7.学園生活
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学園祭開けは、どうやらすごかったようだ。
茂たちまで直接は来なかったが、各貴族から凄まじい問い合わせ、みのり屋の紹介を希望する手紙、パーティーへの招待状などが殺到していたらしい。
それは全て学園長、オルギウスが一度査定してから茂へ渡されていたが、現津が全部に丁重なお断りの手紙を送っていた。
「いいですか、どんな相手でもどんな好条件の誘いでも気軽に返答してはいけません。どこから漬け込まれるかも分かりませんから、相手の状況や立場などをしっかりと見てください」
「お、おお」
「現津さんがいてくれて本当に助かってるよ」
「みのり屋の名に寄ってきただけの相手は大抵ろくな者がいませんからね」
手紙の山を捌きながらひなたとつむぎに指示を出している現津に返事をする生徒たち。
茂は返事を書きながら笑うと、現津が抱き着いてこめかみにキスをしていた。
その姿を見て、男の方が強い事が当たり前で女性は守られるべきという風潮のある貴族たちからは少々物珍しくみられる。
そんな中でスカーレットの実家であるダンマルタン辺境伯家から長々と賛辞の綴られた普通の手紙が来た。
「何だろうね?」
首を傾げながらも、沢山ほめてくれてありがとうと返礼の手紙とポーションを贈っておいた。
「学園祭も終わったし、学園長先生と話し合って歌劇を開演しようか」
「場所は庭園で良いのか?」
「うん、オルギウスさん達も来るって言ってたし、馬車でも入ってこられるし本校舎からも近いしね」
数日後の夜、庭園の中央に玉ねぎ型のテントを張り、ひなた達に手伝ってもらいながら準備をしていく。
「今夜は起こしくださりありがとうございます」
迎え入れる側にファビオラ達がいる事もあり、幼いナルとイーラはいつもの様に羨ましがっていた。
学園祭から更に錬金術が見直されるようになり、錬金術師科の校舎が一番奥まっているのは可哀想じゃないかと言う話が上がったのだが、それは茂が止めに入った。
「研究中に爆発する事もありますし、ただの素材ならまだいいんですが薬品など危険物が沢山あります。気軽に触れて手が溶けるなんて当たり前の劇物も日常的に扱います」
多分この学園を建てた人たちは錬金術に造詣が深かったんじゃないかと呟く。
「外部とのやり取りが多い校舎や門から離れていないとお互い危険なんですよ」
「な、なるほど」
生徒たちも塔の位置についてその理由は理解しているので不満に思っている者はいない。
というか、身体強化が使えるので本校舎と離れていても問題ない。
王族たちを全員テントの中へ案内し、まるでオペラ座の様になっている二階席へと案内した。
「少しでも楽しんでいっていただけると幸いです」
そう言ってから、次にやって来たフェアグリン達を反対の席へと案内していき、開演の為舞台へと向かった。
至を中心にフードを被ったローブ姿で舞台の端に立つ。
現津が幻術でテント内を暗くし、マイク(拡声魔導具)で開演の挨拶をする。音楽の演奏はひなた達、演者は圧紘が仁の能力で増やした自分。
舞台では二人の姉妹が仲良く遊んでいた。
幸せな貴族の一家が、ゆっくりと崩壊していく。
出かけた両親が帰ってこず、姉妹二人だけになっても一人部屋から出てこない姉は、自分の力への恐怖と孤独に耐えていた。
溝ばかりが深まっていく。
会場の中から「あぁ」と悲しむ様な空気が広まった。
成人し、家を継ぐ儀式のその日、溢れた力が抑えられなくなり、真夏だった一つの島が真冬へと季節を変えてしまう。
氷の城を建設した所で、その美しさと至の歌に拍手が起こった。
話はどんどん進み、雪だるまが一人で動いている時は笑いが起こった。
妹を助けるために暖炉の火で溶けてきた時や真夏に戻っていくそこで涙ぐむ声も聞こえてくる。
そして、家を継ぎ、力のコントロールも大切な妹の幸せも見守り、領民たちに受け入れられ、花畑を走り回っている雪だるまに一番の歓声が上がったかもしれない。
幻術で明るくなったテント内で、舞台上でひなた達も含めみのり屋全員で頭を下げれば割れんばかりの拍手に何度も笑顔でお辞儀をし、演目は無事に終わることが出来た。
「これが毎月見られるのか!」
「次は何のお話にするかまだ決まっていませんが」
「私も寮に住みたい!」
「僕もここに入る!」
「ふふ、また来ていただけるのをお待ちしております」
イーラとナルが茂に抱き着きながらイヤイヤしていたが、オルギウス達に連れ帰られていく。それを手を振って見送った。
「ベンジャミンくんも、楽しめた?」
「はい!すごく!すごく素敵でした!!」
そう眼を輝かせて感動をどうにか言葉にしようとしている姿に、可愛いねぇと至が撫でくり回す。
「本当に素晴らしかったです。魔法の使い方も、魔導具の使い方も、何もかもが」
演目だけではなかったとフェアグリンも感動を伝えてくれ、笑顔で眼を輝かせながら教会へと戻っていくのを皆で見送る。
「喜んでもらえてよかったね」
「次はなんのお話しにしようかな!」
そう話しながら、客のいなくなったテントへ入って行った。
演劇を行った数日後。
この日は夕食までの時間は自由時間なので、自分の研究に没頭する者、外で技を修練する者、様々な時間の過ごし方をしていた。
そんな中、ローランドが勢いよく顔を上げて机の隣においていたハープを見る。
「シャーリー?」
声をかければ、ピーンとひとりでに弦が弾かれて音が出た。
「シャーリー!!生まれてきたんだね!!」
「マジで!?」
「えっ、体造り直さなくて良い事もあるの!?」
「シャーリーは元々動きやすそうな体だからかしら?」
「ビオラちゃんも、あのままでも良かったし」
ただ手を加えた方がより動けるようになったよねと茂と豊が言う。
「あ、ビオラちゃんのパジャマとドレス作ってみたんですけど、どうですかね?」
「まぁ可愛い!!」
豊の見せてくる子供サイズの服を見て盛り上がるファビオラとナタリー。他のメンバーはシャーリーを囲んでいた。
「もう生まれたのか!?」
「うわー!相性か!?相性なのか?!」
「シャーリー!!体はっ、ちょっと合ってない所もあるね!?うわ、すごい!なんでこんなに分かるんだろう!!」
この素材はダメだと言いながら水の魔石を触る。
「やはり分かるか!ゴーレムとはそういう物なんだな!!」
アディも一緒に騒いでいるのを見て、遊びに来ていた学園長が「どういう事だ?」と聞いてくる。
「ゴーレムは魂の状態で安定しているのですが、その体は主人が用意します」
ただ魂と相性の良い素材が必要なのだと言われ、ハープを抱えているローランドとアディの肩に乗っているザックを見た。
「相性の良くない素材で造るとどうなるんだい?」
「何と言うか、ものすごく動きにくそうな、辛そうな感情が伝わってきます」
そして、全て相性の良い素材で造り、魂と馴染むと自由に動けるようになるのだという。
「ザックも学園祭の試合で相性の良かった土の魔石を失いましたから、まだ本調子ではありません」
今手元にある中では一番相性が良いものだがと言って撫でれば頬にすりついてきた。
「外に!ちょっと外に行ってくるね!」
教室を出ていくローランドをみんなで追いかけ、シャーリーが音を出すとローランドの得意とする氷が現れる。
「良いね。きちんと魔力を使って体を動かせてるし、外にも出せてる。ただやっぱり動きにくいんだね。魔力の出力が上手くいかないみたい」
「~~~っ、絶対君に合う素材を見つけるからね!!」
「ピーン」
嬉しそうに高音を出すシャーリーは、ただのハープのはずなのにどこか柔らかい表情をしているように見えるのだから面白い。
教室の角に積まれた生徒なら誰でも使っていい余っている部品からシャーリーに合う物を選んで手を加えていく。
その為、次の日にはさらに自分で動けるようになっていた。
「すごいよシャーリー!その調子でどんどん練習していこう!」
「ピーン」
昼食の為に本校舎へ向かえば、たった一晩でゴーレムが増えているとシャーリーとローランドを見て騒がしくなる生徒たち。
「僕がもしもゴーレムを造ったら、その子も土魔法を使う様になるのかな」
「その可能性は高いけど、んー。ギルくんはホムンクルスかタルパの方が向いてるかもね。ゴーレムももちろんいいと思うけど」
「どうして?」
「水見式をした時バラの花びらが出てきたでしょ?」
「うん」
「植物は生物だからね。ゴーレムと相性が良くないとは言わないけど、ホムンクルスの方が生まれやすいのも本当かな」
「そういう物なんだ」
「私は、強化系はどちらがよさそうですか?」
「レティちゃんは土属性で、何かの鉱物とかじゃなくて土その物って感じだったから、三つの内どれでも相性良いと思いますけど、こればっかりはどんな子を造りたいかによるねぇ」
「どんな子・・・」
「ビオラちゃんが起きた時のファビオラ様を思い出してみて」
「?」
スカーレットだけでなくギルも茂を見る。
「ローランドくんもアディくんも、もちろんアラン先生も、見てたら分かると思うけど、生まれて来てくれた子たちに対する愛情がすごいよね?」
「そうだね」
「どんな子だったとしても愛さずにはいられなくなるんだよ」
だから、何を造るかももちろんだが、一生大切にできるかを考えた方が良いと微笑んだ。
「私も桃の声を初めて聞いた時は驚いたけど、この何とも言えない低いだみ声が逆に可愛くなったよ」
「アアア!」
「ねぇ」
抱っこをねだって来る桃之丞を抱き上げて頭を撫でた。
「この子たちが消えて悲しいのは主人の方だからね。ゆっくり考えてみて」
そう言ってから桃之丞の頭にキスをすると、嬉しそうに笑って甘えだす姿を見つめた。
「ここでさ、威力の調節を出来るようになれば、もっと乗りやすくなると思うんだよね」
「武器としてはこのままでいいが、出力はもっと上げてぇな。・・・やっぱもっと上等な金属が必要だ」
「それは僕もだね。ここ、もう変形してる」
ガークとリックがモーターの話しをしながら金属の割合について計算をしていく。
「それって、僕にも造れそう?」
休憩に入り、ギルがリックに声をかけてきた。
「造れると思うよ。でも他にも型があるし、ギルなら魔力でカバーできるから、陣をシゲルに見せてもらった方が向いてるんじゃないかな」
リックが乗っていたキックボードを見ながら言うギルに、バインダーを開いてそこに描かれていたメモを見せる。
「え、陣の種類ってこんなにあるの?」
「そうだよ。それも物によって乗り心地が違うから好みのにした方が良いよ」
僕はキックボードとスクーター型にモーターをつけるのが好きなんだと言い、ガークがこのバギー型が良いと自分のバインダーから一枚のメモを見せた。
「最初はリチャードに車輪をつけるかと思ったんだが、そうなると武器持って戦うメリットが減っちまいそうでな」
だから二人で乗れるバギー型を選んだようだ。
「リチャードならそれで十分だよ。他にもパーツ造るんでしょ?そっちの方が良いよね」
そう話す二人に、ギル、レティ、ファビオラが茂を見たので、色々な型の乗り物を出して見せる。
「あれ!また増えてる!」
「こういうのも良いかなと思って」
「これいいわねぇ、座って乗れるのは嬉しいわ」
茂が出した乗り物はまた種類が増えており、自分たちの研究の手を止めて寄ってきた。
どういう乗り方をするかは進が起きたら聞いた方が良いものも多かったが、昼寝はまだ始まったばかりだった。
なので1~2時間は起きないだろうと、ファビオラが気に入った円盤型の舟に乗って見せる。
「一応車輪はついてるけど、どっちかっていると浮くのがメインだね」
小さな車輪しかついていないので、平らな道でなら浮かなくても良いだろうと現津が道を整えた場所に乗って運転して見せた。
「乗ってみますか?」
ファビオラに運転の仕方を教えれば一緒に見ていた皆が他と運転は同じ、似ているのかとバインダーを開きながら聞いていた。
「そうです、ここに魔力を流して、これが真っすぐ前を向いている状態ですね」
ハンドルの持ち方を教え、アクセルの踏み方、曲がり方も隣で座りながら指導していけばすぐに乗り方を覚えた。
「ビオラもやってみる?」
「コクン!」
ビオラを膝に乗せれば、車ごと浮いて空を飛び始める。
「わー!ビオラちゃんがいればただの車でも空飛べるね!」
「フン!」
胸を張ってどや顔をしながら皆の前へ戻ってくれば、すぐに立ち上がってこれは良いわねと物凄く嬉しそうに車を撫でた。
「私たちの目標はこの車作りね。ビオラがいれば空も飛べるだろうし、陣の研究もだけど段階を踏んで作る必要があるわね」
「そうですね。後、錬金術師科の卒業資格はアイテムバッグ造りですから、この二つがあれば基本何があっても大丈夫ですね」
「あんな簡単に・・・」
その場で空を飛んできた祖母に、アディが落ち込んでいる。
「こればっかりは属性とか、生まれて来てくれた子の力だからね」
「そうなんだが・・・、そうだ!アイテムバッグをザックに付ければより最強になるぞ!」
「えー、なんでも一つにすれば良いとは思わないけど」
ローランドはシャーリーにそう言った機能は付ける気はないようだ。
「そうやって考えられる所がゴーレムの楽しい所だよねぇ」
そんな話をしながらそれぞれがどの乗り物を造るか決め、より授業に力が入って行く。
「あ、あの!シゲル先生!」
「どうしたの?」
レティに声をかけられ、近づけば意を決したように茂を真っすぐ見つめた。
「私っ、斧が、好きなのですが!」
「そうなんだね、どんな斧が好きなの?小ぶりで片手タイプ?それとも大きい両刃タイプ?」
レティはこれからギルと結婚して王族となるのだ。
しかし元は騎士科という事もあるし、武器は手元に置いておきたいだろう。なのでどんな斧が良いと絵の描かれているノートを見せれば、そんなにすんなり受け入れてくれるのかと驚かれた。
「え、だって強い王妃様が望まれてるんでしょ?」
「へー、スカーレットって斧を振るうんだね。僕は弓で遠距離型だし、接近戦できるのは助かるよ」
「ギルくんも斧は大丈夫だって」
「どんな武器なら逆にダメになるんだよ」
そんな突っ込みを入れているガークの言葉を聞きながら、ファビオラをみれば「良いと思うわよ」と頷いていた。
「私も武器を使って戦えたら、もっと何か変わったかしら」
「ぎゅっ」
「ふふ、そうなったらビオラが生まれなかったかしら」
ならこれで良かったのねと抱き着いてきたビオラに笑いかけていた。
「でも、いつも斧を持ち歩く訳にはいきませんし、どうしたらいいのか」
「ギルくんみたいに指輪とかのアクセサリーが変形する様に造る?」
「それがいいよ。どんなアクセサリーがいい?指輪を贈ろうと思ってたから用意してたんだけど、その指輪が素材として耐えられそうなら作り変えてもらおうか」
「ぎ、ギルバート様からいただいた指輪を?!そんなっ」
「ギルでいいよ。婚約してから何かと迷惑もかけちゃってるし。っていうか斧を振るうなら指輪とかじゃ無いほうがいいかな?あの指輪は普通にアクセサリーとして使ってもらって、武器にするなら腕輪とかペンダントとかの方がいい?」
二人のやり取りからは色気は全く感じなかったが、レティもギルに愛称で呼んでくれと言い、確実に距離は近づいている気がする。
そんな姿を見て、ファビオラも嬉しそうだ。
ギルが腕輪を用意できるまでは、身体強化と斧を振る練習をする事にしたレティ。
ガークの魔導武器にも興味を持ち、他のみんなとも仲良くなっていった。