。そこでは神様がルールね」
だから年も取らないし、空腹にもならなければ寒さもない。
そこで神様が満足するまでただずっと遊んでいるだけ。
「で、戻ってきたら現実世界では10年とか20年とか経ってたりするっていう話し」
「隠された時の姿で戻って来て、親も周囲も本当に消えた子供なのか分からない。本人だったとしても五歳で消えて10年後にまだ五歳だったら気味悪いだろ」
だから無事に戻って来てもなんかぎくしゃくして上手い事元に戻らないというオチがあると進に言われ、どっちにしろ超迷惑と言うみんな。
すると利刃と蜻蛉切がフォローを入れた。
「長く生きてれば生きてるだけ力が強くなるんだが、時間間隔が麻痺してくるんだ」
「人好きになる程大切にされてきたからこそ起こる悲しいすれ違いだ」
「最近じゃほとんど聞かなくなったみたいだし、神様たちも気づいてくれたんじゃないかな?」
「”嫁とり”は今でも普通にあるけどね」
本当に凄い国だなとアディ達が感心したように呟く。
「えーと、チェンジリング?ってそんなに苦労するものなんですか?」
「そうねぇ。彼の場合はご実家が公爵家という、貴族の中でも高位貴族だったのが問題を大きくしてしまったようなの」
「貴族だったんだ!!」
「そうよ。だから尚更ね、彼のお母様が不義を疑われてしまって・・・」
「ふぎ?」
「夫以外と子供を作ったと言う事ですよ」
「アキツくんってマイルドに言わないよね」
「下手にぼかして隠す方が後から困る事になると思いますので」
「うーん、真理」
ギルとのやり取りに苦笑する。
「チェンジリングと分かってお母様の疑いは解けたけれど、それでも一度疑われてしまった傷が治らなくて、お父様との仲も、悪くはないけれど溝が出来てしまっていたそうなの」
「あー、それは辛いですね」
「その後に生まれた弟君が公爵家を継いで、彼は一人教会に神官見習いとして預けられたそうよ」
エルフの子供らしいのは外見で分かっていたが、属性は光でその高い能力、力で10年もしない内に神官長へと昇りつめたのだと言う。
「たった10年で、すごいですね」
「すごいんですか?」
「すごいぞ。俺は学園を卒業して六年目だが、来年から学園長をやれって言われるみてぇなもんだ」
「マジで!?」
「見習いの時から優秀どころか天才を通り越して化け物って言われるくれぇじゃねぇと無理だな」
「後は人柄も必要ですね。どんなに優秀であっても教会と言う体面もありますから」
「人を傷つけて楽しむタイプじゃ神官長にさせられませんよね」
「そうね、いくら公爵家が後押しをしたとしてもそれは無理ね」
「そうとう努力したんだろうね」
「おまけに、”あの”聖国に総本山があるイアグルス教だもんなー」
「どういう事?」
「えーと、この大陸の、今は聖国がある場所で八百年くらい前に魔族との対戦があったんだよね」
対戦とは言われているが、一人の魔族からほぼリンチのように一方的にやられて地形も今の様に大きく変えられたのだと言う。
「地形変えられたの!?」
「そうらしいよ。だからこの王国とも、反対側にある小国とも行き来が大変なんだよね」
「うわー、魔族怖ー」
「魔族の力は確かに強いんだけど、その特徴を知ってるし、うーん」
「そんな歴史がある国ですので、魔族を始めとした人間族以外を憎んでいます」
「だからイアグルス教の教えも、総本山とこの国でもだいぶ違う」
「え、違うんだ」
「聖国での教えでは人間族が他種族を集め、堕落、悪の道へ落ちないよう導く為に神が神の姿に似せて創ったとされています」
「この国では規律を守って正しく生きましょうって感じでしょ?だから公爵家もフェアグリンさんをイアグルス教に預けたんじゃないかな」
「そうだと信じたいな」
「そうじゃなかったら酷すぎるよ」
「そんな中で、二百年?うわー」
「あたしだったら耐えられるかな・・・」
「おまけに、イアグルス教の総本山じゃぶっちぎりで最年長だから教皇であってもおかしくないのに枢機卿でしょ?揉めただろうねぇ」
「お話しをした時間はまだ少しですが、医療の知識もとてもお持ちで、勉強熱心な方でしたよ」
「彼、回復魔法だけでなくて、意外と武闘派なのよ」
ファビオラがまだオルギウスを産んだばかりの頃、上級ダンジョンでスタンピードが起こったのだそうだ。
そこで王宮から騎士団が派遣されたのだが、それにフェアグリン率いる神官たちも参加したらしい。
「そこで回復だけでなく、騎士たちと一緒に戦っていたそうよ」
「へー、武僧だったんだ。どうりで歩き方がそれっぽい訳だ」
「武僧、すごいし心強いんだけど、神官のイメージからは遠いよね」
「そうかもな。まぁ、安全な所から説教してくる奴より平和もぎ取って来る奴の方が信頼しやすいもんなんじゃないか?」
「なんて脳筋な発想」
「これも一つの真理ですねぇ」
だからこの国にあるイアグルス教会には獣人を始めとした多人種が沢山いるのかと改めて納得した皆に、少し淋しそうに笑った。
「何年かに一回は総本山に行って枢機卿としての仕事ぶりとかを報告しなきゃいけないだろうし、その時に聖国から連れ出せそうな人を連れて来てるんだろうね」
王国は人種差別が少ないから、こちらに逃げてきたくても全員自分の力で逃げ出せる訳ではない。
「逃げなくてはいけない程、なんですか?」
レティの質問には、眉を垂らして笑う以上の返答はしなかった。