7.学園生活
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途中で昼食が挟まれ、午後からまた試合が再開された。
午後の部一回目の試合で、数少ない女子生徒が前へ出て来て指名したのは茂。
「去年を思い出しますね」
「まったく。いつも余裕たっぷりね、貴女たち」
ため息を吐き、合図と共に高ランクの魔法をいくつも打ち込んできたのを見て、努力を惜しまない似た者同士だと笑って躱す。
そして、収納バッグから一つの帽子を取り出した。
つばが広く、シンプルでどこにでもありそうな、いつの時代にかぶっていてもおかしくない、そんな帽子を被った茂に警戒するエラ。
「”コホリン・ドリュー”」
名を呼ばれた帽子は光り、その形を変えていく。
帽子の形が頭巾、マントのようになって全身を包むと茂の下半身が人魚の、海の民のそれとなる。
おまけに、尾ひれの片方がないほどの完全再現ぶりだ。
「本当にっ、どうなっていますのっ?」
これが錬金術だというのかと呟きながら大量の魔力を練り上げて最大火力の高位魔法を打てば、宙を泳いだそこからシャボンが現れ、エラの魔法をその中へと吸い込んでいく。
「さぁ、反撃です」
そう言って地面へ向かって飛び込むと、波紋を立てて地中を泳ぎ始めた。
「どこっ、きゃっ!!」
茂の姿を探そうと動くも、近くにあった小さなシャボンに触れるとそれが破裂して中から火が現れた。
「これは私のっ、そういう事ですの!」
さっき魔法を吸ったシャボンはフィールド中に浮いている。その全てがエラの魔法を吸った訳ではないだろうが、一見しただけではどのシャボンがトラップとなってしまったのか分からない。
「!」
「さすがです。相性の悪い水属性への対策はばっちりですね」
いつの間に出てきたのか、茂が一つのシャボンの上に座って笑っていた。
今こちらに飛んできたシャボンからは水魔法が出てきたのでとっさに体をずらして火魔法を撃って相殺する。
それを褒められたからと言って、嬉しいかと聞かれればそれどころではない。
今動いてしまったせいで、さらに多くのシャボンの近くに来てしまった。
「ここまでくるとっ、すごいのは貴女なのか錬金術なのか分かりませんわっ」
風魔法でシャボンを飛ばしながら走って来るエラに笑い、宙を泳いで逃げてしまう。尾ひれでシャボンを打ってエラへと投げつけるも、全て風魔法で躱されてしまったのでまた地面の中へと潜ってしまった。
そして、エラの足を掴んで足首まで地面の中へと沈めてしまう。
「う、嘘!?」
「さぁ、どうしましょう」
エラはこの国の宰相の娘として生まれ、王族との婚姻が決まった時からずっと絶え間ない努力をしてきた。身分にも権力にも踊らされないだけのプライドも持ち合わせている。
「魔力を練る速度、無詠唱の正確さ、何を取っても申し分なしですね。後は、残っている一つを補えばさらなる高みへ昇れるでしょう」
襲い来るシャボンを、水、風、火、光、闇の魔法で全て跳ね返していくが、足が抜けないのでその場から動く事も出来ず、次第に魔力が切れていく。
土属性の魔法が一つでも使えれば、こうはならなかっただろう。
悔しそうに息を切らせて負けを宣言したので茂の勝利となった。
「エラ様が補うべきものは、もう近くにありますよ」
そう笑いながら泳いで近づき、抱き上げるように地面の中から足を引き抜いて小さな瓢箪を渡した。
「マナポーションです、良ければお使いください」
「・・・ええ、いただくわ」
魔力切れの状態はとても辛いので素直に口をつければ、その効力の高さに眼を見開いた。
「え、こんなっ、一瞬で?」
魔力量の多い貴族が魔力切れを起こした場合、中級から上級のマナポーションを数本飲まなければ楽になれない。人によっては上級を十本飲む必要があるのだが、たった一本で半分以上が回復したと体感したのだろう。
驚いているエラを見てさらに笑って口を開いた。
「先ほど”残り一つを補えば”と言いましたが、何もエラ様が全て出来るようにならなくても良いと思いますよ?」
「いいえ、そうはいかないわ。もしも土属性の魔法が一つでも使うことが出来ていたら、今みたいな無様な姿・・・」
「無様と思う人なんていませんよ。もしもいたら同じ状況になってから言って見ろって感じですし」
「・・・貴女、意外と強気な所がありますわよね」
「ふふ、これでも世界を旅して商売してきましたからね」
それは置いておいてと口元を手で覆いながら笑顔を深めた。
「アンドリュー殿下の試合を見ていらっしゃいましたよね?」
「ええ、まさか土魔法であんなことが出来るなんて・・・」
「そうなんですよ。あんなにすごいことが出来る人がエラ様の御婚約者なんですよ」
茂が何を言いたいのか分かったエラが、一瞬で真っ赤になりなにか反論をしてこようとしたが、次の試合の為に軽く返事をして笑いながら席へと戻ってしまった。
その頃、アディは控え席で予備の魔石を使いザックを治していた。
「ザック」
呼ぶと顔を上げ、体を起こしてアディの肩に乗ると頭を擦り付けてくる。
「先ほどの戦いで、自由に動く感覚を掴んだようですね」
「ザック、もう自分を犠牲にしたりするなよ」
「それをゴーレムにいうのは酷というものですよ」
むしろ、肉体などいくらでも替えがきくからこそ主人の為に前へ出るのがゴーレムだと現津がいう。
「ホムンクルスと違い魂だけで安定しやすいですから、いざとなれば自分の魂を代償に奇跡も起こすでしょう」
「そんな事をさせて堪るか」
「では、主人が強くなる他ありませんね」
メタリックなボディーを撫でながら「そうだな」と呟くように返す。
「無から有を創り出すのが錬金術なら、有を無に返すのは人か」
「良い気づきですね」
二人で話していると、ウィリアムが茂を指名した。
「よろしくお願いします!」
ウィリアムが一礼し、茂も頭を下げる。相手への敬意が込められていると分かるその仕草に、ウィリアムは嬉しそうだった。
「ウィリアムくんは何の武器が良いかな」
「!・・・その、棍とか、ありますか?」
「あるよ」
「あるんですか!?じゃぁ!それでお願いします!!」
実はウィリアムは貧乏な男爵家の八男。金銭的にまったく余裕がないのに貴族のプライドだけは高い家族が嫌いで仕方がなかった。そんな馴染めない家で棍棒を武器に選んでからは更に仲が悪くなり、手切れ金を持たされて縁を切られたのだ。
きちんと教会でも除名手続きをしているので現在は本当に貴族ではなくなっている。
「貴族の中には槍や棍を嫌う者もいるからな。今となっては、柔軟性に欠ける考え方だと思うが」
会話を聞き、ウィリアムの反応を不思議がっているみのり屋にガウェインが教えると、だから蜻蛉切がBクラスだったのかと全員が改めて納得をしていた。
試合が始まり、鞄から出した美しい棍棒で数度ウィリアムからの攻撃を受けると話しかけて来た。
「そのまま身体強化をかけ続けて、気を抜いて解いたりしないでね?」
「、はい!」
試合だと言うのに、まるで手合わせをしているかのようなやり取り。
ウィリアムがそれで腹を立てていなければ、茂が手を抜いているようにも見えない。
しかし、実力差がハッキリと分かる会話だった。
「”
握られていた棍棒が光り、構え直す。
「風属性で棍棒が得意。眼も勘も悪くない。しいて言うなら棍棒を振るう機会を与えられなかったくらい。となれば、後は見る視点を少し変えるだけだね」
口調も表情もいつもと同じく優しい。なのに、ゾワリと背筋に緊張が走り、即座に後方へ飛んで距離を取る。
その行動に出られるところが、”勘が良い”と言われる由縁なのだろう。
茂はその場から動かず、ウィリアムに向かって突く仕草をした。
「マジっか!」
超スピードで伸びてきた棍棒を受けながら着地し、遠距離から繰り出される連撃を全て受けていく。
追い詰められていく。どんどん、確実に壁際へと追いやられていく中で、ゆっくり、体から風が溢れてくるかのように渦巻き始めた。
「想像以上に早かったね」
溢れてくる風と身体強化を使っていっきに距離を詰めてくるウィリアム。
攻撃を受ければ、更に風力が増した。
まるでジンの様に体が少し浮き始めたその時、声をかける。
「ウィリアムくん」
「、」
「君は別に飛びたい訳じゃないんでしょ?」
ガーフィールやザックの様に、自由に空を飛べたのなら楽しいだろう。
憧れもする。
けれど、棍棒を振るうには地に足をつけて体を支えなければ威力がでない。
「伸びろ如意棒」
腹を突くように吹き飛ばされ、着地したのは魔法でも撃たなければ届かない距離。
フィールドの中心でこちらを見ている茂は、いつもと同じように笑っていた。
一度目を閉じ、棍棒を構えて集中する。今できるようになった体にまとわせていた風を、手に集めていく。
構えたまま動かなくなったウィリアムに、どうしたのかと観客が困惑気味に見守っている中、茂に向かって大声で気合を入れながら棍棒を振る。
すると、その延長線上に暴風が吹き荒れて行った。
その攻撃を棒高跳びの要領で避けた茂が着地したのと、ウィリアムがパタリと倒れたのは同時。
「魔力切れですね」
あれだけの力を溢れ出させてコントロールまでしたのだから当然だと如意金箍棒をしまうとウィリアムに近づいていったが、その前にガウェインがやって来て代わりに抱えて立ち上がる。
「次は俺とだ。少し休んでいてくれ」
そう言って、神官たちと待っていた望に向かって歩き出す。
「もしかして、ディーノにもあれがしたかったのか?」
「はい」
「なるほど。お前には無理だな」
そんな会話をしていたアディと現津に転弧たちが笑っていた。
そしてやって来た最後の試合。
フィールドの中心で待っていた茂の前へ、ガウェインが歩いていく。
オルギウスがガウェインの名前を呼ぶと、一礼してから茂にも頭を下げた。茂も同じように礼をとり、ウィリアムの時と同じように何か希望の武器はあるかと笑顔で聞く。
「魔導武器で戦ってくれ。剣である必要はない」
そう言って自分で造ったオリジナル魔導武器の柄を握って魔力を注いでいく。刃渡りが大きくなり、長さもその時で変えられる剣を見て茂が笑った。
「ふふ、ガウェインくんにはこの子がいいかな」
鞄から出したのはオルギウス達も一度見たことがある長い筒状の銃。
どのような武器なのかは授業でも説明をされたのでガウェインも知っている。
しかし、実際に魔導武器として使うのは今回が初めてだった。
「”タスラム”」
呼ばれた武器が光り、浮いたと思えば五本に分裂して筒の先端をこちらに向けてくる。
「集中!」
分裂した銃に気を取られた瞬間、素手で殴りかかりながらそう叫ばれた。すぐに水の剣を握りなおして茂に向かっていくが、身体強化を使った素早い動きで一本の銃へ近づくと蹴り上げて撃つ。
その弾に気を取られれば銃を軸にして下から救い上げるように顎を狙った蹴りがやって来て、ギリギリの所で避けるが攻撃にまで繋げられない。
「っ、速すぎるっ」
銃で撃たれるときと直接攻撃、そのどちらかでも先に読めればと焦った時、進の言葉を思い出す。
『脳で直接見てるんだよ』
自分にはまだそこまで魔力を使い熟すことが出来ない。ならば出来る事はなんだ。
大きく息を吐き、手元の剣から力を抜くと、ガウェインを中心に大きな水たまりが出来た。大きな大きなその水たまりを見て、観客たちは魔力切れが近づいてきたのかとざわついたが、茂だけは笑っていた。
「多分、私も同じこと考えるよ」
「高いなっ、お前のいる場所はっ」
茂が踏み込んできた時におこる波紋。それを感知して茂の先回りをし、出来る時は足止めをしながら攻撃に回り始めたガウェイン。
その姿を見て応援する側も力が入っているのが分かる。
一番大きな声は、ガウェインの両親だろうか。
「まだ行けそう?」
「っまだまだ!!」
「さすが。そのまま身体強化を解かないでね」
タスラムから発射されるそれはストーンバレットのような物だが、威力は桁違いだ。
剣に使っていた水を増しながら打ち落としていくが、一本のタスラムを持って接近されれば体で受けるか水を纏って受け流さなければならなくなって来る。
「ああクソっ!俺は本当にっ、頭が固いな!!」
そう叫ぶ息子に自暴自棄になったかと焦った父だったが、ガウェインは冷静だった。
どうすればいいのか、答えは目の前にあったのにと叫びながら剣から体からありったけの水を大量に溢れ出させる。
そして地面に広がっていた水たまりが更に大きくなり、形を変えながら浮いていく。
何本もの水で出来た剣を操りながら突進をかけてきた。
「守る事に重点を置くガウェインくんを守ってくれる子がちゃんと生まれて来てくれるよ」
だから今みたいに攻撃に集中するのが良いと、微笑む。
四方八方からやって来る攻撃を水の剣が防ぎ、手元の細身になった剣で打ち込んでくるがそれを銃で受けて一度離れた。
「タスラム」
呼ばれると浮いていた銃は五本が地面に立った状態で動かなくなる。ガウェインの剣の様に、茂を中心に浮いていたというのに。
その静寂が恐ろしくも感じられた。
茂が手を上げれば、五本の銃が一斉にガウェインへ向かって構えた。そして間髪入れずに銃声が聞こえる。
「無茶はしていいけど、無理は禁物。今何発か入って骨まで届いたよね?」
「それがどうした!!」
骨折しても動き続けられる胆力は強化系らしいと言うか何と言うかと苦笑して、一本に戻ったタスラムを肩にかけた。
茂の言葉を聞き審判と神官たちが慌てて止めようとするが、それは本人が拒否する。
「まったく」
そう苦笑するのと銃声が一つするのは同時。そして、ガウェインがゆっくりと水たまりの中へと倒れていく。
実は一本だけ戻っていなかったタスラムがずっとガウェインの背後を取っていたらしい。
今度こそ本当に一本へ戻り、眠りについたので収納バッグへしまってから倒れているガウェインを担いで神官たちの下へと運んだ。
「うっ」
「気が付きましたか?」
「くそ、最後に気を抜いたっ」
「神官さんたちがいるけど、ポーションいる?」
「研究材料にしていいなら欲しい」
「欲しいなら普通にあげるよ。マナポーションだけでも先に飲んでおこうか」
小さな瓢箪を受け取り、すぐに口をつけたので安心していると望が傷の説明を始めた。
「あばら骨三本、もうこの時点であんなに動いていたのが信じられませんが、肩甲骨にもヒビが入っていましたね。茂も分かっていてここに最後の一発を入れたのでしょう」
「そうか。本当に遠いな、シゲルの背中は」
「そこまでしないと止まらなかったという話ですよ」
それが強化系の良い所といえばそうなのだがと呆れている望の声を聞きながら、大人しく手当ての練習台になっているガウェイン。
こうして最終日の試合も全て終わったと思っていれば、現津が手を上げた。
「ど、どうなさいました?」
「私も指名した相手と戦いたいです」
「え?」
「観客がいるかどうかは問題ではありませんので、場所を貸していただきたいです」
「そうか、ちなみに指名する相手は誰だ?」
拡声魔法がかかっているので、審判をしている教師ではなくオルギウスが直接声をかけてきた。
それだけでも貴族たちからすればみのり屋を特別扱いしているのが印象付けられた。
「茂さんを指名します」
まさか自分の妻と戦いたいのかと驚きもしたが、少し考えて学園長と話し合いだす。
「学園祭としての試合はここまでとしよう。みのり屋同士の試合は今後の参考になるという事で学園関係者は全員観戦、今いる観客が残るかどうかは個人に任せる」
「ありがとうございます」
という事で先に閉会式を行い、生徒たちにこれからも素晴らしい前進を期待していると国王、枢機卿、学園長からお言葉をいただいて終わりを迎えた。
そして観客たちにも退席する時間を作ったが、誰も席を立とうとはしない。
「これ以上は不要だな」
「ええ、きっと不粋でしょう」
オルギウスにフェアグリンが返し、学園長も頷きを返す。
審判をしていた教師からいつ始めてもいいと通達が来たので、現津が満を振り返って結界をかけてくれと頼むとすぐに応えてくれた。
会場全てを覆い尽くし、フィールドにももう一つ結界が張られる。
これで怪我人は出ないだろう。
「それでは、茂さんお願いいたします」
「うん、こうやって手合わせするの久しぶりだね」
現津のエスコートで杖を突きながらゆっくりと歩き出し、フィールドの中心で向かい合い一礼して顔を上げた。
そこからは、おとぎ話や神話で語られるような戦いが繰り広げられた。
ありえない、人の域を超えた数えきれない魔法陣を同時に展開し、自在に操る現津。いくつもの武器を巧みに取り換えながら攻撃を繰り出す茂。
現津が心底嬉しそうに、楽しそうに笑っているのが分かる。
決め手ともいえる魔法を何度となくいなされ、それさえも誇らしそうに茂を見つめる。
「貴女はそのまま、どこまでも高みへ駆け上がって行ってください」
そう言いながら殺す気なのかと聞きたくなるような特大火力の大魔法を連射した。
しかし、全身を氷の球体で覆った茂は無傷で地上へと降り立つ。
「私は絶対に、貴女を独りになどいたしません」
現津の言葉に、13歳の子供とはとても思えない美しい笑顔を返して一本の刀を前へ出すと名を呼ぶ。
「謳え『
刀が光ったのと同時に茂の姿が変化していく。
上半身は人、下半身は山羊。いや、羊だ。その姿は、雄大な自然を詰め込んだかのように神々しい。
まさに、伝説で語られる獣の民と同じ姿。
そして、手に持っていたランスを現津へ向かって投げる。
結界、氷、土、水、いくつもの魔法で防壁を作るも、土煙が収まったそこにいたのは片腕が吹き飛んだ現津だった。
「貴女の背中を見失わないように走る人生程、楽しいものはありません」
幸せそうに笑って腕に回復をかけると、負けましたと治ったその手で審判に声をかける。
「大丈夫?」
「はい、問題ありません」
刀をしまって寄ってきた茂にすりつき、こめかみにキスをしていればパチパチと観客席から拍手が鳴った。
「やっぱ母さんには兄さんが合ってる」
みのり屋メンバーが歓声を上げるのを聞き、少しずつだが周囲からもパラパラと拍手が鳴り始めた。
ようやく現実として飲み込めたらしい錬金術師からは大歓声をいただき、笑いながら一礼して歩き出す。
もちろん現津のエスコートで、杖を突きながらゆっくりと。
「やっぱアキツより強かったー!!」
「そんな気はしてたー!!」
ジンとリックが叫びながら拍手している隣では、ガークとメイナも言葉にならない叫び声を上げながら千切れんばかりに手を叩いている。
そんな色んな意味で荒れ狂う様に賑わっている会場に、オルギウスの声が響く。
「お主(みのり屋)に国の未来を担う次代を任せると決めた決断は間違っていなかったな」
「ふふふ、そのお言葉をいただけただけで夢のようでございます」
きっとこれから成長していく皆を見たら更に安心していただけるでしょうと、貴族令嬢の様に美しい礼を見せた。
そんな茂を見て、イーラの目が輝く。
まるで自分があるべき姿を見つけたかのようなその表情を見て口角を上げる。
そして、その時は誰も気づかなかったが、ギルバートの婚約者であるスカーレットの眼もまた、同じ様に輝いていた。
この日、寮で顔を合わせた時に「どうかこれからはレティと呼んでもらえませんか」と懇願された。