7.学園生活
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ダンジョンへ行く遠征メンバーを決めると他学科へも通達が入り、まさか学生の内に中級ダンジョンへ行けるのかと上級生たちは張り切っていた。
そんな中、騎士科と魔法士科の教師に来てもらい、騎士にとっての剣とは何なのか、魔法士にとっての杖とはどういう意味があるのかと言う授業を一時間ずつしてもらう。
「私たちも他の学科の事何も知らないからね」
こうやって少しずつ、今までできてしまっていた溝を埋めて行こうという意見に、学園長を始めとする教師たちが前向きな返事をしてくれたお陰で叶った授業だ。
「よし、ザックとの連携を少し見てくる」
ダンジョンに行く為、アディはザックの体を強化しては校庭で試すと言う事を繰り返していたので、ガウェインかローランドどちらかとの訓練にもなっていた。
「ガウェイン、今日はお願いできる?もうちょっとでシャーリーの弦が上手に張れそうなんだ」
「分かった」
立ち上がったガウェインは机に置いてあった水槽を持ってアディを追う。
「オリビアもしっかりしてきたよね」
「図鑑で見たけど、生まれたらもっと大きくなるんだろ?」
「いいなぁー、ホムンクルス」
一年生たちがそう話しながらガウェインの水槽を見ていた。
ザックの動きと土魔法の練習をするアディに、ガウェインも水の剣を自由に操れるよう魔力を練っていると、一人の生徒がやって来た。
「、ヴィクトリア」
「アンドリュー殿下、お久しゅうございます」
騎士の礼をするヴィクトリアは、ガウェインの婚約者だ。アディは頷き頭を上げるように言ってガウェインを見た。
「ザックの体も問題なさそうなのでな、私は先に戻るが、ゆっくり話でもしてくるといい」
二人が揃っている所を久しぶりに見たしと言ってザックを肩に乗せると歩き出した。
「お気遣いいただきありがとうございます」
ヴィクトリアに手だけで返事をすると止まることなく行ってしまう。
「話とは何だろうか。もしも錬金術をやめろという話なら」
「違う!いや、違うの。今日は、」
ガウェインの言葉を遮り、少し戸惑う様に視線を落とした。
「その、学園祭が終わってすぐに、声をかけたかったのだけれど、歌劇の事もあったし、それに、錬金術師科はいつも多忙なようで・・・」
「ああ・・・、確かに多忙を極めていたな」
ようやく解放されたのは数日前だと頷きながらちょっと顔色を悪くしたガウェイン。
少し間を開けて、意を決したように顔を上げた。
「貴方は、剣を捨てた訳ではないの?」
「俺は剣を捨てないと何度も言っただろ。騎士科に席を置かなくとも、俺はアディに剣を捧げた騎士だ」
それを聞き、どちらからともなく剣を交え始めた二人を教室から見ていたみんな。
「変わった愛情表現をなさる方ですね?」
「アキツにだけは言われたくないだろうな。ヴィクトリアも」
学園祭であれだけベタ惚れしている茂に対し、全力で魔法を打ち込んでいた姿を思い出しながらアディが返した。
「まぁまぁ!可愛らしいわねぇ!」
「若者同士の恋愛を間近で見られるなんて学園内くらいですからね」
「良いねぇ!肉体言語カップル!」
「お前ら何歳なんだよ」
「だって私たちほとんど結婚してるんですよ?」
「ああいうの、結婚前に済ませてきたもんねぇ」
「それで無くても付き合い長いしねぇ〜」
「あなた達のそう言う話も興味をそそられるわね」
「確かに」
「ヴィクトリアの家系は代々騎士を輩出していてね」
錬金術に元々偏見だってなかったんだと思うよとローランドが苦笑する。
「二人で騎士になってアディを支えていくって、小さい頃から言っていたのでしょ?」
「はい、なのでガウェインが学部を変えた事に腹を立てていたのでしょう」
「そう言えば、アディ。婚約者のエラ嬢は?あなた昼食時もみんなと一緒にいるけれど」
ファビオラにそう言われ、アディとローランドが二人で顔をそむけた。
「錬金術はあまり陽があたっていませんでしたからねぇ」
「シゲルちゃんがすごく盛り上げてくれてたのは入学してからずっとだけど、それでもシゲルちゃん一人がすごいっていう見方をされてたもんね」
ギルもフォローを入れると、クミーレルが「ああ」と納得したような声を出した。
「アンドリュー殿下が編入したのは一年前の事ですから、注目は集めたとしてもまだまだ錬金術が陽の下に出たとは言い難かった頃でございます」
去年の学園祭では茂だけが魔導具を使っていたが、今年は全員が自分たちで造った魔導具を持っていた。
おまけに最終日に茂と戦う中で急成長する子供たちの姿を目の当たりにして、ようやく賢者としても指導者としても認められたのだという。
「そうだったの。それで仲たがいしてしまったのね?私の耳にまでアディが不良になったと噂が流れて来て、何があったのかと思っていたのだけれど」
「その噂、ここ(錬金術師科)じゃ笑いのネタでしたけどね」
「”こんなに真面目な不良がいるか”って言って俺らも笑ってたよな」
「ザックが生まれてから学園祭までなんてほとんど休まないでずっとザックの身体を造ってたしな」
逆にみんなで止めに入るくらい熱中するタイプだと笑っているみんなに、アディが赤くなっていく。
「ふふ、いいお友達が沢山いて安心したわ。でも未来のお嫁さんを放置するのはいけないわね」
「・・・はい」
「エラちゃんは別に錬金術が嫌いとかじゃないと思うんですけどねぇ」
そう話しているとつむぎが一通の手紙をローランドに持ってきた。
「、え」
差出人の名前を見て小さく声を漏らしたので、みんなの視線がローランドへ集まる。
「ピンッ」
シャーリーが音を鳴らすと、氷のナイフが封を切ったので中を恐る恐ると言った感じで読み、目を見開いた。
「明日、ソフィアが、ティータイムに参加したいって・・・」
「ソフィアって誰?」
「ローランドの婚約者だ」
「お!お前も仲直り出来そうなのか!良かったな!」
「ど、どうだろう・・・」
レイモンドに驚いた顔のまま呟くように返す。
「?」
「ローランドの婚約者ってどんな子?」
「えっと、貴族令嬢の鏡みたいな子、かな」
「深窓の令嬢といった所だな」
手紙を封筒に戻し、シャーリーを膝に乗せて座ると考え込むような表情をした。
「どうしたんだ?」
「うーん、貴族社会は言葉の裏とか読まなきゃいけないから」
「は?」
「ティータイムに来たいって、お祖母様もみのり屋もいるって事だからね。お近づきになっておいて今後の人生損はないよ」
「ソフィア嬢はそういう事に無関心な子だとは思うけれど、人脈は大切だものね」
家も伯爵家だしとファビオラも頷く。
「そんなに難しく考えなくても大丈夫だよ」
「誰を紹介されても、私達は迷惑だなんて思いませんよ」
茂と望が笑顔で言い切った。
「紹介されたくらいでそんなに悩んでいては身が持ちませんよ」
「有名になれば急に親戚が増えたり親友が増えたりなんて当たり前だって」
その言葉に、クミーレル達が最近遠縁からやたらと手紙が来ると笑うので、そんな物ですよねと笑っている茂を見て現津がローランドに聞き返す。
「みのり屋が強風で折れてしまう脆さがあると思いますか?」
「まったく想像できないな」
アディの呟きに吹き出し、部屋の空気も軽くなった。
「ソフィア様の好きなお茶やお菓子は分かりますか?」
「間に合わなかったら緑茶と練切り出して異国感満載でごまかしちゃお!」
「慣れないものばかりだと戸惑いも多いと思うの。だからこの国のオーソドックスなお菓子も出したらどうかしら」
ひなた達に指示を出している姿に「頼もしすぎる」とローランドが苦笑する。
「これでも踏んでる場数はそれなりにあるからね」
「ふふ、今度あなた達とゆっくりお茶でもしてみたいわ」
ファビオラも知っている伯爵領の話をして、ソフィアを向かえる準備を手伝い始めた。
「返事を書いたら魔法士科まで行ってくるよ」
「シゲル先生の”何とかなる”って絶対どうにかするっていう自信って言うか、責任とは違うけど、何かそう言うのあるわよね」
「やっぱどっかの貴族か王族なんじゃないか?」
三年生達がそう話していると、ガウェインが戻って来たので明日のティーパーティーの説明をした。
次の日、ローランドと共に錬金術師科塔へやって来たのは、白金ブロンドと青白く華奢な体がまるで人形の様にさえ思わせる美少女だった。
「お初にお目にかかります。ローランド様の婚約者であり、ガドマン伯爵家長女ソフィアでございます」
「初めまして、ソフィア様。錬金術師科の臨時講師でありみのり屋代表をさせていただいている茂でございます」
貴族らしい自己紹介をしあう二人の後ろでは、皆も礼をしていた。
「本日は私のわがままで急な訪問になってしまい申し訳ありません。ですが、去年の学園祭での活躍を見た日からお話しできるのを楽しみにしておりました」
ニコリと笑った顔は人形の様に美しく、ゴーレムである現津のようであった。
しかし、現津の方が人間味を感じさせるのだから不思議なものだ。
他の皆はソフィアの美しさに呆気に取られた後、ローランドが昨日愛馬の方が何を考えているか分かると言っていたのはこれかとそれぞれ納得したようにローランドを見る。
まるで人形の様に美しい。
美しいが、眼が合うような合わないような、心ここにあらずなのを悟らせないように笑っている、ような。
「ソフィア様、お茶をする前にいくつかご質問をしても良ろしいでしょうか。いえ、その前にどうぞお座りください」
塔の一階にあるロビーだと言うのに、つむぎに椅子を持ってきてもらいソフィアにさし出すのには、さすがに一緒に出迎えていた塔付き侍女たちが眼を見開いた。
「え、ここで?」
「空き教室に行ってもいいんだけど、それも辛そうだし」
「ええ、本当に。よくここまで自分で歩いてこられましたね」
茂だけでなく望も頷き、座ってくれと椅子に腰を下ろすように言う。
「ソフィア、体調が悪かった?気づいてあげられなくてごめんね」
「いえ、いつもの事ですから」
「あら、いつもなの?」
ファビオラも心配そうに声をかけ、望が少し体に触ってもいいか確認をする。
「え、ええ。構いません」
手、爪、眼を診て頬、瞼、耳と順に優しく触れていく。
「もしかして、頭痛が止まらないのですか?」
「そ、そうです。幼い頃から」
いつの間にかノアも側へ来てバインダーを開いていた。
「頭痛、昔から、病気?」
「そうですね。病気の場合もありますが、今回は病気では無いと思います」
それを確かめようと、ソフィアに声をかけてから手に魔力を流してみると、弾かれるようにまったく入って行かなかった。
「これは間違いなく、魔力増強症の症状ですね」
望もバインダーを出して診察書を書き、自分の紋を押印して茂へ渡す。
「魔力増強症で、今は13才。身長と体重も計って健康体か診てあげたい所だけど、まずは魔導具を造ってからの方が良さそうだね」
「そうですね、体温が異常とまでは言いませんがとても低いです。わずかですが栄養失調の症状も出ています」
領地が栄えているガドマン伯爵家。
娘をとても大切にしていると噂が出回る両親がいながら冷遇されているとは思いにくい。
となれば、頭痛が原因で食が細くなっているのだろうと、もう一度下瞼を下ろして少し白くなっているのは貧血の症状だと説明をする。
「そもそも女性は貧血になりやすいので、頭痛が無くなったら食事に気をつけなければいけませんね。お化粧で隠しているようですが、目の下の隈が濃いです。眠れないのも毎晩でしょうか」
もしも頭痛が無くなっても眠れない様なら睡眠導入剤の処方も必要だろうという。
「魔力増強症とは、初めて聞きますな」
「魔力欠乏症は稀におりますが、」
「増強症はとてもレアケースですね。まだ医者の中でも気づいていない方も多いのではないでしょうか」
魔力欠乏症は平均よりも魔力が少ないのが普通の状態をいう。
魔法が使えないくらいで特に生活にも問題はない。中には一日に限定ではあるが数回なら生活魔法を使える者もいる。
しかし、増強症はそうはいかない。
「人間の体は他の種族と違い、あまり高すぎる魔力に耐性がないんです」
時間をかけて自分で鍛え、高めていくのなら問題はない。けれど生まれながらに異常なほど高い魔力を持つとそれは肉体への負担となると言われ、ソフィアに眼を向ける。
「昔から、体が弱かったよな」
「以前俺たちが手合わせをしているのを見学に来て、倒れた事があったな」
「それが欠乏症との大きな違いかな。魔力は生物でいう所の血みたいなものだから」
「つまり、体に必要以上の血が流れていると言う事でしょうか」
「実際の血だった場合、行き場のなくなった血は鼻血などといった形で体外へ放出することで正常値へ戻ろうとします。瀉血という方法もありますしね。ですが魔力は傷を付けなくても対処ができるので安心してください」
「え、な、治せるのですか!?」
ここで初めて感情が出てきたソフィアに、一番驚いているのはローランドだ。
「そんなに酷い頭痛だったの!?痛み止めを持ってこようか?」
「これは薬でどうにかできることじゃないんだよ」
「魔力増強症は魔力切れを起こしている時の数十倍は辛いと思われます。それを今までよく耐えてきましたね」
これからは何も心配しなくていいと茂が笑い、収納バッグから黒い金属を出す。
「それは、もしかしてアブゾルド鋼でしょうか?」
「さすがですね、アンデッド系の魔物とかから稀に採れる素材で、魔力を吸い取る特徴があります。大抵は呪いとか拷問具、牢屋とかに使われちゃって、医療の方にまで回されないみたいですけどね」
そう説明しているうちにひなた達が机を用意してくれたので、そこでネックレスを造り始めた。
「この金属は直接肌に触れてないとその力を発揮してくれないんだけど、そこにこの陣を入れる事でこのネックレスを付けていれば服の上からでも効果が出るようになるよ」
「、それ以上に刻んでない?」
「これは私のオリジナル。これが数量を調節して、こっちが吸い過ぎないようにしてるの」
それぞれバインダーで描き取りする姿からは、ソフィアの存在を忘れているようにさえ思えた。しかも、その中にローランドもいる。
「はい、これで完成」
「ものすごく簡単に造っているが、これどうなっているんだ?」
「ここ、陣がかぶっているよな?」
「これ普通にやったら暴走するよな?」
ボソボソと自分たちのバインダーを見ながら話している皆は置いておき、ソフィアに造ったばかりのネックレスを差し出す。
「まずは握ってみて、体に変化を感じるか確認してみてください」
「は、はい!」
差し出されたネックレスを握ってみると、眼を見開いてボロボロと涙を流す。
そんなソフィアに望がハンカチを差し出した。
「その内このネックレスに頼らなくても良くなりますよ」
「本当ですか?」
「はい、本当です」
しっかりと頷く望と茂に、また涙を流していく。
メイナとカタリナがローランドの背中を押し、茂の造ったネックレスを付けてやれと合図する。
ローランドが茂から受け取ったネックレスをソフィアに付けてあげれば、本当にどこも痛くないと幼い子供の様に笑って礼を言う。
さっきまでの人形のような笑顔とはまったく別人のようだった。
「ソフィア様はとてもお強い方ですね」
「私が、ですか?」
「痛みに耐えて笑い続けるなんて、並大抵の精神力ではできません。それだけご両親やご友人の事が大切だったんですね」
これからはもうそんな心配はいらないからいっぱい甘えたら良いと笑って、上階に用意した会場へと案内する。
まるで緊張が解けたかのように賑やかなお茶会が始まった。
「その、今日無理を言ってここへ連れて来ていただいたのは、両親がみのり屋の皆様へ連絡を取ろうとしていたからなのです」
「ガドマン伯爵様が?」
「はい。父と兄は王宮勤めでは無いのですが身体強化の訓練に来ていまして、そこで”みのり屋”の皆様を自身で見た事で、もしかしたら私の体質を治す手がかりが掴めるかもしれないと、」
学園祭が終わった後家へ誘う手紙も断りの返信が来て、観劇に来た時も声をかけることができずじまい。なので強硬手段に出ようとしていたのだという。
しかし、ソフィアは権力者とあまり近づこうとしていないと聞いていた為、ガドマン伯爵家がその名を使ってしまう前にコンタクトをとりたかったのだとネックレスを撫でた。
「まさか直ぐに、こんなにも晴れやかな気分になれるだなんて、」
ファビオラたちも良かった良かったと嬉しそうに笑い、ローランドと共に魔法士科へ戻っていくのを見送った。
「僕は、君が、そんなに苦しんでるなんてまったく気づいてなかった。薄情な婚約者で申し訳ない」
頭を下げるローランドに、ソフィアは首を横に振る。
「私がいけなかったのです。心配をかけないようにと、そればかりに意識を向けていて、ローランド様をしっかりと見ていませんでした」
だからこれからは向き合いたいと、嬉しそうに笑った顔を見てローランドも心からの笑顔を返す。
それから三日後、学園へガドマン伯爵家がやって来て元気に駆け寄ってきた娘に涙を流して抱きしめていた。
「ありがとうございます!まさかっ、この子がこんなに!」
本校舎へ入った茂たちに何度も礼を言ってこの魔導具の請求をしてくれというが、茂はそれを断る。
「私たちはこれから数年後には国を出ます。ですが、この学園はこれからもこの国にあり続けます。どうか、次代たちを末永く見守ってあげてください」
自分たちもきっと色んな国を周ってまたこの国に来るだろうからと言うと、この国で最上級の、まるで王族にするかのような礼でこれからも学園存続に尽力すると約束をしてくれた。
実はガドマン伯爵は去年の学園祭も見に来ていたらしい。
だから身体強化の訓練も、一日で止めることなく初めの七日間で終わらせたのだと言う。
「私も、訓練中は頭痛が穏やかになったような気がしていました」
こうしてガウェインとローランドはそれぞれの婚約者と和解したのだった。
「後はアディくんだけだね」
「エラは、どうすれば攻略できる?」
「そこは自分で考えないと」
「難題だ・・・」
頭を抑えているアディをみんなで笑いながら、中級ダンジョンへ行く準備へと取り掛かった。