7.学園生活
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今年の学園祭は、他学科の席もフィールドに用意される事となった。
錬金術師科にも控室を用意するという話になったのだが、茂が口を挟んだのだ。
「せっかく陛下が来てくださるんです。誰もいないフィールドをお見せするというのも味気ないではありませんか」
他の教師達がいる前で、学園長にそうハッキリと提案をした。
そして、今である。
「恐ろしいな、お前」
「何をおっしゃってるんですか。これが平等と言うものですよ」
笑いながら、アラン達と応援席で一年生を見下ろす。
国王と同じだけの権力を持っているはずのフェアグリンは挨拶の時はにこやかに一緒にいたが、今は他の神官たちと共にフィールド近くに座っている。
その姿に好感を持つ者とそうで無い者に分かれたようだが、取り敢えず錬金術師科の皆は好感を持っていた。
一年生は身体強化が得意なディーノとウィリアムが先に走る事になっている。そうで無くても全員が身体強化を使える中で、やはり魔力の使い方が上手いのは魔法士科と錬金術師科だった。
錬金術師科一年のエースは間違いなくディーノだろう。
午前の競技が終わり、昼休憩となる。
ギルバートは婚約者のスカーレットをエスコートして来賓席に座っていた。
エスコートの礼を言って微笑むスカーレットはとても可愛らしい。
けれど、心は動かない。スカーレットも、心が動いていないのが分かる。
貴族の、ましてや王族の結婚などこんな物だ。
そう思いながら微笑んでいた。
学園祭が始まって三日後。
三年生の試合が始まるそこで、アディは最後までザックの身体を造っていた。
「ザック、必ずお前に強い身体を造ってやるからな」
「すっかり父性が芽生えたわね」
それをカタリナ達が笑いながら見て、リレーの為に「フィールドへ行くぞ」と声をかけた。
「来年はシャーリーと参加出来るかな」
「俺もオリビアと走ってみたい」
第一走者はガウェインで、オリビアは小さなボトルを用意してポケットに入れているのであまり目立ってはいないが、脇に抱えているサーフボードが注目を集めていた。
そのボードを持ったまま走り出したので、あれは魔導具ではないのかと観客が見ていると少しずつ纏っていた水が増えている事に気がつく。
本来の一人分を走りきった所で十分に増えた水が体を離れて足下に集まりだした。
人数の少ない三年生は身体強化の得意なガウェインとワットが二人分走る事になっているので、魔力を練る時間は問題ない。
足下に集まった水にサーフボードを投げ、走りながら飛び乗るとそのまま水を操って滑り、グングンとスピードを上げてワットにタッチした。
ワットも同じ様にサーフボードを持っていたが、操るのは砂。ガウェインの時とはまた違うそれに観客達が声を上げて驚いていた。
「ハァッ、ハァッ、まだ、短い時間しか保たないな」
サーフボードを足で捕まえておくのが難しい。
足跡のくっきりついているボードを抱え、茂を見上げる。
そして、まだまだ強くなれると前を向いた。
カタリナ達も見たことの無い魔導具を使い、それぞれの魔力特性を活かした走りを見せる中、ローランドはハープを弾き氷の道を作ってその上をスケートで滑る。
その姿に他クラスの女子から「キャー!」と黄色い悲鳴が上がる。
そして、最後の走者であるアディへと順番がやって来た。
「行くぞザック。お前との初舞台だ」
交代としてタッチをしたその手を掴み、氷の滑走路を作るとアディを投げる。ローランドに投げられた勢いのまま滑走路を駆け上がり、氷の道が途切れ宙に放り出される前にザックが金属の翼を広げて羽ばたいて見せた。
そして、アディも背負っていた小さな鞄から折り畳まれていたハンググライダーを開く。
この世界で、人が飛ぶと言う事を誰も考えていなかった。
いや、鳥のように自由に空を飛べたならとは、きっと誰もが一度は空想しただろう。
しかし、空想で終わらせていた。
息を飲むように静まり返るそこで、アディは一位でゴールテープを切る。
と言っても、ゴールの上空を過ぎていったので、テープを咥えて切ったのはザックだ。
「やったぞザックー!」
まだ少し上空でハンググライダーの翼をしまって飛び降りるように着地すれば、アディの上を一周回ってまた肩へと戻ってきた。
もちろんゴールテープを持ったまま。
「うおー!アディー!!」
「やったー!!」
「人は飛べるんだー!!」
三年生がアディとザックを囲み、もうお祭り騒ぎで叫びだす。
頭を撫でられたり抱きしめられたりと大騒ぎで、アディはザックのメタリックなボディを撫でて誇らしそうに掲げてみせた。
「学園に通っている子供がいない家も来ていますね」
「公爵、辺境伯は私が声をかけたが、他は知らん」
「まぁ、放っておいても茂ちゃんなら自分で追い払いそうですけど」
オルギウスの隣で、去年とは全く違う表情で楽しそうに笑うギルバート。
目だけでその顔を見て、オルギウスも表情を穏やかに変えてアディに向き直る。
「学園生活は楽しいか?」
「ええ、その代償が粗末な食事と明日には消える命だとしても」
生まれて初めて感じる自由は、余りにも眩しいと目を細めた。
「実は僕も空を飛んだんですよ」
「なんと、それで?どうだった?」
「地上に戻ってきた時膝が笑っていました」
アディの様な飛び方は合わなかったと、眉を垂らして笑いを噛み殺す。
「なので別の魔導具を造る予定でいます。まずは一年生達と基礎を叩き込まれる方が先なので、完成はまだまだ先ですが」
親子で穏やかに、家族の勇姿を見ながらそんな話をしていた。
個人戦の試合はガウェインとワットの戦いになっている。
「砂と水はっ、相性悪いなぁ!!」
「こっちのセリフだ!」
本人達の対戦と、それぞれが操っている砂と水が混ざった泥の覇権争い。
水の剣と、砂に熱を加えて硝子化させた盾。素手での殴り合いで二人ともボコボコになりながら、フラフラと向かい合う。
魔力切れのワットと、痛みで気が遠くなっているガウェインが、構えたまま同時に倒れて引き分けとなった。
「ワットさんは魔力切れと切り傷多数。ガウェインさんは骨折による発熱がありますね」
望がノアを中心としたみんなに説明しながら一通り処置をして、回復をかけていく。
ノア以外のみんなもバインダーを開いてメモを取っているので、とても勉強熱心なのはいいのだが、怪我人が出る度応援席から全員飛び降りてくるのですごい注目を集めている。
神官も自分たちで回復をかけると初めの内は良い顔をしなかったが、望の適格な診察にとても驚いて錬金術師科の生徒の時だけはと頷いてくれた。
それどころかフェアグリンも来て一緒に授業を受けていた。
「起きたら二人にマナポーションを飲ませてあげましょう」
「怪我人を有効活用すんのはさすがだよ。親の目の前で」
侯爵家も来ているのにと言うアランに、そんな今更とローランドが笑った。
午後の団体戦にはアディも出るので、ザックに魔力を渡していく。
「、今はこれが限界だな」
ザックの心臓として使っている魔石は初級ダンジョンの物なので、あまり沢山の魔力は貯めて置けないのだ。買いあさった中にはもっと質の良い魔石もあったが、ザックとの相性が悪かった。
五人でフィールドへ向かい前衛、中衛、後衛を器用に変えながら立ちまわっていく。
「ああいう戦い方が出来るのも、魔力の扱いに長けた錬金術師って感じがしていいよね」
「造るパートナーによって戦い方の幅が広がりますね」
「自分にはないものを埋めてくれるパートナーを造れるんだから、錬金術って面白いよね」
茂と現津が話している内に試合は終わり、五人で勝利を喜び合い、優勝トロフィーを掲げていた。
錬金術師科は四年生が皆成人済みだったので四日目は応援席での観戦だ。
「・・・行きたくない」
ここでザックのメンテナンスをしていたいとアディが駄々をこねるも、ガウェインとローランドが引きずっていく。
「空飛んだって自慢して来いよー」
そう言ってみんなで王族のいる席へ向かうアディを見送った。
騎士科と魔法士科の四年生が戦うのを眺めながら、四年生にもなるとやはり魔力の練り方が上手いと褒める。
しかし、現津がそうだろうかと首を傾げた。
「控え目に言ってもあの方とあの方以外はその他大勢の枠を出ません」
「そのお二人が明日出場なさいますね」
「錬金術師科以外ではという意味ですから」
「つまり、明日になれば埋もれてしまうと」
「本当にそうなりそうなのが、何かアキツっぽいよな」
「明日は俺が優勝するんだ!」
元気のいいディーノに笑っていれば、リレーで騎士科のクラスが湧いた。
「あ、あの先輩一緒にダンジョンに行く人だ!」
「先輩!おめでとうー!」
一年生たちが声を上げれば、こちらに向かって手を振って来る。それにみんなで振替している姿が可愛らしかった。
個人戦にも、ほとんどダンジョンへ一緒に潜る四年生ばかりが出場しており、錬金術師科に出場している四年生はいないとはいえ、応援する相手がいるので飽きる事は無かった。
午後からの団体戦は転弧たち黒服が面白く戦術の解説をしてくれたので、とても為になったようで、一年生たちから尊敬の眼を向けられている。
そしてやって来た最終日。
各クラスから代表二名を出しての個人戦。
本来ならトーナメント式に学園最強を決めるのだろうが、今はみのり屋がいるという事で戦いたい相手を指名する形式となった。
「指名式で本当に良かったっ」
ウィリアムがバクバクとうるさい心臓を抑えながら安堵する。
何かあった訳ではないが、何かあったら絶対容赦のない現津に苦手意識があるらしい。
そして、学生側はランダムで前へと呼ばれる。オルギウスが木札を引き抜き、呼ばれた生徒がフィールドの中央でみのり屋の誰かの名を呼ぶ。
何度目かの試合が終わった所で、ディーノの名が呼ばれた。
「アキツ先生でお願いします」
茂だと思っていたが、意外にもディーノが対戦相手に選んだのは現津だった。
「私ですか。意外です」
「ゴールに辿り着く前に、倒さなきゃいけない相手だからな」
「私は通過点ですか」
面白そうに笑い、身体強化で攻撃してくるディーノを魔法も使わずいなしていく。
それを、手を抜かれていると腹を立て始めたディーノに、困ったように眉を垂らした。
「手を抜いているのではなく、茂さんのように道を示したかったのですが」
やはり自分には向いていないと微笑む。
ちなみに、この最終日だけ選手の声を拾えるようにフィールド全体に肉声のみを聞きやすくする拡声魔法がかけられているので何を話しているのかは丸聞こえだ。
「貴方は茂さんを超えると言いました。茂さんもそれを楽しみにしているので、と思ったのですが。やはり向き不向きがありますね」
「何言ってんのかわかんねぇよ!」
「構いません。貴方はただ、這い上がってきてください」
それを茂が望んでいると言い、殴りかかってきたディーノの手を掴むと腹に一発入れる。
バリバリと閃光が空まで走り、まるで雷のような轟音を上げた。
煙を上げながら吹き飛ぶディーノの小さな体に、死んだんじゃないかとフェアグリンも慌てて駆け寄ったが、そこには気を失った無傷のディーノがいるだけだった。
「即座に回復魔法をかけましたので、問題ありません」
そう言って自分の席へと戻っていく。
「恐ろしい奴だな、お前は」
あいつ今丸焦げになってただろとアディが言うと、いつもの様に微笑むだけで何も言いはしない。
さらに試合は進み、今度はアディの名が呼ばれた。
「アキツ、相手を頼む」
ディーノとの対戦を見て誰もが避けていた相手の名を呼ぶ王子に、観客席がざわつく。
審判をしていた教師に再度それでいいのかと確認をされ、真っすぐに現津を見て頷いた。立ち上がる現津に、フェアグリンも控えている神官たちの下へと近づいていく。
「行くぞ、ザック」
まずはあの壁を越えなければ届きもしないどころか近づくこともできないからなと、肩に停まっていたザックに話しかけると翼を広げて飛び立った。
アディとザックのコンビネーション攻撃を、魔法を使いながら相殺していく現津。
減った分の魔力を即座にザックへ補充し、自分も補助として持っていた魔石を交換する。
そして、ザックが時間を稼いでいる間に魔力を練り始めた。
王侯貴族は長い歴史の中で魔力量をより多く持っている子供が生まれてくるようにと子孫を残してきた。
アディはその大量にある魔力を使い、得意でもない火属性の魔法で飛び級までしたのだ。
そして、今まで無理に捻じ曲げていた魔力変換を持って生まれた土属性に全振りする。
「ザック!!」
アディから離れて飛ぶザックから、連弾で発射されるのはストーンバレットという土魔法の初歩のようなもの。そちらへ視線を向けると、地面に手をついたアディがどんどんと地形を変えていく。
フィールド全体が変形し、棘の様に刺してきたかと思えば避けた先で柔らかく波打たせて足場を崩す。到底学生の戦いではないその試合を、誰もが固唾を飲んで見守っていた。
「良いコンビネーションですね」
悪い足場を避けて飛びのけばザックが空から攻撃を仕掛けてくると言う連携はとても見事だ。
この短い間に良く考えたものだと感心する現津だが、表情も態度もいつもと変わらない。
同時に中級魔法を二つ、アディとザックへとぶつける。それを何度も続けていれば、次第に互いをフォローすることが出来なくなっていき、ザックの魔石が空になるのが先だった。
ポーションを飲む隙など与えられず、じりじりとアディの魔力も削られていく。
魔力切れでふら付きながらも、地面を操りザックを引き寄せて現津の攻撃をしのいでいると、異変に気付く。
「では、私も地面を操ってみましょうか」
自分の魔力が押し出されていくのを感じ、とっさに地面から手を離す。
「どうなっているんだお前の魔力量はっ」
「茂さんの隣に立つのですから、これくらいは当然です」
動く地面が勢いよく伸びてくるのを見てポケットから土の魔石を取り出し、その魔力を使って自分とザックだけでも守ろうと壁を出すもその壁を作る魔力さえ押し出されそうになりどんどんと壁の厚さが薄くなっていく。
本当の意味でこれが最後の砦だと踏ん張っていると、薄い壁を拳大のストーンバレットが打ち砕いた。
開いた視界で現津と目が合う。
次の攻撃が当たると構えた瞬間、小さな何かが飛び出した。
「まっ!」
反射的に庇おうとザックの体を抱きしめると、腕の中でパキンッと小さな音が聞こえる。
それと同時に、アディを守るように分厚い壁が覆い、現津へ向けて岩とも呼べるサイズのストーンバレットが撃ち込まれた。
「まさか、不完全な体を意志の力だけで動かすとは。それでこそゴーレムと言うべきですかね」
攻撃を相殺した現津が歩いて来て、アディを囲む土壁を砕いてその腕の中にいるザックを覗き込む。
「代償として魔石を使いましたね。もう動かず休んでいた方が良いですよ」
思いの他優しい声でそう話しかけてくる現津に、より泣きたくなった。
涙ぐみながらザックを抱きしめるアディが棄権を宣言して現津の勝利が審判の口から発表される。
そして、二人そろって席へと戻っていった。
まさかこれだけの戦いが起こるなど、誰も想像していなかった観客席からは割れんばかりの拍手が送られた。